救い無き者に幸福を   作:MYON妖夢

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 お待たせしました。


学園でのお仕事

天災襲来翌日兼夏休み明け2学期初日。どうやって更識達に説明したものかと考えを巡らせはしたが、まともな言い訳が思いつくわけでもない。ありのままに伝えるほうが楽に済むし信用もしやすいだろう。

 

「やれやれだな……」

 

『ですが調子はいいです。どうやらコアネットワークにも繋がったようです。博士から今は繋げない方がいいと言われているので繋げてはいませんが』

 

「そうなのか。まぁ変にキャッチされても困るからな。正式にIS学園に入学してからだろう」

 

 しかしよくよく考えれば酷い目にあった。突然現れたかと思えば物理で眠らされ、過去の記憶(トラウマ)に土足で踏み込んでくるとは。

 それにいくらか狂人らしさは消えていたように思う。篠ノ之束と言えば明確に狂人であるという印象だったのだが。

 

『彼女も仁のおかげで少しだけ希望を見出した。といったところでしょうか。彼女に調整されている時、彼女の生体同期型ISからは確かに光明のようなものを感じました』

 

「希望ねぇ……」

 

『ようやくISのコア人格がたった1人とはいえ認められた。これは彼女にとって自身の娘が認識されたということに近いのでしょう』

 

「俺にはその辺はよくわからん。子を持ったこともなければ誰かと愛し合ったこともないからな」

 

『まともにしてれば整っているしモテるのに』

 

「俺にはそういうのはいいんだよ」

 

 まぁ篠ノ之束が多少なりまともな人格者になるのならそれはきっといいことなのだろう。だが、それが俺の介入によって成るものなら一概にいいこととは言えないのも事実だ。元々の流れを知らない以上は何とも言えないが。

 

「さて、行くか」

 

 いつも通り携帯が振動する。呼び出しの合図だ。

 夏休みも明けた。つまり今まで以上に気を付けて向かう必要ができた。ということだ。一応表向きには更識家の手伝い係ということにはなっているが、見つかって面倒なことには変わりない。女生徒達にはなるべく見つかりたくないものだ。

 

「レーヴァ。なるべく人のいないルートを頼む」

 

『了解。周囲の熱源からルートを絞ります』

 

 レーヴァテインの探知を用いて人のいないルートを通って生徒会室へ向かう。

 

「失礼します。欄間です」

 

「どうぞ。入っていいわよ」

 

 いつもの一種の流れだ。どうやら更識しかいないようだ。

 

「授業はいいんですか?」

 

「今は休み時間。先に何をするか教えておこうと思ってね」

 

 茶葉は切らしていないしケーキも残っている。資料があるかと言えばまだない。となるとすることといえば……。

 

「私がいない間に来る生徒や教師の対応と、どうせ増えるだろう資料の区別整理ね」

 

「わかりました。しかし面倒なことになりそうだ……」

 

 結局生徒や教師と関わることになるのは厄介だが、致し方ない。

 

「ああ、それと――」

 

 篠ノ之束による処置についてを先に更識には話しておく。

 

「……どこから理解していいかわからないわね。セキュリティに問題はなかったはずなのに入り込んできた篠ノ之博士は流石というかなんというか……」

 

 物理で眠らされたことを始め俺のことについては伏せる。必要ないことだ。

 

「でもISを使うことが問題にならなくても結局アリーナは使えないからね。訓練に使える場所はとりあえず探しておくけど、そこであまり大規模なことして騒ぎにはしないように」

 

「わかってますよ」

 

「それじゃ私行ってくるから」

 

 いつもながらどこから取り出しているのかわからない扇子を広げると、留守番と書かれている。

 それを仕舞って出ていく更識を見届けてから椅子に座り込む。

 

『お留守番ですか』

 

「そうだな。注意しては来たが年貢の納め時ってとこか」

 

 いくらか生徒や教師人が訪ねて来るが概ねやり取りは変わらない。

 

「失礼しまーす。えっ、男の人!?」

 

「生徒会長の手伝いをしている者です。制服は生徒会の体裁として借りています」

 

 こんな感じで大体納得されるので、その後その生徒の用事である資料やプリント、写真といったものを受け取ったり、更識や布仏虚への伝言を預かってメモしたりといった具合だ。

 人が来ない間は渡された資料の整理で時間を潰す。

 

「これで人数が多かったら面倒この上なかったな」

 

『慣れない敬語なんて使ってるから疲れるんですよ』

 

「更識の手伝いって立場な以上は仕方がない」

 

『変なところで真面目なんですから』

 

 などと話しながらそろそろ昼飯を摂っておくか。と考えていると、ノックもなしに生徒会室の扉が開く。

 

「ただいま。何かあった?」

 

「いくらか資料やプリントに写真。あと伝言をいくつか」

 

 更識が戻ってきたため報告と伝言を伝える。

 

「しかし一年なのに生徒会長とは面倒なものだな」

 

「敬語のメッキ剥がれてるわよ。他の仕事に比べればそうでもないかな」

 

『やっぱり持ちませんでしたか。むしろ1か月も持ったのが不思議でしたけど』

 

『やかましい』

 

 念話の要領で更識の方に向いたまま口に出さずに突っ込む。

 

「まぁそんな丁寧な感じじゃないのはわかってるけどね」

 

「生徒会以外の誰かがいる時は面目上崩さんさ」

 

「しっかりね、お手伝いさん。ところでお昼は済ませた?」

 

「いや、まだだが」

 

 夏休み中は時間を貰って部屋に戻って適当なものを用意しておくなりその時用意するなりで昼飯を賄っていた。食堂に入るわけにもいかないため、部屋に用意されている設備を有効利用するのが効率がいい。

 休みも明け、生徒の通行量も増えた以上寮に戻るのも少々面倒であるため今回は適当に弁当を用意して生徒会室に持ってきている。

 

「たまには一緒に食べる?」

 

「なんの気まぐれだ」

 

「生徒会長の座は他の生徒から狙われるものなのよ。ボディーガードが欲しいわね?」

 

 いつものように冗談めかしてそういうが、そもそも専用機を持っている以上滅多に負けないだろう。

 

「必要ないくせによく言うものだ。アンタに現状この学園で勝てる生徒がいないからアンタは生徒会長なんだろう」

 

「たまにはいいじゃない。見定めろって言ったのは君自身よ?」

 

「それは……そうだが」

 

 それを言われると弱い。実際俺は彼女やその周りにとって危険物ではないということを見定めてもらわねばならない立場だ。審査に落ちれば彼女自ら排除にかかるだろう。それでやりあったら勝っても負けても後味が悪い。

 

「……まあいい。学園での時間を俺に割こうなんて奇特な奴め」

 

「奇特じゃなければ今君はここにいないわよ」

 

「その通りだよ……とはいっても俺はここから出ると面倒だしここで食うつもりだが」

 

 構わない、と帰って来たので遠慮なく包みを机に広げて座る。 

 

「あら家庭的」

 

 心底意外といったような表情で呟かれる。

 

「一人が長ければある程度はできるようになるものだ」

 

「まぁ……そっか」

 

「俺からすればアンタがそういうの出来るほうが何となく意外だけどな」

 

 更識の方はと言えばこちらもしっかりと用意してきているようだ。適当そうな言動に比べて内面はしっかりお嬢様らしい。

 

「更識の女は多芸でないとならないのよ」

 

「面倒なものだなお嬢様ってのも」

 

 昼飯を摂り始めるが特に話すことがあるわけでもない。別にこれなら結局同席した意味があるかといったらないだろう。

 

『意外でしたね』

 

『なんだ』

 

『やけにあっさり引き下がったなーと。仁、少し丸くなりました?』

 

 一瞬眉にしわが寄るのを感じた。

 

『……そうだな。これからは注意する』

 

『いえ、私はいいことだと思いますよ』

 

『……』

 

 思考の向こうで広がる彼女の心象風景の中で彼女は愁いを帯びた表情で言う。

 

『アレからずっと苦しんできたんです。自分にもっと優しくしてもいいじゃないですか』

 

『自分に優しくとか、そういうことじゃないんだよ』

 

 いくら彼女(相棒)の言でも簡単には変えられるものじゃない。

 

『元々の流れを知らないなら、もう何が起こるかもわからないじゃないですか。何が起こったって仁のせいじゃありません』

 

 確かにそうかもしれないが、そうでもない。

 

『この世界の人間じゃない俺は、これでいいんだよ』

 

『……それなら、なんで転生を続けるんですか?』

 

 それは、俺には返せない質問だ。

 

『辞めたい。と言えばきっともう眠れるはずなのに、なんででしょう』

 

「なにか考え事?」

 

 その言葉で意識を現実に引き戻す。更識がこちらを見ていた。

 

「なんでもない。食ってるときに喋ることがないだけだ」

 

「そう? 悩み事ならお姉さんに言ってみてもいいのよ?」

 

「悩みがあったとしてもアンタには言わん」

 

「えー何よそれ」

 

 今はレーヴァの問いに答えることはできない。何故転生を続けるか、なんてものは答えを見つけていない。しかし辞めたいと言っていないのも確かだ。まだ生きていたいとでも思っているのだろうか。

 

「……同席した意味はあったのか?」

 

「どうかしら。まあたまには人と食べるのもいいでしょう?」

 

「さてな。お互いほんの気まぐれに過ぎないだろう」

 

 いずれ見つけていくとしよう。どうせまだ時間はあるんだから。

 

「あら珍しい」

 

「虚ちゃんじゃない。お昼は済ませた?」

 

「はい。一息つこうかと。珍しいものも見られましたし来てよかったですよ」

 

 ニッコリとこちらを見て言われるが、敢えて顔を逸らす。

 

「この人の気まぐれですよ。俺は付き合ってるだけ。会話もほぼなし」

 

「わかってますとも。いつか会話も弾むようになりますよ」

 

「そうそう同じような気まぐれなんて起きませんよ」

 

「私は別にいいのよ?」

 

「変な噂でも立ったら俺が面倒だ」

 

 それに生徒会長が昼飯に男と同席しているだなんて知れたら彼女だって迷惑だろうに。

 

「ほら食い終わったなら資料の整理でも手伝ってくれ。資料の内容なんぞ俺はほとんど理解できん。それと虚さんに伝言がいくつか」

 

 大まかに関連のありそうな資料はそれぞれまとめてあるが、IS学園に直接かかわっているわけではない俺が全ての内容を理解できるはずもなく、一部の資料は机の上に積んだままだ。

 

「虚さんは……仕事が早いな」

 

 伝言を伝えた後は俺が何かを言うよりも前に既に資料に目を通し始めている。俺がまとめたものを一束と、積んである資料の中から自分の担当資料を抜き出してまとめているようだ。

 

「まったく、お昼休みくらいゆっくりしたいものね」

 

「これから数日はその願いは捨てて置け。夏休み明けなんてどうせ仕事は増えるものだ」

 

「年下君に言われるまでもなくわかっているわよ」

 

 愚痴りはするものの更識もしっかりと仕事はするようだ。とはいえ昼休みは長いというわけでもない。ある程度の仕事の途中で教室に戻るらしい。その短い時間で自分の資料をまとめ終えて一足先に戻っている布仏虚は流石の真面目系というべきだろうか。

 午後も特にやることは変わらず授業の合間に来る生徒の対応と、時間を問わずに来る教師陣の対応だ。

 やはりというかなんというか、女尊男卑の思考は決して少なくはない。俺が生徒会長の手伝いをしていると言えば露骨に嫌な顔をされることも一度や二度ではないし、顔すら合わせるのが嫌だといった具合に顔を背けたまま資料を押し付けられてすぐに飛び出していくということも少なくはない。

 

「……くだらんな」

 

 IS適性がある生徒しかほぼいない学園であるからある程度は仕方ないだろう。どこまで行っても男性はISの操縦はできないため彼女達にとっては自分よりも劣った存在として見ているのだろう。気に入らないがこの世界ではそれが常識なのだから仕方ない。しかしそれは篠ノ之束にとっては望んだことではなかったのではないだろうか。

 

『現状の女尊男卑という考えは間違いなく彼女の望みではありません。あくまで副産物に過ぎないでしょう』

 

 だろうな。と思う。彼女は紛れもない天才だ。考えなしに女性しか乗れないように作り、さらにはそれを公開などしないだろう。

 

「まぁ、天災の考えなんぞ凡人にはわからんか」

 

 いくらか考え事をしていると、今日何度目か数えるのも止めた生徒会室の扉をノックする音が聞こえる。時間は……授業の合間くらいか。

 

「どうぞ」

 

「失礼する。教務から資料だ……っ!」

 

 空気がいくらか重くなったような錯覚に陥る。明確に警戒されているし、俺も相手を警戒している。

 

「資料はこちらに。生徒会長に後程回しておきます」

 

 重い空気を感じていないかのように振舞いながら相手を見る。見覚えのある人間だ。

 

「……ああ。頼んだぞ」

 

 元日本代表IS操縦者にして初代世界最強(ブリュンヒルデ)。第1回IS世界大会《モンド・グロッソ》で優勝しその称号をその手に収めたが、第2回大会の決勝戦を前に大会を棄権。以後IS操縦者を引退した、恐らく篠ノ之束と同等レベルの有名人。織斑千冬その人だ。

 まさかこんなところで教鞭をふるっていたとは思わなかったが、この人以上の適任もいないだろう。

 

「ええ、確かに受け取りました」

 

 一挙手一投足全てを見られている。だがそれは俺も同じことだ。互いに互いを警戒している。彼女の動きには無駄がない。確実に超一級の武人といった立ち振る舞いだ。

 

『恐らく仁の動きからただの使用人ではないと見抜いています』

 

『だろうな』

 

「では、失礼する」

 

 退出する時すらまるで隙を見せない動きだ。尤も別に襲い掛かるつもりも欠片もないし、恐らく俺は彼女と生身でやり合っても勝てないだろうとすぐにわかる。それだけの規格外だ。

 

「やれやれだな……」

 

 これからここで働くのにいくらかの不安を抱えながら残りの時間、放課後になり更識達が戻ってくるまで一般生徒や教師と同じような応対を繰り返した。




 なんか最近いつも思っている4000文字と少しが丁度いいという自分の考えに対して本文が長くなる現象が発生しております。
 書いてると思ったより彼がまともになってしまったり、レーヴァが思いのほか心配性になってしまったりして少し悩みの種だったりしますがさて。
 それではお気に入り登録、感想等お待ちしております。次回もよろしくお願いします。
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