「転校生? またなんでこんな時期に」
更識簪と話してから少し経った日の朝。朝のSHR前に生徒会室に来ていたら更識から転校生が来るという話を聞いた。1年2組に専用機持ちで中国の代表候補生との事だ。
「そう。
「中国の代表候補生って言ったら……
『他の代表候補生と比べると少しだけ腕は上と言えるでしょう。ですが彼女はここ最近の1年と少し程度で一気に浮上してきた実力者です。裏には並外れた努力もあったと聞きますが』
「それだけの腕の専用機持ちが増えるのも、候補生が増えるのも、本来なら喜ばしい事。けどこと今年においてはそれだけじゃ片付けられないのよね」
「
今回開かれた扇子は『その通り』と書かれている。表情は真剣ながらもキッチリ忘れない。
「それで、名目上生徒会に監視されてる君に頼むのはちょっと悪いんだけど……」
「凰鈴音、並びに中国の意図を探れ。だろう? 問題ない。俺らのデータが目的なら必ず接触してくるだろうからな」
「ごめんなさいね。本音ちゃんに頼んでもいいんだけど、今回の件は君の方が当たりやすいかなって」
「まぁ、そんなに気を張らなくても情報は集まるだろうさ。これで2組のクラス代表も変わるだろうしな」
2組には代表候補生や専用機持ちと言った面々がいない。強いて言うのならアメリカのティナ・ハミルトンが代表候補生にかなり近い位置にいたとは思うが、本人がクラス代表とかそういう事を面倒くさがりそうだ。
「クラス代表対抗戦までには報告できるだろうよ。じゃあ昼にまたな」
SHRに向けて余裕を持って教室に行くのは一種の護身だ。遅刻して織斑千冬の一撃など食らいたいと思うものは織斑千冬の妄信的なファンくらいなものだろう。俺は勘弁だ。
教室に向かうまでにもやはりいくらか声を掛けられるが、大体がクラス代表決定戦を見た2年、3年生だ。その中でもさらに生徒会手伝い時代によく生徒会室に来ていた人達が主に上げられる。どうにも彼女らは織斑よりも俺の方がお好みらしく、関係としては悪くない。
代わりに1年生からの評価は俺はかなり低いらしい。オルコットや本音が言うには、そう言った連中が俺について問われると総じて『怖い人』と返す様だ。普段の態度や怖い人には怖い眼、そしてオルコットに1回だけ放ってしまった殺気が不味かったのでは? と2人には言われている。あまり他者からの評価に興味はないが。
「ランランおはよ~」
「おはようございます。仁さん」
教室には問題なく時間を残し到着。いつも通り織斑の周りに集まっている生徒達はよくもまぁ飽きないもんだ、と思いつつ席に着くや否や本音とオルコットに話しかけられる。オルコットの席は少し離れていた気がするが、本音と話していたのだろうか。
「ああ、おはよう。相変わらず人気者だなアイツ」
クラスの中でも一部の生徒は織斑に興味がないらしくそれぞれグループで話していたり1人で席に居たりなどもするが、それらの生徒がこちらに来ないのはこちらとしては楽でいい。大方女尊男卑に染まっているか、純粋に興味がないか、男の中でも個人的に俺らが気に食わないだけのどれかではあるだろうが、変に寄ってこられても対処が面倒なだけなのでむしろ助かるというものだ。時々嫌悪でも好意でもない何とも言えない視線が贈られてくるのは感じるがアレは気にしない方がいいだろう。俺の精神衛生的に。
「おりむーはランランと違って皆に優しいからね~」
「優しくするのは身内だけでいいんだよ。知らない奴にまで愛想を振りまくパンダなんぞこっちから願い下げだ」
「わたくしはそちらの方がハッキリしていて好ましいと思いますわ」
「まぁ、社会に出たらその技能も必要にはなるけどな」
オルコットの場合はそれらを経験した上での言葉だろう。表情に乗った重みが違う。
「あっちは……転校生の話か」
やはり噂が早いのは女子特有なのだろうか。俺は転校生の話を更識に聞くまで全く知らなかった。
「……織斑を中心に集まってるのにその主役は相槌しか打たないってのは如何なもんかと思うんだが」
「テンションが違うからね~」
「あの立場が俺じゃなくて心底よかったと思う」
「転校生は、中国の代表候補生らしいですわね」
「らしいな。このタイミングは色々考えさせられるが……」
「イギリス代表候補生であるわたくしが入学した事と、男性操縦者の事を知って今更ながら情報収集目的で送り込んだ可能性もありますわ」
前者も後者も充分にあり得る。代表候補生クラスではないにしろ中国の生徒は当然いるが、その生徒から代表候補生が入学していると情報が送られれば対抗するように送り込むことは考えられるし、俺達男性操縦者の情報など全世界的に女尊男卑目線でも、男性目線でも俺達が操縦できる理由を知る事は重要なため、喉から手が出る程というやつだ。
「む……」
見知らぬ生徒が教室のドアにもたれた。身長は大体150cm程度のかなり小柄な部類。腰まで伸びた茶髪をツインテールにし、制服は肩が少し離れた改造されたもの。そして腕にはブレスレット。特徴的なのは口元から覗く八重歯だろうか。
「アレが転校生だな。中国の凰鈴音」
当然ながら資料で見た事がある。そもそも学園の生徒の顔は概ね資料で覚えさせられた俺が知らない以上転校生が彼女なのは間違いない。
「どれ、行儀は悪いが仕方ない」
耳を澄ます。会話を少々聞かせてもらうとしよう。
「――2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
どうやら先程までは転校生の話の後にクラス代表対抗戦の話に切り替わっていたらしい。そこで待ったをかけたのが凰鈴音という訳だろう。
「鈴……? お前、鈴か!」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? なんてこと言うのよ、アンタは!」
どうやら知り合いらしい。つまりアイツは『高校に入学したら偶然にも知り合いと再会した』を何度もやってるわけだ。凄い豪運だな。
そして凰はといえば、織斑千冬に出席簿をお見舞いされ、織斑に捨て台詞のように言葉を投げかけた後に2組に戻っていった。時間を見ればSHRの時間だ。向こうでは織斑に質問を投げかける篠ノ之含めた生徒達が出席簿を食らっている。何故学ばないのか……。
篠ノ之が席に戻る直前に、こちらを敵意と共に酷い目付きで睨みつけたように見えたが、恐らく勘違いではなかっただろう。
「ほら、オルコットもさっさと戻れ。アレを食らう前に」
「勿論です……アレは嫌です」
こういう時席がすぐ隣の本音は楽そうだ。尤も俺と本音が隣だからオルコットがこっちに来ざるを得ないのだが。
昼休み。今日は弁当を作ってきていない。というのもそろそろ食堂に慣れておくのも悪くないと思ったためだ。
元々2、3年生に寄って来られるのが少々面倒だっただけであって、最近他のところで話す機会が多かったのでそろそろ困る人数は来ないだろうと思ったのだ。それでも来る可能性は十分あるけど。
「今日は食堂~?」
「まぁ、たまにはな」
「珍しいですわね。使い方は大丈夫ですの?」
「一応使った事がないわけじゃないから大丈夫だ」
相変わらず数人のクラスメイトにコバンザメのように着いて来られる織斑には多少の同情はあるが、おかげでこちらに飛び火していないのでどちらかというと感謝の方が上と言えよう。それでもアイツに興味があるかと言われたらあまりないのだが。
そして10人近く集まった織斑の移動は非情に遅い。行動を起こしたのが向こうが先だというのに俺ら3人の方が早く食堂に着いている。
「普段はいつもすぐに生徒会室に行ってしまうんですもの。たまにはこうしてご一緒してくださると嬉しいのですけれど」
「更識や虚さんもそうだが、俺と一緒に飯食って楽しいのか?」
「一緒に食べる人が増えると~美味しくなるんだよ~」
「そういうもんかねぇ……」
「そういうものですわ」
くすくすと笑うオルコットはやはり美人なのだろうとは思う。あまり恋色沙汰に興味もなければ経験も碌にない俺としてはその程度の感想しか抱けない。学園にやたら多い美人に囲まれようがそれは変わらないだろう。
「さて何を食ったもんか……」
「アンタが、もう1人の男性操縦者って奴?」
先程聞いた声が正面から聞こえる。
「ああ、そうだが?」
声の主は凰鈴音。表情としては好意的とはお世辞には言えないだろう。
「ふーん。怖い眼してんねアンタ」
「よく言われる」
「でしょうね。あたしが怖いって思ったのなんて久し振りよ。千冬さん以来」
「アレと一緒にするな。あっちの方が幾分かやばい」
「まぁ……否定はしないけどさ。って、そうじゃなくて!」
話していると意外にもまともといったところか。というより彼女は基本的に自分の意見を隠さずにどんどん話すタイプなのだろう。
「クラス代表決定戦の映像、見させてもらったわ」
「そうか」
まぁ基本的に撮影されているものは学園内でならば閲覧自由であるし、そもそも恐らく中国の生徒からある程度の映像データは送られているだろう。
「一夏はともかく、そこのイギリスの代表候補生まで落として見せた。アンタ、何者よ」
「男性操縦者兼生徒会の一員に過ぎない。強いて言うのなら訓練相手がいいくらいだろうさ」
「ふーん? ホントにそれだけかしら。アンタ相当戦い慣れてるでしょ」
「どうだろうな? まぁアンタが戦うのは俺じゃなく織斑だ。そう気にするな」
「言っとくけど、一夏があの時のままなら絶対にあたしが勝つから」
「だろうな。中国の凰鈴音と言えば少し調べればヒットする。IS操縦能力や反応速度はIS適性Aなだけあって流石と言えるだろう」
俺からそんな事を言われるとは思わなかったのか面食らったような表情になる。
「意外か? ISでの競技においては情報が全てだ。各国の代表候補生について程度はキッチリと調べている」
「相変わらず勤勉な方ですこと……」
「まぁ、織斑にとっても代表候補生と戦闘経験が積めるのは僥倖だろうさ。知り合いならむしろいい機会だと思って存分にやってやるといい」
「でも学食デザートのフリーパスは欲しいよね~」
「生徒会室でしょっちゅうケーキ食ってるだろうに……」
さて、そろそろ人が並び始める頃合だ。ここで複数人で集まったままなのは邪魔になるだろう。
「……焼き魚定食でいいか。肉って気分でもない」
「なんかこう、意外と普通なのねアンタ」
「織斑だって普通の日本男児だろう? もう1人が特別変な奴とも限らん」
「まぁ……そうね。でも眼は怖いわよ」
「ほっとけ」
それだけ言って食券提出。凰はといえばラーメンを受け取った後に入れ替わるように入って来た織斑達と会話しているようだ。
こちらも各々料理を受け取る。
「向こうと違って人数が少ないと席が確保しやすくていいな」
「自虐~?」
「違う。何度も言うがああなるのは御免だ」
「まぁ、身は軽い方が何かと便利ですわ」
「さて、誰か寄ってくる前に食っちまうか。いただきます」
手伝い時代に生徒がいない時間を使って何度か利用したが、やはりここの料理はレベルが高い。世界中からエリートを集めるだけあって料理のレベルも高いものにしなければならないのだろうが、生徒としてはそう言った事情抜きにありがたいことだ。
「しかしアイツらは何でこう近くの席を使うのか……」
また耳を立てる。何度も行儀は悪いが、凰について知るのは生徒会長直々の頼みなのだし仕方ないだろう。
掻い摘んで理解すると、どうやら織斑と凰は小学5年生の時に凰がこちらに引っ越してきた幼馴染で、中学2年の時に凰が中国に帰ったため1年ぶりの再会という事らしい。果たして小5からの付き合いは幼馴染と言えるのかはよくわからないが、本人らがそういう認識ならまぁ別にいいのだろう。
「ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
「そりゃ助か――」
ダンっと机が叩かれた音がする。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
思わずやれやれと頭を振ってしまう。どうやら同様に聞き耳を立てていた正面の2人も苦笑いだ。
「アイツが教える事でのメリットは全く無いと思うんだがな……。クラス対抗戦を控えた今、凰が訓練に付くのも問題だが」
「あれから仁さんの言う通り何度か訓練を見ていますけれど、篠ノ之さんは剣についてしか教えられない上に擬音ばかりで全然わかりませんわ。そろそろ彼女の訓練機使用許可も下りるとは思いますけれど、それでも身になるかと言われたら……」
「多分感覚派だしね~」
「大人しく織斑千冬に頼ればいいものを……御馳走様でした」
聞き耳を立てながらも摂っていた昼食を平らげる。
聞いていると、凰は織斑に好意を抱いているのは間違いないだろう。そして凰は俺については大した興味を示さなかった。そうなると中国の思惑というよりは代表候補生が無理言ってIS学園に来たという方がいくらか納得できる。尤もこれは想像に過ぎないのでさらに別の手段での情報収集は必要だろう。IS学園側に多少の情報は納められているだろう。
未だにいくらか会話をしているようだが、まぁこれ以上は必要あるまい。
「何かわかった~?」
「まぁそれなりにな。生徒会長様の満足は得られそうだ」
一度生徒会室に顔を出しておくとしよう。いくらか余った時間で調べてみるのも悪くない。
「先戻ってていいぞ。俺はちょっと生徒会室だ」
「はーい」
「では、また後で」
この2人は素直に聞いてくれるから本当に楽で助かる。
生徒会室。いつも通り更識はやはりここにいたが、備え付けのノートPCを立ち上げる。
「あら、調べもの?」
「ああ。凰について情報を絞ろうと思ってな」
「どれくらいわかった?」
「凰は織斑の幼馴染で、凰から織斑への好意があるという事はよくわかった。あの唐変木は気付いていないがな」
言いながらいくらかの情報に絞って中国関連を調べる。
今回の転入の際に行われた適性試験は代表候補生の意を汲んでの学園での再適性検査。Aランク評価は覆る事無く維持されている。仮説を立てた今だからこそわかるが、中国側としてはどうしても渋々感が資料の文面から伝わってくる。やはり代表候補生と専用機という戦力を残しておくべきか、俺達の情報を集めるべきかでかなり揺らいだと見える。
「やはり、凰は随分と無理を言ったようだな」
「そこまでしてまで織斑くんに会いに来たって事でしょう? 一途な子は凄いわねぇ」
「それに気付いてないんだから酷い話だがな。いくらか話しただけだが凰が気の毒になるな」
『どちらかと言えば織斑千冬がいる影響で色々女性を見る目がおかしくなっている可能性はあります。ああ見えて織斑千冬は意外にも私生活はボロボロとも聞きますから。主に山田先生からですけど』
はぁ。と1つ息を吐き立ち上がる。
「あら、もう行くの?」
「茶の1つでも差し入れてから行くよ。アンタも久し振りに気を張ったんだ。多少は休んでいけ」
ティーセットを用意して手早く紅茶を用意する。手早くと言っても手は抜かない。手を抜いたらそれを知った虚にどやされる。
「相変わらず気遣いはできるのに表情は動かないわね」
「無表情の仮面が張り付いてるんだ。なかなか剥がれるもんじゃない」
「そういうのって剥がしたくなるのが私なのよね」
「おいその手はなんだわきわきするな。それをやったら淹れてやらんぞ」
ちぇー、と渋々引き下がるのを見てから紅茶をカップに注ぎ差し出す。
「うん。美味しい」
『久し振りに仁の破顔が見たいんですけど』
「お前それ本当にいつ以来だ」
思わずもう1つ溜息を吐いた。
原作で入学日に「再来週行われるクラス対抗戦」と千冬さんが言ってるのに、5月になっても行われないクラス対抗戦とはいったい……?
では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。