「なるほど」
一通りのレーヴァテインの性能は把握した。BT兵器なるビットは彼女が操作を補ってくれるようだし、ひとまずは俺はいつも通り戦うことができそうだ。
『いつも通りはいいですが、シールドエネルギーの残量には充分注意してくださいね』
シールドエネルギーがなくなればISは絶対防御という搭乗者の保護機能以外はほとんど機能しなくなる。そうなれば筋力補助も受けられないし、兵器の呼び出しも不可能だ。
「わかってる……と言いたいが機能を十全に活かすとなるとシールドエネルギーは自動的に減っていく。シビアなもんだな」
『強い力にはいつだって代償がいるのです』
違いない。と返しつつ部屋の準備を一通り終わらせる。どうやらこの位置は寮でも外れの方のようだが、女生徒の行動時間とはなるべく被らないようにしたいものだ。
別に女子が苦手というわけではないが、女子しかいない場所で男なんぞいようものなら一種のアイドル扱いは免れないだろう。そういうのは苦手だ。
「しかし、この右眼も制御できるようにしておかないとな……」
感情が昂った時に勝手に右眼の【虚像作製】が起動してしまうのはいささか不便だ。というか痛みが伴う以上は隙を生む原因にもなる。ある程度の制御は必要になるだろう。
『痛みだけで済めばいいんですけど』
「これだけの能力だ。それこそ代償がもっとでかいものでもおかしくはないはずなんだけどな」
まぁ今考えても仕方がない。代償が出始めたらそれはその時考えればいい。
などと考えていると、部屋がノックされる。
「更識よ。欄間君いるかしら」
ドアを開けると更識楯無が立っていた。
「入れてもらっても?」
「さっき用意が済んだところだ。構わない」
不都合があるわけでもない。部屋に招き入れる。
「何か用事でも?」
更識はいたって真剣な顔をしている。大方の予想はつくが。
「まず、君のことを調べさせてもらったわ」
今の俺は間違いなく不穏分子だ。それを調べるのは不思議じゃないだろう。
「学生生活はいたって普通。……両親が亡くなるまでは家庭も普通」
両親のことを言うときに少し申し訳なさそうな顔になるが、俺とは別の俺の両親だ。別に気にしてはいない。
「つまるところ俺が何であんな場所にいて、ISを所持しているのかまるで分からない。と言いたいわけだ」
頷きで返される。とはいえ俺自身転生してきたばかりだ。分かることは少ない。
「保護という名目ではあるけれど、キミは私達にとっては不審人物。私はキミのことを知っておく必要があるの」
道理だろう。全くわけのわからない人物を保護したいなどと思うような底なしのお人好しでなくてむしろこちらとしては安心する。
しかし分からないことを聞かれても困るというものだ。
「……まず、あの場所にいたことも、ISを手に入れていることについても俺はよくわからない。気付いたらあの状態だった。と言っても信じ難いと思うけどな」
「……ここ数日の記憶とかは?」
「曖昧にはある」
嘘ではない。俺本人のものとしてのそれではないが、一応記憶は断片的に受け継いでいる。
更識は少し考えるような素振りを見せる。
「……やっぱり分からないか。我ながら厄介なことになっちゃったわね……」
「危惧してるのは俺がどこかの国、もしくは組織のスパイであるとかそういうことだろ? 俺が信用できるかどうかはアンタが見て確かめてくれ。俺にはそれしか言えない。」
「悪い人には……思えないのよね。そんなに暗い眼をしてるのに精神はまともみたいだし」
……俺はそんなに暗い眼をしていただろうか。本当に鏡を見てみる必要がありそうだ。
「どうかな。表面上は装うなんてのはいくらでもできる。アンタは自分の甘さを自覚しておいた方がいい」
棘のある言い方になってしまう。やはりどこかで人を遠ざけるような言動を取ってしまう。
「そういうところ。言い方は悪いけど人のことを案じてる。違う?」
だというのに、何故こうも感情を読まれてしまうのか。つい目を逸らしてしまう。
「……さあな。アンタも表舞台の人間じゃないんだろ。それならちゃんと警戒しておくんだな」
「ええ。仮に貴方が牙を剥いてもまだISに不慣れな貴方なんて一捻りにしてあげましょう。生徒会長は学園最強なのだから」
何を言ってもこの少女はのらりくらりと躱してしまうのだろう。一つ溜息が漏れてしまう。
「取り合えず、貴方はしっかりと私達が見定めてあげる。それとは別に表向きは生徒会のお手伝いさんとして働いてもらうけどね」
「分かってる。当面は何をすればいいんだ」
「当面はとりあえずISの勉強と資料の整理ってところね。まだISに慣れてないでしょう?」
ISについては転生時の知識しかない。1から勉強できるならそれに越したことはないだろう。何より相棒のことをあまり知らないのはあまり好ましいとは思えない。
「ああ。正直ISに関してはド素人だ。一般的なことしか知らない」
「まぁ入学までの半年間もあれば十分知識は付けられるはずよ。ISの操作にも慣れておいてもらわないとならないし、時間はあるようでないわ」
「裏方の仕事に関わる必要はないのか?」
「そもそもキミが現れたのが私の動く案件としては久し振りなの。いくらIS学園とはいえ裏が動く事態はホイホイ起こったらまいっちゃうわ」
……本当だろうか。俺は人の本質を見るのは得意だが感情を読むのに長けているわけじゃない。
「……そうか。何かあったら呼んでくれ。生身での戦闘は常人には負けない。アンタには一応借りを返さないとならないからな」
「生徒会長は学園最強と言ったでしょう? キミが出る幕はない」
「アンタは甘い。非情になりきれない。そう言う眼をしてる。優しいのはいいことだが、いつか痛い目にあうぞ」
真っ直ぐに更識を見据えて言う。この少女は恐らく甘い。どんな場面でも人をなるべく殺さずに済ませようとするようなそんな人種だろう。
「だから、俺を呼べ。アンタみたいに表にいられる人間より、俺みたいなのがやった方がいい」
「……必要に応じてね。更識家の当主が手を引くわけにはいかないもの」
「アンタみたいなのはいつだって無茶をする。楯無の名のように楯を用意しないよりも、楯は有ったほうがいいものだ」
一つ溜息を吐かれる。
「本当に年下なの? 私よりもっと長く生きてるような気がしちゃうわ」
実際長く生きてはいるが、まぁわざわざ言う必要もないだろう。
「でも、さっき切りかかってきた人とはまるで別人ね」
「コイツを失いたくなかっただけだ」
指輪の姿に変わっているISを見せると、あっ、といったような表情になる。
「そういえばそのIS。もしかして人格があるの? さっきそのISからキミへの感情みたいなものを感じたの」
そんなことをしていたのか
「……まぁ隠す必要もないか。確かにコイツには人格がある。今は黙ってるけどな」
驚いた。というように目を丸くする更識。確か篠ノ之束はISの人格について公表しているが、事例がなくて信じられていないんだったか。レーヴァテインが特殊な例なんだろう。
「だから、あんなに雰囲気が変わったのね。その子を守るために」
『やっぱり仁も優しさも甘さも昔のままですよ』
ニッコリと笑顔を見せる更識と、意識の向こうで満面の笑みのレーヴァテインを見てつい頭を押さえて溜息を吐いてしまう。
「俺のことはいいだろ全く……」
「安心したよ。私にはやっぱりキミが悪い人には思えない」
「一方的に信用するのはいいが、俺がまだただの不穏分子ってことを忘れるなよ」
「勿論。じゃ、お邪魔したわね。また呼びに来るわ」
どこか機嫌が良さそうに立ち上がる。あまり人を信用しない方が身のためだというのに。
「あ、そうだ」
くるっとこちらに向き直る。
「先輩は敬いなさい。後輩君?」
「今更か……分かりましたよ更識先輩」
先輩というところを強調して返す。
「うん。素直でよろしい」
満足そうに更識は帰っていった。
『どこか掴みどころのない人ですね』
「ああ。だけどアレは自分を隠してるだけだ」
『ええ。きっとどこかで抱え込んでる。そんな感じです』
「それなら俺が貸しの分は支えてやるさ。……生徒会長なんて明確な重要人物に関わるのはなるべく避けたいんだが」
『無理ですよ。その性格じゃ』
少しだけレーヴァテインの表情が曇ったような気がした。気のせい……ではないはずだが、なぜかはわからない。
この日のうちに非常に分厚い参考書が届けられた。まとめて送られた扇子には『予習』と書かれていた。普通に紙を使う気はないのか……。
自分が書きたいように書くと決めて書き出したものの、UA数やお気に入り数を確かめに行ってしまうのは書く側の悲しき性。
完全な一人称視点で書くのは久し振りでなかなか慣れませんね。
では、お気に入り、感想等よろしければよろしくお願いします。
次回もよろしくお願いします。