(仮)強い漢になりたい   作:トーマ@社畜

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お久しぶりです。
ちょっと精神回復してきたので、ボチボチ頑張ります。ねんどろ、絶対買う。

そして書いててキャラ多いのと、別に今まで出て来てないという理由で、このお話から執事長がアセナになってます。一応これまでのお話でも執事長という立場に修正しましたが、見逃していたらすみません。


レッド家の犬/後編

<クラピカ視点>

レッド家で働くことになった私は、業務ともに約束の『力』を教授願おうとアセナに迫った。確信的な何かを隠しているようなアセナは、瞑想や禅をするようにと告げ、言葉を濁した。納得など出来ない。

 

「執事になれば、『力』を教えてくれるのではなかったのか!?」

「…昨日も言ったが、クラピカ、君はこの家の執事になりはしたがまだ仕事はまともに覚えていない。先に一通り執事の仕事を覚えなければ、先には進めない」

「それは理解しているが、納得は出来ない。始業前の瞑想が当面の修行など…私には時間がないんだ!」

 

私は絶対に、9月のオークションまでに強くならなければいけない。いや、強くなる。

 

「朝から元気だな」

 

背後から声に振り向くと、ジャージ姿のソレイユがいた。一瞬、昨日のあられもない姿がフラッシュバックし、慌てて頭を振る。

 

…アセナとソレイユの遣り取りの末、どうやら私のことはソレイユが見てくれることになった。ソレイユの実力は不明だが、ハンター試験での様子や過去の話からして、彼も『力』を使えるのだろう。それに加え、リュンヌは確実に私の数倍強い。その兄なのだから、彼も同じ様に強いはずだ。

 

「着いてこい、クラピカ」

 

私は迷わず、ソレイユの後を追う。

その選択が間違いだったことを知るのは、僅か数時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

双子と別れた私に待っていたのは、修行なんて生易しいものではなかった。ミシマとカズキの二人に問答無用で精孔を開けられ、やっとのことでオーラを留めることが出来た…かと思えば、河川敷でカズキから教えられた念を永遠に復唱されながら、『体術訓練』という名の『暴力』を二人に代わる代わる、日付が変わるまで受け続けた。

 

二人とも、私とは比べ物にならない実力を持っていた。手も足も出ず嬲られた結果、身体中が悲鳴をあげ空腹と喉の乾きで今にも倒れてしまいそうだ。

 

「…み、水を一杯だけでいいから飲ませてくれないか」

 

「アハハ、だってさミシマ〜」

「…面白いことを言いますね。水なら貴方が這いつくばっている、その地面にあるでしょう?」

 

カズキが笑い、ミシマが此方を差して言う。

 

「…この泥水を、飲めというのか?」

「気絶した貴方に甲斐甲斐しく、バケツの水を掛け続けてくれたニトは優しいですね。おかげで水には事欠きません」

「優しいなんて、エヘヘ照れます〜」

 

…一体何処が優しいんだ。掛けられた水は、元から茶色く濁り悪臭を放っていた汚水だ。それが地面に混ざり、この上なく不快な泥水となっていた。

 

「別に、飲む飲まないは貴方の自由です。ですが今日から一週間、貴方に与えるのは一日一缶のレーションのみ。水分は取れる時に取るのが賢いと思いますが」

「嫌なら自分の小便、って手もあるぜ!」

「全然美味しくないのでオススメしないですよぉ…?」

 

「ま、待ってくれ本気か!?」

 

3人の言葉に、さもそれが当然の様な口調に戸惑う。

 

「…貴方はソレイユ様が与えられた『執事長よる教育』を拒否した。慈悲をです。なら、文句はないはずでしょう?」

「執事長だったら、ゆっくり精孔開いたさ。美味しい飯に、あったかい風呂と寝床が確約されてたのに。もったいないよな〜」

「私達の教育にあるのは、レーションとバケツの水と不眠不休です!」

 

そう言って弧を描く彼女達の口元に、それが本気なのだと知った。

 

 

 

 

<アセナ視点>

クラピカを虐め…否、一応教育している三人は日に日に輝きを増し、それに反比例してクラピカはボロボロになっていた。僕はなるべく四人を視界に入れない様に努めた。努めてはいたが、完全に避けるのは無理だ。

クラピカにマゾの素質はないようで(あっても困るが)、ボロボロになっていく身体とは逆に、その目は三人に対する憎悪にも近い怒りで爛々と燃えていた。それがより一層、三人の興奮を煽っているとも知らず…。

 

 

 

「…大丈夫かい」

 

修行6日目の夜、中庭の隅に座る彼へ声を掛けた。夜は冷えるのに下着だけを身に纏ったクラピカは、集めたのであろう落ち葉やポリ袋で暖を取っていた。

 

「大丈夫に見えるのか…?」

「…すまない。愚問だったね」

 

歪むクラピカの表情に、思わず謝罪の言葉が出た。夜風が冷たくて、持っていた水筒のコップに中身のホットチョコを注いだ。瞬間、『ぎゅるる…』とクラピカの腹の音が鳴った。

 

「…一口どう?」

コップを彼へ差し出すが、首を横に振られる。

 

「…レーション以外を摂取したことがバレれば、必ず酷い目に遭う。きっと三人の内、今も誰かがこちらを視ている。寝ている時だって数時間おきに襲撃されるんだ。…分かったら、それを仕舞ってくれないか?」

「ふ…っふふふ!」

「!?…何が可笑しい?私はアセナの……ッ…」

「僕の、何?」

「…」

「僕の教育は、君には生温かったんだろう?」

「……すまない。八つ当たりだ…」

「いや、こちらこそ笑ってしまって申し訳ない。ただ、三人をよく理解出来ていると思ってね」

ルールを破った時程、彼女達の教育は厳しくなる。そしてそれが、彼女達を悦ばせる。

 

「笑ったお詫びをさせてくれ」

インカムで三人にホットチョコは見逃せ、と指示を出す。御意の返事を受け、改めてコップを差し出した。

 

「…本当に飲んでも罰は受けないのか?」

「僕は彼女達の上司だよ。なんなら、ソレイユ様に連絡しようか?」

「…有り難く頂く」

 

ソレイユの名を出すと、クラピカは漸くコップを受け取った。

 

「明日までの辛抱だ。頑張って」

「…そ、れは、その…教育を誰かに…変わってもらえるという事だろうか」

 

恐る恐る、そう尋ねるクラピカに思わず再度笑ってしまった。彼女達の半分性癖が混ざった教育は、もうご免なのだろう。

 

「君がそう望むのならね」

 

 

 

翌、深夜零時。僕らは道場に集まった。

 

「纏」

 

「絶」

 

「練」

 

ミシマの声に合わせて、クラピカがオーラを操る。双子にこの一週間の成果を見せる為に、設けられた時間だった。

 

「…ご覧の通り。練はまだまだですが、如何でしょう?」

「如何も何も…なぁ?」

「う…うん」

 

ソレイユとリュンヌが口籠る。まあ、当然だ。

 

「一週間で纏を、って言ってなかったか?」

「で、出来過ぎてびっくりです…完璧だと思いますけど…貴方達、ほんとにハードワークを…お、お疲れさまです、クラピカ」

 

リュンヌの言葉で、クラピカの目に涙が溜まる。その涙が溢れない様、キツく拳を握る姿に思わず口が開いた。

 

「クラピカも相当疲れているでしょうし、明日は一日休息で、水見式や今後については明後日以降…で問題ないでしょうか?」

 

「俺は問題ない」

「私も…そもそもソーちゃん主導ですし」

 

「では、明後日の午前11時にクラピカを伴ってリュンヌ様の執務室に伺います。ソレイユ様もご在席下さい」

 

 

 

 

 

<クラピカ視点>

自身の曲がった肢体。尚も愉悦の為に振り下ろされるもの。最悪なのは、彼女達の一人が、ダメージ回復に特化した念能力者だったこと。

 

折られ、捻られ、切られ…しかし、それが治る。だから繰り返される。

 

「…ッやめてくれ…!」

 

夢か…。

窓から朝の光が射している。久しぶりにまともな食事、入浴をとったが睡眠は無理だったようだ。全身寝汗でびっしょりで、肌に張り付く寝間着が冷たく、気持ち悪い。まあ、仕方が無い。人生で精神的に参ったのは一族が殺された時だが、身体的に参ったのはこの一週間だ。地獄…その一言に尽きる。今では、ハンター試験が温かったとさえ感じる。

 

『コンコン』と部屋にノックの音が響き、続けてアセナの「大丈夫?」という声がした。

 

「すまない、うるさかっただろうか?」

『…そんなに酷くはないよ。予定通り出れそう?』扉の向こうの彼が、心配そうな表情をしているのが容易に想像出来る。そんな声音だった。

 

「問題ない」

 

今日は、これからを決める大事な日だ。

悪夢に魘されている場合などでは、なかった。


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