そしてお気に入り300突破です。ありがとうございます。何か記念に書きたいなぁという気持ちもありつつ、ネタがまるで浮かばないなぁとも思ってます。いずれギャグな閑話的な感じで束さんとかの裏話をしてもいいかなーとは思ってますけどね。NG集とかそういうやつです。
―― SIDE 篠ノ之束 ――
命を燃やす。とはよくいったものだ。
それは本来"全身全霊"だとか"一生懸命"だとか、そういう意味で揶揄されて使われる言葉だ。決して本当に命を燃やしているわけじゃないし、普通そんな事ができる人間なんていない。精々が疲れ果てて眠りこけたり、動けなくなったりする程度だ。
実際私もISを初めて開発するまでの道のりは酷く険しかったし、それに生きがいを感じたし、私の全てを打ち込んだつもりだった。けど実際に私の寿命が短くなったかと言えばそんな事はない。むしろ応用開発の道具やナノマシンで絶対伸びてる。
強いて言うなら極度の寝不足といくらかのナノマシンの副作用で身長の伸びがピッタリと止まっているくらいだ。箒ちゃんと同じくらいの身長でほぼお揃いなのはいいけど、折角お姉ちゃんならもう少し欲しかったと思わないでもない。いっそ逆にもう少し小さくてもよかったかもしれないけど。
色々考えても本題は私の事じゃない。仁くんだ。
取り敢えずまだ彼の視力が落ちたのは確認した。アリーナシールドを変形させた能力でなくても使い過ぎると視力が落ちるらしい。例の能力に比べると落ち方は緩やかだけど見逃せることじゃないね。彼もすぐにそれは自覚するだろう。だからってそれを使うのを止めてくれないから困るんだけど。
眼鏡が自動的に度を合わせるから失明しない限りは彼の視力は問題ないけど、このままだと間違いなく失明する。
くーちゃんの【黒鍵】のように生体同期型のISを作る事も考えたけど、1人に2つのISは持たせることは基本できない。
これを誰かに説明するなら少し長くなるね。私の中でもまとめておこうか。
本来ISは宇宙空間での活動を目的に、ロケットや射出機を必要とせずに宇宙へと飛び立つための翼として開発した。だけどそれだけじゃない。それだけならコアに人格なんてものは必要ない。
まず、ISはコアの莫大な処理能力と柔軟な吸収性があってこそ実現している。前者は搭乗者や今いる空間の情報含めた多くの情報を同時に処理するため、後者はその空間で適応し、搭乗者のバイタルを保ちつつ行動可能とするため。既存のコンピュータじゃ到底間に合わない。これらを実現するために超高度なAI人格が必要だった。自分自身の寂しさを紛らわすためにコア人格を作ったのも否定はしないけど。
しかしそれだけじゃ足りなかった。【白騎士】を作ってすぐに宇宙へと旅立たなかった理由の中の1つだ。
ISコア人格の性能を100%出しきれていなかった。計算すればすぐわかる。このまま
何がISにとって必要だったのか、白騎士と話した当時の私はすぐに辿り着いた。
それはISと搭乗者の信頼関係だった。本来意識下で話す事のできないISと、頭の中でその声を拾って相互会話するという人間の理解を超えた現象を引き起こす事が最低条件だ。
まるでイルカの超音波をリアルタイムで理解して、そして超音波を返してイルカと会話するみたいに人間の器官ではありえない事だ。でも実際私は白騎士とそうして話した。
でも白騎士とは
しかしひとまずISは完成した。白騎士が実用段階に来るときにはもう何人かの娘も人格を持つに至っていた。全てのコアと関係良好とは言えなかったけど。
私も時間さえかければ娘達との関係は良くなる自信はあった。けど少しでもそれを速めたかった。それが成った時に私が肉体を持った篠ノ之束としてこの世界にいなければ意味がない。
だからISの有用性を世界に示した。全世界にコアを分配し、そのコア達と関係を深めていき、そして
アレから約10年。結局そんな存在は現れていない。仁くんに言わせれば「確かに人間は愚かな一面もあるが、アンタのやり方も悪かった」だ。
今思えばそうだっただろう。"兵器"としての有用性しかあの時の私は示さなかった。いや、あの段階ではそれしかできなかった。
数年経った頃には私ももう諦めていた。そして世界を信じなくなった。
他人に興味が無かったのは元々だったけど、それがより顕著になった自覚がある。人間達を信じるだけ無駄だと思っていた。
やがてコア人格達とも話せなくなった。向こうが声を出すのを止めたのではなく、私がその声を拾えなくなった。拾わなくなった。
そこからは、僅かな興味を満たすために動き、暇さえあればその興味を利用して何か暇を潰せることを探したり、いっくんやちーちゃん、箒ちゃんを見たり。生産的とはとても言えない状態だったね。
そんな時、突如として世界に現れた謎のIS反応。すぐに興味を揺さぶられた。
ついに私以外にISを作れる人間が現れたのかと歓喜した。ようやくこの私と肩を並べる存在が生まれたのだと。そういう人間がいるのなら張り合いが生まれるし、人間はコア人格との関係をどうするのかとか色々考えた。
しかして現れたのは1人の少年と見知らぬコアに見知らぬ機体。すぐに調べ上げたら一般家庭の生まれで、両親が亡くなるまでごく平凡な人生を送ってきたことがわかった。ただ、不可解な点はいくつもあった。
その日まで着た事もないだろう黒のコートを羽織り、裏路地で座り込んだ。そこまではいい。まだ理解できる。
しかしそこで突然IS反応が生まれた。この時点でわけがわからないというのに、更識の当主に向けるために上げた顔付きすら以前の写真とは合わなかった。
目付きは酷く鋭く、その奥に輝くのは闇色の瞳。とても普通の人生を歩んできた人間ができる顔じゃなかったし、そもそも以前の"欄間仁"はそんな眼をしていなかった筈。
それ程擦り切れる理由があるとは思えない。全くの別人とすら思った。その上どう見てもISと会話している。
あまりにも不可解。この私をもってして全くの理解不能。それでいてそこまで意味不明だというのに私以外でISと話せる人間だなんて、違う意味で興味が芽生えた。
だから会いに行った。少し時間はかかったけど。
そこで見たのはあまりにも重いものだった。私ですらまだ成していない世界線の移動や、年齢変化は勿論として、それを行っているのが"カミサマ"と来た。あまりに理解が追いつかなくて混乱したのか、柄にもなく同情と呼ばれる感情を持った。
そしてどうやらISを大事にもしてくれているらしい。私の直接の娘じゃなくてもISであるなら義理の娘だ。相棒だといい、お互いに素晴らしい信頼関係を結んでいる彼らは純粋に嬉しかったし、眩しかった。
彼は私の夢も理解してくれた。ちーちゃんでさえちゃんと理解できなかったそれを理解できた唯一の人。私にとって、唯一の理解者。
普通"篠ノ之束"といえば誰もまともに接しなんてしない。腹に打算を隠し持っているか、捕まえに来るか、利用しに来るか。だというのに彼とレーヴァちゃんは対等に話してくれた。過去を知られているから吹っ切れているようにも見えたけど、それでも私にとっては嬉しい事だった。
技術力では私に遠く敵わなくても、私と肩を並べる事ができる存在。肩を並べるだけなら全ての面で対等である必要なんてなかったんだと、彼と接しているうちに気付いた。
おかげで私も夢を思い出せた。勇気を振り絞って、声が届かなくなってからは殆どまともに使わなかったコアネットワークに再接続した。
いくつもの、声がした。誰かを信じる事ができたからなのか、白騎士を除く466と少しの番外コアの娘達の声が届いた。
喜んだり、怒ったり、心配してくれたり、娘達は個性的に私を迎えてくれた。まだへそを曲げてる娘はいるけど、本心で嫌われてるわけじゃないのはわかってる。
全て彼のおかげだ。彼がこの世界に来てくれて私は救われた。彼は「自分が変わるのは自分のおかげだ。俺のおかげじゃない」と言うけど、彼がいなければ、自分が変わる切っ掛けすら生まれないのだからそれはやっぱり彼のおかげなんだろう。
さて、話を戻そう。
要は当時の私は搭乗者とISの信頼関係を1対1で築いていってほしかったんだ。だから1人に2つのISは成立しない。コアの娘達がお互い了承している場合だけ成立する。そうなるように作った。
『コッチの方が性能がいいからコッチに乗ろう』なんていうのは搭載しているコアにあまりにも酷だ。彼女達もその機体が気に入っているとも限らないのに、その上更に捨てるような真似は許さない。だから専用機として登録したISを捨てる事はまず許されない。新しいISを専用機にする事はできない。その際には適応が上手くいかないように作っている。何せ"専用"機なんだからね。コアを引き抜いてそのコアを再利用するなら話は別だけど。
まぁ、これらも最近思い出したんだけどね。
そんなわけで彼に二機目のISとなる生体同期型のISを作ってあげる事はできない。彼のためなら、と名乗りを上げるコア人格も何人かいるけどその度に説明して落ち着かせている。
実際私だって彼なら二機目も大事にしてくれるだろうなんて事はわかっているしそう信じてる。けど今はまだ駄目なものは駄目。彼にはレーヴァちゃんがあまりにも似合い過ぎてるしね。
さて、次だ。"命を燃やす"という言葉にあまりにも合っているのはこっちの方だ。
彼の身体はあちこちがボロボロだ。見た目的にじゃなくて、神経とか筋肉とかに綻びが生まれている。
最初にこっそりスキャンした時は何もなく、次に見た時は右腕が、そして今では右腕が進行し、右足、それに左足に少し綻びが増えている。
これらの部位に共通する事がある。彼の"心意"という能力だ。心意を使ってなんらかの奇跡を起こした事のある部位がこれらの部位に該当する。
訓練の時に暴発した右腕。その後で無人機事件の時に使用した剥き出しに近い状態だった右腕と、完全な生身だった右足、そしてISによる保護の上から使用した左足は僅かに。特に右足が酷い。生身で最大に近い出力で使われただろう一回目のあの
私のナノマシンで少しはマシになってるみたいだけど、非常に効きが悪い。やっぱりナノマシンを含めた医療技術をある程度無視するらしい。
今は彼自身にも自覚症状無し。問題なく右手を使うし歩いたり走ったりする事もできる。けどこれも時期に動かなくなる可能性がある。
なにせ神経や筋肉の問題だ。このままだと激痛と共に動かなくなるか、感覚を無くして動かなくなるかのどちらかだろう。
多分レーヴァちゃんもわかってるだろう。あの子は仁くんの身体の事についてなら仁くんより詳しい。なら仁くんにも伝わっているだろうけど、恐らく彼はそれでも構わないと、周りの誰かを守るためになら喜んで心意を使うだろう。そういう人だ。
この心意という力だけは本当に全くわけがわからない。レーヴァちゃんに聞いたところ『自身の意思によってイメージを練り上げ、そのイメージに沿うように事象を上書きする力』なんだそうだ。彼女に言わせれば本来の"心意"という力とは少し異なるものだと言っていたけど、私は本来の心意を知らないためそこはわからない。
よくわからない力だけど、確実にわかるのは、『この現実世界において、事象を上書きしてもその過程は残る』という事。仁くんが『どんなものよりも速く動く』という心意を使ってとてつもない速度で移動したのなら、『欄間仁が動いた』という過程は残る。過程があるのならそれは『仁くん自身が異常な速度で動いた』という結果に繋がる。
それがどういう事かって言うと、それは彼の足に現れてる。人間の本来出せる速度を軽く超えた移動の代償は、仁くんが異常な速度で動いたという結果を持って彼の足に反動という形で残る。
本来この世界でなら治療可能な筈の身体の綻びでも、あまりにも深いダメージと、刻み込まれたイメージによる事象の上書きで治療が滞る。
滞るだけだから時間さえかければ少しずつ治っていくけど、仁くんはそれを待たずにまた心意を使うだろうから難しいだろう。神経と筋肉が完全に死んでしまえば生身のままでの治療はほぼ無理になる。
かといって『絶対に使わない』なんて事もできない。立場が立場だ。
いっそ完全に義手義足にしてしまえば両腕両足の心意は使えなくなる代わりに傷になる事も動かなくなることもないんだけどなぁ。
『流石にそれは駄目かと』
「だよねぇ」
対面してるモニターに映ってるのは黒鍵のコア人格。見た目や声は黒髪に変わっただけでくーちゃんと殆ど同じ。強いて言うなら両眼を開いている事と首から鍵型のネックレスを下げてる。綺麗。
生体同期型なのとコアとしても新しいからなのかくーちゃんに似たらしい。くーちゃんの眼として機能している事もあってか見ているものや感じる事も概ね同じらしいし、黒鍵に質問して、同じ質問を別の時にくーちゃんにすれば同じような言葉が返って来る。
ただ黒鍵の方が素直かも知れない。467個の正式なコアの後に作った番外の娘って事もあって少し精神的に幼いのかもしれない。これはこれで可愛い。
くーちゃんはまだ黒鍵と話せないらしい。黒鍵からはちょいちょい話しかけてるみたいだけどまだ届かないとか。でも黒鍵に言わせるともう少しな感じはしてるらしい。
くーちゃんと黒鍵の距離が縮まったのも仁くんと出会ってかららしい。4月頃だね。要は束さんと同じようにくーちゃんもいい意味で刺激を受けたという事だろう。
ちなみに今はくーちゃんには休んでもらってる。黒鍵の能力は長期使用には向かないため疲労が溜まりやすい。
わたしかくーちゃんのどちらかがラボにいればひとまず隠蔽能力はフル稼働できる。だからくーちゃんや黒鍵には休んでもらってるってわけだ。アレから数日たっているとはいえ無理をさせるのは好ましくないしね。
「フォローは惜しまないって言ったけどさぁ。束さんが彼にしてあげられる事って実は多くないよねぇ……」
『いざ頼られた時に役に立てればいいのではないですか?』
「彼が頼ってくれるケースが少ないからねぇ。大体自分で何とかしようとするから無理矢理首突っ込まないとならないんだよ」
『正直随分と心を許してくれているとは思いますけど』
「普段より私達と話してる方が口数は多いからねぇ。でもそれはどっちかというと吹っ切れって感じだしさ」
過去を知られているが故の吹っ切れ。つまり『コイツらを遠ざけようとしてももう無駄である』と思われてるって事だね。その通りだよ仁くん。離れるつもりはないからね。
「ホント言うと笑ってほしいんだけどなぁ。見たいからっていうのもあるけど」
彼は本当に笑わない。特に無人機事件以降は苦笑もしなくなった。戦いを楽しむ心はあるみたいで、サウジアラビアの子との試合では僅かに口元が緩んだけどそれくらいだ。
私が思うに、彼は笑えないのではなく、笑おうとしていないんだと思う。
無意識に自分が笑ったり楽しんだりする事は許されないのだと思っている節があるのかもしれない。ちょっと見ててこっちがキツくなってくるね。レーヴァちゃんが頭抱えるわけだよ。
「彼の記憶の虫食いさえどうにかなれば、わからないんだけどなぁ」
レーヴァちゃんは多分それを目指してる。彼女だけが知ってる彼の記憶。今のようになる前の彼自身。
彼女から伝えるのは簡単だ。だけどそれだと意味がない。彼自身が思い出さなければ、外付けのそれは別の誰かの記憶と等しい。
『しばらくは、難しいかもしれませんね』
「そうだね。でも時間は沢山あるさ」
彼の転生はその世界でやるべき事を終えた時か彼が死んだ時に起こる。なら、彼自身がまだやるべきことがあると思ったのならばそれは起こり得ない。
そして彼はこの世界で絆を育んだ。
彼にいて欲しいと願う人がいれば、彼はどこにも行けない。だからまだ時間はある。私が彼と離れたいなんて思うわけがないのだから。
「まぁ今は……」
別のモニターに彼の場所を映し出す。場面はお昼。生徒会室に移動した彼の後ろに付いて来るのは杖で身体を支える銀髪のチビッ子軍人、ラウラ・ボーデヴィッヒ。くーちゃんとの関係は、今は語らなくていいだろう。
『欄間仁!』
『……ボーデヴィッヒか。まだ安静にしていろと言った筈だが。なんだ?』
『姉様はいるか?』
『……姉様?』
『レーヴァテインの事だ。いるのか? いないのか?』
『ああ……いるが。何故そんな呼び方なんだ』
『日本では自分が慕う女性の事を"お姉様"と呼ぶのだろう? だから私にとって彼女は姉様だ。教官は教官だがな』
『……どこで聞いた?』
『クラリッサからだ』
はぁ。と溜息を吐きながら頭に手を当てる仁くん。
『
『ああ。姉様のおかげだ。だから以前言えなかった礼を伝えたいのだ――』
黒鍵に顔を戻す。
『今は、まだいいかな。ですか?』
「そうだね。少しずつ少しずつ、ね?」
彼は闇色の眼のままではあるけど優しい眼をできるようになった。私や生徒会の子達じゃないとわからないくらいの差だけど、彼を見てる身からすれば大きな進歩だ。今ラウラちゃんに向けた眼はそういう眼をしている。
だから少しずつでいい。今は、これでいいかな。
……ああ、ラウラちゃんの呼び方決めとかないとね。
束さんの真面目な方の閑話的なそれでした。話は進んでいません。福音編が上手くまとまらないのが悪い。
今回のISと束さんの設定は、あくまでも"この作品では"このようにした。という事なので悪しからず。
ラウラはこんな感じ。実はレーヴァを『姉様』『お姉様』と呼ばせる案は随分と前からありましたが、実際ぶち込んでみました。ハルフォーフ副隊長から教わる日本は随分とアレなアレなのでラウラの中の日本が歪むのはお約束。これ仁視点で書いたら多分レーヴァは脳内会話で「ふぁーwww」ってなってると思います。
黒鍵はクロエさんに似る感じになりました。番外コアって若いだろうし、生体同期しているクロエさんに似るのは自然かなーって感じです。真顔ダブルクロエ、もしくは微笑みダブルクロエです。可愛いと思います。
ちょこちょこ日間ランキングに乗るようになってきましたが、それでもあまり気を張らずに書いていきたいですね。前作は結構伸びてそういう緊張で書けなくなった時期があったので、自分で書きたいものを気紛れで書いていくのが一番なんだなぁと実感しました。変に意識したらいい物掛けなくなっちゃいますしね。そんな感じの緩い筆者ですがこれからもよろしくお願いします。
では次回もよろしくお願いします。
感想等お待ちしております。