この疲れ果てた正義の味方に平穏を! 作:ブラック企業アラヤ2
おそらく、次の投稿は1週間から2週間以上先になると思います。
「ほう、ではめぐみんがこの魔道具を使って私を召喚したのか」
「ええ、その通りです! まさかこんなにカッコいい英霊を召喚出来るとは思いもしませんでした。何よりこの赤い外套を纏ったその姿!! 私にぴったりではないですか!?」
気がついたらめぐみんという名前のおかしい少女にサーヴァントとして召喚された。
文字に起こしてみると余りに馬鹿馬鹿しく、私としても非常に受け入れ難い現象に巻き込まれてしまったが、紅魔族と呼ばれる一族随一の魔法使いであるめぐみんに召喚され現界したのは事実である。
名前を聞いた時は思わず本名なのかどうか疑ってしまったが、残念なことに本名らしい。
彼女の両親は何を錯乱してこのような名前を名付けたかは興味が尽きない。
しかし、名前が可笑しくとも私のマスターであるめぐみんは一族随一の魔法使いというだけあって私を現界させるために送られてくる魔力は潤沢である。年齢は若いが卓越した魔法使いだ。
魔力量だけで判断するのは早計すぎるかもしれないが、いずれ彼女は歴史に名を残すような魔法使いになるだろう。
そのような才能を持つ少女がマスターになったこともそうだがこの世界に来てからは驚くことばかりだ。
話を聞く限りでは私が元々いた世界と、この世界は全く別物だということが判った。
めぐみんが魔法使いと名乗ったときは面を食らったがそれもそのはず、魔術と魔法の定義からして異なるのであれば魔法使いと名乗るのも別段可笑しな話はない。
世界が違うとはいえ、私のサーヴァントとしてのパフォーマンスも変化するわけでもない。
人々の信仰による知名度で強弱の差が生まれない私にとっては異世界で剣を振るうこと自体には何ら影響はなく、ステータスは完全に召喚者の魔力に依存することになる。
であれば、異世界に召喚されたとはいえ私がやるべきことが変わることは何もない。
そして何よりも一番驚いたことが······神が地上にいるということだ。
アクアという名の淡く透き通った水色の髪をした少女の清澄な佇まいからして神性持ちであることは確定している。
判断材料はそれだけではなく、魔力感知を苦手とする私にもめぐみんを優に凌駕する魔力が伝わってくることや人間とは思えないほどの美貌からして神であることは明白だ。
守護者として様々な時代に召喚され、神性を持つ者と遭遇したことはあるが神そのものに出会すのは今回が初めてだった。
これで召喚されていたのが私ではなくギルガメッシュだったら、最悪の事態になっていただろう。あの男と神との関係はまさに水と油。出会ったが最後、このアクセルは更地になることは避けられない。そもそもあの男がこのような触媒を用いない召喚に応じるわけがないのだが。
「私の時代がようやく来ましたね!! あ、そういえばあなたの本名はなんですか? アーチャーは職業であって本名ではないのでしょう?」
ーーーーアーチャー
それは三騎士の一角であり、高い単独行動スキルと射撃能力を持ち合わせ個体能力こそ低いがその分を強力な宝具やスキルで補っているサーヴァントのことを指す。
例外に漏れることなく、弓を扱うサーヴァントとして私もその名に連ねる者だが真名を名乗るべきか否か判断しかねる。
サーヴァントにとって真名とは自身が保有する宝具と対になるものである。
真名を知ることができればそのサーヴァントがどういった能力の宝具を持っているのか絞り込め、宝具を真名開放させればそのサーヴァントの正体を知ることが可能だ。
私のような特殊なサーヴァントの場合はその規則に捉われない特例であり、それは真名開放をしても正体不明のサーヴァントとして戦場を支配する能力を持てるという強みの一つでもある。
しかし、今回は聖杯戦争にサーヴァントとして召喚されたわけでも守護者として召喚されたわけでもない。
名を知られても問題がなく、折り入った事情もない以上は真名を告げるのがこれから生活を共にする彼らに対する礼儀だろう。
「では僭越ながら名乗らせてもらおう。私は英霊エミヤ、生前はエミヤシロウと呼ばれていた。私のことは好きに呼んでくれて構わない」
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石造りの街中をウィズを除く他のみんなで歩いて冒険者ギルドへと向かっていた。
ウィズは魔道具店の経営に忙しいようで残念ながら店で別れることになった。
そして、俺の横にいるこの男、エミヤシロウは度々キョロキョロと街並みを見渡していた。
時折「おお、獣耳か。お、エルフ耳の人間もいるな。いや、まさかこのような世界に召喚されるとは思わなんだ。いつも召喚された時は荒廃した土地とか燃え盛る炎に包まれた都市に召喚されるからな・・・・・・感激だ」なんてニュアンスの言葉が聞こえてくる。
守護者ってどんなブラック企業だよ。
輪廻の枠から外れて永続雇用ってか? 聞いたことねえよ、そんなもん。
「どうですか、シロウ。ここが駆け出し冒険者の街『アクセル』です!」
「この街は活気よく、子どもたちは元気に駆け回りながら遊び、大人たちは明日を生きるために確固たる意志を持って働いている。とても良い街だな、めぐみん」
俺たち、パーティーは彼のことをシロウと呼ぶことにした。
めぐみんはシロウに懐きベタベタとしているが、その様は大きなお兄さんに遊んでもらっている近所の女の子ぐらいにしか見えない。
というよりもシロウの身長が高すぎるだけなのだ。ダクネスも俺より背が高いけどシロウと並べてみると差は歴然としている。
「なあ、シロウ。あんた、身長どれくらい?」
「187センチだ」
「な、なに食ったらそうなるんだよ!? はぁ、俺もそれくらいの背丈が欲しい······」
シロウまでとは行かずとも高身長に対する憧れは変わらない。
俺が前衛として闘うことはこの先ないだろうが手足も長ければそれだけリーチが長くなるし、戦闘においては大きなアドバンテージを得ることが出来る。
後は逃げ足も速くなる。ここ、一番重要。
「悲観することはないぞ、カズマ。私も君の年齢ぐらいの時は君とそう変わらなかった。具体的にいえば17歳の時、私は167センチほどしかなかった」
「それなんていう第3次成長期!?」
おかしいな、人間には第2次成長期までしかないと中学校の保健体育で習った気がしたんだが眼前の男にはその理論は通用しなかったらしい。これがDNAの差とでもいうのだろうか。
「そうこうしているうちに着いたわよ、ここが冒険者ギルドよ。私たちのホームグラウンドってところね」
「ほう、なかなか規模ある建物だな。中から酒の匂いや罵声も聞こえて来る……昼間から飲酒とは、とんだ荒くれ者がいるようだ」
「この寒い時期になると毎年そうなのだ。この時期には弱いモンスターは冬眠し、強いモンスターが右往左往するからな。駆け出しの冒険者が多いこの地では高難易度クエストを受けようとする奴はそうそういないのだ」
「別に冬じゃなくてもあいつらは年がら年中酔っ払ってるだろうが」
そう、ダクネスの言葉通り冬には危険なモンスターしか出現しなく、初心者の冒険者には辛い時期である。しかし、この前デュラハンの討伐報酬が戦いに参加していた冒険者全員に渡され懐が潤ったため、危ないかけを渡ろうとはせず、普段と比べて殆どの奴らがこうして勢いよく呑んだくれているのである。
「ほら、1000エリスを渡すから冒険者登録して来いよ。あそこの受付で出来るからさ」
「私も行きますよ、シロウ! ふふ、我がサーヴァントの門出を見守らずしてなにがマスターか!」
「了解だ、カズマ。この金はいずれ返す。ではマスター行くぞ」
めぐみんは大はしゃぎで受付に向かったシロウの後をついて行く。今まであんな少女らしいめぐみんを見たことがないからどこか新鮮な感じがする。
「まるでめぐみんがシロウの妹みたいだな」
「そうだな、いつもどこか他人に対して肘を張っていたようだったからな。シロウとの出会いはめぐみんにプラスになるだろう」
「肘を張る? めぐみんが?」
「なんだ、気付いてなかったのか?」
正直に言うと全く気付いてなかった。
まあ、でも振り返ってみたらそうだよな。
13歳の少女が一人で故郷を離れてこのアクセルの街までやって来たのだ。素直にその度胸は凄いと思うし、日本人の尺度で考えてみたらあり得ないことだ。
そんな少女が他人に気を取られないように意地を張るのは分からなくはない話か。
「そこまでめぐみんのことを見てるなんてダクネスはめぐみんのことが好きなのね!」
「仲間として、な。もちろん、アクアのことも好きだぞ」
「あれ、俺の存在はどこいった?」
いつの間にかダクネスの頭からは俺という存在は消されていたらしい。
そんなたわいのない話を3人で続けているとめぐみんたちと別れてから20分が経過しようとしていたことに気付いた俺たちは2人の元へと足を向けた。
「おーい、めぐみん! シロウ! 手続きは終わったか?」
「冒険者の仕事やシステムについて説明と簡単な個人情報を書き終えたところです。次はお待ちかねのステータス分析ですよ!!」
おお、遂にきたか。シロウは英雄だから高ステータス間違いなしだな! 駄女神を超える潜在能力がお目にかかれるに違いない!!
「······2人とも期待し過ぎだ」
「そんな謙遜はいいのです! ふふ、これから私とシロウの伝説が始まるんです!!」
めぐみんはシロウの言葉を遮り、彼の腕をステータス測定をするための水晶にかざす。興奮のあまり、紅魔族特有の赤い瞳が光り輝いていて不気味なオーラを放っている。それだけ、めぐみんがシロウに期待しているのだろう。
「エミヤシロウさん、ですね。筋力はそこそこ高く、生命力は非常に高いです。魔力は中の上。器用度は······ちょ、ちょっと何ですかこの器用度!? 3桁後半どころかカンストしてます!! これほどの器用度なら冒険者稼業はやめて王都で超一流のコックや執事長になることをオススメしますよ!?」
受付嬢の驚きの声にギルド内がざわめく。
「器用度が最大値だって? 何でそんな奴が冒険者になるんだよ!?」
「コックとかバトラーの職業なんて冒険者にあったっけ?」
「んなもんねえよ! 戦場がキッチンか屋敷とか城のやつが何で冒険しなきゃならないんだよ!!」
などといった声が聞こえてくる。
何だろう、俺も凄まじい潜在能力が明かされてギルド内が大騒ぎになったりするシチュエーションを望んだことはあるけど、こんな騒がれ方は俺は嫌だ。
「どれだけ霊基が未熟でも器用さは変わらんか。染み付いた技能とは恐ろしいものだな。御託はいい、続きを頼む」
「あ、分かりました。こほん、敏捷性はそれなりに高く······って、幸運が最低値っ!? あなた、一体どれだけ苦労してきたんですか!?」
この声にまたもやギルド内が騒がしくなる。
「幸運値が最低だって? とんだ苦労人だな。あ、だから白髪なのか」
「アクアちゃんより幸運値が低い人、初めて見たわ」
「ある意味徳が高いな、ちょっと拝んでくる」
やっぱりこんな騒がれ方、俺は嫌だ!!
「筋力値、器用度、敏捷性の計3つが高いので弓兵系統の職業をお勧めしますがどうなさいますか?」
シロウは受付嬢が提示してくれた推奨のクラスが書かれた書類に目を向ける。俺もその書類に目を落とす。
そこには弓兵の基本職であるアーチャーを始めとし、スナイパー、ハンター、狩人、レンジャー、ワンダラーといった中級職や上級職がずらっと並んでいた。
「ほう、中級職だけでなく随分と上級職の名があるな。ここまで候補が多いと迷いどころだな」
「私としてはワンダラーを推すわ。歌って踊ってればいいんだもの。これほど楽な職業なんてないわ」
俺はシロウがワンダラーなんて選んだら引くぞ。身長が190センチ近くかつガチムチの大の大人が踊ってる絵面など想像もしたくない。もしそうなったら俺たちの腹筋が破壊され、戦闘どころの話ではなくなるに違いない。それにバフのスキルはアクアが充分こなせるからあまり必要性を感じない。
「私は筋力、器用さ、敏捷性以外にも生命力が高いからな。それを活かすためにも接近戦もこなせる職業がいいのだが」
なるほど、高い生命力を活かして接近戦も出来る職業を選ぶのか。シロウは筋力もそこそこ高いらしいから前衛としても有効的に機能するに違いない。
正直に言ってうちのパーティーは魔法使いが多く、唯一の接近戦が出来るダクネスは攻撃が当たらないため、壁の機能しか出来ないので近距離戦闘も行ってくれるのはありがたい。
「その条件でしたらレンジャーが適しています。高い機動力と狙撃能力に加え、接近戦もそつなくこなせる職業となっています」
「ではレンジャーにするとしよう」
シロウがそう言うと受付嬢は俺には見せたことのないにこやかな笑みを浮かべて言った。
「では、レンジャーで職業を登録させていただきます。冒険者ギルドへようこそ、エミヤシロウさま!スタッフ一同、今後のご活躍を期待しています!」
前作から見て下さっている方も居るようなのでここで前作との変更点を少々書いておきたいと思います。
現時点で開示できる変更点は2つあります。
1つ目は前作の第2話ではシロウとカズマは同一世界出身の設定でしたが今作では別の世界線の扱いです。
2つ目は前作ではアクアが衛宮士郎が英霊となった事情を全て知っていた設定だったのですが同一世界線上という設定を消去したので今作のアクアはシロウについて全く知りません。