江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】 作:焼き鳥タレ派
唇にキュッとルージュを引き、ファンデーションで顔の表面を軽く整え、
ビューラーでまつげをカールさせる。顔の化粧が終わると、
トレードマークの大きなツインテールをドライヤーやスタイリング剤で丁寧にセット。
化粧やヘアスタイルの調整を進めるにつれ、気が引き締まる。
昨日は帰るなり寝てしまったから、朝のうちにシャワーも浴びておいた。
これで気合は十分!
最後に、江ノ島盾子の予備の服に着替える。
これで準備万端だけど、決してお洒落なんかじゃない。戦いに赴くための戦装束なんだ。
……そう、この技術を教えてくれた人と決着をつけるためのもの。
身支度を終えると、僕は覚悟を決めてテントを出て、
モノクマロックのある中央島へと出発した。
どうして彼女がこんなことをしたのかわからないけど、僕は勝たなくちゃいけない。
ここで負ければ、僕は破滅だし、みんなと離れ離れになる。そんなのは絶対に嫌だ。
決意を胸に橋を渡っていると、段々熱っぽくなって、足元が少しふらつき、
肉体の主導権が“彼女”に移る。来た、江ノ島盾子だ。
これから僕は傍観者でいるしかないけど、きっと彼女ならやってくれる。
「なんか納得いかなーい!
女王様とキザ女君ばっかり表に出て、わたしのこと忘れられちゃってるかも!
わたしだって学級裁判でおしゃべりしたいのにぃ。というわけで、モノミちゃん」
「ウサミでちゅ!」
「あはは、やっぱりワープしてきた!バーチャルリアリティーの世界って便利だよね?
いろいろ面倒な描写すっ飛ばせるし?
“物陰からふらりと異様な姿が”とか、
“真っ白で小さく、しかし生きていることを示す鼓動がどうの”とか!」
「メタな発言は駄目でちゅ!それで、何の用でちゅか?」
「えーっとぉ、法廷に行く前に確認したいことがあるの」
それで、わたしはウサミちゃんに、
必要かもしれないし必要ないかもしれないことを確認したの。テヘ!
「……確かに、皆さんはあくまで協力者。
囚人としての規則以外に縛られることはないでちゅ。
この中継も基本的には江ノ島さんだけを追跡するんでちゅが……
どうちて今更そんなことを?」
「う~ん、それはね?……教えてあげないよ、ジャン!
キャハハ、ごめん、冗談だって。
必要になったら発表しちゃうからさ~
その頃には別のわたしに交代してるかもだけど!」
■コトダマゲット!!
○修学旅行のしおり を生徒手帳に記録しました。
江ノ島盾子にのみ配布された希望更生プログラムのしおり。
○監視カメラ を生徒手帳に記録しました。
基本的に江ノ島のみを追跡し、プログラム協力者は撮影しない。
ただし、江ノ島と協力者がそばにいる場合は、協力者も一緒に撮影する。
着替えなどを見られたくない場合は、カメラに合図を送ることで、
協力者のみ一時的に撮影を中断することが可能。
「江ノ島さん。仮に学級裁判で江ノ島さんがクロになれば、
わずかとは言え積み上げてきた信頼は、地に落ちることになるんでちゅよ?
絶対に、勝ってくだちゃいね」
「わたしが負けちゃうとかありえなくない?あ、みんなもう入り口に集まってる。
ヤッホー!」
モノクマロックの前にみんなが集まってる。
う~わ。エスカレーターがモノクマのベロみたいで、相変わらずキモいんだけど~
次からはレストランでジュース飲みながらまったり話し合わない?
「お待たせ~今日の学級裁判、一生懸命頑張って、必ずクロを袋叩きにしようね~!」
「何を考えてるんだ貴様は!
自分の運命が賭かっているのに、遅刻して来るやつがあるか!」
十神君に怒られちゃった~。イヤン
「わたし馬鹿じゃないモン。悪いのはお化粧に時間掛けすぎた“彼”なんだしぃ?」
「チッ、
「日寄子ちゃん、これはそろそろ慣れようよ……」
「あろあろ~西園寺さんも小泉さんも元気?学級裁判がんばろーね!
江ノ島的には、みんなのご意見大募集!みたいな?」
「付き合ってらんない、わたしもう行く!」
「ああ、一人で行っちゃ危ないわよ?」
あらら、西園寺さんと小泉さんが先にエスカレーターに乗っちゃった。
さて、それじゃあ、わたしも行くとしましょー。
エスカレーターに足を乗せると、どんどんモノクマロックの口に近づいてくる。
やだー、わたしったらうっかり。これじゃ下からスカートの中が見えちゃう。
とっさに両手でお尻を押さえたから間に合ったけど。
カバンでスカートを隠しながら階段上るくらいなら、
ミニスカートなんか履くなって言う人がいるけど、
それはお門違いな意見なんだよ?なんだよ?
大きなエレベーターに全員乗り込むと、勝手にドアが閉まって下の階に降りていく。
それにしても……みんな黙り込んじゃって、雰囲気暗いよ?リラックスリラックス!
暇つぶしに近くの人に話しかけてみよ~っと。
「辺古山さんも怖い顔しないで~?せっかくの美人さんなのに。スマイルスマイル!」
「お前こそもう少し緊張感を持ったらどうだ?自分の運命が……」
「ウサミにも言われたよん、勝てば官軍わたしは官軍、江ノ島はいつでも官軍なのだ!」
「ねぇ~え?田中君。今日のメイクどう思う?晴れ舞台の日だから張り切っちゃった~」
「お、俺の左腕に手を回すとは命知らずめ。
瘴気を浴びた戒めの邪気に中てられても知らんぞ!」
「照れてる?照れてる?か~わいいんだ~」
「江ノ島さん……ソニアさんと付添いの罪木さんは先に法廷で待っていまちゅ。
くれぐれも彼女を刺激しないように」
「わかってるって」
エレベーターが止まって、ドアが開くと……いたいた!
背の高い椅子に座って証言台に着く彼女!
ソニアちゃんが罪木さんと何か話してるから、大声で呼びかけた。
「おーい、死に損ないのソニアちゃん!江ノ島盾子だよ!また会えて嬉しいヨ!キャッ」
「……ごきげんよう江ノ島さん。ここは人一人の人生の行く末を決める法廷なので、
あまりはしゃぐのはよろしくありませんよ?」
「かしこまり!
ねぇねぇ、九頭竜君。キミは今日のわたし、どう思う?めいっぱいオシャレしたの!
九頭竜君が辺古山さんラヴなのは知ってるけどぉ~……
わたしのことも、ちょっといいと思わない?」
「やめろ、この馬鹿!おめえもさっさと証言台に行けやアホが!ペコは関係ねえ!」
今度は九頭竜君におっぱい押し付けてちょっかいを掛けてみま~す。
ちょっぴり顔が赤いぞ?そしたら。
バキッ!!
「ひゃうっ!ソ、ソニアさん、落ち着いてくださ~い……」
「わたくしは、落ち着いてますよ?うふふふ……」
わ~お、握った肘掛けの先が砕けてる。それに完全にキレてる人の笑顔だしぃ?
チョー怖いから離れたところに行こうっと。
でもね、でもね、わたしだって、ただふざけてたわけじゃないんだ~
ソニアさんって頭良いから、まともにやり合うと厳しそうじゃない?
すこ~し挑発して冷静さを奪っちゃおうって魂胆だったり。
キャハ、わたしってズルい女だね~
「江ノ島さん!おふざけはそこまでにしてくだちゃい!早く証言台に立つのでちゅ!」
「わっかりました~!」
みんながいつものように円を描く証言台に立つと、
いつの間にか玉座に座っていたウサミちゃんが、開廷を宣言。木槌を鳴らす。
なんかこれって裁判みたいだよね、だよね!
カンッ!
【学級裁判 開廷】
「これより、ソニアさん殺害未遂事件の、学級裁判をはじめまちゅ。
どうしてこんなことが起きてちまったのか。あちしにはわかりまちぇん。
起きた事件をなかったことにはできまちぇんが、せめて正しいクロを見つけて、
動機を聞き出す必要がありまちゅ。
場合によっては、クロは生活上、狛枝君と同じ扱いを受けてもらうことになりまちゅ」
そーいえば狛枝君いないね?ひとつだけ証言台が空いてる。
すると、ウサミちゃんの玉座の影から、電動車椅子に縛られた狛枝君が現れて、
自動操作で男の子達の間に収まったよ。
「詳しい事情は明かせまちぇんが、狛枝君は、許されないことをしまちた。
よって、安全確保のため、拘束した上、弐大君と田中君の間に着いてもらいまちゅ!」
法廷内が、ざわざわ、ざわざわ。まるでどっかのギャンブル漫画みたい。
まー、女の子に無理やりエッチなことしようとしたんだから当然だよね~
「許されないこととは一体なんだ!答えろ、狛枝!」
「辺古山さんストーップ!その件に関しては、この事件と関わりはありまちぇん!
リーダーの日向君と裁判長のあちしが保証します」
「そうか……ならいいが、そんなやつを参加させて大丈夫なのか?」
「別にいーじゃん。変なこと言い出したら、
辺古山さんがお尻ペンペンしてくれたらいいんだから、もう始めよ?ねっ」
「ボクの事は気にしないでよ……
電子生徒手帳に、事件のあらましや証拠品は送られてきてるからさ、
少しは議論に参加できると思うよ。今度は誰がクロなんだろうね。
昨日、事件概要を夢中で読んでたら、とうとう眠れないまま朝になっちゃったよ。
ボクには到底無理だけど、今度ばかりは江ノ島さんも油断すると……危ないよ?」
「無駄口を叩くでない。日向、早速裁判を初めてくれい!」
「ああ。まずは議論の方向性を定めよう。事件当時の状況を再確認する。
……ソニア、議論の途中でも、気分が悪くなったらすぐに言ってくれよ?」
「ありがとうございます、日向さん。
でも、わたくしはクロを見つけ出すまで、ここから出る気はありません。
どんな手を使ってでも」
ソニアさん笑顔だけどやっぱり怖~い。何かに例えるなら……おばけ?
「そ、そうか。じゃあ、なるべく早く結論を出そう。
みんなもそのつもりで協力してくれ」
■議論開始
コトダマ:○ダイイングメッセージ
ソニア
わたくしが事件に巻き込まれたのは、[ちょうどお昼ごろ]のことでした。
一緒に遊ぼうと[江ノ島さん]が誘いに来てくれたのです。
でも、その時は気分が優れなかったので、彼女に[お水を持ってきて]もらいました。
カップ一杯に入った水を飲み干すと、[意識が朦朧として気絶]しました。
おそらく、その[水に毒が入っていた]のだと……
・明らかに怪しいけど、あれを撃てばいいのかな~?
・そうね。これはきっとあなたがクロだということを印象づけたい彼女が、
わざと隙を見せてるの。本番はこの後よ。
REPEAT
ソニア
わたくしが事件に巻き込まれたのは、[ちょうどお昼ごろ]のことでした。
一緒に遊ぼうと[江ノ島さん]が誘いに来てくれたのです。
でも、その時は気分が優れなかったので、彼女に[お水を持ってきて]もらいました。
カップ一杯に入った水を飲み干すと、[意識が朦朧として気絶]しました。
──それは違うわねぇ!!
[意識が朦朧として気絶]論破! ○ダイイングメッセージ:命中 BREAK!!!
「あら、何かわたくしの発言に問題でも?」
ソニアちゃんがニッコリ笑って問いかけてくる。とりあえず論破したけど~……
やっぱり効いてないみたい!というわけで、わたしは逃げる。ドロン!
……まったく、論破したウィークポイントくらい片付けてから帰ってほしいな。
どうしてボクが後始末をしなきゃいけないんだか。
「ふぅ。君は今、水を飲んだ直後に気絶したと言ったよね。それはありえないのさ」
「あはぁ…思い焦がれた貴女、出てきてくれたんですね。
聞き分けのない私を躾けるために……」
「ごめんよ罪木さん、そっち方面の趣味はないんだ」
「はうっ!?あんなものまで渡しといて、生殺しですぅ……」
「やったー、当たりが出てきた!」
「くじ引きみたいな言い方はよくないよ、日寄子ちゃん……」
「ありえない?それは何故?」
「残されたダイイングメッセージには犯人を示す文言が記されていたんだけど、
水を飲んですぐ気を失ったのなら、そんなものを書く余裕はないはずだから、だよ」
ボクとソニアさん、そしてもうひとり以外のメンバーが動揺する。
ソニアさんは笑顔を浮かべたまま、予定通り、という余裕を見せつつ、
こちらを見つめている。
……彼が冷静に状況を見ているのが救いかな。
「確かに一瞬でぶっ倒れたなら、血文字なんか書く余裕はないっすねー?」
「ソニア、どうなんだ?
あのダイイングメッセージは確かにお前が書いたものなんだろう?」
澪田さんの発言を受けて、日向君が確認する。
「あら、わたくしったら!すみません……
なにぶん毒を盛られた時の意識がはっきりしていなかったので、
大事なことが記憶から抜けていました」
「あ、あのう。それは、無理もないことだと思いますぅ……
毒性が弱いとは言え、あの薬品にはめまいや吐き気を起こす作用もありましたから」
「そうなのです……今後は正確な発言を心がけます。申し訳ありませんでした」
「しょうがないよ、ソニアちゃんは、被害者なんだから……」
なるほど?皆の心証が彼女に傾いてる。これが狙いだったんだね。
なら、ボクも攻め続けるまでさ。
「では、改めて正確な発言とやらをお願いできるかい?事件当時の状況について」
「もちろんです。記憶の整理ができました。
わたくしがお水を飲んだ時の状況はこうです」
■議論開始
コトダマ:○アリバイ
ソニア
先程は失礼しました。事件が発生したのは、[間違いなくお昼ごろ]です。
〈江ノ島さん〉が来てくれた時刻にも間違いありません。
そして彼女に[お水を持ってきて]もらったのですが……
江ノ島さんからもらったお水を飲むと、〈意識がぼやけ倒れ込んで〉しまったのです。
血を吐き、死を覚悟したわたくしは、無我夢中で[犯人の囚人番号]を自分の血で。
なぜこんなことにが……わたくしに〈殺される理由などありません〉。
・急に難易度が上がったね。困ったな。
・大丈夫。落ち着いて発言を見て。攻めるだけが突破口じゃないわ。
・少し無理があるけど、これなら行けるかな?
REPEAT
ソニア
先程は失礼しました。事件が発生したのは、[間違いなくお昼ごろ]です。
〈江ノ島さん〉が来てくれた時刻にも間違いありません。
そして彼女に[お水を持ってきて]もらったのですが……
江ノ島さんからもらったお水を飲むと、〈意識がぼやけ倒れ込んで〉しまったのです。
血を吐き、死を覚悟したわたくしは、無我夢中で[犯人の囚人番号]を自分の血で。
なぜこんなことが……わたくしに〈殺される理由などない〉というのに。
──そうだと思うわよ!!
賛!〈殺される理由などない〉同意! ○アリバイ:命中 BREAK!!!
「ええ、そうです。わたくし、誰かに殺されるような恨みなど……」
「肝心なのはそこじゃないんだ。屁理屈こねるようで恥ずかしいんだけどさ、
殺される理由がなくても、“死ぬ理由”ならあるんじゃないかな」
またも法廷がどよめく。慌ててウサミが木槌を鳴らす。
やっぱり彼は注意深く状況を観察してる。大詰めで頼りになりそうだね。
カン!カン!
「皆ちゃん、落ち着いてくだちゃーい!
江ノ島さんは発言の意図を明確にしてくだちゃい!みんなが不安がってまちゅ!」
「簡単な話だよ。事件当時、現場にはボクとソニアさんしかいなかった。
誓ってボクは犯人じゃない。だから仮にボクをクロから除外した場合、
水に毒を入れることができたのは彼女だけ、そういうことにならないかな」
「あはは…わたくしに自殺願望があったとでも?
それはいくらなんでも無理がありすぎませんか?
だとしたら、ダイイングメッセージを残す必要などないはずです。
……正直に申し上げて、わたくしには江ノ島さんが法廷をかき回して、
罪を逃れようとしているようにしか思えないのです」
「そうかい?ならボクがクロだと仮定した場合、どうすれば犯行が可能だったのか、
今度はみんなも参加して議論しようよ。きっと面白い事実が出てくるから、さ」
「面白い事実?何なんだ、それは。
だけど、ソニアの言った通り、今のお前の立場は決して良いとは言えないぞ。
遊んでる余裕はないと思うんだが……」
「構わないさ。始めようか、日向君」
■議論開始
コトダマ:○修学旅行のしおり
ソニア
犯行の方法なんて……お土産品コーナーで[ジュースのカップ]に水と毒を入れた。
それだけじゃありませんか。
終里
実際、オレが毒の粉を包んだ[ラップ]を見つけたんだ。[床に落ちてたぜ]。
罪木
わ、私が調べたら、ラップに着いてた粉は、[見つかった毒薬と同じ]ものでした。
ソニア
やっぱり、[江ノ島さん]が私に毒を盛った。そう考えるしかありませんね。
悲しいですが。
左右田
……死ぬ理由なんか、〈いくらでもある〉と思うがな。
・左右田君が良いこと言ってくれたけど、彼の出番はまだなんだ。
・ええ、今は彼女を黙らせないと。基本に立ち返れば簡単よ。
REPEAT
ソニア
犯行の方法なんて……お土産品コーナーで[ジュースのカップ]に水と毒を入れた。
それだけじゃありませんか。
終里
実際、オレが毒の粉を包んだ[ラップ]を見つけたんだ。[床に落ちてたぜ]。
──それは違うわねぇ!!
[床に落ちてたぜ]論破! ○修学旅行のしおり:命中 BREAK!!!
「えっ、何が違うんだ!?オレはスムージーなんか飲んでねえ!」
「ふん、何かと思えば、今朝貴様から送られてきたキーワードだろう。
肝心の本文が省略されていたが、こんなものに時間を取っているから集合に遅れる」
「まあ、そう邪険にしないでおくれ、十神君。
このキーワードに重要な事実が隠されてるんだ。
スムージーについては本件とは無関係だから検証はしない。安心しなよ」
「ア~ハハ…お前いいヤツだな!」
「いいから答えろ!毒の付着したラップがお前の提示したキーワードと、どう繋がる!」
「その質問に答える前に確認しておきたいことがあるんだ。
この修学旅行のしおり、希望更生プログラムの被験者であるボクに
送信されたものなんだけど、みんなは同じものを持っているのかな?」
「いや、そんなはずはない。
このプログラムは、あくまでお前から絶望的カリスマを奪うために構築されたものだ。
みんなはあくまで協力者で、囚人としての決まりを除く、しおりの規則には縛られない。
だから、しおりのデータを持っているのは、
囚人の情報を全て把握しておく必要がある俺とお前だけだ」
「ありがとう、日向君。これではっきりした。みんなにもしおりの一部を送るよ。
読んでもらえれば、ボクの言いたいことがわかると思うよ。……コピペ、送信、と」
法廷に全員の電子生徒手帳の着信音が響く。
皆、慌てて内容を確認すると、ボクの真意に気づいた者から驚きの声を上げる。
■コトダマゲット!!
○修学旅行のしおり(一部抜粋)
江ノ島盾子にのみ配布された希望更生プログラムのしおり。その一部。
・島内の器物を故意に破損してはいけません。ゴミのポイ捨ても厳禁です。
「こ、これはっ!」
「わかってもらえたようだね、十神君。ねえ、ウサミ。
仮にボクが修学旅行のしおりに書かれている規則を破ったら、どうなるのかな?」
「島中に響き渡るほどのサイレンが鳴るでちゅ!
これはVer1.0のシステムを一部流用ちたもので」
「それで十分。ボクがお土産品コーナーのキッチンにラップを捨てていたら、
大音声のサイレンが鳴っていたと言うことなのさ。納得してもらえたかな?」
「ふむ……天網恢々疎にして漏らさぬ神秘のヴェールを大地に横たえたのは、
江ノ島盾子ではありえぬということかっ!」
「そうなるね。
ちなみに今のは、“毒を包んでいたラップを捨てたのはボクじゃない”って意味さ。
ソニアさん、君は、これについてどう思う?」
「えっ!そ、それは……えと、わたくしには、あの」
かなり焦ってるね。流石に効いたみたいだよ。
何しろ全く予想外の証拠が出てきたんだから。
そうね。でも、手負いの獣は危険よ。早くとどめを刺して。
「毒薬をラップに包んで持ち運ぶことが不可能なことが証明されたけど、
まさかあの大きな毒薬のボトルをそのまま持ち歩いた、なんて言わないよね。
こんな短いスカートのポケットになんてとても入らない」
「……ソニアおねぇ、違うよね?ソニアおねぇが自作自演なんて、そんなの嘘だよね?」
「自作自演かはともかく、少なくともボクがクロじゃない事はわかってもらえたかな」
「……なさい」
「毒薬を運ぶ手段がない以上、ソニアに毒を盛ることもできんからのう」
「…りなさい」
「ハハハ、今度ばかりは絶体絶命かと思ったけど、
やっぱり江ノ島盾子の不敗伝説はまだ終わりそうにないね」
──黙りなさい平民共おおおおおぉ!!
その声は天井の高い法廷に轟いた。その声の主は、
顔を興奮で真っ赤にして、目を血走らせ、怒りの波動で髪を宙に揺らめかせた──
「黙って聞いていれば王族のわたくしを差し置いて勝手な事ばかり!
平民風情が身の程を知りなさい!!」
ソニア・ネヴァーマインドその人だった。
彼女のあまりの変貌ぶりにボクとひとりを除いて、皆言葉を失ってる。
怒ってる人には落ち着いてる人が適任だね。おっかないからボクは引っ込むよ。
マイペースな彼女なら、これからの戦闘も耐えきれそうね。お疲れ様。
「ラップが落ちていたからなんだと言いますの!?
わたくしは確かに毒を飲まされて罪木さんの治療を受けたのです!
彼女自身が証人じゃないですか!……そうですわね?」
……ソニアさんのギョロリとした目で見つめられて……罪木さんがビビってます。
確かに、気色悪いです……
「はひい!確かにウサミさんに転送された後、即座に胃洗浄を施して、
止血剤を経口投与しましたぁ!」
「よろしい。
……そうですわ!ボトルで思い出しましたが、毒薬のボトル!あれが動かぬ証拠!
あなたが住んでいるテントのコンテナから見つかったそうですね?
江ノ島盾子が犯人だという物証に他なりません!」
「痛いところを突かれて……とても、苦しいです……涙があふれるほど」
「それ見たことですか!」
「というのは、真っ赤な嘘なんです……嘘つきで、ごめんなさい……」
「なあ、やっぱりそのキノコひとつ味見していいか?」
「我慢せい。キノコも江ノ島のコンテナにあったから、後で分けてもらえ」
「じゃあ、あなたが持っていた毒薬についてはどう言い逃れるつもりなんですか!?」
「入手経路……」
「え?」
「あの毒薬のボトルがどこにあって、
なおかつ私に入手できるかがわかっていないんです……何もわからない哀しさ……
あなたにわかりますか?」
「罪木さん!!」
「あうう…あの毒薬は本当に毒性が弱くて、
微量なら胃に繁殖した病原菌除去に使われるくらいなんで、
病院でもドラッグストアの調剤室でも手に入りますぅ!」
「だったら、誰にでも入手できて、
こっそり私のコンテナに入れることもできたってことですよね……私以外には……」
「私以外?どういうことですか!?
あなた以外に誰が毒薬を持ち出す必要があるというのですか!」
「ぐるぐる回るの……やりたくないんですけど……」
■議論開始
コトダマ:○監視カメラ
ソニア(激怒)
毒薬が必要になるのは、[江ノ島さんしかいない]ではありませんか!
終里
でもよう、それを〈持ち運ぶ方法がない〉んじゃしょうがないぜ?
澪田
あ、そーだ!いっそ[素手で握り込んでた]ってのはどーっすか?これで決まり!
九頭竜
朝から犯行時刻の昼までずっとか?〈アホか〉お前は。
・正直……最後のウィークポイントに同意を撃ち込みたいです……
・だーめ!簡単な問題でしょう?
REPEAT
ソニア(激怒)
毒薬が必要になるのは、[江ノ島さんしかいない]ではありませんか!
終里
でもよう、それを〈持ち運ぶ方法がない〉んじゃしょうがないぜ?
──そうだと思うわよ!!
賛!〈持ち運ぶ方法がない〉同意! ○監視カメラ:命中 BREAK!!!
「だよなぁ?ラップが使えないなら……」
「そうじゃ、ないんです……
私には、そもそも毒薬を入手することが、できないんです……
無力ですよね、私って……」
「往生際が悪いですわよ!なら、コンテナのボトルは……」
「監視カメラ」
「えっ……?」
「お忘れですか?島中に設置された監視カメラ……
私の私生活を余す所なく生中継するために存在する、
視聴者の変態的欲求を満たす道具……」
「あのー江ノ島さん?決ちて未来機関はそんな目的で監視はしてまちぇん……」
「目的はどうあれ……私は常に衆人環視の目に晒されているのです。
そんな状況で、怪しいボトルを持ち出せると、本気で思われるのですか……?」
「はっ……!」
「加えて、私のテントは悲しいほどにボロくて汚くて、
入り口もジッパーの付いたシートだけ。つまり誰でも出入り自由……
真犯人が忍び込んでコンテナにボトルを入れることが簡単にできるくらい
貧相な作りなんです……」
「オレも見たけど、雨風で中の家電が壊れねえか心配になるくらいだからな、あそこは」
「そ、左右田さん!?あなたまで、わたくしを……!?」
どういうわけか、何気ない彼の発言に今までで一番ショックを受けています……
あなたも、悲しいんですね……理由はわかりませんが。
「……まがりなりにも重要な裁判で隠し事したくないだけっす。ただでさえオレは……」
左右田さん……間もなく別の嵐が吹き荒れるので……その時は、お願いします。
「……わかりました、いいでしょう。まったく、どいつもこいつも、どうしようもなく、
わたくしをコケにしないと気が済まないようですね!!」
泣いてる……憤怒の形相で隠れてしまいましたが、私は、見ました。
彼女の目から、一筋だけ、涙が……泣きたいのは私なんですが……
「王族を侮辱した者が、どのような裁きを受けるか、
身をもって思い知らせて差し上げます!!」
■ソニア・暴走モード突入!!
>
はじめましてこんにちは。わたくしめが希望更生プログラムVer2.01における、
ナビゲーションを担当させて頂きます。
今回限りでさようならになる可能性もございますが、今後共よろしくお願い致します。
早速ではございますが、学級裁判における新システムのご説明を致します。
恐縮ですが、今しばらくのご辛抱を。
さて、裁判が進展し、クロと思しき人物が追い詰められると、
“暴走モード”に突入する場合がございます。
暴走モード中の人物は、コトダマを撃ち返してきたり、4択問題を突きつけてきたり、
悪あがきの限りを尽くします。
あなた様はそれらを隙のない発言でやり過ごしたり、
正しい選択肢を選ばなければなりません。
被弾したり不正解の選択肢を選ぶと、皆様の心証が悪くなり、
最悪の場合あなた様がクロに認定されかねません。
暴走モードを能動的に解除する方法はなく、
敵の攻撃手段がなくなるのを待つしかありません。もしくは…ゲフンゲフン。
それでは、ご武運を。
>
彼女の怒りのオーラが激しさを増しました……
背後にライフルを構えた彼女の生霊まで見えます……
これから発言には特に注意を払って!向こうも言弾を放ってくる!
被弾したらみんなからの疑いが強まるわ!
「なんだか、ソニアさんがFCソフト“甘い家”のラスボスみたくなっちゃったね……」
七海さんの言うことも……よく意味がわからないです……どうでもいいですけど……
「江ノ島さん……
あなたには、赦しではなく、裁きが必要であることがよくわかりました。
やはりあなたは絶望の江ノ島。今、確信が持てました。
この、ソニア・ネヴァーマインドが月に代わって“おしおき”します!」
女王様……バトンタッチ……
ああ、逃げないで。行っちゃったわ。悪いけど、あなたお願いね。
「面白いじゃないの!女王たる私様に平凡貴族が敵うとでも?さあ、いらっしゃい。
その貧相な銃で私様の眉間を貫いてごらんなさい!」
「では遠慮なく!
まず、あなたが毒を持ち運んだ方法から暴いていきますから、覚悟するのです!
そもそも、あのラップがどこにあったものかをはっきりさせましょうか!?」
■犯人がラップを手に入れた場所は?
?→厨房
?→ロケットパンチマーケット
?→レストラン
?→江ノ島のテント
それはもちろん……!
待って、本当にその選択で正しいかもう一度考えて?
お黙り。他に何があるというの。
──これで説明できるはずよ!! →レストラン:正解
「フフ……うっかり“厨房”を選んでくれると嬉しかったのですが、
さすがにこの程度の問題でつまづきはしませんね」
「小娘のお遊びに付き合ってるほど暇じゃないの。さっさと全力を出しなさい。
私様に敗北するためにねぇ!」
「では、その根拠を示してもらいましょうか、あの人に!」
■怪しい人物を指名しろ(暴走ソニア)
ナナミチアキ→ヒナタハジメ→オワリアカネ→ツミキミカン→【ハナムラテルテル】
「ええっ、ぼく!?」
「なぜ、厨房でなくレストランなのか、13秒以内に答えてください。
このムチがうなる前に」
「まま待ってよ!ええと、証拠品、証拠品……あ、これって。
確か食事に出してるサラダの小鉢に、虫が付かないよう被せてるものだよ。
これならみんなに行き渡るし、わざわざ厨房に忍び込む必要はないね。
でも、よく考えたらソニアさんのムチなら嬉し」
「よくできました。
もっと言えば、厨房にもカメラがあるので、侵入してラップを盗むことは不可能、
ということですね」
「暇じゃないと言ったはずよ。
お前は王を刺す気概のある奴隷にすらなれないのかしら?」
「つくづく、口の減らない女ですね……!
では、江ノ島さんを守っている物証であなたを倒してみせましょう」
「早くおし」
■議論開始(射手:暴走ソニア)
コトダマ:○ラップ
江ノ島(女王)
私様を守る物証?それは何かしら。[毒薬のボトル]?[ラップ]?
お前は人の[時間を浪費する]のが趣味なの?迷惑この上ないわ。
[アリバイ]に意味がないことも証明されたし、
毒の入手も[監視カメラ]で見られていては不可能。
残る証拠品は[水のカップ]くらい。後は[園内のゴミ箱]。これが何の役に?
──脇が甘いですよ……
[園内のゴミ箱]論破! ○ラップ:被弾 DAMAGED!!!
・ソニアの生霊が放ったコトダマが、私様に命中ですって!?
・もう、だから気をつけてって言ったじゃない!
「なんですって、この私様が、被弾……?ゴミ箱の、何が怪しいと言うの!」
「クス…自分が提示した証拠品が持つ意味もわからないんですか?
早く園内のゴミ箱について再確認したらどうなんです?」
「なんという屈辱!園内のゴミ箱?……まさか、お前が言いたいのは!」
「そう。テーマパークに多すぎるほど設置されているゴミ箱。
この中に何を入れても“ポイ捨て”にはなりませんよね。
江ノ島さん、あなたは毒を包んだラップをゴミ箱のひとつに隠し、
わたくしが一人になるチャンスを待っていたのです」
「肝心なことを忘れているわねぇ!私様は監視カメラで撮影されていて、
毒の入手はできなかった。それをどう説明するつもり!?」
「さっきのように下品な色仕掛けで、
異性のどなたかに持ってこさせたのではありません?
あなたらしい方法で実に納得が行きます!」
「論理も何もあったものじゃないわね!
まっとうな証拠を提示できないなら、一生黙っていなさいな!」
お願いだから落ち着いて!周りを見てちょうだい!
みんながあなたを疑いの目で見始めたわ!
今は私様が喋ってるの!アンタは引っ込んでいなさい!
“共犯者がいるなら……犯行は可能だよ、ね?”
“ならば、その共犯者探しから始めようではないか”
“でもでも!それって江ノ島さんが犯人って前提で議論することになるよね!?”
“うぬう…この状況ならば、仕方あるまい”
“というか、誰か唯吹に最初からわかりやすく説明してほしいっす……”
……ソニアさんと江ノ島が、今も喧々諤々と議論という名の罵り合いを続けてる。
オレは、こんなもんを見るためにプログラムに参加したんじゃねーよ。
ツナギのポケットに手を突っ込んで、中のマイナスドライバーを握りしめ、
愛用の工具に精神を集中する。そして。
──あまーい!!
オレの叫びが法廷に反響し、ガヤついてたみんなが驚き黙り込む。
もちろんソニアさんも、江ノ島も。
「左右田さん!?どうしてあなたが!」
「誰かと思えば左右田じゃないの。何の真似かしら」
「すんません。オレ、今みたいなソニアさんは見たくねーんすよ。
だから……全力でソニアさんを止めます」
「まさか、本気でわたくしより江ノ島さんを選ぶとおっしゃるのですか!?」
「……江ノ島盾子を倒すのはオレ。それだけっす。
邪魔するってんなら、俺はソニアさんでも倒します」
「そんな……どうしてっ!」
■反論ショーダウン 開始
□>監視カメラ
ソニア(暴走)
左右田さんも/わたくしを/裏切るのですか!?/わたくしより/あの女を信じると?
江ノ島盾子が犯人なのは/明白なんです!/この証拠品の数々を/見てください!
毒の付いたラップ、/水を入れたカップ、/そしてコンテナに入っていた/ボトル!
《発展!》
左右田
それ、何も証拠になってないっす。
ラップは床に落ちてた時点で証拠能力がなくなったし、
カップも事件が起きたなら存在して当たり前。
それ単体で誰かを特定することはできないんすよ。
毒のボトルにしても、江ノ島が言っていた通り、
誰にでもコンテナに入れるチャンスがあった。
ソニア(暴走)
どうして信じて/くださらない/のですか!/わたくしは確かに/江ノ島盾子に
毒の入った/水を飲まされ/たのです!左右田さんは/味方だと信じて/いたのに!
だったら一体/誰が犯人だと/おっしゃるのですか!?
[客観的な/証拠]を見せてくださいよ!!
──その言葉、バラバラにしてやるぜ!!
斬![客観的な証拠]論破! □>監視カメラ BREAK!!!
「あの……もしかして、なにか、証拠をお持ちなんですか……?」
「なあ、ウサミ。メカニックとしてちょっと気になってたんだけどよー。
監視カメラの映像って、録画してて後から見たりできんのか?」
「あ、できまちゅ!
江ノ島さんの監視だけじゃなくて、防犯カメラの役割もありまちゅから、
24時間分の映像をローテーションで録画して、いつでも見られるようになってまちゅよ!
もちろん普通は公開されることはありまちぇんが」
「うそ……」
「今すぐ録画を停止してくれ。あと、キーワードにこんな文言があったよな」
“ただし、江ノ島と協力者がそばにいる場合は、協力者も一緒に撮影する。”
「起動条件。つまり“そばにいる”が適用される有効範囲は大体何mくらいだ?」
「やめて……」
「約15m前後でち。あまり範囲が短すぎても、
その……江ノ島さんが協力者に危害を及ぼす危険性を抑止できない、
という未来機関の判断でちゅ」
「だったらギリ映ってるはずだぜ。さっきは誰でも出来るって言ったけどよー。
オレはクロが江ノ島のテントで毒のボトルを入れたのは、
昨日の慰労会の朝、ホテル前に集合した時だと思ってる。
確かに物理的にはいつでも入れるぜ。鍵もねえシートがドア代わりなんだからな。
でも、江ノ島がいない隙を狙ってコテージのあるエリアをうろついてたら、
その姿は完全にカメラに残る。やるとしたら全員が一ヶ所に集まる昨日の朝だろ」
「お、お願いですから……」
「こっちは微妙だが、事件現場の映像だ。広場のベンチとお土産品コーナー。
ベンチの位置によっちゃ、江ノ島から15m以内にいたソニアさんが何をしてたか……
タイミングによっちゃ、本当に“すぐそば”にいただろーから、
何をしてたか、確認する意味はあるだろーよ」
「すぐ映像をピックアップするでちゅ!」
「やめてえええ!!」
■暴走モード解除
「映像の抜き出しが完了したでちゅ」
「……ああ、やってくれ」
「ううっ……ぐす、ひっく……」
「あう…ソニアさん、泣かないでくださぁい……」
観念したソニアが高い椅子の上に座ったまま、両手で顔を覆って泣いているわね!
罪木が慰めようとするけど、泣き止む様子はない。
まったく、あの娘と同じくらい泣き虫だとは。
間もなく全員の電子生徒手帳に、動画ファイルが配信されてきた。さあ、お見せなさい。
そこに映っていたのは……
昨日の朝、私様が去った後、真っ赤なラベルが目立つボトルをコンテナに入れるソニア。
お土産品コーナーに毒の粉末の付いたラップを捨てるソニア。
私様の目を盗んで、水にラップに包んだ毒を入れるソニア。
最後に、治療の際、所持品を探られないように、
そばのゴミ箱に使用済みのラップを捨てるソニア。
閉園間際でゴミ箱を調べきれないことを計算に入れた上での犯行だわね。
用意周到だこと。それをまさか左右田に先に見破られるなんて、私様一生の不覚だわ。
今回はほとんど語ることもないけど、最後の仕上げだけはやっておきましょうか。
■クライマックス推理:
>クライマックス推理 開始
>推理を完成させろ
Act.1
事件の始まりは実は慰労会より前のこと。
クロは事前に病院かドラッグストア、まあ出入りの容易なドラッグストア辺りで、
毒薬のボトルを手に入れていた。
語学が堪能らしいクロはラベルの英語など、母国語より楽に読めたんでしょうね。
あくまで協力者であるクロは監視カメラに映される心配もない。と、思っていた。
証拠としては残らなかったけど、この勘違いが後々自分の首を絞めることに。
Act.2
次に2つの物を準備する。入手した毒薬の粉をまぶしたラップ。
そして、致死量に至らない程度の毒を包んだラップ。準備したのはたったこれだけ。
あとは慰労会の日を待つ。
Act.3
慰労会当日。クロは私様を迎えに来たふりをして、忘れ物をしたように装い、
私様をホテル前に集まったメンバーの元へ追い出し、
急いで自分のコテージに戻って毒薬のボトルを持ってきて、
無人になったテントにあるコンテナの中に仕込む。ここで誤算が。
自分には反応しないと思っていた監視カメラが、
中途半端な距離にいた私様に反応して、その姿を撮影されてしまった。
Act.4
場所は変わって4番目の島。
まず、お土産品コーナーのキッチンに毒薬をまぶしたラップを捨て、
ゴミ箱に近いベンチに座る。
そこに偶然私様が現れ、それを好機と見たクロは、
厚かましくも私様に水を汲んでくるよう命じ、
隙を見てラップに包んだ毒薬を水のカップに入れる。
余った証拠、つまり使用済みラップはゴミ箱へ。
まぁ、私様が広場に来なくても、
メールで秘密の相談があるとか伝えて呼び出せば済んだ話。
Act.5
毒入りの水を一気に飲んだクロは身体に毒が周り、地面に倒れ込むと、
吐いた血でダイイングメッセージらしきものを書き残す。
そう、囚人番号16番。つまり私様に罪を着せるためにね!
こんな荒業ができたのは、ボトルのラベルを読んで毒性の弱さを知っていたクロだけ。
そういうことじゃない?ソニア・ネヴァーマインド。
──これが事件の全貌よ! COMPLETE!
「きゃあああああ!」
結果:ソニア・ネヴァーマインド GUILTY
……江ノ島盾子は帰っていった。いつもの熱によるふらつきに見舞われ、
証言台に手をつき、そのままどうにか言葉を紡ぐ。
「どうして、どうしてなの、ソニアさん!?
どうしてこんな自殺みたいな真似しちゃったの!」
すると、彼女が泣きはらした目で僕を睨む。
「憎いからに決まってるじゃないですか!花村さんと同じですよ!
わたくしも彼と同じ、江ノ島盾子に全てを奪われた者の一人なんです!」
「だから違うの!私は本物の江ノ島盾子じゃ……」
「お黙りなさい!このストレイキャット!!」
彼女が真珠のような涙を振り散らしながら、僕に憎しみをぶつける。
「泥棒猫って言いたいの……?」
「わたくしだって、信じてみようか迷っていたんです。
2回の裁判を通して、あなたが本当に絶望の江ノ島盾子なのかわからなくなったから……
でも、やっぱりあなたはわたくしにとって絶望でしかなかった!」
「い、意味がわからないわ……どうして、一度は信じようとしてくれたのに」
「フ、フフ……まだ白を切るつもりですか。
わたくしが気づいてないとでも思ってるんですか。
あなたが、この世界に来てもなお、わたくしから奪おうとしていることに!」
「奪うなんて!一体ソニアさんから何を奪うっていうの?」
「現実世界のジャバウォック刑務所にいた頃の左右田さんは、
わたくしだけを見てくれる大切な人だったんです!
でも、あなたが未来機関に捕らえられ、
このプログラムに来てから変わってしまいました!
わたくしではなく、ずっとあなたを見つめて!
それだけじゃありません……そんな彼を、あなたは卑劣な色仕掛けで!」
「ちょっと待って!い、色仕掛けなんて、そんなこと私に!」
「だったら開廷直前のあの態度はなんだったんですか!」
「それについては本当にごめん!
あの時の江ノ島盾子が、強敵のソニアさんから冷静さを奪うために、
わざと挑発したんだ!」
「どうだか……それに、実際わたくしは見たんです」
「見たって何を……?」
「あなたがモノモノヤシーンの景品を持って帰って来た時の様子、実は見ていたんです。
江ノ島さん。あなたはちょうど同じ頃帰ってきた左右田さんに、
ジュースを渡していましたよね……
毒味をするふりをして、さりげなく、その、間接キスを」
「ち、違うわよ!
本当にあれは毒味の意味で、最初は受け取ってくれなかったし!」
「でも、結局最後は飲んでしまった。しかも、その後プレゼントまで。
気弱なふりしてずいぶん積極的なんですね……」
「そうじゃないよ!あれは、モノクマと戦うための、世界を救うために必要な……」
「うるさい!!」
「っ……!」
「それだけじゃないですよね!?おまけにその後、他の皆さんもプレゼントで手懐けて、
わたくしの仲間まで奪おうと企んでたじゃないですか!」
「あれは、ただ私を受け入れてくれたみんなに感謝を!」
「そんな嘘っぱち、信じません!!」
「私を信じろなんて言わないよ!でも、どうして左右田君や他のみんなを信じないの?
手土産ひとつで私の操り人形になるなんて考えちゃうんだよ!!」
「黙りなさい、黙りなさい、黙りなさい!!全部、あなたが悪いのよ!
あなたなんて来なければよかったのに!」
「ソニアさん、もういいっす」
「えっ?」
「俺は、ソニアさんを、愛してません」
突然、頼りにしていた左右田君から突き放されたソニアさんが、しばし放心状態になる。
「そんな……うそ、です……やっぱり、また、奪われて」
「すんません、言い方が悪かったっす。
俺には人を愛したり、愛されたりする資格なんかねーんすよ。
そんな、人間らしい幸せ掴むなんて……」
「メロドラマもいいけどさ、そろそろやってくれないかな。
ソニアさんの、“おしおき”」
左右田君が何か言おうとした時、やっぱり彼が。狛枝君。
僕にはやっぱり君がわからない。ただ、味方じゃないことは確かだ。
「はっ……!今、ですか?左右田さんの前で……?」
震える声で慈悲を乞うかのように問うソニアさん。
「今やらなかったらいつやるの?
まさか花村クンや罪木さんの過去は聞いておいて、自分は秘密、なんて通らないよね」
「お願いです!せめて、左右田さんには!」
「心配ないっすよ。多分、俺の罪が最悪ですから。
俺には誰かを軽蔑する資格も、ねーんす」
「う、うう……あああっ!」
しばらく涙を流し、罪木さんに背中をさすってもらい、
落ち着きを取り戻したソニアさんは、少しずつ語り始めた。
「わたくしの罪は、“狩り”です。狩猟は貴族の嗜み。
そういうしきたりがあると教育を受けていたから、
あんな凶行に及んだのだと思います……」
……
………
《絶望ビデオ》を観せられた後、絶望に狂ったわたくしは、
彼らのように人間をハンティングしたい欲求を抑えきれず、
すぐ殺し合いが行われた生徒会室に向かいました。
無残な生徒会員達の死体を踏み越えて、教室に入ると、
思った通り、使われていない武器が残されていたのです。
“まあ素敵!お父様にねだっても買ってもらえなかったスナイパーライフル、
中学校以来触っていなかったショットガン、グレネードまでありますわ!
よりどりみどりとは、このことですね!”
そして、わたくしは狩りを始めました。
絶望に冒された者、まだ正気でいる者、人間なら区別なく。
“ああ、君!ここは危険だ!何かがおかし……!”
ズダァン!
“ごぼっ、げっ……きみも、なのか……”
“やったぁ!一人仕留めました!近距離射撃はショットガンの醍醐味ですね!”
“全員どこかに隠れろ!女が狙い撃ちしてくる──”
チュイン!
“わぁ!ヘッドショットが大命中!お父様にもお見せしたかったです!
次の獲物は……あの仕切りに隠れてるつもりの誰かさん!
グレネードは初めての体験で、ドキがムネムネしちゃいます。ピンを抜いて、えいっ”
手榴弾を投げた一拍後、爆発音と共に、脚のちぎれた死体が空に舞い上がり、
わたくしの興奮は最高潮に達しました。
“まあ、とっても汚い花火ですこと!ウフフフ、アハハハハ……”
その後も、学園を飛び出し、
通りすがりのお婆さん、事態の鎮圧に当たる警察官、状況すら分かっていない小学生を、
まるで狩猟スポーツを楽しむように、撃ち殺して行ったのです……
何の理由もなく命を奪われる彼らの絶望は、
まるで柔らかく暖かい魂を吸い取るように甘美なものでした。
弾切れになって、時々警官の死体から銃を拾い、
あてもなく街から街へさまよい続けているうちに、未来機関に確保されたんです。
………
……
ひどすぎる。心で思っても口には出さなかった。
彼女は今、胸の痛みに耐えつつ心の傷から過去をえぐり出している。
それを責め立て、さらに傷つける資格もまた、僕にはなかった。
みんなも黙ってソニアさんの話に聞き入っている。
「そして、お父様も絶望に毒されてしまい、
国民を使った大規模な狩りをしていたんです。国境を封鎖して民を閉じ込め、
戦車に乗り込んで、病院、学校、デパート。
とにかく人が集まる場所に榴弾を撃ち込んで、無数の国民を殺害。
やがてそれでは飽き足らず、軍を動かし、無意味に虐殺を続けるうちに、
ノヴォセリック王国からは国家を維持できるだけの人間がいなくなりました。
愛する民を自らの手で殺めた絶望、守り続けた国が滅びた絶望に突き動かされ、
最後は自分の命を失う絶望を求めて、自殺しました。
未来機関の調査結果を聞く限りでは……」
ふと、左右田君を見る。その顔に表情は無い。ただソニアさんの話に耳を傾ける。
「生まれ育った国も、人間として生きる資格も失った。
そんなわたくしに残されたジャバウォック刑務所は、いわば帰ることのできる、
ただひとつの家だったのです。そこで一緒に住む仲間を奪われる。
そんな恐怖に駆られたわたくしは、今回の犯行に手を染めてしまったのです。
江ノ島さん、ごめんなさい。皆さん、裏切り者のわたくしを許してください……」
「ソニアさん、今回の事件は私の行動にも原因があったし、
左右田君のおかげで丸く収まったよ。
だから私には謝らなくていいけど、お願いがあるの。また、みんなを信じて。
罪を告白したからって、絶対君を避けたりしない。
みんな、同じ傷を抱えてると思うから。よそ者の私が言うのも、おこがましいけど……」
「わたくしを、許してくれるんですか?」
「もちろんだよ。他のみんなだって」
「……少なくとも、オレは裏切られたとは思ってねーっすから」
「左右田さん……?」
「江ノ島に罪を着せたいだけなら、
他のやつに毒を飲ませることだってできたってことっすよね。
毒性が弱いとは言え、量を間違えれば死ぬようなモンを自分で飲んだってことは、
ソニアさんがそれだけオレ達に、
リスクを背負わせたくなかったってことだと思うんすよ」
「うぅっ……うくっ、左右田さん……!ありがとう、ございます!」
「ほーら、ソニアちゃん、もう泣かないで。綺麗な顔が真っ赤だよ?」
「そーだよ!化粧してなかったころの江ノ島おねぇより酷い」
「それ、あんまりじゃない?」
法廷内に笑いが響く。よかった。3回も悲劇を乗り越えられて。
「あと江ノ島。オメーに言っとくことがある」
「えっ、どうしたの左右田君」
「さっきの話だ。いつまでも自分を”よそ者”とか言ってんじゃねー。
オメーが来てから何週間だよ、嫌われようが嫌われまいが、
もう新入りの時期は過ぎてんだよ。
3回も学級裁判に関わっといて、今更第三者みてーな面すんな」
「左右田君……ありがとうね」
「ま、左右田の言う通りだな。てめえの立場くらいは正しく認識しとけ」
「九頭竜君……わかったよ」
思いがけず暖かい言葉を受けると、
床に座り込んでいたソニアさんが、立ち上がって僕に歩み寄ってくる。
彼女は僕の両手をぎゅっと握って、真っ直ぐ目を合わせて言った。
「江ノ島さんにはもうひとつ謝らなくてはならないことがあります。
実は、わたくし……あなたの真心が込もったプレゼントを、捨ててしまったのです。
あの時は憎しみや恐怖に取り憑かれていて……バカな女だとお許しください」
「それくらい……いや、それに関しては償いをしてもらおうかな」
みんなが驚いて一斉に僕を見る。
「や、やめようよ、江ノ島おねぇ?」
「お願い、ソニアちゃんを許してあげて?怒るのはわかるけどさ……」
だけど僕はイジワルな笑みを浮かべて続けた。
「えへへ。私なら何でも許すと思った?
食べ物を捨てるのは悪いこと、悪いことには償いが必要なのです!」
「……どうぞ、なんなりと。ムチで叩いてくださっても構いません」
「それについては、外に戻ってから説明するよ。
ウサミ、とりあえず裁判閉廷の宣言をお願い」
「はい……今回は完全にハッピーエンドとは行かなくて、あちし残念です」
「ボクとしてはかなり満足の行く結果だったけどね。
まさか左右田君が膠着状態を突き崩す鍵になるなんて、正直キミを見くびってたよ。
ひょっとしたら、江ノ島さんを倒して眩い栄光を手に入れるのは、
左右田君なのかもしれないね」
「言ってろ、希望中毒が。
オレは絶望の残党と自分を殺すためだけに生きてる。それだけだ」
「とにかく……学級裁判はこれにて閉廷としまちゅ」
カン!
【学級裁判 閉廷】
そして、ボクと狛枝君以外の全員は決して幸せそうでない顔で、
エレベーターに乗り込んで地上に戻っていった。
そして、後日。
厨房に女の子らしい黄色い声が楽しげに響いていた。
「うう~どうして私の生地が膨らんでないの~?」
「もう、不器用なんだから。ちゃんとドライイーストの量計った?」
「アハハ、江ノ島おねぇの生地ネバネバ~」
「花村、こんなものでいいだろうか」
「うん。辺古山さんはバッチリ。あとは生地を20分ほど休ませようね」
「20分~?オレそんなに待てねえよ……」
「あちし感激でちゅ。あの裁判の後、どうなることかとハラハラしてまちたから……」
「食べなかったものは、作り直してちゃんと食べる。これが正しい償いだよ」
何をしてるのかって?僕達は女性陣と花村君に協力してもらって、
食べてもらえなかったクグロフを再現してるところなんだ。
「江ノ島さん……」
三角巾にエプロン姿のソニアさんが神妙な面持ちで、
ドライイースト注ぎ足しでリカバリーできないか試行錯誤してる僕に近づいてきた。
「あなたに迷惑どころか、いわれのない罪を着せようとしたわたくしを、
こんな形で許してくれて、本当に、なんてお礼を言えばいいか……」
「駄目だよ。レストランで待ってる左右田君達に、
美味しいクグロフを食べてもらうまで許さないからね。
……まぁ、私のは無理っぽいけどね、ははっ」
ベタベタになった生地をどうすることもできなくて、どよ~んとした表情になる。
そんな僕を見てソニアさんが微笑んだ。
「くっ、ふふっ」
「もう~笑わないでよ……」
「うふふ、ごめんなさい。なんだか、幸せで。信じられる仲間が居ることが、幸せで」
「私もこうしてみんなと一緒にお菓子が作れるようになるなんて思っても見なかった。
幸せよ。この失敗作以外はね!」
僕は、指にへばりつくネタネタの生地をどうするべきか迷いながら答えた。
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8.絶望ビデオ
世界に絶望をもたらし、人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こしたビデオ。
希望ヶ峰学園の生徒会員達が凄惨な殺し合いを繰り広げる内容。
ネットワークを通じて世界中にばら撒かれた。
人間の視覚や聴覚を通じて直接脳に作用する、特殊な映像を見た者は絶望の虜となり、
更に絶望を求めて、虐殺、自傷、自殺、破壊行為を繰り返すようになる。
ジャバウォック刑務所の囚人達も、絶望ビデオに精神を汚染され、
償いきれない罪を犯した。
CHAPTER 3 CLEAR
ショクザイ ノ カケラ ヲ ゲットシマシタ
ソニア ×150
ソウダ カズイチ ×50
*閃きアナグラム(改)、パニックトークアクション、スポットセレクトを
文章で表現することができないため、オリジナル要素で代用しました。
何卒ご容赦ください。