救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 天 災 襲 来


天才は過去に触れる

あまりにも突然だった。害意を感じるとかそういうものを一切感じなかった。俺もレーヴァも予測することも出来なければ交戦準備を取ることすらできなかった。

 

「君が突然現れた操縦者ってやつかぁ」

 

 窓が開いているわけでも、玄関の鍵が開いているわけでもなく、起きたらその場にいた。

 

「それでそっちは私の知らない娘っと。本当に全く知らないなぁ」

 

 この人物が規格外であるということなど当然知っている。だが、まさかここで接触してくるとは思わなかった。

 

「篠ノ之……束……!」

 

『いつか来るとは思ってましたが……』

 

「うん、私が天才の束さんだよー」

 

 僅かに薄い紫の髪を腰程まで伸ばし、その頭頂部にはうさ耳カチューシャ、さらに不思議の国のアリスと言えばわかりやすいような独特な服装。間違いなく常人ではない出で立ちという他ないがその実間違いなくこの世界一の天才である、ISの開発者。ISのコアを作れるのは彼女だけであり、ISの開発を行った後政府の監視下に置かれていたが、467個目の最後のコアを製造した後姿を消してしまったという、間違いなくこの世界で一番ヤバい存在。

 今は世界中で身柄や命を狙われる存在のはずだが、普通に接触してきただけでなく俺やレーヴァのことまで知っていると来た。

 

「IS学園から情報が漏れたわけじゃ……ねえよな」

 

 右眼が反応しそうになるのを必死に抑えながら立ち上がる。

 

「君のことを観測するくらい束さんには朝飯前だよ? 本当は寝てる間に調べちゃいたかったんだけどなー」

 

「ふざけんな。誰が調べられてやるか」

 

『仁。最悪の場合展開の準備を』

 

 逃げ場はないがその場で体制を整え、右手に木刀を呼び出す。

 

「へえ、それISは関係ないんだねぇ?」

 

 どこまで知っているんだこのウサギは……。

 

「そう怖い顔しないでほしいな。束さんがちーちゃんやいっくん以外に興味持ったのなんて久しぶりなんだからさ」

 

「……なんの用だ」

 

 布仏本音以上にコイツは訳が分からない。理解しようとしてもまず無理だろう。

 

「君に実際会ってみたかったのが一つ。その娘のことを調べたかったのが一つ。私が知らないISコアなんてないはずなんだから当然だよね。それで最後の一つがねぇ」

 

 ニコニコしながら何を考えているか全くわからない。他の世界でもここまでの人間は見たことがない。

 

「今君が困っていることをどうにかしてあげようと思ったのさ!」

 

「……は?」

 

 思わず気の抜けた声が出てしまった。分からない。本当に分からない。

 

「アレ以来その娘に乗らないのは君がIS学園にいて、なおかつまだ生きてることを知られたくないからでしょ?」

 

「……そうだが」

 

「だからこの束さんが君達の情報を遮断してあげるってことだよ」

 

「アンタに何のメリットが……ああ、コイツのデータの収集ってわけか」

 

 そう言うと笑顔でクルっと回りながらテンション高めに続ける。

 

「そう! 私はその娘のことがわかるし、君は遠慮なくその娘に乗れる! Win-Winってやつだね」

 

 それに、と彼女は続ける。

 

「君は、その娘と話せるんだよね?」

 

 少しだけ表情が真面目になったように見える。彼女にとってそれはきっと大きなことなんだろう。コアには人格があるということを彼女は公表しているが、それは世界中で確認できていないことであり、やはりISは物言わぬ兵器として扱われるからなのか。

 

「……アンタにどうやって知ったかを聞いても野暮だろうな。嘘を吐く必要もないだろう。そうだ、俺はコイツとは話せる」

 

「うんうん」

 

 満足げに頷きながら俺の右手に収まっている待機状態の指輪の姿のレーヴァを見やる。

 

「よかったら声を聞かせてほしいな。君は私の直接の娘じゃなくても、私は全ISの母だからね」

 

 何故か、今だけは、彼女の顔からは天災と呼ばれるようななりは潜められているような気がした。本当にただの母親のような雰囲気。彼女はきっと本当にISのコア人格達を大切に思っているのだろう。いや、もしくは思っていたのかもしれない。その頃の彼女が今目の前にいる篠ノ之束なのだろうか。

 

『……いいのでしょうか』

 

「構わない。レーヴァの好きにしていい」

 

 少しだけ彼女は迷ったように一つ唸る。

 

『……初めまして、篠ノ之束博士』

 

「うん、初めまして。綺麗な声だね。ちゃんと人格も形成されてる。名前は? なんていうの?」

 

 ワクワク。という言葉が一番合うような、少女のような顔と声の弾み方で篠ノ之束はレーヴァと話す。

 

『レーヴァテイン。和名を炎鎧。仁の、相棒です』

 

「レーヴァテイン。北欧神話が原典か。どれどれ」

 

 自身の前の空間にウィンドウを呼び出しいくつか操作をする。すると向こうのウィンドウにこちらからは反転して見えるが、レーヴァテインの内情風景での姿が映し出される。

 

「うん、美人さん! ちゃんと姿も形になってる。ねえ、君は知ってる?」

 

「なんだ」

 

「ISのコア人格と話すことができる人はその娘との相性がいいのはあるんだけど、それ以上にお互いの絆が必要なんだ。だから君みたいにいきなり現れた搭乗者とISが話せるなんてケースはまずないの」

 

「……何が言いたい?」

 

 再び天災スマイルに戻った篠ノ之束が続ける。

 

「その娘はいい相棒を持ったねっていうのと、君はいったい何者なのかなーって、天才の私に分からないことがあるなんて思わなかったよ」

 

「話さないし、調べさせる気もない。分からないことが一つくらいある方が人生楽しいぞ」

 

「それはそうなんだけどね? 探求心は満たしたいのが科学者なんだ」

 

 嫌な予感がした。背筋が凍りつくような嫌な予感。敵意や害意ではない何かわからない変な感じ。

 

「だから、見せてほしいんだ」

 

 姿が掻き消えた。僅かに眼で追い無意識に構えたが既に目の前に現れており――

 

「なっ……がっ!」

 

「いくら君が生身で戦えても、束さんは細胞レベルでオーバースペックだからね。物理はスマートじゃないけど、ちょっとだけ眠っててね」

 

 その言葉を最後に意識が落ちた。

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 いつもの夢とは違う、俺の今までの全てが映像のように意識に浮かんでは流れていく。そんな夢。

 俺がまだ、転生した世界で積極的に所謂原作キャラと呼ぶべき存在に関わっていた時のことだ。

 

 

 ――こんなはずじゃなかった――

 

 

 その中でも一際強く意識に残る記憶があった。今でも時々夢に見る世界。

 

 

 ――こんな展開、俺は知らない――

 

 

 (転生者)は無力であり、そして世界にとっての部外者であると実感した世界。

 

 

 ――そうか、俺が転生者として介入したから――

 

 

 俺の知らない、本来起こることがないはずの展開で。

 

 

 ――だから、皆、死んだんだ――

 

 

 多くの人が肉塊へと姿を変え、俺はそれに間に合わなかった世界。何度も、その光景を夢で見た。

 記憶が新しく映像として流れていく。そこから流れる映像はどれも、俺は独りでいた。独りで、不穏なものは斬り、本来俺がいなければ必要のないはずのお節介を、まるで自作自演かのように動いた。

 何で転生を繰り返しているのかすらももう覚えてはいない。きっと神の気まぐれなのだ。だから俺は神が止めるというまではきっと続けるのだろう。

 

「なのに、なんで……」

 

 この世界でも、重要人物に関わらないと決めていた。なのに、IS学園生徒会長である更識楯無や、生徒会役員である布仏虚、そしてその妹の本音。彼女らとの関わりを断ち切れずにいる。

 仕方なく残っているわけではない。と布仏本音に言った。本心だ。だからこそいけないのだ。

 

「クソッ……」

 

 全ての記憶の映像が流れ終えた。同時に少しずつ意識が薄くなっていく。夢から覚めようとしている。逆らわずに、意識を浮上させた――

 

 

 

 

 

「……なるほどねぇ」

 

 目を開けると、映るのは天井ではなく篠ノ之束の顔があった。

 

「……これで満足か」

 

 極めて不機嫌に身体を起こす。

 

「うん、満足したよ。君とその娘の絆の要因もわかった」

 

 意識を飛ばす直前までの笑顔はなりを潜めている。いくら彼女が天才でもこの量の記憶を一気に見たとなれば、それなりの負担もあるはずだ。

 

「大変だったんだね」

 

「――――」

 

 思わず目を見開く。この天災が人を労うとは、全くの予想外だった。

 

「大丈夫だよ。君はきっともうそれを捨てちゃいけない」

 

「……なんの話だ」

 

 誤魔化しなんて効かないだろう。摩耗しているとはいえほぼ全てを見られたのだから。

 

「まぁ束さんにはそういうのわっかんないんだけどね~」

 

「おい」

 

 確かにこの天災は基本的に興味のある人間以外にはとことん興味がないといった風だろう。だから人間関係を切り捨てるとか断ち切るとかそういう感情は持ち合わせていないと思っていた。

 何か、思うところがあったのだろうか。

 

「他の世界がないわけじゃない。とは思ってたけど、ここまで沢山あるなんてね。君は面白いなぁ」

 

「見られた俺は極めて面白くないがな」

 

「まぁそう言わないでさ。さて、じゃあお駄賃も貰ったことだし」

 

 そう言うと空中にいくつも投射型ディスプレイが浮かび、それらに対応したキーボードが現れる。

 

「お仕事もしないとね」

 

 両手両足をフルに使ったタイピング。とても俺が真似できるものじゃないだろう。やはりこういう点はしっかりと天才なのだろうと思う。

 僅か数分でディスプレイとキーボードが一組を残して消滅する。

 

「その娘を借りてもいい?」

 

 少し悩んだ。何をされるかわかったものではないが……。

 

「……ああ」

 

「手放しに渡されるよりは好印象だね~っと」

 

 指輪の状態のレーヴァテインを手渡すと、何かの操作をする。

 

「要はこの娘に観測を遮断するための、情報遮断に使えるようなEMPみたいなものをインストールしちゃえばいいのさ。拡張領域も残ってるみたいだしね」

 

 ディスプレイにレーヴァテインの展開時の状態が映し出される。

 

「このBT兵器、武装が何もないんだね。完全に単一仕様能力と合わせて使うためのものって感じなんだ」

 

 物珍しい。というような表情でディスプレイを操作していく。

 

「やっぱりこの娘の独自の武装なだけあって既存のそれには納まらないねえ。丁度いいしこのビットにインストールしちゃうよん」

 

「具体的には、どんなもんなんだ」

 

「よくぞ聞いてくれました! 要はさっき言ったみたいにEMPとかチャフを元にしたナノマシンを散布できるようにするのさ。電磁パルスをそれぞれ発生させるナノマシンを空気中に散布してしまえばこの娘を情報的に観測することはできない。勿論この束さんのお手製だからね。滅多なことじゃ突破されないよ」

 

 なるほど。確かにそれなら観測されることはまずないだろう。だが。

 

「ビットを展開する前の一瞬で観測される可能性があるんじゃないのか?」

 

「インストールするのは確かにビットだけど、ある程度はIS展開時に散布できるようにするよ。勿論君の意思でね」

 

 制御できないでバラまかれる電磁パルスなんて軽く電子兵器だ。周りの電子機器を滅茶苦茶にしてしまう。

 

「散布する範囲や効果も君次第。ちょっと演算が大変だけど君の記憶域なら大丈夫じゃないかな。まぁ基本的にはISに張り付けた形でいいと思うよ」

 

「その一切観測できない場所に"何かがある"ということはわかるんじゃないか?」

 

「天才束さんに抜かりはないよ。勿論観測できない空間なんてちゃんとノーデータで埋めちゃうからね」

 

 何でもありか。と思ったが実際何でもありなのだろう。しかし。

 

「なんで俺にそこまでする?」

 

「言ったでしょ?」

 

 クルンと回り、ニッコリと笑顔で言う。

 

「君は、面白そうだからね。束さんを久し振りに楽しませてほしいな!」

 

 最後のディスプレイも消され、レーヴァテインが手渡される。

 

「保証はしないぞ」

 

「どうかな~?」

 

「まぁ、感謝はしておく。だが覗かれたのはやっぱりいい気分じゃない」

 

「ふふふーん。刺激的だったよん。それじゃ、またね!」

 

 瞬き一つした瞬間には既に姿が消えていた。本当に何でもありだ。まるで最初からいなかったかのように忽然と消えてしまった。

 

「ホント、分からん人だ」

 

『全くです』

 

 二人でため息を一つ吐くのだった。




 この束さんなんか白くね? な回でした。
 ISと話せる人が突然知らないコアとともに現れたら束さんも割と気になるんじゃないかなといった感じでの形でした。
 ええ、ホント書きたいように書いてます。はい。
 ではお気に入り登録、感想等ぜひよろしくお願いします。次回もお楽しみに。
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