救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 相変わらずのサブタイ思考放棄である。


剣では負けない

 歓声の中ピットに戻る。お互い大きいと言えるダメージもないため修理の時間もそうかからないだろう。どうやら織斑は別のピットで待機しているようだ。

 

「お疲れ様。仁くん」

 

「お疲れ様です。お見事でした」

 

 『天晴れ!』と書かれた扇子を広げた更識と虚が待っていた。本音は観客席の方だろうか。

 

「本音は簪お嬢様と一緒に観戦しています。レーヴァさんの点検をしてしまいましょう」

 

 ISを展開したまま前部分の装甲を一時的に量子変換して降り、再び装甲を戻す。大きなダメージこそないが、右足の装甲は吹き飛んでしまっているため点検と換装は必要だろう。

 

「頼みます」

 

「頼まれました」

 

 布仏姉妹はああ見えて整備科のエース。任せておけばまず間違いはない。

 

「それにしても、あそこまで圧倒的に勝つとはね」

 

「オルコットも戦いながら成長していた。結果程簡単な試合じゃなかったぞ」

 

「うんうん。それも含めていい試合だったって事ね♪」

 

「まぁ、そうだな。プライドを捨てることができたんだ。オルコットはまだまだ強くなる」

 

 これでBT偏光制御射撃(フレキシブル)まで会得して来たら、その時は今度こそこうはいかないだろう。今回俺は相手の眼を見て射線を予測して回避や防御を行ったが、BT偏光制御射撃があればそれが通用しなくなる。レーヴァテインの制限を解除して戦ってもいい試合になるだろう。

 

「良き哉良き哉。さて、次は織斑くんね」

 

「オルコットが自分に一矢報いたと言っていた。油断があっただろうとはいえ大きなことだな」

 

「ええ。でも負けるつもりはないでしょ?」

 

「当然だ。アンタに鍛えられ、オルコットに勝ったんだからな。初心者相手に負けは許されない。アンタだけじゃなくオルコットにも悪いからな」

 

「疲労の方は大丈夫?」

 

「問題ない。1回の戦闘でへばるような鍛え方はしていないからな」

 

 言いながら身体を伸ばし、次の試合に備えて身体を鳴らしておく。

 

「それならよかった。実はこの試合の対戦カード、ちょっとした思惑があったのよ」

 

「まぁ大体わかる。大方代表候補生は連戦というハンデを背負わせ、織斑千冬の弟として期待の織斑一夏には一戦分休憩を与え、ぽっと出でネームバリューもない俺は連戦でも構わんだろう。とこんなところだろ」

 

 『正解』という扇子を開く彼女の表情は少々暗い。

 

「ごめんなさい。その意見に反対できなかった」

 

「構わないよ。その時は織斑が連戦になるが、初心者には荷が重い。俺に肩入れしすぎるとアンタの立場も悪くなるからそれで正解だ。それに……」

 

 笑いはしない。至って当然の結果をもたらせばいいだけなのだから。

 

「その期待の織斑一夏に完勝してやればそんな評価はひっくり返る。まぐれだと言われようが結果は変わらない。まぁ、目立つのは俺としては全く好ましくないが、この一連の試合に巻き込みやがったあの野郎の頬を1発ぶん殴るくらいは許されるだろう」

 

 面食らったように目を大きく開き、ぷっと噴き出す。

 

「熱くなってるじゃない。いや、君は戦う時はいつも熱いか」

 

「元はと言えばアイツがオルコットの挑発に乗ったからこんなことになってるんだ。オルコットは叩いたし、残る元凶に仕返しするだけ。簡単だろう?」

 

「そうね。勝って来なさい仁くん。ダークホースはいつだって予想の外から走って追い越してくるんだから」

 

「追い越し、そのまま置いていく。アンタの鍛え方は生緩くないと証明してやろう」

 

 更識のいつものような不敵な笑みに対し、ニィっと口角を上げて見せる。やはり俺はこと戦闘になるとテンションがいつもより随分と上がるらしい。普段ならばこんな笑い方は決してしないのだから。だがまぁ、悪い気分ではない。

 

「整備、終わりました。相変わらず本人が不調部位を申告してくれるのでやりやすくて助かります」

 

『整備する人に優しいIS、レーヴァテインです!』

 

「ありがとうございます。行けるか? レーヴァ」

 

『勿論!』

 

「じゃあ、行くか」

 

 一度指輪に戻してから再展開。乗る時はこちらの方が早い。右足の装甲もしっかりと戻っている。違和感もない。

 ピット・ゲートから飛び出し、今度は白いISと対面する。

 

「痛っ……」

 

 まただ。また右眼から流れ込んでくる謎の既視感。気にはなるが今は邪魔だ。右眼を強く閉じ頭を振って痛みを抑え込む。

 

「最初から本気で行くぞ。織斑」

 

「当たり前だ!」

 

「オルコットのような慢心は期待しない事だ。気を引き締めろよ。でないと――」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)。織斑の背後に回り込む。

 

「はやっ……!」

 

「――一瞬で終わっちまうぞ」

 

 抜刀。そのまま腰から抜きながら下からXに振り抜く。反応が間に合わなかった織斑が吹き飛ぶ。スラスターを吹かし飛んでいく織斑に着いていく。

 

「くそっ!」

 

 織斑も刃渡り約1.6m程度の刀のような片刃のブレードを取り出す。レーヴァから送られてくる情報では【雪片弐型】となっている。織斑千冬が現役時代に振るっていた【暮桜】の唯一の装備である【雪片】を偶然にも受け継いだという事だろうか。いや、恐らく天災の仕業だろうが。

 加速の勢いのまま左の剣を叩きつけるように振るう。織斑も手に持つブレードで受け止めるが勢いを殺しきれずに吹き飛ぶ。更に加速して右の刺突による追撃。体勢を立て直せていない織斑は直撃して更に飛ぶ。アリーナの壁に当たりようやく止まるが、そこに俺も突っ込む。

 

「このっ!」

 

 壁を蹴ってこちらに跳んで来る。あの構えは大上段からの袈裟切り。良くも悪くも正直な性格は次の攻撃が読みやすい。左の剣を【雪片弐型】のコースに居合のような形で下から垂直に当てて逸らす。更に右の剣で逆袈裟切り。咄嗟に出したのであろう左腕で受け止めるが装甲は吹き飛び、シールドエネルギーが削れる。

 

「攻撃が荒い。そんな大振りは当たらん」

 

 右の剣を振り抜いた勢いのまま回転し裏回り蹴り。肩を直撃して織斑はアリーナの壁と反対側に飛んでいく。

 やはり実力差は歴然。こちらは炎すら纏わせていないためシールドエネルギーは全く減っていない。対して織斑の残シールドエネルギーは既に4割程度。スラスター制御も甘い現状の織斑では俺の連続攻撃に対応できない。

 

「くそっ……練習時間は同じ筈じゃないのか……!」

 

 その点については悪いとは思っているが、生憎訓練期間もその質もずっとこちらの方が上だ。聞けば奴はこの1週間で生身での剣の訓練しかしていないという。それでここまで積み重ねた俺が負けるわけがない。

 

「これじゃ、このままじゃ負けられない!」

 

 【雪片弐型】が姿を変える。刀身が2つに分かれ、その間からエネルギーの奔流が光となって溢れ出ている。右眼を使えばその正体がわかるだろうが、今回は使わないと決めている。

 

『切り札でしょうね。しかし仁、気付いてますか』

 

「ああ。当然だ」

 

 【雪片弐型】が変形した直後から一気に【白式】のシールドエネルギーが減っていっている。恐らく俺の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)と同じでシールドエネルギーを犠牲にして扱う力だろう。

 

「愚策だな」

 

 こんな場面で切っていいような能力ではない。諸刃の剣というものはここぞで切るべきものだ。

 

「俺は千冬姉の名前を守るんだ! うおおおおおっ!」

 

 織斑が瞬時加速レベルの速度で一気に接近してくる。実に直線的でわかりやすい。さっきも言っただろう――

 

「そんな大振りで、本当に当てるつもりか?」

 

 下段からの左切り上げ、後ろに飛んで回避。そのまま切り返しの袈裟切り、両手の剣をクロスして受け止める。重い、確かに重い。だが、やはりそれは俺まで届かない。

 如何に刀身が伸びようと、やはり受け止めてしまえばそれはそれ以上前に進むことがない。一瞬両腕により力を込めて弾き返す。

 

「ぜあああっ!」

 

「織斑。そういう切り札はな……」

 

 右水平切りを両の剣を揃えて受け止め、逆回転からのその勢いを乗せた左水平切りをこちらも回転した勢いで弾き返す。そのまま蹴りを入れて織斑と距離を開け、直後に瞬時加速で潜り込む。

 

「確実に当てられる時に使うものだ」

 

 左の剣を手放し、右の剣を両手で握りしめて炎を纏わせる。同時に炎の温度を一気に跳ね上げる。赤い炎が蒼く染まり、被膜装甲(スキンバリアー)ごしに俺にもその熱さが伝わってくる。

 

「俺は剣では誰にも負けない」

 

 蹴りで一瞬怯んだ織斑に、さらにもう一度裏回し蹴り。今度こそ動きが止まったところに、蒼い炎を纏った炎の剣で逆袈裟切りを叩きこむ。それにより【白式】のシールドエネルギーが消し飛び、同時に試合終了のブザーが鳴り響く。

 炎を消し、チラリと自分のシールドエネルギーを見ると、何度かの瞬時加速に加えて蒼い炎まで使った事で7割程まで減少していた。やはり燃費があまりにも悪い。それにレーヴァの負担を考えると使うべきではなかった。

 

「悪い癖だなこれは……」

 

 戦闘になるとテンションが上がるのはやはり悪い癖だ。そもそもそんな戦闘狂みたいな癖は直すに限る。

 やれやれと頭を振りながら、大の字で地面に落ちている織斑を一瞥し、ピットに戻るように機体を動かす。

 今度の歓声は少ない。やはり織斑に期待していたものが多いのだろう。だが現実はやはりまだただの初心者に過ぎない。専用機が今日届いたのだし、練習期間もたった1週間とくれば仕方のない事ではあるが、織斑千冬の弟というネームバリューに加えオルコットとの善戦だ。期待してしまうのもまた仕方ない事だろう。だからと言って遠慮も容赦もするつもりはなかったが。

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様でした」

 

「さほど疲れてはいないけどな」

 

 レーヴァから降り、また一応の点検を任せる。

 

「本気って割に、BT兵器は使わず剣は2本のみだけだったのね」

 

「使うまでもなかっただけだ。それに剣だけの方がアイツには()()だろう」

 

「つまらなそうね?」

 

「アレはもう試合じゃない。やはり起動経験すら少ない初心者にこういった事はやらせるべきじゃない」

 

 ISスーツの上から制服を着ながら話を続ける。

 

「尤も、守ると豪語して見せてここで折れるのならそこまでだったって事だ。織斑千冬の名前を守るという気概は悪くないが、今のアイツには過ぎた願いだ。その願いに見合う程に育てばまた話は別だが」

 

「折れたらそこまで、折れなかったらまだ強くなる。スパルタね」

 

「俺はこれ以上アイツにどうこうするつもりはない。後はオルコットがアイツに教えればいい。まぁ理論派のオルコットのやり方を、感覚派の織斑が吸収できるかどうかはわからないが」

 

 制服に着替え終え、用意していた水を飲み下す。

 

「そもそも一番身近でISに詳しい者と言ったら織斑千冬だろうに。本当に勝ちたいのなら聞きに行くべきだったんだ織斑は」

 

「本当に相変わらず世話焼きよね君。面と向かって言えばいいのに」

 

「む……あまり関与したくないだけだ。答えは自分で見つけた方が型にハマる。……もう遅いかもしれんが」

 

 オルコットは明確に俺との試合で強くなってしまった。試合中は喜ばしいと感じたが、本当に鍛えてしまうことになるとは……頭が痛い。

 

「ランラ~ン。お疲れ様~」

 

 本音が走って来た。相変わらず余っている袖が走りに合わせてひらひらと風になびく。

 

「かんちゃん戻っちゃったから来ちゃった~。強かったねぇ」

 

「専用機起動してから数分の初心者と総稼働時間350時間越えを当てたらこうもなる。まぁその稼働時間は秘匿していた訳だからこっちにも落ち度はあるが」

 

「かんちゃんがスカッとしたって~」

 

「更識簪が? 織斑嫌いなのか?」

 

「簪ちゃんの専用機、倉持技研で開発されてた【打鉄弐式】って言うんだけどね。織斑くんの【白式】が優先開発されることになって後回しにされちゃったのよ。それで引き取って自分で開発してるみたいで、多分その点で織斑くんを恨んでるのね」

 

 代表候補生の機体よりも先に物珍しさから男性操縦者の機体を優先か。日本という国にも呆れたものだ。実際は男性操縦者を保有しているという点で他の国に優位を取れるため、その男性操縦者を自国から手放さないためと、データ所得が目的だろうが。

 

「なるほどな。男性操縦者を国に留めるために代表候補生を蔑ろにするとは日本も大概面倒な国だ。しかし自力で開発か。できるものなのか?」

 

「基本的には設計図通り完璧に仕上げるのは殆ど不可能と言っていいでしょう。楯無お嬢様の機体にしてもお嬢様が1人で開発した訳ではありません。しかし簪お嬢様ならばやれない訳はないとも思っています」

 

「多分かんちゃんは、たてなっちゃんに負けたくないんだね~」

 

 この姉妹に何があったのかは知らないが、どうやらアレ以降まだ関係は改善していないらしい。

 

「アンタはそれでいいのか?」

 

「……いいのよ。あの子はこっちに関わるべきじゃないから。私があの子に疎まれるだけで簪ちゃんが安全に暮らせるならそれに越したことはないもの」

 

「自分で遠ざけたんだな。守るために」

 

 一種の選択ではあるだろう。更識楯無は暗部として裏で危険なことをこなすのが仕事だ。それならば妹を巻き込みたくないというのは大いにわかる。

 

「だが、わかっているか?」

 

「なに?」

 

「アンタの妹と言う立ち位置は、それだけで危険だって事に」

 

「だから私が守る。あの子に気付かれなくてもいいの」

 

「前にも似た事を言ったが、手の届く範囲を見誤るなよ。アンタら姉妹に何があったかは知らないが俺みたいに……なんでもない」

 

 つい口走ってしまった。俺のようになってほしくないなど、言っても誰もわからないというのに。

 

「……わかってる。わかってるわよ」

 

『だーいじょうぶですよ! 本当に危なければ仁だって手を貸すんですから』

 

「お前なぁ……」

 

 事実ではあるが、あまり俺は関与したくないと本当にわかっているのだろうか。

 

『しかし今回でオルコットさんに私の総稼働時間がバレてしまいましたね。これは一悶着起こりそう』

 

「……篠ノ之束お手製って事になってるらしいし、何でもありな気はするがな」

 

 また頭痛の種が増えてしまいそうだ。




 まぁ現段階だとこうなりますよね。一夏が勝てる要素は本当に一ミリとしてないです。零落白夜も実体剣のレーヴァテインをぶち抜くことはできないでしょう。
 では次回もよろしくお願いします。
 感想等お待ちしております。
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