江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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第10章 それは淡雪のように

「まだ、続けるつもりか……?」

 

『言ったはずだよ。世界から絶望を消し去るまで。

あるいは……江ノ島盾子の姿をした何者かが潔白を証明するまで、

このプロジェクトを中止するつもりはない。未来機関全体の方針だ』

 

通話の相手は苗木誠。未来機関の幹部候補生、らしい。

俺達はまた電子生徒手帳で江ノ島への対応について話し合っていた。

話し合いと言っても、これまで主張が噛み合ったことは殆どない。

 

「苗木。前に江ノ島の修学旅行について、掲示板のログを俺に見せたよな?

今、テレビで中継されてる江ノ島が本物かどうか、

あるいはこの方法が正しいかどうかを疑問視する者が多かった。

こっちでも同じことが起きてる。あいつが江ノ島盾子には間違いないにしろ、

本当に絶望の江ノ島なのか、多くの仲間が疑問を抱き始めてる。

前に頼んだ再調査はどうなってる?

双子がいたとかそういう可能性は全くなかったのか?」

 

『双子ならいたよ』

 

「なんだと!?」

 

『もう亡くなってるけどね。

78期生のコロシアイ学園生活に、江ノ島盾子に化けて紛れ込んでたんだけど、

江ノ島自身に殺された』

 

「くそ、他には!」

 

『以前話した事と変わらない。江ノ島盾子のDNAが彼女のものと完全に一致。

やはり再調査でも、そちらの江ノ島は世界を絶望に陥れた張本人だという結論に至った』

 

「苗木も中継は見てるんだろう!お前はどう思う?

あいつが本当に大勢の人間を狂わせ、殺し合わせたと思うのか?」

 

『ボクの主観では……そうは思えない』

 

「だったら!」

 

『でも、1%でも可能性が残っている限り、

このプロジェクトの中止を具申するつもりはないよ。

あの学園生活のような事態が世界中で起こっている今はね。

絶望から解放されたAグループが順調に割合を広げている現状では、なおさらだ』

 

「可能性について言及するなら、自分達が危ない橋を渡ってることに気づいてくれ!」

 

『どういうことだい?』

 

「もし彼女が本当に別人だったら、未来機関、いや、世界は……終わりだぞ」

 

『……それについては上に伝えておくよ。それはそうと、今日は慰労会の日なんだろう?

一日くらいゆっくり休んでくれ。日向クンは日頃働き詰めなんだから』

 

「話をそらすな!Cグループはどうなってる!

絶望の深みにはまって、殺すしかなくなった人間は!?」

 

『目下対処中だよ。日向クン、顔色良くないよ。

心労が溜まっているなら、引率は弐大君にでも任せて、君はコテージで一日……』

 

「もういい!」

 

俺はテレビ電話の通話を切った。もう江ノ島盾子が来てから半月が経った。

初めは彼女に対して激しい憎しみを燃やしていたみんなも、

2度の学級裁判や交流を経て、徐々に態度を軟化させていった。

一部には熱狂的なファンすらいるらしい。

まぁ、そこまで行くと稀な例外と無視したほうがいいだろうが。

 

苗木の言い分もわかる。“それが罠だから油断するな”。

だが……俺には、ドジでいつもみんなにいじられてる彼女が、

絶望の化身だとはどうしても思えない。

あいつにもここに来て彼女と直接話をしてもらいたんだが。

……そろそろ行こう。みんなを待たせてもいけない。

 

 

 

 

 

「るるるるる~ん、のタリラリラン♪」

 

今日は楽しい慰労会。

いつもは汗ですぐ流れるから軽めに済ませてるお化粧も、バッチリ決めてるよ。

最初は四苦八苦してた髪のセットやお化粧も、江ノ島頭脳の覚えの早さで、

初日みたいに深夜3時に起きてギリギリ間に合う、なんてことはなくなった。

 

あ、慰労会っていうのはね、月に一日だけ日曜以外に囚人の労役が免除される日なんだ。

それで、ここからが肝心。ただお休みになるだけじゃなくて、

全体が遊園地になっている、4番目の島が開放されるんだ!

そこでは閉園時間まで遊び放題!よーし、遊びまくるぞ~。

まずメリーゴーランドで肩慣らししようかな。それともいきなり絶叫マシンかな。

 

……ダメダメ、夢に浸ってないで、早く準備しなきゃ。

みんなとはホテル正門前で待ち合わせだから、

早く大きなツインテールを毛先まで入念に手入れしなきゃ。

しっかりドライヤーをかけたブロンドに、ヘアスプレーをまんべんなく振って、

丁寧にヘアブラシで梳く。

その時、入り口に誰かの気配。

一応着替え用の仕切りが立ててあるから、ここからは見えない。

大きく後ろに反って入り口を覗き込む。

 

「江ノ島さん、大体皆さん集まられましたので、あなたもそろそろ来てもらえますか?」

 

「ああっ、ソニアさん。ごめんね、すぐ行く!

私、遊園地に行くの初めてだから楽しみなの」

 

「フフ、慌てなくても大丈夫です。とても楽しいところですよ。色々と」

 

ソニアさんが迎えに来てくれた。早くしなきゃ。

手早く髪を梳くと、立ち上がって出発の支度を整えた。

 

「お待たせ!じゃあ、一緒に行こうよ」

 

「ええ、行きましょう。……やだ、わたくしったら。

ハンカチを洗濯したまま忘れてしまいましたわ。先に行っててくださいますか?」

 

「わかったわ」

 

「では、また後で。……あら、それは?」

 

彼女がベッドの隅に座っているアンティークドールのマリーに気がついた。

さすがに気恥ずかしくて頭をかく。

 

「ア、ハハ。見られちゃったね。

モノモノヤシーンで手に入れたんだけど、妙に気を引かれちゃって。

マリーなんて名前まで付けて家族みたいにしてるの。

……いい年して、子供っぽいわよね?」

 

「そんなことはありません。女の子らしいかわいい趣味ですわ。

さ、急がないと皆さん行ってしまいますよ」

 

「あーそうだった!また後でね!」

 

そして僕はホテル入り口まで駆け出した。

ソニアさんはアンティークドールが珍しいのか、少しの間テントにいたみたいだけど。

 

「……ふーん。本当、女らしい」

 

 

 

ホテルの門の前には殆ど全員が集まっていた。合流するなり怒られる。

自分ではだいぶみんなと馴染んできたと思ってるんだけど、

しょっちゅう叱られることだけは、なぜか変わってないんだ……

 

「ごめーん、みんな!待った?」

 

「盾子ちゃーん、オイッス!」

 

「澪田さんオイッス!じゃなくて、遅れてごめんね!」

 

「遅いぞ、愚か者め!この十神白夜を待たせるとはどういう了見だ!」

 

「ごめんよ、ごめんなさい!」

 

「無謀な行為だぞ江ノ島盾子!あと5分到着が遅ければ、時の女神ノルンが暴走し、

現在・過去・未来は融合!宇宙を支配する時の理が結合と反発を繰り返し、

死者は蘇り生者は土に還り、世界の破滅が」

 

「本当にごめんなさい!“みんな待ってるぞ”ってことだよね?ごめんなさい!」

 

「豚足も中二病もうっせーんだよ!

責めるならまだ来てない日向おにぃを責めろっての、脳内遊園地野郎が!」

 

「日寄子ちゃん、落ち着いて。でも確かに日向、遅いね。それにソニアちゃんも。

珍しいよね」

 

日向君はわからないけど、ソニアさんには会ったばかりだ。

ついさっきのやり取りを小泉さん達に説明する。

 

「ソニアさんなら、ハンカチを忘れたから取りに行くって言ってたわ。

すぐに来ると思う」

 

「そうなの。じゃあもうすぐね」

 

彼女が手持ち無沙汰になって足元の小石を軽く蹴り始めると、

“おーい”という声が聞こえてきて、日向君が走ってきた。

同時にソニアさんもコテージのエリアから現れた。これで全員合流だね!

 

「悪い、ちょっと連絡があって遅くなった」

 

「すみません、皆さん。わたくしのせいで遅くなってしまって」

 

「遅いー!開園時間に間に合わなかったら、

日向おにぃは頭のアンテナで、ヨーヨー釣り100個やってもらうからね!

もう、早く行こうよ!」

 

そう言うと、誰の返事も聞かずに、西園寺さんが先に走り出してしまった。

 

「なんで俺だけ……おい、待てってー」

 

そして彼女を追いかける日向君。

微笑ましい光景を目に、日頃の重責から解き放たれたみんなが小さく笑う。

僕達は歩いて2人についていく形で、4番目の島に向かった。

労役の途中、遠くの景色に見たことだけはあるテーマパーク。

楽しそうだけど、いつもは橋の入り口に柵が建てられてて近づけない。

でも今日だけは別。内心ワクワクしていると、罪木さんが話しかけてきた。

 

「えへぇ。江ノ島さん、今日は一段とお化粧も綺麗で、素敵ですぅ。

遊園地に着いたら、一緒に行動しませんか?」

 

「ありがとうね。せっかくのお誘いだけど、きっと“彼女”は出てこないと思うわ」

 

「それでも江ノ島さんと一緒に遊園地巡りをしたいんです。駄目ですか……?」

 

「いやいや、そういう意味じゃないの!私でよかったら、一緒に遊びましょう」

 

嫌だと言っても彼女が腕に抱きついて離れそうにない。

あと、柔らかいものが2つ押し付けられてる。

妙な世界にのめり込まないよう、精神を強く持たなきゃ!

 

そんな感じで個性豊かすぎるみんなと雑談をしながら、道を歩くこと約20分。

中央島を経由して、とうとう4番目の島に着いた。

ジェットコースター、観覧車、ゴーカート。見渡す限りのアトラクションに心が弾む。

 

「わぁい!遊園地なんて、子供の頃、宝塚ファミリーランドに行ったきりなの!

間近で見ると広いねー。どこから行こうかしら」

 

「宝塚…どこ?江ノ島おねぇ微妙に貧乏くさいし、はしゃぎ過ぎ」

 

「え、知らないの?確かにもう潰れちゃったけど、近畿地方で知らない人はいないよ?」

 

「さも常識みたいに語られてもわかんないよ!

もういいから、とにかく一緒にアトラクションに行こうよ!

開園時間は限られてるんだし!」

 

「あぁ~待ってくださーい!私も江ノ島さんとデートが……」

 

今にも走り出そうとする西園寺さんを、僕や罪木さんを追いかけようとした時、

日向君が皆に呼びかけた。

 

「みんな、すぐ遊びに行きたいだろうが、少しだけ話を聞いてくれ」

 

「ゲッ、もういいって。毎回同じこと言ってるじゃん!」

 

「大事なことなんだ。

これを伝えるのもリーダーの務めだ。すぐ終わるから我慢してくれ。

まず、ここで遊べるのは午前9時から午後5時まで。

1分でも過ぎると、罰金として大量のウサミメダルが、

自動的に生徒手帳から差し引かれる。払えない場合は毎月の給与から天引き。

1月で支払える金額じゃないってことだ。

くれぐれもアトラクションは計画的に回ってくれ。

あと、お菓子やジュースの類は無料だが、全部セルフサービスだ。

当然スタッフなんかいないから、

ソフトクリームを作る時はこぼさないように気をつけろ。

そして、ドッキリハウスは立入禁止。違反者は時間を問わず島から強制退去だ。

俺からは以上だが、最後に。……みんな今日は遊びまくれー!!」

 

うぉー!と男子も女子も雄叫びのような歓声を上げて遊園地に散っていく。

誰もがさっそくパーク内の巡回路面電車や、観覧車に乗って楽しそうだ。

僕もジェットコースターに乗ろうと乗り場に向かうけど……

やっぱりさっきのメンツが僕の取り合いをする。

 

「江ノ島おねぇはわたしとゴーカートに乗るんだよ!

ゲロブ…罪木おねぇは引っ込んでろ!」

 

「いくら西園寺さんでもこれだけは譲れません!

彼女は私と観覧車の中で、そう、密室で、逃げ場のない空間で……えへへへ」

 

「小泉おねぇ!罪木おねぇがなんかキモい!こいつを叱ってよ、追っ払ってよ!」

 

「ケンカしないの、順番。

2人でジャンケンして勝ったほうから一緒に遊ぶの。いいわね?」

 

「まぁ、小泉おねぇがそう言うなら……負けないわよ、包帯女!」

 

「わ、私だって、必ず愛を勝ち取って見せまーす!」

 

「じゃあ、アタシが合図するわよ。じゃーんけーん……」

 

ここまで一切僕の要望を聞いてくれる人はいなかったけど、

それで丸く収まるなら別にいいよね?世界が平和でありますように。

昔、そんなプレートが到るところに貼ってあったんだけど、めっきり見なくなったね。

誰が何の目的で設置したのか、それは未だにわからないんだ。

というわけで、現実逃避をしてる間に、勝負が着いたみたい。

 

「やったー!江ノ島おねぇは、わたしとゴーカートに決定!」

 

「うう……せめて、一緒に遊んでもいいですよね?」

 

「ケッ、来んのかよ」

 

「日寄子ちゃん、いじわる言わないの。

ソニアちゃんも誘いたいんだけど……さっきから見当たらないのよね。

まぁ、きっと他の誰かと遊んでるわよね。行きましょう」

 

「うん、行こう行こう!」

 

こうして、久しぶりに発言した僕は、みんなとゴーカートのエリアに向かった。

 

 

 

「行けー!罪木おねぇをクラッシュさせろー!」

 

「あう~私にぶつけないでください~」

 

「罪木さんもやり返せばいいと思うわよー」

 

「無理ですぅ~運転するので精一杯で……」

 

「ほら、みんな、こっち向いてー」

 

車体に分厚い安全用ゴムクッションが付いた低速の車を操縦して、

なんだかんだ言って僕も楽しんでいた。

小泉さんはコースの外から、僕達の様子を写真に収めてる。

やっぱり超高校級の写真家の彼女は、みんなの笑顔を撮る方が楽しいのかな。

他のメンバーも色んなアトラクションで思い思いに楽しんでたみたい。

後から聞いた話だけど、みんなの様子を紹介するね。

 

 

 

 

 

♪~♫~♪~

 

「……」

 

「なあ、ペコ」

 

「なんでしょう、ぼっちゃん」

 

「お前、本当にコレに乗りたかったのか?」

 

「はい。正確には、ぼっちゃんと一緒に、ですが」

 

「お前のことだから絶叫マシンの方が趣味だと思ったんだが。

まあ、お前がいいなら俺は構わねえけどよ」

 

「ぼっちゃんを付き合わせてしまい、申し訳ありません」

 

「気にすんな。別に何か損するわけでもねえんだし」

 

(まさかペコ、俺がメリーゴーランドに乗ってみたいことを察して、

自分が乗りたいとか言い出したんじゃねえだろうな……?)

 

(ぼっちゃん、お許しを。あなたがそう思うのを逆手に取って、

ファンシーなメリーゴーランドに乗る口実にしてしまいました。

本当はただ乗りたかっただけなんです。

私のキャラ的にも年齢的にも、それはあまりに体裁が悪くて……)

 

気を遣い合う二人だったけど、

結局メリーゴーランドに乗りたいのは一緒だったらしいよ?

 

 

 

 

 

スナックコーナーで慌ただしく動き回る人が2人。

 

「うおおお!何回来てもここは天国だぜ!アイスも、ジュースも、食い放題、飲み放題!

今だけ、今だけ、現実を忘れてもいいよな?

次はポップコーンキャラメル味Lサイズを……」

 

「いかんぞ終里!」

 

「え、どうしたんだよ、オッサン?」

 

「糖分と炭水化物だけでは肥満の原因になる。

体型維持のためには、緑黄色野菜もバランス良く摂取しなければならぬ!

故にコレを食え!」

 

「これは?」

 

「ワシが焼いた、

30種の山盛り野菜の上に激辛シシケバブを乗せた、特製巨大クレープじゃ!

各種ビタミンのバランスが取れた野菜と、

発汗を促し自律神経を整える作用のあるスパイス、

そして肉のタンパク質を同時に摂れる、栄養満点のアスリート向けクレープ!」

 

「おお、美味そう!んぐんぐ……うめえ!

オッサンにこんな才能があったなんて知らなかったぜ!」

 

「フッ、トレーニーに必要な栄養源を確保できないようでは、

マネージャー失格であるからな」

 

「モゴモゴ…あと2つは食いたいからもっと焼いてくれよ!」

 

「おし来たぁ!野菜を食って、快食快便じゃあ!!」

 

このコンビはいつでも息ぴったりだね。

 

 

 

 

 

アトラクションにも乗らず、パーク内をうろついている花村君。

それを不思議に思った日向君が彼に声を掛けた。

 

「どうしたんだ花村、乗り物にも乗らないで。せっかく羽を伸ばせる一日なのに。

一緒に遊ぶ人がいないなら俺が……」

 

「違うよ!勝手にぼくを寂しい人にしないでよね!

ロマンを探して夢の国を散策してるんだから!」

 

「ロマン?」

 

「えへへ……ねえ、日向くんは、

あの観覧車やタワーから落下する絶叫マシンを見てどう思う?」

 

「どうって、楽しそうだと思うぞ?」

 

「わかってないなぁ。実にわかってないよ、君は」

 

「話が見えないぞ」

 

「そう、見えないんだよ!普段は鉄壁の盾でガードされていてね。

でも、今の状況なら突破できる可能性が僅かにあるんだ。

つまり!観覧車を下から覗くと!絶叫マシンを真下から眺めると!

角度の関係や風圧で無防備になったスカートの中身が」

 

「聞くだけ無駄だった。多分、その辺のことは遊具の設計者も織り込み済みで、

絶対見えないようになってると思うぞ。じゃあな」

 

「はびばっ!?じゃあ、ぼくの努力は一体……」

 

本当にぶれない、決してぶれない。彼は本当に。

 

 

 

 

 

僕が乗りたかったジェットコースターに一番乗りしたのは、このメンバーだった。

 

「キャッホーイ!“サイクロンマッハデスコースター”!

唯吹、これに乗るためだけに来てるようなモンっす!」

 

「ここは一体どうなっている!

身長制限ならともかく、“体重制限で乗れません”とはどういうことだ!

責任者を出せ!」

 

「だーかーらー、ここは無人だっつってるだろ。諦めて他のアトラクション乗れよ。

あ……ここが駄目なら他も駄目なんじゃねーの?」

 

「うむ、左右田の言う通り、

七つの大罪“暴食”の化身たる貴様が、ノアの方舟に乗ることは許されない。

だが、諦めるにはまだ早いぞ!堕天し、翼を得るのだ!

さすれば漆黒の翼は貴様を天に舞い上げようぞ!

神との戦いは熾烈なものになるだろうが、恐れるな!」

 

「よーするに“痩せろ”っていうことっすよね!唯吹いっちばーん!」

 

「あ、待てよ。操作は最前席のタッチパネルでやるんだ。俺に触らせろよ。

ここの仕組み、高度に自動化されてて何回見ても飽きねーんだ」

 

「では参るとするか。冥界へと続く、死出の旅路へ!」

 

「待て、まだ話は終わってない……!」

 

“間もなく発車致します。安全バーが下りていることを確認してください”

 

「貴様ら、この十神白夜を」

 

“阿鼻叫喚の絶叫地獄へようこそ。当園は命知らずのお客様に臨死体験を提供致します”

 

「……」

 

その後、十神君はスナックコーナーで弐大君の料理をやけ食いしてたらしい。

ちょっと気の毒だな……

 

 

 

 

 

ゲームセンターにはたった一人奮闘する少女が。

 

「今度こそ、閉園時間までに、100億点オーバーしなきゃ」

 

弾幕系シューティングに命を賭ける七海さんは、

画面を埋め尽くす無数の敵弾を、絶妙なコントロールで避け続けていた。

一度だけプレイしてみたけど、人間の能力の限界を超えてる。あれは。

 

 

 

 

 

……わたくしは、連れ合いもなく、ただ一人テーマパークを散策していました。

店舗、アトラクション、備品の設置状況。全て予定通りです。

偶然通りかかった巨大な建物。ネズミー城というらしいです。

西洋の城を真似たようですが、似ても似つかぬゲテモノ。

ゲートではピンク色のネズミのキャラクターが、間抜けな顔をして笑っています。

 

わたくしの祖国にこんなものを造ったら即座に不敬罪で死刑でしょう。

祖国。思い出すと腸が煮えくり返る思いです。……いえ、考え方を変えましょう。

このふざけた城をあの女の墓標にするのです。そう、あの女に相応しい死を。

 

 

 

 

 

ゴーカートも観覧車も乗り終わって、結局目につく乗り物全部に立ち寄っていたら、

後回しになっていた僕の順番がようやく回ってきた。そろそろお昼ご飯の時間かな。

 

「ねえ、次はジェットコースターに行ってもいい?

私、どうしてもあれに乗ってみたいの……」

 

「そうだね。日寄子ちゃんも蜜柑ちゃんもそれでいいでしょ。

盾子ちゃんのリクエストも聞いてあげなきゃ。

あ、苦手なら見送ってくれるだけでいいからね」

 

「オッケー!次はサイクロンマッハデスコースターに突撃ー!」

 

「わわ、私は遠慮しておきます~

あんなの、事故が起きたら死んじゃうじゃないですか~」

 

「んなもん、どのアトラクションでもおんなじだろうが!

江ノ島おねぇ、こんなビビリ放っといて早く行こうよー」

 

「ちょっと待って」

 

「どうしたの、盾子ちゃん」

 

「ソニアさんはどこかな。彼女にも声を掛けて、できれば一緒に行きたいな」

 

「そう言えば、ここに来てから姿を見てないよね。

アタシも誘ってみようとはしたんだけど、結局見つからなかったの……

じゃあ、まずはみんなでソニアちゃんを探してみようか」

 

「そっか。ソニアおねぇもいないと寂しいもんね」

 

「あ、あの、私は路面汽車の辺りを探してきます……」

 

「お願いね。アタシはネズミー城の方を当たってみる」

 

「わたしは小泉おねぇと一緒に行く~」

 

「私はお土産品コーナー前の広場を探してみるね。

えと、見つからなくても15分後にここに集合ってことでいい、かしら?」

 

「そうしましょ。それじゃあ、一旦解散ね!」

 

そして僕達はソニアさんを探しに散らばった。

ここから広場までは少し距離があるけど、走れば3分ほどで着く。

休憩スペースでもある広場には、多数のベンチや、

ジュースや軽食の包み紙なんかを捨てるゴミ箱が並んでいる。

ベンチの一つに、見慣れたブロンドとグリーンのドレスが。ビンゴ!

 

「ソニアさーん」

 

呼びかけながら彼女に駆け寄ると、ゆっくりと彼女が振り返って微笑んだ。

よかった、すぐ見つかって。

 

「こんにちは、江ノ島さん。初の慰労会、楽しんでいらっしゃいますか?」

 

「うん!みんなと一緒にゴーカートや観覧車とか色々乗ってさ。

でも、ソニアさんが見つからなくて、誘えなかったの。ごめんなさい……」

 

「いえいえ、気になさらないでください。

ちょっと一人でぶらぶらしたい気分だったので、人の少ない所を歩いていたんです」

 

「そうだったんだ。

今からみんなでジェットコースターに乗ろうって話になってるんだけど、

ソニアさんもどうかしら」

 

彼女は目を閉じて額に手を当て、首を振った。

 

「すみません。気分が優れなくて、乗り物には乗れそうにありません……

日差しに当たりすぎたようで」

 

「えっ、大丈夫?」

 

「少し休めば大丈夫です。あの、すみませんが、お水を頂けないでしょうか。

あのお土産品コーナーでジュースも提供しているので……」

 

「待ってて、すぐ行ってくる!」

 

僕は、小さな店舗に走ると、店の奥に入り、

大きめの紙コップに適量の氷といっぱいの水を注いで、

急いでソニアさんのところに戻った。

 

「はい、どうぞ。足りなかったら言ってね」

 

「ありがとうございます」

 

彼女は一口水を飲むと、ひとつ息をついてパークを眺める。

つられて僕も改めて広大な4番目の島を見渡す。

 

「ふぅ……ここは本当にいいところですね。まるで夢の国みたい」

 

「うん!みんな楽しそうだし、私も楽しいよ。

慰労会がこんなに素敵だなんて思わなかった。

みんな明日から頑張ろうって気になると思うわ」

 

「ええ、そうですね。そして美しい景色。

あのジェットコースターに乗ってる澪田さんから、

粉雪のようなものが降り注いでいます。

まるで季節外れの雪のような儚さがありますね」

 

「雪?」

 

ジェットコースターを見ると、澪田さんがぐったりして盛大に泡を吹いてる。

開園とほぼ同時に乗り込んでるのを見て、羨ましいと思ってたけど……

ひょっとして今までずっと乗りっぱなしだったの!?

大変だ!僕は広場の真ん中に飛び出して、誰かいないか探しまわる。けど、誰もいない。

 

「おーい!澪田さんが大変だよ!今すぐコースターを止めてー!」

 

応答なし。こういう時には……

 

「ウサミ!緊急事態だよ!早く来て!」

 

「はいでち!」

 

ポン、と空間に突然出現したウサミ。僕は即座に用件だけ告げる。

 

「澪田さんがジェットコースターの乗り過ぎで死にそうなんだ!

今すぐマシンを停止して!」

 

「あわわわ!澪田さんが泡を吹いてるでち!

あ、今のは“あわわわ”と“泡”をかけたわけじゃ……」

 

「お願い急いで!私は罪木さんを呼んでくるから!」

 

考えれば、体調を崩しているソニアさんにも治療が必要だね。

でも、急いで彼女のところに戻ると……僕はとんでもないものを見た。

 

一筋の血を吐いて地面に倒れているソニアさん。

 

思考が停止する。すぐ罪木さんを呼んでこなきゃいけないのに、

余計な疑問が頭を埋め尽くし、膝が笑って足を動かせない。

 

「あ、あ……」

 

なんで?テーマパークで人が?事故?殺人?助けなきゃ、でもどうやって?

迷っているうちに、後ろからバタバタと数人の足音が近づいてきた。

 

「どうした江ノ島!むっ、なんじゃあこれは!!」

 

「ソニア!?どうしたんだよオイ!」

 

「お願い、誰か、救急車を……」

 

そんなものあるはずないのに、つい現実世界の癖で口走る。メンバーが更に集まる。

あ、リーダーの日向君も来てくれた!思わず彼にすがりつくように訴えた。

 

「どうしよう日向君、ソニアさんが血を吐いて大変なんだよー!」

 

「ソニアが!?なっ……これは一体!ウサミ、来い!」

 

「澪田さんの救護は終わったでちゅ。単なる過労だったでち!まったく人騒がせな……

はわわ!ソニアさんが血まみれでちゅ!」

 

「罪木さんだ、罪木さんを呼んでこなきゃ!僕、戻って探してくる」

 

「待て江ノ島!」

 

「どうしたの、急がなきゃ!」

 

「こういう時のために、ウサミには《強制システム変更プロトコル》が備わってる。

非常事態が起こった時に、リーダーである俺の承認で、

ウサミのステッキが一時的に、この希望更生プログラム内の人・物問わず、

あらゆる要素に干渉可能になる。つまり、ほぼ何でも出来るようになるってことだ」

 

日向君は電子生徒手帳を操作しながら早口で説明する。

 

「ウサミ、権限を送った。メンバーを2グループに分けて転送してくれ。

Aグループはソニア、罪木を含む医療班。Bグループは捜査班だ。急げ」

 

「了解。強制システムプロトコル実行。管理者日向創による一時的権限の移譲を確認。

プログラムに接続中ユーザーの強制転送を実行します」

 

突然機械的な口調になったウサミがステッキをバトンのように一回転させると、

ソニアさんや弐大君達が消失し、広場に数人のメンバーがワープしてきた。

ここに残ったのは、

僕を含めて、日向君、七海さん、田中君、西園寺さん、小泉さん、終里さん。

 

転送が終わると、日向君がまずは一段落、と言った様子で額の汗を拭う。

楽しい雰囲気が一転、流血の惨事になってしまった。僕は恐る恐る日向君に尋ねる。

 

「……ねえ、ソニアさん大丈夫かなぁ。

私がちょっと目を離したら、こんなことになってて。

それに医療班はわかるけど、捜査班って?」

 

「まず、強制システム変更プロトコルについて説明するぞ。

今のような非常時には俺の権限でウサミの能力を大幅に拡張できるんだが、

その機能にシステムが多くの処理能力を割くから、

セキュリティシステムの性能が一時的に落ちる。

だから、おいそれと使うわけにはいかないんだ。

お前が来たばかりの時、あの事件で使えなかったのは、そのためだ。

なんというか、あの頃はまだお前にプログラムの命を預けるべきか、

判断できなかったからな……すまない」

 

「そんなことどうでもいいよ!ソニアさんは助かるの?助かるよね?

さっきの何とかプロトコルでソニアさんを治してよ!」

 

「悪いが、それは、できないんだ……」

 

「どうして!?」

 

「言っただろう?強制プロトコルは諸刃の剣なんだ。

ウサミを全能の神に出来る代わりに、希望更生プログラム自体を危険に晒すことになる。

実際、この世界は今でも24時間、絶望の残党からサイバー攻撃を受け続けてる。

さっきの転送も本来なら危険な行為だったんだ。

気持ちは分かるが、今は罪木を信じるしかない」

 

「そうなんだ……じゃあ、捜査班って何なの?どうして2班に分けたの?

そりゃ、私達が行ったってソニアさんが治るわけじゃないけど……」

 

日向君はメンバーを2グループに分けた。1つは言うまでもなくソニアさんの救助。

もう一つは。

 

「これが、殺人事件だからだ。俺達は現場の捜査に当たる」

 

「えっ?」

 

と、しか言えなかった。

突然血を吐いたソニアさんが、何か病気に罹ったとばかり思っていたから。

震えた声でどうにか彼に疑問をぶつける。

 

「殺人事件?どうして、そんなことが、わかるのかな……?」

 

そして日向君は、苦々しい表情で、ソニアさんが倒れていた辺りを指差した。

 

“16 ハンニン”

 

ドクン、と心臓が一回跳ねた。16。つまり僕の囚人番号。

明らかに僕に殺されたと示すダイイングメッセージ。

 

「俺も初めから江ノ島が犯人だと決めつけたくはない。

だが、ソニア本人がこんなメッセージを残している以上……

大きな可能性から検証していくしかない。わかるな?」

 

「……わかる、わかるよ、でも違うんだ、お願い信じて!!」

 

「落ち着け。だから捜査班を編成したんだ。

とにかく、この辺りを全員で徹底的に調べるんだ。

お前も無実を証明して、真犯人を捕まえたいなら、自分の足で証拠を探すんだ」

 

「う、うん!やってみるわ……!」

 

 

■捜査開始

 

 

それから広場一帯での捜索が始まった。

まず一つ目の証拠は、僕が犯人であることを示すようなダイイングメッセージ。

 

○ダイイングメッセージ

“16 ハンニン”

ソニアが自らの血で書き残した。

 

「どうして!なんで盾子ちゃんが犯人なわけ!?」

 

「だ、大丈夫よ小泉さん。きっと何か別の意味があるのよ。何かはわからないけど……」

 

「アタシ、行ってくる。盾子ちゃんが犯人じゃないって証拠を探しにね!」

 

「ありがとう小泉さん……」

 

彼女の後ろ姿を見送るけど、途方に暮れる僕は何も出来ずにうろうろしていた。

すると、足に何か軽いものが当たった。これは……ソニアさんが水を飲んだ紙コップ。

手に取ると、底のほうにまだ少し水が残っている。

 

「貸して」

 

鈴のような小さな声に気がつくと、いつの間にか七海さんがそばにいた。

彼女が手を伸ばしているから、黙ってコップを渡した。

そして底に溜まった水に人差し指を付けると、水を舐めた……と思った瞬間、

ペッと唾のようなものを吐き捨てた!

 

「な、何やってるの!?」

 

「うん。やっぱりソニアさんは毒を盛られたんだよ。舌がピリピリする」

 

「危ないこととドッキリすることはやめてよ、心臓に悪い……」

 

事件捜査の一貫とは言え、

七海さんみたいにかわいい娘が道に唾を吐くのを見ると、ドキッとするんだよ……

 

○水のカップ

毒の混入した水が入っていた紙コップ。底に残っていた水から毒薬が検出された。

 

他のメンバーも、それぞれ広場の捜索を続ける。

終里さんは、お土産品コーナーのキッチンを適当に探していた。

 

「ちくしょー、ここは盲点だったぜ。

野菜やフルーツがゴロゴロ入ったスムージーを置いてやがる。

スナックコーナーには普通のジュースしかなかったんだよな。

……一杯くらい、いいよな?」

 

紙コップを手に取り、

ジュースやスムージーのサーバーが並んでいるスペースに近寄ると、

足元に何かが落ちていた。

 

「なんだこりゃあ?一応後でみんなに見せるか」

 

○ラップ

白い粉末が付着している、15cm四方のラップ

 

その頃、西園寺さんは、そこら中にあるゴミ箱を覗いて、

何か犯人に繋がる手がかりがないか、懸命に探していた。

前面の投入口を開いて、中身を調べる。

 

「江ノ島おねぇが犯人なわけねーんだよ!

きっとソニアおねぇは、知らないうちに何か病気に罹ってた。それが常識なんだよ!」

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

[間もなく閉園時間です。

園内のお客様は、15分以内にお帰り頂ますよう、お願い申し上げまーす]

 

「うっせえ!こっちは急いでんだよ!お前の声イラッとくるし!」

 

○開園時間

遊園地の開園時間は午前9時から午後5時まで

 

○園内設備の利用ルール

・アイスやジュースはセルフサービス。飲み放題食べ放題!

・アトラクションは備え付けのタッチパネルで操作してね。簡単だから大丈夫!

・滞在時間は守りましょう。

 閉園時刻を過ぎても残っている人には罰金を払ってもらいます。

 

「どうしよう。犯人が何か隠すとしたらゴミ箱なのに、調べきれないよ……」

 

あまりにも多いゴミ箱に挫けそうになる西園寺さんに、彼の高笑いが。

 

「フハハハ!諦めるな、放浪の探求者よ!

我が下僕、破壊神暗黒四天王とその同胞(はらから)の軍勢にかかれば、

真実をひた隠す悪魔の胃袋に風穴を開けることなど容易いこと!

征くのだ、神に背を向けし血塗れの獣達よ!」

 

「そっか!田中おにぃのハムスターなら、あっという間にバカみたいに多いゴミ箱を!」

 

○園内のゴミ箱

遊園地内に多数設置されているゴミ箱。閉園までに全て調べきることはできなかった。

 

[閉園3分前です。間もなくカウントダウンが始まります。3分前]

 

「できませんでした……」

 

「あんだよ役に立たねえな!大体ゴミ箱多すぎなんだよ!

そんなに汚されたくなかったら最初から作んな、こんなとこ!」

 

身も蓋もないことを言って、西園寺さんはゴミ箱のひとつを蹴飛ばした。

とりあえず、アナウンスを聞いた全員がそれぞれ4番目の島を後にした。

まだ証拠品が残ってるかもしれないのに……!

悔しい気持ちを抱えながら、橋の前で全員集合し、見つけた証拠品を持ち寄った。

 

「うん…そうか、大したことはないんだな。わかった、伝えとく。罪木にもよろしく」

 

日向君は電子生徒手帳で誰かと通話している。電話を切ると、僕達に告げた。

 

「みんな、ソニアは助かった。罪木の分析によると、毒を盛られたのは間違いないが、

薬品の毒性は弱くて、命に関わるほどのものじゃないそうだ。意識も回復してる」

 

今日ほど、ほっとした気持ちになったことはないよ……

それはみんなも同じで、一斉に息をついた。

 

「さて、病院に向かう前に、俺達にできることをやっておこう。

何か見つけたなら貸してくれ。俺が保管しておく」

 

「じゃあ、さっきお土産品コーナーでこんなもん拾ったんだが、役に立ちそうか?」

 

終里さんが日向君に透明な小さなシートを渡した。

 

「ラップ?なにか白い粉が付いてるな。一応預かっとく。ありがとう。他には?」

 

今度は七海さんが紙コップを渡す。

 

「はい。ソニアさんが飲んでた水のコップ。やっぱり残ってた水に毒が入ってたよ」

 

「入ってたって、なんでそんなことわかったんだ?」

 

「舐めてみたから」

 

「何やってんだ!強力な毒だったら、死んでたんだぞ!?青酸カリとか!」

 

「それは私も驚いたの。七海さん?私、気が小さいから、無茶は止めてね。お願い……」

 

「う~ん、これから気をつけるね」

 

「ごめん、アタシは収穫なし。ネズミー城とか怪しかったんだけどな」

 

「小泉おねぇは悪くないよ。悪いのは役立たずの田中おにぃ!」

 

「くっ……ここが俺様の造りしアストラルフィールドであれば、

左腕の力で時の概念をねじ曲げ、あらゆる黒鉄の門をこじ開けられたものをっ!」

 

「気を落とさないで。

田中君達の様子を見てたけど、あんなにたくさんのゴミ箱を全部調べるなんて無理だよ。

……待って、全部のゴミ箱を調べきれなかった?何か引っかかるな」

 

「気づいたことでもあるのか、江ノ島?」

 

「えと、ごめん。その状況に意図的な何かが絡んでるような、そんな気がするんだけど、

ぼんやりしてて上手く説明できないの……」

 

「もー、江ノ島おねぇもしっかりしてよ!おねぇの無実が賭かってるんだよ?」

 

「ごめんね。なぜか今日は江ノ島盾子が来てくれなくて、賢くなれなくて……」

 

「まぁ、それは後で考えがまとまったら教えてくれ。

とにかく、俺達も病院に行こう。ソニアの容態を確かめないと安心できないからな」

 

「うん、行こうよ!」

 

それから僕達は、3番目の島にある病院に向かった。

それが事件の本当の始まりだとは知る由もなく。

 

 

 

 

 

廊下には救護班のメンバーが待機していた。

大勢が病室内にいると、ソニアさんがゆっくり静養できないからだと思う……んだけど、

なんだか皆がチラチラ僕を見ているのは気のせいかな。

 

「罪木、ソニアの状況は?」

 

「毒物というか化学物質による、

胃のただれに伴う吐血、めまい、吐き気に襲われていたようです。

今は出血も止まって、意識もはっきりしています。元々弱い毒だったみたいですね」

 

「そうか……今、彼女と話せるか?」

 

「はい。でも、まだ体力が戻っていないので、あまり大勢の人は……」

 

「わかった。俺と江ノ島だけ病室に入る。

外のみんなにも状況が聞こえるよう、少しだけドアを開けておいてもいいか?」

 

「それなら大丈夫です。さあ、どうぞ」

 

病室に入ると、ベッドに座っているソニアさんが笑いかけてきた。

本当に、助かってくれてよかった。部屋の隅には弐大君が立っている。

 

「みなさん、ご心配をおかけしました。

おかげさまですっかり元気モリモリ夢がモリモリです」

 

「災難だったな、ソニア。とにかく無事でなによりだ」

 

「あぁ~本当に良かったよ。目の前で倒れちゃうから、びっくりしちゃった。

ソニアさんに万一のことがあったら、私どうしたらいいか……」

 

ソニアさんが、彼女の無事な姿を見て安心する僕を見て、苦笑いを浮かべた。

 

「江ノ島さん。とても言いにくいことなんですが、そういうのは、やめにしませんか?」

 

「やめる?どういうこと?」

 

彼女の発言が何を意味しているのかわからない。

 

「この際はっきりさせましょう。わたくしに、毒を盛ったのは、あなたですよね?」

 

思わぬ人物からの思わぬ疑いを掛けられ、不安と焦燥で青くなる。僕が、犯人……?

 

「え、江ノ島が犯人だって?ソニア、詳しく説明してくれないか?」

 

「だって、そうじゃないですか。

わたくしがお水を入れてくれるよう頼んだのは江ノ島さんですし、

当時周りには誰もいなかったんです」

 

○アリバイ

事件発生当時、江ノ島とソニアは二人きり。

他の皆はアトラクションで遊んでおり、江ノ島の無実を証明できる者はいない。

 

「どうして。それだけ?ひどいよソニアさん。僕はなんにもしてないんだ……」

 

「続きはワシから説明しよう、江ノ島。

済まんが、お前さんのテントを調べさせてもらった。

そしたらコンテナからこれが出てきたんじゃ」

 

弐大君が差し出したのは白いプラスチック製の大きなボトル。

ラベルの説明文は英語で読めないけど、

どぎつい赤の三角にドクロのマークが描かれていて、素人目にも毒薬だとわかる。

 

○毒薬のボトル

江ノ島のコンテナから発見された毒薬のボトル。

白い粉末状で毒性は低いが、大量に飲めば死に至る。

大さじ一杯程度なら軽い吐血、めまい、吐き気などの症状が現れる。

ラベルの説明文は英語だが、大きなドクロマークが書かれており、

誰でも毒薬であることがわかる。

 

「貸してくれ!」

 

日向君がボトルを受け取り、キャップを開ける。

 

「これは……さっき終里が見つけたものに付着していたものだと考えて間違いないな」

 

○ラップ(情報更新)

毒薬を運ぶために使用された。毒薬が少量残っている。

必要量を包み、ソニアのカップに入れるために使用された痕跡。

お土産品コーナーで発見された。

 

「きっと犯人は必要な分だけ毒薬をラップに包んで、

隙を見てソニアのコップに入れたんだろう」

 

「待って、違うの!私、ソニアさんに毒なんて……!」

 

「江ノ島さん」

 

ソニアさんが真剣な表情で僕を見つめる。思わず僕も弁解をやめてしまう。

 

「確かに、あなたのしたことは本来なら許されることではありませんが、

わたくしもかつてあなたに酷いことをしました。

レッスンの最中、何度もあなたをムチで叩きましたよね。

あれで叩かれると言葉にできない痛みが走ることは、わたくしも知っています。

その恨みを忘れられなくても当然といえば当然。

体罰を繰り返したわたくしにも、それに対して毒で報復した江ノ島さんにも、

お互い非があります。

ですから、ここは二人共怒りを水に流して、またお友達に戻りませんか?さあ……」

 

あくまでソニアさんは優しく微笑み、僕に手を差し伸べる。彼女は許すと言っている。

どうすればいいんだろう。僕は犯人じゃない。でも、それを覆すだけの証拠がない。

大した毒でもなかったんだし、認めてしまえば、また3人で仲良く……だったら。

無意識に彼女の手を握ろうとした瞬間、心の中からけたたましい笑い声が。

 

 

 

──ギャハハ!やっぱお前って底抜けに最高のバカだろ!

 

江ノ島盾子!?

 

──こんな見え見えのトラップに引っかかるようじゃ、

  ボク達も安心して肉体を任せられないかな。

 

だって、こんなに証拠が……

 

──難しいことは私達にお任せください。

  あなたの知能でこの状況に対処できないことは分かりきっていますので。

 

また、やるつもりなの?

 

──当然でしょう!女王たる私様(わたくしさま)に噛み付いた凡人貴族には、

  教育を施す必要があるわねぇ!

 

信じて、いいんだね?

 

──早く……決めてください。あなたの優柔不断さは、涙が出るほど、悲しいです……

 

わかったよ。君たちのこと、忘れてごめん。僕は、戦うって、決めたんだ。

 

 

 

パン……

 

病室内に緊張が走る。僕はソニアさんの手を、振り払っていた。

 

「江ノ島!お前、何をして……」

 

「……それが、あなたの答えなんですね?」

 

彼女は暗い笑顔を浮かべたまま、僕に問いかけた。

 

「当たり前でしょう。ソニアさん、あなたの優しさは偽物よ。

“冤罪を受け入れろ”なんて言っといて、何が水に流す、よ」

 

「なるほど……動かぬ証拠がこれだけあっても、なお足掻くおつもりですか?」

 

「ええ、そうよ。学級裁判で、クロの判決が出るまではね!」

 

「「なんだって!!」」

 

病室内外から、驚きの声が上がる。日向君が肩を掴む。

 

「おい、正気なのか!?また学級裁判をやるなんて!」

 

「被害者の彼女は私をクロだと言ってる。でも私はクロじゃない。

互いの主張が平行線なら、戦うしかないじゃない!」

 

「くそっ、また、始まるのか……!」

 

「ごめん。またみんなに協力してもらうことになるけど、

真犯人を取り逃がすことは、別の犯行を許すってことなの。日向君……お願いね」

 

「……そこまで言うなら。ウサミ、わかってるな?」

 

「うう、どうちてこんなことが3回も……とにかく、法廷の準備は任せるでちゅ」

 

「じゃが、ソニアはどうする。今の身体じゃあ、裁判なんぞ……」

 

「いいえ、参加します。江ノ島さんが頑張ろうって言ってるのに、

わたくしだけ寝ているわけには参りませんから」

 

「えうう……でも、病み上がりで無茶は」

 

「お黙りなさい!」

 

罪木さんが彼女を止めようとしたが、いつもの威厳ある声で中断された。

 

「今夜はもう遅いことですし、裁判は明朝10時に開廷。よろしいですね?」

 

「……もう決まったなら、仕方ないな。それで行こう」

 

ソニアさんの鶴の一声で、日向君も段取りを決めた。

後は出たとこ勝負。やっぱり戦うのは江ノ島盾子だけどね……

 

 

 

 

ソニアさんと罪木さん以外は解散して、コテージやテントに戻り始めた。

すっかり日は沈み、ジャバウォック刑務所に夜の帳が下りる。

道を歩いていても、誰も口を開く人はいなかったけど、僕はあえて堂々と先頭を歩いた。

 

背中に痛いほど視線を受けているのがわかるけど、ここで引いちゃ駄目なんだ。

今なら分かる。あの時、うっかりソニアさんの申し出を受けていたら、

ずっとこの視線を浴び続けることになっていた。

僕はなんてバカなんだろう。今になってそんなことに気づくなんて。

 

そして、やっぱりみんな無言のままそれぞれのコテージに戻り、

僕もテントのベッドに倒れ込んだ。

遊園地で遊んだ疲れと、殺人未遂事件のストレスで、すぐにまぶたが重くなった。

シャワーも浴びず、ベッドの隅の相棒に、お休みしてから眠りについた。

 

「マリー、力貸してね……」

 

 

 

 

 

>新規キーワードが追加されました。

 

7.強制システム変更プロトコル

 

ジャバウォック刑務所リーダーである日向創が、

運用補助AI“ウサミ”に管理者権限を一時的に移すことにより、

起動が可能になるシステム。

希望更生プログラムVer2.01内のあらゆる事象に干渉できるが、

実行中はセキュリティシステムが一時的に脆弱化するため、

使用には慎重な判断が求められる。

 

 

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