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「クリティカル!!2ポインッ!ソレイユ!!」
嗚呼…なんで、どうして俺は『俺』が殺せない?
「くそったれ…!」
アセナとクラピカを待つ執務室で、リュンヌに蜘蛛_幻影旅団とクラピカの話を問われたソレイユは、記憶にある限りの物語で応えた。時系列や詳細に多少齟齬があるかもしれないが、旅団とクラピカのエピソードは複雑かつ、話して楽しいものではない。
特に、後輩が教えてくれた劇場版特典のクルタ族の話には反吐がでた。創作であってもそうなのだ。それが『現実』の今、語ると同時にそのことを自分に再認識させている気がした。
「…てのが、ことの顛末だ」
「そう…」
話の途中から目を閉じていたリュンヌが、一つ深呼吸して重たい瞼を上げた。視線はフラフラと宙を漂い、それからゆっくりとソレイユへ移った。いつもなら宇宙を思わせる濃紺の瞳が黒く濁って見えるのは、自分の気持ちが同じ様に暗いからだろうか。
「それで、ソーちゃんはクラピカを強くしてどうしたいの?」
「どうって…そりゃ……」
黒い目が、静かに熱くソレイユを捕らえていた。
「…ソーちゃんには、答える義務があるはずだよ」
思い出す…あの時_本屋から背を向けるクラピカを見て焦燥した。この先を、未来を知っているのに。…もし、何もせずにいて。全てが終わった後、彼の友人となったリュンヌに何と言えばいいのか分からなかった。それと同時に、キルアを慈しむゴトーと同じように伝えられた感謝がくすぐったかった。
「…強くして、」
こちらに向けられた、他者を気遣う、その微笑が眩しかった。
「無茶な賭けなんかさせないくらい、強くして、」
眩しくて、
「自分の足で、地に根を張って生きて欲しい………」
儚いと思った。
<アセナ視点>
クラピカを連れて訪れた執務室には、リュンヌとソレイユ、そしてソレイユ専属メイドの三人がいた。執務室の前にもいなかったことから考えて、リュンヌ専属メイド達は遠ざけられたか、リュンヌの影に潜っているのだろう。
「…何かあった?」
執務室の空気が重い。
一週間のいじめ…訓練に堪えたクラピカを気遣ってやれないのか、問えばリュンヌは肩をすくめて笑い、ソレイユは眉間に皺を寄せた。メイドの三人に至っては、視線でクラピカを殺せるのではないかという程に、強く彼を睨んでいる。睨まれたクラピカは、声を殺して小刻みに震えている。
「…三人とも止めてくれないかな。これじゃ、会話にもならないだろ?」
アセナの言葉で、三人の視線がクラピカから外れ、その顔は落ち着いた優秀なメイドのものになった。
「会話の場が整ったようで安心したよ。クラピカ」
名前を呼ばれたクラピカが、アセナの横に並び立つ。もう身体は震えていない。視線でリュンヌとソレイユへと先を促すと、リュンヌが口を開いた。
「一週間本当にお疲れさまでした。体調はどうですか?」
「ありがとう。問題ない」
「そうですか。それは良かった。何か不具合があれば、いつでもニトに頼ってくださいね」
名前を出されたニトは、リュンヌの持つウンディーネによる回復が無意味に思える程、強力な回復特化の念能力者だ。
それをとっくに知っているであろうクラピカは、静かに頷いた。
「…それじゃあ、腹を割って話して貰いましょう。貴方が
その問いに続いたクラピカの独白のような身の上話は酷いもので、話が復讐にいくのも、9月のオークションまでに強くなりたいという焦りも当然に思えた。
だけど、それを聞く他の五人がおかしい。まるで、既にクラピカの話を聞いた事があるかのような、凪いだ表情だった。その凪いだ表情は僕にとって、嫌に既視感があるもので。そうだ、まるで僕の能力を…
「アセナ」
話していたはずのクラピカに声を掛けられ、現実に引き戻される。
「…わ、悪い。ちょっと考え事しててさ…えーと、話はまとまった?誰が君を指導するって?」
「それが…」
苦虫を噛み潰したような顔をしたクラピカの、視線の先を追う。
「だから!俺が責任もって強くしてやるって言ってんだ…!」
「…気持ちは分かるけど反対。ソーちゃんの言葉足らずと脳筋指導は、クラピカに合わないと思う」
「ッ…こっちにはミシマがいるだろ!」
「系統だけで、私が降りる根拠に成ると思ってるの?」
「…譲らないぞ」
「…気が合うね」
…最悪だ。
いつもこの双子の言い争いは、リュンヌが折れて『はい仲直り』で終わる。折れない時のリュンヌは大抵先に策を練っており、折れたフリをしてソレイユを油断させる。リュンヌが本当は折れていなかったことにソレイユが気付くのは、明日か明後日か一週間後か一年後か、はたまた気付かずに終わっている。それが双子の決まりで、二人の常。
そのリュンヌが今日は折れない。こんなこと、双子に仕えて初めてだ。
「…譲らないぞ…?」
折れないリュンヌが信じられないのか、重ねて紡がれた声は弱々しい。
「だから、気が合うね。私も『譲らない』って言ってるんだよ」
「あ…ぇ…?」
「手を貸すなら、私にも譲れないことがある。クラピカには、私とソーちゃん、どちらかがピンチに陥った時はソーちゃんを助けてもらう」
「はあ!?」
「…私を優先するのは、あの三人だけでいい」
リュンヌが足元を見る。やはり専属メイドの三人は影に潜っているらしい。しかし、そんな言葉を掛けられたシスコンが納得するはずがなかった。
「お前は俺の大事な妹なんだぞ!?」
「…妹、ね」
フフ、とリュンヌが笑みを零す。その目が一瞬紅く染まり、部屋の色をも紅く変えた。【四大精霊のお手伝い/レンタル・エレメンタル】の中でリュンヌが一番制御できない、火の精霊『サラマンダー』が憑依した標。
視界を覆った紅と、熱気の中から徐々に見えて来た光景に思わず唇を噛んだ。
床に押し倒されたソレイユと、その上に覆い被さるリュンヌ。二人の服はほぼ燃えて、裸に所々布が纏わりついているといった様子だ。そんな屈辱だけでは足りないとでもいうように、リュンヌの手がソレイユの胸を弄ぶ。
「あ、う…やだ…」
堪らず喘ぎ、身をくねらせるソレイユを逃がす程、頭上の人物は優しくなかった。
「妹に怯えるなんざ、困った
「カ…ゲ…くそ、サラを出しやがれ!ぶっ飛ばしてやる!!」
「あはは、吠えても出さねーよ?」
「ふざけ…あっ……ン!さわん…な!」
ソレイユの目尻に涙が浮かぶ。仕様がないな、という素振りでカゲはソレイユを解放した。自由になったソレイユは、隠す様に自身を抱いて踞った。その姿に苦笑したカゲが、こちらを振り返った。偽りの胸は焼き払われ、割れた腹筋に鍛えられた肢体が惜しげもなく晒されている。そして、平均より大きな息子も。
「つーことだ、クラピー。レディファーストで頼むわ」
ゴトン。と、隣からイヤな音がした。見なくても分かる。そこにいるのは、白目を剥いて倒れるクラピカ。ズキズキと鈍い頭痛がしてきた。
「はぁ…、リュンヌに変わってくれない?」
「ん〜。難しいお願いだなぁ」
「…なんだって?」
カゲが考える素振りをした後、自身のこめかみをトントンと叩く。
「眠ってる。お姫様はお怒りみたいだぜ、おもしれぇよな」
「」
堪えろアセナ。僕まで倒れたら、本当に『おもしろい』ことになってしまう。
<ソレイユ視点>
どこで間違った?どこでリュンヌを怒らせた…?
「ソレイユ様、お洋服を「だまれ」…申し訳ありません」
ミシマの言葉を遮り、心配するようにこちらを覗く専属メイドの三人の視線を受け流す。
そうだ、今は。
「カゲを一発、いや十発殴る…!手伝え」
「「「畏まりました」」」
「聞こえてんだけど、オニー…じゃなかった、オネーチャン?」
「聞こえるように言ってんだ!」
「はえー、こわいこわい。でも俺って、殴られるより殴るほうが万倍好きなんだぁ♪…お前達」
カゲの足元の影から、リュンヌ専属メイドの三人が出現する。今日の三人は、揃いの金髪ショートに碧眼だった。…舐めやがって。
「主は戦う意志がありません」
「ということは、3対4です」
「それは些か困るので、4対4に致しましょう」
つらつらと流れるように語る三人の影から、もう一人。現れたのは…。
「…痴女?」
「黙れイルミ!」
くそくそくそくそくそ…!こいつら、なんて奴を呼んでんだ!?いつも通りに瞬きのないイルミの目が、今は不埒に思える。
「イルミ様、ソレイユ様のお相手をお願いします」
「こちらの三人は」
「あなたとは相性が悪い」
「…ってことで、オレが相手みたい」
「誰が相手でも関係ない。俺はカゲをぶっ飛ばすって決めたんだ。邪魔するやつもぶっ飛ばす」
纏をし、臨戦態勢になる。背後ではメイド達がすでに戦いを始めている。
「肉弾戦ってキライなんだけどなぁ」
「んじゃあ、さっさとKOしてやる」
「さっさと、は無理でしょ。オレ達、何回組み手したと思ってるの?」
「…覚えてねーな」
自嘲しながら、右手を振りかぶった。
<アセナ視点>
現状打破。
その為に必要なこと。仕方がなかったんだ。
「あれは…何をやっているのかしら?」
「誠に申し訳ありません」
「謝罪は何度も聞いたわ。何度もね。…それで?」
「私では、ソレイユ様を止める事ができません。また、カゲ様には止める気がありません」
「…そう」
広く絢爛な執務室は見る影もなかった。破壊され、血に濡れている。そして未だ、戦いは続けられていた。僕とカゲを除く者たちで。
「久しぶりね、カゲ」
「おー、相変わらず栄養失調?みたいだな」
「…貴方のその、リュンヌと正反対の素直な所は好ましいわね」
「へー」
早々に自身の影から取り出したバスローブ姿で寛ぐカゲは、どこからくすねて来たのか、戦いを観戦しながらサンドイッチやケーキといった軽食を頬張っている。たまに、意図的に飛んでくるソレイユの念弾やカズキのチャクラム(戦輪)は全て弾くか、自身の影に取り込んでいた。
「貴方の話は後ね。まず…ソレイユ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ソプラノの咆哮で空気が震え、恐ろしい程の怒気が奥様の目に宿っている。
「げぇ!ババア…!」
ソレイユの一瞬の隙を、イルミ様は見逃さなかった。即座に背後に回り、ソレイユを羽交い締めにした。それに遅れて反応したソレイユを奥様の咳払いが止める。観念したかのように、ソレイユがイルミ様の腕をタップし、羽交い締めから解放される。途端、こちらに怒気が当てられた。
「…アセナ、恨むからな!」
「承知の上です」
「ッチ…」
舌打ちしたソレイユが中止の合図に右手を挙げると、徐々に空間が歪んだ。歪みから、ミシマとニト、それと三つ子の内の一人が現れる。中々派手に遣り合ったようで、ニト以外の二人は傷だらけになっているが、傷は浅そうだ。
一方、部屋の端で交戦していたカズキと三つ子の二人も部屋の中央に集う。カズキは重症の対戦相手に左右の肩を貸していた。所々身体が欠損している二人を申し訳なさそうに見遣り、ニトを呼ぶ。
主人が喧嘩しているのに巻き込まれただけで、平生の六人の中は良好だ。事後の治療のことまで考えているから、三つ子はニトに手を出さないし、出せない。
「さて…言い訳を聞きましょうか?」
奥様の問いに、ソレイユが不服そうに返す。
「言い訳もなにも、カゲを殴ろうとしただけだ。邪魔が入ったけど」
「そんなので一々呼ばないで欲しいな、オレにも都合ってものがあるのに」
「なら、除念師でも探せ」
「いやいや、一度試したことがあるけど駄目だったよ。呪い返しみたいに除念師が死んだ」
「マジか…やっぱ殴らせろ、カゲ!」
「…」
奥様が絶句するのも無理はない。ソレイユとイルミ様_この二人、今まで小一時間も殺し合い寄りの殴り合いをしていた上に、未だソレイユはほぼ全裸。所々破けたローライズなボクサーパンツだけが彼女の威厳をギリギリ、本当にギリギリ保っている。なのに、言い訳そっちのけで、気軽に会話している。奥様がゾルディックを嫌悪していることをソレイユは知らない。とはいえ、どう考えてもアウトだ。
僕の後ろではカゲが口元を覆い、笑いを堪えている。…僕も笑えたらどれほどいいだろうか、未だ目覚めないクラピカがとても羨ましい。
「ストップよ…」
嗚呼、奥様。
「お小遣いはストップ。口座も使わせない。そして、今日、今出て行きなさい_ソレイユ=レッド、勘当よ」
<イルミ視点>
落ち込んだ顔を、可愛いと感じてしまう。
「…大丈夫?」
「大丈夫に見えるのかよ」
「全然」
勘当を言い渡されたソレイユが持つのは、執務室を出る間際に執事が渡したバックパックと衣服だけ。見慣れた灰色のジャージ姿になったソレイユは、バックパックの中を漁っている。
「ウチに来れば?」
自然と口に出たオレの言葉に、ソレイユは首をブンブンと強く横に振る。
「お前のお袋苦手だ。カルトにも嫌われたし」
「…そういえば、あの三人のお守りに来てたんだっけ」
「ん。気持ちだけ貰っとくわ!」
何かを隠すように、ソレイユはオレの背中を無遠慮に叩く。
「相変わらず…バカ力」
そう呟くと、彼女は歯を見せて笑った。
<追記>空間の歪みから現れたのはミシマとニトです。早々に読まれた方、肝心な所の誤字をしてしまい、すみません。