『お昼は変なこと言ってすみません』
昼以降すっかり黙り込んでいた
「気にしちゃいないが……お前には思ってた以上に心配されていたんだな」
『それはもう。一番傍にいたのはいつだって私ですから』
「ああ。お前がこうして話してくれるだけでも今までよりずっといい」
誰かに心配をかけようとして今までのやり方をしていたわけではないが、彼女は随分と心配性な人格が芽生えてしまっているらしい。
「だけど悪いな。俺はまだお前の質問に答えられない」
『ええ。分かっています』
彼女は答えを知っているのだろうか。いや、誰よりも近くで俺のことを見てきた彼女ならばきっと知っているのだろう。それを俺に言わないということは、俺自身が見つけないといけないことなのだろう。
「元々の流れを知らないなら俺のせいじゃない……か」
俺はこの世界について、この世界に住む一般人程度の知識と、ISの専門的な知識の中でも基礎しかしらない。転生者である俺が所謂原作というものを知らない以上は、この世界でこれから何が起こるかなんて知っているものはいないのだ。
『私達がいることで変わったことすら仁は気付くことができないのなら気にしすぎることはない筈です』
そう簡単に割り切れたら楽なんだろう。
『むしろ元々の流れよりも上手くいくことだってあるかもしれません。仁はもう思い出せないかもしれませんが、そんな時だっていくつかありました』
「……そんなこともあったかもな」
しかしトラウマというものは人生でよかったことよりも記憶に残るものだ。人間はいいことよりも悪いことが記憶に残りやすい生き物なのだ。
確かに全てを知ったらあの時の一回で気を病みすぎと思うものもいるのかもしれない。だがその一回で何人もの人の全てを奪ったのだから、気にしすぎなんてことはありえない。
「仲間を守る……か」
手の中に
ずっと思ってきた。仲間を守りたいと。高校生で命を落とした人間が思うには不相応な願い。だが、それならば『仲間』とはなんだ? 『守る』とはなんだ? わからない。昔はわかっていたのかも知れないが。少なくともレーヴァテインは俺にとっては『仲間』だということはわかる。
「随分と色々、忘れたものだ」
思い出せれば何かわかるかもしれない。昔の俺が何を思って転生を始めたのか、きっと今の俺よりは人間らしい俺だったのだろう――
――― SIDE レーヴァテイン ―――
『お昼は変なこと言ってすみません』
「気にしちゃいないが……お前には思ってた以上に心配されていたんだな」
『それはもう。一番傍にいたのはいつだって私ですから』
「ああ。お前がこうして話してくれるだけでも今までよりずっといい」
とても嬉しい。彼にとって私は気を許すに足る存在になれていたのです。
私が彼の手に収まる前の世界のことは知りません。けどそれ以降はいつでも彼のすぐ近くで彼を見てきたのは間違いなく私です。自我が芽生えたのはこの世界ですが、記憶も記録も全て私は覚えています。元々は物言わぬ道具だったのだから記憶域に制限もありませんでしたから。私は彼のことを一つとして忘れることはないのです。こればかりは人間でないことに感謝です。
「だけど悪いな。俺はまだお前の質問に答えられない」
『ええ。分かっています』
そう、分かっています。彼はまだ昔の自分を思い出していない。私は出会ってからの全てを覚えているから彼に伝えることだってできます。だけどそれは駄目です。これは彼自身が思い出さないといけないことだと思うから。誰かに教えてもらっても彼はきっと後付けの知識としてしまいこんで、今の彼のままでいてしまうのでしょう。それでは駄目だからぐっと抑え込む。
以前の彼は『協力する』ということを知っていました。仲間たちと協力し、その上でその仲間達を失わないように死力を尽くす。その過程で自分が危険に曝されても構わないという点は今と変わらないけどそれは他の仲間達がカバーしてくれていた。だけど今の彼は『仲間』についてももう以前の認識とは違い、自分は独りで関わろうともせずに一方的に守ろうとします。
「元々の流れを知らないなら俺のせいじゃない……か」
そんな世界もいくつか今までありました。彼はその世界について殆ど知らないのに起こってしまった不幸な出来事を全て自分のせいだと思い込み自分を苦しめる。
『私達がいることで変わったことすら仁は気付くことができないのなら気にしすぎることはない筈です』
今の彼にはきっとこれは割り切れることではないのでしょう。
『むしろ元々の流れよりも上手くいくことだってあるかもしれません。仁はもう思い出せないかもしれませんが、そんな時だっていくつかありました』
「……そんなこともあったかもな」
私は覚えています。彼が以前の彼であった頃に救われた人が沢山いたことを。
「仲間を守る……か」
彼は仲間のためなら自分をいくらでも犠牲にします。かといって命を失うことや傷つくことが怖くないわけではなく、傷つけば痛いし死ぬのは怖いという感情は失っていません。彼にとっては自分が死ぬことより他の仲間が傷つくことの方が怖いのです。
これは私の勝手な推測ですが、その思いの根底にあるのはきっと『使命感』なのでしょう。転生者として第二第三を遥かに超える数の生を受けた彼は、
「随分と色々、忘れたものだ」
私も彼が何を思って最初の転生に踏み切ったのかはわからない。けど彼が自分を大事にしないのなら私が剣として、そして盾として彼を守りたいと、そう思うのです。
私は彼の相棒であり、一番の理解者なのですから。
『む……』
どうやら眠ってしまったようです。呼び出していた黒い剣も消滅。今日は慣れないことをして疲れていたのでしょうか。視覚や聴覚を彼と共有している私は、コアネットワークを遮断しているため、彼が眠ると得られる情報は指輪の姿で彼の指からの視点での全方位と、彼の聴覚から得られる情報。そして待機状態による微弱なハイパーセンサーによる情報のみになります。見えるものも特に変わりません。要は暇です。特にすることもないので彼の寝顔を見るのはひそかなマイブームです。
精神年齢よりも肉体年齢に引っ張られる精神特有の、眠っている時に彼が見せる安らかな顔はとても起きている時にはみられるものではありません。苦痛に顔を歪めることもあれば悲しそうな顔になることもありますが、眠っている時くらいはもっと楽にしていて欲しいものです。
『今までよりずっといい。ですか』
意識していった言葉ではないのでしょう。けどこの言葉はそのままの言葉の意味以上に深いものが込められています。
彼も一人で今のやり方を続けることよりも誰かがいたほうがいいことに気付いているのです。人間とは一人で生きていくことができる存在ではないと言います。彼もどこかでちゃんとわかっていた。彼が気を許せる存在に私がなることができていたこと以上に、それが私は嬉しかった。まだ彼は忘れ切っていない。それならば思い出すことも可能なはずなのですから。
私は人間として彼の隣で支えることができない。話し相手になり彼の心の孤独を和らげることが精々です。だから更識楯無さんや、布仏姉妹には是非とも彼を支えて欲しいと思っています。まだ彼がそれを必要としていないことも、必要にしようともしないことも当然分かっています。
『でも……久しぶりなんです。本当に、久しぶり』
そう、久しぶりなんです。彼が誰かと関わりを持つのは。なし崩し的な形で、この先動くための保護を受けるために仕方なく関わったのだとしても、それでも彼が久し振りに誰かと関わった。それによって彼はまた別の世界ではもっと注意を払って動くつもりのはず。だからこの世界が最後のチャンスになるかもしれないのです。
私から彼女たちに話しかけることはまだできない。仁が彼女達をまだ信用しきっていないから。実体の人の姿を持たないから私には祈ることしかできないのがとても歯がゆくて、悔しい。
いつかまた、仁の眼に光が灯ることを、彼の周りに仲間達が集って共に戦う姿を、そしてそれを彼自身が拒絶しない未来を祈って、私は
今回はレーヴァテイン視点多めとなりました。正直主人公より書きやすいですこの子。
最近ISジャンルの二次をよく読んでいますが、読んでて執筆意欲が溢れる作品もありますが、良作すぎて心が折れる的な意味で執筆意欲が消し飛ぶ作品もありますね。昔より明確に作品のレベルが高くなっていてなかなか追いつけそうにありません。
勝手に得意だと思っている戦闘描写をまだ一切書けていないのが何とも自分個人としては厳しいものがありますが、まだまだ頑張って書いていきたいと思います。
ではお気に入り、感想等お待ちしております。次回もよろしくお願いします。