救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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執筆ペースが下がってきていますが私は元気です。


異変

「うあー……負けたー……」

 

 最後の瞬間。技が交差した時にこちらの機体の背部大型推進翼が完全にオーバーヒート。つまりPICのバランスが崩れ、飛行困難になり一気に急降下した。それによってサレムの最後の一撃が外れ、俺の炎の槍は上から振り下ろす形となり、後の結果は控室の机に両腕を投げ出し突っ伏す彼女を見ての通りだ。

 

「俺自身まさかあのタイミングでPICが乱れるとは思わなかった。時の運ってやつだな」

 

「仁は隠し玉が多すぎる……くそー……」

 

 現状俺達の専用機は整備科によって整備中。特に俺とレーヴァの方は試合が控えているため布仏姉妹両方が忙しそうにアリーナピット内に持ち込まれている整備機材を弄っているのがここからでも見える。俺は今の知識量ではやはりまだ追いつけないという事で「待っていてください」と言われてしまったためこうして控室の机と椅子で座っているというわけだ。

 

「お疲れ様。欄間くん」

 

「ああ。夜竹も……それに音無もお疲れさん」

 

「おつか……れ様……」

 

 ラファールを整備に出すという事で離れていた夜竹が音無と戻って来た。音無は既にサイドテールを解き、両眼が隠れている。

 

「試合中はアレだけ気合入っていても、やはり普段はそうなるのか」

 

「ごめん……」

 

「責めてるわけじゃない。勝負でエンジンがかかる奴もいくらか見て来てるしな。普段の方も音無らしくて別にいいと俺は思う」

 

「そ、そう……?」

 

「そうそう、日奈はいつも通りにしてるのが日奈らしい」

 

「欄間くんの前だからって変に緊張しなくても、この人意外と普通……笑わないけど」

 

「意外ととはなんだ。それに表情が硬いのはお前もだろう」

 

「そうだ!」

 

 サレムが突然ガバッと顔を上げたかと思えばこちらに真っ直ぐ視線を向けて来る。それも至極真剣な顔で。

 

「表情で思い出した……仁」

 

「なんだ」

 

 神妙な顔で名前を呼ばれればこちらも真面目に返さざるを得ない。

 

「もう一度笑ってくれないか」

 

「……は?」

 

 言っている事と至極真剣な顔がまるで釣り合っていない。思わず間の抜けた声が出てしまった。

 

「試合の最後あの時確かに笑っただろう!? ほらもう1回!」

 

「頬を掴むなグニグニ弄るな」

 

「嫌なら笑え眼鏡美形男子……!」

 

「この状態からどう笑えと言うんだお前は……さっきまで落ち込んでいた癖にまるで別人のように絡んできやがって……!」

 

「敗北のショックなんて普段絶対に笑わない眼鏡美形男子の微笑みのインパクトの前には些細な事だ……!」

 

「アレだけ絶対に勝利を諦めないという顔をしておいて終わってみればそれかお前……!」

 

 傍から見れば座ったまま両頬を掴まれグニグニと顔を変形させられている俺と、立ち上がり決死の表情で俺の顔を弄り続ける美少女などという全く持ってよくわからない状況となっている。

 というかまさかサレムが眼鏡好きとは思わなかった。そんな変調は今まで見た事も……いや、眼鏡を使うようにしてから彼女と会った時、数秒程フリーズしていたような気がする。

 

「さっき一度笑えたならまた笑える筈だ。ほら早く」

 

「無理を言うな。さっき笑ったという自覚すらないんだぞ」

 

「なら普段からもっと笑えるようにだな……!」

 

「笑うのは苦手なんだ。というか普段から笑っていたらさっき言ってた絶対に笑わない奴が笑うという条件が崩れるぞ」

 

「ぐっ……」

 

「……いつまで人の頬で遊んでるんだ?」

 

「なんかこう、男性に触れるのは新鮮でだな……」

 

 さっきまでのようにグニグニというそれではなく、片頬をムニムニといった程度のそれではあるが未だに頬を掴まれている。まさか振り払う訳にもいかない。彼女が飽きるまで待つしかないだろう。

 

「む……」

 

 ムニーとサレムより控えめにもう片方が伸ばされる感覚。

 

「あっ……つい……ごめんね……」

 

「いや、別に構わんが……」

 

 別に触れられる事に対して嫌悪感もなければ抵抗もない。というかサレムはともかくとしてもおどおどとした性格の音無には強く言うのも憚られるためやはりこのままにするのがそれぞれの気分としては一番丸く収まる。。強いて言うのなら喋りにくいがそれだけだ。

 夜竹はクスクスと笑うだけで止める気はないらしい。元より彼女がこういった事態を見て楽しむタイプなのは知っているため止めるとは思っていないが。

 

「……そんなに面白いか?」

 

「ここにいると同年代の男性と触れるなんて滅多にないからな……。仁は抵抗しないし……。試合中の激しい戦い方とはまるで別人だ」

 

「それを言うならサレムや音無もそうだろう?」

 

「確かにそうだな。特に日奈は顕著だ」

 

「うう……」

 

「いざ戦えないよりはずっといい。戦うべき時は戦わないとならないからな。実際強かった」

 

「でも、仁もまだ何か残してただろう?」

 

「やる機会が無かっただけでそれはお互い様だろう?」

 

「ふふ、まあね」

 

 そう言って微笑むサレム。出してない技があったとしてもそれは機会が無かっただけで、お互い間違いなく本気だった。本気の勝負はいつだって心地良い物だ。今回のこの行事は模擬戦相手が完全に固まってしまっていた最近の俺にとっては随分といい刺激になった。……尤もその模擬戦の大部分である楯無相手でのIS戦勝利は未だにないが。

 ……などと言ってはいるが頬を弄られながらでは何とも締まらない。

 

「織斑くん達の試合、始まるみたい」

 

「やっとか。さて、どっちが残るか……」

 

 控室のモニターに眼を向けると既に4人が揃っている。

 

「順当にいけば専用機持ち2人の織斑・デュノアのペアだろうけど」

 

「純粋な戦闘技術で言えばボーデヴィッヒがダントツだ。篠ノ之がどれだけやれるかの勝負だな。まぁ連携なんて取る気はないだろうが」

 

 尤も、吹っ切れたような表情で伸び伸びと試合を進めていたデュノアにもまた注目だろう。戦闘技術ならばボーデヴィッヒだが操縦技術や細かいテクニックではデュノアだ。愛娘の勇姿はこの場にもフランスの来賓として来ているであろうアルベール・デュノアには一体どのように映る事だろうか。何にせよそちらはもう俺には関係あるまい。

 

「まずは織斑が突貫。いつも通りだな」

 

 織斑がスタートダッシュ。当然ボーデヴィッヒのAICがその動きを捉える。

 対エネルギー兵器としては最適解とも言える【白式】の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)である【零落白夜】であれば、空間に対してエネルギーによって作用を与えるAICを切り裂く事もできるだろうが、そもそも織斑がその剣を振り抜く前に、機体の腕だけでも止めてしまえばそれは不可能となる。

 

 そしてAICは単体目標相手ならば無類の強さを発揮する。一度捕まえさえすれば後は他の武装で滅多打ちにすればいいだけだ。とはいえ今回のタッグ戦ならばその心配はないが。

 

 ボーデヴィッヒが構えたレールカノンは織斑のカバーに動いていたデュノアによって砲身をズラされる事で外れる。同時に意識をそちらに割いた事によりAICが解除され、急後退したボーデヴィッヒとの間に割って入った篠ノ之と、デュノアと再び前線をスイッチした織斑がぶつかる。

 

「デュノアとの連携は問題なく取れているな」

 

「欄間くんなら、どう崩す?」

 

「デュノアは近接戦闘もこなす器用な万能型だが比較的射撃型、織斑は近接型。それならいつも通りどちらかをさっさと落としてしまいたいが……そうだな」

 

 織斑は銃撃への耐性が低く、デュノアは【砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)】を身につけているとはいえ、慣れている俺が零距離戦闘まで詰めれば問題なく落とせるだろう。

 問題はどちらをどうやって落とすかだが。

 

「まぁ分断するのが手っ取り早いだろうな。夜竹の多重対象射撃(マルチターゲットショット)を活かして分断した状態から削って片方を迅速に落とす」

 

「本当にいつも通り」

 

「変に凝った事をするよりいつも通りの方がパフォーマンスは上がるものだ」

 

 こちらで話しているうちに場面は織斑とボーデヴィッヒ、デュノアと篠ノ之が対面している。

 織斑はボーデヴィッヒの両手のプラズマ手刀とワイヤーブレードを防ぐ事に専念している辺り、デュノアが先に篠ノ之を撃破するのを待っているのだろう。確かにここまでの試合を見ている限り篠ノ之は銃器への対応力が低い。普段剣道をやっている分剣相手に慣れ過ぎているためだろう。

 同時に篠ノ之はシールドや銃器を扱うのもまた苦手だ。そうなれば近接ブレード一本でデュノアと戦わなければならないが、デュノアは近接戦闘も銃器も使いこなすのに加え【高速切替(ラピッド・スイッチ)】と砂漠の逃げ水の使い手。IS戦闘素人がブレード一本で追い縋るのは骨が折れる。というかほぼ無理だろう。

 

「ボーデヴィッヒの奴は完全に舐めているな」

 

 現在単体の織斑に対して律儀にも切り合いに付き合い、AICを使用しないのがいい証拠だ。仮に篠ノ之が撃破され、2対1になったとしても負けないだろうという自負。もしくは慢心。強さに拘る割には少々おざなりな戦い方と言える。彼女が目指す織斑千冬の現役時代は相手を完膚無きまでに遠慮も容赦も無く切り伏せるというものだった。自分を強者と断定し、相手を甘く見て嬲るのは強さとは違う。

 

 ここでついに織斑の動きが止まる。そしてそこに襲い掛かるのは六本のワイヤーブレード。自由を取り戻す手段のない織斑が切り刻まれ、一気にシールドエネルギーが削り取られる。

 そのまま織斑を拘束、地面に叩き付けたボーデヴィッヒはレールカノンを構える。しかし――

 

「余裕があるのかないのか……」

 

 サレムの呟きと同時にデュノアが割って入る。レールカノンをシールドで防ぎ、織斑を連れて離脱した。

 

「相方が落ちたのにも気付かない……というか気にも留めてないのか」

 

「元々ボーデヴィッヒにとっては篠ノ之は時間稼ぎの駒程度の認識だ。尤も、その時間稼ぎを活かせなかったのはボーデヴィッヒの落ち度だが」

 

「2対1。こうなると……」

 

「AICは活かせない。そしてボーデヴィッヒの手数が多いとはいえ前衛と後衛がハッキリしているペアとの戦闘は困難だ」

 

「織斑くん達の……勝ち……?」

 

「どうだろうか。戦闘の勘はボーデヴィッヒの方が上だ。巻き返しは充分に効くと思う」

 

「シールドエネルギーの面でも織斑は半分を切っているのに対しボーデヴィッヒは殆どフル。まだわからんな」

 

 会話の通り、ボーデヴィッヒは2対1という状況でも互角に立ち回っている。それだけ戦闘の勘というのは大きい。戦闘の勘という一点ではだれにも負けない自信がある俺だが、サレムのように機体の悉くを使いこなすような相手だと少々厄介だ。

 サレムは例外的にあのISとの相性がいいのだろう。楯無と最初に出会った時にやっていたというように剣を打ち合わせればISと感情をリンクできるというレーヴァがご機嫌だったのもそれに起因しているのだろう。

 

 試合が終わるや否や『私あの人格の娘気に入りました!』と来たものだ。俺達が打ち合っている間にコア人格同士で何を話していたのやら。流石に俺からはレーヴァの感情や思考を知れるわけでは無いためそこはわからないが、彼女が上機嫌だったのならそれなりに話の合う相手だったのだろう。

 

 話が逸れたが、ボーデヴィッヒの相手である織斑やデュノアは機体性能を引き出せているかどうかと問われれば微妙だろう。織斑は当然まだまだ甘いし、デュノアはラファールの特徴である拡張領域(パススロット)を活かせてはいるもののサレム程ではないだろう。それならば十分に2対1という大きなハンデを埋める事はできる。

 

 篠ノ之束が言うには、極一部の操縦者を除いて機体性能を万全に引き出せている者はいないそうだ。彼女が例として挙げたのは、まず初代世界最強(ブリュンヒルデ)こと織斑千冬。イタリア国家代表にして2代目世界最強アリーシャ・ジョセスターフ。そしてそこまでは至ってないが目を付けているというアメリカのナターシャ・ファイルス。この3人以外にもちらほらいるらしいが、取り敢えずという事でこの3人を挙げた。まぁ納得の人選だろう。

 今回の試合も見ているだろう。彼女の興味リストにアイーシャ・サレムが増えるのは想像に難くない。

 

「ほう」

 

 織斑が零落白夜を発動して切りかかった。それに対してボーデヴィッヒが放ったであろう見えない停止結解を白式の機動力を活かした急停止・転身・急加速を駆使して回避して見せる。

 

「オルコットや凰との訓練が活きたな。特に凰の衝撃砲に慣れているのが大きいか」

 

 追加されたワイヤーブレードによる攻撃をデュノアの牽制射撃によって生まれた隙間を縫って突破していく。急に移動先が代わったりしているのを見るとアレはデュノアがよく見て指示を出しているのだろう。つくづく器用な奴だ。

 

 織斑の射程圏内。しかしそこで動きが止まる。近ければ近い程空間に作用する兵器を回避するのは難しくなる事と、織斑の攻撃の直線性。見事に見切ったAICだが――甘い。

 

「1対1なら王手だったな」

 

「ああ。だが今回はタッグ戦だ」

 

 零距離まで急接近したデュノアがショットガンを6連射。ボーデヴィッヒのレールカノンを破壊すると同時に織斑が切りかかる――が。

 

「……こっちも甘かったな」

 

 エネルギー切れだ。零落白夜が消え、白式のシールドエネルギーも限界ギリギリ。

 

「織斑は相変わらずエネルギー管理が甘いな。だから切り札は確実に当てられる時に使えと言ったんだが……まぁ聞こえていなかったか」

 

 あの時(クラス代表決定戦)は織斑も無我夢中だった。恐らく声は届いていなかっただろう。

 

 致命的な隙を見せた織斑を庇う動きをしたデュノアをワイヤーブレードで牽制し、そのまま織斑をプラズマ手刀で叩き伏せる。

 直後、デュノアが瞬時加速(イグニッション・ブースト)。それに対し右腕を伸ばしAICの体勢に入るボーデヴィッヒだが、動きが止まる。

 

「考えたな……」

 

 サレムが見ているのはデュノア達のずっと下。地面まで落下した織斑だ。

 白式には搭載されていない筈の射撃武器。織斑と合流した際にデュノアが手放したライフルを構えている。恐らく最初からデュノアによって使用許可登録が済まされていたのだろう。ここまでがデュノアの作戦だったという事だ。

 

 そしてデュノアが装備したままだったシールドがパージ。内側から新たな武装が現れる。

 リボルバーと大型の杭がセットになった、威力だけならば第二世代最強格の一品。

 

「【盾殺し(シールドピアース)】とはな。あの距離、しかも瞬時加速の運動エネルギー付きだ。効くぞアレは」

 

 盾殺しは威力だけならば最強格だが、実際に搭載されている機体は限りなく少ない。何故ならば見ての通り完全な零距離でしか当てられないからだ。

 本来殆どのISには射撃武装が備わっている。そんな中で零距離まで接近し、更に反撃を貰わずにそれを叩きこめる機会など相当に少ない。瞬時加速を身に着け、更に盾の中に隠すという予想外に予想外を重ねたデュノアだからこそ決まったのだ。

 

 ボーデヴィッヒが咄嗟に放ったAICは瞬時加速の速度の前に外れる。そして腹部へとその重い一撃が突き刺さり、一気にシールドエネルギーを奪い、更にはISでは防ぎ切れない衝撃が全身を襲い身体の硬直を招く。

 そして盾殺しの火力に拍車を掛けるのは、リボルバー式である故の連射だ。連続使用後は強く熱を発するためクールダウンは必要だが、オーバーヒートを起こす前にIS1機を落とすくらいの火力は出るだろう。

 

 【シュヴァルツェア・レーゲン】に紫電が走る。強制解除の兆候だ。

 

「勝負あり、か」

 

「いや、待て」

 

 レーゲンが発する紫電の色が黒く染まっていく。少しずつその発する範囲も広くなっている様だ。

 右眼が知らずのうちに熱を持つ。痛みも同時に発しだすが、目の前の情報群から眼を離せない。

 

「様子がおかしい……いや、データすら……」

 

 レーヴァがいないためISのチャネルは使えない。代わりに携帯を取り出し、改造して追加されているアプリを持って生徒会専用の回線につなぐ。

 

『仁くん? どうしたの?』

 

「ボーデヴィッヒの機体の様子がおかしい。まるでレーゲンのデータを上から何かで上塗りしているみたいだ」

 

『……また面倒事かぁ』

 

「言っている場合か。このデータ、前に視たジャミングと一致する」

 

『いつでも行ける準備はしておいてね』

 

『レイちゃんの準備できてるよ~』

 

「わかった」

 

 状況が呑み込めていないという表情の3人に向き直って言う。

 

「避難の準備をしてくれ。何が起こるかわからない」

 

 何も起こらないのがベストだが、あのジャミングデータ。嫌なものを感じる。表に出て来てようやく視える様になったが、どう考えてもいいものではない。

 

 モニターの先で、レーゲンが変形すると同時に黒い電撃がアリーナ内を迸った。




お久しぶりです。どんどん投稿ペースの間が広くなってきていますが頑張りたいですねホント。

アイーシャの雰囲気ブレイカーっぷりがすごい。元ネタ然りという感じです。いやどちらかと言うと元ネタの人はもっとシリアス寄りですけど。

では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。
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