救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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今回も短いです。別に毎話6000文字書かないと死んでしまう病気にかかっているわけでもないので区切りがいいと思ったらそこで出してしまいます。


価値に見合う"私"

-- SIDE ラウラ・ボーデヴィッヒ --

 

 目を開けると、白い天井が目に入った。アリーナならば目に入るのは透明なシールド越しの空のはずなのだから、ここはアリーナではないのだろう。

 

「ようやく目が覚めたか」

 

 ここ(IS学園)で滅多に聞く事がないであろう筈の男の声に、一瞬身体が固まる。聞いた事がある声ではあれど、アレだけのものを見せられて平然と顔を合わせるのは、少しだけ難しい。

 思えばあの時(精神世界)の私は酷く揺らいでいた。いくら凄惨で常識外れな光景を実際にあった事だと理解したとはいえ、アレ程にあの女性に心を許そうとするとは。しかし、それだけ彼女が私に向けたものは心地の良い――。

 

 ぶんぶんと頭を振って考えを霧散させる。そこは論点ではない。

 頭を振ったら腹部や胸部に突き抜けるような痛みを感じ、僅かに呻き声が漏れた気がするが、考えの波は納まらない。

 

 しかし彼女のせい……おかげで色々と考え直す事ができたのは事実だ。あの世界が崩壊するまでに、私が意識を失う前の少しの時間とはいえ、私というものを見つめなおす事ができた。

 

「大丈夫か? ボーっとしている様だが」

 

「……大丈夫だ。問題はない」

 

 初めてあの男……欄間仁に視線を向ける。眼鏡は今はしていないらしい。

 今は右目を垂れ流した一房の髪で覆っている様だ。身を乗り出そうとして、今度こそ全身の痛みに顔をしかめる。

 

「無理に動かない方がいい。今のお前の全身はボロボロ。筋肉疲労に打撲だけならまだしもあちこちの骨にヒビが入っている。尤も、ここの医療技術ならば安静にしていれば一月も掛からず治るだろうが」

 

「くっ……」

 

「動けないついでに、聞きたい事でもあれば答えるが」

 

「……出来事は大体覚えている。あの後何がどうなった」

 

 目の前の男は、表情を一切変えずに残った左の瞳でこちらを見つめる。

 思えばあの時は瞳にばかり意識が行ったが、以前のこの男は表情もよく出ていたように思える。口調ももう少し砕けた感じだった。徐々に今に近付いていったようだが。人との付き合いを自分から避け、近寄ってきた相手を遠ざける為の策の1つとしてそうしていったのだろう。

 尤も表情、特に笑顔に関しては別に事情があるように思えたが……。

 

「機密事項ではあるが……当事者なら問題あるまい。まず、今日はアレから三日後だ。学年別トーナメントは中止。開催期間の一週間は教師陣や生徒会による事態の収拾も兼ねた休日になった。……ああいや、一応全ての一回戦だけは行うという事になったか。お前が使用したVTシステムについてはドイツ軍への問い合わせとIS委員会による強制捜査が行われているそうだ。まぁ一戦やったら一般生徒からすればただの休日に過ぎないな」

 

 そうだ、VTシステム。存在については知っていたし、研究・開発・使用全てが禁止されているのも周知の事実だ。だというのに私はそれに頼ってしまった。一瞬でも教官と同じ力を手にするのが心地良かったのだ。

 無意識にシーツを握る手に力が入る。しかし同時にその腕から悲鳴が上がり、今度は奥歯を噛み締める。

 

「力を求めるのは悪い事ではない。だが今回は頼ったものが悪かったな」

 

「……そう、だな」

 

「そう気にするな。高校生程度の一度の過ちなんて気にしていたら身が持たない」

 

 随分と達観した事を言う。いや、確かに百数年以上も生きていればそういう意見になるのかもしれないが。

 

「気に、しているわけでは……」

 

「その瞳の揺らぎを抑えてから言う事だな」

 

「くっ……」

 

 闇色の瞳に穏やかな色を灯しながら人を見透かし心配するような事を言う。この男の本来はそういう部分が大きい男なのだ。それでよく人を遠ざけられると思ったものだ。

 

「お前による被害はアリーナの修復程度だ。以前既に壊れていたとはいえアリーナシールドを切り裂いた織斑と大した変わりはない」

 

「そうか……」

 

 身体の痛みは一時引いた。ふう、と1つ息を吐いて闇色の瞳を見つめ返す。

 

「……お前は、私に何も聞かないのか」

 

「何を聞くんだ?」

 

「私は、お前の過去を見たのだぞ。アレだけのものを見られて、気にしていないのか」

 

「その分レーヴァがお前の過去を見た。俺は直接見てはいないが話は聞いた。それでイーブンでいいだろう。お前以外にも見た人間は1人……いや2人になっているかもしれないが、いるからな。今更気にはしていない」

 

 私の過去とこの男の過去がイーブンでなどあるものか。あまりにも積み重ねた時間が違い過ぎる。私の今までの道は確かに過酷だったしそれを譲るつもりはないが、この男はその私の10倍、ともすれば20倍は長い時間を生きている。

 だが、本人がいいというのならばいいのだろう。ここで反論しても仕方がないだろう。

 

「そうか……そうだ、彼女はいないのか?」

 

「彼女……レーヴァの事か。アイツは今整備中だ。専業が2人共忙しい上にまだ俺1人では整備ができん。どうにも時間がかかる」

 

 それは残念だ。素直にそう思った。原因の一端は間違いなく私なのだが。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「……なんだ」

 

「自分に自信が持てないか?」

 

 どうなのだろうか。"私"は今まで強くあった。"私"という1人の軍人としては、自信があった。

 だが、"ラウラ・ボーデヴィッヒ"としてはどうだろうか。"ラウラ"という個人は力が無ければ成立しないと、ずっとそう思っていた。力が無ければ無価値なのだと。

 しかしそれは彼女によって否定された。"ラウラ"が無価値であるならば、"ラウラ"を慕う者達はどうなってしまうのだと強く言われ、部隊の者達が今まで私に向けていた、気付かないフリをしていた感情に気付いた。

 であれば、"ラウラ"には力が無くとも価値はあるのだ。部隊の者達が慕うだけの価値があるのだ。

 

「自信は、わからない。まだ、私自身戸惑っている」

 

 だが。価値があるのならば。

 

「それでも、私は」

 

 返す言葉は決まっている。

 

「私の価値を、信じてみようと思う。部隊の皆を裏切るようなのは、もう嫌なのだ。"ラウラ"の価値に見合う"私"を、これから探す」

 

 目が少しだけ細まる。

 

「そうか。それならお前はラウラ・ボーデヴィッヒなんだろう。何、時間はまだまだある。IS学園生徒会は、疾うにラウラ・ボーデヴィッヒを生徒として迎える事で決定している。この三年間は外からの干渉を気にすることもない。完璧にというわけではないが」

 

「……三年で見つかればいいが」

 

「見つからずとも人の一生は長い。そう難しい話ではないだろう?」

 

「そうか……そうだな」

 

 ……この男、話してみれば本当に言葉の節々が優しい。本当に何故これで人を遠ざけられると思ったのだ。そんな本質によって初動を間違えた故にこの世界では人が集まるのだ。それがこの男に対して幸なのか不幸なのかはわからないが。

 

「これで俺の仕事も一区切りだ。動けるようになるまでは療養する事だな」

 

「どうせ動けん」

 

 動けば全身が悲鳴を上げる。己への戒めとしては、まぁ悪くない。

 

「お前は、どうするのだ?」

 

「俺も多少は療養が必要でな」

 

 そう言いながら右眼を覆う髪を持ち上げて見せる。右眼は閉じられているが、言葉から読み取るに右眼を痛めているようだ。

 この男の右眼にどんな力があるのかは詳しくわからないが、私の越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)よりも難儀なものらしい。見せられた記憶からすると視力も落ちている様子だ。

 

「そうか……すまなかったな」

 

「今回の一連の事は生徒会としてやることをやっただけだ。謝られるような事じゃない」

 

 欄間仁が席を立つ。ここで周りを見てみるとどうやら医療施設……所謂保健室の様だ。

 

「目を覚ましたとなれば取り調べや事情聴取で少々騒がしくなるだろうが、一種の戒めのようなものだ。甘んじて受け入れる事だな」

 

「言われるまでもない。自分がしたことの罰くらいは受けて然るべきものだ」

 

「まぁどうせ生徒会長の一声があればすぐに解放される。じゃあな」

 

 それだけを言って部屋を出て行った。部屋に静寂が訪れる。

 酷く静かだ。今までも音のない静けさなどいくらでも感じた事はあるというのに、色々気が付いてしまえば途端にそれは今まで感じたものの数段強い孤独感に囚われる。

 言ってしまえば、寂しいのだろう。我ながらこれほどしおらしくなってしまうとは。

 

 私の荷物は……アリーナに置いて来ていたバッグごとベッドの横に置いてあるようだ。悲鳴を上げる身体に鞭を打つように中身を探る。

 

「……今更頼る、か。情けない話だ」

 

 だが、久し振りに聞きたくなってしまえば最早止まらない。

 向こうにいる時の仕事以外のプライベートな時間に、黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)副隊長……クラリッサ・ハルフォーフによって語られた日本の話は、あの時は鬱陶しいだけだったが、どうしてかこうなってしまうと恋しいものだ。

 

 思わず零れた苦笑と共に、周波数を合わせた無線機を繋げた――。




千冬さんの「お前は誰だ?」に対して、自分はラウラ・ボーデヴィッヒであると返せずに、ならばこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるといい。と返された原作のラウラとは違い、ここでのラウラはレーヴァによって気付かされた自分の価値を信じる事で、"ラウラ・ボーデヴィッヒ"である"自分"を磨いていくことを選択しました。

今回は脳内プロットがあったわけでもなく書きながらリアルタイムで考えてましたけど、まぁ悪くない落ち着き方をしたんじゃないかなと思っています。少なくとも私は。

ちなみに仁ですが、過去を知られた分ラウラに対して少し口が軽いです。ラウラ視点で書く関係上いつもより口数を多くする必要もあったので丁度いい感じでした。

では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。
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