江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】 作:焼き鳥タレ派
江ノ島生活生中継について語るスレ part217
1 名前:超高校級の名無し
引き続き語りましょう。学級裁判実況、兵員募集、危険区域情報は該当スレで。
61 名前:超高校級の名無し
(建前)江ノ島が本物かどうか本格的に怪しくなってきた件。慎重な行動観察を要す
(本音)えのじゅんハァハァ。妹かお姉ちゃんにしたいお!
62 名前:超高校級の名無し
学級裁判3回戦も熱かったー!まさか左右田が事件解決のダークホースになるとは
いつ始まるかわからんから目が離せんわ、マジで
63 名前:超高校級の名無し
しかし、未遂とは言え、狛枝が江ノ島レ○プしたのはさすがにヤバイんじゃないか?
放置してる未来機関も何考えてんだ
64 名前:超高校級の名無し
>>63
それ!警察組織が生きてたら未来機関も摘発されるレベルの人権侵害だよ!
同じ女性として激おこぷんぷん丸!
65 名前:超高校級の名無し
俺としては、その時江ノ島が超人的な身体能力を見せたことも気になる。
いずれにせよ、未来機関は江ノ島とされてる人物ともう一度サシで話した方が良いな。
そして>>64よ、いつの言葉を使っている。
……ボクは、掲示板の書き込みに一通り目を通すと、目薬を差して強く目を閉じた。
何時間パソコンに向き合っていたんだろう。彼らの言う通り、
希望更生プログラム内にいる江ノ島盾子が絶望の江ノ島である可能性は、
日を追うごとに小さくなっている。
ボク自身、本当にこれでいいのかと思うことも少なくない。
パソコンチェアに座って腕を組み、難しい顔をしていると、
霧切さんがやってきて、ボクのデスクにコーヒーを置いた。
「また、根を詰めすぎ。一度部屋に戻ってシャワーを浴びてきちんと寝なさい」
「そうも行かないよ。向こうの世界で3回目の学級裁判が起きたばかりだし、
未来機関の江ノ島盾子に対する処遇について、批判の声が高まってる。
プログラムの続行自体に異論はないけど、上層部に今の状況を報告して、
せめて彼女の生活条件を改善するよう具申するつもりだよ。
だからなるべく早く上申書を作成しなきゃ」
「複雑な状況になっているものね。まさか、自分自身を傷つける者が現れるなんて……
ちょっと失礼するわね」
霧切さんがボクのパソコンの前に身を乗り出し、マウスを操作し始めた。
紫のロングヘアが微かないい香りを放つ。
ああもう!だめだ、だめだ、そんなこと考えてちゃ。
今は重要案件について議論してるんだから。
「なるほどね。
確かにあの件については、狛枝凪斗を協力者から外すことも検討されたけど、
突然彼がいなくなったら、それもまた憶測を呼ぶ。
結局ウサミや協力者に、彼の監視や必要な場合の拘束を任せるしかなかった」
彼女は語りながら気になった別スレにざっと目を通す。
未来機関による虐待行為を糾弾せよ! part85
1 名前:超高校級の名無し
江ノ島盾子への私刑は未来の前借り。
日本国憲法第31条に反する人として許されない行為です。偽物議論は他スレでどうぞ。
2 名前:超高校級の名無し
偽善者が集まるスレはここですか?文句あるならテメーらが絶望止めてみろ雑魚
3 名前:超高校級の名無し
いきなり荒らしかよ氏ね。>>1乙です。
偽物だろうが本物だろうが、彼女にもちゃんとしたコテージを用意するべき。
4 名前:超高校級の名無し
1乙ー。
彼女の状況も改善されてきたけど、協力者の善意あってのことだよな?
未来機関の放置プレイマジえげつない。
5 名前:超高校級の名無し
おーい、未来機関の中の人、見てんだろ?
江ノ島に扇風機のひとつもよこさない理由を教えてくれ。
「確かにこの状況を放置しておけば、各抵抗組織の協力を得ることも難しくなりそう」
「特に実働部隊は人手が足りないからね。
装備はこちらが上でも、それを使う人員がいないと話にならない……」
「……戦死者も出てるしね」
「うん。だからボク達は、人類史上最大最悪の絶望的事件の爪痕から、
一刻も早く立ち直らなきゃならない。でも、そのためには江ノ島盾子を……
迷ってる暇なんてないことは、分かってるけど」
「苗木君」
「何?」
「自分のしてきたことは、間違ってると思う?」
「そ、そんなことはないよ!偵察部隊の確かな調査で、
江ノ島盾子の肉体を収集してるマッドサイエンティストのアジトを突き止めて、
一気に突入して、確かにそこには魔空院と江ノ島盾子がいたんだ……
ボク達を殺し合わせたあいつが!」
「だったら。自分が正しいと信じるしかないじゃない。それに、仮に人違いだったなら、
土下座でも何でもして責任を取ってくれるんでしょ、苗木君っ?」
霧切さんがボクの両肩にポンと両手を置いた。それだけで心の緊張が一気にほぐれる。
「それはそうだけど……」
「心配しないで。その時は私も付き合うわ。彼女の靴でも何でも舐めて」
「霧切さんにそんなことさせられるわけないじゃないか!
突入作戦の責任者はボクだったんだから!
やっぱりボク仮眠を取ってくるよ。また、後で」
彼はコーヒーを一気飲みすると、足早にオフィスから出ていった。
少し驚かすと、ようやく休む気になってくれたみたい。
でも……私自身、希望更生プログラムで、
江ノ島盾子がむしろ協力者に罪と向き合う力を与えているように感じているのも確か。
苗木君はまだ気づいていないみたいだけど、局内にも江ノ島の正体を疑う者がいるの。
それどころか、ジャバウォック刑務所に自らを縛り付ける元絶望の残党達の心を解放し、
彼らを絶望と戦う戦力にしてくれると期待する者すらいる。
私も、苗木君と同じ。わからないの。
「に~い、さ~ん、し~い……」
「はぁ…はぁ…うう、きついよ~」
「頑張ってください、江ノ島さん」
僕は今、ゴルゴダの丘を登るイエス・キリストのように、丸太を背負って、
西園寺さんが地面に書いた円を回っています。なんでそんな目に遭ってるかって?
七海さんにリバーシ(オ○ロ)で負けたからだよ!
「は~ち、く~、じゅう!おねぇ、もう下ろしていいよ」
「終わったー!!」
「こんくらいでへばってんじゃねえよ、もっと体力付けろ」
「何なら、終里と一緒にワシのトレーニングを受けてみるか。ん?」
「……遠慮しときます。午後の作業に響くわね、こりゃ」
ようやく罰ゲームを終えて丸太を下ろすと、地面に崩れ落ちた。
昼休み中のみんなが笑い声を上げる。
昔っからアレ弱いのに、超高校級のゲーマーの七海さんに勝てるわけない。
ボードゲームならもしかして?と思った僕が馬鹿だったよ。
「アハッ、江ノ島おねぇ腐った牛の死体みたーい!」
「お疲れ様です。あらまあ、汗だく。これを飲んでください」
「ありがとう、ソニアさん!」
ソニアさんが笑いながらよく冷えたミネラルウォーターをくれた。
すかさずキャップを開けてゴクゴクと飲む。
「あー、生き返る!テントの水道はぬるくって。この後の作業も頑張れるわ」
「江ノ島さんったら、どうしてこんな無茶をしたんですか?
七海さんにゲーム勝負なんて」
「ロビーの隅にあったから、たまたまというか、
いつものようにゲーム機で遊んでた七海さんと勝負しようってことになったんだ。
……あ、ありがとう」
苦笑いしながらカラのペットボトルを受け取るソニアさん。
もうとっくにわだかまりは解けてる。
「俺様もあの激闘を見届けた者の一人だが、
光と闇のコロシアムは瞬く間に闇が支配し、一切の光が消え失せた。
邪眼を持たぬ者にはわからぬであろうが、お前がその生命を贄に闇を呼び寄せ、
世界を塗りつぶしたことは明々白々たる事実。
やはり、どこまでも暗黒を求めし存在で在り続けるのだな……江ノ島盾子よ!」
「普通に“黒にボロ負けしてた”って言えばいいじゃないかぁ!
どうせ五目並べだって勝ったことないよーだ!」
「リバーシも五目並べもコツがあるんだよ?
2,3手先でいいから、相手が欲しがりそうな位置を読むことを考えてみて?」
「江ノ島モードじゃない私はそんな芸ができるほど頭が良くないのよ……」
キーンコーンカーンコーン……
「おお、そろそろ午後の作業が始まるのう。バリバリ働くぞい!」
「おーし、とっておきの海の幸取ってきてやるぜ!」
「わたしは牛の乳搾り。牛が暑さで疲れてるからミルクがあんまり出ねーんだよねー」
「ふむ、ならば魔獣使いたるこの俺が、
純白のミノタウロスが失いしマナを再び現世に降り立たせようぞ!」
「牛さんの治療、頑張ってね。私は森で木の伐採の続きよ。
正直丸太はもう懲り懲りなんだけど……」
それぞれの仕事場へ散っていくみんなを見て、ソニアさんが独り言のようにつぶやいた。
「皆さん……以前より活き活きと労務に励むようになりました」
「えっ、そうなの?」
森に出発しようとしたら、ソニアさんがそんなことを言い出した。
「はい。以前までわたくし達は、過去の罪に溺れながら、
贖罪というわずかな空気を求めるように、ただひたすらにもがくだけでした。
でも、江ノ島さんが来てから変わったんです。
あなたがご自分の運命に立ち向かう姿を見て、
わたくし達も自らの罪に真正面から向き合う勇気をもらったんです」
「そんな、言い過ぎよ。
私は、なんと言うか、その時々の状況になんとか対応してるだけで……」
「いいえ。例え学級裁判の時に現れる姿が、わたくしの知る江ノ島盾子だとしても、
全てが解決した時、いつもあなたは傷ついた者に手を差し伸べてくださいますよね。
わたくしもそれにどれだけ救われたことか。周りの人も同様です。
こんな自分すら救ってくれる人がいるんだ。そう考えることができたんですから」
「救うだなんて……あっ」
ソニアさんがそっと僕の両手を握る。
「散々酷いことをしておいて虫のいい話だとは承知しています。その上でお願いします。
どうか、皆さんを、救ってください。
あなたの懸命な姿を見て、皆さん、希望を取り戻しつつあるんです!」
僕も彼女の手を握り返した。
「
身の潔白を証明するために、みんなと一緒に生活することが役に立つなら、
喜んで引き受けるよ」
「……ありがとうございます!」
「じゃあ、私はもう行くわ。また丸太を担ぎにね~」
「ふふっ、江ノ島さんたら。引き止めてすみません。わたくしは遺跡で芋掘りです。
頑張りましょうね」
「ええ。また後で」
ピロロロ……
その時、僕の電子生徒手帳が鳴った。通話じゃなくてメール。
開いてみるとこんな文面だった。
送信者:日向創
件名:話がある
俺のコテージに来てくれ。午後の作業はいい。
労務をストップしてまで話したいことってなんだろう。
とにかく僕はホテル敷地に逆戻りして、日向君のコテージに向かい、呼び鈴を鳴らした。
足音が近づいてドアが開く。
「呼び出して悪いな。上がってくれ」
「お邪魔しまーす」
すっかり履き慣れたブーツを脱いで部屋に上がる。
そう言えば、彼のコテージに来るのは2度目だね。
「まあ……座ってくれ」
「ありがとう」
日向君に席を勧められて小さな椅子に座ると、彼も向かい合うように腰掛けた。
なんだか彼の表情が固い。どうしたんだろう。
「午後の作業を中止するほどの話って、何かな?未来機関からなにか重大な発表でも?」
「いや、そうじゃないんだ。
ただ、江ノ島。お前に話しておかなきゃいかないことがあってな。
今まで色々あって、改まって話す機会がなかった」
「うん」
日向君は話しづらそうに時々口ごもる。僕は黙って続きを待つ。
「まずは、俺達がジャバウォック刑務所に収監された時の、“誓い”についてだ」
「それは……
確か、学級裁判が終わった時に、弐大君が口にしたのを聞いたことがあるわ」
「そう。希望更生プログラムVer1.0から脱出して全てを思い出した俺達は、
絶望の残党だった頃の罪も同時に思い出した。絶対に許されない、血塗られた過去。
花村や罪木、ソニアが語ったような」
「……」
何も言わずに彼の言葉に耳を傾ける。
「だから俺達は恥を忍んで、処刑ではなく、
ジャバウォック島を刑務所とした終身刑にして欲しいと、未来機関に頼み込んだんだ。
苗木誠の協力もあったし、日本の再建にこの島の豊富な資源が必要な、
未来機関側の意向もあって、その願いは通った。
その時、刑務所での生活を始めるに当たって皆で決めたのが、弐大から聞いた、
俺達囚人の“誓い”だ」
「どんな内容なのか、教えてもらっても、いい?」
「ああ、もちろんだ。
まず、俺達は仮釈放のない囚人。死ぬまでここで償い、被害者に詫び続ける。
次に、Ver1.0内で起きた殺人事件については、クロも被害者も許し合う。
共に償う仲間として。
続いて、これ以上罪は重ねない。どれだけ些細なことであろうと。
マーケットの十神には会ったろう?」
「うん。ちょっとした出来心を防ぐために、万引きGメンを務めてるって聞いたわ」
「その通り。現実世界のジャバウォック刑務所には、殆ど娯楽がない。
俺達は囚人だから当たり前なんだが、人間だから、どうしても欲しくなる。
だから一番適任の十神がマーケットに常駐しているんだ。
……“誓い”についてはこんなところだ。
俺達がどんな経緯でジャバウォック島に留まっているか、
お前に知っておいて欲しかった」
終身刑。まばたきをしばらく忘れた。知っているはずの言葉が、重くのしかかってくる。
みんなが、青春どころか、人生の全てを、
この人口20人にも満たない島に捧げようとしているなんて。
「話してくれて、ありがとう。……でも!ひとつだけ言わせてもらってもいいかな!?」
「わかってる!こんな島に閉じこもって、わずかばかりの資源を納め続けたところで、
償いになんてなりっこない。死んだ人たちは帰ってこない!……わかってるんだ。
でも、今更俺達が快適な日本に帰れると思うか?
何人、何十人、何百人もの命を奪った俺達が、
食事やライフラインの保証された未来機関の収容所に!」
「それだったら……いや、なんでもない」
「なんだ?遠慮なく聞いてくれ」
「本当になんでもないの。気にしないで」
うっかり“みんなも絶望の残党と戦おうよ”なんて、バカなことを言うところだった。
みんなは自分の才能で罪なき人々を殺した。
例え相手が残党だろうと、その力でまた人を傷つけろ、なんて無神経にも程がある。
「それより、話はそれだけかしら?」
「そうだな……話というより、頼みがあるんだ」
「頼み?私にできることならなんでもしたいけど、
江ノ島盾子が現れないと、できることってほとんど無いの」
「今のお前にしかできないことだ」
「今の私?それってなあに?」
「七海と、話をしてやって欲しい」
「よかった。それなら今でもできるわ。
私も七海さんとじっくり話したのは1度きりだから、
またお話ししたいなって思ってたところなの!」
「七海が、ウサミと一緒に希望更生プログラムを管理する、
AIだってことは知ってると思う」
「うん。今の七海さんは二代目なんだよね?」
でも、日向君は首を横に振る。その顔に苦しみ、悲しみ、自責の念を浮かべて。
「彼女は……“三代目”なんだ!」
「三代目?」
意味がわからない。希望更生プログラムが運用されたのは今回を含めて2回だけのはず。
「一代目は、俺の友達だった七海千秋。生身の人間だったんだよ……」
「え……?」
「どこから話すべきかな。七海は希望ヶ峰学園の本科生で、俺は予備学科だった。
予備学科っていうのは、なんていうか、才能を持たない生徒でも入れる、
希望ヶ峰学園のブランドが欲しい落ちこぼれの集まりだったんだよ」
軽く自嘲気味に笑う彼。本科と予備学科についてはゲームで知ってた。
ただ、嫌な予感がする。僕は返事もせず彼の話を聞くことしかできない。
「そんな俺達が出会ったのは本当に偶然だった。初めは少し会話する程度だったけど、
親しくなってくると、会う回数も増えていった。
いつの間にか、毎日のように噴水の前のベンチで、
一緒に対戦ゲームをするようになってたよ」
「その七海さんが、どうして……?」
「人類史上最大最悪の絶望的事件の事は知ってるよな?
あの事件が起きた日に、彼女は……死んだんだ」
「と言うと、事件に巻き込まれて?」
「ある意味、そうとも言えるな……
希望更生プログラムVer1.0に存在した七海のAIは、
希望ヶ峰学園の生徒、“超高校級のゲーマー”七海千秋を元に作られたんだ。
人間だった彼女は、俺と組んだ江ノ島盾子に──殺された。
クラスメイトや先生を助けようとして、
江ノ島が用意したトラップだらけの迷路で切り刻まれて、串刺しにされて、
死んでいった……」
心が現実を拒み、頭の中が空白になり、彼の言葉を拒んでいる。
口だけが勝手に一言だけ。
「うそだ」
「嘘じゃない。これが、彼女の生きた証だ」
日向君がポケットから何かを取り出した。8bitゲーム、“ギャラオメガ”のヘアピン。
七海さんの髪飾り!どうしてここに!?
「七海の死に立ち会った俺は、
既に絶望に冒されていて、おぞましい化け物に成り果てていた。
それでもあいつは!あいつは俺を友達だと信じて、最後まで諦めなかったんだ……!」
俺は、トラップで致命傷を負い、死に行こうとしている七海に近づいた。
何一つ心を動かすことなく。彼女は俺に気がつくと、かすれた声で呼びかけてきた。
“日向…君……うん、日向君…だね?”
“……それは、以前のボクのことですか?”
“やっぱり……覚えてないんだ、ね……もう、思い出せないの?”
“不可能です。以前のボクの記憶は完全に消去されていますから”
“なんだって出来るよ…日向君、なら。……ほら、やればなんとか、なるってやつだよ”
七海は血だらけになって苦悶の声を上げながらも、必死に立ち上がろうとしていた。
そんな彼女を、俺は、ただ見ていたんだ。
“やっぱ…だめだね。日向君の、助けには……ごめん、ね”
“こんな状況になっても、あなたは誰かを守ろうとするんですね”
“だって、私は、みんなが、好きなんだもん……いやだ、死にたくないよ……
私、まだやりたいことが……みんなと、クラスメイトでいたかったよぉ……
も、もう一回、日向君と、ゲーム、したかった、よ”
「そんな……いやだ……七海さんを!僕が!江ノ島が!ハァ…ハァ、ハァ、ハァァ……」
うまく呼吸ができない。僕の中に宿る江ノ島盾子が、七海さんを!?
無意識にテーブルのボールペンを手にして、思い切り振り上げ──
「うあああああ!!」
左手に突き刺そうとしたところで日向君に押さえつけられた。
「やめろ!落ち着け!」
「うるさい!触るなよ、怪物め!!」
「っ!?」
日向君を押しのけると、思い切り彼を睨みつけて、思いつく限りの罵声を浴びせた。
ボールペンを両手で握りしめ、彼に向けながら。
「この、人殺し!人食いめ!
今から七海さんに会わせようって奴に、よくそんな話ができたな!
彼女を見殺しにしたくせに!彼女を殺した絶望だったくせに!」
あふれる涙が、悲しみか怒りかわからない。
「そうだ……俺が七海を殺したようなものだ。
俺はここで朽ちて死ぬ。それが俺にできるただ一つの償いだ。
でも、お願いだ!七海にだけは力を貸してやってくれ!
まだ人格が完成していない彼女の助けになってほしいんだ、頼む!
せめて一人の女の子、七海千秋になった彼女に謝りたいんだ!」
「おためごかしなんか聞きたくないよ!
結局七海さんへの罪の意識を背負いきれなくなって、
彼女に押し返したいだけじゃないか!
……それに、日向君。まだ何か隠してるよね!?」
“不可能です。以前のボクの記憶は完全に消去されていますから”
「“記憶を消去”ってどういうことだよ!どうせそれも絶望と関係あるんでしょう!
答えろよぉ!!」
泣き叫びながら、感情の赴くまま日向君を問いただす。
「それについては今は言えないんだ!本当にすまない、時間をくれ!」
「うるさい!僕にしろ、どうせ江ノ島盾子の力を利用してただけなんだろう!
用済みになったら未来機関に処分させるつもりだったんでしょ!?
もういいよ!君なんか顔も見たくない!僕の中の江ノ島盾子も大嫌いだ!」
「待て、江ノ島!」
「黙れよ!僕をその名で呼ぶな!」
僕はボールペンを彼に投げつけてコテージを飛び出した。
腕で涙を拭いながら走り続ける。足は自然とホテルのロビーに向いていた。
そこにはいつもと同じく、アーケードゲームに向かう七海さんの後ろ姿。
彼女は明らかに異様な僕に気がつくと、取り乱すことなく、
まだプレイ中の自機を放って、歩み寄ってきた。
「七海さん……」
「ブーツの紐、解けたままだよ?」
涙を流し鼻をすする僕の足元にしゃがみこんで、七海さんが靴紐を結んでくれた。
「うん。これでいいよ。……江ノ島さんにしては珍しいね」
「何が?」
「ケンカ。ここまで聞こえてきたよ。
私にはよくわからないけど、
こういう時は頭が冷えたら早めに仲直りしたほうがいいんだよ?」
「……ケンカなんてもんじゃない。日向君は今まで僕や七海さんを裏切ってたんだ!
まだ隠し事までしてる」
「隠したいことなんて誰だって一つや二つあると思うけどな」
「それが、七海さんや僕の運命に関わることでも?」
僕達は自然とロビーの椅子に並んで座っていた。
放置されたアーケードゲームがゲームオーバーを告げた。
「ふむふむ、私や江ノ島さんの運命に関わることかー。難しい問題だよね。
私は日向君に裏切られた覚えはないけど、江ノ島さんはどうしてそう思ったの?」
「それは……ちょっと、言えない。残酷すぎるよ……」
「ほら、ひとつ。江ノ島さんだって言えない事情が、ある」
「あっ……そうだけどさ。
きっと七海さんを傷つけるようなことを隠してるに違いないんだ!」
「じゃあ、基本に立ち返って考えてみようか。
私は希望更生プログラムVer2.01の運用を任された人工知能。
造られた物なら、人間の都合で傷つけたり、裏切ったり……
消し去ったりしても構わない。違う?」
「そんなの違うに決まってるじゃない!七海さんは、大事な仲間だ!
確かに目の前にいて、僕の靴紐を結んでくれた!人間と何も変わらない!
身体を作ってるものが違うからって、物みたいに扱えるわけないじゃないか!」
七海さんは静かに微笑んで続けた。
「……ありがとう。それがヒトの優しさなんだね。大切なことを学習したよ。
今度は、質問を変えるね?今、江ノ島さんが言ってくれたこと。
私を傷つけちゃいけない理由って、何?」
「言ったじゃないか。僕達は仲間で……」
「ううん。そうじゃない。もっと現実的な問題。私が消えると何かトラブルが起きる。
そのトラブルってなんだと思う?」
「そりゃあ、希望更生プログラムの運用ができなく……そういうこと、なの?」
「そう。私の使命はこのプロジェクトをサポートすること。
そのために必要なデータは全部搭載されてるんだ」
はっと気がつく。そんな彼女が受刑者のことを何も知らないはずがない。
「まさか、一代目の君に起きたことも承知で、今まで日向君と生活してたの……?」
「うん。オリジナルの私は残念なことになっちゃったけど、
私は今の日向君を敵だなんて思ってないよ?」
「どうして……あんな惨いことをされたのに。江ノ島と組んで……」
「それは
日向君もあなたも、コンピューターの中でしか生きられない私にとって、大切な仲間」
「七海さんは、優しいんだね……」
「その優しさを教えてくれたのは、江ノ島さんだけどね」
思わず笑いが出てくる。
何も知らないくせに大声で騒ぎ立てて、勝手に七海さんを被害者にして、
果てしなく重い罪を背負い続けてる日向君に酷いことを言った。僕は、最低だ。
「ごめん七海さん。行かなきゃ」
そして僕は立ち上がる。
「うん。私は大抵ここにいるから、またお喋りしてくれると嬉しいな」
「きっと、すぐ戻ってくることになると思うよ」
海岸目指して僕は走り出した。
七海さんがしっかり巻いてくれた靴紐のおかげで、動きやすい。
風を浴びながら走ると暑さも気にならない。
むしろ清々しいくらいだけど、それは風のせいだけなんかじゃなかった。
もう来ることはないと思ってたけど、また来てしまった。
ヤシの木型のガチャガチャ、モノモノヤシーン。
電子生徒手帳をそっとカプセル排出口にかざしてみる。
残りのウサミメダルは3回目の学級裁判の褒賞金を含めて100枚ちょっと。
今の重複率は、28%くらい。
行けるかどうか微妙だけど、お願い、どうしても必要なんだ!
信じて回す、回す、回しまくる。重複率はどんどん上がる。
この際、ボロボロの水晶でもいいから。……ごめん嘘ついた、やっぱそれは嫌。
ちょっとした記念になるものでいいんだ!人生のクジ運を全部ここで使ってもいいから!
何か良さげなものが一つ出てきた。これ、もうひとつあればひょっとして!
重複率が60%を超えた。十分狙える!メダルはあと20枚!神様お願い……!
とは言うものの、そんな調子のいいことそうそう起こるはずもなく、
最後のウサミメダルを使ってしまった。落胆を隠せない僕。
そりゃ、さっきは記念品程度でいいって言ったけど、人間は欲が出る生き物であって。
──ラッキー!
その時、電子音声と共に、追加で一個カプセルが出てきた。それを開けると……
「嘘でしょ!?」
運がいいのか悪いのか、中には小さくて綺麗なものが入っていた。2個目。
これで、なんとかなるはず!
前回と同じく、風呂敷代わりにしたシーツに、ハズレというか必要ない景品を包んで、
昔の泥棒みたいに担いでホテル敷地に戻った。置き去りにしたらポイ捨てになるからね。
「荷解きは後!大事な用が先なんだ!」
ベッドに荷物を放り出すと、手に持っていた肝心なもの2つを持って、
まずはホテルのロビーに向かった。
やっぱり彼女は昔ながらのテーブル型アーケードゲームに熱中していた。
「ごめん、七海さん。プレイしながらでいいから聞いて欲しいことがあるんだ」
彼女は振り向くと、さっきと同じくゲームを放ったらかしにして、笑いかけてくれた。
「悩みとか、吹っ切れたみたいだね」
「七海さんのおかげだよ。
そのお礼と言ったら何なんだけど、これを、受け取ってくれないかな」
僕はモノモノヤシーンで引き当てた2つの物の片方を彼女に渡した。
「わぁ……なんだか、オリジナルの、いい思い出ばかりが蘇ってくる気がする。
胸が、あったかい。ありがとうね……」
「よかったー、喜んでもらえて。返却食らったらどうしようかと思ったよ。
図々しいかもだけど、それ、しばらく着けておいてくれないかな。
後で特別な意味を持つから」
「そのつもりだけど……特別な意味って?」
「それは内緒!また夕食の時に!」
「うん……じゃあね?」
キョトンとした表情の七海さんをロビーに残して、次は日向君のコテージに向かった。
だけど、呼び鈴を押す指が止まった。彼は許してくれるだろうか。
あれだけ酷いことを言って、暴れておいて。
……逃げるんじゃない。手の中の物を渡して、ちゃんと謝るんだ。
意を決してボタンを押す。部屋の中でメロディが流れると、
ドアの向こうの気配が近づいてきて……尋ねてきた人物に驚きを隠せない様子だった。
「江ノ島!?……ああ、そうじゃないな。どう呼べばいいのか。ちょっと待ってくれ」
「江ノ島でいいよ!日向君……さっきは、本当にごめん。
七海さんと話して気づいたんだ。
君も苦しんでいたことにちっとも頭が回らなくて、君を化け物呼ばわりなんかして、
本当に、ごめんなさい!」
彼に深く頭を下げた。目には見えなくても彼の困惑する様子が見える。
「頭を上げてくれ。……お前の言う通り、俺は最悪な人間だったんだ。
その上、今まで重要な事実を黙っていた。
そればかりか、元気な七海の姿を見るのが辛くて、
お前にまでその重荷を背負わせようとした。本当、俺はどうしようもない奴だよな。
だから謝る必要なんてないんだ」
「そんなことないよ。もし許してくれるなら、これを受け取って欲しいんだ」
そして、2つのアイテムの片割れを差し出す。
彼が受け取ってくれれば、僕なりのけじめは着けられるんだけど。
「これは……希望ヶ峰学園の校章!?」
七海さんと日向君に渡したのは、“希望ヶ峰の指輪”。
その名の通り、希望ヶ峰の校章が刻まれた指輪だよ。
お揃いの記念品ならなんでもいいと思ってたんだけど、
1個目を引いた時、二人の絆をつなぐには、これしかないと思ったんだ。
「うん、どうかな……?」
「素晴らしいものだとは思う。でも、俺がもらっていいものなのか?
本来何かの形で詫びなければならないのは俺なんだぞ?」
「納得できないなら、条件を付けるよ」
「条件?」
「少なくとも、夕食時まで、ずっとそれを着けていてほしいんだ。理由は聞かないで。
後で特別な意味を持つから」
「特別?わかった、ありがたく受け取るよ。……ありがとうな」
「それじゃあ、僕のこと、じゃなかった。私のこと、許してくれるって事かしら……?」
プレゼントを受け取ってもらえたことで、喜びと冷静さがやってきた僕は、
コテージでパニックを起こしてから、ずっと男言葉に戻っていたことに気づく。
「当たり前だろう。それと、お前の喋り方だが……嫌ならやめてもいいんだぞ?
リーダーの権限で皆に」
「大丈夫!もうすっかり慣れちゃったし、また元に戻す方が大変。
じゃあ、夕飯をお楽しみに!」
「お、おい待てよ!……行ってしまったけど、何なんだ?特別な意味って」
とりあえず指輪をはめた日向君は、コテージの中に戻ったみたい。
テントに戻った僕は、
ハズレというより、用のないモノモノヤシーンの景品をベッドに広げた。
なかなか良さそうなのもあれば、用途すらわからないものもある。
そう言えば、1回目のチャレンジの時の不用品も余ってるんだよね。
みんなが喜びそうな物を選んで、また配ろうかな。
いい加減にしろって怒られるかもだけど。
「江ノ島、少しいいか」
「はーい。どうしたの、辺古山さん」
彼女が僕のテントに来るなんて珍しいな。
「もうすぐ夕食の時間だ。レストランに来てくれ」
「呼びに来てくれたの?ありがとう。すぐ行く……」
その時、僕は彼女の視線が時々ベッドに向いていることに気づいた。
女性の勘は鋭いっていうけど、こういう僅かな変化を無意識に捉えてるのかもしれない。
江ノ島盾子の身体に宿っているから出来た芸当だと思う。
僕は、ダブったアンティークドールを赤ん坊のように抱えて、辺古山さんに尋ねた。
あ、やっぱり人形が気になるみたい。
「辺古山さん、ちょっといいかしら」
「なんだ?」
「人に話すのは恥ずかしいんだけど、私、お人形に名前を付けて可愛がってるの。
あの娘はマリーって言うんだけど、この娘にはまだ名前がないの。
辺古山さん、何かぴったりな名前を付けてあげてくれないかしら?」
「人形に、名前、だと?」
「アハ、子供っぽいわよね?でも、名無しのままじゃ可哀想なの。
お願いできないかしら?」
気恥ずかしさで頭をかく。すると、辺古山さんは顎に指を当てて考え始めた。
うんうんうなって色んな方向を見ながら悩むこと3分。
「……ハルナ。それでいいか?」
「ハルナちゃん!和風で素敵な名前だと思うわ。ね~ハルナちゃん?
今日からこの人があなたのママよ」
「マッ、ママだと!?」
「そう。名付け親になってくれた辺古山さんに可愛がって欲しいって、
この娘が言ってるの。お願い、この娘のママになって?」
「い、いいだろう。
人間ならともかく、人形なら名付け親として責任を取らないこともない。
……本当に、いいんだな?」
「もちろん。ハルナちゃんが一緒にいたいって言ってるんですもの」
人形オタクを装って強引な理屈を押し通す。
「そうか。では、遠慮なくこの娘は引き取って行くぞ」
「ちなみに、名前の由来を教えてくれないかしら」
「旧日本海軍の戦艦榛名だ。
戦艦の強さと、名前の美しさを併せ持つ、相応しい名前だと考えた」
「まあ素敵!綺麗なお名前貰えてよかったね。ハルナちゃん!」
「贈り物に礼を言う。
私は一旦コテージに人形を置いていくから、江ノ島は先に行っていてくれ」
「わかったわ。ハルナちゃんバイバイ」
で、僕はざっと残りの荷物をベッドに整理してからレストランに向かった。
途中、辺古山さんのコテージの前を通った時に、
“ハ~ル~ナちゃん♪”という明るい声が聞こえた気がしたけど、
何も聞かなかったことにした。
「「いただきます!!」」
その日の晩餐はいつもと様子が違っていた。食事中の私語は規則で禁じられてるけど、
3名を除くみんながニヤニヤしている。笑っちゃいけないとは言われてないもんね。
日向君は、“やりやがったな!”と言わんばかりに、真っ赤な顔で僕を睨み、
僕は明後日の方を向いて知らんふり。
そして七海さんは、時々指輪を見て、頬を朱に染めている。
“ふみゅう……愛はデータの壁を超えるんですねぇ……”
“耳は塞いでおくから、今夜は激しくしてもいいよ!!”
“女神エロスの刻印を手に入れたか……フッ、神に背を向けた男には関係のない話だ”
“七海おねぇも日向おにぃも、や~らしいんだ~ププッ”
“あの二人がそこまで進んでたなんてね。さすがにアタシも見抜けなかったわ”
“ペコ、お前気づいてたか?”
“いえ全然……”
“結婚式は唯吹がド派手なロックで盛り上げるっす!”
無言でも、みんなの心の内が聞こえてくるよ。
そりゃあそうだよね。男女がペアの指輪してたら、婚約指輪と思われるのが普通。
初々しいカップルを冷やかすのって、初めての経験だけど、とっても楽しいです正直。
後でテントに乗り込んできた日向君に柔らかいスリッパでしばき回されたけど。
学級裁判もない、こんな平和な日々が続いて、
僕もみんなも揃って現実世界に戻れる日が来るといいな。
塔和シティー・地下研究室
緑色の髪をツインテールにした少女が、キーボードを叩きながら愚痴をこぼす。
「もう~何が超高校級なんだか。本当に役立たず。
送ってきたデータは破損だらけ、ほとんどモナカが1から作り直したようなもんだし~?
やっぱり大人に近くなっちゃった人間なんて、淘汰されていく運命なのかな?
コレが送られて来たってことは、もう死んでるってことだし。でも……」
モナカという少女が一旦手を止めて背後を見る。
SF映画のコールドスリープで使われるような、人間が一人入れるポッド。
何者かが中にいる。
「モノクマちゃんがいればほとんどの事はどうにでもなるけど、
お姉ちゃんの欠片だけは足りなかった。
そのせいで“片方”しか作れなかったけど、モナカは諦めないよ」
彼女は体格に対して大きめなパソコンチェアを回して、後ろを向くと立ち上がり、
淡く緑に光るポッドにそっと手を置いた。
「盾子お姉ちゃん、すぐ助けてあげるからね……」
ショクザイ ノ カケラ ヲ ゲットシマシタ
ヒナタ ハジメ ×100
ナナミ チアキ ×100
ペコヤマ ペコ ×50