江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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Answer_A →断罪する

「うわあああ!!」

 

僕は全てを振り切り、液晶画面を押しつぶすほど強く、

電子生徒手帳の“転移”ボタンをタップした。

その時、周囲の空間が無数の0と1が渦巻く、真っ暗な世界に変化した。

形を持っているのは僕達だけ。戦刃むくろが不安げに近寄ってくる。

 

「ねえ、盾子ちゃん。これ、なんなの……?」

 

「いいから黙っ……いや、ええとね。私達を転送してるのよ。ある場所にね」

 

「ある場所?」

 

「着けばわかるわ。とってもいいところ。

……そうだ、それ邪魔でしょ。解いてあげるから、もっとこっちに」

 

「うん、ありがとう!」

 

これから彼女には存分に働いてもらう必要がある。あまり邪険にもできなくなった。

少し言葉を交わし、戦刃の拘束を解くと同時に、転送処理が完了。目的地に到着した。

 

 

 

 

 

コンクリート打ちっぱなしの壁。

原始的な手持ち武器から銃器、毒薬まで、多種多様なコロシアイの道具が並んだ、

空気の冷たい部屋。

深く息を吸う。もう後戻りはできない。今、この瞬間から、

“僕”をやめて、“アタシ”として生きることに決めた。

 

「盾子ちゃん、ここはどこ?」

 

「オクタゴン。4番目の島、って言ってもわからないと思うけど、

とにかく“やる”って決めたから。

ありったけの武器まとめといて~アタシは用事がある」

 

「とうとう始まるんだね!待ってて、盾子ちゃんの手にピッタリの拳銃探しとくから」

 

「弾が出ればなんでもいいわ。大掛かりなものはお姉ちゃんに任せる。

……まずは、あの娘にメール、と」

 

 

送信者:江ノ島盾子

件名:モナカちゃん助けて~

 

盾子お姉ちゃんだよ。

アタシ、もうこの島にはうんざりなの。お願い、助けに来て!

仮想空間から出る方法ならある。

日向が中央システムのある遺跡を開けたから、後は普通にログアウトするだけ。

単に無条件で出るだけなら、律儀に他の連中と強制シャットダウンする必要はないの。

だから、小船1隻でも構わないから、迎えを出してくれないかな?

お姉ちゃんのために、今まで頑張ってくれてありがとう。

お返事、待ってるね。

 

 

よし。塔和モナカは、まだアタシが本物の江ノ島盾子だと信じ切ってる。

まあ、そのうち大した違いはなくなるんだけど。

次は……お別れ、そして、新たな出会いの挨拶。ポチポチとその文章を綴る。

この後の展開に興奮してるのか、恐怖してるのか。指が震えて打ち間違いも増える。

もどかしい気持ちで、ようやくメールをしたためた。

 

 

送信者:江ノ島盾子

件名:カーニバルの、はじまりよ~!

 

みんな元気~?ごめんねーさっきは変な感じになっちゃってさ。

遅くなったけど、みんなのエノジュンからお知らせだよ!

 

第一回、コロシアイ刑務所生活開催~!

 

今から1時間後、たっぷり殺人兵器を持ったアタシ達がみんなを殺しに行くから、

みんなも各自の能力でアタシ達を殺してね!

奇襲攻撃なんて卑怯な方法は嫌いだから、堂々と正門からお邪魔するよ!

さすがに日向君の超高校級の希望はチートすぎるから禁止させてもらうけど、

他は何したって自由。

お互い生き残りをかけて頑張ろうね!チャオ!

 

 

送信。同時に、1通のメールが届いた。

 

 

送信者:<送信者不明>

件名:待っててお姉ちゃん!

 

モナカだよ。安心して!

必ずモナカが盾子お姉ちゃんを助けるから!

もうフリゲートは余裕がないけど、未来機関の艦隊を引き付けるだけの数はある。

 

その隙にジャバウォック島から少し南にある島の漁師さんが、

漁船でこっそりそっちに向かうから。

大丈夫、漁師さんはバッチリ絶望にはまり込んでる、

メル友のおじさんだから信用できるよ!

 

盾子お姉ちゃんはとにかく脱出することを優先してね!

塔和シティーで会いましょう!モナカも早く会いたい。頑張って!

 

 

これで、準備は整った。一言も触れられてない戦刃が少し哀れだけど。

彼女が大きな白いカバンを持って近づいてきた。

大量のアサルトライフル、RPG-7、スナイパーライフルなどの兵器を背負ってる。

 

「なにこれ」

 

「うん、盾子ちゃんでも使いやすい武器をたくさん入れておいたよ。弾薬も。

持ち運びに便利だと思って、棚にあった袋に入れておいた」

 

「だっさ。新聞配達の小僧でもあるまいし」

 

右肩から斜めにかける無地の白いバッグから、オートマチック拳銃を取り出し、

試しに戦刃を狙ってみる。

 

「ご、ごめんね!?そのポケットじゃ、グレネード1個しか入らないと思って……」

 

「ふん、まあいいわ。またワープするけど、ワーキャー騒がないでね」

 

電子生徒手帳が振動を続ける。確認すると大量のメール。

“冷静になれ”、“話し合おう”、“戦いたくない”。まあそんなとこ。

無意味なメールを無視したアタシは、

バーチャルハッカーでこの世界の時間を1時間進め、ホテル敷地の一歩手前に転移する。

 

やっぱり戦刃はこの空間に慣れないのか、

キョロキョロと落ち着きなく周りを見回してる。正念場なのに肝っ玉小さいわね。

転移が終わると、長く続く鉄柵で仕切られたホテル敷地に到着。

 

「さあ、行くわよ!お姉ちゃん!言っとくけど、記念すべき第一号は、アタシだから。

勝手な事したら、お姉ちゃんでも殺すよ?」

 

「大丈夫。盾子ちゃんの言うとおりにするから」

 

だべりながらホテル正門近くまで歩くと、なんだか向こうから声が聞こえてくる。

 

“やっぱり危ないよ!みんなのところに戻ろう!”

 

“いやだ!おねぇは、江ノ島おねぇは混乱してるだけなの!

絶対話せば分かってくれるって!”

 

“むくろもいるんだよ!?そいつが何やらかすか……!”

 

誰かと思えば小泉と西園寺じゃない。アタシがぶらぶらと近づくと、

気配に気づいた小泉が西園寺を守るように、後ろに下がらせる。

 

「あなたは……誰?」

 

アタシは悲しそうな表情を作って、弱々しい声色で訴える。

 

「ごめんなさい!アタシがどうかしてた!

もう遅いかもしれないけど、さっきのメールはなかったことにしてくれないかしら!?

虫のいいことを言ってるのは、わかってる。でも、またみんなの仲間に戻りたいの!」

 

「ほら!やっぱり江ノ島おねぇは狂ってなんかいなかったんだよ!」

 

「あ、日寄子ちゃん!」

 

小泉の後ろから飛び出してきた西園寺。

アタシは片膝をついて、彼女を一度抱きしめ、目を合わせる。

そして、彼女の髪や顔を愛おしそうに撫でた。

 

「日寄子ちゃん、本当にごめんなさい」

 

「おねぇ……帰ってきてくれるって、信じてたよ」

 

「信じてくれて、ありがとう、そして……さようなら」

 

「えっ?」

 

よく研がれたコンバットナイフが、ザクリと分厚い着物を貫通し、

小さな身体に突き刺さる。

ナイフを抜き取ると、笑いながら二度三度と何度も彼女の腹に刺す。

 

「ああっ、があっ!いたい、げほっ!あがっ!やめて!」

 

刃が往復する度に、ピンクの返り血が顔に降りかかる。

血の匂いが更にアタシを興奮させ、ナイフを握る手にも力が入る。

 

「日寄子ちゃん!!」

 

「お…ねぇ……」

 

「君みたいな小さな女の子を殺すのって、社会的にものすごく許されないし、

ましてや仲の良かった君を、こんな風に自分の手で刺し殺すのってさぁ……」

 

──すっごく絶望的で素敵じゃない!?

 

西園寺の瞳に映ったアタシの目。それは、白目と黒目が歪んで渦を巻いていた。

 

「どう……して……?昔の、わたしと……」

 

「絶望姉妹の犠牲者第一号を記念して、君に最初に名乗ることにするわ。アタシは……」

 

 

○超高校級の絶望

 

江ノ島 盾子

 

 

最後にその細い首にナイフを突き立てると、西園寺日寄子は絶命した。

その顔に恐怖と絶望を貼り付けて。

 

「そんな……嘘でしょう!?あなたは別人だったはずじゃ──」

 

カシャッ。まさにカメラのシャッター音のような小さな銃声。

サイレンサーを着けた拳銃で、戦刃が小泉のこめかみを撃ち抜いた。

断末魔もなく地面に倒れる小泉の死体。

 

「……ねえデブス。

まだ話の途中だったんだけど?絶望の素晴らしさを説くつもりだったんだけど!?」

 

アタシは砂を掴んで戦刃の顔に投げつけた。

 

「うわぷっ!ごめん、ごめんなさい盾子ちゃん!謝るから許して!」

 

「本当に殺すわよ?お姉ちゃんは、アタシの指示に従ってればいいの。わかる?」

 

「ごめんね?本当にごめんね?」

 

「もういい。中に入るわよ」

 

正門を通り、敷地内に足を踏み入れる。その時。

 

 

──あなたと、ひとつに、なりたかった……

 

 

意味不明なメッセージ。声の主がアタシの中から消えていくような、そんな感じがした。

 

「お姉ちゃん、なんか言った?」

 

「ううん、何も言ってないよ」

 

「そ。別にいいけど」

 

ホテルに近づくと、どこからか、

“西園寺がやられた!”、“小泉もだ!”、“戦えないやつは隠れろ!”、

とまあ、そんな声が聞こえてくる。

次の挑戦者は誰かしら。マップアプリで位置は一発でわかるんだけど、

初めから答え見るのはつまらないじゃない?

 

気づくと、足から重いものが動くような振動が伝わってくる。

プールサイドから、ゴリラやカバ、ライオンが現れた。

ノロいカバなんか戦力になるのかって思う?

実はカバってライオンを殺すこともあるほど強いのよ?これ、盾子お姉ちゃんの豆知識。

で、動物をこんなところに呼び寄せたってことは。

 

「雷神の咆哮轟きし時、破壊神は怒りに応え、

総てを滅するパスパタの槍にて大地を貫く……

絶望の権化、江ノ島盾子よ。貴様はこの俺が因果地平の彼方へ葬り去る!」

 

両手で印を結びながら彼が現れた。

 

「やっぱり田中君ね。あなたとのお喋りは個性的で楽しかった。本当に楽しかったわ。

ねえ、どう?あなたもアタシ達と一緒に来ない?絶望の悦びを思い出させてあげる」

 

「問答無用!征け、我と契約せし三闘神よ!」

 

雄叫びを上げて猛獣たちが突進してくる。

 

「希望更生プログラムの動物はユーザーを襲わない。

そのシステムすら無効化するなんて、

さすがは超高校級の飼育委員と言ったところかしら。でも、ね!」

 

アタシはカバンから茶色い瓶を取り出し、地面に投げつけた。

割れた瓶から飛び散った液体が瞬時に気化すると同時に、素早くガスマスクを着けた。

 

“ギャオオン” “ぐるるああ……” “ひゅごー…ぎゃふっ!”

 

猛毒ガスを吸い込んだ獣達がその場に倒れ込み、

しばらく痙攣すると、完全に動かなくなった。

 

「柔よく剛を制すって言うじゃーん!?

バリバリ撃ち合いしてると、殺し切るまでに怪我するかもしれないしー。

田中君はどう思う?」

 

「くっ……がはっ!」

 

プールサイドのテーブルに寄りかかって、大量に吐血する田中君。

雑音混じりの呼吸を続けながら、血走った目でアタシに話しかけてきた。

 

「お前は、本当に……それで、いいのか。誰を…何人、殺せば……」

 

「わー!初めて“素”で喋ってくれたわね!

ダンガンロンパ2の田中ファンも喜んでるんじゃないかしら!?

ちなみにアタシの回答は~……絶望できるなら誰でも全部!」

 

「ばけもの、め……」

 

そう言い残すと、田中君は事切れた。彼の亡骸に近づいて、マフラーを手に取る。

中から破壊神暗黒四天王が転がり落ちてきた。みんな、泡を吹いて死んでいる。

いつか撫でさせてほしかったんだけど、死体はさすがに触る気しないわ。

 

「あ、あの盾子ちゃん?化学兵器を使う時は、一声掛けてくれると嬉しいな。

もう少しでガスマスクが遅れるところだったから……」

 

「うるさいわね、大切な友を毒殺した絶望に浸っているのに!

もういいわ、次はコロシアイをボイコットしてる怠け者を退治しにいくわよ!」

 

「怠け者?」

 

アタシは質問に答えず、電子生徒手帳の地図アプリを開く。居たわ。

コテージにこもってるから徒歩1分で着く。

よく地図案内に徒歩何分とか書いてあるけど、アテになった試しがないわね!

絶対何分じゃ着かないし!

 

世の不条理に怒りつつ、コテージのエリアに戻ると、夜でもわかりやすい真っ白な髪と、

ロングコートの男がウッドデッキの奥から歩いてきた。悲しそうな顔をしたそいつは。

 

「江ノ島さん、絶望に捕らわれちゃ駄目だ!

キミがボクを絶望から救ってくれたように……キミも、絶望を!」

 

闇夜に轟く銃声。特に面白い展開もなさそうだから、

カバンから抜いたソードオフショットガンをぶっ放したんだけど……

思わず身を守った狛枝には傷一つない。

 

「はぁ。まさか広がった散弾が全部脇をすり抜けるなんて、どんだけ運がいいんだか」

 

「……ねえ、こんな事を続けてたら、江ノ島さんまで破滅する。目を覚ましてよ!

世界はキミ一人で太刀打ちできるほど狭くは──」

 

二発目。確かにこいつの幸運は脅威だけど、不幸とワンセットなのが弱点なのよね。

つまり、一度不幸に見舞われて、才能をリセットしないと次の幸運は訪れないわけ。

まぁ、こいつの場合は二発目の散弾だったわけだけど。

 

「破滅するなんてそれこそ絶望的じゃない。なに言ってんの?」

 

破られた腹から、腸や胃袋、何の臓器かわからない肉片と大量の血液を撒き散らして、

狛枝凪斗は死んだ。

思えば可愛そうなことをしたかも。種を取り除いたりなんかしなければ、

無意味に殺される絶望に包まれてあの世に行けたのに。

 

「……あの時の狼藉は、これで許してあげる。次行かなきゃ」

 

アタシは狛枝の身体に詰まっていた、ブヨブヨする何かを踏みつけながら、

目的のコテージに向かう。ドアの前で立ち止まると、一応呼び鈴を押す。無反応。

後ろのお姉ちゃんに手を出す。

 

「戦刃軍曹、チェーンソーを持てい!」

 

「重いから気をつけてね。今度は何のキャラ?」

 

チェーンソーを受け取ると、リズムをつけてワイヤーを数回引っぱる。

エンジンが掛かって、トリガーを引くと無数の刃が高速回転を始めた。

 

「行っくわよー!」

 

気合を入れると、刃で扉にバツ印を描くように、木製のドアを切り裂く。

木くずが飛び散りボロボロになり、ドアが役目を果たさなくなった。

返り血やら木くずやらで、服は汚れきってるけど、どうせ仮想空間から出れば元に戻る。

ドアの残骸を蹴破って中に入る。

バリバリと大きな音を立ててドアが崩れると、ひとつ小さな声が聞こえた。

 

“ひゃうっ!”

 

あのね。せっかくダンボールに隠れたのに、声なんか出したら意味ないでしょう。

……罪木蜜柑!

部屋の隅に置かれたダンボールを足でどけると、中に罪木が小さくなって隠れていた。

 

「あああ、あのう!お願いです、助けてください、許してくださぁい!!」

 

「みんな一生懸命戦ってるのに、一人だけ逃げ隠れとはどういうことかしら?ん~?」

 

「ご、ごめんなさい!謝りますから、殺さないで!」

 

「どうして戦わないのか聞いているんだけど!?」

 

ドゥロン!と一瞬だけトリガーを引いて耳元で刃の回転音を聞かせてやる。

思い切り身体を震わせると、涙と鼻水を流してどうにか言葉を作る。

 

「や、やめてくらひゃい!私に、人なんて、殺せません!もう、許して……」

 

「ふーん。じゃあ教えてよ。ここの人間って、どうして血がピンク色なの?」

 

「どうしてって……そんなの当たり前じゃ……」

 

「ないの。アタシがいた世界じゃ、血液は真っ赤。

どうしてあんた達は変な色の血で生きていられるのかしら。

レーティングの問題もあるんだろうけど」

 

「それは、恐らく、血液1ccあたりのヘモグロビン含有量が」

 

「何そのつまんない答え。もういい、さよなら」

 

「えっ」

 

アタシは罪木の左肩にソーチェーンを当てると、斜めに向けてトリガーを引いた。

一瞬で回転数を上げた刃が、肉を引きちぎり、骨を絶ち、心臓へとゆっくり進んでいく。

 

「いぎゃあああ!!あああ!やめてやめてやめでえええぇっ!!」

 

血や、肉や、皮がブチブチと音を立て、細切れになって撒き散らされる。

人間の肉体は切れにくい。ホラー映画だと綺麗に切断できるのに。

 

「いだああい!いや、いやあぁ!!、やめてやめて!ごぼっ、ごぼふっ、ごげえええ!」

 

もはや生を諦め、白目をむいてひたすら死を待つ罪木。

その生きることへの絶望がアタシの脳を加速させる。

無駄に大きな乳房のせいで、刃が心臓に達するのに時間が掛かっている。

その恍惚の時を余すところなく味わう。

 

「げへっ、ああ…あううう……がぼっ…!」

 

罪木蜜柑は、最後に大きく血を吐いて、ようやく死ぬことができた。

きっと世界が平和という緩やかな死に包まれていた時代なら、

彼女のことを“可愛い”という人がたくさんいたんでしょうけど、

今はもう見る影もないわね。

 

その顔は血塗れで苦痛に歪み、

上半身が引きちぎられたように不自然に歪んで床にこぼれてる。

倒れてるんじゃなくて、こぼれてるの。そう表現した方がしっくりくるわ。

 

肉と脂肪で刃が使い物にならなくなったチェーンソーを投げ捨て、

アタシはコテージを後にした……

な~んて、これまでちょっとシリアスな感じで語ってみたけど、特に意味はないの。

もう飽きたから、次からはいつものペースで行っくわよ~!

 

「日向達の本丸は、多分レストラン。色々思い出もあるしねー。

ていうか、このガスマスク邪魔。もういらない」

 

「うん。あれは自然分解が早いから、もうなくても平気だよ。行こうか」

 

ウッドデッキを歩いて、田中君の死体があるプールサイドに逆戻りすると、

2つの人影が。おっきいのとちっさいの。ちっさい方が何か言い出した。

 

「テメー……覚悟できてんだろうな!」

 

「あ~ら、誰かと思えばおチビちゃんとママじゃない!今日は二人でお買い物?」

 

「ブチ殺すぞコラァ!!」

 

「ダメじゃない。そんな汚い言葉を使ったら。悪い子には躾が必要……ね!」

 

タァン!と、ハンドガンで正確に眉間を狙って銃弾を放ったんだけど、

何かに弾かれて当たらなかった。

 

「田中達の仇、ここで討たせてもらうぞ!ぼっちゃんにも触れさせはしない!」

 

鉄パイプを構えた辺古山さんの剣技で弾かれちゃったみたい。

アタシ達の銃に備えて、竹刀より頑丈な鉄パイプで撲殺することにしたってわけね。

 

「田中達、ね。そう言えば今、何人目かしら。数えるの面倒くさいんだけど。

やばっ、もう飽きてきちゃったかも。

でも、初志貫徹しなきゃみんな納得しないわよね。

“みんな”が誰かは想像に任せるけど」

 

「終わらせてやる。お前達の首を西園寺達の墓前に供えてな!」

 

「そんなのお墓に供えられたら大迷惑じゃない?

やっぱりヤクザの思考って理解できないわ」

 

「お姉ちゃん、ここは私が」

 

「うん、お願いねー」

 

アタシの指示と同時に、お姉ちゃんがアサルトライフルで5.56mm弾を放つ。

辺古山さんはそれを人間離れした反射神経と動体視力で叩き落としていく。

銃弾を弾きながら、じりじりとお姉ちゃんに接近する。

一方、絶え間ない銃声と金属音を耳にしながら、アタシは九頭竜君とご対面。

彼は短刀を構えてアタシを睨む。

 

「お前、今まで何人殺した……?」

 

「ん~数えてない!けど、一番面白かったのは罪木さんよ。

もう部屋中グッチャグチャのドロドロだもん!」

 

「そうかよ。テメエの指全部落として、腹かっさばいて、死ぬほど後悔させてやるよ!」

 

「いいの?みんな生き返るかもしれないのに」

 

九頭竜君が短刀を逆手に持ってアタシに飛びかかろうとした時、

彼にとって興味深そうなことを言ってみた。

 

「あん?下手な命乞いか」

 

「ここがバーチャル空間だってこと忘れてないかしら。

つまり、現実世界の肉体は傷一つない仮死状態。

だから、“これ”があれば、罪木さん達が死んだこともなかったことにできる。

実際Ver1.0で死んだ彼女達も、肉体が生きているから蘇ることができたのよね。

アタシが作ったバーチャルハッカー。これはVer2.01にも対応してる。

まぁ、未来機関の連中に任せるのも一つの手だと思うけど、

蘇生方法の解明に何十年かかるかわからないわよ?

ガチガチにプロテクトを固めてあるもの」

 

アタシは電子生徒手帳を取り出し、指先でトントンと叩いて見せる。

 

「何が言いてえんだ……」

 

「ちょっとアタシも反省してるの。いくら超高校級の才能を持ったあなた達相手でも、

銃で攻撃するのは反則だったんじゃないかって。だから、これを渡そうかと思ってね。

この世界をな~んで自由にできるアプリを。……うまくキャッチできたらだけど!」

 

語り終えると、電子生徒手帳を辺古山さんに向けて放り投げた。

 

「ペコ!そいつを奪え!」

 

「えっ!?」

 

思わず九頭竜君の叫びに反応してしまった辺古山さんの防御が止まり、

彼女の身体に無数の銃弾が突き刺さる。

 

「はがっ……!!」

 

「ペコ!!」

 

プールサイドに辺古山さんの血が飛び散り、九頭竜君が彼女のそばに駆け寄る。

無茶するわね~敵が目の前にいるのに。現にむくろが今度は彼を狙ってる。

でも、この後のやり取りを見たくなったアタシは、手でおねえちゃんを下がらせた。

 

「ペコォ!!すまねえ、俺のせいで!」

 

「ぼっちゃん……話は、聞こえて、いました……これで、みんなを」

 

辺古山さんが、血で汚れた電子生徒手帳を九頭竜に手渡す。

 

「ああ、お前のおかげだ。これで俺達は助かる!すぐ治して……」

 

手帳を起動した彼の目が驚愕でこれ以上ないほど開かれる。

次の瞬間、アタシのハンドガンが吠え、銃弾が九頭竜君の頭を貫通した。

そのままペコちゃんの死体に崩れ落ちる彼。

絶望慣れしてない彼を、これ以上絶望させるのも可愛そうだしね。

 

コツコツと足音を立てて、二人の死体に近づくと、

起動画面で操作を待って停止している電子生徒手帳。

そこに表示されていたのは、“罪木蜜柑”

 

「絶対勝てるジョーカーを渡すはずなんかないし、

そもそもあのアプリ、専門知識がないと操作できないのよね。

こんな当たり前のこと、どうしてわかんないのかしらー」

 

「最期の彼、凄く絶望してたよね。

自分のせいで味方が死んで、みんなが生き返る可能性も偽物だったなんて。

盾子ちゃん、すごいよ」

 

「ニシシ、それほどのことも~あるわね。こっからは別れましょう。

本格的に飽きが来たから、分担してさっさと片付けたいし?」

 

「そうだね。私は西、でいいかな」

 

「任せる~」

 

レストランを目指して、ホテルのロビーに向かって歩くと、入り口から誰かが出てきた。

あの明るい黄色は……左右田君じゃない!わぁ、愛しの彼!

 

「会いたかったわ、左右田君!」

 

「江ノ島、盾子……一緒に、地獄に行くぞ」

 

「それって新しいタイプのプロポーズ?

いやだわ!こう見えてアタシって攻められるのに慣れてないのにぃ!」

 

「冗談はそこまでだ。お互い後には引けねえ。そうだろうが……」

 

すると彼が自動小銃を構えた。これには少しばかりびっくりねぇ。

 

「あ~ら。こんなところに銃なんてあったかしら」

 

「AK-47。すげえ構造がシンプルで信頼性の高いアサルトライフルがあんだよ。

なんとか1時間で作れた」

 

「やっぱり超高校級のメカニックってチートだと思うわ!

それじゃあアタシも本気を出さなくちゃね!」

 

カバンに手を突っ込んでサブマシンガンを取り出すと、

お互い撃ち合いながら相手と距離を取って、銃撃戦を開始した。

鉢植えや建物の角でカバーしながら、銃弾を飛ばし合う。

威力は向こうが上、でもこっちは小回りが効くのよね。

左右田君がリロードを始めたのを見計らい、規則的にならんだ鉢植えを移動し、

アタシもマガジンを交換する。

 

彼が攻撃を再開すると、手だけを出してトリガーを引く。

こんな撃ち方で当たるわけないけど、これはあくまで牽制。

彼が身を隠した隙に、グレネードを取り出し、ピンを抜いて投げつけた。

 

“チッ!”

 

手榴弾に気づいた彼が鉢植えから飛び出し、ホテルの柱に飛び込んだけど、

爆発に一瞬間に合わず、ダメージを受けた。AK-47もどこかに飛んでいったみたい。

銃を構えながら、彼が隠れている柱に近づくと、

そこには体中に鉄片が刺さった左右田君。

 

「左右田君、アタシはとっても悲しいわ。

大きな確執を乗り越えて、少しずつ信頼を積み上げて、

自らの過去を打ち明けるほどの関係になれたあなたを殺さなきゃいけないなんて……

すごく絶望的で悲しいわ」

 

「ウソつけ……そんな笑顔で、そんな目で、何が、“悲しい”だ……」

 

「あ、やっぱわかる?

そう。こんな結末を導くだなんて、絶望って、なんて素晴らしいのかしら!

元の世界にいたらこんな至福は絶対に味わえなかったわ!」

 

「……やれよ。地獄で、待ってるぜ……」

 

銃声が闇を裂く。セミオートにして、一発だけ彼の頭を撃った。

その顔には、僅かな傷以外、苦しみの跡は見られなかった。こんなところかしらね。

やっぱりあなたの事、嫌いじゃなかった。死ぬ前にお友達になれて良かったわ。

これは本当よ?

 

「左右田さん!」

 

どこかに隠れていたソニアが飛び出してきて、左右田君の亡骸に駆け寄る。

 

「左右田さん、左右田さん!いや、目を覚まして!!ぐすっ…あああっ!!」

 

物言わぬ彼を抱きしめて、悲しみに暮れるソニア。

アタシに涙に濡れた顔を向け、必死に問いかける。

 

「どうして!どうしてなんですか!?彼を救おうとしていたあなたが!」

 

「あら、どこにいたの?

ひょっとして左右田君はあなたを守ってたのかしら。まさにナイトとお姫様ね。

質問に答えるわ。ようやく憎しみから立ち直った友人をこの手で始末する。

これ以上の絶望的行為が他にあって?」

 

「この……悪魔!」

 

「えー?自分だって2年ほど前までその悪魔だった癖に、

どーしてわかってくんないの?」

 

「……もう、いいです。私も殺してください。

今度こそ、本当に、帰るところを失いました」

 

ソニアは左右田君に寄り添い、最期の時を待つ。

 

「な~んかつまんないけど、これもひとつの絶望の形ってことなのかしら。

泣いたり叫んだり、罵ったり、みっともなく命乞いしてほしかったんだけど。

じゃあ、お望み通り、バイバーイ」

 

ダァン!という乱暴な銃声と、反動から来る手のしびれと同時に、

ソニアの頭部に穴が開き、柱に大量の血と脳漿がへばりついた。

悲鳴もなく死んだ王女は、左右田君と折り重なるように倒れ、

彼を抱きしめているように見えなくもない。

 

「あの世でお幸せに~」

 

アタシは後ろ手に指をヒラヒラさせて、かつての友人達とお別れしながら、

今度こそホテル入り口に向かう。その時だった。

 

 

♪♪!♫!♬♪♬!♪♫!♬~!! 盾子ちゃん!唯吹のロックで正気に戻るっすー!

 

馬鹿者!奴はもう手遅れだ!殺すしかない、歌を止めるな!

 

 

なんなの、この気色悪い歌は!

怪音波の発生源を見ると、ホテルの屋上に、エレキギターを抱えて歌う澪田唯吹。

そしてテラスにはヘッドホンを着けた十神白夜。

手持ち武器じゃ、ここから狙撃するのは無理っぽい。

 

ああ、背筋が震える!

黒板を爪で引っかくような、なんてありきたりな表現じゃ足りない。

脳みそを引っかかれてるのよ、冗談抜きで!

左手の指と右の肩で耳をふさぎながら、お姉ちゃんに電話を掛ける。

 

「ちょっとバカデブス、どこでなにやってるの!さっさとアレをなんとかしなさい!」

 

“ごめん、盾子ちゃん……私もアレで、上手く照準が……”

 

「後で往復ビンタ100連発ね!」

 

一方的に通話を切ると、今度はテラスから声が聞こえてきた。

 

「動きが止まったぞい!今がチャンスじゃあ!」

 

「聞こえねえけど、とにかく行くぜオッサン!もう2対1がどうとか言ってられねえ!」

 

ヘッドホンを着けた体育会系の暑苦しい奴らが二人、飛び降りてきた。弐大と終里!

あの体力バカ達を同時に相手にするのは、ちょっと厳しいわね。接近戦は奴らに有利。

サブマシンガンで足止めしつつ、二人を狙うけど、

素早い身のこなしで、やっぱり周辺の物体に退避したり、

射線から身を反らしたりして銃弾を避け、命中しない。

 

徐々に彼我の距離が縮まってくる。こうなったら不意を突くしかないわね。

あたしはプールサイドに立って、またお姉ちゃんに電話する。

 

「ねえ、二人が接近したら、アタシごと撃って!

アレなら多少外れても、奴らを吹っ飛ばせる!」

 

“危険だよ!盾子ちゃんまで巻き添えに!”

 

「やれって言ってんのがわからないの!?わかったら返事!」

 

“わかった。何か考えがあるのよね?信じてるからね?”

 

また電話をガチャ切りすると、肩に掛けたカバンを下ろした。

二人はもう目の前。拳を握って指を鳴らしながら歩み寄ってくる。

サブマシンガンは弾切れ。リロードしてる暇はないから、

壊れないようそっと足元に置いた。

 

「どうした!もう降参か!?」

 

「降伏して、お前さんが殺したみんなを、おかしな装置で元に戻せ。

そうすれば処置は考えんこともない。江ノ島、お前も被害者だから。

……日向がそう言うとった」

 

「日向ねぇ……どうしてみんなあのツンツン頭の言うことなんて聞いてるのかしら。

超高校級の希望だから?刑務所のリーダーだから?」

 

「あいつが一番オレ達のことを考えてくれてるからだよ!

お前のことだって、そうだったのに……!」

 

視界の隅で、何かが光るのを見た。

 

「仲良しごっこも結構だけど、あんまり他人に自分の運命預けないほうがいいわよ。

……こんなことになるから!」

 

アタシはとっさにプールに飛び込み、耳をふさいだ。

すると、何かが風切り音を立てて飛来し、弐大達の足元で爆発。

続いて、水中に何かがボタボタと落ちてきて、プールがピンク色に染まる。

上手く行ったわね。さっきの光は、ロケランのスコープに反射したホテルの明かりよん。

 

爆風を回避して水から上がると、

プールサイドには、手足がちぎれた弐大と、片腕を失った終里。

彼女が弐大を介抱しようとしてるけど、自分も瀕死だから、

そばで寄り添うことしかできない。

ふぅ、ずぶ濡れだけど、血やゴミでベトベト状態よりはマシね。

 

「あっ、ぎああああ!!はぁっ、はぁっ!これには、ワシも……うががが!!」

 

「オッサン、オッサン!なんでオレなんかをかばったんだよ!」

 

「選手を、守るのが、マネージャー……

う、があああ!頼む、麻酔薬をくれ!痛みで死にそうじゃあ!」

 

「待ってろ!今、罪木を」

 

「罪木なら死んだわよー?っていうかアタシが殺した。

彼女、無様な死に様ランキング暫定1位だから、

もっと頑張らなきゃチャンピオンになれないわよ。

ママでも呼んでくれたらポイントアップかも」

 

「テメエ……よりによって、二度もオッサンをミサイルで!」

 

「撃ったのはお姉ちゃんだし?あと、自分の心配したほうがよくない?

腕がちぎれてるんだから、早く止血しないとアタシが撃たなくても、もうすぐ死ぬよ?」

 

「せめて、その前に、お前を──」

 

素早くカバンから取り出したハンドガンで終里の腹を3発撃つ。

彼女って無駄に生命力高いから~!念の為3回撃っときました!!……3回言うと思った?

既に事切れた弐大と並ぶように倒れる終里。

 

猫丸ちゃん、赤音ちゃん!返事するっすー!

 

彼女が演奏の手を止めた瞬間、

この空を揺らすほどの爆音と共に、澪田唯吹から頭が無くなった。

彼女の手からエレキギターが落ちると、衝撃で一瞬デタラメな音が鳴り、

遅れて彼女がゆっくりと屋根に倒れた。お姉ちゃんから着信。

 

“アンチマテリアルライフルで致命傷を負わせたよ。次は何をすればいい?”

 

「大変よろしい。邪魔者はいなくなった。遂に敵の本陣に突入する時が来たわね!

ついてらっしゃい」

 

残り3名。正確にはあと一人いるんだけど、

彼女には絶望の概念とか無さそうだから外してある。

ホテル入り口の前で待っていると、敷地の隅から残念な姉が走ってきた。

 

「やったね、盾子ちゃん。これで大体片付いたよね」

 

「いよいよコロシアイ刑務所生活もクライマックスよー!いざ出陣じゃー!」

 

アタシ達はホテルに入り、レストランへの階段を上った。

そこに居たのは、日向創、十神白夜、花村輝々、そして、七海千秋。

 

階段を上りきると、見慣れた光景。みんなが一斉にアタシ達を見る。

花村君が可愛そうなくらい怯えてる。

やがて、緊張で顔を強張らせた日向創が近づいてきて、おもむろにアタシに土下座した。

 

「江ノ島、まだちゃんと謝れていなかった。改めて謝罪する。

……本当に、申し訳ありませんでした。その上でお願いがあります。

テラスまで九頭竜との話し声が聞こえて来ました。

あなたの能力で、みんなを生き返らせてくれないでしょうか……!?

当然代償は支払います。俺をいたぶって殺してください。それでどうか怒りを……」

 

呆れて腕を組みつつため息をつく。

 

「あー、うるさいうるさい。あんたっていつも要求ばっかりよね。

いつだって、ああしろこうしろ。

言い方が変わっただけで、今も自分の要求を押し付けてる」

 

「それは……詫びることしかできない」

 

「だ・か・ら!アタシ、あんたのお願いと逆のことをしようと思いまーす!

つまり、あんたの命だけは助けてあげるけど、他の連中は皆殺し!

これって超ウケると思わない!?」

 

「待ってくれ!それは……ぐあああ!!」

 

足元に這いつくばる日向の首筋に黒いものを押し付けると、力が抜けて床に横になった。

 

「出力最大のスタンガン、気に入ってもらえたー?あんたはそこで見ててよ。

残りのメンバーが虐殺されるところを、さ。意識があればの話だけど」

 

「や……め……」

 

「ややや、やめてよ江ノ島さん!風船爆弾の事は謝るから、お願いだからー!!」

 

「あんなしょーもない事件、君が口にするまで忘れてたわ。

うん、どっちにしても結末は同じだから」

 

「これ以上の勝手はこの十神が許さんぞ!貴様など、十神財閥が再興した暁には……」

 

「偽物君黙る。君も花村君も、あとわずかの命なんだから、

最後くらい本当の自分に戻ったら?超高校級の、詐欺師さん!」

 

「貴様に見せる素顔などない!」

 

「あ、そ。じゃあ、そろそろ終わりにしようかしら。戦刃伍長、マグナムを持てい!」

 

「あれは盾子ちゃんの手には大きすぎると思うよ。

あと、どうして階級が下がったのかな?」

 

「うっさいわね!さっさと出しなさい!ビンタ200発に増やすわよ!」

 

「ごめん。はい、これ……」

 

なーるほど。確かに普通のハンドガンよりデカくて重い。

オートマチックタイプの大型拳銃を、まずは花村君に向ける。

 

「いやだ、いやだ!おっぱい触ったこと怒ってるの!?

謝るから、なんでもしますから、助けてー!」

 

「それが遺言でいいのかしら。お母様泣くわよ?」

 

「お母ちゃーーん!!」

 

ナポレオンは街の中で大砲をぶっ放したらしいけど、

きっと敵兵も今のアタシと同じくらい驚いたんでしょうね。

両手でマグナムを構え、トリガーを引くと、室内に轟音が轟き、

小さな体の花村君は、大型弾で水風船のように弾け飛んだ。

弐大は手足がなくなったけど、花村君は胴がない。

レストランの壁が天井まで血で染まる。

 

「ワーオ、すんごい迫力!なかなかイケてるじゃん、コレ!

確かにちょっと手が痛いけど、どうせ殺すのはあと一人、だもんね!」

 

「……ほざいていろ。ここでささやかな復讐を果たしたところで、貴様に未来などない」

 

振り返ると十神君。相撲取りみたいな十神君。彼を撃ったらどんな死体になるのかしら。

 

「未来ですって?そんな絶望になりきれない、

単なる不確定要素のパチもんに最初から興味なんてないしー?十神君も、ほら、遺言」

 

「やれ、さっさと」

 

「じゃー、遠慮なく!」

 

その大きなお腹に向けて、マグナムをもう一発。

やっぱり耳に痛い銃声と共に、強力な弾丸が命中。彼のスーツを真っピンクに染めた。

あの脂肪でも銃弾は受け止めてくれなかったみたい。でも……

 

「どうした……狙いを外したのか、バカめ……」

 

「ねーお姉ちゃん。なんかまだHP残ってるっぽいんだけど、なんで?」

 

「多分、内臓を避けてきれいに貫通したからだと思うよ」

 

「もー!これ撃つと凄く手が痛いんだから、次はちゃんと死んでね、頼むから。

なんで鉄串一本で死ぬくせに、弾丸食らって生きてるのかしら。人体ってマジで謎!」

 

もう一度マグナムを構えて、今度は頭を狙う。そして、ゆっくりとトリガーを引く。

……テラスから闇をつんざく銃声が飛び出し、驚いた野鳥が飛び立つ。

それがコロシアイ刑務所生活の、終わりを告げた。

頭部を粉砕された十神君が、今度こそ、その巨体を床に横たえる。

 

「いよっしゃー!コロシアイ刑務所生活、絶望姉妹の大勝利ー!」

 

「おめでとう、盾子ちゃん」

 

「あんがとねー。お姉ちゃんもたまにはやるじゃん!」

 

「盾子ちゃんが褒めてくれるなんて……久しぶり。とっても嬉しい」

 

「そんじゃあ、この意味不明なバーチャル空間からは、とっととおさらばしましょう。

遺跡の装置で……」

 

どこからか、そんなアタシ達の喜びに水を差す、辛気臭い泣き声が。

あらら、七海さんどうして泣いてるの?

気を失っている日向のそばで涙を流す彼女にぶらぶらと近づく。

 

「泣かないで~七海さん。心配しなくても日向は生きてるし殺す気もないから。

その他は……なるようになっただけよ。物は考えようじゃない!

これから恋人二人きりで水入らずの生活を送ればいいじゃん。アッハハハ!」

 

明るく笑って彼女の肩を叩いて励ます。アタシ、マジ、優し過ぎ!

 

「江ノ島さん……これが、本当にあなたの望んだことだったの?

確かにスタートを間違えたけど、

みんなと過ごした思い出を握りつぶす事が、本当にあなたの望みだったの……?」

 

涙で濡れた顔で、七海さんがアタシに問う。

説明するまでもない事だと思うんだけど、どういうわけか伝わりにくいのよね。

 

「アタシはただ絶望を追い求めてるだけで、殺すことはただの手段よ。

今日、アタシはいろんな形の絶望を味わうことができたの。それはみんなに感謝してる。

AIでコピペ可能な実質不死身の七海さんを殺しても手応えがなさそうだし、

日向については、目覚めたらみんな死んでた。そんな絶望を作ってみたいの」

 

「もういい……ここから出てって。この世界から出てってよ!!」

 

あら、七海さんでも怒ることあるのね。言われた通り退散しようかしら。

どうせもう用事もないしね。

 

「そんじゃあ、さよなら。今までありがとねー」

 

「遺跡でログアウトしなきゃ。その後は塔和シティーで合流だね」

 

彼女は眠る日向に膝枕をして、ただ大粒の涙を流すだけだった、と。メモメモ。

 

 

 

 

 

遺跡前にワープして内部に足を踏み入れると、そこは多数の石版を積み上げて壁にした、

無機質な雰囲気が漂う法廷だった。今からやることは裁判じゃないけど。

 

「なんでもいいから適当な卓に着いてー」

 

「うん……盾子ちゃん、ここはどこ?」

 

「中央システムにつながってる特殊な法廷。

もしかしたらここで日向達と強制シャットダウンするかもしれなかった場所。

証言台にタッチパネルがあるでしょ」

 

「“留年”と“卒業”って表示してある」

 

「そう。それを両方同時に押して。

そしたら希望更生プログラムからログアウトして、現実世界に戻れるから」

 

「わかった。私、なんだか、ワクワクしてきたよ……」

 

「ふふん、わかってんじゃない。ここから、新時代が幕を開けるのよ!

モナカちゃんと3人で、もう一度世界を絶望で満たすの!」

 

「塔和シティーで、待ってるね!」

 

「行くわよ、レディー……!」

 

そして、アタシはタッチパネルのボタン2つを同時に押した。

 

 

 

 

 

目が覚めると、生命維持装置のカプセルが勝手に開いた。

腕に何本かチューブが挿されてる。

これで栄養分を補給したり、体内の老廃物を除去したりしてたってわけね。

アタシは邪魔なチューブを引っこ抜くと、装置から降りる。

そこは、淡い緑色の光を放つ生命維持装置が多数並んでいる、薄暗い空間だった。

 

「へぇ、現実世界の遺跡って、こんなだったんだ」

 

ちょっと中を歩いて様子を見てみる。

生命維持装置の中には、一部を除いて仮死状態になったみんなの肉体。

 

「そうだわ。中途半端はいけないわよね。きっちり最後まで殺さなきゃ」

 

アタシは、日向以外の生命維持装置に接続されている、

なんか重要っぽい線を片っ端から引きちぎった。

はぁ、結構重労働だったわ。お姉ちゃんがいれば代わらせたのに。

中央のコンソールを操作して、被験者の情報を参照する。

 

 

<被験者一覧及び健康状態>

 

日向創:健在

狛枝凪斗:死亡

十神白夜:死亡

田中眼蛇夢:死亡

左右田和一:死亡

 

 

この後も名前がずらりと並ぶけど、日向以外は全員死亡。よっし、これでオッケー!

もうやることはないから外に出る。スイッチを押して、鋼鉄の重い扉を開くと、

そこには青い広々とした空が……広がってなかった。

 

「何よこれ。なんか空が赤いんですけどー。空気もなんか…くんくん…臭っさいし!

マジどうなってんのよ~」

 

しょうがないから、アタシは砂浜に向かって歩いた。

コロシアイの後、モナカちゃんと細かい段取り詰めたんだけど、

もうすぐ漁船が迎えに来てくれるみたい。

なんか遠くから爆発音や機銃の射撃音が聞こえるんだけど、本当に大丈夫かしら。

 

ヒトデを踏み潰したり、ヤシの木を蹴飛ばしたりして暇つぶししてたら、

水平線の彼方から、一隻のみすぼらしい漁船が猛スピードで近づいてきた。

見る間にそれは砂浜近くにたどり着き、手漕ぎボートを下ろした。

中からアフロのおっさんが出てきて、ボートを漕ぎ、砂浜のアタシを迎えた。

 

確かにそいつもアタシと同じ目をしていて、笑顔で両手を広げ、

何語かもわからない言語で喋りかけてくる。

 

「あろあろ~サンキューベリマッチ、塔和シティー、タクシーOK?」

 

「ヤホー、エノシマ、バランベー!」

 

ソニアの超高校級の王女も、この、どマイナーな言語は網羅してなかったみたい。

適当に受け答えすると、またボートを漕いで漁船に乗せてくれた。

アフロの漁師が再び漁船のエンジンを掛け、出発した。

 

日本まで燃料保つ?

ちょっと心配になったけど、軽油が詰まったポリタンクが船尾に山ほど積まれてた。

まあきっと、漁師の準備というよりモナカちゃんの指示なんでしょうね。

 

適当に船室で昼寝してたら、漁師がアタシを起こしに来た。

何時間寝たのか曖昧だけど、もう着いたの?

外に出てみると、超高層ビルが立ち並ぶ、近代的都市が目の前に。

……でも、よく見ると、どの建物もボロボロ。

モナカちゃん本当にここで暮らせてるのかしら。

 

「リギー、リギー、ハズマトルヨ」

 

「日本語でOK」

 

どうやらもうすぐ到着だと言いたいらしい。

そして、南の岸壁に船を横付けすると、降りるよう手で合図してきた。

船から降りて、その地に降り立つ。ふ~ん、ここが塔和シティーね。

アタシは送ってくれた漁師に伝わらない礼を言う。

 

「ありがとサンキューもういいわ」

 

「イー、ガバラヨンタバ」

 

彼は手を振ると、どこかへと去っていった。帰りの燃料大丈夫かしら。

途中で遭難してもアタシは知らない。

でも、ひとり海の真ん中で身動きを取れず餓死していく絶望。それもアリかもね。

 

それで、後ろに現れた沢山の気配は何なのかしら。振り返るとモノクマの群れ。

でも、そのうちの一体が、聞き覚えのある声で話しかけてきた。

 

“おかえり、盾子お姉ちゃん!モナカだよ!

……お姉ちゃんなら、きっと生きてるって、信じてた。ぐすっ”

 

「ただいまモナカちゃ~ん!

アタシもモナカちゃんなら、きっと助けてくれるって信じてたよ~!

ホントに、ありがとうー!ん~っ」

 

思わずモノクマを抱きしめてキスしちゃった。

ただの機械音声だっつーのに、あんまり嬉しくて。

 

“こうして話してるってことは、迎えはもう着いてるってことだよね?

モノクマちゃん達についてきて!早く盾子お姉ちゃんに会いたい”

 

「うん、すぐ行くから待ってて」

 

“あの、モナカちゃん。私も盾子ちゃんと……”

 

「みんなー!エスコートお願いねー!」

 

モノクマ達に声を掛けると、全ての個体が一斉に敬礼した。

そしてアタシに道を譲り、待機させていたリムジンに誘導する。

車に乗り、座り心地の良いソファに身を預ける。

 

車が発進すると、給仕係のモノクマが、ワイングラスにサイダーを注いでくれた。

炭酸の心地よい刺激と、疲れを癒やす甘みがたまんない。

運転もモノクマが担当。それはさすがにちょっと心配だから、聞いてみる。

 

「ねー、あんたその手と短足で運転できんの?

事故るのは構わないけど、アタシに怪我させないでよね」

 

“大丈夫だよ。自動運転だから。モノクマちゃんは雰囲気作りに置いてるだけ”

 

「な~んだ最初から言ってよ、アハハ」

 

そしてリムジンはアタシと笑い後を乗せて、工場らしき区画へ向け、スピードを上げた。

 

 

 

 

 

モノクマ工場地下 モナカ専用研究室

 

 

「会いたかったー!盾子お姉ちゃんのこと、見捨てないでくれたんだね!」

 

アタシは直接会ったことすらない少女をぎゅっと抱きしめる。

彼女も小さな腕をアタシの身体に回す。

 

「当たり前だよ~モナカも会いたかった……

ずっと、ずっと。やっぱり未来機関なんて嘘つきだったね」

 

「あんな奴らに惑わされちゃ駄目。今度はアタシ達が奴らにおしおきする番よ!」

 

「うん!それよりお姉ちゃん、お腹空いてない?仮想空間の食事は味気なかったでしょ」

 

「えへへ。もうペコペコ。ジャバウォック島を脱出してから何も食べてなかったから」

 

「すぐモノクマちゃんに用意させるね。

略奪品なら大量に保管してあるから、たくさん召し上がれ!」

 

「盾子ちゃん、私も直接会えて……」

 

「やったぁ!モナカちゃん大好き!」

 

モナカちゃん大好き。今の所その言葉に嘘はないけど、

いつかその大好きが絶望に転落したら、身を震わせるような感動と共に、

新たな世界が見えてくるんでしょうね。まる。

 

 

 

それから、場所を移して会食兼作戦会議。

豪華なフルコースを食べながらモナカちゃんとお喋り。

無意味な規則に縛られてた頃が懐かしいわ。

 

「アタシ的には~モナカちゃんが送ってくれたプログラミングのテキストあるじゃん?

あれで習得した能力でもう一度絶望ビデオを作りたいの。今度はとびきり強力なやつ」

 

「面白そう!必要な機材や設備があったらなんでも言ってね!

大抵のものはモナカの研究室にあるから」

 

「ありがと~モナカちゃん愛してるわ。

さっそくだけど、絶望ビデオとそれが見られるまともなパソコン貸してくれないかしら。

電子生徒手帳の小さな画面でバーチャルハッカー作るのって、

マジ大変だった。マジ大変だった。今度は2回言ってあげたわよ」

 

「研究室にパソコンが何台かあるから適当に使ってね。

共有フォルダーの“despair”に動画ファイルが置いてある」

 

「あの……私も何か手伝おうか?」

 

「ああもう、お姉ちゃんは黙ってて!今、モナカちゃんと大事な話してるの。

必要になったら呼ぶから、お・静・か・に!」

 

「ごめん……」

 

「で、その絶望ビデオを分析して、作った奴の能力をパクっちゃおうってわけ。

その上で新型絶望ビデオを作成する」

 

「今度こそ世界は絶望に飲まれるんだね!

……え、作った奴って?絶望ビデオって盾子お姉ちゃんが作ったんだよね?」

 

「あっ……そう、そうなの!アタシが言いたいのは、改めて内容を解析して、

グレードアップの余地が無いかを検討したいってことなの。

でも、ちょっと問題があってね……」

 

「なあに?モナカになんでも相談して?」

 

「肝心の新型を世界中に広める方法がないの。

世界中の殆どの地域でネットワークがぶつ切り状態の今じゃ、絶望ビデオを作っても、

インターネットが健在だった頃みたいには上手く行かないの……

ねぇ、どうしたらいいと思う?」

 

上目遣いで彼女の知恵を拝借できないか尋ねてみる。

 

「それなら、いい方法があるよ!」

 

「本当!?詳しく聞かせて!」

 

「未来機関が使ってる主要なネットワークは、

全部クラッキング及び盗聴をしてるんだけど、

その中に希望ヶ峰学園海外校になるはずだった建物を利用した、

極秘施設があるらしいって情報があったの。

そこには全世界に情報を発信できる巨大な電波塔があるんですって。

そのシステムに直接盾子お姉ちゃんの作品をアップロードすれば、

あっという間に世界は絶望に真っ逆さまだよ!」

 

「それだわ!そうと決まれば、すぐ制作に取り掛かるわ。

まずはこれを食べなきゃね。ああ美味しい」

 

「ふふ。盾子お姉ちゃんと一緒の食事、モナカも楽しいよ」

 

微笑むモナカちゃんは、ごく普通の小学生にしか見えなかった。

彼女がこれから世界を再び破滅と混乱に陥れる計画に加担してると、

一体誰にわかっただろうか。今日はここまで。

 

 

 

 

 

未来機関第一支部 近郊の荒野

 

 

ボクの人生は、ここで終わる。

囚人服を着せられ、丈夫な柱に縛り付けられた。

両手は柱の後ろ側で手錠を掛けられ、全く抵抗できないようにされている。

目の前には刀を抜いた宗方さん。更に後方には、多数の護衛。

彼らに守られるように天願さんと、ボクと同じく拘束された霧切さんがいる。

 

「苗木誠……貴様は、会長の期待を裏切り、さらなる失態を重ね、

希望更生プログラムの協力者ほぼ全員の死亡という最悪の結果を招いた。

そして!彼らを殺害した江ノ島盾子の逃走すら許した。

もはや反逆などという軽い言葉では表現し得ない。未来機関への完全なる敵対行為だ!」

 

彼の怒りが迸ると、思わず唾を飲む。

今回ばかりは天願さんも、そして霧切さんも擁護しきれなかったみたいだ。

二人共、悲しそうな表情を浮かべている。

もっとも、ボクも許されるべきだと思っていない。自分自身が。

 

「よって、貴様を処刑することが議会で結論付けられた。何か、言い遺すことはあるか」

 

「ボクのせいで、死んでいった皆さんに、心から、お詫びを……痛づっ!!」

 

一閃。宗方さんの手首が動いた瞬間、僕の右腕が裂かれ、血が吹き出した。

 

「お詫びだと?全ては貴様の無能が、甘さが、愚かさが招いたことだ。

詫びるなら生まれてきた事を詫びることだ」

 

「やめたまえ宗方君!

死刑囚であろうと、刑の執行前にいたずらに痛めつけることは許されん」

 

「それを、殺された協力者の前で言えますか?」

 

「……いや」

 

「そして、霧切響子。反逆者をかばい続けた貴様にも相応の罰を受けてもらう。

苗木誠が絶命する瞬間まで、刑の執行を見届けろ。

一瞬たりとも目をそらすことは許さん」

 

「承知、しています」

 

そう答えた彼女の声は微かに震えていた。

宗方さんの刀を構えると、刃が赤く燃え上がり、陽炎を立ち上らせる。

 

「行くぞ」

 

覚悟は決めたつもりだったけど、手錠をはめられた両手がガタガタと震える。そして。

 

「破っ!!」

 

超高熱の刀で肩から斜めに肉体を切り裂かれたボクは、

斬撃と全身に回る炎の激痛で絶叫する。

 

「あぐあああ!!ああ、あああ!!げふっ、ぎゃっ、ああ……」

 

霧切さんは、護衛の警備兵に押さえつけられ、

目をそらすことも、耳をふさぐこともできず、

燃え尽きていくボクをただ見ていることしかできなかった。

かつて、超高校級の希望と呼ばれたボクの人生は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

塔和シティー 工場地区

 

 

「へ~え。モナカちゃんとこの実家って、こういうのも作ってたんだ」

 

アタシは工場の隠しエリアで密造されていたハンドガンのスライドを引いた。

チャッと小気味良い音が鳴る。

超高校級の軍人の能力をコピーしてるから、扱いはお手の物。

 

「一応実家だけど、家族なんかじゃないよ。ただの置物。間抜けばっかりだったし~」

 

「小学生に街一つ乗っ取られるくらいだもんね。どんだけ脳みそないんだって話。

それより、こういうのはお姉ちゃんの得意分野でしょ?また適当なの見繕っといてね~」

 

「うん、任せて。……すごいな。対空ミサイルまである」

 

「未来機関のハエがうるさいんだー。とっても役に立つよ」

 

「遊んでないでさっさとしてよ」

 

「わ、わかった。ええと、まずハンドガン2丁とサブマシンガン、

それぞれマガジン10本ずつと、フレアガンも要るよね……」

 

スーパーに夕飯のおかずを買いに来たかのように、銃火器を漁るお姉ちゃん。

そう、アタシ達は未来機関極秘施設への突入準備に余念がないの。

新型絶望ビデオも無事完成したし、

後は極秘施設の放送設備にこのUSBメモリをぶっ挿せば、

世界は今度こそ完全に絶望に染まるのよ!

軽いデモンストレーションも済ませてあるしね。

やっぱ極秘施設ってからには、警備とかヤバそうじゃん?

 

「ねえ支度まだー?」

 

「お待たせ。今終わったとこ。そろそろ出発しようか」

 

「お姉ちゃんが仕切んないで。モナカちゃん、輸送ヘリの準備、お願~い」

 

「もうできてるよ!いつでも出発できる。

極秘施設の位置もキャッチしてるし、残るは新型絶望ビデオのアップロードだけだよ!」

 

「モナカちゃんってば本当にお利口さん!

ありがとう、今度こそお姉ちゃんの夢が叶うわ。

全部、モナカちゃんが力を貸してくれたからよ」

 

「盾子お姉ちゃんのためなら、なんだってするよ!モナカも、絶望だーいすきだもん!」

 

「いい子いい子。そろそろ出発しようか。ヘリまで連れてってくれる?」

 

「うん!ヘリポートは、塔和ビル屋上にあるよ。

リムジン待たせてるから、みんなでGOだね!」

 

「よーし、第二次世界絶望化計画、はっじまりよー!」

 

アタシが振り上げた拳の中には、小さなUSBメモリ。

これを配信すれば、全てが……始まるのよ。

 

 

 

 

 

未来機関極秘施設 上空

 

 

「うーわっ、えらいことになってるわねえ」

 

ミニガンで敵機を撃墜し、フレアガンで誘導ミサイルを撹乱しつつ、

未来機関の極秘施設とやらの上空まで来たんだけど、明らかに防御が手薄で、

輸送ヘリでも難なく突破できた。その原因は、やっぱ、アレよね。

 

アタシは眼下に広がる光景に胸が踊った。

モノクマのマスクを着けた集団が、極秘施設を襲撃してる。それも100人200人じゃない。

1000人は軽く超えてる。

テストを兼ねて、かろうじてネットワークがつながってる1エリアだけに、

新型絶望ビデオを流したんだけど、たったそれだけでこの状況。

 

未来機関の戦闘員全部と、死を恐れない絶望ファンが激突してる。

銃で武装した戦闘員が絶望ファンを鎮圧しようとしてるけど、

新型絶望ビデオで筋力のリミッターが外れて理性を失った絶望ファンも、

血みどろになりながら思い切り角材や鉄パイプを振り下ろして、

戦闘員の頭をヘルメットの上から叩き潰してる。

ヘリのローター音で聞こえないけど、奴らの悲鳴が届いてくるかのようだわ。

 

計画が完了したら、世界中でこの素敵な光景が繰り広げられるのね。

ちょっとした感動みたいなものに浸っていると、ヘッドホンからモナカちゃんの声。

 

“もうすぐ目標ポイントに到着するよ!

放送設備は別棟のあの建物!そろそろ準備したほうがいいよ!”

 

“サンキュー!じゃあ、アタシ達は降下するとしますか。お姉ちゃん、急いで”

 

“うん。装備もバッチリだよ”

 

“搭乗口、開けるねー”

 

“オッケー。3,2,1で飛び降りるから、遅れないでよ?”

 

“大丈夫。パラシュートも固定完了。いつでもいいよ”

 

それじゃあ……3,2,1,降下!

ついにアタシ達はヘリから飛び降り、未来機関の極秘施設上空でパラシュートを開き、

放送施設付近に着地した。

素早く用済みのパラシュートを外し、目標地点入り口に向かって駆け出す。

 

「お姉ちゃん、アタシの武器パス」

 

「はい、これ」

 

並んで走りながら、お姉ちゃんから武器を受け取る。

地上では相変わらず絶望ファン達が余計な雑魚達の相手をしてくれてるから、

邪魔が入らず内部に潜入できた。でも、順調なのはここまで。ラスボスが多分待ってる。

 

──とうとう、ここまで来おったか

 

放送施設に入ると、フロアの中央に巨大なコンソール。アレが最終目標。

放送設備の制御システムの前に、気の弱そうな男の子と、

彼を守るように、グリーンのコートを来た爺さんと、

そんなに白が大好きかってツッコミたくなるほど、

髪もスーツも白で統一した男が立っている。

 

「えっ、江ノ島盾子!?どうしてお前が生きてるんだよ!なんで、また……!」

 

「残~念でした。絶望はね、死なないの。だから江ノ島盾子という存在が蘇った。

アンタの目の前に居るアタシが、それを証明している」

 

「何度蘇ろうと関係ない。二度と生き返らぬよう、次は死体を燃やし尽くしてやろう!」

 

骨伝導式無線機から、モナカちゃんの声。

 

“盾子おねえちゃん。お爺さんは天願和夫、白いのは宗方京助。

どっちも未来機関の偉いさんだよ~”

 

「なるほどね~ありがと。ちなみに向こうの坊やは?」

 

“知らな~い。どっかの構成員じゃない?”

 

「わかった。すぐ済ませるから、待っててねー」

 

宗方が刀を抜くと、どんな仕組みか知らないけど、急速に熱を帯びて真っ赤に燃える。

同時に、彼が俊足で一気に距離を詰めてきた。

 

「うおおお!!」

 

「お姉ちゃんはアイツお願ーい。アタシは爺さん殺るから」

 

「わかった!」

 

お姉ちゃんがアサルトライフルで宗方を迎撃、

奴は一旦足を止めて斬撃で銃弾を打ち払いつつ、横や後ろに跳躍して回避する。

アタシは天願の爺さんにハンドガンを向けるけど、

彼が右腕を向けると、手首の辺りから何かが飛び出してきた。

瞬時に見切って回避すると、飛んできたのは、矢。

 

袖箭(しゅうせん)?渋いの使ってるじゃ~ん!」

 

「江ノ島盾子。次こそお前にとどめを刺し、世界に安寧を取り戻す!

……御手洗君、希望のビデオを準備してくれたまえ!」

 

「はい!アップロード開始。……頼む、間に合ってくれ!」

 

トートツに始まったバトル展開の最中にトートツな単語が出てきました。

なんかろくでもなさそうな名前だから潰したほうがよさそう。

袖箭とハンドガンの撃ち合いは一進一退。お互い、撃っては前進、撃っては後退。

腰の曲がった爺さんなのに、やたらすばしっこくて、面倒ったらありゃしない。

お姉ちゃんはどう?

 

 

 

銃剣を取り付けたショットガンに武器を切り替えたお姉ちゃんは、

宗方と撃ち合い斬り合いを続けていた。

曲芸師のように散弾を回避し、一気にジャンプして接近してきた宗方は、

発熱刀と銃剣でお姉ちゃんと鍔迫り合いになった。

 

「戦刃、むくろ……貴様も墓場から甦った過去の亡霊か」

 

「お前には、関係ない……!」

 

銃剣が熱で溶解を始めた瞬間、トリガーを引いて散弾を発射。

とっさに身を引いた宗方に追撃を掛ける。

そいつは床を駆け、壁を蹴り、縦横無尽に空間を移動し、

ショットガンの散弾を鮮やかに回避する。

 

「絶望。薄気味悪い刹那主義に取り憑かれた狂人共。お前達に生きる資格はない。

ここで、朽ち果てろ」

 

「知った風なこと言わないで。お前には、何も救えない。今から、教えてあげるから」

 

ショットガンをリロードして隙を見せた瞬間、宗方が床を蹴ってお姉ちゃんに突進。

だけど、それを待っていたようにお姉ちゃんはショットガンを放り出して、

小型のピストル型武器を正面に放った。その時、フロア内にいた全員の動きが止まった。

 

「うがあああっ!!」

「きゃああ!!」

 

弾丸は高熱と閃光を発して爆発し、お姉ちゃん自身を巻き込んで宗方を火だるまにした。

両者転げ回って火を消したけど、重度の熱傷で立ち上がるのがやっと。

 

「こ、これは……フレアガンかっ!?貴様、自滅覚悟で!」

 

「はぁ…はぁ…お前に同じこと、できる?」

 

お姉ちゃんは足元のショットガンを持ち直すと、また宗方に向けてトリガーを引く。

閃光で目が潰れてるから、気配だけを頼りに撃ちまくる。すると、5発目で命中。

奴の腕が吹き飛んだ。とうとう宗方はその場に崩れ落ちる。

 

「ぐああっ!この…死に損ないがぁ!!」

 

半死半生の宗方にとどめを刺すべく、お姉ちゃんはフラフラと奴に近づく。

つま先に奴の革靴が当たると、片手でショットガンの銃口を足元の存在に向けた。

 

「未来機関は、お姉ちゃんに、勝てない。……さようなら」

 

天井の高い空間に銃声が響き渡る。宗方京助は頭部の3分の2を吹き飛ばされて即死した。

 

「宗方さん!」

「宗方君!」

 

迂闊にも天願が宗方の死体に目を向けてしまう。そのチャンスを逃すアタシじゃない。

すかさずハンドガンを1マガジン撃ち尽くす。

天願の老いた身体が、またたく間に穴だらけになる。

 

「うっ、ぐはああっ!!」

 

彼のメガネが金網状の床にカラカラと転がった。

全身から血を流し、時折血を吐きながら、彼はコンソールに向かって手を伸ばして、

謎の少年に言葉を残す。

 

「世界の、希望を、君にたくす……」

 

そこで天願は事切れた。邪魔者はいなくなったけど。

……アタシは、床に座り込むお姉ちゃんのそばに寄る。

火傷で真っ黒な顔でアタシに微笑む戦刃むくろ。

 

「まったく、無茶しないでよ。アタシまで黒焦げになるとこだったしー?」

 

「ごめんね、最後まで、残念なお姉ちゃんで……」

 

「できればもうちょっと手伝って欲しかったんだけど、こりゃどうしようもないわね。

119番が生きてても無理」

 

「いいよ。盾子ちゃんは、夢を、叶えて」

 

「熱傷Ⅲ度……アタシにできる応急処置って、これくらいしかないの」

 

ハンドガンをリロードして、スライドを引く。

 

「うん、お願い」

 

「お姉ちゃん。お姉ちゃんは……臭くなんかなかったよ」

 

銃口から炎と弾丸が飛び出し、戦刃むくろの頭を貫いた。

穏やかな死に顔だから、多分即死。姉を殺したわけだけど、大して絶望は感じなかった。

お互い偽物だったからだと思う。さて、最後の仕上げに取り掛からなきゃ。

 

「天願さんも……宗方さんも……」

 

コンソールの前に知らない男の子が呆然として立ち尽くしてる。正直邪魔なんだけど。

 

「どいてくれる?それ使いたいんだけど」

 

「江ノ島盾子!いやだ!!これで世界から絶望を消し去るんだ!

僕はもう逃げな……ぎゃああっ!!」

 

パァン!と一発。膝を撃ち抜いてやったら、泣きながら床を転げ回る。

 

「痛い、痛いいぃ!!」

 

「弱いくせに出しゃばるからよ。困ったわね、このキーボード使いにく過ぎワロタ、と。

まずは変な奴のアップロードをキャンセル。

で、こいつをUSBポートに差し込むと……!」

 

アタシは、新型絶望ビデオが仕込まれたUSBメモリをコンソールに挿入。

すると自動でアップロードが始まる。

新しいビデオには、他の奴にも拡散するように暗示が掛かるようになってる。

直接スマホか何かで見せたり、生きてる通信網に上げたり、手段は問わない。

それほど時間を掛けることなく、今度こそ絶望が世界を覆い尽くす。

 

一仕事終えたアタシは、コンソールに寄りかかって、アップロード完了を待つ。

15分ほどで全て完了だけど、少々退屈だったから、

地べたで転がってる奴に、話しかけてみた。

 

「ねえ、あんた結局どこの誰で何がしたかったの?」

 

「僕を忘れたのか!お前がアニメーターの才能を盗んだ、御手洗亮太だよ!」

 

「ごめん、マジで知らないか忘れてるわ。で?こいつで何をしようとしてたの」

 

「言うもんか……!」

 

「膝、両方ともなくすわよ?」

 

御手洗とかいう奴は、ハンドガンを向けると血色の悪い顔を更に青くする。

 

「ひっ、やめてくれ!希望のビデオを世界に送ろうとしてたんだ!」

 

「希望のビデオ?」

 

「見た人の意識から、絶望や悲しみと言った負の感情を消し去る効果があるんだ……

怒りも憎しみも!争いもない世界が実現できるんだよ!」

 

「はぁ?なにそれ。人らしい感情をなくすなんて最低じゃん。

まだ人間の欲望を開放する絶望ビデオのほうがよっぽどマシだわ。

あんた、自分が弱いからみんなにも弱くなって欲しいだけなんじゃないの?」

 

「……そうだよ。僕は弱いんだ。だからこそずっと見てきたんだ。

強者が弱者を虐げる、そんな現実を!僕はそれを──っ!」

 

話長いからハンドガンを弾いて永遠に黙らせた。なんかこいつ見てるとムカつくし。

 

【UPLOAD COMPLETE】

 

って、そんなことどうでもいいわ!配信完了!

これで夢にまで見た、かつてないほどの絶望がやってくるのね!

絶望ファンはより凶暴性、凶悪性を増し、世界に破壊と破滅と混沌の嵐が吹き荒れる!

絶望の時代が、訪れるのよ!

 

アタシはしばらくコンソールのディスプレイを撫で回した後、放送施設から出た。

もう新型絶望ビデオの効果が現れてる。

一部の未来機関の戦闘員が、味方のはずの戦闘員を攻撃してる。

みんなも絶望の素晴らしさをわかってくれたのね。歓迎するわ。

モナカちゃんに骨伝導式無線機で連絡を取る。

 

「モナカちゃん、やったよ!ビデオ配信大成功!

我が方にちょっとした損害が出たけど、まあ仕方のない犠牲よね」

 

“おめでとう!盾子おねえちゃん。

むくろお姉ちゃんのことは残念だったけど…あ、これはご愁傷様ですって意味だからね?

とにかく、すぐ迎えに行く。素敵な世界に、なるといいね……”

 

「何もかもモナカちゃんのおかげよ。これからは真の絶望の時代。

アタシ達は、その先駆者になるのよー!ウププププ~」

 

その後、モナカちゃんのヘリで未来機関の極秘施設を後にしたアタシは、

崩壊への道を突き進む世界を、誰も知らないどこかでひっそりと見物するのであった。

おしまい。

 

 

 

 

 

数年後。

 

アタシは何かの毒物で枯れた雑草の絨毯に座りながら、

昔、時々書いていた手帳を読んでいた。

手帳を閉じると、目の前には倒壊した未来機関の極秘施設だった残骸が。

空はあの時のような赤じゃなくて、毒々しい紫に変わった。

世界はアタシの望み通り、破壊、暴力、死。

それらがもたらす絶望を絶え間なく与え続けてくれた。

 

モナカちゃんは毒の大気に耐えきれず、あっけなく死んでしまった。

塔和シティーで作っていた空気清浄機が、強力な大気汚染に対応できなかったらしい。

アタシももう長くない。最近咳が止まらないの。

じわじわと死ぬ日を待つのって、なかなか素敵な絶望ね。

風の噂によると、既に人類は種として存続することが出来ないほど、

その数を減らしてしまったらしい。なんて悲劇かしら。またアタシの胸に絶望が宿る。

 

すると、アタシの背後に一人の気配。振り返ることなく、呼びかける。

 

「お久しぶりねー!カムクライズル!」

 

「日向、創だ……何年もお前を探していた」

 

立ち上がってスカートの土を払い、彼と向き合う。

すっかり成人を迎えて男になった日向創がそこにいる。

 

「なあに。今更アタシを殺しに来たの?」

 

「ああ。お前が造った世界と共に、死んでいけ……!」

 

お互い腰のホルスターに手をかざす。

古臭い決闘だけど、さっさと勝負が着くから嫌いじゃないわ。

腐臭を孕んだ風が通り過ぎ、互いの集中力が極限まで達した瞬間。

 

銃声。

 

アタシの胸に穴が開いた。血を流して倒れるアタシを、日向が見下ろす。

彼の真っ赤な両目を見て悟った。

 

「そう……超高校級の、ガンマン……早撃ちに、特化した、軍人を上回る能力……」

 

「……江ノ島。お前は、結局、誰だったんだ」

 

「僕は、死ぬ……死の絶望……生まれて初めて、そして最後の……ぜつ、ぼう……」

 

自分の人生はどうだったかと聞かれると、アタシは、私は、僕は、幸せだったと思う。

かつて僕が生きていた世界では、心を引き裂くような絶望に出会うことは、

きっとなかったから。意識が、闇に、奪われていく。

遺言を遺すとしたら……この素敵な世界に、さようなら。

 

 




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