救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 今回こそが真の地の文祭りです。読み辛さを感じるかも知れませんがご容赦を。


"更識"の憂いと彼女の本当の心

 ――― SIDE 楯無 ―――

 

 クラス代表対抗戦の無人機襲撃から1週間が経った。先生方は事態の収束に努め、事件の最中央にいた中の1人、織斑一夏は凰鈴音と共に無人機1機を撃破。その後無人機の再起動による最後の一撃にまともに直撃し意識を失い保健室に運ばれるも命に別状なし。目立った傷も無く強いて言うのなら打撲でしばらく苦しむ事程度だろう。

 凰鈴音も同様、むしろこちらの方が戦闘による支障はなかった。

 問題は、彼だ。

 

 欄間仁。我らが生徒会の一員であり、真の世界1番目の男性操縦者。彼だけは、未だに目を覚まさない。

 彼が相対した無人機は織斑一夏達が相対したそれとは大きく異なり、大剣1本というシンプルこの上ない武装の代わりに残りの全ての性能をシールドエネルギーの拡張に回していた。ただでさえ軍事用ISのようにシールドエネルギーが高く用意されている機体でそんな事をすれば、当然到底まともに戦えるような機体では無くなる。彼はそれを相手に、相性の悪い短期決戦を得意とするISで、織斑一夏達が無人機を撃破し、その際にアリーナの遮断シールドにできた穴から私達が突入可能になるまで耐え切って見せた。

 

 私の妹、更識簪をその背に守りながら。

 

 私はあの瞬間真逆に配置されており到底間に合う距離ではなかった。彼とてISを展開でもしてなければ確実に間に合わない距離を、ISの展開よりも更に速く、人間の脳が身体に課しているリミッターを外したかのような速度で、足の骨を、肉を滅茶苦茶にしながらも妹の場所まで駆けつけてくれた。感謝などいくらしても足りない。

 

 彼は最後の瞬間に無人機からコアを抉り取り、そのまま自由落下していく瞬間にアリーナの遮断シールドがどういう訳か包み込む様に彼の身体を支え、その直後に意識を手放した。私が彼の元まで飛んでいくと、レーヴァちゃんに凄まじい勢いで話しかけられた。

 

『早く彼の治療を! 右腕も右足も、このままだと二度と動かなくなる可能性があります! お願いします楯無さん!』

 

 いつも人間のように感情豊かな彼女ではあるけれどここまで焦っているのも初めて見た。シールドエネルギーが完全に空となり、こちらへウィンドウを出す程のエネルギーすらも残っていない彼女もそこで休止モードに入った。

 

 そして彼の身体を変形した遮断シールドから取り出し、抱えてみると驚いた。

 いつからか着けていたロンググローブは勿論、IS学園の制服も、ISスーツも右腕の肩口まで焼け落ちていた。ロンググローブや制服はともかく、ISスーツはあらゆる面で優れたスーツ。並の熱では焼け落ちるなんて事はありえない。それこそ彼が最後に放った蒼い炎の熱を直熱感じるくらいでなければ。

 当然のようにその右腕は酷い火傷だった。指を除き肩口まで殆どに加え、右半身部分の頬や胸に脇腹の一部はぐずぐずの赤銅色に変化し、さらには右腕からは全体的に大量の血が流れていた。それも普通の傷ではない。右腕が内側から無数の刃で傷付けられたかのような、異形の傷。

 この傷は右足も同様だった。むしろこちらの方がずっと酷い。こちらも全体的に内側から弾けたような傷ではあるが、出血量もその傷も右腕のそれよりもずっと大きい。十中八九最初に見せた異常な速度に起因しているだろう事は想像に難くなかった。

 

 すぐに学園の保健室へ運んだ。この学園の医療技術は日本でも有数と言って過言ではない。どれだけ大きな傷でも数日と経たずに生体癒着フィルムと万能細胞移植によって見た目は元通りになり、ナノマシン治療により傷の痛み自体もそれなりに和らぐ筈だ。と、昨日ここに来るまではそう思っていた。

 アレから3日間欠かさず昼休みや放課後には一度はここ(保健室)に来ているけれど、彼の傷は全く良くなっているように見えない。ここの技術力ですらここまで傷の治りが遅いのは初めて見た。暗部として活動する際にここの医療を受ける事が何度かあったけれど毎回すぐにそれなりの結果が出ていた。彼のこれはナノマシン治療の効かない特殊なものであるのだろうと結論付けられた。

 そしてその時に気付いたけれど、左腕のロンググローブの下も酷い火傷を負っていた。右腕のそれとは比べ物にならないけれど、それでも普通に暮らしていれば決して負う事のないような火傷。腕はロンググローブをまた使えばいいとして、頬など目立つ部分の火傷は生体癒着フィルムによって元の色に誤魔化すことになる。これは起きてから問い質す必要がありそう。

 

 5日目放課後には整備科――と言ってもレーヴァちゃんをまともに整備できるのは虚ちゃんと本音ちゃんだけだけど――から彼の元に戻され休止モードからも帰って来たレーヴァちゃんも、せめて彼が起きて、まともな食事を摂り始めることができれば、人間が持つ自然治癒力を自身がブーストして今よりはマシになると言っていたけれど、それすらも現状は叶わない。

 私とて彼には早く起きて欲しい。生徒会室に彼がいないと何となく物足りない気分になるし、彼が出してくれる紅茶が無ければ仕事にも中々身が入らない。虚ちゃんが淹れてくれるお茶は相変わらず絶品ではあるけれど、彼のそれとは何となくこう、違う。よくわからないけれど。

 この約10か月殆どいつも聞いていた低い声は中々耳に焼け付いているものだ、と思った。ぶっきらぼうなのにどこか優しげなその声は、私達にとって既に日常の一部となっていたのだろう。虚ちゃんも本音ちゃんもいつもよりどこか寂し気で、やはり仕事に身が入っていなかったように見えた。いなくなって気付く、と言えば少し縁起が悪いけれどこういうものなのだな、と思う。

 

 レーヴァちゃんもやはり寂しそうだった。『たまにこういう無茶するんですよ』というその声はいつもの元気な声とはかけ離れていた。その後に『そういう時はいつも誰かのために、ですけどね』という声はどこか彼を誇るようだったが、それでもやはり影が差していたように聞こえた。

 

 次の日に、妹――簪ちゃんもここに来ている、と彼女は言った。

 簪ちゃんはいつも申し訳なさそうな顔で入ってくるという。庇ってもらい、守られた事で仁くんが起きない事に対して非常に責任を感じているらしい。それでも他人にあまり興味を示さなかった彼女がそんな行動をするのは少し珍しいと思ってしまう。本音ちゃんを送らせて行った時、一体どんなことがあったのか気にはなるけれど聞くのは野暮だろう。仁くんに限って間違いはないと思ったからこそあの時本音ちゃんを任せたのだから信じてあげなければ。

 

 少し話は変わるけれど、彼の評価がとてもじゃないが高くなかった1年生間でも、彼の行動は中々評価された。特に4組は目の前で戦い続け傷付いた彼に悪い印象なんて持てなかったのだろう。時々保健室に来る生徒がいるのを確認している。噂は所詮噂と一蹴する声すらも上がって来ている。4組だけでなく同じ1組の生徒も少しの人数ではあるけれどお見舞いに来るのは彼にとってもいい傾向だと思う。他人からの評価など興味無いと一蹴していた彼はそんなことを期待しての行動では無かった筈ではあるけれど、副産物は思ったよりも大きいものだ。

 当然ながら2年生や3年生からの評価は更に上がった。ただでさえ手伝い時代から悪い印象を持っていたのは女尊男卑を掲げる生徒達や、現3年生のアメリカ代表候補生であるダリル・ケイシーのような純粋な男嫌いくらいだった。逆にダリル・ケイシーと恋人関係にあるという2年生のギリシャ代表候補生であるフォルテ・サファイアからの評価は高いというのが不思議なものだ。

 なお上の学年からは織斑一夏よりもずっと高い評価を貰っている事に彼は気付いていない。

 

「だから、早く戻って来なさい仁くん。待ってる人は意外と多いのよ?」

 

 本当に、早く起きないかなぁ。

 

 

 

 

 

 ――― SIDE 簪 ―――

 

 1週間目放課後。今日も彼は目を覚まさない。

 1週間前のクラス代表対抗戦、突然現れた無人機にアリーナ中央が襲撃された。それだけならまだよかった。むしろ織斑一夏に対してはいい気味だとすら思ってしまった。それが悪かったのかもしれない。きっと罰が当たったのだろう。

 次に襲来したもう1機の無人機は、間違いなく私だけを見ていた。真っ直ぐにこちらに向かって大剣を振りかざし、アリーナの遮断シールドを壊そうとした。

 そこに割って入ったのが、彼だった。本音が背負われて帰って来たあの夜に一度だけ、それでも沢山の事を話した人。

 右足装甲の隙間から大量に血を流しながら凄い速度で跳んで来た彼は、両腕両足だけにISを展開した状態でその大剣を弾き返し、同時に全身に展開しながらこちらを少しだけ見て、安堵の声を溢した。表情は変わらなかったけど、本当に私に怪我がなくて良かったと思っていると思える声音だった。

 まるで私が大好きなアニメや物語のヒーローのように現れ、あんな声を掛けられてしまったら、あんな酷い状況でも少しだけ安心してしまったのは仕方ないと思う。

 

 その安心に答えるように彼は、救援が来るまでその異形のISと1人で戦い続けた。クラス代表決定戦では見せなかった残り2機のBT兵器をあの時よりずっと自由自在に動かし、技術ではずっと上回り、翻弄しているように見えたけど実際は圧倒的なシールドエネルギー量の差があったのだという。

 

 一度だけ危ない場面はあったけど、その時についに姉さんが来た。その時の鬼気迫る表情と声音はきっと忘れない。それも彼を心配してのものではなく、私を、更識簪を守るために飛んできてくれた。

 そしてピッタリの連携で無人機を今度こそ翻弄し、最後の最後には彼はISが具現維持限界(リミット・ダウン)を迎えたにも関わらず、右腕だけに装甲を残し、握る剣に炎を纏い、無人機に止めを刺して見せた。

 少し前の私ならば、姉さんが助けに来たという事実ですら曲解して受け止めてしまっていたのかもしれないと思う。それもやはり彼のおかげなのだと思うと、今目の前のベッドに右腕右足がボロボロの姿で眠っている彼に更に申し訳なさが募ってしまう。

 

 彼の傷も、今眠っているのも私を庇い戦ってのものだ。確かに私ではどうしようもなく黙って連れていかれるしかなかった状況だったけど、それでも責任を感じるなというのは難しい。5日目以降彼の近くから聞こえてきた女性の声――彼のISのコア人格だという。正直最初凄く驚いた――には、彼が好きでやった事だから気にしないで欲しい。と言われたけど、やっぱり無理だ。

 

 未だに姉さんとはまともに話せていない。意図的にお見舞いに来る時間をズラしているからだ。確かに姉さんは私の事を想ってくれていた。それはちゃんとわかった。けどそれですぐにもう一度昔のように話ができるかと言ったら、まだ無理だ。彼も言ったように、やっぱり苦手意識というものは中々割り切れない。

 

 姉さんの事も、彼の事も、気になる事が多すぎて最近全然【打鉄弐式】の製作も進まない。本音もどこかそわそわしてるし、負い目もあるし、4組も彼の話が多いし、製作に集中力が全く乗らない。

 彼が早く起きてくれれば少しはマシになるのだろうか。きっとなるだろう。

 

「欄間くん……早く起きて……」

 

 そして、もう一度話してほしい。面と向かってありがとうとお礼を言いたい。今度は姉さんの事だけでなく彼自身の事も聞きたい。実は姉さんと彼の関係も少し気になるし……。

 

「まだかなぁ……」

 

 

 

 

 

 ――― SIDE 束 ―――

 

 更識の妹ちゃんは帰ったね。時間も夜になる。保健室の先生は不在が多いのもわかってるし今ならいけるね。 

 というわけで来ました仁くんの病室。勿論くーちゃんも一緒にね。

 無人機……ゴーレムとの戦闘も勿論見た。いっくんと【白式】のデータは随分と取れたからそっちはまぁいい。問題はやっぱり仁くんだろうね。医療用ナノマシンが殆ど効かないのも見てたから知ってる。束さんもお手製のナノマシンを用意はしてきたけどどうだろうね?

 

「さてさてどうかなー?」

 

 当然即座に効果のあるようなものでは無いけど、もしこのナノマシンが上手く作用したならこれから数日間で一気に彼の傷の状況は良くなるだろう。この束さんが1週間かけて開発した専用のナノマシンなんだからちゃんと聞いてくれないと困るんだけどね。

 

「どう思う? レーヴァちゃん」

 

『どうでしょう。彼の心意という力は私でも全てわかっているわけではありません。ただ想いの強さによって人間の限界を超える力である事と、生身での使用リスクが見ての通り非常に高い事、そして治りが普通の傷よりもずっと遅い事くらいです』

 

「いつだって強い力には代償が付き物ですか。それを躊躇いなく振るう事ができるのもまた1つの強さでしょうか」

 

「そうかも知れないね。でもそれは同時に弱さにもなる」

 

 誰かの為に力を振るう。それ自体はちーちゃんやいっくんだって同じ。だけどその根底には自分自身の為というものが少なからずあるのが普通な筈。でも彼にはきっとそれがないんだと思う。ただただ"誰かの為に"が独り歩きしているようにも見える。

 

『……昔の仁は、確かに自分の為に戦っていたんです。自分の為に、自分にとって大事な誰かを助ける。それが彼だったんです』

 

 そう言うレーヴァちゃんは、ウィンドウで姿をこちらに見せていないのにも関わらずとても悲しそうに感じた。

 

『アレ以来彼は"転生者"である自分を顧みなくなった。むしろ自分のせいで世界が狂わない様に必死になった。狂ったとしてもそれが周りに被害を与えない様に、その世界の住民を陰から守り続けた。何故転生を続けるのかも曖昧なまま、ただ繰り返しているんです』

 

 彼が眠っているからこそ言える事なんだろう。彼には自分を自分で見つけて欲しいと願っている彼女は、これを彼が起きている時には決して話せない。

 

『アレ以前の記憶を自ら知らずのうちに封印し、誰かと笑い合っていた自分を捨て、誰かを陰から守る自分を選んだ。今の彼も確かに彼ですし魅力的ですが、私は以前のよく笑う彼の方が、好きです』

 

 以前の彼に戻って欲しいというのは、きっと彼女のエゴなのだろう。だけど一番傍で彼を見てきた彼女のそれを誰が咎められるんだろうね。変わっていく彼を見て一番辛かったのは、間違いなく彼女なんだから。

 

『この世界は、最後の希望です。仁の周りに良い人が沢山いてくれるのは本当に久し振りなんですよ。ここで駄目だったら、私はもう希望を持てない。私自身またこうして喋れるとは限りませんし』

 

 そんな彼女は本当に人間らしさを感じる。他のISコアは多少なりどこか機械という認識を捨てきれずに人間になれないでいる。その中でも一等強く輝くのはやっぱりレーヴァちゃんだと私は思う。

 少し、悔しいけどね。私の娘達よりもずっと優れた娘だと言える子を目の当たりにするのは、科学者として少し悔しい。けど同時にここまで行く事ができるかも知れないという希望は感じる。

 仁くんは相棒と一緒に宇宙を飛ぶのは悪くないと言った。全部の娘達がそんな相棒を見つけられるのなら私は嬉しいし、そうしてあげたいと思っている。それこそこの2人の関係なんて理想と言える。……ゴーレムⅠのコアにした娘にも後でちゃんとフォローを入れておかないとね。無人機を作ったあの頃の束さんは今と考え方も少し違ったっていうのは言い訳にならないけど……。

 

「うん、頑張ってね。レーヴァちゃん。後ゴメンね。仁くんにもよろしくね。束さんも仁くんにできる事はなるべくやっていくつもりだから」

 

「またいずれ。今度は彼が起きているといいのですが……」

 

『はい。きっとすぐに起きますよ。中々しぶとい人ですから』

 

 その言葉に苦笑を返し、病室を後にする。ナノマシン効くといいなぁ。




 主人公寝たきり回。たまにはこういう別のキャラだけの視点回があってもいいかなと。
 セシリア視点なども書きたかった気持ちはありますが、それを言ったら何人分書けばいいんだという話にもなってしまうので、今回は更識姉妹と兎さんだけです。まぁ機会があったらという事で。
しかし白いなぁこの束さん……。
 では次回もよろしくお願いします。
 感想等お待ちしております。
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