救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 何を勘違いしたか唐変木を朴念仁と書き間違える始末。一夏の場合はこっちでしょう。修正しました。


気に入らない

「……こんな時間にいきなり部屋に顔真っ赤で押し掛けて来るのは年頃の女子としてどうなんだ? 凰……」

 

「だってぇ……まだ頼れる人も知り合いもいないし……」

 

「ティナ・ハミルトンはどうした……ルームメイトだろうアンタ」

 

「こんな内容ティナに相談できないのよぉ!」

 

 頭が痛い。オルコットですらこの部屋に押し掛けてきたことはなかったというのにまさか出会ってからほんの数日の凰が乗り込んでくるとは……。いやしかしオルコットも付き合いとしてはあまり変わらないが。

 

「こんな内容って……ああ、織斑か」

 

 無言で頷く凰。

 

「……言っとくが俺もアイツについてどうこう関わるつもりはないぞ」

 

「愚痴くらい聞いてよ。そういうの慣れてるって顔してるじゃん」

 

「人を何だと思ってるんだ……」

 

 確かに頼まれるとなかなか断れないとは自覚してはいるが、それでも人を相談役みたいに言うのは何か違うんじゃないか?

 

「……まぁ構わないが。俺も色恋沙汰には疎いぞ。何か気の利いた言葉は期待するな。少し待ってろ」

 

 布仏姉妹が使っている物と同じティーセットを用意し、いつも通り紅茶を淹れる。味に自信はあるし気分をいくらかリラックスさせるのには使えるだろう。

 

「形は強引だが一応来客だ。一杯飲んでいくといい」

 

「あ……ありがと。意外と様になってるのね……」

 

「生徒会で何ヶ月も仕込まれてるんだ。もう慣れちまってる。ああ、カップは来客用だから気にするな」

 

「そう……わっ美味しい」

 

「そりゃどうも」

 

 紅茶を1口飲んだ後にタガが外れたかのように話し出した。所謂マシンガントークというやつか。本当に愚痴がたまって仕方なかったのだろう。

掻い摘んで理解すると、小学校の頃にした約束を織斑が忘れていた、というよりは盛大な勘違いをしていたのに対しご立腹だそうだ。いや約束の内容によっては俺とて仕方ない事もあるだろうと一蹴するのだが、内容が問題なのだ。

 曰く『凰の料理の腕が上達したら毎日酢豚を食べさせてあげる』という約束らしい。一般的に見たらどう聞いても告白だろう。日本人で言うなら『毎日味噌汁を作ってあげる』といったところか。しかし彼女の実家が中華料理店であるという点からあろうことか織斑は『食べさせてあげる』を『奢ってあげる』と勘違いしていたらしい。

 

「そりゃなんともまぁ……ここまで来たら唐変木通り越してもはやただのアホというかなんというか……」

 

「折角人が追いかけてきてあげたっていうのにあの馬鹿と来たら!」

 

「篠ノ之にしてもアンタにしても並外れた美人だと思うが、如何せん一番傍にいるのが織斑千冬だからな……アイツの感覚おかしくなってるんだろう」

 

「それ絶望的じゃない……」

 

「まぁここまで来る程一途なのは間違いなくアンタの美点だよ。俺からアイツに何とかいう事はないが、まぁ諦めずに頑張ってみるといい」

 

「美点……美点ねぇ……。一夏がそれを理解してなきゃ意味も半減じゃない」

 

「そうとも限らん。要はアンタの気分の問題だ。根気ってのはいつだって重要だからな」

 

 特にああいった異常に鈍感な相手にはよりそれが必要だろう。要は自分がどれだけ本気か見せつけ続けなければならない。

 

「ま、取り敢えずクラス対抗戦で思いっきり殴ってやるんだな。鬱憤晴らしてやれ。実はアンタと織斑は一回戦で当たるからな」

 

「えっ、ホント!?」

 

「ああ。クラス対抗戦は結局生徒会も関わってるからな。それくらいの情報は回ってくる」

 

「そりゃいいわ。アタシと【甲龍(シェンロン)】でボッコボコにしてやるんだから……」

 

「中国お得意の【空間圧兵器】。あれは強力だからな。オルコットが見てるとは言え碌な訓練はまだ詰めていない織斑じゃ対応はなかなか難しいだろう」

 

「ホントよく調べてるわね……」

 

「安心しろ。こういった情報は話していない。第三者からの情報提供は公平性に欠けるからな。自分で調べて対策してこその公平性だ。どうせ織斑はやらんだろうが」

 

 やれやれ、と肩を竦めて見せる。一番重要な情報は彼女にも伝えない。彼女と織斑の試合の時に何かが起こる可能性など匂わせたら彼女は本気でやれなくなってしまうだろう。それもまた公平性に欠けてしまう。

 尤も一番危険なのも彼女らである事には変わりない。不測の事態が起こらない限り突撃できるようにはしておくべきだろうと再認識する。

 

「だから俺もアンタには織斑の情報を伝えない。とはいえあの映像を見ているならある程度は知っているだろうがな」

 

「わかってるわよ。そんなこと聞きに来たんじゃないんだから」

 

「ま、俺もアンタみたいなのは嫌いじゃない。本音やクラスの面々には悪いとは思うが、頑張れよ」

 

「うん。ありがとね。なんかスッキリした」

 

「愚痴ってのは昔から誰かに聞いてもらうのが一番なんだよ。とはいえアンタも女子なんだから夜遅くに男の部屋に押し掛けるのは程々にしておけよ」

 

「わ、わかってるわよ!」

 

 ようやく静かになった部屋の椅子に腰かける。しかしよくこの部屋がわかったな……。

 

『実は噂になってたりします。特例で端の方の少し他と違う部屋を使っていると』

 

「いつの間に……いやどうせ2年や3年の仕業だろうが」

 

 女性の噂の伝達速度とは恐ろしいものだ。しかもそれが10か月近く前から今に至るまでいつから噂になり始めたのかわからないと来たらもうそれは俺には知りえない程のものだろう。

 それでも来客が生徒会の面々を除けば、今回の凰が初めてであった事を考えると、1年生は怖がっているのはわかるが、他の学年の方では遠慮してくれているのではないかという結論が出てくる。まぁ部屋がわかっているからと言ってわざわざ部屋に押し掛けてくる程の人はなかなかいないだろうが。

 

「……なんにせよ本日は閉店ってな」

 

 凰が飲み干した紅茶のカップを洗ってティーセット共々片付け、その日は自己鍛錬に勤しんだ。

 

 

 

 

 

 アレから数日が経った。端的に言ってしまえばクラス代表対抗戦の当日だ。第2アリーナに観戦の生徒や選手達、そして俺達のような仕事のある生徒も当然集められている。会場入りできなかった者達はリアルタイムモニターでの視聴となるがそちらは仕方ないだろう。

 俺と更識、そして虚は生徒会として駆り出されている。いくつかの部と連動してはいるがこちらでは専用機持ちが2人という事で基本的にはアリーナの警護。俺達はISのコア・ネットワークの利用のため準待機状態での起動が認められ、虚には俺達と教師陣の周波数に合わせられた専用の回線(チャネル)を設定した無線機が渡されている。

 なにせ各国の重役も訪れるようなトーナメントだ。警戒は厳にするに越した事はない。更識と俺は北と南の対角線上に分かれた配置でそれぞれが各々の判断で行動するようにと言われている。

 この位置からは見下ろす形になるが、遥か下の方のアリーナステージは今は何も起こっていない。そろそろピット・ゲートから織斑と凰が入場してくるだろう。

 頭の中にアリーナ内の各クラスの席配置や各国の重役の位置、そして教師陣の配置については叩きこんである。アリーナ観客席は通路まで埋め尽くされた完全な満席ではあるがどこで異常が起きてもすぐに向かうことはできる。

 

 なお本音は一生徒として今回は観戦だ。俺に声が掛かったのは生徒会所属かつ専用機持ちだからこそであり、本音はそちらで正解だろう。俺が生徒会で駆り出されると伝えた際は本音やオルコット本人は少々残念そうにしていたが、俺にどうこうできる話でもないため仕方がない。

 

 そして更識や虚には念のため既に篠ノ之束からの注意を伝えてある。いつも以上に2人の雰囲気がピリピリとしているのは勘違いではないだろう。教師陣には伝えていない。何をどこまで信用していいかわからないためこれはこちらだけで共有しておくべきと判断したためだ。いくらIS学園とはいえ内側に何も闇がないわけではないのだ。可能性は考慮しておくべきだ。

 そしてそのせいで関係者や生徒が危険に曝されることは許されない。何かが起きればすぐに動くための万全の体制なのだ。篠ノ之束に『任せとけ』などと言ってしまったのだから気合を入れなければなるまい。

 

「レーヴァ。ハイパーセンサーは常に全開だ。何か起きたらそこからは俺も【虚像作製(ホロウメイカー)】で未登録のISの反応だけに集中する」

 

『わかっています。仁はそちらに集中を』

 

 右眼の【虚像作製】のリスクは現状俺の右眼と頭が痛むだけ。それで圧倒的な情報量を得る事ができるのならこういった場面で使わない手はない。尤もいざという時に痛みで動けなくなっては困るのでまだ使えないが。

 

「選手入場……さて、どうなるか」

 

 アナウンスが入場してきた両者を中央へ促す。アリーナのスピーカーによって向こうの解放回線(オープン・チャネル)の会話はこちらまで届く。

 

「一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」

 

「雀の涙くらいだろ。そんなのいらねえよ。全力で来い」

 

「一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを与えられる」

 

 この凰の発言は、要は中国の得意としている【空間圧兵器】のような強い衝撃を与える事のできる武装ならば直接搭乗者にダメージを届ける事ができるという事だ。俺が体術ソードスキルを放っても似たようなことはできるだろうが、その点ではやはり遠距離から狙う事のできる【空間圧兵器】に軍配が上がるだろう。

 

 アナウンスが試合の開始を告げる。同時に両者が動く。織斑は【雪片弐型】を、凰は両端に付いた刃に持ち手がついている異形の両刃青龍刀――レーヴァからの情報によると双天牙月(そうてんがげつ)というらしい――で切りあう。見たところただスパッと切るよりも勢いで叩き切る目的だろう【双天牙月】をバトンのように自在に操りあらゆる方向から切り付ける凰の方が優勢と言えるだろう。

 これは不味いと距離を取ろうとした織斑だが、凰の機体にそれは通用しない。

 

「――甘いっ!」

 

 凰の声と共にスライドし開いた非固定飛行部位(アンロックユニット)の肩アーマーが一瞬光った瞬間に、織斑が吹き飛ばされる。

 

「なるほど。衝撃砲として使ってるのか」

 

『便利そうですね。不可視で非固定飛行部位二機によって連射可能、なおかつ恐らく射角制限なしの全角度対応。さらに凰さんの操縦レベルの高さ。流石と言えますね』

 

「ああ。敵に回ったら少し面倒そうだ」

 

『私達ならばアレに対抗するならいつも通り相手の眼を見ての判断、もしくは炎による熱源散布で熱源が歪んだ位置からの予測回避といったところでしょうか』

 

「どちらにせよとんでもない反応速度が求められる。まぁ更識の清き熱情(クリア・パッション)よりはいくらかマシだが」

 

 あちらは地点爆破というインチキだ。比べるのは少々酷な気もするが比較対象がアレしかないのだから仕方ない。

 などと思考を巡らせているうちに向こうではいくらか会話を交わしていたようだ。そして織斑が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突っ込んでいく。同時に【白式】の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)であるバリアー無効化攻撃――自身のシールドエネルギーを犠牲に相手のバリアー残量に関係なく直接切り裂くことによって、絶対防御を発動させ大幅にシールドエネルギーを削り取る攻撃――の【零落白夜】を起動している。一撃で決めようという魂胆だろう。その刃が凰に届きかけた瞬間、アリーナ中を大きな衝撃が襲った。

 

「更識さん!」

 

『アリーナの遮断シールドを貫通して何者かがアリーナ中央に侵入! 皆警戒態勢! 仁くんは最悪のケースに備えて今は待機!』

 

 最悪のケース。増援があるかもしれないというまさに最悪のケースを想定して動く。理には適っているがアリーナの中の二人も気がかりだ。

 

「レーヴァ!」

 

『ハイパーセンサーにはぎりぎりまで反応しませんでした。とてつもないスピードでの侵入です!』

 

「チィッ!」

 

 右眼に意識を集中させる。右眼と頭に鈍い痛みが走ると同時に大量のISの情報が右眼から頭に流れ込んでくる。

 打鉄3機にラファール4機……これは教師陣の緊急用ISだ。まだまだ遠い。

 【白式】に【甲龍】、観客席から感じる【ブルー・ティアーズ】に【打鉄弐式】そして真正面反対側から感じる【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】……当然侵入者の物ではない。

 IS情報――Unknown。コイツか……!

 

『天井部分のシールドは破られたけどそれ以外は健在。そして遮断シールドはレベル4に設定。さらに全ての扉がロックされてるわ。これじゃ増援も避難もできない。今私達にできるのはハッキングが終わるのを待つ事と増援を警戒する事。そして錯乱した一般生徒を落ち着かせる事だけ』

 

「織斑と凰には耐えてもらうしかないか……!」

 

『これも大事な仕事よ』

 

「わかっている……」

 

 更識とて冷静なわけではない。口振りからは焦りを感じるし突っ込んでいけない口惜しさすら感じる。

 少しずつ右眼の痛みが増してくるが今止めるわけにはいかない。レーヴァと2人で行う事で他人よりも索敵能力に優れている俺達の一番の仕事はこれなのだから。

 

「っ! 上か!」

 

『もう1機!』

 

 ギリッと奥歯が鳴る。右眼から伝わってくる情報はこちらもUnknown。そしてハイパーセンサーによって強化された視力で見えるのは大剣を握りしめた全身装甲(フルスキン)のISが真っ直ぐに観客席に向かっている事!

 

「あそこは……4組か!」

 

『っ! 簪ちゃん!』

 

 更識の叫びのような声を聞く前に既に右足に全ての力を注ぎこんだ。今から間に合うのは間違いなく俺だけだ。ならばやることはたった1つ。

 俺は今何よりも、どんなものよりも速いという暗示。それが心意の力として右足1本に集まり紫色の光で覆い尽くす。

 ドンッ! と地面を蹴る凄まじい音が一気に後方へ遠ざかる。同時に右足の肉が弾ける感覚、骨が砕ける鈍い音、弾けた肉から大量に噴き出す生暖かい液体の感覚を感じる。

 

『せめて脚部装甲の展開を……ああもう!』

 

 レーヴァの怒りの声すら今は耳に入れている余裕はない。アリーナ観客席ギリギリの手すりに左足で一度着地。残りの距離は半分、あと1歩分だ。

 着地と同時に今度は左足に力を込める。今度の踏切はいくらか嫌な感触を感じなくなった。レーヴァが足に装甲を展開した事で保護機能が働いたのだろうが、それすらも今は認識するのが惜しい。

 右手に剣を呼び出す。ISに対抗できるのはIS武装のみ。呼び出すのは当然IS武装【炎剣レーヴァテイン】。普通の剣よりずっと重いそれを加速の勢いと重さを利用して、力任せに正面の大剣に叩きつける。アリーナの遮断シールドを挟んでぶつかり合う直前に向こうの大剣が遮断シールドを突き破るのが右眼で捉えられ、お互いの剣が大きく弾かれると同時に視界に入った腕に赤い装甲が展開される。そして手すりに上手い事着地する。

 

『無茶ばっかりするんですから! 後でいっぱいお説教ですからね!』

 

「……ああ、後でな」

 

「欄間……くん……?」

 

 少しだけ振り向いて、後ろの席を立っている更識簪を見やる。

 

「怪我は……ないな。ならいい」

 

 それだけ確認して正面の敵に向き直る。今度こそ全身が赤い装甲に包まれるのを感じながら右眼からの情報に意識を注ぐ。

 やはりアリーナ内のそれと同じく相手が無人機であるという情報を初めとし、武装は大剣1本ということがわかる。そのあまりにも少ない武装から導かれる答えは1つ。

 

「急ピッチで新しい無人機を作りやがったな……!」

 

 篠ノ之束から奪取した施設を用いて新たに作られた無人機。彼女のそれが【ゴーレムⅠ】と呼ばれるのならこれはそれを基にした【ゴーレムⅡ】と言えるだろうか。シールドエネルギー自体はアリーナ内の【ゴーレムⅠ】よりもずっと多く、骨が折れそうだ。

 

「……だがまぁ、やらんと終わりだろう」

 

 何より、コイツは気に入らない。真っ直ぐに更識簪へ向かったという事は偶然なのかもしれないが、更識楯無の妹は危険な立ち位置であると俺は前に言った。彼女が狙いであった可能性は十二分にある。故に気に入らない。

 狙いをこちらに変えた敵の無機質な赤い双眸が俺を捉える。右足は感覚がほぼない上に、右眼は絶えず痛みを放出している。お世辞にもベストコンディションとは言えないが、中身の入っていない敵如きにはいいハンデだろう。

 

「ぶっ壊してやるよ……!」




 みんなの相談役欄間仁。ただしある程度見知った中に限る。
 戦い始める前からボロボロなのは仁クオリティ。
 次回ゴーレムⅡ(仮称)戦です。正直ずっと書きたかった待ってた。
 では次回もよろしくお願いします。
 感想等お待ちしております。
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