救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 お待たせしました。疲労がたまる事が多くせいで最近は帰宅即寝が多くて中々書けてないのが何とも。


久しい生徒会の時間

 昼休み。織斑に昼食に誘われたがひとまず断った。そして現在いつも通りの生徒会室だ。

 

「……昼飯も随分と賑やかになったもんだな」

 

 というのも現在生徒会室には役員全員が集まっている。

 

「大勢の方が美味しいでしょう?」

 

「知らん。少なくともそれで味が変わるわけじゃないだろう」

 

「まぁそう言わず。こうして全員揃って昼食なんて珍しいんですから」

 

「気分の問題」

 

「そうだよ~。多ければ多いだけ楽しいし~」

 

『私も仁だけ見てるより新鮮です』

 

 まぁ味が悪くなる事は無ければ頭痛に悩む事もない。それならば断わる理由もないし生徒会室以外でゆっくりできる場所も中々ない。彼女らはそれも加味してくれているのか騒ぎ散らすという事もないため俺として問題は特にないのだ。ちなみに扇子の文字は『全方位に花』。確かに本来女性にまともに興味がある男ならば両手に花どころの話ではない現状だがそれを自分で提示するのはどうなのか。

 

「整備の勉強の方はどうですか?」

 

「それなりです。入門程度ならほぼ暗記してはいますが実践できるかと言うとまだ難しいかと」

 

「整備の実践の腕については、稼働時間と同じで触れている時間に直結しますからね。その点で言えば私達はレーヴァさんの整備が優先で担当できるというのは大きいんですよ」

 

「そうそう。訓練機よりも経験が積みやすいからね~。特にレイちゃんは普通の機体と少し違うし~」

 

『私は特殊ですからね。そもそもが……おっと、これは別にいいですね』

 

「しばらくは訓練機で慣らすのがいい……。弐式を見てくれてもいいけど」

 

 成程。確かに機体をパーツ単位で理解するのなら実戦経験を積むのがベストなのは道理だ。レーヴァの整備の際にも見ているだけだったためそちらはあまり詳しくないが、たまには自分で見てみるのも悪くないかもしれない。

 本人の許可が出たのだし【打鉄弐式】の開発に携わってみるのもいいかもしれない、と言うか彼女が難航している弐式の開発は積極的に進めるべきでもある。なにせ彼女は日本代表候補生であり生徒会にとっても新しい専用機の開発は戦力の強化にも繋がる。

 

「そうだ、それなんだけどね簪ちゃん」

 

 箸を持った右手ではなく、空いている左手に『提案』と書かれた扇子が広げられる。

 

「?」

 

「私と仁くんの訓練を見に来ない? どちらもマルチロックオンも荷電粒子砲もないけどISの実戦データを取るのは悪くないと思うの」

 

 簪が開発中の機体には【山嵐】という第三世代技術を用いたマルチロックオン・システムによる6発×8門、計48発の独立稼動型誘導ミサイルを最大武装として、2門連射型荷電粒子砲【春雷(しゅんらい)】。対複合装甲用の超振動薙刀【夢現(ゆめうつつ)】の3つの武装を積む事を現在考えられている。

 【夢現】は既にほぼ完成段階。しかし残りの2つが中々組めずに難航しているのだ。そこで楯無が提案したのは俺らの訓練、つまりIS戦闘を見学して実戦データを取る事で彼女がアイデアを出すための糧にしようという事だ。

 

「成程悪くない。データ収集抜きにしてもIS戦闘を見て目を慣らしておくのは後々いつか戦う時に繋がる。俺は別に構わんぞ」

 

「んー……うん、見る。お姉ちゃんの戦い方はあまり見れてないし」

 

 そういえば、以前は『姉さん』と楯無を呼んでいた簪だが、今は『お姉ちゃん』と呼んでいる。元々はこちらの呼び方だったのだろう。

 

「そうと決まれば早速今日から再開しましょうか。鈍ってる身体に鞭打ってあげる」

 

「レーヴァの補助もフルでいいんだな?」

 

「勿論。それでも今までIS戦闘で一度も勝ててないのをお忘れ?」

 

 くすくすと笑う口元を隠すのは『最強健在』の扇子。

 

「まさか。だが確かに当てる機会は増えて来ているぞ。そろそろ最強の座も危ういんじゃないか?」

 

「まだまだ負けるわけにはいかないなぁ。でも、どうせ勝ったとしても生徒会長に就く気はないんでしょう?」

 

「IS学園で男が生徒会長なんて笑えない。それにアンタにはまだ最強の壁でいてもらわなければならん。だがそれとは別にその壁を超えるつもりでやる」

 

「私だって最初のあの頃より強くなっているんだから壁は高くなっていくのよ?」

 

 俺との訓練で彼女の機体も、彼女自身も経験値を積んできている。【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】が二次移行(セカンドシフト)を遂げるのもそう遠くないかもしれないし、間違いなく本来の彼女よりも強くなっているだろう。尤も俺は本来の彼女を知らんが。

 

「……仁って意外と熱い?」

 

「冷めてるように見えるけどね~。結構熱血なのだよ~」

 

『今の性格はどちらかと言うと後付ですからね彼。元々あんな感じです』

 

「へぇ……」

 

 簪の興味深そうな視線を受けながら昼の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「さて……」

 

 第8アリーナピット内更衣室。ISスーツの上に胴着を着込むという、生身組手からIS戦闘に移行する際の面倒を省いた服装に着替える。お互い変に露出することが無いのもこれのいいところと言えるだろうか。

 

「右眼は相変わらずか……今楯無の動きについていけるかどうか確かめるのにはいい機会だが」

 

『それで怪我したら馬鹿馬鹿しいですよ。とはいえすぐに見抜かれると思いますけど』

 

「生徒会の面々は観察眼に優れているからな。まぁもとより長く隠し通せるとも思っていなかった」

 

 ゴキゴキと身体を慣らしながらピットを出ると既に楯無が待っていた。

 

「久し振りねぇ。こうやって身体動かす機会がないと張り合い無かったからなぁ」

 

「俺を訓練用の案山子かなんかとでも思ってんのかアンタは……んじゃ、いくぞ」

 

「いつでもいらっしゃいな」

 

 姿勢は低く、初速に重視を置き、砂の床を蹴る――!

 

 

 

 

 

―― SIDE 簪 ――

 

 管理室から2人の格闘を見下ろす。姉は更識の当主と言う立場から当然色々な武術をマスターしているため腕が立つのは知っていた。

 むしろ驚いたと言えば仁の方。拳も蹴りも鋭く速くそしてパワーのある一撃。とても素人とは思えない速度で攻撃を仕掛け、対する姉はそれを躱し、逸らし僅かにできる隙間に、威力よりも鋭さと速度に特化した反撃の掌底を繰り出す。それを間に差し込んだ腕で防ぎながら蹴りを連続で放ち、今度はその蹴りを掴んで受け流すように投げる。着地によってできた一瞬の隙を消すように片足で着地と同時に裏回し蹴り。わかっていたというように両手で受け流して一度距離を取る2人。

 

「凄い……いつもこんな事を……?」

 

「週に2回だけだけどね~。でも……」

 

「少し仁さんの動きが悪いですね。しばらく身体を動かしていなかったためと言われればそれまでですが……」

 

 アレで動きが悪いと言われるともう一度驚かざるを得ない。

 

「ベストな動きに見えますが、お互いがお互いの動きを熟知しているが故の誤魔化しです」

 

「もう少し見ればわかるかな~」

 

 この姉妹の観察眼について知らなかったわけでは無いけど、よりそれが鍛えられているように思える。この組手に毎回立ち会っているから2人の動体視力も上がっているのだろうか。

 眼を戻すと今度は姉から仕掛ける。フェイントを織り交ぜた連続の掌底を両腕を使っての防御に専念し、隙ができたと見るや最速のショートブローによる反撃を挟み込む。それを舞うように避けたかと思えば今度は足技も織り交ぜる。

 

「……成程」

 

「そっか~。普段隠してるもんねぇ~」

 

 2人は先程の疑問について突き止めたらしい。そうなると隣にいる私だけわかっていないのは少し悔しい。

 

「よぉーく見ればわかりやすいよ~」

 

 眼鏡型ディスプレイも一度外し、眼を凝らして組手を見る。本音が私に向かって「よく見ればわかる」というのなら、"いつも"を見た事が無い私でもわかる事なのだろう。

 

 姉から見て右からのハイキックを仁は左腕で受け流しながら右の裏拳を繰り出し、それを首を捻る事で躱しながら間髪入れずに右肘打ち。仁は右掌で受け止めて外側に弾きそのまま五指揃えた首狙いの突き、これを身体を深く沈めて避けて姉から見て左に回り込んでの左掌底。右肩で受け止めて左のストレート。

 

「ん……?」

 

 ほんの僅かに何かが引っ掛かったような気がしたけど答えに辿り着かない。

 

 更に姉は左側に身体を沈めてから仁の右頬を狙った裏回し蹴り。これを両腕を揃えてのブロックで後ろに飛ばされる。

 

「……防御が多くなってきた?」

 

 なおも続く執拗な仁の右側からの攻撃。それを両腕を使った防御で凌ぐ仁。右眼は髪で隠れていても見えていると言っていたから見た目よりは死角になっていないらしい。しかし今彼は右からの攻撃だけ避けではなく確実に防ぎ、左からの攻撃は殆ど避けている。

 

「もしかして……」

 

 姉が構えを解き、ここからでは聞こえないけどいくつか口を動かしながら真剣な顔のまま仁に近付き、右眼を隠す一束の髪を持ち上げる。

 

「やはり、右眼の不調ですか」

 

「だよね~。右からの攻撃への反応が悪かったし~」

 

 どうやら私の予想は正解だったようだ。

 

 

 

 

 

―― SIDE 仁 ――

 

「……やっぱりバレたか」

 

「バレバレよ。どう見ても右からの攻撃への反応が悪いもの」

 

「あの様子を見るにあっちも気付いたな。やれやれ……」

 

「やれやれじゃないわよ。右眼が不調なまま真剣で切り合うのは危険ね。そっちは中止よ」

 

 肩を竦めて返す。3人も管理室から降りてきたようだ。

 

「いつから?」

 

「無人機事件直後からだな。理由は不明」

 

 恐らく右眼の能力に関係はあるだろうが不確定な事を言っても仕方ない。

 

「なんで隠してたの」

 

「必要に応じて言うつもりだった。ISを展開していれば問題ないしな」

 

 溜息と共にやれやれという仕草をされてしまった。

 

「……まぁ視力の問題は後でしましょう」

 

 そう言って胴着を脱ぎ始める。こちらも胴着だけ脱ぎ本音に放り渡す。

 

『やれやれと言いたいのはこっちですよ全く……』

 

 小言を言いながらもレーヴァが身体を包み込んでいく。久し振りではあるが流石にこちらは問題ないだろう。

 

「ところで昼から思ってたんだが……」

 

「なあに?」

 

 3人が管理室に戻るのを見てから切り出す。

 

「今回の提案、データ取りとかそう言いうのは建前で、アンタ妹にいいとこ見せたいだけだろう」

 

「ナ、ナンノコトカシラ?」

 

 誤魔化せていないぞ。というのは心の中で言うに留め、俺を妹への実力誇示に使うというのならば少々痛い眼を見てもらわなければこちらとしても気分が済まない。何発か放り込んでやらねばならんだろう。

 

「……悪い事とは言わんが人を出汁に使うのはどうなんだ」

 

「出汁とは人聞きの悪い!」

 

「事実だろうが……」

 

 ふう。と息を吐き集中力を高める。両手に炎の剣を握り、4つのビットを呼び出し、使うかどうかはともかく一応右足の太腿部分にホルスターと共に拳銃を呼び出す。

 

「……また私達にそういう事を隠してた罰としてキツーくいくわよ?」

 

「どっちにしてもそのつもりだろう。行くぞ」

 

 楯無の【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】の水のヴェールを真似る様に装甲表面と両の剣に炎を纏い、一定量の炎をそのまま維持する事でエネルギーの消費を止める。

 このように炎を放出し続けずに留めればエネルギーの消費を抑える事ができることがわかった。無人機戦ではほんの少しのエネルギー消費すら難しい場面であったためそれすらも使わなかったが、今回のような場面なら問題はない。

 そして全身に炎を纏い続ける事で、超接近戦においてその状態を維持するだけで相手にジリジリとダメージが入るのがこの戦法だ。水のヴェール相手にどこまで通用するかわからないが流石に全くの効果が無いという事はないだろう。

 

 先手はいつも通りこちら。両手首に呼び出した5本ずつの剣を1本ずつワンテンポズラすように投擲。それに対して楯無は避ける動作もしない。水のヴェールで受け止めてこちらの様子を見ている。やはりあの水のヴェールは遠隔攻撃に対しては相当の強度を誇る。代わりに近接攻撃ならばある程度通りやすいため持ち込むのなら超接近戦だろう。

 

「相変わらず厄介な水だ……!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)程ではないが一気に加速し剣を振るう。二刀とビットの炎の刃による連続攻撃を巧みな槍捌きで防がれるが二刀を操り、BT兵器まで加わる以上は僅かにこちらの手数の方が上だ。少しずつ槍による対処が間に合わなくなっていく。

 

「やっぱり足りないわね……」

 

 そしてこういう時の楯無は一度距離を取る。取った上で今度は【蒼流旋】の4連ガトリングによる射撃に切り替え、こっちが距離を詰めれば重心を後ろに飛びながら槍本体による打ち合いに持ち込み、一定の距離と攻撃リズムを保つ戦法【砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)】。更にそれに加え隙あらば【清き熱情(クリア・パッション)】を放り込むというレイディの特徴を活かした戦い方だが、これがこの上なくやりにくい。

 勿論ビットによる追撃を続けてはいるのだが楯無には中々決定打にならない。やはり超近接で手数で攻めるのが一番の戦い方だがそれを許さない。それならば戦い方をこちらも変える必要がある。

 

 ビットの操作をレーヴァに指示。【砂漠の逃げ水】の移動先を予測してそちらにビットを2機配置し、残りの2機を今まで通りの攻撃を続けさせる。手数は減るが肝なのは相手の移動先を潰す事で今一定に保っているリズムを崩す事だ。

 移動先に配置したビット2機から炎を放出させ炎の壁を即席で作り出し、そこに追い込む様に切り込む。広い範囲を炎でカバーする事で動きを制限する。

 

「考えたわね……ッ」

 

 そうなれば楯無はルートを変える必要が出て来るが、そのルートを脳内演算で導き出すまでの一瞬のラグをこちらは突く。先程よりは密度は薄いが二刀と2機のビットによる連続攻撃、炎のカーテンで後ろに下がる事はできず、楯無は逃げるルートを導き出すまでは俺と切りあう必要がある。そしてこの手数と切り合いながらでは必然的に演算は遅れる。その間に決定打を打ち込めさえすれば……。

 

 足技も織り交ぜて手数を強引に増やす。楯無の動きは目に見えて鈍くなっている。

 両切り下ろし、裏蹴り、右水平切り払い、左逆手切り上げ、左突き、右ハイキック、勢いを殺さず回転しながら右突き、右逆袈裟切り……。少しずつ詰めていく。

 

 一瞬バランスが崩れた。狙うなら……

 

「『ここ!』」

 

 レーヴァと声が被り、ビットが2機同時に左右から迫ってくるのを視界の端で見ながらこちらは正面から二刀を一瞬ズラしての2連撃。そして同時に剣とビットから炎を一気に吹かす。剣は幅長さ共に肥大化し、ビットはさながら炎の砲弾と化す。

 

「くっ……」

 

 全く同じタイミングで、一つでも当たれば致命打となり得る攻撃が4つ。さらに後ろには依然炎のカーテンが控え上下にスラスターを吹かす程の時間もない。さてどうする?

 楯無が選んだのは、後方瞬時加速(バック・イグニッション)。自分の後ろ側に瞬時加速で跳び一気に距離を取る選択肢。しかしそうなれば炎のカーテンに突っ込むことになりそれなりのダメージは免れないが、確かに他の直撃を受けるよりはマシだろう。

 さらには後ろに下がった事により時間が生まれる。つまり――

 

 ボンッ! という音と共に背中に衝撃が叩き付けられる。離れながら【清き熱情】を即座に発動させたのだろう。そして一度これを貰ってしまうと立て続けに貰うため体勢を立て直すのは難しい。

 吹き飛んだ先に次の爆発源となる水が用意されているため何とか空中で制止しなければならないがこれが難しい。

 

『残りシールドエネルギー62%です』

 

 今ので食らったのはせいぜい10%ってところだろう。つまり残りはビットの炎の刃や炎のカーテン、吹かした炎で減ったというわけだが、やはり燃費が悪い。しかしこの残量ならば体勢を立て直すのには充分だ。

 飛ばされている方向に全身から炎を吹かす事で無理矢理推進力を消して止まる。少し眼前では爆発が起こるがそれを無視してもう一度楯無に肉薄する。

 炎のカーテンはもう通用しないだろう。それなら今度は別のアプローチを用意するだけの事――!




 ハイお久し振りです皆さん。こうして書けていない間にもお気に入り数が増えていくのは嬉しい限りですね。自分がハーメルンに誘った友人がランキング常駐しかけているのは色々混ざった複雑な気分ですが。

 それはさておき、これからの展開としても中々まとまっていません。見切り発車なのはいつも通りですが少しいつもよりまとまりが悪いです。筆も少々遅くなってきましたし気長にお待ちいただければ幸いです。

 では次回もよろしくお願いします。
 感想等お待ちしております。
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