昭和五年 私は第一次改装の為、横須賀の工廠にいました。
しかし、改装は半ばで中止となってしまい、これからについての確たる命令もないまま、私はぼんやりとした日々を過ごしていました。
しばらくして、改修工事が再開されましたが、それは当初の計画とは異なり、四番主砲と舷側装甲を撤去し、機関を低出力の物への変更し、練習戦艦への変更との事でした。
練習戦艦へ変更しなければ、解体されてしまう。
生きるために、練習戦艦という艦隊を離れた戦えない艦娘になったのです。
それはとても口惜しく悔しい事でありました。
思えば私の比叡という名前は、京の都の北東にある比叡山という山からいただいたものです。
比叡山とは、かつて、京の都を護るために、延暦寺というお寺が建立されたのだそうです。
私は比叡山延暦寺が平安の昔から今に至るまでずっと、京の都を末永く護り続けているように、この日本を末永く護って欲しいという想いを込められて先帝陛下につけていただいた名前です。
艦娘として、生を受けたのは、末永くお国を護るため。
私は込められた想いとは裏腹に、お国を護る事ができない役立たずの艦娘となったのです。
私はどんな顔をして、金剛姉様や、榛名、霧島といった妹たちに顔を見せられましょうか。
私は鬱々として、心暗い日々を過ごしていました。
そんな私の元に、一通の命令書が届きました。
そこには、「練習戦艦比叡を御召艦に任命する」とありました。
御召艦。
それは帝国の大元帥閣下たる、天皇陛下の御乗艦となる名誉ある職務でした。
今、艦隊にいる現役の艦娘の中では、陸奥、榛名、霧島の三名しか務めていません。
しかし、私のような役立たずの練習戦艦が陛下の御召艦など務まるのでしょうか?
私はそう思い、御召艦就任をお断りしようかと思っていました。
しかし、井上艦長はそれを聞くと、
「比叡。お前を御召艦にと御決めになられたのは、他ならぬ陛下直々になのだよ。
お前がどう思おうが、陛下が決められた事を、艦娘のお前が逆らえる訳がないだろう。」
と答えました。
「どうして、私なのでしょう? 」
私が問いかけると艦長は、
「それは私にもわからない。
おそらく、陛下には深いお考えがあるのだろう。
どうしても、お前がそれを気になるのなら、直接、お伺いするがいい。
お前の改修が終わり次第、お前は皇都へ向かい、陛下にお会いする事になっている。
どうあっても、陛下はお前にお会いしたいとの仰せなのだ。」
と言いました。
私はもう、ただただ呆然として言葉もありませんでした。
しばらくして、無事、改修が終了すると私は皇都、東京へと向かうことになりました。
とはいえ、横須賀から東京なんて、さしたる距離があるわけでもなく、かつてほどのスピードが出せなくなった私でさえ、ほんの僅かな時間で東京にたどり着き、陛下の住まう宮城へと向かったのです。
宮城といえば、私にとっては命名式の時に訪れて以来の事です。
そういえば、あの時に出会った庭師見習いのヒロ君はどうしているだろう?
不意に懐かしくなって、すっかり忘れていた少年の事を思い出しました。
あれから10年は過ぎているから、もう立派な庭師になったのだろうか?
でも、なんだか偉そうで変な子だったな。
私は宮城の中だというのに、込み上げてきた笑いを押さえきれず、くすりと笑みを浮かべました。
案内役の人が私を厳しい顔で睨み付けるので、慌てて真面目ぶった顔をしてついていきます。
そして、とうとう、私は陛下との面会の場へとたどり着いたのです。
しかし、たどり着いてみると、階下に控えさせられた私から遥か遠くの壇上に陛下が座られるであろう席があり、陛下のお顔をお伺いすることもできなそうです。
ともかく、私が階下で控えていると、陛下がお越しになり、
「お前が比叡だね。
今度の観艦式でお前が御召艦となったと知って、どのような艦娘なのか気になったから来てもらった。
明朗快活な艦娘と聞いている。
よろしく頼むよ。」
と仰せになりました。
先ほど案内をしてくれた人が、陛下がそのように仰せになるから、お前は微力を尽くさせていただきます。と答え、余計な事を話さぬように。と厳しく言われていたのを思い出しました。
私は、言われたままに答えると、陛下は満足されたのか、うん。と答えられると、席を立たれました。
そして、部屋を出ていこうとされましたが、不意に振り替えって、
「あぁ、そうだ。
後程、比叡は朕の私室に一人で来るように。」
と、仰せになられると、そそくさと退出されてしまいました。
列席されていた臣下の方々はざわめかれましたが、陛下が御自ら仰せになられた事ですから、私としては背く訳にはいきません。
先ほど、案内をしてくれた人に再び先導されて、私は陛下の私室を訪ねる事になったのです。
どこをどうやって行ったのかさっぱりわかりませんが、気がつけば、一つの扉の前にいました。
案内役の人が、この先の部屋に陛下が居られるから。と言うと、扉をノックすして、「陛下、艦娘比叡、参りました。」と言うと、中から
「入れ」
といらえがありました。
案内役の人は、失礼いたします。と言って、扉を開き、私を中へ招き入れました。
その部屋には眼鏡をかけた二十代の男性の姿をした運命が私を待ち受けていました。
なんの説明もなくいきなり始まってる。ですって?
そひゃあ、そうよ。
この前には
誕生篇があるのだから。