救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 完全小説勢のアニメ未視聴であまり把握できていないので、うちの場合のアリーナの観客席の位置は高い位置で、アリーナの戦場を見下ろす形になっていると思っています。なので一夏達の戦場の遥か上空で戦闘が行われています。


守る戦い

 これ以上後ろに下がるわけにはいかない。前へ、前へ、前へ!

 

『【炎の枝(フレイムテイン)】、操作貰います!』

 

 4つのBT兵器が同時に出現し俺の意思とは別に自在に飛び始める。両手に1本ずつの剣、そしてビットに纏わせた炎の刃の計6つの剣による連続攻撃。足の感覚はないがISによる補助は非常に優秀でいつも通りに動く。

 相手のシールドエネルギーはレーヴァテインの約10倍。1人でこのシールドエネルギーを削り切るのは至難の業だ。何よりこの機体は炎によって自身のシールドエネルギーを使用する。相性はどう考えても最悪。更識が来るまでにどれだけ耐えられるかの勝負でもある。

 

「だが……耐えるだけじゃ駄目だな」

 

 耐えるだけでは結局消耗した俺と更識では削り切れない。恐らく教師陣の優先順位は織斑一夏の方が上だろう。それならこちらは更識が来るまで俺がまともに相手をしつつ凌がなければならない。

 右眼から入ってくるISの位置情報で概ねの状況は伝わってくるが、更識もオルコットもこちらに向かって来れているわけではないようだ。コイツが突っ込んで来たせいで錯乱した生徒もいるだろう。そちらの対処に追われていると考えるのがベターだ。

 

「相手の攻撃で削られる程余裕はない。押し切るぞ!」

 

 両手の剣から炎を吹かす程のシールドエネルギーの余裕すらもない。ただただ攻撃の密度を上げる。更に速く鋭く重く強く。

 未だに生徒の避難はできていない。思った以上に相手のハッキングのレベルが高いという事か。篠ノ之束がこちらに介入してくれればと思いはするが高望みだろう。

 右の袈裟、右の水平、左の唐竹、左の斜め切り上げ、両のクロス切り下ろしから同じルートの切り返し。そこからその場回転で二刀を揃えての水平切り払い。この間にもビットによる斬撃も絶え間なく切り返されているというのに未だに減少シールドエネルギーは約1割。これでも並のIS1機ならばシールドエネルギーが切れている程の威力だというのに未だピンピンしている。 

 むしろこちらのシールドエネルギーの減少の方が重い。既にこちらは2割削れている。

 

 こちらの攻撃の合間に繰り出される唐竹。剣をクロスして受け止めるがズシンッと全身に響く一撃。それだけでシールドエネルギーが減少するのが視界の端に見える。全力で弾いて4度の反撃を繰り出すがやはり目に見えたダメージにはならない。

 

「チィッ……!」

 

『コッチが持たない……! 楯無さん早く……!』

 

 両手の手首に意識を一瞬集中。片方に5本ずつ合わせて10本の炎の剣を貼り付けるように呼び出し直後に片方の5本を同時射出。大剣の一振りで蹴散らされるがそれによってできた死角にさらに5本射出。同時にビットからもマシンガンのように炎の弾丸が降り注ぐ。

 

「化物が……!」

 

 熱の霧の向こうから大剣を袈裟気味に振り下ろされる。一瞬反応が遅れ受け止めきれずに最初の位置に吹き飛ばされるが思い切りスラスターを吹かして空中で止まる。

 

「あ……っぶねえ」

 

 更識簪に衝突などあってはならない。まだ彼女含め生徒達は避難できていないのだから、ここが最低防衛ラインだ。

 今の一撃で砕けた右の剣を量子変換し新しく呼び出す。剣を呼び出す事ではシールドエネルギーが減らない事が僅かな救いと言えるだろう。

 

「はぁっ……!」

 

 荒く息を吐き出す。回線(チャネル)からは焦る教師陣の声が聞こえる。山田副担任は酷く焦っており、織斑千冬は落ち着いているようで取り乱しているのが声からわかる。他の教師達の声もいくらか聞こえるが殆どは織斑と凰を気にする声だ。まぁ当然だろう。片や世界初の男性操縦者かつ織斑千冬(世界最強)の弟、片や中国代表候補生。肩書きのない俺よりは遥かに価値のある2人。なので当然だ。むしろ――

 

「日本代表候補生は気にしないのかアンタらは……!」

 

 ギリッと奥歯が鳴る。とことんまでこの世界の日本は碌でもないと感じてしまうのは不可抗力だ。より有利になれる存在が現れたらそちらを優先し、あまつさえこうして襲われた自国の代表候補生を軽視とは恐れ入る……!

 

『落ち着いてください。今激昂しても敵に隙を与えるだけです』

 

「……わかってるよ」

 

 代わりに強く二刀を握りなおし、無型ではなく左の剣を前に、右の剣を少し引いて構える。耐える戦いの時専用に用意した受け流しの型。

 まずは敵の袈裟切り。大剣にも拘らず中々の速度、まずは回避してから前に出している左の剣で水平切りでカウンター。それをなぞる様にくる水平切りを手前の右の剣で右腕を捻りつつ受け止めると同時に肘を思い切り畳む事で衝撃を逃がす。そして左の剣で右から左の切り上げでカウンター。当然このやり取りの間にもレーヴァによるビット攻撃は続いている。

 

 先程までとはまるで違う戦い方。こちらから攻めていても埒が明かないのなら相手に振らせてそれの勢いを利用したカウンターで削る。連続攻撃による攻めは俺自身の体力も持たないためこちらの方が今回は適している。

 そしていくつかわかったことがある。

 

 まずコイツのAIは少々甘い。コイツにインプットされた目標が『更識簪』だと仮定し、邪魔に入った俺をターゲットするのは当然として、その時点でコイツには俺しか見えていない。なのでビットは攻撃を続けても撃墜されない。防御一辺倒でも削れるという事だ。だがそれではあまりにも効率が悪い。それならば今のように俺自身も攻撃を行い少しずつでも削るのが賢明と言える。

 仮に削り切れない場合でも、最悪の場合はコアを抉り出すという選択がある。その場合は蒼い炎を使ったとしても万全の装甲ではぶち破れない。その時が来た場合のために相手の装甲を少しでも傷つけておく必要があるのだ。

 

『残りシールドエネルギー6割。相手は8割です。こちらが2割削れる間に相手は1割しか削れない。このままではジリ貧です』

 

「わかってる……だが今はこれしかできない。やることをやるだけだ」

 

 右眼でコアの位置は把握している。コアの位置の直上の装甲を削るのが今やれることの中でベストだ。

 剣では負けない。それは変わらないがどうにも相手のシールドエネルギーが多すぎる。一撃貰ったら不味いこちらに対し何発放り込んでも未だビクともしない相手では分が悪すぎる。だからと言って退くわけにはいかないのだが。

 

「ふぅっ……!」

 

 右眼が訴えてくるのは相手が先程までよりも力を溜めている事。もう一つ息を吐いて今度は相手の連続攻撃、もしくは渾身の一撃に備える。

 

「―――」

 

 気合の声すらも発しない無人機が斜め切り上げから入る。左から切り上げてくるそれを右に身体を沈めて回避、そのコースをなぞる様に切り返して鋭い逆袈裟切り。左の剣で内側を擦る様に当てて逸らす。それを認識しているのかいないのか、そのまま足を斬り落とすようなコースに少しだけ矯正して来る斬撃を上に飛ぶことで回避、直後にそれを追うように向こうも上に機体を上昇させながらの垂直切り上げ、ここは迎え打つ――!

 一瞬右の剣を肩に担ぐ様に構え、身体が剣に引っ張られるような感覚を感じると共にそれを加速させる様にスラスターを吹かす。片手剣単発ソードスキル斜め切り下ろし《スラント》。

 ガギィンッ! という重い一撃を右腕に感じると共に左の剣でもソードスキルを立ち上げる。今度も肩に担ぐ様な形だが振り下ろす角度が違う。片手剣単発ソードスキル垂直切り下ろし《バーチカル》。これを大剣に叩き付け今回のぶつかり合いはこちらが押し勝ち、今度は相手が真下に吹き飛ぶ。

 

「しかし重いな畜生!」

 

 両腕が酷く痺れる。何度も同じぶつけ方での相殺はそう言った感覚が存在する分こちらが不利だ。

 

「まだか……!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)レベルの速度で突っ込んで来た敵が大上段からの鋭い垂直切り下ろし。篠ノ之箒のそれとは比べ物にならない速度とキレ。剣をクロスして受け止めるも、そこから薙ぎ払うようにスイングされて横に弾き飛ばされる。

 

「しまったっ……!」

 

 俺が今そこから弾き飛ばされるのは不味い。すぐに体勢を立て直しこちらも瞬時加速から観客席との間に割って入る。しかしそれを待ってましたと言わんばかりの袈裟切り。瞬時加速からでは反応し切れない。咄嗟に引き戻した右の剣が砕かれ、そのままこちらの肩の装甲に大剣が食い込み、辛うじて被膜装甲(スキンバリアー)によって生身が守られる。

 しかし俺自身の身体は再び吹き飛ばれる。今度こそ不味い。相手の本来の狙いがキッチリと視界に入れば――

 右眼から相手の状態情報が流れ込んでくる。こちらへのロックが外れたのがわかった。

 

「くそっ!」

 

 体勢を崩しながら咄嗟に右手に5本同時に呼び出した剣を射出し直撃させ、こちらに意識を逸らす。無事にこちらをロックしたのが確認できた。

 

「お前の相手は……俺だろうが!」

 

 再度の瞬時加速。同時に二刀流突進ソードスキル《ダブルサーキュラー》を起動。いくら無人機と言えど2つの加速が合わさった速度への反応は間に合わずに観客席から遠く弾き飛ばす。

 

「はぁっ……くっ」

 

 IS戦闘にしては長期戦が過ぎる。いい加減こちらのスタミナが持たない。

 

『シールドエネルギー残量先程の直撃で3割を切りました。向こうは6割5分です』

 

「そろそろ……キツイか……!」

 

 右眼からの痛みも最高潮だ。先程から無茶なソードスキルと瞬時加速の多用は右眼からの頭痛のせいで思考が纏まりきっていない証拠だ。その右眼からのIS情報ではようやく織斑達が対処していた無人機が破壊された事がわかった。同時に恐らく織斑の【零落白夜】によってアリーナのシールドの一部が破壊され、それによりオルコットや教師陣含めた他のIS搭乗者が突入できた。と言ったところだろうか。それならば、もうすぐだ。

 そう、気が抜けてしまったのが不味かった。普段なら有り得ない事であるのに気が抜けてしまった。

 瞬時加速で接近してきた無人機によって反応し切れなかった身体が叩き落される。すぐに体勢を立て直そうとするも身体の反応が鈍い。気が抜けた事でアドレナリンが切れかけている。

 同時にロックが外れる。無人機の視線の先にいるのは当然更識簪だ。

 

「くっ……!」

 

 一瞬遅れて体勢を立て直すが、無人機は既にその腕を伸ばしている。大剣を片腕で握り、もう片方の腕を更識簪に向かって伸ばす。だが――

 

「簪ちゃんに……手を出すなぁ!」

 

 水色が灰色を弾き飛ばす。その手に握るは水を纏った槍。そこから絶え間なく放たれる4連マシンガンによる弾丸がさらに無人機を遠く弾き飛ばしていく。

 

「……遅かったじゃねえか」

 

「……ごめんなさいね。それと、ありがとう。簪ちゃんを守ってくれて」

 

「礼を……言われるような事でもないだろ」

 

「こういう時は素直に受け取っておけばいいのよ?」

 

「そうか……」

 

 歯を食いしばって痛みに耐え体勢を今度こそ立て直す。

 

「思えば、アンタとこうして肩を並べるのは初めてか?」

 

「そうね。いつも向かい合っているもの」

 

 俺の残りのシールドエネルギーは2割程度。無茶はできない。

 

「借りを返すとしようか……!」

 

 開始は更識の蛇腹剣【ラスティー・ネイル】。水を纏わせたそれが無人機の腕を絡め取り細かく切り裂いていきながらこちらへと引っ張る。そこに炎を纏わせた二刀による連続攻撃。大剣は逐次更識が弾くため心配はない。

 現状のアリーナの遮断シールドの破損状況では恐らく清き熱情(クリア・パッション)は使用できない。それでも生徒会長(学園最強)は伊達ではない。高速切替(ラピッド・スイッチ)によって手元の武器を【蒼流旋】と【ラスティー・ネイル】に細かく切り替えながら、時に大剣を絡め取り、時に大剣と打ち合い、さらには4連ガトリングによってのこまめなダメージを忘れていない。

 だが、それでも中々削れない。俺も何度も切り込んでいるというのに未だ残量3割。

 

「仁くん、まだ行ける?」

 

「わからんが押し切る!」

 

 突っ込む。合わせて更識が蛇腹剣と水で相手の動きを拘束する。炎を剣に纏わせたままソードスキルを起動する。相手が動けないのなら心置きなく使える。

 二刀流上位16連ソードスキル《スターバースト・ストリーム》。炎の赤い軌跡が空中に激しい星々の爆発の様な景色を描き出す。残り、1割。

 

『あっ……!』

 

具現維持限界(リミット・ダウン)か……!」

 

 要はエネルギー切れだ。同時に機体の自由が利かなくなる。

 

「仁くん! きゃあっ」

 

 一瞬こちらに意識が逸れた更識が弾き飛ばされる。ここにきて……!

 

「チィッ……レーヴァ、説教は後だ。頼む!」

 

『マシマシですからね? 他に手段がないのはわかりますけど!』

 

 レーヴァから両腕が装甲が付いたまま外れ、前面の装甲が消えていく。いや、粒子のようにバラバラになった装甲は両手から消えた剣の代わりに右手に同じ剣の柄として収束していく。

 レーヴァ本人の意思によって彼女の待機形態の1つである剣の姿へと、装甲を変えていっているのだ。それも部位を調整してわざわざ前面から変化させていってくれている。

 

「ああ。もうこれしかない」

 

 完全に前面の装甲が消えると同時に、今度は両足が機体から外れる。そのまま体勢を低く、残ったレーヴァの装甲に踏ん張り、右手を肩上に引き絞り、左手をそれに沿える。少しずつ炎の剣の刀身が現れると同時に刀身が青い光に染まっていく。

 起動するのは片手剣単発突進ソードスキル《ヴォーパルストライク》。空いた距離を一瞬で詰めつつ射程すら伸びる優秀なスキルだ。

 背中側の装甲も完全に消え、残ったのは下半身部分の背中側だけ。剣も既に7割程が形となっている。

 

「行くぞ……!」

 

 目の前の無人機は動かなくなりつつある身体で再び更識簪に手を伸ばしている。がら空きだ。やはり今アイツはこちらの事など見えていない。右眼によってコアの位置をもう一度確約させる。酷い痛みだが、唇を強く噛み耐える。

 

 僅かな装甲を足場に踏み切る。同時に残った部分の装甲が消える。残ったのは右腕の装甲のみ。僅かな被膜装甲のために彼女が何とか維持してくれているのだ。

 

 そして奴の装甲を貫くのにはソードスキルだけでは足りない。姿をほぼ完全に剣に戻したレーヴァが炎を吹き出し、そのまま蒼い炎へと変える。更に俺が意識するのは『あらゆるものを貫くことができる自分自身』。その心意をその上から重ね掛けする。

 狙うはISコア。砕くつもりでは決してない。その意思に応じるように心意によって紫に染まりつつある蒼い炎が五指の形を取り鍵爪状に折り曲げられる。

 

「ヴォーパル……ストライク!」

 

 ジェット機が放つような音と共に、今俺達に放てる最高の一撃がコアのある直上、胸元の装甲を貫く。同時に炎の鍵爪にコアが抜き取られ掴み取られる。

 

「レーヴァ!」

 

拡張領域(パススロット)、格納します!』

 

 紫から蒼に、蒼から赤に戻った炎が消え、剣が指輪に戻り、右腕の装甲が消え、同時に右腕から皮が、肉が、骨が、弾ける様な感覚が走る。痛いやら熱いやらで目の前がスパークする。

 

『仁! 落ちます!』

 

「くっ……」

 

 周りに利用できるもの、なし。くるっと空中で態勢を変えて青空の見えるアリーナの天井を仰ぐ。いきなり右眼に今まで以上に酷い痛みが走り、反射的に閉じる。

 直後、ふわっと柔らかい感覚と共に落下する感覚が止まる。左眼だけで周りを見るが、確かに空中で止まっている。右眼を少しだけ開けると、俺の真下にあるものはどうやらアリーナの遮断シールドのようだ。それが天井から伸びて俺の身体を支えている。よくわからないが助かった……らしい

 

「ぐっ!」

 

 右眼も頭も、そして右腕も右足も酷い痛みだ。ついにアドレナリンが完全に抜けたようだ。少しずつ意識が遠のいていく。

 まぁ……死にはしないだろう……。意識が、完全に途絶えた。




 ボロボロである。守るために退くことすらできなかったという点もありますが、やたらめったらタフな相手だとレーヴァテインという機体は圧倒的に不利です。なにせ炎を吹かせばシールドエネルギーを消費する上に、ビットでの攻撃を行ってもシールドエネルギーが減る。極めつけには切り札の蒼い炎については絶望的な消費量です。仁への明確なカウンターですね。
遮断シールドはゴーレムⅠの襲撃時、ゴーレムⅡの斬撃、零落白夜の一撃でそれぞれ一部が破壊されたという認識です。大部分はまだ残っていると判断しました。

 今更ですがこの作品完全な自己満足作品となっております。プロットなど私の頭の中で軽く組んである程度で、今回のゴーレム戦は前々から思いついていた展開ですが、そういったものは殆どなかったりします。
 とにかく書きたくなってしまったのだから是非もありませんがね。
 ここまで読んでくださっている皆さん、それでもよろしいという方は次回以降もよろしくお願いします。
 では感想等お待ちしております。

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