救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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二者二様の"篠ノ之"達

 唐突だが、同日放課後、畳道場に1本の名もない両刃剣を握って立たされていた。

 対面するのは篠ノ之箒。教室から無理矢理に連れ出したのも同じく篠ノ之だ。ギャラリーには本音、オルコットに加え織斑。どうしてこうなった……。

 

『全ては全授業終了で帰る準備を整えていた時からでしたね』

 

 そうだ、その時に非常に珍しく篠ノ之が席に寄って来たのだ。

 

「貴様、先日のクラス代表決定戦で、剣では負けないと言ったな?」

 

「……言ったが、なんだ」

 

 不機嫌をまるで隠そうともせずに話しかけてきた篠ノ之に対し少しだけ本音からピリッとしたものを感じたが、手で制しておいた。暗部らしいところをこんなところで見せるものではない。本音らしくもない。

 

「一度勝った程度で調子になるな。一夏がISに乗り慣れてさえいれば貴様の剣になどは負けなかった! 勝負しろ、私が証明してやる!」

 

「構わんが……ああ、そういえばアンタ中学剣道の全国大会覇者か」

 

「そうだ、我が篠ノ之道場の剣は貴様などには負けん」

 

「そういう事なら丁度いい。競技の剣と実戦の剣の違いを見せてやる」

 

 ちょくちょく感じていた敵意の視線はこういう事だったらしい。正直アレを続けられると面倒でもあった。ここで決着をつけるのも悪くないだろう。またクラスの面々には嫌われそうだがまぁそちらはどうでもいい。

 

 そして現在だ。すぐに畳道場に連れ出された。本音やオルコットはいざという時のためと言って着いて来てくれたのだといい、織斑は篠ノ之に流されるまま着いてきた。

 手に持っている両刃剣と右腰に下がっているもう1本は武器を選択するように見せかけて見えないところで呼び出した。ここにならあってもおかしくはないためまぁ問題ないだろう。

 向こうは胴着、こちらは制服。初めの頃の更識との訓練を思い出すな。最近は俺も胴着を着ている。

 

「……本当に真剣でいいのか?」

 

「今更怖気づいたか?」

 

「相手との力量差くらい読めるようにしないとこれから大変だぞ」

 

「黙れ!」

 

 向こうは真剣の刀。既に抜身のそれで切りかかってくる。しかし所詮は競技の剣、型にハマったそれでは人を殺すことなどできない。面打ちを身体を捻って避け、胴打ちを後ろに飛んで避け、小手打ちを瞬間的に手を引いて寸でで避ける。

 刀に迷いはない。本気で俺を切りつける気らしい。当たればの話だが。

 

「俺の剣は競技の剣じゃない。型など用意されていない。何年も1人で磨き上げた剣だ」

 

「それがなんだ! 篠ノ之流だってずっと続いてきた由緒正しき剣だ! 貴様のような人を切るためだけの剣などに負けてたまるか!」

 

 篠ノ之流に興味はないが、彼女の剣はあまりにも粗い。避けてくれと言っているようなものだ。速度だけは確かに見事と言えるが、それでも振りが大きければ決して俺には当たらない。真剣と真槍で普段からやり合っている上に更識は細かく速く一撃ずつが致命的なものだ。それに比べてしまえばスローモーションに過ぎない。

 

「これじゃただの暴力の剣だな。篠ノ之流の誇りとやらを見せたいのならばもっと肩の力を抜け。感情と剣に振り回されているぞ」

 

「黙れ黙れ黙れぇ!」

 

 聞く耳持たず、と言ったところか。やれやれだな。

 

「仕方ない……ちょっとは頭を冷やせ」

 

 こういうのは圧倒的な差を見せつけてやる方が禍根が残らないというものだ。大きく振りかぶって脳天を狙った一撃を右の剣を振り抜いて大きく弾く。同時に右腰から左手で剣を抜く。

 実はこちらの剣、両刃に見えるが両方共に刃を潰した模造剣を呼び出していた。こちらが相手のそれを避け切るのは簡単だが、実力差があまりにもある場合の寸止めはむしろ難しいのだ。とはいえ極力寸止めするつもりではあったが。

 

「少しだけ見せてやる」

 

 相手が両手に握った刀を引き戻すのを見てから左の刺突、首を捻って全力の回避。右の肩に担ぐ形からの逆袈裟切り、刀で受け止められる。引き戻した左で袈裟切り、反応間に合わず篠ノ之の右肩直前で寸止め。

 

「この……っ!」

 

 反撃の胴切り払いを潜り込んで右腕を相手の腕の軌道に差し込むようにして止め、逆に左の剣をこちらの右脇腹に抱え込むような体制から水平切り払い。これも篠ノ之の左脇腹を捉える直前に寸止め。

 

「アンタ、2回死んだぞ」

 

「くそっ!」

 

 まだやるらしい。今度は小手を2回、どちらも左右の剣で弾く。弾かれた刀を大上段に構えての面打ち。今度は両の剣をしたからXに切り上げて弾き飛ばす。

 

「うあっ」

 

 刀が手を離れ地面を滑る。勝負ありだろう。

 

「わかったか? 実戦の剣はそんなに甘いものじゃない」

 

 左の剣を鞘に納め、右の剣を篠ノ之の正眼に付きつける。

 

「くそっ……くそっ……!」

 

「ただ、アンタの剣は磨けば光る。いや、少し違うか」

 

 少しだけ言葉を選ぶ。

 

「本来の剣を取り戻せばアンタは化けるだろうよ。織斑ばかり見ていないで自分の事も見直してみろ」

 

「余計な……お世話だ……!」

 

「そうかい」

 

 剣を片付ける素振りをして消滅させる。わざわざ呼び出したのは刃を潰すためだったが、寸止めの方は特に問題なかったな。

 

「まぁ、もういいだろう」

 

 壁に置いておいた鞄を持つ。

 

「ああ、そうだ。織斑」

 

「……なんだよ」

 

「お前は一度凰に殴られてしまえ」

 

「なんでだよ!?」

 

「自分の胸に聞いてみる事だな……お前に答えが出せるか知らないが」

 

 一途なヒロインに気付かない唐変木。恐らく篠ノ之もそうであろうし、本当に主人公って感じだが実際に見るとまるで好ましいとは思わない。

 

「さて仕事だ仕事……行くぞ本音」

 

「はーい」

 

「じゃあオルコット。また明日」

 

「ええ、また明日」

 

 生徒会としては昼休みに凰について報告してしまったのでやることはいつもの資料やら茶やら程度だった。パーティで取材できなかったのを悔いて黛先輩が現れはしたが既に記事は大部分を作ってしまったため諦めたようだ。そもそも割と黒い事(軽度の捏造)はする彼女だが、本当に取材に応じたくない相手には強要する事は実はなかったりする。当日にわざわざ生徒会室まで取材しに来なかったのはそういう事だ。しかしパーティの場に居たら流れでそのまま受けさせられそうだったため逃げだしたというわけだ。

 今日は特に更識との訓練の予定もない。夜に第8アリーナでの自主訓練は欠かさないが。

 問題はその時起こったわけだが。

 

「はぁい仁くん! 1週間とちょっとぶりかな? 元気してた? してたよねわかるよ見てたもん!」

 

「今日も訓練ですか。熱心ですね仁さん」

 

 一気に頭痛が加速した。ISが守ってくれるのは肉体的ダメージだけであり精神的ダメージはどうしようもない。

 

「本当にこの学園のセキュリティ大丈夫なのか……?」

 

『この人はあまりにも例外すぎます。いくら何でもセキュリティを責めるのは酷かと……』

 

「だよなぁ……」

 

 うんざりしながら振り返ると、またもや天災とその義娘がいる。いつでもどこでもどこからでも現れるのは如何かと思う。

 

「クラス代表決定戦お見事だったね! レーヴァちゃんのアシストは封印してアレだもんね? 流石束さんが気になる男の子なだけはあるぞう」

 

「織斑一夏はともかくとして、セシリア・オルコットをあそこまで圧倒するとは思いませんでした。右眼すら使わないとは驚きです」

 

「右眼すらとは言うがこの右眼はあまりにも公平性に欠ける。ああいう場面では使わないのがベターだ」

 

「勝ちに行くだけでは意味がないと?」

 

「あくまでIS戦闘は競技だ。俺はコイツを兵器として使いたいわけじゃない。それなら何が何でもなりふり構わずに勝つってのは違う」

 

 それに、と区切ってから文字通り飛び跳ねている篠ノ之束に視線を一つ送る。

 

「アンタはISをそんな事のために開発した訳じゃない。それならコイツと話せる俺が兵器として扱っちゃいけない。厳密にはISとは違う相棒だが、それでも俺が兵器として扱うのは何か違う。行く行くは相棒と共に宇宙を飛んでみるのもまぁ悪くない」

 

『仁……』

 

 篠ノ之束が一瞬呆けたようにきょとんとする。直後にいつもと違うふざけたような笑みとは違う笑い方で笑う。

 

「あはは……全世界が君みたいな人ならよかったのにね」

 

「それはままならんもんだ。ほぼすべての人間の思惑が一緒になるのは世界が滅ぶ直前くらいなもんだ……だからって滅ぼそうとするなよ?」

 

「わかってるよぅ。君と戦いたくなんてないしね~」

 

 コイツの場合どこまで本気なのかまるで読めない。

 

「それはそうと、箒ちゃんがごめんね」

 

「……流石に情報が早いな。別に気にしてない。むしろアンタにそんな罪悪感がある事に驚きだ」

 

「一歩間違えれば死んじゃってたからね。束さんだって興味の対象が減るのは嫌なんだよ。それに、箒ちゃんは束さんのせいでああなっちゃったところもあるから」

 

「"重要人物保護プログラム"か」

 

「そう。それで小学校四年生でいっくんと離れ離れになっちゃってね。剣道もいっくんとの繋がりとして続けていたけど君も知っての通り、暴力の剣になっちゃった」

 

 少しだけ憂いの感情を表情に出した彼女は今まで見た事がないような表情だ。

 

「後悔してるのか?」

 

「ううん。それでも私はISで空を飛びたかった。宇宙を見てみたかった。私ですら知らないものをたくさん見てみたかった。だから、後悔はしてないよ」

 

「後悔はなくとも悪いとは思っている、か」

 

「そんなつもりがなくても、箒ちゃんには辛い思いさせちゃったからね」

 

「それなら行動で示してやれ。アイツは確かにアンタを憎んでいるかもしれない。それなら見てるだけじゃ変わらない」

 

「……そう、だね。でももう私にできる事なんて……」

 

 意外だな。天才と自称するのにそういうところはいたって普通の人間じゃないか。

 

「……専用機を作ってやるってのは贖罪にならないぞ。過ぎた力は身を滅ぼすからな。俺が言いたいのはそういう事じゃない」

 

「じゃあ、どういう事?」

 

「天才の篠ノ之博士としてではなく、姉の篠ノ之束として妹と話してみるんだな。最初は拒絶されるかもしれないが、そういうのは根気よく続けるのが大事なんだ。いや、経験があるかと言われたら覚えていないんだが」

 

「あはは、なにそれ……でも、ありがとね」

 

「礼を言われるような事か?」

 

「君にとってはそうでも、束さんにとってはそうなんだよ。そうだね、ちょっと頑張ってみようかな」

 

 今日は特別この天災はしおらしい。しかしそんな人間らしい一面もやはり大事だと思えるのは俺も大概人間としてはおかしいからだろうか。

 

「そうするといい。こちらとしても篠ノ之があのまま敵意を叩きつけてくるのはなかなか面倒なんだ」

 

「丸く収まりましたね。しかし不器用な方ですねどちらも」

 

『全くです。こちらの苦労も考えて欲しいものですよ』

 

「お前らな……」

 

 長く話し込んでしまった。時間も遅い。ISを待機状態に戻し地に足を付ける。

 

「あ、そうだ」

 

「なんだよ?」

 

「クラス代表対抗戦だっけ。アレ、気を付けてね」

 

「どういう事だ?」

 

「私が説明しましょう」

 

 クロニクルが説明を引き継ぐ。

 

「つい先日、束様のラボの一つが強襲されました。丁度私も束様も次のラボに移った直後で機材の一部を残したままのラボです。私の【黒鍵】による風景の屈折すらも看破しての強襲です」

 

「……注意しろってのはつまり」

 

「はい。そのラボから順次移す予定だった機材と無人機1機が奪取されました」

 

「おいおい……」

 

「機材の方も無人機の方も束さんにかかればいくらでも作りなおせるけど、問題は奪われた事。無人機のコアも同時に持ってかれてるから困った事になってるんだよね」

 

「軽いなおい……」

 

 状況に反して軽い口調。しかし表情は真剣なものだ。

 

「大体の目星はついています。相手は恐らく亡国機業(ファントム・タスク)。更識楯無さん含めたIS学園が追っている組織です」

 

 曰く第二次世界大戦中に生まれ、50年以上前から活動していると言われている組織。ISが開発されて以降は各国から機体やコアを奪いそれを戦力にして暗躍している裏の組織らしい。それら奪われたものを各国は自国の戦力低下を悟られぬように当然秘匿するためなかなか尻尾が掴めないらしい。

 

「束さんの方でもなかなかジャミングが激しくて行方が掴めていないの。それぞれ付けてた発信機は即破壊されちゃったしね」

 

「概ね読めたが……」

 

「相手の目的はわかっていませんが、男性操縦者2人が在籍するIS学園へはいずれ必ずアクションが起こされます。そしてその一番直近の可能性が――」

 

「クラス代表対抗戦ってわけか。なるほど、確かに織斑が試合をする以上お誂え向きだ」

 

「奪われた無人機は一次移行程度の機体と並の操縦者じゃ勝てないくらいのもの。代表候補生クラスなら邪魔がなければ多分やり合える程度。だけど問題はその武装なんだ」

 

 想定はラボの防衛のための軍用機クラス。つまりシールドエネルギーが競技用ISよりもずっと多いらしい。そしてビーム砲口が4つに大量のスラスターによる高速移動。そしてアリーナのシールドをぶち破る事すら可能な瞬間破壊力。なるほど聞くだけで厄介だ。

 

「この膨大なシールドエネルギーはいっくんの【零落白夜】や君の蒼い炎レベルの、バリアー無効化攻撃じゃないとなかなか削りきれない。本当はいっくんの【白式】のデータ収集に使うつもりだったんだけど……」

 

「聞き捨てならない言葉が聞こえたぞおい」

 

 小声だったがしっかり聞こえた。やはりコイツは天才ではなく天災だ。

 

「……ごめんね、私の失態でこんな事になっちゃって」

 

「やめろ、アンタらしくもない。もっとあっけらかんとしてろ」

 

「人が折角センチになってるのにその言いぐさ!?」

 

「それでいいんだよアンタは。何か起きても被害が出る前に落とす。何とかして見せる。だから、任せとけ」

 

『私達にかかれば無人機如き一捻りです! お任せあれ!』

 

 それを聞いてきょとんとした後に満足したかのように微笑み頷いて2人は帰っていった。

 覚悟は決めた。無人機ならば容赦も手加減もいらない。やれることを、やるだけだ。




 ここの束さんやたら白くね?と思いつつこれでいいとも思っています。束さんは作品の数だけいるんだよ!
 実際は仁が束さんがISを作った本当の理由を理解してくれる事と、仁がレーヴァと話してることでようやくISコア人格についてわかってくれる人ができたため原作よりもかなり白いって感じです。原作後期の束さんはあまりにも理解者ができずに狂ってしまったと思っているので、こんな感じに。
 では次回もよろしくお願いします。
 感想等お待ちしております。
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