救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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非常にお待たせしました。社会の荒波にもまれてて暇がなかなか取れなかったのです。
さて、平成最後の投稿となります。平成生まれとしては少々感慨深かったり、そうでもなかったり。
では、どうぞ


ヒーローとは

「ふむ……」

 

 放課後。生徒会室で計五人の生徒会役員が資料の山と格闘を終えた少し後だ。

 いつもなら鍛錬をするにも少しは時間を空けるものだが、今回は少々話が違う。

 

「【夢現(ゆめうつつ)】は元々内部機構に問題はない。【春雷(しゅんらい)】もアレだけ行き詰っていたのにもう実用段階か……出力を随分控えめにしたな」

 

『荷電粒子砲含め、エネルギー兵器の類はどうしても燃費が悪いですから、いい選択だと思います』

 

 VTシステムの事件からもそれなりに時間が経ち、ボーデヴィッヒは被害者という扱いとなった事でクラスでのしがらみも無く溶け込む事ができるようになったようだ。俺の周りで言うのなら夜竹と話しているのをそれなりに見る。以前一度煽った事で私闘に発展したオルコットもなんだかんだで関係は悪くないようだ。

 本音は事件の後一週間後の登校初日に少し俺がなだめる事にはなったが然程の問題ではないだろう。

 

 俺の右眼も黒色に戻り痛みも消えた。と言っても今現在使用中だが。

 

 その右眼で何をしているか。使う時はISを前にするのがほぼだ。そして今回俺が対面しているのは【打鉄弐式】。つまり簪の専用機。それの調整という事で生徒会室から連れ出されたというわけだ。

 どうにも簪は弐式の事を本音や虚よりも俺に聞く事が多い。確かに整備に付いて学びはしているが、本職のような2人に比べれば雲泥の差だ。ならば何故俺に聞くか。答えはそう多くはないだろう。

 

 1つは、実戦における視点だ。生徒会の中で言えば間違いなく俺が一番戦い慣れている。俺に弐式の事を相談する時は、データや理論ではなくそういった実戦での挙動や効果といったものを参考にしようとしているのだ。

 そしてそこから連想できるのは、簪もまた強くなりたいと思っているという事だろう。彼女はなんだかんだ言って姉に似て負けず嫌いだ。姉に守られていた事を知った今、自分も姉を支えられるようになりたいと思うのは、きっと彼女にとって必然だったのだろう。

 

 もう1つは……彼女の気質、と表現すればいいだろうか。

 彼女はあまり自分の欲を口に出さない。物静かとも、謙虚とも取れるがどちらも違う。

 人並みに欲を持ち合わせているのにそれを口にしない。つまりそれらを自分で抱えておくことが多いという事だ。先の『強くなって姉を支える』というのも別に彼女が口にしたわけでは無く、俺の所感に過ぎない。

 だが、人の感情に敏い本音に聞いてみればそのくらいはすぐに確信へと変わる。要は簪は不器用なのだ。

 

 自分の心を誰かに伝えるよりも行動が先行する。楯無に追いつこうとしていた頃から変わらない。あの頃もきっと誰かに相談などせず、自分1人で弐式を完成させようと思い立っていたのだろう。

 

 話は戻り、そんな彼女がこうしている理由。それはきっと、『俺の近くに立って同じ景色を見る』という事なのだろう。彼女なりの好意を示す行動。自分が満足するための方法と言い替えてもいい。

 

 思うに、彼女もまた恋色沙汰には疎いのだと思う。自分の感情の1つの制御ができていないからこそ、自分が満足する方法を取りたいのだろう。『近くにいる』。それだけで彼女にとっては満たされる事なのだろう。……やはり、俺にはわからない。

 応えてやらねばならない。と思う気持ちがないわけでは無いのだ。だが、俺自身がそういったことがわからない。()()()()()()()()()()。我ながら、酷い男だ。

 以前、レーヴァに言われた事がある。

 

『仁は恋とか、愛とか、そういうのを考える余裕が今はないんですよ。言ってしまえばいつも精神では極限状態。その世界で確かに活きているのに自分が幸せに生きようと思っていない。そういうところ、あんまり好きじゃありません』

 

 とのことだ。

 それが欠如しているという事は人間として少々壊れているという事だ。仕方がない。とは思わない。その時の記憶が殆ど無くとも転生の道を選んだのは間違いなく俺なのだから。

 

 ……さて、俺の事はいい。現状としては、篠ノ之束による右眼の解析の際に居合わせた事でいい加減隠せなくなった俺の右眼の事は話す事になり、俺の右眼の能力は既に越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の一種という認識で生徒会役員の間では周知のものとなっている。何故越界の瞳が仕込まれているのかだとか、そういった詳しい事まで現状は掘り下げようとされなかったのは幸いだろう。

 代わりにこういった整備には便利であるため、稀にこうして機体の調整や損傷部の詳細な把握のために呼び出される事がある。今回もその例に漏れなかったという事だ。

 

「アイーシャに……意見と取り切れてなかったデータを貰ったの。学年別トーナメントの後から、結構手伝ってもらってる」

 

「成程。確かにサレムの【アルラサス】の荷電粒子砲は低コストで連射可能。そうなると春雷の二門連射型というコンセプトには噛み合うか」

 

 サウジアラビアの技術となるだろうそれを簡単に渡していいのかと疑問に思いはしたが、サレムの性格を鑑みればそれほど重くも考えていないのかもしれない。

 そもそも彼女はサウジアラビアという国というよりはISという存在や自分の機体そのものに心を寄せている節がある。そこでそのアルラサスを頼るような形で簪が頼めば、彼女がいい気分になるのも納得と言える。

 

「そう。アイーシャや本音達のおかげで、なんとか春雷は形にできた。だけど……」

 

「問題はやはり【山嵐】か」

 

 右眼の能力を止めながら会話を続ける。

 

「うん……」

 

 山嵐は誘導ミサイル6発×8門、計48発の1発ずつを全てマルチロックオン・システムでもって独立稼働させる事を実現するのが理想形だ。つまり現在の通常のロックオン・システムによる8門それぞれの独立稼働だけでは足りない。

 全てを自力でロックオンさせる事は簪の腕ならば可能だろうが、戦闘中にそんな事をしている暇はなく、そもそもそんな難易度のプログラム入力を戦闘中に最速でするとなれば、両手のみならず両足の装甲を解除して合計20の指で操作しなければならない。簪の演算能力や処理能力ならば可能ではあるだろうが、そもそも被膜装甲(スキンバリアー)があるとはいえ敵の前で生身を晒すなど言語道断だ。装甲が無ければ当然シールドエネルギーへのダメージは跳ね上がる。

 実際にサレム・音無ペアとの試合の時は一部除き手動でロックオンして見せたが如何せんかかる時間が時間だった。

 

 しかしここから何が問題になるかというと、操縦者の思考での完全な独立稼働を目指すためには第三世代技術であるイメージインターフェイスが必須となる。これを個人で開発するのは非常に困難だ。

 俺が眼鏡で記録を取り、その記録を元に篠ノ之束に情報を貰いに行くのが一番早いのかもしれないが、それでは簪の『自分達で完成させたい』という気持ちに水を差す事になってしまう。それでは駄目だ。

 

「現状イメージインターフェイスかそれに近い物でデータが取れるのは、俺やオルコットのBT兵器、凰の衝撃砲、ボーデヴィッヒのAIC、織斑の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)に楯無さんのナノマシン。この辺りか」

 

「……微妙に山嵐には噛み合わない」

 

「そうだな。どれもこれもロックオンするものではなく、追尾の参考にはなり難いか」

 

「意識的に軌道を変化させるBT偏光制御射撃(フレキシブル)ができる人がいたら……もっと参考になったけど……」

 

『私達の射撃は単一仕様能力によるもので少々勝手が違い、セシリアさんもまだ少し遠い。セシリアさんでまだなら当然ながらこの学園にはBT偏光制御射撃の使い手はいない。そうなると学園内で既存の第三世代技術を参考にするのは難しいですね』

 

「……ここに来て、完全な自力開発」

 

「ここまで来ると最早1つの小企業だな」

 

 自力で第三世代技術の開発となるとプロの研究所や開発企業と似たような事をやる事になってしまう。どこの世界で学び使ったのか、あるいは記憶にない程昔から備え持っていたのかは曖昧だが、俺もそれなりのプログラム等の技術は有しているのだが、流石にISの技術となると他の世界とはレベルがいくつも違う。

 学園の整備科の開発能力や技術も高レベルであるため開発できずに詰む事はないだろうが、時間はかかる。単純な開発能力や柔軟な発想力で言えば虚や本音をも超える黛薫子先輩にも手を借りる必要はありそうだ。学園内での助力ならば簪にとっての『自分達』に問題もないだろう。

 

「……気が長いことになった」

 

「開発企業ですらISの世代を進めるには数年単位で掛かる。仕方ない話だ」

 

『それも第三世代となれば第二世代とはあまりに勝手が違いますからね。世代が進む毎にそれまでの常識が覆りますから、必要な発想も当然まるで違うものになります。人はそういうのはあまり得意じゃない人が多いですし、やはり難しいところです』

 

「難しいからと言って不可能な話かというとそうでもない。確かに気が長い話かもしれないが、時間が経てばそれだけ世に出る技術の幅も増える。長い目で見れば充分実現範囲内だ」

 

「うん……1人でやるよりは、ずっとマシだし……」

 

「代表候補生としての活動が活発になるのも学園を出てからだろう。二年と半年以上の時間がある。焦る事はない」

 

 完成するまでは専用機持ちによる競技が学園で開催される時に少々不利になるかもしれないが、それを理解した上で彼女は弐式に乗っている。ならば他の人間がそれを口にするのは無粋だろう。

 

『励ますならもっと簡単な言い方したらいいのに』

 

「お前な……」

 

「ふふ……私は大丈夫。いつも何から何まで助けてもらってちゃ、駄目だし」

 

 以前は姉の背中に視界を遮られ、アレだけ難しい顔をしていたというのに、今はこうして晴れた視界で前を向いている。やはり人は変わるものなのだと思い知らされる。

 

「充分助けてもらってるから……私も強くなって、皆を助けたいの」

 

「……そうか。だがISの機能だけが強いということではない。単一仕様を使っている俺に言われても少し違うかもしれないが」

 

『楯無さんの背を追うだけではなく、自分の道を切り開く覚悟ができた簪さんは、充分な心の強さを持っていますよ。それは誇っていい事です』

 

「そう、かな」

 

「精神的に前へ進むというのは案外難しい事だ。よくわかっているだろう?」

 

「そう、だね……ありがとう」

 

 俺にとっても難しい事だ。未だに俺はこの世界の人間に心を開き切れているわけじゃない。レーヴァに言われるまでもなくわかっている事だ。元々誰かと一緒に生きるなんてのは記憶にある限り長い間ずっとしていなかった。簪にはこんな事を言ったが、この点では簪の方が心が強いという事かもしれない。

 

「仁は、さ」

 

 中々表情が冴えない簪が口を開く。

 

「無人機事件の時……後ろに四組がいなければ、あんな怪我しなくても、勝ってたよね」

 

「……どうだろうな。確かにあのタイプの相手なら回避を主軸に攻略するのは定石だ。しかし後になってそれを言ってもしかたないだろう?」

 

「でも、私達を守るためにあんなボロボロになったって思うと……」

 

「勝つ事ではなく、生徒を守りつつ増援が来るまで耐えるのが勝利条件の持久戦。あの時はそういう戦いだった。俺が最も早く割って入る事ができるからそれを買って出た。それだけの話だ。それに、問題なく治ったんだから変に気負う事はない」

 

「うん……」

 

 そもそも俺のダメージは心意によるものであって、無人機から食らったものではないが……まだその辺りは説明する必要もないだろう。

 

「……例え偶然仁が来てくれたんだとしても、それでも、4組にとって仁はヒーロー。みんなそう思ってる」

 

 ヒーロー……英雄とも言い換えられる。優しいだとか強いだとかカッコいいだとか、定義としては非常に曖昧ではあるが――

 

「……俺はヒーローにはなれないよ」

 

 ――少なくとも俺はヒーローにはなり得ないだろう。

 ヒーローなどというものは成立しない。よく言われる"ヒーロー"とは万人にとって弱気を守り強きをくじき、善を是とし、悪を切るものだ。

 ならば、そのヒーローによって切り捨てられたものは一体なんだろうか。あらゆるものを救うというのならば、そういうもの達をも救うべきだ。故に、ヒーローは成立しない。

 成立したとするならば、それは自分たちに都合のいい側面だけを見て言っているだけだ。ヒーローが成したことによって切り捨てられるものから眼を背けているだけだ。悪だからといって、『あらゆるもの』という括りからそれらを外すのはおかしいのだ。

 

 ただでさえ俺は守るものを取捨選択しなければ戦えないのだ。ヒーローなど論外だ。

 

「ただの側面でしかなかったとしても、それでもいいの」

 

 見透かされたかのように真っ直ぐに、血のような色の目を合わせられる。楯無に近いようで、少し違う色ではあり、血というマイナスイメージが真っ先に浮かぶ色であるというのに不思議と綺麗な瞳だ。

 

「私達にとっては、仁はヒーロー」

 

 "更識"も"布仏"も、酷く人の感情に敏い。すぐにこうして心を読まれてしまう。ここまで来ると読心にも近い。特に簪とは比較的短い付き合いだ。そう簡単に見透かされないと思っていた。

 

「それでいいの。夢見る女の子には……そういう人がいるのが、大事」

 

「……夢を見過ぎだ」

 

「まだまだ、見ててもいいでしょ? 時間は……沢山あるんだから」

 

「……その時間は弐式に割くんじゃなかったか?」

 

「両立したって、弐式も怒らない」

 

 何があっても完成させる意気込みだったというのにこうだ。

 そして簪はこれまた姉に似て案外頑固だ。こうなるとこちらが折れないと話が進まない。

 

「私は……ずっと物語のヒーローに憧れてた。障害を打倒して、ヒロインや他の人を救い出すヒーロー」

 

 こういう時に限ってレーヴァは静かになる。差し詰め『自分の事は自分で決めろ』とかそういう事なのだろう。

 

「現実は物語のようにはいかないぞ」

 

「でも……現実として、仁は私達を守ってくれた。あの背中は、忘れられない」

 

 それに。と一度置いてから。

 

「私達だけじゃない。『私』は、何度も救われてる」

 

「……」

 

「大したことはしてないって、仁はいつも言うけど、そんなことない」

 

「だが……」

 

「だが。じゃない。本人達にとっては大きい事」

 

 謙遜しすぎは嫌味になる。とは言うがこういう事なのだろうか。まさか簪にこうして口で追い詰められることになるとは思わなかった。

 

「……仁」

 

「……なんだ」

 

 一度も目を離さない。小柄な彼女とは20cmと少しの差があるが、今主導権を握っているのは、間違いなく俺を少し見上げる形になっている彼女だ。

 

「私達の、私の、ヒーローでいて欲しい。貴方に、憧れさせてほしい。まだ、私は仁に見合うくらい強くなれないから……今は、それだけでいい」

 

 俺は、俺が守りたいと思っている人達に頼まれれば、断れない。レーヴァには、そう称されている。

 何故か。断った時に悲しくさせるのが嫌なのだ。どうしても、そんな表情を見るのが嫌いなのだ。人のためではなく、自分のために縦に頷くのだ。

 だから、今回もそうなのかもしれない。そんな自分勝手な理由で肯定するのは、簪にとってもいい事ではないのかもしれない。しかし――

 

「……わかった。だが、憧れさせてほしいというのなら、その憧れについて来て見せろ。見合いたいというのなら、自分を満足させる程に成長して見せろ。……ヒーローというのは、背中を追うものがいてこそ成立する存在だからな」

 

 ――いいだろう。それが求められるならば俺は彼女達だけのヒーローになってやろう。

 全てを救う等と幻想は抱かない。俺が守りたいものだけを守る。やる事は、今までと変わらない。変わるのは少しの気持ちの問題。それで構わない。

 どうせ簪も俺が断らない事を半ばわかった上で俺に頼んでいるのだ。俺が答えてから少し曇った表情を見ればわかる。

 

「……気にするな。結局は俺が決めた事だ。別に流されて決めてるわけじゃない……そんな顔をするなら言わなければいいのに」

 

「……勇気出したもん。少し自己嫌悪してるだけだもん。仁が断れないのなんて知ってたもん」

 

 少しキャラが崩れている。割とレアな姿ではある。

 

「……うん。でも、ありがとう」

 

「ああ。だが、あまり期待するなよ。ヒーローとか、そういうのが向いてる性格じゃない」

 

「ふふ……うん。私も、頑張るから」

 

「……そうだな。俺も頑張らせてもらうさ」

 

 また、背負うものが増えてしまったな。

 レーヴァが頭の中で無言で微笑んでいるのが何故か妙にいつもと比べると大人っぽく見えて、少しだけ眉に皺が寄るのを感じた。




はい。こんな感じでした。
簪さん的には告白に近いでしょうけど、仁が断れないのを知っているためフェアではないと思っているのか、告白そのものはお預けの模様です。
簪さんはこう、やると決めたらぐいぐい来るイメージです。仁としても引っ張られる方がやりやすかったりはしますが。

ヒーロー。定義は色々ありますよね。仁としては非常に難しい問題ですが、少しの範囲と個人にとってのヒーローであればいいようです。

さて、次回以降、令和でもよろしくお願いいたします。
感想等お待ちしております。
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