救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

49 / 56
今回は本編ではなく特別編です。クリスマスなんてなかったのです。慣れない事しました。

時間軸としては学園入学前の12月。数ヶ月程巻き戻ります。


特別編:大晦日

 12月31日。世間では一年の終わり、大晦日というやつだ。

 転生続きといっても一年以上同じ世界にいた事もある。別にとてつもなく久し振りの経験というわけでもないが、記憶の限りではあまり気にしたことはなかった日だ。

 

 更識楯無含めた生徒会の面々はそれぞれ数日前に帰省している。冬休みでもある今、仕事も多くないのだ。家族でこういった日を過ごすのはいい事だろう。尤も、俺に家族との記憶はこの身体である"欄間仁"という人物が今まで生きてきた記憶を引き継いだ以外には殆どないのだが。

 

 数日前にはクリスマスだー。と言って部屋に布仏姉妹が突入して来て無理矢理生徒会室に連行され、虚の手作りケーキと紅茶で小パーティに参加させられたものだが、打って変わって静かなものだ。

 

 暗闇に深々と降る雪の中で振るう剣と言うのもまた悪くはない。少し動きを止めれば適度に冷やされるため、身体が熱を持ち過ぎる事もない。

 

「毎度の事ではあるが、少々忙しい半年だったな」

 

 両手で一本の(レーヴァ)を振るいながら呟くように言葉を溢す。

 

『特に今回は一人ではありませんからね。いつも一人で居た分そういった忙しさには無縁でしたから余計そう思うんでしょう』

 

「そうかも知れないな。別に俺は一人でも構わなかったが」

 

『またそういう事言って。駄目ですよ全く……』

 

 "未確認のISを動かす謎の男"を保護してもらうという名目で生徒会に属している以上、一人に戻る機会などないだろうが、やはり俺は一人の方が良かったのだろうと思ってしまう。

 

「む……おっ……」

 

 ぐらりと身体が傾き、咄嗟に地面に剣から離した左手を突く。考え事をしながらだったせいか雪に足を取られたようだ。

 

「……少し休息を挟むか」

 

『汗を流すのはいいですが、それも適度にしておかなければ余計に身体が冷え始めます。休憩するならば何か羽織ってください』

 

「わかっている」

 

 木の枝に引っ掛けておいたこの世界に俺が出て来た時に着ていた真っ黒のコートの雪を払い、そのまま羽織る。雪が積もっていたため少し冷えるが、すぐに体温の保護に働いてくれるだろう。

 

「……この世界は、これからどう進むんだろうな」

 

『仁次第でもあり、物語の登場人物達次第でもあり、後は神のみぞ知るというやつでしょうね』

 

「……あまり、関わりたくはないものだ。もう、遅いかもしれないが」

 

『そうかもしれません。そうじゃないかもしれません。でも、今を悪くないと思っているのも事実でしょう?』

 

「……まあな。だが今まで必要のなかったものだ」

 

『人というのは一度得たものを捨てるのは難しいものです』

 

「だから、俺もこうして迷っている、か」

 

 はぁ。と白い息と共に溜息を吐き出す。もっと排他的で退廃的な人間でいられたのならば楽だったというのに。

 いや、そんな人間だったならば転生を繰り返す事もなかっただろうか。わからないものだ。

 

「……いかんな。こうも静かな雰囲気に浸っていると考えが深まるばかりだ」

 

「それなら、賑やかにしてあげようか?」

 

 ……もはや慣れてしまった。いつだってこの人は唐突に表れるのだ。感知するとか予測するとかそういう問題ではない。

 

「……別に頼んではいないぞ。篠ノ之束」

 

「私が、私達が仁くんと過ごしたい。じゃ駄目かな?」

 

 世紀の天才(天災)篠ノ之束。この人の出現に関しては察知も反応のできないのだからあまり気にする事ではない。

 

「……別に構わない。誰かを拒む理由も今はないからな」

 

「やったぜ! じゃあ改めて仁くん。ハッピーニューイヤーイヴ!」

 

「ああ。ハッピーかどうかは、わからんがな」

 

「この天才篠ノ之束さんがいるんだからハッピーになるに決まってるでしょ?」

 

『今回は私もいるのです!』

 

「……お前らのその自信はいったいどこから湧いてくるのか……」

 

「だって束さんだよ? レーヴァちゃんと合わせて君を誰よりも知る二人だよ? ほら間違いない」

 

「何をもって間違いないのかわからんが……まぁ気にもしなかった今までよりはマシな日だろう」

 

 剣を振る気は削げてしまった。そもそも見せてもあまり面白いものではないだろう。

 折角出向いてきたのだから紅茶の一つでも淹れるとしよう。

 

「入るといい。外は冷える」

 

「冷えても束さんは問題ないけどねー」

 

「そういう問題じゃない……やれやれだな」

 

 そう言いつつもドアを開ければ入って来るようだ。

 この学園、一年中使う寮なだけあって暖房器具冷房器具共に優れている。流石は世界中のIS適性者を育成する機関なだけはあるといったところだろう。電源を入れておけばすぐに外よりは随分と温かくなる。

 

「少し待っていろ」

 

 コートを掛け、レーヴァを剣から指輪に戻してからティーセットの用意をする。一人の時に自分で淹れたものをあまり飲むわけでは無いが、虚には練習用だ、と言って彼女らが使っているものと同じティーセットを渡されている。好きに使っていいと言われているのだから好きに使うとしよう。カップの数も問題はないだろう。

 

 振り返ってみれば篠ノ之束は既に炬燵で溶けたようにだらけている。炬燵の魔力というものはどの世界にもあるものらしい。俺は普段あまり使っているわけでは無いが。

 

「これが世紀の天才だというんだからな……」

 

「天才というのは常人の秤では計れないものなのさぁー……」

 

「……まぁ、そういうものか」

 

『そういうものなのでしょう。きっと』

 

「テレビは点けてないんだねぇ」

 

「普段は情報収集程度には見ているが、今日はあまり興味が無いんだ。と言ってもこの世界のニュースは殆どISの事のようだが」

 

『現在世界のパワーバランスを担っているのがISですからね。どうしてもISについての議論は絶えません』

 

「あまり、喜ばしい事ではないな。紅茶が入ったぞ」

 

「おお。仁くんが淹れるのを見てはいたけど、初めて飲むなぁ」

 

「半年程関わっていても初めてだったか。と言ってもあまり珍しいものでもあるまい」

 

「気分が大事なんだよ。仁くんが淹れたという事が重要なのだ」

 

「そういうものか?」

 

『そういうものです』

 

 よくわからん。技術が同じ人間のどちらかが淹れたかで味が変わるかと聞かれたら変わらない。と俺は答えるだろう。だが彼女らには重要な事らしい。

 

「いただきまーす」

 

「お茶請けが無くて悪いな。普段から来客にはあまり準備をしていないんだ」

 

「お構いなく~……美味しいなぁ」

 

 ……しかし人の家でよくもまぁここまでくつろげるものだ。それくらい豪胆だからこそ俺の記憶を覗き、更にそれを受け入れる事ができたのだろうが、彼女が孤立したのもまたこれが原因の一つでもあったのだろう。

 そして俺にこうまで関わろうとして来る理由もまたそこからだ。どうしても彼女は世間からは"ISを作った大天才"という見方しかされない。俺もまた世界にいない筈の存在としてここに存在している。お互い異常な存在として彼女が興味という欲求を基に関わって来るのは当たり前だったのかもしれない。

 

 不快ならばすぐに言うが、別にそういうわけでもない。むしろ彼女自身がそうならないように気を付けている節すら感じる。こうして唐突に会いに来るのも、基本的には俺にとって都合のいい時だ。

 

「温まるなぁ♪」

 

 こうして呑気にしているように見えるが、彼女も彼女なりの苦労があるのだとわかっていれば邪険には扱えないというものだ。

 彼女が俺という異常を受け入れたように、俺もまた彼女を受け入れているという事だろう。一人で居た方がいいという気持ちも勿論あるが、彼女はその気持ちのど真ん中をズンズンと真っ直ぐに突っ切ってくるような感じだ。どうしても気持ちがブレてしまう。

 

 相変わらずどっちつかずな自分自身に嫌気がさしそうだ。はぁ。と溜息が零れる。

 

「折角ハッピーにしに来たのに溜息なんて駄目だぞう」

 

「むぐ……」

 

 人差し指の先で口を押さえられてしまった。

 

「……わかったよ」

 

「うんうん。君はもっとキリっとしてる方がカッコいいんだからね」

 

「カッコよさなんて求めてはいないぞ」

 

「私がカッコいい君を見ていたいのさ」

 

「……やれやれ」

 

 こうして調子をすぐに狂わせて来るのだ。生徒会を抜きにしてもこの人が存在している限りどうやっても俺は一人に戻れはしないのだろうと思わされる。だからと言って割り切るのは今の俺には無理だが。

 

「そんな顔しないの。束さんはいつでも君の味方だよ」

 

「……読心術でも覚えているのか?」

 

「どうだろうねぇ~」

 

 彼女の表情は、会ったばかりの時、俺の記憶を覗かれる前のような張り付けた笑顔ではない。それくらいは俺にだってわかる。

 優しい笑みだ。それも俺などに向けるには勿体ないくらいの特上のものだ。篠ノ之束はただでさえとびきりの美人なのだ。だというのにやはり俺の心は上手く動かないらしい。このままの方がいいのかもしれないし、そうではないかもしれない。レーヴァは問答無用で変わった方がいいと言うのだろうが。

 

「……もうそろそろ年が明ける。蕎麦でも準備しよう」

 

「おお、年越し蕎麦ってやつだね」

 

「ああ」

 

 だから、今の俺は逃げる。彼女のそれから眼を背ける。せめて好意を向けてくれる相手にくらい笑いかけてやれればいいとは思う部分もあるが、やはり他人を自分に近付けるべきでもないという気持ちの方がまだ強い。笑顔は、まだ作れない。

 

 あまり手の凝ったものが作れるわけでは無いが構わないだろう。手早く作ってしまおう。

 

「ほれ。できたぞ」

 

「待ってました。蕎麦は用意してたんだね?」

 

「まぁ、簡単なものだけな」

 

『私は雰囲気で楽しみます。食べれませんからね』

 

「身体を作ってあげられたらいいんだけどねぇ~。まだ実用段階じゃなくてね」

 

『見てるのは慣れてますから大丈夫ですよ。そっちはそっちで楽しんでください』

 

「じゃあお言葉に甘えて、いただきまーす」

 

「いただきます」

 

 簡単なものであり、特に普段のものと変わりはしない。だというのに目の前の兎は心底美味そうに頬張るのだから気分というのは特殊なものだ。

 

『……0時。新年ですね』

 

「むぐっ! もごごもご」

 

「まずは飲み込め……」

 

「んぐっ……ぅん!」

 

 口いっぱいに頬張っていた蕎麦を無理矢理飲み下し、こちらに満開の笑みを向けて来る。

 

「仁くん。ハッピーニューイヤー!」

 

「……ああ」

 

「今年も、これからも、よろしくね。私の唯一の理解者くん♪」




これもう束さんがヒロインでは? と思いつつ書き上げました。いや別にヒロイン未定だったとはいえ絞ってはいたので、その中から束さんに決まってもそれはいい事なのですよ。うん。

クロエさんは入学式前に初対面となっているのでまだ出てきません。ラボから眺めているかもしれないし、まだ束さんに拾われていないかも知れません。

この時期の仁は現在より葛藤多めですね。割り切ってしまった現在とは色々訳が違うようです。少し書きづらかった。

今年はこれで書き収めです。ギリギリです。今年復帰してからは皆さんありがとうございました。

では来年からの本編もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。