歯医者の通院も中々終わらない。
…来週はもうちょっと話が進むといいなぁ。
パドキア共和国。
森の中を走る列車内の一室。窓の外には件のククルーマウンテンが見え、ゴン達の会話も弾む。そうだ、弾んだままでいればいいものを…先ほどからイヤという程3人が俺に気を使っているのが分かる。そのチラチラと送られてくる視線に依って。
「なあ」
堪らず、声を掛ける。
「「「!」」」
「…そう警戒すんなよ。リュンヌはお前らが心配で俺を一緒に来させたんだ。俺はリュンヌの大事なモンは大事にする、だから普段通りにしてろ。気遣われるとサブイボがたつ」
「ご、ごめんね!ソレイユ。折角来てくれたのに」
「すまない。その…やはりキルアの兄とのことや、試験中はリュンヌと違って私たちを避けているようだったから、つい…」
「実際避けてたろ?言っちゃ悪いがシスコンも程々にした方がいいぜ?」
塞き止めていた何かが決壊したのか、ゴン達は口々に話し出す。
言ったなレオリオ…。
「…シスコン上等。避けてたのはお前らだけじゃねえよ…リュンヌに悪い虫がつくからなぁ」
その言葉に、レオリオとクラピカがピクッ、と反応する。わかりやすいことで。
一人「?」状態のゴン、お前だけはそのままでいてくれ。
俺たちは観光バスでククルーマウンテンに到着した。
ゾルディック家の家人を殺しにきたチンピラがミケに喰い殺され、試しの門…ゴンとゴトーの電話越しの遣り合い…その後は、ゼブロの提案で使用人の家で特訓する話で落ち着いた。
うーん。原作様々。
たしか特訓は2週間くらいだったっけ?それまでは、ゴン達に特に危険もないし、少しくらい放置しても大丈夫だろ…よし!
「俺、特訓パス。終わったら連絡してくれ」
ゼブロの話に夢中な3人に声を掛け、席を立つ。
「わかったが…、その間どこに?」
クラピカからの問い。
「山を降りて街のホテルにでも泊まるさ。じゃあな」
<クラピカ視点>
特訓をパスすると言ったソレイユは、有無を言わさず出て行ってしまった。山を降りるということは、即ち彼には最低でも『試しの門』の1の門が開けられるということだ…。
そのことに気付いたのだろう、ゼブロさんが視線と共にこちらに問いかける。
「先ほどから気になっていましたが、彼は一体…?」
「ハンター試験で一緒に合格した同期で、私たちと同じくキルアの友人_その兄だ」
流石に友人…とまで言える関係ではないだろうな。出来ればそう有りたいのだが。
「お兄さんが何故ここまで?」
「リュンヌがゾルディック家に行くオレ達を心配して変わりに着いてきてくれたんだ!」
ゴンの答えに何故か、ゼブロさんの顔が驚愕に染まる。
「リュンヌ…!?…も、もしかして彼はソレイユ=レッドでは…?」
「そうだけど、ゼブロさん2人を知ってんのか?どーもイルミの奴とは顔なじみみたいだったが」
「知っているもなにも…」
そう言い、彼が語り出した『レッド家双子暗殺未遂』はニワカには信じがたいものだった。
「じゅ、12歳の子供を暗殺だって!?」
話を聞いたレオリオの咆哮が響く。
「…驚くのは暗殺しきたキルアの兄を捕縛し、交渉したことの方だろう」
暗殺一家にとっての日常を非日常にされたのだから。それも、たった12歳の子供の手で。
「凄いんだね。リュンヌとソレイユって!」
ゴンが破顔し声をあげる。ゴン…「凄い」の一言で片付ける問題ではないと思うぞ。
<ソレイユ視点>
「〜〜ッ、くしゅん!」
…誰かが噂してるな。
は~、さっさと山降りてホテルで旨い飯食って風呂入って寝よ。身体はそうでもないが、ここ最近…精神的にはかなりキている。
ぼんやり歩き続けていると、試しの門まできた。扉に両手をかけ、開門しようと力を入れる。念無しでどれくらいやれるか、試してみるか。
「よっと…!」
試しの門は『ギイイイィ…』という重量感のある音と共にゆっくり開き、5の門にまで達した。流石に7までは無理か…。
諦めて扉が閉まらないうちに、外を出ようとした所で何か飛来してきた。それを避けようと、門から距離をとる。それにより折角開けた門が閉じていく。…クソが。
「…そこにいる奴!隠れてないで出てこいよ。絶は出来るようだけど、殺気が少しでも漏れてるようじゃ意味ねーぞ」
漏れ出た殺気の方に向かって声を掛ける。飛来してきた何か…地面に落ちているそれは白い紙だった。紙を使うのは、誰だったっけ…?
声を掛けて数秒後。雑木林の中から、殺気の主が姿を見せた。
烏の濡羽色の髪は肩口で切りそろえられ、女物の着物とよく似合っている。こいつは…。
「カルト=ゾルディック…?」
「! 僕のこと知ってるの…?」
「…不本意ながら。つか、何のつもりだ?こんなもん投げてきやがって」
落ちた紙切れを拾い、顔の前でヒラヒラと揺らす。
「………イルミ兄さんの遊び相手って本当?」
なんだ。そんなことか。
「本当だったらなんだ?」
「僕とも遊んで」
ズズズ…と、カルトが纏をする。あんまり好きなオーラじゃねーな。兄弟揃って陰湿だぜ。
「ヤダ。俺はさっさと寝たいんだ。消えろ」
「…遊んでくれないなら、『妹を殺す』よ?」
そう言い、カルトが薄ら笑いを浮かべる。
どうやらイルミは、戦闘訓練や俺のシスコン具合については話してもタブーを教え忘れたらしい。それが意図的なのかどうかは、ひとまず置いておく。
「…できないことを言われても、なぁ…」
「やる気になった?」
「まあまあ。あと、最初に言っとくが今からやるのは遊びじゃなくて教育だ。『リュンヌを殺す』なんて言ったこと後悔するぞ?」
<カルト視点>
3年前。イルミ兄さんがとある双子の暗殺に失敗した_その日、ゾルディック家は混乱を極めた。大人達が右往左往し、怒号が飛び交う。
僕がこの暗殺一家に生まれて、初めてのこと。
件のあらましは、ゾルディック家の家人から使用人、誰もが公然の秘密として知っていた。というのも、イルミ兄さんが全く隠していなかったからだ。まるで標的に囚われたことを恥じていない。それどころか、双子の元へ戦闘訓練に通っているとゼノお爺様に聞いた。
それをお母様は嘆いていたけど、お父様やお爺様たちは違う。何も言わないし、兄さんを咎めもしなかった。
…標的に返り討ちにされるなんて、暗殺者にあるまじきことじゃないの?
僕の中で黒い何かが渦巻く。これは怒り?だとしたら何に対する怒り?イルミ兄さん…お父様たち…?
違う。これは、殺されるべきだった双子への怒りだ。
「レッド家の双子の片割れが敷地内まで来ているそうです」
執事から聞いた情報に耳を疑う。
「何の為に…?」
「キルア様のご友人に随行するため、と聞いております」
「それは、そのレッド家の者は…」
「…カルト様のご推察通り。キルア様の為にきたワケではないかと」
兄さんを連れて行こうとするのは、許せない。
もっと…、もっと許せないのは、兄さんに関心がない…なのに、兄さんと一緒に行動しているレッド家の者!
腹がたつ腹がたつ腹がたつ…!!!
「…使用人によりますと、他の3人の『ご友人』と語る者たちと違い、レッド家の者はそのまま下山する……カルト様!」
執事の言葉を最後まで聞かずに、僕は部屋を飛び出た。
こんなの聞いてない。イルミ兄さんのバカ…!
なんだ、アレは。
「まあまあ。あと、最初に言っとくが今からやるのは遊びじゃなくて教育だ。『リュンヌを殺す』なんて言ったこと後悔するぞ?」
何が教育だ…!殺される………!!!
ソレイユ=レッドの暴力は苛烈だった。
こちらが紙で攻撃して、塵も積もれば…とその長所を発揮する前に、相手の念能力であろう『熱』を持った何かで焼尽される。
更に悪いのが、レッドは念能力を主としていないこと。
『熱』のそれは変化系に見えるが、戦闘スタイルは強化系そのものだ。僕の紙への防御として使っているだけで攻撃に使わない。
単純に、技量で勝てない。
見た事のない武術が、複数混ざりあっている。型があるようで、ない。変則的で動きに慣れる前に攻撃を受ける。
もう何回殴られたか数えるのもヤメた。今はただ、この暴力から逃れたい。
…漸く、撒けたのだろうか?
僕は絶をし、木の影に身を潜めている。……そうだよね、ここはゾルディック家の森。流石にレッドも…
「み〜つけた」
真上、から、声…イヤだ………
「もうやめて…な…何が教育だ…………!」
「? 教育だろ?リュンヌへ危害を加える妄言は『罪』っていう認識の刷り込み『教育』。だから骨も折ってないし、内臓への攻撃は加減してる」
間違ったことは言っていない、という顔でレッドが木から降りながら、こちらに近付いてくる。それ以上近付くな…、近付かないで……!
「そのくらいで勘弁してやってくれんかのぉ」
その言葉と共に、僕とレッドの間に【龍頭戯画/ドラゴンヘッド】が放たれた。
地面に衝突し、跳ね返った龍の顎門がレッドの真横をすり抜ける。必殺でない、牽制の一撃。
「…ゼノ=ゾルディック」
「ゼノお爺様…!」
僕とレッドの呼びかけに、木々の影から出てきたゼノお爺様が片手を挙げて応える。そして、お爺様の目が僕を捉える。
「カルト。実力が見合わん相手に、安易に喧嘩を売るでない」
お爺様の言葉に何度も頷く。二度と売らない。頼まれたって御免だ。
「レッド家の者よ…ワシから謝るわい。すまんかった。許してくれんかの」
レッドは頭を掻きむしり「あ゛〜!」っと短く叫んだ。
「…年上に弱いのはまだ日本人気質が抜けてねーからか?」
「なんじゃと?」
「なんでもねえ。こっちこそ大事な孫を殴って悪かった。カルトも、その…やり過ぎたわ、ごめんな」
「ぼ…、僕も……」
「?」
「此奴には、はっきり言わんと伝わらんよ」お爺様が優しく背中を押してくれる。
「ぼ…!僕もごめんなさい!!」
「良しよし。一件落着したところで…レッドよ、お主今晩は泊まって行かんか?」
「「は…?」」
レッドと一緒に間抜けな声を出す。呆れた様な顔で、お爺様が空を仰ぐ。連られて仰げば、いつの間にか夕空は闇に染まっていた。
「こんな時間じゃ。今から下っても、ホテルは空いとらんぞ」
「…お、おなしゃす」
夕食の前に汚れを落とせ、とお爺様に咎められた。問題はその後。『風呂で裸の付き合いでもすれば、ちと仲良くなれるんじゃないか?』との言葉を受け、個室のシャワーでなくレッドと共に大浴場まで来た。
別に仲良くなりたいワケじゃないのに…。
着物と違い、脱ぐのに雑作ないジャージを着ていたレッドは一瞬で大浴場まで行ってしまった。レッドに遅れて数分後、僕も大浴場に入る。辺りを見回すが、レッドは奥の湯船にいるようで姿が見えない。
僕は身体を洗い、一応腰にタオルを巻いて一番近い湯船に入った。レッドによって付けられた打撲や裂傷が疼く。患部を一カ所ずつ揉み解していると背後から足音が聞こえた。
「うげ、痛そうだな」
「誰のせいだと思って…」
他人事のように言うレッドに文句を言おうと後ろを振り向いた。
………え?
自分の目に映るものが理解出来ず、思わず視線が釘付けになる。
「…お、おおおお」
「?」
「おおおおおおおおおおお……………女!?」
「だったら何だよ。お前も男の癖に女装してんじゃねーか」
大きな胸を揺らして、隣にレッドが座る。
「いや僕は…って!ち、近付くな!!!」
少しでもレッドを視界から外そうと下を向く。…ダメだ、どうして下を隠してないんだ…!?堪らず目を瞑った。
「…はぁ?………もしかして、意識してんのか?毛も生えてねーガキの癖して」
「見たの!?」
「いや…見てないけど。やっぱ生えてないのか。どんだけ可愛いもの付けてんだ?」
「ヤメロ!タオルを外そうとするな…!!!」
目を瞑ったまま必死の抵抗を続ける。
「ッチ、そんなに抵抗すんなよ。これじゃこっちが痴女のショタコン野郎みたいじゃねーか」
「みたい、じゃなくて実際そうでしょ…!」
誰かタスケテ…!
「…カルト?」
か、神様ありがとう……!
名前を呼ばれた方を向くと、同じく食前に汗を流しにきたであろうミルキ兄さんがいた。
「ミルキ兄さん、助けて!」
「おい、だから誤解されるような言動してんじゃ………」
レッドの言葉が止まる。それと同時に僕も固まる。何故って。
ミ、…ミルキ兄さんの兄さんが、大きく反り立っていたから。
「に…兄さん?」
僕の声に反応して、兄さんが素早くタオルで前を隠す。…もう遅いよ。
「カ…カカカ、カルト。そ、そちらの…レ…レレレ、レディは知り合いかい?オレにも紹介…い、いや今は一緒にお風呂ろろろ…グゥッ!」
滅茶苦茶吃って、最後まで言い終わらない内に兄さんは鼻血を大量に吹いて倒れた。
…………。
「…まあ、アレだ。男なら正常…や、ちょっと過剰かもしれないけど当然の反応だ。兄貴をそんな…ゴミを見るような目で見てやるなよ、な?」
だから、誰のせいだと思ってるの?!