救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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歩行訓練と空への興味

 第2グラウンド。1組と2組の生徒が集まりそれぞれ整列をしている。どうやら列自体の並び順は自由の様だ。少々遠いところから出席簿で頭を叩かれる音と凰の悲鳴が聞こえた気がするがまぁ気にしなくてもいいだろう。

 

「では本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

 人数としては単純に普段の2倍。織斑担任の言葉に帰っていく返事も当然2倍。人数の問題もあり中々気合が入っているようにも聞こえる。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの10代女子もいる事だしな。――凰! オルコット!」

 

 オルコットは恐らく巻き添えではあろうが、本人はあまり気にせずに返事を返したようだ。

 

「専用機持ちはすぐに始められる。デモンストレーションには持って来いだろう」

 

 実際その通りだろう。どうしても訓練機では起動までに時間がかかるしそもそもISの戦闘では起動時間が命。一般生徒では少々荷が重い。

 織斑担任の耳打ちで妙に凰に気合が入ったが、大方織斑にいいところを見せられるなどと言ったのだろう。

 

「それで、相手はどちらに?」

 

「慌てるな。対戦相手は――」

 

 キィィィン……という音が近付いて来る。空気を裂く音がとんでもない速度で向かって来ている。端的に言えば危険である。

 

「ああああーっ! ど、どいてください~っ!」

 

『どうしてあの人は緊張するとこうポンコツ感が……』

 

 やれやれと向こうの景色の方でレーヴァが頭を振ったと同時に視点が高くなりISが展開されたのを確認しながら跳躍。

 

「まぁ実力はこれから見れるだろう……っと」

 

 ドンッ! という音と衝撃と共に空中で飛来()の両肩を両腕で受け止め、衝撃を流しながら地面に着地する。

 

「……山田先生。取り合えず深呼吸からしましょうか」

 

「ら、欄間くん……? ああっごめんなさい怪我はありませんか!?」

 

「ありません。危険なんでもう少し緊張は解してください」

 

「は、はい……すーはー……」

 

 その間に彼女の肩から腕を外しISを待機状態にしながら元の位置に戻る。

 

「やれやれだな……」

 

「ナイスキャッチ~」

 

 さて、山田副担任が身に纏っているのは【ラファール・リヴァイヴ】。教師用の機体として少々手は加えられているが基本的には本来のそれと変わらない。

 

「山田先生はああ見えて元日本代表候補生だ。相手に不足はなかろう?」

 

「む、昔の事ですよ。それに候補生止まりでしたし……」

 

 候補生止まり、と言ってもあまりに相手が悪すぎただけである。なにせその時期の日本代表は今その発言をした織斑千冬本人だ。化物と人間ではスペックに差がありすぎる。

 

「成程山田先生ですか……確かに相手に不足はありませんわね」

 

「え? あの、2対1で……?」

 

「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける」

 

 負ける。とは言うがそもそも慣れていない相手とペアを組む事自体が本来ハンデだ。オルコットは少々不満そうな顔をするが、凰はむしろやる気になったらしい。

 

「では、はじめ!」

 

 山田副担任の眼が鋭く冷静になる。アレが操縦者としての彼女なのだろう。

 先制攻撃はオルコットの射撃。簡単に回避され続く凰の【双天牙月】による特攻もひらりひらりと躱されている。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をして見せろ」

 

「あっ、はい」

 

 まぁお誂え向きだろう。何せラファールはフランスのデュノア社の開発品だ。

 

「山田先生の使用されているISはデュノア社製【ラファール・リヴァイヴ】です。第二世代開発最後機の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装(イコライザ)が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、7か国でライセンス生産、12か国で正式採用されています。特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切替(マルチロール・チェンジ)を両立しています。装備によって格闘・射撃・防御と言った全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティ―が多い事でも知られています」

 

「ああ、一旦そこまででいい」

 

 要は汎用性が高く操縦しやすいため便利であるという点に収束する。IS学園でもラファールは生徒が借りる事のできる訓練機として用意されており、防御力の【打鉄】、汎用性の【ラファール・リヴァイヴ】として生徒間の好みは分かれている。

 

 さて、戦闘の方はと言えば凰が落ちたようだ。中々決定打を与えられてはいないようでオルコットは非常にやりづらそうにしている。

 実際山田副担任が現役時代に使っていたのは【ラファール・リヴァイヴ・スペシャル】こと【幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)】と呼ばれる機体で巨大なシールドが4枚ウィング状に繋がっているのが特徴のラファール系列の機体だ。本来に近い機体に乗っている彼女は相当に強いのは見ればわかる。

 何より彼女はそのシールドを用いた防御偏重の射撃型。レーザービット4機含む全ての射撃をシールドで弾き、もしくは回避し反撃の射撃を確実に当てる。少なくともオルコットにとっては超近接型と同レベルでやりづらい相手だろう。

 

 尤も一番の差があるのは経験値の面だろう。オルコットの回避先は悉く読まれている。射撃の癖もどうやら完全に読まれている様だ。

 回避先を射撃で誘導。そして射撃に意識が向ききったところでグレネードやブレードによる強襲。アレは中々対処できるものではない。などと言っているうちにオルコットも撃墜。相手の実力を鑑みれば健闘したと言えるだろう。

 

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」

 

 実力は理解できただろう。と言っても山田副担任はまだ全く持って本気ではない。【銃央矛塵(キリング・シールド)】と呼ばれた彼女の本来の戦法は例の4枚の巨大シールドの有線接続操作によって相手を閉じ込めた上での内部への乱射、それによって起こる跳弾で相手を全方位から撃ちまくるという【絶対制空領域(シャッタード・スカイ)】と呼ばれる正直どうしようもない戦法だ。相手が織斑千冬でなければまず速攻でシールドエネルギーが消し飛ぶだろう。俺とてそんなことされればまず無理だ。

 尤もノーマルのラファールではそれができないため本気も何もあったものではないのだが。

 

「専用機持ちは織斑、オルコット、欄間、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では7人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」

 

 まぁそんな事だろうと思った。織斑担任が言い終わるや否や織斑とデュノアの元に2クラス分の生徒が一気に詰めかけて来ているのを他人事の様に眺める。実際俺のところに集まる生徒は極少数なので本当に他人事なのだが。

 これでは7人グループどころか数10人グループ2つ+αの残り4つのグループになってしまう。と織斑担任が額を指で押さえながら声を張り上げる。

 

「この馬鹿者共が……。出席番号順に1人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド100週させるからな!」

 

 それは死ぬのではなかろうかというかそもそもそんな事できる人間など世界広しと言えどアンタと兎だけだろうに。

 

「やー偶然偶然~」

 

「本当に偶然なんだろうな……」

 

 集まったのは偶然にも俺の見舞いに来た事のある面々が多い。元々顔と名前を結び付けて全生徒の事は覚えているが、そういった者は顔を見る機会が多かったため当然だが特に記憶に強い。

 

「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を1班1体通りに来てください。数は【打鉄】が3機、【リヴァイヴ】が4機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」

 

 どうやら山田副担任は自身を取り戻したらしく随分としっかりしている。普段からこうならば彼女もそれらしい感じになるのだが。

 

「確か本音はラファールがお好みだったか。打鉄の方がいい奴はいるか?」

 

 特に異議なし。という事でいいだろうか。

 問題なさそうなのでラファールを借りて来る事にする。まぁさっさと動いた方が当然ながら訓練時間も伸びる。運搬は展開許可の下りているそれぞれのISの筋力ブーストを借りる。

 

『これだけ煽情的な格好の女生徒達を見て何とも思わないのってどうなんです?』

 

「何とも思わんように意識しているだけだ……こちとら精神年齢が肉体年齢に引っ張られるせいで厄介でしょうがない」

 

 レーヴァの言う通り全員ISスーツ。つまり旧スクール水着のような身体のラインがくっきりとわかってしまうような恰好なわけだ。しかも旧スクール水着の負荷がかかりやすい部位を切り取り負荷を分散させたという事で、両足付け根の付近、腰の少し内側の股関節部位に穴が開いている。

 俺の物もそうだが首元にはインテリジェンスタグに組み込まれたバイタルモニターがある事と、脚部保護ウェアに固定用の電圧スイッチ付きのタグが付いているのは旧スクール水着と異なる点だが、現状それはレーヴァの言にはまるで関係のない事である。

 

 何が言いたいかというと非常に眼に悪い。右眼がぼやけている事に感謝することになろうとはだれが予想できたか。むしろ肉体年齢ではなく精神年齢に精神が比例してくれていれば何とも思わなかったものを。

 

「さて……と」

 

 周りはと見れば織斑のところは織斑に言い寄っている女性ばかり、デュノアのところはデュノア以外出席簿で全滅。オルコットはスムーズに始まっている様だ。凰は相変わらずの感覚派故上手い事伝わっていないように見える。問題はボーデヴィッヒのところだ。全く持って訓練が始まっているように見えない。ついでに口数なんて1つとしてない。予想はしてたが。

 

「まぁさっさと始めるとしようか。取り合えず基礎として装着、起動、歩行までだ。飛行は時間が余ったらやる事にしよう。飛びたい奴がいるなら頑張って時間を残すといい。最初は……まぁ本音に見本やってもらうか」

 

 本音は整備科だが当然ながらISの操作もできる。尤も操縦をするのは稀ではあるが。

 

「よいしょっと~」

 

 しゃがんだ態勢で停止しているISに乗り込み、身を預けるように装着する。フィッティングとパーソナライズの機能は停止しているため勝手に一次移行(ファーストシフト)が行われてしまうという心配も必要ない。

 装着後は起動。こちらはまぁ意識の問題だ。ISを動かすというイメージをISが読み取り起動する。ISを操縦するのに最も必要なのは例外なくイメージ力だ。

本音は歩行まで問題なし。本人曰く久し振りの実操縦と言うがそうそう鈍るものでもないようだ。

 

「ああ、しゃがんでから降りろよ。さもなくばああなるぞ」

 

 織斑が女生徒をISの筋力で抱えて訓練機のコックピットに運んでいるの指差す。

 

「ランランになら別にいいんだけどな~?」

 

「お前な……」

 

 本音には言う必要などないかもしれないが、他の者もいるし念入りだ。

 

「さて、次は……」

 

 割とスムーズに進んでいく。やはり全世界から集まるエリートなだけはあり中々起動までは滞りが無い。中にはイメージが苦手なのか歩行まで行くと少々もたつく者はいるが最終的には問題なく歩行を行う事ができている。

 

「最後は夜竹さゆかか。時間は……」

 

『授業時間残り10分程度です。充分悪くない進行でしたね』

 

「ここで時間が変にかかる事が無ければ飛行もやりたい者はできそうだな」

 

 夜竹さゆか。小柄な身長に見合った控えめな体系、そして腰ほどまで伸びている艶のある黒髪が特徴的と言えるだろうか。何度か見舞いにも現れていた中の1人でありどちらかと言うと大人しいタイプ。クラスでは誰かとグループしている事もあれば1人で読書している事もある。どちらかと言うと後者が多い印象だ。

 本人は「特徴が無いのが特徴です」と言っていたが、それを言ってのける辺りが既に彼女の特徴と言ってもいいのではなかろうか。

 

「よろしくお願いします」

 

「そうかしこまるもんでもないだろう。どうせ俺がやるのは少しの口出しだけだし」

 

「一応?」

 

「何故疑問形なんだ」

 

 しゃがんだ状態のラファールに近付き乗り込もうとする夜竹だが……。

 

「……どうした?」

 

「なんか高いような……」

 

「む……?」

 

 確かに前の者はラファールをしゃがませた状態で降りたはずだが……。

 

「……ああ、成程」

 

「?」

 

 要は彼女が小柄である関係上、前の生徒の背丈が高かったせいでしゃがんでも彼女にとっては微妙に位置が高くなってしまったという事だろう。本人的には不名誉だろうし声には出さんが。

 

「……まぁ仕方ない。俺が一旦乗って位置を調整するか」

 

「抱えて乗せないの?」

 

「俺に抱えられるメリットがあるか?」

 

「……強いて言うなら時間短縮かなって」

 

「……まぁ確かにいくらか手早くはなるが」

 

 順番を考えなかった俺の責任でもある。アレだけ時間をなるべく残そうと言っていた手前変に時間がかかる方法を取るのも、なんというかこう、気分的に微妙だ。

 

「……減るもんでもあるまい」

 

『こういう時断れないのって男性的にどうなんですか?』

 

 やかましい。

 

「……いいんだな?」

 

 頷くのを確認してからフル展開したままのレーヴァテインで横抱きの形で抱え上げる。言い方を変えればお姫様抱っこというやつだ。何かの意図があるわけでは無く一番抱え上げやすいのがこの形なだけだ。勿論抱え方は他にもいくらか存在するがまさか臀部に触れるわけにもいくまい。それなら触れる部位が比較的まともで健全なこれがベストだ。

 ……レーヴァ、間違っても炎は吹かすなよ。

 

「……生身でも軽く持ち上がりそうだなアンタ」

 

 モニタの1つに現在使用中の筋力が数字となって表示されているのだが、"どれくらいの重さのものを持ち上げているか"を数字として出しているのだ。つまり~kgといったようにだ。要は現在ISスーツしか身に纏っていないため夜竹の体重がほぼダイレクトにわかってしまうわけだ。ISと言うのは変なところで便利というかプライバシーと言う言葉が存在しないというか。

 そして彼女は本音に比べて少しだけ軽い。本音を生身で背負っても軽々持ち上げられるのなら彼女も余裕で抱えられそうだ。本来見るべきもの(ステータス)ではないが見えてしまったものは仕方ない。

 

「女子のおだて方がわかってるね」

 

「こんなとこにいれば嫌でも女の基本性質なんて理解する……とはいえ別におだてたわけじゃないが」

 

 思った事を言っただけであり別におだてるつもりはなかったわけだが、夜竹本人は微笑んでいて気分悪そうでもないため彼女の言は軽口程度のものなのだろう。

彼女とて美人と言っても過言ではない容姿をしているためその微笑みは本来相当の破壊力を誇るはずだが、確かに美人だとは思うが頬を赤らめる等のそういった"年頃の男"の反応は俺は一切起こらないようだ。慣れてしまっているのもあるが、元々恋色沙汰には興味が無いのが原因だろうか。だというのに枯れているわけでは無いのが非常に矛盾かつ邪魔であるが。

 

「気を付けて乗り込めよ。この態勢からは少し危ないからな」

 

「うん」

 

 こちらも充分に注意をして夜竹をコックピットに降ろす。

 それ以降は問題なく進んだ。夜竹は今回の班の中でも筋が悪くないようで歩行までがスムーズだった。本音が最も手馴れているのは当然ではあるが次点では夜竹であっただろう。やはりイメージ力は読書等そういった事を普段している者の方が付きやすいのだろうか。

 

 さて、時間もまだ余っているためあとは飛びたい者がいればそちらを手伝うだけだ。飛びたい者がいるかどうか呼びかけてみれば意外にも皆空に興味があるらしく班の大半が挙手する。夜竹もその中の1人だ。残り8分程度だがまぁ充分時間はあるだろう。

 本来の使い方に興味があるのはいい事だ。俺としても相棒と同じ種類のものを兵器として扱われるのを見るよりはずっと気分がいい。こういう者が増えてくれればいくらか気分も楽になるのだが。と思いながら残りの時間は皆に空を満喫してもらった。




夜竹さゆかさんは原作の方の容姿です。というかアニメ版未視聴なので必然的に原作に寄ります。セリフがあまりにも少ないので性格面は想像に過ぎませんが。
たまには所謂モブ勢にもスポットライトが当たってもいいと思うんですよ。折角容姿設定はされている事ですし、それも秀逸なものが。ということで夜竹さんの出番と相成りました。
夜竹さんの容姿の事考えると、仁は記憶があったら某時間遡行者の子の事思い出してそうですよね。この仁は彼女とはそこまで深い関係にはなっていない、もしくは彼女が転生には付いて来る事ができなかった。という設定の仁ですけどね。容姿が似ている夜竹さんスポットを与えたのは別にそれを意図した訳ではありませんが。
純粋に原作容姿・名前あり勢では夜竹さんが好みだった。と言うだけの話ですね。

さて今回はこの辺で。次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。
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