「最近妙にクラスが騒がしいとは思ってはいたが……」
クラスに入るなり聞こえてきたのはある噂。学年別トーナメントで優勝すれば俺か織斑と交際できるというものらしい。当然ながらそんな話は聞いていないし許可も出していない。まさか簪が突然今まで以上に弐式の開発に力を入れ出したのもこれが原因じゃないだろうな……。
「せめてそういう事は本人に話を通してから決めて欲しいものだ」
「やっぱりご存知なかったのですか?」
「そりゃそうだ。そもそも簡単に交際なんて決めてもしょうがないだろう。お互いがお互いをよく知らない相手とくっついたって苦痛なだけだろうに」
よく見ると織斑が入って来た時に向こうで黄色い声を上げていた女子の中には凰までいる。お前は正攻法で行けばいいだろうにすっかり織斑の唐変木っぷりに自信を無くしかけているのではなかろうか。
「そういうとこ真面目だよね~」
「そこで真面目にならんでどうするんだ。それなりの時間を共有し合うことになるのならちゃんと考えるべきなんだよ」
とはいったものの生徒会での時間はまた別のものと考えた方がいいだろう。いや一部にとってはそうも限らないかも知れないが、少なくとも俺にとっては別の案件と言っていい。
「そういう人の方がモテるよ。うん」
というか夜竹。お前はいつからここに加わっていたんだ。気付いたら彼女も俺達の話に加わる事が多くなってきている。確かに普段グループに属する事が比較的少なかった彼女としては悪くない兆候なのかもしれないがわざわざ俺達のところに来ないでもいいだろうに。
見舞いに来ていた時も彼女は二三言葉を交わしてから大体読書に耽っていた記憶がある。俺が整備の参考書を持ち出して来てからはお互い病室で本を読み続けるなどと言うよくわからない状況になったりもしていた。
何故ここで読むのかと聞いてみれば「部屋に戻るよりも静かで居心地がいい」と返って来たことがある。静かなのは確かにそうだろうが、居心地がいいというのはよくわからん。男と女の2人など特殊なケースを除けばそう落ち着くものでもないと思うのだが。尤も、俺も別に悪い気分でもなかったため追い出す事もなかったわけだが。
「モテようなんざ一欠片も思ってないんだがな……」
そもそもこんな環境で仮に交際関係を誰かと持ったとしても黛先輩がすっ飛んで来るのが目に見えている。一瞬にして学園中に広がり非常に面倒なことになるのはわかり切っている。それを抜きにしても共に歩みたい人物が現れるのならばそれは素晴らしい事だろうが、それは別に俺でなくともいいだろう。世界は広い。俺よりいい物件など星の数ほどいるというものだ。
尤もそれを言い過ぎればそれぞれ形は少々違うとはいえ好意を向けてくれている簪や本音、そして篠ノ之束を否定する事になるためそういった思考はやめておいた方がいいだろう。数ある人間の中で俺を選ぼうとしてくれている人を邪険に扱うのは好ましくない。
などと考えるようになっている辺りやはりこの世界に来てから少しおかしいようだ。そもそも好意に慣れていないのはことこの状況に置いて致命的らしい。
自分の幸せに繋がる事など求めるつもりはなかったというのにこのざまだ。
軽い溜息を1つ溢し思考を追い出す。変にこうした思考をしているとすぐに本音にはバレてしまう。どういった事を考えていたかまでの特定はない……筈だがそれでも彼女は鋭いため自嘲的な思考には注意しなければならないだろう。
「そうですわ。今日の放課後はお暇ですか?」
「生徒会が終わった後なら用事は特にないが……」
「でしたら少々お時間をいただいてもいいでしょうか」
「……逢引?」
「……違います。さゆかさんは少々そういった方向に捉えがちな傾向がありましてよ。悪いとは言いませんが」
「構わない。第3アリーナか?」
「はい」
「わかった。ほら、そろそろ席戻っておけ」
「ええ。ではまた後で」
オルコットは一言、夜竹は軽く手を振って戻っていった。特徴も特別似ていない俺達がこうして集まって話している事を考えるとやはり人の繋がりというのは不思議なものだ。最近はこういった事も忘れかけていたようだ。
忘れていたような事を思い出す事がこの世界では多い。忘れていたというよりは諦めていたと言い換えてもいいかもしれない。こうして友人と話す事すらも最近は殆どなかったからかもしれない。いずれレーヴァの言う記憶も思い出すのだろうか。まぁこの世界が終わればまた在り方は戻るだけだろう。あまり考えすぎるような事でもない。
『本当に?』
『なんだよ?』
『本当にその程度にしか思っていませんか?』
どうだろうか。実際のところよくわかっていない。俺自身困惑している節がある。
今の環境は心地良いが、
わからないが、やるべき事は以前から何も変わっていない。守りたいものを守るという
こうしたいくつかの自問自答は今に始まった事じゃない。この世界に来て、この世界で彼女らと関わってから頻繁に起こっている。いつも結局最後まで答えには届かず置いておくのだが。
今回も、その例に漏れなかっただけの話だった。
「欄間仁。私の質問に答えろ」
昼休み。席を立って今回も生徒会室へ向かおうとしていたところで、ボーデヴィッヒに声を掛けられた。掛けられた、というよりは一方的なものになりそうな言葉ではあったが。
本音は先に行っており、周りの生徒はかなり少なくなっている。
「貴様にとってISとは、なんだ」
「相棒だ。共に戦う為の、友に宇宙へはばたく為のな」
「相棒だと……?」
「ああそうだ」
「兵器を相棒と呼ぶのか貴様は」
「軍人様にとっては兵器であったとしても俺にとっては違う。そして自身の他人へ対する優位性を誇示する為のファッションでもない。力を見せつけるための道具では決してない。だから、各々にとっての相棒だと俺は答える」
ボーデヴィッヒの顔が歪む。理解ができないというように、イライラとした感情を隠そうともせずに。
「……甘いな。力は強さだ。強さが全てだ。兵器はそれを操る者の力に他ならない。欄間仁、力を手にしておきながらその体たらくとはな」
「好きに言えばいい。力は振るうべき時に正しく振るってこそのものだ。見せびらかすようなもんじゃない」
「私は強く在らなければならない。戦場を、死を知っているというのにこのような程度の低い場所で腑抜けた貴様とは違う。その眼の貴様ならば私を理解し得ると思ったのだがな……見損なったぞ」
「本当に程度が低いかどうかは、学年別トーナメントでわかる事だ。口だけじゃなくその力とやらを見せてみる事だな」
「言われるまでもない。貴様は私が叩き潰す」
もう言う事はない。というように踵を返し歩いていく。彼女の事はよくは知らないが、当日本気でかかってくるというのならばそれに応えるだけだ。得物をぶつけ合えばわかることだってある。無論限界はあるがこうして口で語り合うだけよりは有益だろう。
―― セシリア SIDE ――
「「あ」」
仁さんは生徒会の仕事で遅れるだろうと思い先に第3アリーナで機体を鳴らしておこうと思い来てみると、鈴さんと遭遇。2人揃って間の抜けた声が出てしまった。
「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」
「奇遇ですわね。わたくしもそうなんです。今日はこれから仁さんが来てくださいますわ」
「ああ、アイツ来るんだ。珍しい。アイツ来ると模擬戦本気でできるから楽しいんだけどあんまり来ないのよねぇ」
「生徒会やご自身の訓練で忙しいでしょうし、仕方ないですわ。わたくしも本当はもっと一緒に訓練できればとは思っていますが……ッ」
ティアーズのセンサーからの危険信号を察知し緊急回避。直後に立っていた場所に超音速の砲弾が着弾。どうやら鈴さんも回避に成功しているようだ。
咄嗟に砲弾が飛来した方向を見る。そこに佇んでいるのは漆黒の機体。機体名【
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
表情が強張ってしまったのは仕方がない事だと思う。何せ相手は軍人であり、その軍人が予告も無しにこちらへ向けて発砲したのだから、それはただの模擬戦志望ではないという事。
「……どういうつもり? いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」
隣で鈴さんが武装の戦闘準待機状態に入る。
「中国の【甲龍】にイギリスの【ブルー・ティアーズ】か。……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな。所詮2人がかりで量産機に負ける程度の操縦者というわけだ」
「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」
「……鈴さん、あまり挑発はいけませんわよ」
「向こうから売ってきた喧嘩を無視しろっての?」
「そうは言いませんが……」
「はっ。あの腑抜けた男に教えを請おうとする程度の女もやはり腑抜けだな」
彼に関わって少しは冷静な自分を磨いてきたと思っていた。自分の事ならばいくら貶されても怒りを表に出すつもりはなかった。けれど、けれど。
「この場にいない人間の侮辱まで……それもあまつさえ彼の事を、貴女は……!」
両手にライフルを呼び出す。
「……ごめんなさい鈴さん」
「いいって事よ。あたしだってもうそろそろ我慢限界」
「それなら2人がかりで来い。1足す1は所詮2にしかならん。貴様ら等に私が負けるものか」
「言ってくれる……!」
「とっとと来い」
「「上等!」」
―― 仁 SIDE ――
放課後。生徒会での仕事をいつもより少し早く切り上げ、足を向けるのは第3アリーナ。折角呼ばれたのだから少しくらい早めに切り上げる位は許容されるだろう。
恐らくオルコットが俺に頼もうとしているのはIS訓練だろう。と言ってもこうして頼んで来る時は大体実戦に近い形式での模擬戦だ。以前俺が教えるのは苦手だと言ったのを覚えているためだろう。
あの時断ったのは恒常的に訓練を付けるという事についてだ。こうしてたまに模擬戦をするくらいならば特に問題はない。何より楯無以外との機体との戦闘経験値というのはまた貴重なものなのだ。
『仁』
「どうした」
レーヴァの声がいつもよりも真面目だ。
『熱源感知。第3アリーナで3名が戦闘状態です』
「3人か。わざわざ言うって事はそういう事だな」
足を速める。レーヴァの熱源感知の範囲は非常に広く優秀だ。ハイパーセンサー程の精度はなく曖昧なデータ所得ではあるのだが、こういった場合にはそのような情報でもありがたいというものだ。炎を操る彼女にとってはこの程度は朝飯前だと言ってのけるのだが。
そして彼女がいつもと違って真面目な声で警告を促すという事は、それなりに切羽詰まっているという事だ。
『1対2ではありますが動きが妙です。2人側が空中でいきなり静止したり、かと思えば吹き飛ばされたり』
いじめか何かか。なんにせよ生徒会としてはそれを見逃しておくわけにもいかない。
「……仕方ない。右眼で状況の把握だな」
右眼に熱いものが集まり、一気に右眼から脳に届く情報が増える。周りの起動状態のISは当然ながらなし。IS情報は第3アリーナの【ブルー・ティアーズ】【甲龍】【シュヴァルツェア・レーゲン】。
「ボーデヴィッヒか……」
この学校でレーゲン型を操縦するのは彼女1人。早速問題を起こしやがった、と頭が痛くなってくる。
急ぐとしよう。しかしこうも他の生徒から見える位置で心意を使うのも問題だ。何より心意をリスクなしで使うのならISの部分展開が不可避であり、アリーナ以外での展開は禁止だ。走るしかあるまい。
「慌ただしいな……!」
本来ならばこれを抑えるのも俺らの仕事ではあるが、状況が状況だ。
アリーナピットへ向かって真っすぐに走り、そのままゲートを生身のままで通る。
右眼の痛みを押さえながら視線を上に向ける。
「やっぱりオルコットと凰、それにボーデヴィッヒか……」
『とても模擬戦というような雰囲気ではありませんね。楯無さんには伝えますか?』
「まだいい。危険と判断したら俺が行く」
右眼から既に何度か見た事のある2人のデータと共に、レーゲンの情報が流れ込んでくる。いずれ戦う事になる相手のデータを今視るというのは不公平ではあるが、不可抗力だ。
「ん……?」
何かデータが一部ぽっかりと抜けているように見える。その上からノイズがかけられているような嫌な感じだ。
それはひとまず置いておくとしよう。
オルコットがライフルを放てばレールカノンで相殺し、ビットや凰の衝撃砲による攻撃は右腕を突き出しただけで無力化される。更には凰が【双天牙月】を手に突撃すれば彼女の身体自体がその場に停止する始末。
右眼でデータは所得している。アレこそが【シュヴァルツェア・レーゲン】の第三世代武装である慣性停止能力【
タイマンならば間違いなく最強格の力だろう。しかしこれには弱点が存在する。
まず、ビットそのものを停止している事からエネルギー兵器には基本的にはどちらかと言えば弱い。そしてアレには多大な集中力を必要とするだろう。故に動き回るような相手を捕まえるのは難しいと見る。
しかし何にせよ今のオルコットや凰には対処は難しいだろう。連携を練習していれば話は別だが、そうもいかない。
『仁ならどうします?』
「捕まったら炎を装甲から吹かす。もしくはお前のビットに任せる。集中力を乱せさえすれば脱出ができるだろうからな。仮に捕まったままだとしてもジリ貧になるのは向こうだ」
『成程。私が加わる事が制限されていたら?』
「炎を操ってもいいし、成功率はまだ低いが『アレ』を使ってそもそも捕まらないように動くのもいい。意外と対抗策は多い方だろう」
などと言っているうちに、そろそろ勝負がつくだろう。既にティアーズも甲龍も随分とダメージを受けている。
オルコットはミサイルビットという切り札も切った。しかしそれでもなおレーゲンは健在。ワイヤーブレードで2人が捕まり、さらにそこにレールカノンの砲身を向けるのを見てここまでと判断し、両手の指の間に左右3本ずつ計6本の剣を呼び出し投擲する。
IS武装ではない剣ではダメージにならないだろうが、こちらに意識を向ける必要はあるだろう。予想通りボーデヴィッヒの動きが止まったのを見ながら地上付近の3人の間に割って入る。
「そこまでだ。それ以上は模擬戦とも訓練とも逸脱する。止めさせてもらうぞ」
「仁さん……」
声は軽く、視線は強く、ボーデヴィッヒを見据える。
「貴様……その右眼は何だ」
「なんでもいいだろう。そんな事より、これ以上やるというなら生徒会役員として俺が相手になってやろう」
「ほう……。ならばさっさとご自慢の相棒とやらを纏え。それくらいは待ってやろう」
「ドイツの少佐殿は自身の力を見せびらかし、情報を相手に与えるのがお好きか?」
「生身で掛かってこいと、そう言っているのか貴様」
「まさか軍人様が一般人に生身で負けるからISを使うなんて、言わないだろう?」
「……いいだろう、貴様は私自ら叩き潰してやる!」
挑発じみた行為ではあるが、今ここでIS同士の戦闘などしたら後ろの2人まで余波が届きかねない。既にダメージレベルがそれなりに高い2人にとってはそれすらも危険だ。それならば生身で片を付けてやろう。
尤も、右眼を使ったままなのはフェアではないが、公式の試合でもあるまい。右眼を生身で慣らすのにも丁度いい。
「ほらさっさと下がっておけ。自分の機体を大事にしろ」
ISを収め、両手にコンバットナイフを抜いて構えたボーデヴィッヒを見据えながら後ろに言う。
「いくらなんでもアンタでも危ないんじゃ……」
「そうですわ。生身でなんて、相手は軍人ですのよ?」
「我らが生徒会長に鍛えられているんだ。簡単には負けん。何よりあの会長なら、ボーデヴィッヒ程度一捻りにするだろうからな。アレを目標にしているのならこれもまた越えなければならない壁だ」
「腑抜けた割によく吠える。後悔させてやろう……!」
こちらは無手。油断でも舐めているわけでもない。これはどこまで俺の体術が通用するか、そして右眼でどれだけ追えるかどうかの勝負に過ぎない。
いくら軍人と言えどこの小娘に負ける程度ならば、楯無に笑われてしまうというものだ――!
仁らしからぬ挑発ですが、彼はいざ戦闘となるとテンションが少し向上しやすいのはご存知の通りです。尤もどちらかというと2人が危ないというのが主な理由ではありますが。
IS戦闘にしなかったのは少し強引な形になってしまったかなとは思いますが、正直ラウラとの生身での戦闘書きたかったんですよね。相変わらず行き当たりばったり欲望のままに書いているのです。
では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。