先程織斑が出て行ったピット、その控室で織斑の元とは違い首から手首や腹まで、そして隙間無しに腰から足首まで覆う全身タイプのISスーツ――と言ってもロンググローブはその上からしているが――のまま座り込み、目を瞑って集中力を高める。他の人の試合は公平性を考慮して見ることはできないためそうするくらいしかする事がないのだ。
織斑が出ていく前のやり取りで見た織斑のIS、『白式』も見た。右眼は使っていないため、どういうタイプのISかというものは見ただけではわからないが、奴の黒髪とはよく似合っている綺麗な白だった。
「ランラン~」
「……本音か」
「私もいるわよ」
織斑担任や山田副担任、それに見送りに来ていた篠ノ之箒はピットの方にいるため控室には俺しかいなかったのだが、どうやら本音と更識も来たらしい。
「レイちゃんの整備終わったよ~」
「そうか、ありがとう」
『準備万端、調子もいいです! 手助けができないのは口惜しいですけどね』
指輪の状態で手渡されたレーヴァをいつも通り右の中指に付ける。
『あの女痛い目見せてやろうと思ってたのに酷い肩透かしです!』
「その分俺が戦うんだからいいだろ……」
『仁を侮辱するのは私が許しません! 私がやりたかったんです!』
「相変わらず仲がいいことで」
やれやれだ。レーヴァもまた少々子供っぽいところがあるからこうなると少し手が付けられない。
「それより、織斑の試合を見なくていいのか?」
「ちゃんと録画はされるからね。後で見直せばいいわ。それに彼の戦い方を伝えたらアンフェアでしょ?」
「まぁ、そうだな」
ずっと座ってたことで若干固まった体を伸ばして解す。ISの戦闘はそう長く続くものじゃないため、そろそろ準備をしておいていいだろう。
「体調も悪くない。レーヴァとの繋がりも問題ない。こっちも本調子だな」
強いて言うのならロンググローブの下、両腕の火傷がいつも通り少しひりひりとしている程度だ。いつも通りなので何ら問題はない。
「いいとこ見せてね~」
「目立ちたくはなかったんだがな……こうなったら仕方ない」
「そうそう。覚悟を決めなさいな」
「ま、無様な試合にはしないさ」
首をコキコキと鳴らしていると、控室の扉が開かれる。
「織斑とオルコットの試合が終わった。準備をしろ、欄間」
「はい。さて、行ってくるか」
「頑張ってね~」
織斑担任に呼び出され、そのまま着いていく。とはいってもピット内の控室なためすぐにピット・ゲートに到着する。
「現在オルコットの装備を予備のものに換装している。少々待て」
「了解。こっちはいつでも構いません」
『電波妨害ナノマシンの機能をオフ。コアネットワークのスリープ解除、接続します』
それを聞きながら一瞬だけ意識をレーヴァに持っていくと、直後に身体全体が覆われ視線が高くなる。
「展開時間は0.5秒といったところか。よく訓練しているじゃないか」
「……このISについてはご存知で?」
「ああ。束から聞いている。お前だけの特別製でどの国にも完全に属さない異例のISだろう? また束が個人にISを作る時が来ようとはな」
そういう事になっているのか。篠ノ之束お手製の完全な新規ISという扱いという訳か。まぁ都合はいいだろう。
「束に興味を持たれているのは難儀だろうが、まぁ諦めろ」
「……もうとっくに諦めてますよ」
向こう側のピットの様子は見えないが、会場の様子はよく見える。1年1組だけでの開催であるにも関わらず満席レベルに席が埋まっている。それほど男性操縦者と代表候補生の試合は興味を引くのだろう。尚更無様なところは見せられまい。
「オルコットの準備が整ったようだ。行け」
「さて、行くぞレーヴァ」
『はい!』
ピットを飛び出して空を飛ぶ。相変わらず空を飛び風を感じるのは心地良い。
「来ましたわね」
「そりゃ来るだろう」
正面には青いISが佇んでいる。フェアを維持するためにも右眼の能力は使わずに見る。情報通りその両腕に抱えるのはレーザーライフル【スターライトmkⅢ】。そして機体と同名の【ブルー・ティアーズ】というレーザービット2機とミサイルビット1機を複合させた状態のBT兵器が一つずつ左右に浮遊している。
ズキン、と右眼が痛む。同時に一瞬何かの光景が右眼から流れてくる。そう、今と全く同じような光景だ。【ブルー・ティアーズ】を纏ったオルコットと相対する光景。まるで前にも同じ事があったかのような既視感に襲われる。右眼を強く閉じて痛みを抑え込むと、その光景は今の光景と完全に被さり、色を取り戻す。
「1つ、謝罪をさせていただきますわ」
「む……なんだ」
コアネットワークのオープン・チャネルを通してオルコットの声が飛んでくる。謝罪、とはこのプライドの塊のような女が珍しい。
「織斑一夏さんはわたくしに一矢報いて見せた。それならば貴方方男性を極東の猿などとお呼びしたことを謝らなくてはなりません。申し訳ございませんでした」
「別に俺は気にしてなかったが、それで気が済むなら勝手にするといい。どちらにせよお互い本気でやるのは変わらないだろう」
「ええ、もうわたくしも慢心などしません。最初から本気で……」
こちらは【炎の枝】を2機展開。同時に腰から二刀を抜刀する。
「勝ちに行きます!」
まずはライフルでの狙撃。最低限のISとしてのサポートだけを許されたレーヴァが警戒を促した直後にオルコットの眼だけを見て弾道予測。回避する。2発目も同様に回避。
「よく見ていますわね!」
「こちとら眼が取り柄でね」
何発撃とうと当たらない。痺れを切らしたのかレーザービットを4機放ってくる。それを見てこちらもBT兵器の操作に意識の7割を注ぐ。
「何故貴方がそれを搭載しているのか、後で問い質させていただきます!」
「わからんことを答えろってか……」
各方向から放たれる4つのレーザー。右から1発、身体を捻って回避。左正面と左横から2発、左下にスラスターを吹かし、正面を避けながら左横からのレーザーを左の剣で切り捨てる。その回避位置を読んでいたように後方から1発。回転しながら右の剣を振り抜いて切り裂く。
「なるほど。確かにこれは接近は難しい」
後ろからの1発を切り捨てると同時に今度は右斜め上からの射撃。こちらもビットから放った炎の弾丸で相殺しつつ次のレーザーを避け、今度はこちらのビットから熱線をオルコットに向けて放つ。
「くっ」
これを捌くにはオルコットは一瞬ビットの操作を放棄する必要がある。対してこちらはビットは俺の左右に浮かせて、照準を合わせ弾丸を放つ命令を出せばいいだけ。俺本体が回避に専念し、大きな動きさえさせなければ2機まで操作を両立できるようになっているため、ビットでの相殺反撃が可能ならば、
なにせこちらは普段から4連ガトリングと地点爆破なんてものへの対処をしなければならなかったのだ。4つの砲身ならばバラバラの位置からでもハイパーセンサーで全方位見えている以上、厳しい場面こそあるが問題はない。
『生身で弾丸を切るだけはありますねぇ』
この未成熟な高校生の身体で、さらに心意抜きでそれができるかはともかく、その経験は確かに活きているだろう。
そしてオルコットが操作を放棄した一瞬は、こちらのターンになる。
「――行くぞ」
ドンッと
「瞬時加速――!? くっ!」
オルコットが全力で後ろに飛ぶ。直前までオルコットがいた空間にXの炎の軌跡が走る。休む時間など与えない。瞬時加速程でなくとも飛行技術で追随する。既にレーザービットからはある程度遠ざかった。今から操作をしてもそれにより止まった本体を叩けば終わりだ。そしてオルコットはショートブレードの扱いは苦手、恐らく俺のハンドガンのように呼び出すのには時間がかかる。ならば彼女が取れる策は2つしかない。
「離れてくださいまし!」
1つ。その両手に抱えるライフルでの近接射撃。彼女が射撃体勢に入る瞬間の彼女の眼を見る。狙いを定める余裕がなくとも、人間は無意識に銃を撃つときは撃つ場所を見る。例外はがむしゃらに撃った場合だが、彼女は滅多にそれをしないだろう。
狙われるのは右肩付近。それがわかれば撃つ瞬間に右半身を後ろに逸らすことで回避ができる。そしてライフルはその特性として連射にはワンテンポ必要になる。そこを逃すつもりもない。
「なんで当たらないんですの!」
右半身を引いたことで逆に前に出た左の剣での最短距離の刺突。今の彼女にこれを回避する術はないだろう。肩狙いの刺突は僅かに逸れ、右腕に直撃し装甲を吹き飛ばす。
「っ! ティアーズ!」
そして彼女が取れるもう1つの策。スカート部分のアーマーとなっていたミサイルビット、それが外れ同時に2つのミサイルが放たれる。しかしこの距離では彼女自身も巻き込まれるだろう。その手段を切らなければならない程追いつめているという証拠。
とはいえこれを貰う訳にもいかない。真上に一気に飛び立つことで回避を図るが、右足に強い衝撃。僅かに間に合わなかったらしくそのまま後方へ弾き飛ばされる。
体勢はすぐに立て直すが、また距離が開いてしまった。今度はどう詰めるか……。
「……強い、ですわね。わたくしのやりたい事をやらせてくれるつもりは全くないという事ですか」
「ああ。アンタはビットを操作する余裕が無い程の超接近戦にはまだ成す術がない。今のようにミサイルを放ちそれがヒットしても爆風に巻き込まれる。次のエンゲージで詰みだ」
「ええ……認めましょう。この試合、わたくしはきっと貴方に勝てない。ですが」
オルコットの顔が不敵に歪む。劣勢を楽しんでいるかのように、プライドよりも彼女のその奥の感情が前に出た、そんな笑みで笑う。
「足掻いて見せますわ。どんなに無様でも構いません。このまま負けるのは、嫌ですから」
こちらもつい口角が持ち上がる。そうこなくては、面白くない。
「いいだろう。こっちも手を緩めるつもりはない。足掻いて見せろオルコット」
先程の右足に直撃したミサイルの爆風は確かに彼女も巻き込んでいる。被弾数から考えてもダメージの差は一目瞭然。だが、それでも諦めないという姿勢は好ましい。今の目の前の少女は、以前までの高飛車は彼女と違ってなかなかどうして悪くない。
『プライドを捨てた彼女は、強いでしょうね』
だろうな。勿論わかっている。警戒は最大限に、ここから先はどんなことをしてくるかわからない。だからと言って様子見などしない。容赦も遠慮も一切する気など初めから無いのだから。
先手はオルコット。制御を取り戻したレーザービット四機での牽制。狙ってくるのは俺の反応が一番遠い地点。だが俺はそれをカバーするためにビットを1機防御に回している。
回避、回避、防御、相殺。
防御、防御、相殺、回避。
相殺、回避、回避、回避、ビット射撃による反撃。これをオルコットはライフルで防御。
3セット防いだところで違和感に気付く。パターンがさっきと違う。それにオルコット本人が防御した上でビットがまだ動いている。これは……。
「ビットの操作をこの数分でパターン化させた上で数パターン組んだな……!」
「ええ。こんな簡単な事でよかったんです。ことこの場においてプライドなど不要……ありがとうございます。貴方のおかげでわたくしは1つ強くなれました」
「そりゃよかったな……!」
それを『簡単な事』と言う辺りやはり彼女も腐ってはいない。
そしてパターンを組んだという事はビットの操作がいくらか簡単になったという事だ。それはつまり、オルコット本人が動くことができるという事に他ならない。
「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「踊りに誘われたら、踊るのが礼儀だろうさ」
4つのビット、いや、ミサイルビットも含めた6つがあらゆる方向から射撃を放ち、隙を見せればオルコットのライフルが火を噴く。こちらのビット2機を完全に防御に回してようやく対処ができる手数だ。観客からはまさにビット6機と俺が踊るように見えているのかもしれない。
「一皮剥けたらこんなポテンシャルが出てくるとはな……だが」
こちらも隠し玉はまだある。手数が足りないのなら増やせばいい。ビットではなく、別の手段で。
左手の剣を量子変換で手放し、同時に左手の周りに意識を集中する。呼び出すのは炎の剣。
何も剣を呼び出すのは俺の掌の中でなくともいい。俺の身体の一部ならばどこからでも呼び出すことは可能だ。
そして左腕をそのまま大きく振るい、炎を推進力に剣を1本放つ。炎を纏った剣は放たれたレーザーを貫いてそのままビットに襲い掛かり撃墜する。
「なっ!」
流石にこれにはオルコットも驚愕の顔を見せる。こちらとしても炎を纏わせるリスクがあるため無数にできることではないが、意表を突くには充分だっただろう。
オルコットの驚愕による隙を逃すつもりはない。瞬時加速で真っ直ぐに飛び込む。
「見え見えですわ!」
当然迎撃の構え。ライフルから放たれたレーザーを左手の剣1本に炎を纏わせて投擲、レーザーを弾きながらオルコットに飛んでいく。オルコットはこれをライフルの側面で受けて軌道を逸らす。だが逸らすのが限界で、さらにライフルはお釈迦だろう。
オルコットの近くに集まって来たビットから一斉に射撃が放たれる。こちらのビットに炎の刃を纏わせ、ミサイルを切り裂き、左の剣残り3本の1本ずつを身体に当たる直前のレーザーの軌道上に放り出し、レーザーに当てて逸らす。
「出鱈目ですわ!」
「はぁ!」
右手に残った剣を両手に握り、瞬時加速の勢いのまま左肩から切り下ろす逆袈裟切り。対してオルコットはもはや鉄の塊となったレーザーライフルをまるで剣のように振るい受け止める構え。
選択はいい。だが加速が乗ったこちらと止まっていたオルコット。勢いによる運動エネルギーの差はいかんともしがたい。一撃目でライフルを弾き飛ばし、二撃目、振り下ろした位置から、腹を横に切り裂く水平切り――をオルコットの腹部に当たる直前で止める。
「勝負あり。だ」
「ええ……わたくしの、負けですわね」
そのまま穏やかな表情で目を閉じ、ふう、とオルコットが息を吐く。
「わたくし、まだまだでしたのね」
「……候補生ってのはあくまで候補生。その先に行くにはそれに驕らない事が重要だ。候補生という肩書は、より精進して欲しいという国の意思でもある。まぁ、もうアンタは候補生でもない俺に言われるまでもないだろう?」
「はい。わたくしはもっと強くなれる。もう、驕ったりなんてしません」
そう言って、オルコットがサレンダー宣言。試合終了。同時に大きな歓声が湧き起こった。
これは……ライバル的なそれだな?って書きながらなりました。
では次回もよろしくお願いします。
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