例えば。
例えば、暗殺未遂で針人形になった執事を一思いに殺したのはカゲ。例えば、その暗殺を依頼した人物を共に痛めつけはしたが、止めを刺したのはリュンヌ。例えば、例えば、例えば…
過去に送られて来た刺客や、胸糞悪い輩、奴らと戦いはしたが最後の一撃を振るうことはなかった。ソレイユが右手を振りかざす前に、リュンヌがソレイユの手を握るからだ。
「もう十分、あとは私が」
そう言って笑い、有無を言わさず対象の息の根を止める。
「なんで…?」
「…なんででも。私はソーちゃんにいつも沢山貰ってるから」
「…?」
「愛を、ね」
言葉と共にウインクを飛ばされて、嬉しいやら恥ずかしいやらで口が重くなる。
そうやって命を奪う瞬間の責任を有耶無耶に、今日まで生きてきた。ソレイユは前世でテロリストを殺したのを最後に、今世では人を殺していなかった。
どうしてリュンヌの手を振り払えなかったのか、振り払わなかったのか。理由は単純明快である。ソレイユは人を殺したくなどなかった。この世界で金持ちの家に生まれ、念能力者を近親者に持つ者が言える台詞ではないのに。それを察した優しいリュンヌに甘えていた。とんだ馬鹿野郎だ、クラピカに地に根を張って生きて欲しいと言いながら、己はリュンヌに依存して生きている。リュンヌに楯突く奴は排除すると宣いながら、本当は守られている。
尚悪いことに、ソレイユは人を殺せない所か、他人の命が散るのを是と思えない。だから、カゲの能力が発動してカストロの前に出現してしまった。
ソレイユがリュンヌの気持ちを取り戻すには、戦闘において人を殺める覚悟をしめさなければならない。隣にいるリュンヌに、ずっとその咎を背負わせるわけにはいかないのだから。
<キルア視点>
キルアはゴンと共にヒソカVSカストロの試合を観戦しようとしていた。が、『試合観戦も念を調べる行為に相当する』とウイングに言われてしまった。しかし一枚15万もしたチケットを諦めきれずに、キルアはゴンを置いて試合会場へと足を進める。
試合を見ようと人でごった返した会場に辟易しつつ、ちょっとした好奇心でカストロの楽屋へ向かう。そこでキルアを待っていたのは、目の前にいたはずのカストロが、いつの間にか自分の後ろに立っているという肝が冷える体験だった。
「…バトルオリンピアで待ってるよ。君なら来れる」
戦わねーっつーのに。
期待の眼差しを受け流して、試合会場へ向かった。
試合の終盤、カストロの敗北を確信したオレは目の前の事象を飲み込めずにいた。ヒソカがカストロとの勝負を決めようとトランプの投擲モーションに入った瞬間。ヒソカの足元から、今まで感じたことがないおぞましいオーラを感じた。吐き気を催す程強烈なそれは、禍々しいと思っていたヒソカのオーラが可愛いと思える程で。キルアは、それがヒソカ自身のオーラではないと直感的に感じた。もっと純粋で鋭利な悪のオーラだ。逃げ出したくなる足を抑え、カストロを狙ったトランプを目で追う_その先にあるのはカストロの死体ではなく、何らかの能力でトランプを次々焼尽すソレイユ=レッドだった。
『な、なんということでしょう!?決着かと思われた試合に、突如乱入者です!…し、しかし何処から…気付いた時にはカストロ選手の前にいた彼…ソレイユ選手は何処からきたのでしょうか!』
何処から来た、とかそんな問題じゃない。ソレイユが見せたオーラは熱い太陽のようで、彼が伴ったオーラとはまた別物だった。それはヒソカでもソレイユでもない第三者、悪のオーラを持つ誰かが、両者の間にいるということだ。
頭の中でどんどん沸く推測や仮説。数秒自分の世界に没頭していたが、審判の声に再び意識を浮上させる。
どうやらカストロのルール違反、という判断がなされ試合はヒソカの勝利に終わった。ソレイユが登場していなければ、カストロは死んでいただろう。当然の判断だ。ヒソカも文句はないようで、ソレイユと幾つか言葉を交わして会場を後にした。ヒソカに背を向けられ、審判に反抗するカストロをソレイユは有無を言わさず俵の様に担ぎ上げる。驚いたカストロがソレイユの上で喚く。
「黙れ。俺は今、過去最高に自己嫌悪してるんだ」
うるさい会場に、ソレイユの声はやけに明瞭に響き渡った。瞬間、視界が痛い程の眩しい光で覆われた。
「…がぁッ!?」
四方八方から、同じ様なうめき声が聞こえる。何度か瞬きをして、視界がクリアになった頃には、カストロとソレイユの姿は消えていた。
「ソレイユと飯食ってただぁ〜?」
「ウス!そうしたら、突然目の前から消えて…」
「気付いたら彼は試合会場にいた、というワケです」
「ワッケわかんね〜!!」
「まあまあキルア、それをちょっとでも理解するためにこれから録画を見るんでしょ?」
「そーだけどさぁ…」
後日。ヒソカとカストロの試合の録画を見ることになっていたオレ達はウイングの元を訪れた。すると、彼らは知らぬ間にソレイユと親しくなっていたらしい。何だか変な気分だった、ハンター試験を通してもオレ達とは親しくなんかしてくれなかったのに。
あれからソレイユは数日天空闘技場から姿を消し、たまに戻ってきては試合を消化してはまたどこかへ行ってしまう。その側にカストロの姿はなかった。
「やはりキルアくんの睨んだ通り、これは第三者の能力でしょうね」
ウイングの言葉に頷く。録画のスロー再生でより鮮明になった。ソレイユはヒソカの足元から伸びた影から出現していた。
「特質か操作か…どちらにしても、恐ろしい能力です。私達は試合会場からかなり離れた場所にいた、それを瞬時に移動させるなんて」
「あぁ…能力もだし、オーラはもっと恐ろしかったよ」
思い出して鳥肌立ったオレを、慰めるようにゴンが頷いてくれる。
「ソレイユに聞ければいいんだけどね…」
「ゴンはヒソカと戦うんだもんな」
「うん。試合中、おんなじ様にソレイユが目の間に現れたら困るし、そうなるかもって考えながら試合すると思いっきり戦えない」
「それなら、ソレイユさんにきくッス!」
「「?」」
「彼から前回の詫びに、と改めて食事に招待されましてね。これからズシと行くんですよ…君たち「「行く!!」」…そう言うと思いました」
レッド家の双子は、いろんな事から砂のようにすり抜けていく。
今回こそ、逃がしてなるものか。