※アラスカ条約について感想にて突っ込まれたので少々修正しました。
―― SIDE アイーシャ ――
2か月程前、私は、いや私達は1人の存在に命を救われた。
無人機襲撃事件。脱出もできない状況に陥り、1機の無人機が注意を引いているうちに1年4組へと飛来したもう1機の無人機は、大剣を掲げアリーナの遮断シールドを破り向かってこようとした。
それを止めたのは噂の男性操縦者。何故か脚から多くの血を流しながら援軍が来るまでボロボロになりながらも1人で後ろの私達を守り抜いて見せた。
無人機が停止してすぐに彼は保健室へ運び込まれた。しばらくは面会謝絶で保健室の彼の部屋に入る事もできなかったけど、3日後には眠っている彼の顔を見る事ができた。身体はボロボロで包帯まみれだったけど、寝顔だけを見ていればあの時に整った顔を歪めながら危機として戦っていた彼も、やっぱり私達と変わらない年齢の少年なのだとわかった。
正直、目の前でアレだけの事をされて憧れないわけがなかった。英雄願望なんて持ち合わせてはいないけど、誰かの為に頑張る人というのはいつだって輝かしく映るものだ。
彼の情報を持って帰るのも私の仕事の1つではあるけど、もうそんな気は起こらなかった。恩を仇で返すのは好きじゃない。
代わりに沸き起こったのは、個人的に彼の事を知りたいという欲求。あの時は早く目を覚まさないかとやきもきしたものだ。
2週間目を覚まさなかった彼がようやく目を覚ましたと簪から聞いた時、4組は沸き立った。そうだろう。何せ彼は私達4組にとっては正しくヒーローだ。
一斉に行っては混乱させてしまうし、まだ絶対安静。流石に4組の面々は一斉に行く事は自重し、日をズラしたりした。簪は毎日行っていたし、簪以外にもよく足を運ぶ人はいた。私もその1人だ。
その時に「君は強いんだね」と声を掛けた。返って来たのは「どうだろうな。強さで言えば生徒会長の方が上だ」という言葉。
「満足していないのか?」と聞いた。「誰かを守るならばまだまだ足りない」と返って来た。
アレだけボロボロになって、アレだけの人を守って、彼はまだ満足していなかった。前を見続けていた。
彼と言葉を交わせば交わす程、自分に厳しい人なのだとわかった。笑うところを見た事が無いとは思っていたけど、どちらかと言うと笑う事すら許さないというかのように自身を戒めているようにも思えた。
なんとなく、放っておけないなと思う人だった。強いのに、放っておいたらすぐに壊れてしまうのではないかと思えてしまう人だった。
でも、きっと誰かに助けを求める事は無いのだろうとも思った。だったら、勝手に助けてやろうと思った。
何でそう思ったのか、自分でも正直わからない。でも、どこか彼には惹かれるんだ。恋愛感情とは少し違うけど、彼の様に前を見たいと、前へ進んでみたいとは思った。
1週間程前、唐突に本国への帰還命令が出た。どうやらフランスのデュノア社から1機の【ラファール・リヴァイブ】の"ガワ"を買い取る事に成功したとの事だった。
しかしそのラファールに新しく搭載されたサウジアラビア唯一のコアは操縦者・武装共に選別しているかのようにサウジアラビア国内にいる全てのIS操縦適性を持つ人間を拒み、起動する事はなかった。武装も極一部の国内開発の物とラファールに元々備え付けられていた一部の物を除き拒絶反応を示し、最悪搭載すれば壊れてしまうケースすらあった。
そこでサウジアラビアで最も高いAというIS適性を持った私が呼び戻されたのだという。もし仮に私でも乗る事ができなかったのならば、唯でさえイグニッション・プランから除名され、今回のラファールを買い取る際に消費したオイルマネーも只ならぬ額であるサウジアラビアは今度こそ他の国に対して大きく遅れを取る事となる。
本国に戻り私に向けられる視線の殆どは期待、願望、そして縋るような視線。もしこの子に乗る事ができなかったのならば、それらの視線の全ての意味は反転するのだろう。それでも断るなどと言う選択肢はなかった。
私はいつだって彼のように進み続けたい。前を見続けていたい。進む道は目の前のラファールに託されてしまったのかもしれないが、不思議と不安はなかった。
サウジアラビアにとっては舞い降りた希望の1機。
「君は力を、貸してくれるだろうか」
呟いて装甲表面に触れる。返って来るのは無機質な冷たい鉄の感触。
少し前まで私にとってのISというのは、ちょっとした光だった。
何せ歴史を紐解いてみればサウジアラビアという国を含めたイスラム教を信仰していた国はずっと女性に対しての制限が重かった。言ってしまえば重い男尊女卑の世界。確かに昨今ではある程度の緩和は成されてはいたようだが、当時まだ幼かった私には緩和の事はあまり実感できなかった。
それを唐突に変えたのが約10年前のISの登場だった。それ以降ISに乗れるのは女性だけという事で女性が明確に強くなった。いや、正しくは強くなったつもりでいるだけの女性が殆どなのだが、ことこの話には関係ない事だろう。
少なくともこの国では女性が強くなった事で男尊女卑という風潮は表向きには無くなった。服装は自由になり、性暴力も明確に減ったらしいし、親族以外の男性とも問題なく話せるようになった。同年代の子達は抵抗があったようだが、私は特にそういった事はなかった。
公共語が日本語と定められたのは少し大変だったけど、学園でも通じているのなら私の日本語は問題ないのだろう。
だからこの国の女性にとってはISは光。少なくとも私はそう思う。実際に男尊女卑という状況を味わっていたのは幼い頃ではあったけど、アバヤを脱ぎ、あまり得意ではないけどオシャレな格好で街を歩くのは気分がいい。少なくとも顔を、肌を隠して歩くよりはずっと。
そんな状況を作る元になった篠ノ之束にはどちらかと言うと感謝している。
光に触れたくてISの適性検査でAが出て以降は開発企業に身を寄せた。この国には1つのコアしか残っていなくて、その上機体の開発が進められておらず武装の開発ばかりだったのは少し残念だったけど。
私の光を皆は兵器だと口を揃えて言うけど、折角
「君は、一体どんな子なんだ?」
この国は日本に比べると暑い。日本の気候に慣れてきている私にとっては懐かしくもあり少々厳しくもある。そのためか手に返って来る冷たい感触もまた心地いい。
久しぶりに聞くアラビア語で"早く乗れ"と急かされる。そんな事はわかっている。少しくらい私の事を振り返るくらいいいじゃないか。大人の女性は余裕が無くて困る。
屈んだ状態のラファールに乗り込み、身を預ける。学園での実習や訓練機を借りての自己訓練でISに乗る時の高揚感はいつも心地いいものだ。今回もその例には漏れない。
口元に少しだけ笑みが刻まれるのを感じながら、呟く。
「私は国のため、なんて大それたことは言わない」
私は我儘だ。
「私のために、一緒に飛んで欲しいんだ」
だからサウジアラビアの最後の希望に、私自身のために語り掛ける。彼の様にただひたすらに前へ進むために。
「ねえ、私の光」
折角の機会だ。皆失敗したというのなら最後の1人の我儘くらい聞き届けてもらわないと困る。
「私の我儘。付き合ってよ」
ドクンッと何かが躍動するような感覚が身体を包み込む。口元の笑みがより一層深まるのを感じる。
『
「私と、一緒に行こう?」
もう一度、二度、三度と、心臓の鼓動の様に広がる躍動は、同時に私に温かさをその度に、私の身体に馴染む様に与える。
『
「止まった時は、私が道へ導く。だから、私が止まったら、君が導いてね?」
『
機体が私を乗せたまま光に包まれ、疾風は、旅人を導く一筋の風へと姿を変える。
色はグレーから褐色へ。赤と黒のラインがアクセントとして存在し、肩と背中の大型推進翼はそのままに、腰にもう1つの推進翼が増え、両足にスラスターが増設される。
比較的薄かった両腕の装甲が大きく分厚くなり、元々分厚かった両足の装甲もまたさらに頑丈な姿に変わる。
少なめだった胴体の装甲には少しだけ装甲が現れ、胸、腹部、股関節を守る装甲となる。胸と腹部間、腹部と股関節間は少しずつ隙間があるけど窮屈過ぎなくていい。
光が収まると、最近のISとしては重装甲な部類に区分されるような姿に私の光は姿を変えていた。動きづらさは感じない。間違いなくこの子は私を認めてくれたのだ。
「――行こう。君の名前は今日から【
頷くように、最後に一度ドクンッと熱が躍動し、起動する。"おおっ……!"という声が私の周りのあらゆる場所で上がる。
そんな羨ましそうに見ても、あげないよ? この子は私の、私だけの光だから。
チョーカーとして首元に収まっているこの子にはサウジアラビアの企業で開発されていた武装のうちのいくつかが追加搭載され、少しだけ時が経って学年別トーナメント。彼の試合も見たけどやっぱり強い。順当に勝ち進めば4回戦でぶつかる事を深い深呼吸と共に理解する。
まさか初戦から簪と当たるとは思わなかったけど、お互い機体は模索段階。とにかく頑張ろう。
「お互い頑張ろう。簪」
「うん……本気で、行くから……!」
うん。そう来ないと面白くない。本気でぶつかり合ってこその勝負というものだ。
「行くよ。私の光」
―― SIDE 仁 ――
レーヴァの軽い整備とエネルギー補充を行って控室に戻ってきたら、既に本音と簪の試合は始まっていた。というか既に佳境だった。
アイーシャ・サレムのパートナーはエネルギー切れでリタイアしており、サレムの残エネルギーは6割。本音、簪はともに約4割といったところか。
サレムの機体――アルラサスと呼んでいたか――は随分と装甲が多い部類に入るだろう。勿論レーヴァ程ではないのだが。推進翼も多い。ラファールに少し似てはいるが少しだけだ。
特に目を引くのは右肩に備え付けられている3つの砲身。粒子砲にしては小さいがライフルにしては大きい。
「夜竹。疲労は大丈夫か?」
「ん」
サムズアップで返事としてきた。
「そうか。ならいいが、ちゃんと休んでおけよ。IS戦闘の疲労は蓄積しやすいからな。気付かないうちに身体が動かなくなる事もある」
「ん。わかった」
モニターに眼を戻す。少し何かを話していたようだが、両手の白と黒の2本の曲刀をサレムが握りなおしたのがわかった。仕切り直しは済んだらしい。
簪は薙刀を、本音はブレードを抜いてサレムに肉薄する。簪の薙刀の腕はまだ楯無の槍よりは甘いが、充分にその踊るような薙刀捌きは中々悪くない。
本音はでたらめに弾が飛んでいくことが多い銃よりはブレードの方が得意だ。さて、どうなる。
アルラサスの腕と足の装甲がスライドして開く。そこからジャラリと出てきたのは合計10本程の金色の鎖。剣を振るう動作に反応して鎖が動き、簪と打ち合いをしながら本音を弾くという器用な真似をやってのける。
距離を離して蹴りを放てば鎖が叩き付けられるように本音に放たれ、そのまま左手を右肩に持って行ったと思えばその3つの砲身のうちの1つをスライドさせ右手に装着する。
「ほう……」
イメージインターフェイスがあれば楽なのだろうが、恐らくアレには積まれていない。そこでスライドして3つの砲身の中で状況に応じたものをチョイスして使うという事か。
キィィィン……という一瞬のチャージ音の後に放たれたのは炎の柱。恐らくは荷電粒子砲。それも連射だ。見たところエネルギーの消費も粒子砲にしては軽い。右肩部分が肥大化している事を除けば便利な装備と言えるだろう。むき出しのままという事は量子変換での展開収納は受け付けてないのだろう。
本音もよく躱したがやはり厳しい。連射の荷電粒子砲に合わせてあの鎖。更には接近しての二刀流だ。簪のフォローが入っても避け切れなかったようだ。
一瞬落ちた本音に意識が逸れた簪だが、すぐに前を向く。そして構えられるのは計48門のミサイルポット【山嵐】。手動ロックであるためここまで時間がかかったようだが、どうやら切り札を切るらしい。
まずは6発。誘導ミサイルであるためサレムの操縦技術が優れていたとしても避け切るのは難しいだろう。一部を切り、一部を鎖で落とし、一部を荷電粒子砲で落として事なきを得る。
次は残る半分の21発。決めに行くつもりだろう。すぐに残りの21発も放たれる。
それを見たサレムはそれぞれの金の鎖を量子変換。代わりに今度はスライドして空いたままの装甲の各所からブワッと赤い花弁のようなものが宙を舞う。
サウジアラビア国花の薔薇……いや、違う。花弁にしては挙動が硬い。鉄片だろうか。無数のそれらが、開いた装甲部分から追い風が射出され、勢いよく簪の方へ向かって放たれる。
放たれたミサイルの殆どはその踊る様に宙を舞う鉄の花弁によって撃墜され、僅かに残ったミサイルはサレムに着弾したようだが致命打にはならなかったようだ。
アレがサレムの切り札というわけだ。鉄片の密度威力共に申し分ないと言っていいだろう。そして何より華やかだ。魅せる技とも言える。本人が動きながら風を射出すれば薔薇の吹雪のような光景が見る事ができるだろう。
山嵐が通用しないとなっては今の【打鉄弐式】での勝ち目は薄いだろう。今回はサレムが一枚上手だった。まぁ簪にとってはいいデータが取れただろう。これで荷電粒子砲【春雷】の開発も捗りそうだ。
サレムとはお互い勝ち進めば4回戦で当たる。やはり油断してはいけない相手だ。
「いやー負けちゃった~」
「アイーシャ……強かった」
「お疲れさん。2人共」
控室に戻ってきた2人に軽く声を掛ける。
「でも……荷電粒子砲のデータは取れた」
「意外とショック受けてないんだな」
「山嵐が落とされたのはショックだけど……アイーシャに負けても、気分は悪くないかな」
彼女の人徳のなせる業だろうか。確かにどこか惹かれると言っていたしそんなところだろう。
「ランラン勝ってね~」
「まぁ、やるからには、な」
「私も、頑張る」
尤も、次の一般生徒組とその次のオルコット・如月ペアを乗り越えねばならないのだが。負けるつもりは、ない。
アイーシャが思いの外書きやすいです。モチーフキャラがよかったかな。
のほほんさんと簪さんが少し弱めに見えてしまいますが、片や訓練機に片や未完成の弐式なので全力が出せているかと言えばノーという事だけ念頭に置いておいていただきたいと思います。恐らく現段階の簪さんの全力でも、機体相性的な意味でアイーシャ相手は荷が重いとは思いますけど。
では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。