救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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お待たせしました。幻想人形演舞のプレイが落ち着いたのでようやく書きあがりました。


学年別トーナメント四回戦後半戦

 打ち合う程にこちらの剣は欠けていく。両断されたものすらある。いくらでも取り出せる以上そちらの問題はないが、欠けたままでは有効打に欠ける。故に刃が使い物にならなくなったと判断すると同時に次々と剣の収納展開を繰り返す。一瞬で行えるとはいえその一瞬さえこの打ち合いでは惜しい。サレムが遠距離武装を使うために距離を取った時に両手に1本ずつ、腰の鞘に1本ずつ呼び出す形で対応しているが、それでもやはり厳しい。

 

 ヴォーパルソードは両手剣である事から、両手を別に振るっていた曲刀二刀流の時よりは鎖の攻撃回数自体は減っているため、ビットを4機防御に回してようやく金の鎖には対処できているが決め手に欠けるという他ない。

 

 とはいえこちらの纏う炎によってサレムへのダメージの蓄積は確実に発生している。このままいけば有利な状況ではある。鉄片の嵐を使われなければ、という前提はあるのだが。

 

 というのも最初の一度目以降鉄片を放ってこない。恐らくあの時に搭載されている中の多くの鉄片を放ってしまったため在庫を気にしているのだろう。イメージインターフェイスが搭載されていない第二世代の武装故の悩みというやつだ。仮にイメージインターフェイスが搭載されていたとしたら鉄片の自動回収くらいされても驚けない。

 まぁ、彼女のこれからの努力や選ぶ道次第ではそれが現実になる可能性は十二分にある。つまりさらに強くなるかもしれないという事。強い奴と戦うのは嫌いじゃない。楽しみでないとは言えない。とはいえまずは――

 

「――今のサレムに勝たねばな」

 

 シールドエネルギーも多く残っているわけでは無い。レーヴァテインは長期戦に向いていない以上、そろそろ仕掛けるべきだろう。

 

 鎖を振るうために僅かに大振りになったヴォーパルソードに対して炎の出力を上げた二刀を叩きつける。先程までは受け止める、もしくは逸らすか回避を取っていたためサレムにとっては予想外の行動だろう。

 それによって態勢が少し崩れるのを見逃さない。一瞬遅れて鞭のように迫る鎖を無視しながら右足の展開装甲を攻撃系で起動し、炎を纏わせながらサマーソルトの要領で蹴り上げる。

 

「くっ」

 

 咄嗟に蹴りに対して垂直に構えたヴォーパルソードが上に弾かれ、サレムは両腕が跳ね上がった状態になる。そこにサマーソルトで僅かに空いた距離を、機体右側の推進翼だけでの瞬時加速(イグニッション・ブースト)で詰めながら、片方だけのエネルギー放出で無理矢理に回転した勢いと速度を乗せた左の剣を切り払う。

 両腕をクロスし、その装甲からジャララッと同時に射出された鎖によって直撃は避けられたがサレムが一気に吹き飛ぶ。

 サレムの方に4機のビットをけしかけながら夜竹と音無の方へ飛ぶ。

 

「はぁっ!」

 

「きゃあ……!」

 

 両の剣を同時に叩き付けるように振るうと、音無も高く短い悲鳴と共に両手にそれぞれ持っている大型シールドで防ぐ。シールドの隙間から除く彼女の右眼は思いの外強くこちらを見ている。彼女とてここまで残った1人。2対1の覚悟程度できているという事だろう。

 

 夜竹の銃撃に合わせて連続で攻撃を加えるも、中々のシールド捌きだ。纏っている炎によるスリップダメージと稀に防御を潜り抜ける銃弾以外まともに入りそうにない。しかも隙を見せればシールドバッシュを狙って来る。咄嗟であった事と、シールドが大型であるため回避が間に合わず両手の剣で受け止めながら後ろに飛ぶ。"面"での攻撃であるため衝撃を逃すためには距離を取る必要がある。

 

 元々防御偏重の【打鉄】だ。その大型シールドもまた防御性能は高い。そしてそれを操る音無自身も巧みにシールドを扱う。炎を纏わせているとはいえ実体武装では彼女に有効打を通すのは骨が折れそうだ。

 

 と言っても物理シールド相手に有効なレーザー等のエネルギー弾を用いる武装は総じてシールドエネルギーを消費する。それ故に夜竹もエネルギー弾だけを使っていられるわけでは無い。……簪と本音のペアはよく先に音無を落とせたものだ。超振動薙刀【夢現】でシールドごと強引に突破したのだろうか。それともサレムの攻撃を食らいながらコンビネーションで無理矢理落としたのだろうか。何にせよ俺達とは違い相性が良かったという事だろう。

 

 機体から危険信号のブザー。同時に後ろに後方瞬時加速(バック・イグニッション)で飛び退ると、直前までいた場所に荷電粒子砲の熱線3本が通り抜ける。更に回避先予想の1本を炎を纏わせたままの剣で切り裂く。

 

「やぁっ!」

 

「むっ……!」

 

 そして目の前には荷電粒子砲への対処で一瞬動きが止まったところに距離を詰めてきた音無の大型シールドが迫る。シールド表面を蹴る様に受け、シールドを受けた事で痺れを感じながらその曲げた膝を伸ばす力を利用し衝撃を後ろに逃がすように飛び、同時に呼び出した剣5本を音無に向かって放つ。

 そこに夜竹が挟み込む立ち位置からショットガンで合わせる。流石の音無も防ぎ切る事は難しかったのか剣が1本と少量の弾がヒットしている。

 

 だがシールドを受けた際のダメージも馬鹿にならない。荷電粒子砲にしても剣で受けても余波は僅かにシールドエネルギーを削る。少々余裕が無くなってきたと言っていいだろう。

 

 今度飛来したのは2本の白黒の曲刀。それだけならば回避は容易だが、回避して後ろに飛んで行った筈のそれはブーメランのように戻ってくる性質を持っているらしく、それに対処していれば今度は音無のシールドバッシュが放たれる。

 シールドでの一撃は如何せん重い。振り返りながら両手の剣をクロスして受け止めてもシールドエネルギーへのダメージは避けられない。更に音無の向こう側からは巧みにも音無を避け、俺にだけ当たるというコースで熱線が飛んで来る。回転機動で無理矢理避けるが態勢が崩れたところに再びのシールドバッシュ。戻って来たビットを間に割り込ませてダメージを回避しながら一時離脱する。

 

 サレムの方にけしかけていたビットは今の1機が破損し、残り3機が戻って来た。これ以上のビットの酷使は次の試合にも響いてしまうが、この試合に勝たない事には次の試合もない。

 

 夜竹がこちらを狙っているサレムに対しての射撃を行っているというのにこの正確な狙撃。こちらに集中したためかサレムへの被弾もいくらかあるが、音無という前線が突破出来なくなってしまってはこちらは厳しい。

 

『やはり強敵ですね』

 

「如何せん俺と音無の相性が悪いな……やりようはあるにはあるが……」

 

 炎を思い切り使えば音無を崩す事はできるが、シールドエネルギーの消費の問題でその後のサレムの突破が難しくなる。

 夜竹は戻ってきている。こちらも上手くコンビネーションを取るのがベストだろう。

 

 サレムは恐らく俺に攻撃を絞って来る。そこでフリーとなる夜竹に上手く動いてもらう。これしかないだろう。

 

「キツイが……まだいけるな?」

 

「まだまだ、これから」

 

 頷き返し、前を張る音無へ向かって肉薄しながら10本の剣を放つ。2つのシールドを閉じる事で完全にシャットアウトされるのを見ながら横に回り込む。

 即座に反応し片方のシールドによって振るった一撃は止められ、一瞬遅れて電気を纏った鎖が4本飛来する。これにまともに対処してはいられない。避雷針のようにビットを1機鎖に押し付ける事で鎖の内2本を絡め取り、俺自身は瞬時加速で音無の右側から左側へと移動しながら回避。

 

 レーヴァがビットを強引に振り回すように動かすのを感じながら俺がビットの1機を音無へ向けて炎の刃を振るう。

 サレムは機体から伸びている鎖が引っ張られる事で振り回されるのを嫌ってか鎖を一度量子変換したようだ。そして音無はビットの刃をシールドで受け止めながら残ったシールドをこちらに向けている。

 

 それを見て炎の刃をそのままビットを中心に回転する様に操作。同時に左手に持った剣を投擲しそちらに意識を逸らしながら右の剣を収納し、右手首のワイヤー射出機からワイヤーを5本同時射出。右腕を振り下ろす事でワイヤーを思い切りしならせながら音無の左腕にワイヤーを当てる。

 

 先程サレムが鎖でやったように、糸状の物は思い切り一方向に動いている時に棒状の物に接触すれば巻き付くような挙動をする。音無から見て右腕側に意識を向けていた音無は反応が遅れ、左腕にワイヤーが巻き付く。

 一度だけ巻き付くならそれは縛りが甘いが、四度、五度ともなれば強固なものになる。そうなればただでさえ強度に重点を置いて開発してもらったワイヤーだ。簡単には外れも千切れもしない。

 

「きゃぁぁっ!」

 

 そのまま思い切り力任せに引っ張る。ISによって強化されている腕力であっても打鉄の質量であれば引き寄せるのは容易ではないが、当然音無の態勢は大きく崩れる。

 両手に剣を呼び出す程の時間はないが、今回は俺1人で戦っているわけでは無い。360度全てを視野に捉えるハイパーセンサーは、音無を射線に捉える位置に移動した夜竹が構えている物騒なモノ(ロケットランチャー)が見えている。……整備科に申請していた彼女曰く「秘密の武装」はそれか夜竹。

 

「……いってらっしゃい」

 

 本来【ラファール・リヴァイブ】には積まれていない武装だが、どうやら彼女は整備科に頼んで自身の乗るラファールに積んでもらっていたらしいそれの引き金を遠慮の見えない様子で人差し指が引く。

 このままではロケット弾の爆発に巻き込まれてしまう。ワイヤーを量子変換し後方瞬時加速で離脱する。

 

「ちょっと!?」

 

 まさかの武装の登場に珍しく声を張り上げる音無だが、それでもシールドの片方を構えるのは流石ここまで勝ち残っているだけはあるといったところだろう。

 シールドに弾頭が直撃、直後に大爆発を引き起こす。パートナーが接近戦しているところに遠慮なくぶっ放すのはどうかと思うが火力としては確かに充分だ。

 

 爆風の黒煙はハイパーセンサーの索敵を僅かに阻害する。音無の状況が確認できないがサレムがまだ残っている。視界を向けようとした瞬間に危険信号を察知し、両手の剣を呼び戻し炎を纏わせながらその場から飛び退く。

 しかし全身を叩くような感覚と共に一気にシールドエネルギーが減少する。急ぎ離脱しながら目視確認すると、薔薇色の鉄片が装甲表面にいくらか食い込んでいるのが確認できる。

 

「あとは、よろしく……」

 

 夜竹も被害を被ったらしくシールドエネルギーが枯渇してしまっている様だ。力なく地面に降りていくラファールと打鉄が確認できた。音無も脱落したらしく、この場はサレムとの一騎打ちとなる。

 

「ここで薔薇の鉄片を切って来たか……完全に意識の外だった」

 

「日奈がやられたけど、そっちもあとは仁だけだ」

 

「厄介な事にシールドエネルギーの差は歴然だが……負けてやるつもりはないぞ、サレム」

 

「私だって負けたくない。さぁ、薔薇の花弁の中で一緒に踊ろう」

 

 そう言いながら今まで腰になかったそれを左手で掴むサレム。長さ30cm程のカプセルのようなそれを扇状に振るうと、装甲内部に用意されていただろう物と同じ薔薇の鉄片が空中にブワッと舞う。

 

「予備があるのか……!」

 

 予想していなかったわけでは無いがまだまだ薔薇の在庫は切れないらしい。ラファールの元々大きい拡張領域(パススロット)に武装だけではなくあのカプセル容器をいくつか収納していたのだろう。そして音無が前線で時間を稼いでいる間に射撃で援護しながら呼び出したというわけだ。

 彼女の腰に下げられているそれは今使ったものを合わせて残り3つ。先程飛来した量から考えて恐らくその中から1つは消費している。つまり最低でも次を合わせて後2回来るという事だ。厄介極まりない。

 

 あの薔薇の嵐は並の機動で回避しきれるものでもなければ、音無のような大型シールドを持たない俺が防ぎ切れるようなものでもない。ビットを連結させて盾にすれば話は別であるが、ここで手数が減ればサレムには勝てない。

 

「……成功率はかなり低いが、アレに賭けてみるのも一興か」

 

『全部出しきって勝つ……真剣勝負はこう来ないと、ですよね!』

 

 全身の展開装甲を機動重視に。各部推進翼スラスターにエネルギーを集める。同時にレーヴァからビットの操作権が俺に渡る。これからやる技は彼女も全意識を集中しなければならない。と言っても俺もビットの操作に手を回せるわけでもない。2機を両腕に連結させ、1機に"相手機体への射撃"という指示だけを下す事で半自動化させる。

 

『集中……集中……』

 

 サレムが両腕と両足の装甲部の射出機を構える。そこからはもう鉄片は出てこないが、代わりに宙に舞っている鉄片を押し出すための風の噴出機構は残っている。

 息を整え、意識を研ぎ澄ます。いずれはそこまでせずともやれるようになるかもしれないが、今の俺達には極度の集中が必要だ。

 

「行って!」

 

 サレムから無数の鉄片が放たれる。俺達に到達するまでそう時間はない。こちらも動くとしよう。

 

「行くぞ……!」

 

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)……行きます!』

 

 まずは背中の大型推進翼の片方で瞬時加速。その加速が終わる前に残った片方で瞬時加速。更に両足の推進ブースターを同時に点火し瞬時加速。

 直線移動の瞬時加速を無理矢理連続の瞬時加速で上書きし、本来不可能な軌道で鉄片群を潜り抜ける。

 そのまま両肩の推進翼に点火。左、右と一瞬ズラしての瞬時加速。右に飛ぶフェイントをかましながら一瞬そちらに目が移ったサレムの懐に潜り込む。

 

「速いっ……!」

 

 僅かに反応が間に合ったのかサレムは後方瞬時加速で距離を取ろうとするが、こちらも熱の排出が終わり切っていない背中の大型推進翼に再び火を焼べる。全く同じ速度で追従し、加速の勢いのまま接続している右腕のビットの炎の刃で殴りつけるように切り抜く。

 

 伝わるのは切り裂いたようなそれではなく、鈍い感覚。一瞬遅れてサレムが吹き飛ぶのを見ながらもう一度瞬時加速……はできなかった。代わりに左腕のビットを投げ付けるように無理に振るい、追撃にする。

 

『ここまでできれば充分……ですが』

 

「……惜しかったな」

 

 それを態勢を崩しながらも強引に片手で振るったヴォーパルソードで受け流し、吹き飛びながらもこちらに粒子砲の砲身を向けるサレムが見え、こちらも右腕をビットごと引き絞る。

 

「……この技は意外と重宝する様だ」

 

 残った僅かなシールドエネルギーをビットに集め、一際大きい刃を象る。

 1本の大きな炎の槍と化した右腕を右肩に引き絞り、左手をその側面に添える様に構える。片手剣単発突進ソードスキル《ヴォーパルストライク》と同じ構え。放つのはオルコット・如月戦で土壇場で思いついた炎の槍。今回は片腕ではあるが、ここを決めるには充分な一撃だ。

 

 推進翼は強引な個別連続瞬時加速でPICの最低限の機能を残してオーバーヒート。対するサレムも荷電粒子砲を放てばほぼ全てのシールドエネルギーを使い切るだろう。この一撃がお互いにとっての最後の賭け。

 

 右腕の砲身に左手を添え、決して勝利を諦めないというようにこちらに不敵に笑う彼女に対して、こちらも僅かに口角が上がっていたかもしれないが、俺には定かではない。

 

「「行け!」」

 

 同時に放った氷の槍を象ったような粒子砲と、炎の槍が交差した――――




実力者が多すぎる……日本のIS的な将来は安泰ですね……。
所謂原作におけるモブの子も活躍させてあげたいという気持ちは二次を書く人は結構持っているのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。音無さんはオリキャラですから少し訳が違うかもしれませんが。メカクレはいいぞ(二度目)

アイーシャがやたらに強い……折角のオリキャラなのでと思っていましたが少々やりすぎた感はありますね。後悔は当然していません。

それ以上に仁が化け物ではありますね。個別連続瞬時加速は彼の成功率は非常に低く、レーヴァ抜きの一人では絶対に成功しない上に、更に見ての通りの推進翼のオーバーヒートまで付いて来ているのでまぁアメリカ代表イーリスさんのそれには及びませんけどね。

では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。

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