あれから1か月弱。夏休みも終盤の日。レーヴァテインとの2人1組のような生活にも慣れ、生徒会の仕事ということで資料の整理はいいとしてお茶を淹れる練習をしろだとか、ケーキ買ってこいだとか茶葉買ってこいだとかの雑用含めた仕事をこなしつつ、一通り参考書は読みこんだ。これを全部頭に叩き込んでいるのだからIS学園の生徒は流石という他ない。しかしそれなりの知識をつけると疑問点もいくつか浮かんでくる。
「レーヴァ。お前のBT兵器ってどっから出てきたんだ? イギリスの開発専売特許らしいけど」
『ISとして姿を変える際に概ね私が思った通りのものです。仁の猪突猛進という他ない戦い方をサポートする為の武装としてBT兵器が選択されたんでしょう』
彼女がそう言うのだからそうなのだろう。しかしそうなると問題点が一つ。
「ここIS学園は各国から生徒が集まる。イギリスの生徒にBT兵器を見られたら厄介なことになりそうだな」
見たことも報告すらもされていないISが自分の国の得意としている技術を使っているなど向こうからしたらいい迷惑だろう。
『その時はその時です。上手い言い訳を考えてください』
「丸投げかお前」
俺が思った以上にこの人格は適当らしい。見た目だけ見れば容姿端麗で真面目な大和撫子。といったそれだというのに実際のところはなかなかに残念なところがあるといった感じ。というのがこの1か月弱で判明した。
「しかし、いい加減慣れてきたな」
最近は人と極力関わらずに行動してきたのもあって、なかなか慣れなかったものだが、布仏本音の独特の雰囲気や掴みどころのない更識楯無。それらを補うように真面目な布仏虚との付き合いに随分と慣れてきてしまったらしい。……距離感は掴みかねているが。
『悪い人達ではないでしょう。更識さんは本音の部分をなかなか見せてはくれませんが』
「それを加味しても恐らく悪い奴じゃない。その証拠に俺は今こうしてのんびりしてるわけだ」
実際に今まで俺に接触してくる組織、国家等は一切なかった。更識含めたIS学園が情報を外に漏らしていないということだろう。当然他の国や組織でも未確認のISは観測できている場所はあっただろうが、ひたすらに秘匿しているということだろう。最初の起動以降俺の存在が掻き消えたということになっているのかもしれない。
「そろそろ実戦訓練もしないとならない頃合いにもなるか」
『そうですね。しかしそうなると再び私が観測されるということにもなります』
「そこだな。ISの操作にも慣れてもらわないとならない。と言ったからには何かしらの用意があるのか。それとも本当にIS学園の規律で知らぬ存ぜぬを通すつもりなのか。どっちにせよ俺には関与できないことか」
俺は基本的に現状この学園のことについてはまだ関わることができない。やることも資料の整理が多いし、資料の覗き見もほとんどしていない。となれば更識が如何に動くかもわからないというものだ。
当然ISの起動もあれ以降行っていない。ひとまずは更識からの許可が出ない限りは無暗な展開は自分の首を絞めるだけ。自分の置かれている状況は把握しているつもりだ。
「そろそろか」
現在昼前11時。概ね呼び出される時間は決まっている。というのも現状仕事らしい仕事がないのに起因しているのだろう。布仏本音に関しては涼むために来ているのではないかとすら思うくらいには明確な仕事らしい仕事はない。生徒のいない夏休みだから仕方ないことではあるが。
携帯が振動する。案の定呼び出しのようだ。準備は最低限の筆記具と一応のIS学園の制服(特例男子用)。生徒会室まで行くのにも人と遭遇しないように神経は使うが、もはや慣れたものだ。すぐに生徒会室には辿り着く。
「失礼します。欄間です」
ノックして形式上の挨拶。布仏虚も更識も歳上の先輩である以上は一応必要なものでもある。
「はいっていーよー」
気の抜けた返事。布仏本音が返事するということは、現在は彼女しかいないのだろう。どうにも彼女の独特な感じと距離感は掴み辛いのだが……。
「やっぱり本音しかいないのか」
布仏。では姉妹の判断がつかないのでこの姉妹に関しては下の名前で呼ぶことにしている。尤も、それで俺から空ける距離が縮まるといったことはないのだが。
「そうだよー。たてなっちゃんもお姉ちゃんも今日はまだ他のお仕事ー」
布仏家は代々更識家に仕えているらしい。しかし時々「お嬢様」と口走る布仏虚の方はどうにも更識からはもっと砕けた態度でいてほしいと思われているようだ。本音は逆に砕けすぎだと思わざるを得ないわけだが。
「じゃあ呼び出したのもお前か」
「暇だし~」
やれやれ。と頭を軽く押さえる。この少女は時々本当によくわからない。俺を呼び出して暇が解消されるというのもよくわからない。稀に彼女一人の時に呼び出され、お互い何をするでもなく時間を過ごすということがある。レーヴァテインも他の人と話しているときは基本黙っているので、何とも言えない空間が出来上がる。
強いて言うなら彼女は何となく俺をよく見ている気がする。彼女達も欄間仁に付いてのことは知っているはずで、観察監視するのは当然のことだが、それが別に悪い気はしない辺りは彼女の彼女たる所以と言うべきか。
しかしIS学園の保護される兼ね合いで中学三年を中退という形になった俺と違い彼女はそろそろ中学の夏休みも終わるはずだが、のんびりしていていいのだろうか。とても課題をすぐに終わらせるタイプにも見えない。
「ランランはさー」
「なんだ?」
ランラン。というのは俺のニックネームらしい。初対面の次の日からこの呼ばれ方をしたのだから彼女の人との打ち解けスキルには驚かされる。
「イケメンだよねー。もっと笑えばいいのにー」
「なんだそりゃ」
「いつも無表情だしー」
「悪かったな無表情で」
更識やレーヴァテインに言われ続け、鏡は見たが確かに我ながらとても善人や普通の人とは思えない眼をしていた。言葉にするのは難しいが敵意を振りまくようなそんな眼だった。それと正面から臆せず話すことができる彼女らもやはり普通とは言い難いのかもしれない。
「そういえばー」
「今度はなんだ」
いそいそとプリント類を机に出している布仏本音を立って眺めながら何となく返事をする。
「たっちゃんがねー、なかなかランランのIS訓練用の設備が整えられないって愚痴ってたよー」
「まぁ、そうだろうな」
現状秘匿するべきISを訓練させるならそれなりの情報遮断が必要だ。それに教師陣にすら次の入学までは知らせるつもりはないらしいから、学園備え付けのアリーナを使うのも難しい。
「予想はしてたが、現状お手上げか」
概ね予想通り。IS学園の教師陣にすら悟られないというのが何よりもハードルが高い。万一の漏洩を警戒してのことだろうが、身動きが取れないのでは結局どうしようもない。
「課題課題ー」
「暇じゃないじゃないか」
やはり終わってなかったらしい。広げられたプリント類は課題のようだ。唸りながらそれらと対面している彼女を眺める。
『あの袖の余った服装は暑くないんでしょうか』
黙ってると思ったらそんなこと考えてたのかコイツ。
『時折扇いだりしてるし暑いには暑いんじゃないか。女のファッションについてはよくわからないな』
『仁に分からなければ私にもわかりません』
『……性別分類的には女のお前はそれでいいのか?』
『機会がない以上はいいんです』
さいですか。
しかし更識も布仏虚もいなければ指示が出ないためすることもない。布仏本音を眺めているのも飽きはしないが。
「ランランって今生活どうしてるのー? ご飯とかー」
「まさか学園の食堂を使うわけにもいかないからな。更識が配慮したのかわからないが部屋にキッチンと小型の冷蔵庫がある」
「自炊かー。家庭的だねー」
一人になって長いから自炊で食いつなぐのが一番効率がいい。大体どの世界でも両親の遺産という形で使える金はある。場合によって両親が死去しているか疎遠になっているかはまちまちだが。
再び布仏はうーうー唸りながら課題と勝負に入った。必要以上に話すつもりは俺にはないし、向こうから話しかけてこないなら俺は何かをするつもりもない。きっとその方がお互いのためになる。
そのまま時間が流れる。そこからはいい加減課題を進めないと不味いのか布仏本音も話しかけてくることは減り、俺も座って生徒会室にある届けられたものと同じ参考書を読み直すくらいにはすることはなかった。
「んー」
ぐいーと身体を伸ばしている。どうやら一区切りはついたらしい。
「そろそろ戻ってくるかなー」
「そうか」
更識達のどちらか、もしくは両方が戻ってくる。頃合らしい。席からは立っておくとしよう。
「ランランはさー」
首だけ布仏本音に向ける。
「今、楽しい?」
「――――」
まさか普段あっけらかんとしている彼女から、そう聞かれるとは思わかった。いつものように何となく聞いただけかもしれないが、いつものようなほわっとした笑顔ではなく、優しい柔らかい笑みを浮かべているようにも思える。
誤魔化す必要はないだろう。きっとどんな返答をしても彼女はいつもの調子に戻るだけだ。
「……まだ、わからないな」
「そっかー」
予想通り、彼女はいつも通りの雰囲気に戻る。
「だが、少なくともしょうがなくいるってわけじゃ、ない」
わからないのも本心。だがこっちも本心だ。決して居心地が悪いとは思っていない。けれどきっと俺がいていいものではない。元々の彼女らに何が起こるかわからないが、これ以上深くかかわるわけには、いかない。
布仏本音からの返事はもうなかったし、そちらを向くのも止めたから彼女が何を思っているかなんて全く分からないが、一瞬だけ表情が変わったような気がした。
仁の一定以上深くかかわりたくないというのは当然無理な話です。既に彼女らは仁のことを知っているし、そもそもISを所持している時点で原作への関わりを回避することができないので。
のほほんさんにはある程度会話をする程度には心を許しているというより、のほほんさんが彼に踏み込むのが上手いといった印象。
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