(仮)強い漢になりたい   作:トーマ@社畜

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連載再開…!(ktkr

従ってイズナビを出す予定を【大噓憑き/オールフィクション】!!
嬉しいけど、展開どうしようか…笑


レッド家の犬/中編

目の前の光景に絶句した。

 

「ほら、ソーちゃんもクラピカに挨拶しないと」

 

リュンヌに促されたソレイユが口を開く。

 

「ひっ…うぅ…む…むり…りゃ……あはは!も、ゆるひ…あははははは!」

 

ソレイユが笑うのも無理ない。

彼は手と足首に枷を嵌められ、床に伏している。Tシャツと短パンという露出度の高い服を着ていて、足は裸足だ。そんな軽装のソレイユの周りに群がる生き物、それは六匹の狼だった。ざりざりとした赤い舌で、ソレイユの肌をひっきりなしに舐めている。狼達に攻められ、ソレイユの顔は紅潮し口の端から涎が垂れるが、それも床に落ちる前に舐めとられる。くすぐったさからだろう、全身はピクピクと痙攣している。

 

そして、そんなソレイユの姿を、リュンヌがハンディカメラと固定カメラ2台で撮影している。

 

「…」

 

「固まるのも過剰反応だ」

アセナに耳打ちされ、ハッとなり姿勢を正す。そして、室内にはソレイユのなんとも言えない声だけが響く。

 

 

 

「リュ、リュンヌ…。その、ソレイユは一体いつからその状態なんだ?」

 

空気に堪えられず、口を開いた。

 

「…ええっと、どのくらい経ちましたか? アセナ」

 

問われたアセナが、スーツの内ポケットから懐中時計を取り出して、針を見る。

 

「4時間程かと」

「そう…素材も揃ったし、終わりにしましょうか」

 

…何の素材だ!? と、とりあえず、働くに当たってリュンヌを怒らせない様にしなければ。絶対に。

 

「キャトルさん、この子達を持ち場に」

「畏まりました」

 

アセナの指示を受け、執務室へ案内してくれたメイドが頷く。

狼達は、きちんと躾られているようで、メイドの後を追い二列縦隊で退室した。

 

一方、狼達からのくすぐりから解放されたソレイユは「ふー、ふー、ふー」と息を整えた後、膝を伸ばして跳ね起きた。そして、付けられた枷は鍵を使わず力のみで破壊した。

 

「あ゛〜、全身狼くせえ…」

気怠そうなソレイユが、ソファーに身を投げる。

 

「ソレイユ様、タオルです。何かお飲物は?」

「ん。水…」

「畏まりました」

 

アセナがソレイユへと、流れる様にタオルを手渡し、部屋の端に置かれたワゴンへ向かう。

「! アセナ、私がやろう」

「…いいや。クラピカ、君にはまだ礼しか教えていない。そんな状況で執事然とした仕事は無理だ。今日は見て学んで、明日から本格的に教えよう」

「…分かった」

 

 

 

 

 

<ソレイユ視点>

漸くお仕置きが終わり、解放された身体を屈伸させる。感覚を確かめるように、バキボキと関節を一通り鳴らした。

 

「ソレイユ様」

 

アセナから差し出された水を一気に飲み干す。

 

「…落ち着いた?」

 

向かいに座るリュンヌから声が掛かった。

 

「ああ…」

「思考回路も?」

 

間違いなく、クラピカを攫ったことと、その過程を咎められている。この4時間で身に染みた、リュンヌは相当怒っている。

 

「その、もうちょっと考えてから行動する、します…」

「報連相もね」

「うぃ」

 

その返事に、『よしよし』とリュンヌが俺の頭を撫でる。さっきまでの放置プレイ(?)もあって泣けそうだ。

 

「ご歓談中すみません。リュンヌ様、セキュリティ部からのお呼び出しです」

 

リュンヌ専属メイドが告げると、リュンヌの手が頭から離れる。ちぇっ。

 

「分かりました。ソーちゃん、また後で…いや、また明日かな?」

「おう」

 

リュンヌはメイドを伴って退室した。

外を見ようとブラインドを開けると、空は暗く月が青く光っている。『また明日』だな。

 

「アセナ、俺はもう帰って寝る。クラピカ、お前も今日はもう休め。あと、さっき見た事は他言無用だ」

「畏まりました。車を呼ぶので少々お待ち下さい」

「…畏まりました」

 

アセナの返事にクラピカも続く。色々と納得していないのが、一目瞭然な顔だことで。

 

 

 

 

 

鳥のさえずりと、人の動く気配。窓から差し込む温かい太陽光によって目が覚めた。

 

洗面所で身を整え、ジャージに着替えた所で部屋にノックが響く。それに応えると、

 

「「「おはようございます、ソレイユ様」」」

 

綺麗に揃った挨拶と礼で、俺専属メイドが入室した。いつ見ても凸凹な三人組を、俺は気に入っている。リュンヌの所の三人組は、無個性過ぎて正直ちょっと苦手だ。

三人にそれぞれ指示をし、俺は日課のロードワークに移ろうと部屋を出た。

 

「執事になれば、『力』を教えてくれるのではなかったのか!?」

 

廊下に響き渡る声に、足が止まる。

 

「…昨日も言ったが、クラピカ、君はこの家の執事になりはしたがまだ仕事はまともに覚えていない。先に一通り執事の仕事を覚えなければ、先には進めない」

「それは理解しているが、納得は出来ない。始業前の瞑想が当面の修行など…私には時間がないんだ!」

 

アセナは説き、クラピカは反抗する。二人の遣り取りはそれなりの時間なされたようで、他の使用人たちも作業の手を止めはしないが、心配そうに様子を見ている。

 

「朝から元気だな」

 

俺の言葉に反応し、二人が挨拶を返す。それに手で応え、言葉を続けた。

 

「任せて悪かったな、アセナ。お前の教育は合わないようだから、こっちで引き取るわ」

「…宜しいので?」

「お前に啖呵を切ったんだ。嫌とは言わせない」

「では、お任せ致します」

 

一礼し、アセナがその場を去る。

 

「…ありがとう、ソレイユ」

「…」

「…ソレイユ?」

 

はあ。バカだな…。

 

「着いてこい、クラピカ」

 

アセナは間違いなく、この家の念能力者一、優しさと常識を持っているのに。

 

 

 

「ロードワークに行く前に、俺の専属メイドを紹介する」

 

庭で運動着に着替えたクラピカと待ち合わせた。

 

「左からカズキ、ニト、ミシマだ」

「! よろしく頼む」

「「「よろしくお願い致します」」」

 

アセナ発案のクラピカ『再誘拐』に協力した三人だ。確か、ニトはそれで足をくじいた設定だったか…?

 

「これから色々三人に教わることがあるだろうから、まあ…仲良くやれよ」

 

俺の言葉に、眼鏡をかけたメイド_ミシマの瞼がピクッと反応する。

うーん、クラピカとミシマ。神経質同士…ぶっちゃけ、相性悪そうな組み合わせだ。

 

「じゃ、カズキとクラピカは俺とロードワーク。二人は予定通りに」

「「いってらっしゃいませ」」

「ん。行ってくるわ」

 

『多分、いつもより早く帰る』とは言わなかった。

 

 

 

十キロ程離れた広い河川敷まできた。500メートルごとに、走る速度をあげるビルドアップ走で。

俺とカズキは当然余裕だが、クラピカは息を乱し、全身汗だくだ。

 

「んじゃ、息整えてる間に念について教えっか。頼むわ、カズキ」

「御意」

 

「クラピカのいう『力』っていうのは、『念』を差してるんだ。『念』とは体にあるオーラ、その生命エネルギーを自在に操る能力のことな! それは生ける者の誰もが微量に放出している………四大行は、纏・絶・練・発からなり………」

 

クラピカは、カズキの言葉を一言一句聞き逃さないように必死だ。俺は腰掛けるのにちょうどいい大きさの石に腰掛け、空を仰いだ。

 

「だから、アセナさんはクラピカに瞑想させてたんだ。念を目覚めさせようって」

「…念を目覚めさせる方法は他にないのか?」

「…」

「あるのだな、ならその方法を教えてくれ」

 

沈黙は肯定、か。カズキに助け舟を出す。

 

「あっても教えない」

「何故だ!?」

 

「一つ、外法かつ裏技だから。二つ、一週間もあれば瞑想で目覚める才能があると判断できるから」

「…!」

「三つ、お前は基礎体力すら未熟だ。寝言は寝て言え」

 

俺の言葉にクラピカが口を噤んだ。

 

「まあ、そのヤル気に応じてちょっと実演してやる」

 

念講義の間に集めていた拳大ほどの石を手に取り、カズキにアイコンタクトを送る。

 

「よっと…!」

 

カズキに向けて、放物線を描くように連続して石を投げる。投擲した石は、一つ残らずカズキの眼前で砕け散った。彼女の念能力によって。

 

「!!」

 

「これも数多ある念の一つでしかない。とりあえず、執事業務に基礎訓練を組み込んでやるから、瞑想と一緒に頑張れよ」

「…わ、分かった」

「じゃ、一度家に戻るか」

 

二人に呼びかけ、同時に走り出す。

先ほどと同じビルドアップ走でだが、最初の500メートルの入りが、行きの最後の500メートルのタイムと同じ設定にする。

 

 

 

案の定、クラピカは行きの比でなく疲労した。家の庭先についた途端、地面に膝をつき、胃の中の物を吐き出しながら『ひゅー…』と拙い呼吸をしている。

そんなクラピカを見て、カズキの顔が歪む。

 

「勘弁して欲しいな…。アタシ、ゲロの片付けって嫌いなんだ…あ!ソレイユ様の吐瀉物は別です!!」

「…それは言わなくていい。マジで」

 

「「お帰りなさいませ」」

ニトとミシマが出迎えに来ていた。二人も帰りが早いと予想していたようだ。

 

「…クラピカの業務指導と修行を三人で分担して頼む。ハードワークで構わない」

「「「畏まりました」」」

 

「あちゃー…、大丈夫ですか?クラピカ」

「!」

 

俺たちは一斉にクラピカに目を向けた、案の定リュンヌがその背をさすってあげている。

 

「! だ、だいじょう…おぇ…」

「大丈夫じゃないですね…失礼します」

 

そう言って、リュンヌがクラピカの口に迷い無く指を突っ込む。クラピカの顔が紅い。ギ、ギルティ…。

 

「全部吐いた方が楽ですよ〜」

 

「…お前ら、ハードワークじゃねえ………超々ハードワーク…腰が立たないようにしてやれ!!!」

「「「畏まりました!!!」」」

 

「…あの貴方達、聞こえてますからね?」

 

 

 

落ち着いたクラピカが立ち上がり、リュンヌの手を見やり申し訳なさそうにする。何か拭く物を探しているようだ。

 

「全く、ハンカチを持つ事から教えることになるとは…」

 

ミシマが呟きながら、リュンヌにハンカチを差し出す。しかし、リュンヌは首を振り、それを取ることはしない。

 

「念を教えたんでしょう?」

「説明だけで、見ての通り精孔は開いてないけどな。…ああ!」

「そういうこと」

 

リュンヌが【四大精霊のお手伝い/レンタル・エレメンタル】を発動させる。

どこからともなく現れた水がその手を円形に包み、汚れを流し終わると消え、続けて手に沿って風が回転した。水気が取れ、一瞬で手が乾いている。

 

「…いつ見ても、食洗機だな」

「フフ」

 

「…!? それも念能力なのか…!どのような能…グフッ」

 

クラピカが身を乗り出すが、その首根っこをカズキが掴んだ。

 

「ストップな!」

「じ、自重は従者の基本ですぅ…」

 

カズキとニトに続けて、ミシマが口を開いた。

 

「…皆、口を慎みなさい。お二人とも、お気になさらず道場へどうぞ。この男に、一週間で業務の基礎と完璧な纏を叩き込んで見せますわ」

 

ミシマの言葉に、三人の口角が揃って上がる。

 

いつ見ても凸凹な三人組を、俺は気に入っている。

だが、そんな三人の難点が一つ。それは、外見は三者三様だが、性根が同じであること。

 

彼女達は生まれながらの_サディストだ。


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