……アラスカ条約が原作だと殆ど空気なのはなんともいえませんが。
ショートブレード【インターセプター】を弾き、袈裟に振り下ろす一撃をオルコットが更に受け止める。残った右の剣を後ろに飛んで回避され、反撃のビット射撃を2発回避し、1発を切り払う。
「ごめん。押さえ切れなかった」
「いや、充分だ。それにオルコットにあそこまでダメージを通したなら大健闘だ」
残シールドエネルギー量。俺が6割、夜竹が2割弱、オルコットが7割に如月が1割。代表候補生相手にここまでやれたのなら誇るべきと言えるだろう。レーザー兵器でエネルギーを逐次消費するとはいえ、俺の様に一気に減るような武装が無いオルコットならば尚更だ。
状況としては如月が前に出るリスクが高い以上こちらがやや有利と言える。とはいえここまで近接一本な如月は準備を整えれば突貫してくるだろう。俺も炎の放出やビットでの炎の弾丸に加えミサイルビットでそれなりに減らされているためここからはオルコットの攻撃にも注意を払わなければならない。
ビットを2機夜竹からこちらに戻して肩の横に2つを浮かべる。
「近接武装の訓練も欠かしていないようだな」
「ええ。貴方と戦うならば避けては通れない道ですもの」
オルコットがショートブレードを収納。レーザーライフル【スターライトmkⅢ】の銃口を油断なくこちらに向けて展開。彼女の武装は弾の切れたミサイルビット2機を除いた全ての武装。とはいえ彼女にとっての切り札を落としているのは大きい。
「だぁぁぁー!」
次の切り口は如月の大上段の構えでの突貫。回避動作を取ろうとするが俺の上下左右にレーザーが放たれ回避先が一気に絞られた事で反応が遅れ、剣をクロスして受け止める事になる。再び鍔迫り合いの形だが、炎を纏っている以上この形を維持すれば如月は力尽きる。
しかしそれを許すオルコットでもない。動きの止まった俺に対してライフルを放つ。それにこちらのビットが割り込む事でダメージを肩代わりし、今度は夜竹が如月に実弾のスナイパーライフルを放つ。
ビットを防御に回していないあちらは如月の体制を大きく崩しながら回避。同時にそれによって緩んだブレードを弾き、そのまま如月を蹴り飛ばす。
【炎の枝】が蓄積していたダメージと今の一撃により1つ破壊されたが如月を一時的に戦線から弾いたのは大きい。そのままオルコットに向けて加速する。
囲む様に四方に配置されたビットからのレーザーを身体を捻りながら剣を振るう事で弾きながら回避。同時に左手首に剣を4本呼び出し、ワイヤーに接続。
ハイパーセンサーでビットの位置を把握し、同時に4本を炎の噴出を推進力にして全てのビットに向かって放ち、手に握っている1本をオルコット本体に向けて投擲。
これをビットに回避させるのならばパターン化からマニュアルに切り替える必要があり、更にオルコットがマニュアル操作と本体を両立できるのは現状の模擬戦を知る限り3機まで。さてどうする。
オルコットに向けて投擲した1本が下から飛来したブレードによって弾かれ、4機のビットは剣を回避する機動で全てが無事。一瞬ハイパーセンサーで意識を向けると、如月が剣を投げた態勢で夜竹に止めを刺されているのが見えた。
ワイヤーで4本を引き戻し、今度はオルコットに向けて放ち同時に自分も加速。左掌に新しい剣を呼び出しながら切り込む。
対してオルコットはビット4機をライフルの砲身を囲む様に1か所に集める。全てのビットの砲門、そしてライフルの銃口が光に包まれる。
「ブルー・ティアーズ・フルバースト!」
4門。いやライフルを含めた5門同時射撃。これがオルコットの本当の切り札か。
束ねられたレーザーが1本の巨大なレーザーとなり飛来していた4本の剣を弾き飛ばす。それだけでは勢いは止まらず、こちらにも飛んで来る。
纏わせる炎の量を咄嗟に増やす。剣の刀身を炎によって肥大化させ、2本揃えて前に突き出す。
「うおおっ!」
更にその剣の先端から纏わせていた炎を一点集中。そのまま発射するイメージを持って放つ。2本の炎の奔流が合わせてレーザーと衝突し相殺。多量の炎の放出により残エネルギーが眼に見えて減るのを視界の端に捉える。
『差し詰め名付けるなら……フレイムランスってところですか』
「……安直だな」
呟き返しながら再度輝きを放っているオルコットのビットを見やる。純粋にレーザーを束ねただけでもただ5発放っただけよりも大幅な威力の向上が見られる。何度も同じ方法で受けていたらこちらのエネルギーが先に尽きる。勝負を決めるなら早い方がいい。
【炎の枝】を2機呼び戻し両腕の装甲部に接続する。腕を伸ばした状態では肩から2つのビットが高く伸びている形になり、少々不格好で重いが、これで防御力を高めて一気に一点突破する。同時に炎の刃をビットに纏わせる事で同時に攻撃にも転用できるようにする。
レーザーが放たれるのを直前で熱源で感知。両手を顔の前で揃えて致命傷を避けるようにしながら前へ飛ぶ。
少し飛んだところで両腕に凄まじい衝撃が走りスピードが減衰、同時に両腕に接続した【炎の枝】の耐久が一気に減るのがモニターで確認できる。だがそのまま真っ直ぐに進む。
前が見えない形ではあるがハイパーセンサーで問題なく見えている。オルコットはライフルを収納。ショートブレードを構えて俺に備えようとしているのがわかる。
今度は4門同時射撃が放たれる。それを開いた両腕を大きく振るい、再び肥大化させた炎の刃で切り伏せる。同時に左腕のビットが破損し接続も途絶える。
この二度にわたる炎の放出とレーザーの衝撃によって俺の残りシールドエネルギーは既に4割。枝は2機残っているが、オルコットとこの距離で左腕に再接続する程の時間はない。このエンゲージを逃せばブロックができない以上、炎で相殺するにしてもオルコットの方が燃費がいい分ジリ貧になるという事だ。
空いた左手に剣を呼び出し、そのまま
「くっ……!」
ショートブレードでは受け止められないと踏んだのか上に飛んで回避を試みる。しかしこの距離では避け切れない。炎の刃による一撃とビットの打撃が同時にオルコットの左足を捉える。
被弾によって一瞬隙ができる。そこを狙うように左の剣で追撃を放つが、ショートブレードで受け止められる。同時に右腕から強い衝撃が伝わり、ビットが破壊されたのを理解する。
「これで……!」
「いい手だ。だがなオルコット」
確かにこの状態で無理矢理にでも鍔迫り合いを維持されればビットに撃たれ、手数の差で俺は負けるだろう。しかしそれは
「今回は、タッグ戦だ」
「ッ!」
俺の後ろから夜竹が両手に実弾サブマシンガンを右手に、実弾ショットガンを左手に握った夜竹がオルコットの真上を取る様に飛び上がる。
「……チェックメイト。私達の、勝ちだよ」
容赦ない一斉掃射。先程の一撃と、鍔迫り合いによって回避が遅れたオルコットへの弾丸の雨により【ブルー・ティアーズ】のシールドエネルギーを削り切り、俺達の勝利だ。
「駄目、でしたか」
エネルギーエンプティで自動落下を始めようとするティアーズを受け止める。絶対防御があるため落ちても問題はないのだが、それなりに高い位置なため一応だ。
「ああ。今回は俺達の勝ちだ」
「まだまだ、届きませんわね……最後の一連の動きも、上手く誘導されてしまいました」
「それに気付いたならまだ強くなる」
ほんの僅かに口元が動いた感覚はあったが、きっと表情は変わっていないだろう。
―― 数時間後 ――
主要な面々が勝ち残ったのを確認できるまで観戦して整備室へ向かった。案の定専用機持ち+篠ノ之と音無が勝ち残り、第4回戦の相手はサレム・音無コンビだ。
なお夜竹も一緒に来ている。本人曰く「何となく」。
「お疲れ様」
「ああ。お疲れ。まさか土壇場で
「偶然だよ。無我夢中だっただけ」
「それでも『できる』という事実は重要だ。それにISの稼働率が高ければそれだけ動きも精錬される。日本の代表候補生も夜竹なら夢じゃないだろう」
「んー……」
お世辞ではない。彼女は確かな腕がある。俺は少々スパルタな訓練でそれを引き出したに過ぎない。まぁまだまだ磨く必要はある原石ではあるが、その原石は磨けば綺麗な輝きを放つ宝石となる。尤も、訓練を続けるかどうかは完全に彼女次第なのだが。
……ここで彼女次第と感じ、もう俺は訓練を付けない、などと思わなくなった辺り、やはり調子が狂う。
そうだ、認めよう。俺は夜竹と肩を並べて戦うのが心地良いと思っている。1人で戦うよりもずっと気分がいいらしい。
俺の記憶の範囲では誰かと肩を並べて戦った記憶は最早ほぼない。俺が忘れている記憶の中にはあるのかも知れないが、今の俺にはわからない。
誰かと関係を持つのは未だに否定的な気持ちがある。だが関わり合った上で、その人達を俺がイレギュラーから守り抜けばいいだけだ、と最早開き直ってしまったところもまたあるのだ。生徒会の面々など最早切り捨てる事ができない程に手遅れなのだから、ここから少し増えようが大して変わるようなものでもない。
それを口にすればレーヴァがニヤニヤと笑って来たり、それかいたずらっ子のような性格をしている癖に珍しく優しく微笑んで来たりするため口に出す事は滅多にないのだが。
「……気が向いた時に、訓練お願いする、かな」
「そうか。何、志すものは人それぞれだからな」
無理に勧めるのは本人の意思を無視したエゴに過ぎない。彼女にも彼女の道があるのだから俺が決めるものではない。彼女が決めて答えを出したなら手を貸すだけの話だ。
とはいえ、夜竹に訓練の約束を取り付けておいてオルコットとのそれを断ったままというのも平等性としてはよろしくない。それならばいっそオルコットにも模擬戦以外をしてもいいと伝えるのがフェアというものか?。
尤も、夜竹とした訓練というのは、基礎的な動きを慣らし、的撃ち訓練をした後に俺と模擬戦を繰り返すというものだったのだが。
彼女に適性のある射撃は俺には適性が薄い。訓練機を借りられる機会も少なく、訓練時間が多くはなかった期間で射撃を碌に教えられないのならば、実戦形式で無理にでも訓練を積ませるという少々スパルタなものだ。勿論俺はビットも
彼女がオルコットのビットに対応できたのは仕上げ時期に俺がビットを使い始めたからというのもあるのかもしれない。レーヴァの操縦ではなく俺自身の操縦であったため2機が限界ではあったが。思えば
訓練が終われば夜竹はいつも控室の机に突っ伏して荒く乱れた息をぜーはーと繰り返していたものだ。それでも辞めなかったのは彼女なりの矜持なのか、意地なのか。他人の心など完全には読めないのだから俺には図りかねるが、原石は光り出しているのだから結果よかったのだろう。
余談だが、今もそうだが訓練中の夜竹は長い黒髪をやや低い位置でポニーテールに纏めるため、普段のロングヘアとは少々印象が変わる。訓練後は相当に汗をかいている上に普段隠れている首元が出る関係上、机に突っ伏している時は小柄な彼女ではあるが妙に色気がある。いくら肉体年齢に精神年齢が引っ張られるとはいえ、それでも精神年齢がぶっ飛んでいる俺にはそういった欲が薄いためあまり意識する事は無いのだが。別に欲が無いわけでは無いため意図的に意識しないようにしている節もあるが。
……今更ながらそういった欲がまともにあったらこの学校でやっていくのは苦労していただろう。この点に関しては長い人生を歩んできた利点と言える。どうせいつ次の世界に飛ぶか、いつ死ぬかもわからない俺には子孫を残す機会も必要も無いのだから特にデメリットにもなり得ない。
「欄間くん?」
「ん、ああ。着いたか」
第2整備室。簪がよくここを使っている事から自然と俺達もここでの整備が多い。アリーナは一つ占領していても整備室を所有しているわけでは無いのだ。
「あら?」
「オルコットか。奇遇だな」
どうやら現在は専用機持ちはオルコットしかいないらしい。訓練機の整備に奔走している整備科が慌ただしく走り回ってはいるが、レーヴァを展開して整備するくらいのスペースは残っている様だ。
展開。前面装甲を一度収納して降り、もう一度前面装甲を再展開。
眼鏡のディスプレイを起動し、レーヴァの装甲部の裏に隠されているプラグと眼鏡レンズ横フレーム部のプラグとをコードで接続する。
「破損ビットをどこまで直せるかだな……」
ビット4機を地面に転がし、ワイヤー射出機と一応拳銃も展開する。
「こちらは左足の装甲意外目立った損傷は少ないですが……さゆかさんの実弾兵器で装甲が全体的に少々やられてしまっていますわね」
「こっちはビット3機の破損に一部装甲がミサイルビットのミサイルで凹んでるな。まぁ装甲程度ならば俺でも多少の処置はできるだろう」
ワイヤー射出機には異状なし。拳銃はそもそも使っていないのだから当然問題ない。
もし自身の炎で装甲が融解等するのならば修理は大変だがそんな事態は蒼い炎でも使わない限りはない、この程度ならば時間を掛ければ問題あるまい。俺に手に負えない部分は本音辺りが来るのを待つとしよう。
篠ノ之束に用意されている予備装甲を引っ張り出してくる程ではなさそうだ。第8アリーナから持ってくるのもひと手間なため使わないに越した事はない。
『あ、そこじゃないです。もう少し左側』
「わかった……ん?」
『一応ビットはエネルギー供給さえしてもらえば自己修復も可能な範囲ですけど、明日無茶な機動したらまた壊れちゃいますね』
「おい」
『それとワイヤー射出機も射出機構部分の油差し忘れちゃ駄目ですよ』
「おいって」
周りを見てみると見事にオルコットと夜竹しか周りにいない。タイミングを見計らっていたなコイツ。そしてその2人の頭の上には ? が浮かんでいるような表情で首をコテンと傾げている。
「やれやれ……確かに気が向いたらとは言ったが……」
『今気が向きました』
「お前なぁ……」
思えばレーヴァが初めての人物に声を聞かせる時はいつもこのセリフを言っている気がする。頭痛もセットだ。
「……欄間くん、女の子だったの?」
「何がどうしてその発想になった?」
「……もしかして、ISのコアと?」
『そうです! 私がレーヴァテインのコア人格ことレーヴァです!』
今日は今まで大人しかったのに突然これだ。今は意識を点検に割いているため彼女の心象風景に潜れずに顔を見る事はできないが、絶対に今彼女はいたずらが成功したいたずらっ子のような顔で笑っている。
「まさかこんな身近にコア人格との会話を成功させている人がいたとは思いませんでしたわ……」
「俺の場合は特例だ。コイツは他のISのコア人格とは少し訳が違う」
「道理でビット操作が円滑なわけですわ。これが答え合わせ、ですわね?」
「そうだな。代表決定戦ではレーヴァとの連携を禁じられていた。今回はそれ込みで戦ったってわけだ」
「成程。しかしこれが知れたら大事ですわね」
「だから極一部にしか話していない。と言ってもコイツの気分次第だが」
『ところでさゆかさんがフリーズしてしまっていますけど』
「夜竹? おーい?」
流石に唐突過ぎたようだ。オルコットはともかく一般生徒の夜竹には衝撃が大きかったという事か。よくよく考えてみればこれまでそれなりに一般から離れた人物にしかこれを話していない。成程、これが普通の反応か。
結局夜竹がフリーズから帰ってくるまでに少々時間を要した。その最中に本音と簪が来た際、おしゃべりなレーヴァの声を聞いて納得したというように苦笑いされたのは少々遺憾だったが。
何はともあれ点検とメンテナンスは夜までかかったが何とか完了。ビットの方は俺と本音にできる範囲での修理はした。あとは彼女の自己修復に任せるとしよう。
明日の1戦目はサレムと音無。間違いなく強敵だが気負わずに行こうという事と、知らずのうちに蓄積しているだろう疲労をしっかり抜いておく事を夜竹に伝え、部屋へ帰った。
レーヴァの気紛れ率。と言っても彼女には彼女なりの考えが当然ありますけどね。
セシリア戦最後は、仁が無理矢理突撃したことでセシリアの手を封じ、さゆかさんに最後を任せたという形です。仁1人なら負けていたように見えますが、当然1人ならばもっと堅実な戦い方を彼は取るとは思います。
盛大に今更ですがトーナメントの当たり方が原作とは異なっています。その理由は私が戦闘書きたかっただけです。いつも通りです。
では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。