救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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子として、生徒として

 眼鏡を掛けたままで1日の授業と生徒会の仕事や雑用をこなしてみたが、中々どうして悪くない。

 リアルタイムで視力の補正を行ってくれるためか眼精疲労も特に裸眼の時と変わりなく、自分で外そうと思う時以外は勝手に外れるなんてこともなく、それどころかズレすらもしない。成程稀代の大天才が3日かけただけはあるとても良い一品だ。

 

 強いて言うのならクラスの面々には酷く驚かれた事と、眼鏡を掛けるとなると右眼の前に垂れていた1束の髪が邪魔になる事くらいだろうか。拘りがあったわけでもないため切ってもいいのだが、ヘアピンでも用意しておくべきか。

 驚いていたクラスの面々……といっても直接話してきたのはオルコットと夜竹、それに織斑くらいなものではあるが、別に右眼の視力云々の事を言う必要もないため携帯ディスプレイの代わりだと言うと皆一様に納得していった。尤も、織斑には携帯ディスプレイの事について少々説明する事にはなったが。

 

 眼鏡を掛けた経験があまりにも少ない事で少々まだ慣れないが、この眼鏡ならばすぐに慣れるだろう。篠ノ之束には再三感謝しておこう。

 

 さて、それは別にいいとして。

 

「……なんで俺は1025号室に引っ張り込まれたのか、詳しく説明してもらおうか? 織斑。そしてデュノア」

 

 生徒会の仕事を終わらせ解散の音頭となり、部屋に戻ろうとしたら道中織斑に「大変なんだよとにかく来てくれ!」と言われ引っ張り込まれたのだ。腕を振り払うのもどうかと思いされるがままに部屋に入れられたわけだが、説明の一つくらいはあっても悪くないと思う。

 

「あ、ああ……。欄間、落ち着いて聞いてくれ」

 

 まぁ大体の要件はわかっている。そもそもデュノアの着ているスポーツジャージの胸の部分が大きく盛り上がっている。普段はコルセットか何かで押さえつけていたのだろう。

 

「シャルルが、女だったんだ」

 

「……知ってたが?」

 

「え?」

 

 2人揃って固まった。

 

「少々おざなり過ぎたな。男じゃないと気付く要素はいくつかあった。わざわざ言いはしないが」

 

「……い、いつからだ?」

 

「最初からだ。そもそも生徒会では警戒対象だったのだから注意深く観察するのは当然だ」

 

「警戒対象って……どういう事?」

 

「報道も噂もない男性操縦者なんてものはまず有り得ない。それならばこちらで思い当たるのは同じく男性操縦者である織斑と俺だ。近しい存在として入学し、そのデータを持ち帰るのが目的とするのならば男装していた理由になる。デュノア社……フランスの第三世代開発は丁度行き詰っているのだからな」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。警戒対象って……シャルルをどうするつもりだ!」

 

 織斑は随分と感情的になりやすいきらいがある。欠点とは言わないが美点でもない。

 

「それはデュノアの答えと俺達の判断次第だ。デュノアが俺達生徒会が守るべき生徒に結果として害を与える存在ならば排除する。そうでなければ生徒として生徒会が補助する。それだけの話だ」

 

「排除って……」

 

「文字通りの意味だ。凰の時も同様に調査したが、中国の思惑としての要素は少ないと判断したから警戒対象から外したに過ぎない。ボーデヴィッヒは未だ不明だがな」

 

「……生徒会生徒会ってお前自身はどうなんだよ」

 

「俺個人として言うのならば俺の周りの人間に害が無いのならどうでもいい。だが結果こちらまで被害が及ぶのなら話は別だ」

 

「お前の周り? じゃあ他はどうなってもいいのかよ」

 

「ああ。生憎俺は一定範囲以上を守れるなんて驕ってないんだよ」

 

 ガッと首元を掴まれる。ろくに鍛えてもいないコイツ程度なら簡単に振り払えるだろうが、別にいいだろう。

 

「……全てを守るなんてのは御伽噺の空想に過ぎない。そんなものに憧れているのなら今のうちに改めておけ。お前が本当に守るべきものを取り溢したくなければな」

 

「いい加減に……ッ」

 

「それで? 本題はまだか。話が逸れているぞ」

 

「くっ……」

 

 あの言葉で()()たという事はそういう事だろう。この男は織斑千冬に守られていた自分が、今度は誰かを、誰もを守る事ができるような存在になりたいと、そう思っているのだ。だが、それはことこの世界において成立しない。

 何故ならばこの世界における()というのはISだ。守るには力が必要であり、そしてその力を持って誰かを守る事は誰かを傷付ける事とイコールだ。特にISという圧倒的な力はそれが顕著に出る。

 故に万人を救うなどと言うのは理想の域を出ない。そしてそんな理想を抱くくらいならば俺は一部の俺の周り、守りたいと思った者だけを確実に守る現実を取る。

 

「……アイデアが欲しいんだ。シャルルを守るには、どうすればいいか」

 

 そう言ってから織斑とデュノアが切り出したのは、デュノア社の現状。やはり情報と変わらずイグニッション・プランから切り捨てられかけているため経営危機であり、デュノア社の社長。つまりデュノアの父親に命じられて【白式】並びに【レーヴァテイン】のデータを盗むべく俺達に近付きやすい男装をして入学した。という事だ。

 しかしそれがバレた今、デュノアは本国に呼び戻されるだろう事と、デュノア社はどうなるかわからない。と話す。デュノアは後者は自分には関係が無いと溢すが、俺にとってもどうでもいい事なのはわかっているのだろうか。

 

「俺も考えたけど、特記事項第二十一を利用して学園に残っているうちに方法を見つける事しか思いつかなかったんだ」

 

 特記事項第二十一。俺も入学前に生徒会の手伝いとして後ろ盾の代わりに利用していた『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』というものだ。

 

「確かに3年間はデュノアはフランスからの介入を受けない。だがそれは生徒として受け入れられている時の話だろう」

 

「なんだと?」

 

「男装が学園にバレた場合、シャルル・デュノアは本当に学園の生徒のままでいられると、そう思っているのか?」

 

 眼に見えて顔色が悪くなるのがわかる。

 

「そしてその特記事項は本当にデュノア自身が所属しているデュノア社にも通用するのか、考えなかったか? デュノアの【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】の学園で担当し切れないようなオーバーホールの際や大規模なデータ回収の際にはデュノアはフランスに戻らないとならないんじゃないのか?」

 

『仁。気付いていますか?』

 

 勿論、と返す。相変わらずこと生徒の事についてはお節介な人だ。だからこそこうして2人を追い詰め、本意を聞き出そうとしているのだ。

 

「なら、ならどうしろってんだよ!」

 

「その答えを見つけるのはデュノア自身だろう。その程度自分で見つけられないのならばそれまでだ。俺は"他人"にヒントを出す程優しくはない。そして織斑。お前は何故毎度毎度織斑千冬を頼らない。あの人はお前の姉である前に今は教師だ。頼らんでどうする。それとも、お前にとってデュノアを助けるという事は織斑千冬にかける迷惑よりも程度の低い事なのか」

 

「なんだとお前!」

 

 今度は掴み上げようとする腕を弾き、逆に手首を掴み上げる。そう何度も首元を許すほど甘くはない。

 

 デュノア社の社長……アルベール・デュノアが何を考えてこうしてデュノアを学園に送り出したのかは不明瞭だが、それは本当にデュノア社長の本意だったのかどうかは怪しいだろう。何せ社長夫人が実権を握っているとまで噂されるデュノア社だ。社長自身にとって嬉しい決断でも、苦渋の決断でも、それがあっさり通ってしまうような状況なのかもしれない。

 そしてアルベール・デュノアの本意を知るのはその実子であるシャルル・デュノア……もといシャルロット・デュノアしかできないのだ。本意がどんなものだったとしてもそれを知る事ができたのならば自ずと答えに近付くだろう。良くも悪くも、だが。

 

「自分で踏み出してみせろデュノア。それまで生徒会は手を貸さん」

 

 それだけを言って織斑の手首を離し席を立つ。ドアに振り向く瞬間の一瞬、顔付きが変わって見えたのが勘違いでなければ悪い結果はそう生まないだろう。

 

「お、おい!」

 

「いいんだ、一夏」

 

「だが――」

 

「欄間くん、ありがとう」

 

「礼を言われるような事をした覚えは全く無いが?」

 

 ドアを開けて出て、閉める。

 

「君もやっぱりお節介よねえ」

 

「アンタが言うなよ生徒会長様。聞き耳とは行儀が悪いぞ」

 

 ドアの前で腕を組んで聞き耳を立てていたのはやはり楯無だった。この人は生徒の事になれば人一倍敏感だ。生徒会長としての責務か、彼女自身がお人好しなのか。まぁどっちもだろう。

 

「踏み出すまでは手を貸さない。つまり踏み出す事ができたのならば手を差し伸べす。そういう事でしょう? ヒントを出さないなんて言ってちゃんと踏み出すための一押しは用意するんだから優しいわね」

 

「どうだろうな。どうせアンタはもう決めてるんだろう?」

 

「まあね。生徒を守るのが私達のお仕事だからね」

 

 話を聞いていた時点で楯無の心は決まっているのだ。つまり、シャルロット・デュノアを生徒として生徒会は受け入れるという事。元より生徒に害をもたらす様な存在でなければそうそう生徒会は排除に動かない。話を聞いて『コイツは大丈夫だ』と生徒会長が判断したのならば生徒会役員はそれに従うだけだ。

 

「さて、どうなると思う?」

 

「あの顔。覚悟は決めただろう。覚悟が決まったのならばそう悪い事にはならん。結果がどうあれデュノアは次の行動を後悔しないだろう」

 

「そっか。本音ちゃん辺りがいてくれればもっとわかったのかもしれないけどねぇ。私はあの子ほど読み取るの得意じゃないからなぁ」

 

「俺とてそっちは得意じゃないから定かじゃないけどな。何にせよ今アルベール・デュノアの事を尤も知るのはアイツ自身だ。頭を冷やして冷静な頭で思考したからこそ何かが見えたのかもしれん」

 

「あとは野となれ山となれっと……」

 

「そういう事だ。じゃあな」

 

「おやすみなさい。夕食は忘れずにね」

 

 手だけ上げて返答にした。

 

 

 

 

 

「始めるぞ、レーヴァ」

 

『展開します』

 

 第8アリーナ。時間は随分と遅いが身に赤い装甲を纏い、空へ浮かび上がる。

 時間として22:00を回っているこんな時間に第8アリーナを訪れたのは、試したい事があったのだ。

 今まで一度も使用してこなかった展開装甲。篠ノ之束が言うにはIS最先端である第四世代の武装。これを使いこなさない手はないだろう。

 

『展開装甲はイメージインターフェイスが肝です。仁や私が思った形に装甲の形状を変化させる事で攻撃、防御、機動と多種多様に対応させます』

 

「要は心意と似たようなもんだな。さて……」

 

 肩の推進翼と脚部ブースターを開き、背面推進翼を起動。同時に心意と同じ要領で、だが心意よりは少々弱くイメージインターフェイスを活性化させる。

 今まで俺が出せた速度でも充分すぎる速度ではあるが、展開装甲を用いれば更に速くなる事ができる筈だ。

 思考と共に装甲の各部が変形する。全身装甲である装甲が全身なのはそのままに所々軽量化され、正面から風を受けるでは無く正面から来た風を滑らせ流すような斜めの形に変わっていく。

 

「ほう……」

 

 試しに飛んでみる。成程、今までよりも風を受ける感覚が薄れている代わりにスピード感は随分と増している。風を切っている感覚といえばいいだろうか。

 

「これはいいな」

 

『今までの最高速付近まで簡単に上がりましたね。まだまだ上がりますよ』

 

「スピードディーラーには堪らないだろうな。俺は別にそうではないが」

 

 これもいいが今回の本題はこちらではない。

 俺が剣に合わせて繰り出す体術の中でのメインは足技だ。それならば丁度脚部にブースターが付いているのだし展開装甲を用いて足技の強化が図れないかと思ったわけだ。

 

 今度はイメージを脚部を中心に鋭く切るというものに変える。流石に足が剣になるとまではいかなかったが、刃物の様に鋭利な装甲に変形を遂げる。同時にその状態ならば脚部ブースターを吹かすことによる蹴りの加速にも向いている。少々無茶な機動でも対応できるだろう。

 

「……ふっ!」

 

 両手に剣を呼び出し、炎を一定量だけ放出し全身、主に脚部と剣に纏い、蹴りから入る。ブースターを吹かした事による生身ではとても放てない様な鋭く早い蹴り。しかし少々勢いが乗りすぎる。これはいくらか練習が必要だろう。と思いながら両手の剣を振るう。

 剣を振り、足を振るい、拳を振るえば集中力は自然と高まっていく。

 

 こうまで便利な物ならばもっと早く練習しておくべきだったと歯噛みする。これならば防御に意識を割けば【清き熱情(クリア・パッション)】の衝撃軽減は容易であろうし、機動に意識を割けばレーヴァの熱源感知からの回避がいくらかマシになる。

 

「おー。やってるね~」

 

 意識に飛び込んできた声に意識が一気に戻る。流石に近付き過ぎると危険だがそれなりの距離ならばアリーナ内からでも声が届く。

 

「……珍しいな。こんな時間に」

 

 どうやら意識を外すと展開装甲は元に戻るらしい。既に全身の装甲はいつも通りのものに戻っている。

 消費エネルギーも炎を吹かし続けるよりは随分とマシだ。より燃費は悪くなったが充分見合った成果ではあるだろう。

 

「たまにはお散歩もいいものなのだよ~。こうしてランランとお話しできるし~」

 

「話くらいいつでもできるだろうに。まぁお前がいいなら別にいいが」

 

 時間は初めてから30分。随分と集中していたようだ。地面に降りレーヴァを待機状態に戻す。

 

「ふう……」

 

「お疲れ様~」

 

「キツネ……? またなんというかお前らしい寝間着だな……」

 

 キツネなのかクズリなのかよくわからないが相変わらず袖は余っている。

 

「可愛いでしょ~」

 

「まぁ、そうだな」

 

 小動物系の彼女がこれを着ていると受ける印象は本当にただの小動物的なそれだ。これでその気になればあのプレッシャーを発するのだから恐れ入る。

 

「ホントにもう怪我はいいの~?」

 

「ああ。眼鏡のおかげで右眼の調子も悪くない。殆どベストといってもいい」

 

「ランランはどこまで本気かわからないからな~」

 

「その気になれば見抜くくせに何を言うか」

 

 あはは~と笑う彼女はやはりこちらの方が彼女らしいと感じる。

 

「ああ、そうだ本音。頼みがある」

 

「ん~?」

 

「作ってもらいたいものがある。ちょっとしたものだけどな」

 

「どんなの~?」

 

「ワイヤーだ。ワイヤーブレード程の切れ味はいらないが、強度は欲しい。同時に数本操れれば助かるな。射出はできなくていいし物との接続の方は俺とレーヴァがやるから取り敢えずワイヤーが使えればいい」

 

「ふんふん……どんな形で使えるのがい~い?」

 

「そこはお任せって事で。頼めるか?」

 

「もっちろん。それくらいなら任せてよ~」

 

 両手を腰に当てて見せる本音。こと組立においては既に整備科でもトップクラスの彼女はやはり開発面でも頼れる味方だ。

 

「悪いな」

 

「いいっていいって~。でも代わりに~えいっ」

 

「うおっ」

 

 飛びつかれた。避けるわけにもいかず受け止めることになるのだが、当然ながら抱き着かれる形になる。

 

「んふふ~」

 

「……男への警戒心が薄いのはどうかと思うぞ」

 

「ランランにしかしないし~。対価をいただくのだ~」

 

「やれやれ……。お前がそれでいいならいいが……」

 

 本音が俺に好意を持っている事も知っていた。正直言えば彼女の本質上少々わかりづらくはあったのだが最近は露骨に触れ合って来るのを感じている。別にそれが悪いとは思っていないし不快でもないのだから別に構わないのだが。

尤もどちらかと言うと恋愛というよりは気を許した友人相手といった感じの方が近いか。

 

 しかしそうなると頭が痛くなるのは簪の事と篠ノ之束の事なのだが……まぁ今考えるべき事でもないだろう。幸いなのは楯無からはどちらかと言うと好敵手、虚からは弟のように思われている事だろうか。そう何人からも好意をぶつけられては俺の身も持たない。ついでに言うのならばレーヴァの視線が痛い。

 

 何より友情含めたそういった好意を誰かから貰うのはあまりにも久し振りすぎて慣れない。というか記憶にすらない。俺自身困惑しているというのが実際だ。どう接したらいいかわからないなりに普段と変わらない様に取り繕っているだけだ。それでも彼女らは満足している様子だから変える必要はないのだろうが、いずれ誰か1人を選べと言われても恐らく俺には無理だ。不甲斐無いと言われるかもしれないが、彼女らが悲しむのもまた見たくはない。どうしたものだろうか……。

 

 対価という名の触れ合いはもう少しだけ続くのだが、まぁそれはまた別の話だ。




 ISでは一夫多妻系のSSが多いですが、何となくそれを自分で書こうとは思えないんですよね。勿論ISの一夫多妻系を読むのは嫌いじゃないし否定もしませんけどね。事実仁の状況的にもそれと変わりませんし。
 では次回もよろしくお願いします。
 感想等お待ちしております。
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