江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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Answer_B →許す

電子生徒手帳を持ったまま動けない。僕は、迷って、迷って、また迷って……

手帳をポケットにしまった。

 

「……」

 

結局何も決められない自分に失望し、そのまま階段を下りようとすると、

僕を呼び止める声。

 

「待って、江ノ島さん!」

 

「七海さん、僕は、江ノ島じゃない……」

 

「なら、やっぱり名前を教えて欲しいな!

君が初めてここに来た時、名前を叫んでくれたけど、

世界にノイズが走って聞き取れなかったの!」

 

「すまねえ……その後オレにも名乗ってくれたが、

やっぱり雑音混じりで聞こえなかった。

そん時は、お前を誤解してて、頭に血が上ってたから、気づけなかった……」

 

「……ならそれでいいじゃないか。僕が江ノ島盾子でいればそれでいいんだろう?」

 

“ふーん、またそうやって誰かの都合に流されるんだ?”

 

不意に心の中から江ノ島が呼びかけてきた。何が言いたいんだよ。

 

「お願い、そんなこと言わないで?本当のあなたを知りたいの」

 

「違う!僕は、絶対に誰にも利用されたりなんか……痛っ!」

 

「大丈夫!?」

 

今度は頭を抱えるような頭痛と共に複数の声。

 

“ギャハハハ!今になって他の生き方なんかテメーにゃ無理だっての!”

 

“彼女に同意します。常に急場の判断を誰かに任せ、困難から逃げ続けてきたあなたが、

一般人らしく生きられる可能性は、ゼロです”

 

“お前がこの島で生き延びられたのは、私様(わたくしさま)達の助力あってのこと!

赤ん坊同然のお前が外に出た所で、一人で生きられると思って?”

 

“大人しく……私達に心を預けて、言われたままに生きればいいと思います……

他に選択肢がないなんて、あまりに哀れで涙が出そうですけど……”

 

“君が島を出たとしても、どうやって生きていくつもり?

無能な君が稼ぐには、男の人とアレするくらいしかないよね?キャッ、恥ずかしっ!”

 

そうだよ。僕には、ダンガンロンパの世界で生き抜く力なんてない。

平和な元の世界でも生きられなかったのに。

自分じゃ何も決められない。何も解決できない。

誰かに助けてもらわないと生きられない。僕は、無力なんだ……

 

──それは違うわ!

 

諦めに満たされた脳内で最後の一人が声を上げる。

……あの日出会った、大人になった江ノ島盾子だ。

 

“アタシ達が力を貸したのは学級裁判の時だけ。

あなたは、自分を傷つけたり陥れようとしたクロさえも救ったじゃない!

みんなの助けがなければ生きられないのは誰でも同じ!

その仲間との絆を育んできたのは、他でもないあなた自身じゃないの!

誰に言われたわけでもなく、自分の意思で!”

 

“うっせえぞババア!

こいつを絶望のどん底に叩き落として、面白れー世界を見るんだよ!引っ込んでろ!”

 

“歳を取ると意固地になるって、本当なんですね……ああはなりたくない、です……”

 

“ちょっと良いこと言った気分になっているところ恐縮ですが、彼の現状を見て下さい。

全てを支配する力を持ちながら、どうするべきかも決められず、突っ立っているだけ。

やはり重要な決定ができない意志薄弱無知蒙昧な人物なのです”

 

“人間だから迷うこともあるわよ!……わかったわ。彼自身に決めてもらいましょう。

最後の学級裁判で!!”

 

なんか勝手に話を進めてるけど、誰を裁くっていうのさ。誰と戦うっていうのさ。

もう、ずっとここで生きていたいよ。誰も僕を責めたりしない、誰もいないこの島で……

 

“諦めちゃだめ!裁く相手は自分自身。

今までの自分に納得が行かないなら、後悔のないこれからを生きるしかないじゃない。

さあ、みんなのところに戻って”

 

“これから”?僕にそんなものがあるのなら……わかったよ。やるだけやってみる。

朦朧とする意識の中で、よろよろと足を運び、日向創の前に立った。

彼が心配そうに問いかけてくる。

 

「どうしたんだ、しっかりしろ。……物凄い熱だぞ!とにかく横になるんだ!」

 

「いい。僕、決着をつけるよ」

 

「決着、だと……?」

 

周りの人達が緊張して、室内が張り詰めた雰囲気に包まれる。

またバーチャルハッカーで何かやらかすのかと思ったのかもしれない。

構わず僕はゆっくりと目を閉じる。そこで一旦意識を失った。

 

 

 

 

 

再び目を覚ますと、そこは奇妙な法廷だった。

果ての見えない白の世界に、証言台が円形に置かれただけの寂しい世界。

 

「ここ、どこ……えっ!?」

 

声が、元に戻ってる。江ノ島盾子の肉体に宿る前の、素の自分。

身体を探るけど、やっぱり安物のTシャツとジーパン。腕も男に戻ってる。

だけど、いつの間にか妙なものがそばに置かれていた。細長いそれを手に取る。

これは確か、三八式歩兵銃。まさかこれで……

 

“さっさとしやがれって言ってんだよ、グズ野郎!”

 

どこからか罵声が飛んでくると、同時に江ノ島盾子達が証言台に出現した。

これまで学級裁判で、現れては消えてを繰り返し、法廷を引っ張ってきた存在。

この大昔の銃で、彼女達と戦えっていうのか!?言弾(コトダマ)もないのに!

 

「お覚悟の程を。

この裁判で私達が勝利した暁には、肉体の支配権を明け渡していただきますので」

 

メガネの江ノ島が意味のわからない事を言う。

 

「勝利も敗北もないじゃないか!何も事件なんて起きてないのに!」

 

「あなたの理解能力のなさが理解できません。

ババ…年長の私の言葉を借りるなら、あなたはあなた自身と戦うのです。

もっとも、先程申し上げた通り、勝算はほとんど無に等しいですが」

 

「僕、自身と……?」

 

「そーだよー?

わたし達に頼り切ってきた君が、わたし達と決別できるか、ここで決めるの!」

 

「自分を、信じて。必ずできる。ずっとそばにいたアタシが保証する」

 

貴婦人のような江ノ島。彼女だけが僕の味方。逆に言うと他は全て敵だけど。

 

「無責任な、励ましですよね……そろそろ、始めませんか……?彼の、処刑裁判……」

 

「僕は……戦うよ。生きて、必ず、帰るんだ!」

 

決めた。もう一度、みんなのところに帰るよ。みんなを倒してでも!

 

「威勢がいいね。それじゃあ、見せてもらおうか、君自身の選択を、さ」

 

僕は古ぼけた銃を手に取り、最後の戦いに備えた。

 

 

■議論開始

コトダマ:弾薬欠乏

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

江ノ島(メガネ)

集団生活ができない。自己主張できない。競争社会に耐えられない。

無い無い尽くしの[あなたに居場所はない]というのが、世界が示した現実です。

 

江ノ島(凶暴)

大型の免許も持ってねえお前に何ができんだよ!

[何の取り柄もない]お前が生きててもしょーがねえんだよ!諦めて身体よこせ!

 

江ノ島(女王)

いいえ、外の世界の支配者になるのは私様の務め。[人に使われるだけ]のお前は、

せめて私様の踏み台におなりなさい!

 

江ノ島(泣き虫)

子供の頃からそうだった……勉強、スポーツ、対人関係……

誰でもできることが、[あなたにはできない]……

今まで生きてこられたのが、不思議です……

 

江ノ島(ぶりっ子)

言いにくいことなんだけど、やっぱり言うね!君ってどう見ても恋愛対象外!

[誰にも愛されない]んだよ?愛されないんだよ?大事なことなので2回言いました!

 

 

・駄目だ、どうしようもない……コトダマもないし、戦えない。

 やっぱり僕は、弱い人間なんだ……

・違う。これまでの修学旅行で学んだことを思い出して。あなたにも必ずある。

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

江ノ島(メガネ)

集団生活ができない。自己主張できない。競争社会に耐えられない。

無い無い尽くしの[あなたに居場所はない]というのが、世界が示した現実です。

 

江ノ島(泣き虫)

子供の頃からそうだった……勉強、スポーツ、対人関係……

誰でもできることが、[あなたにはできない]……

今まで生きてこられたのが、不思議です……

 

江ノ島(ぶりっ子)

言いにくいことなんだけど、やっぱり言うね!君ってどう見ても恋愛対象外!

[誰にも愛されない]んだよ?愛されないんだよ?大事なことなので2回言いました!

 

──僕はもう逃げない!

 

[誰にも愛されない]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

・……立ちっぱなしで足、痛くなってきちゃった。わたしそこで見てる~

・僕は戦うよ。どこまでできるかわからないけど。

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

江ノ島(メガネ)

集団生活ができない。自己主張できない。競争社会に耐えられない。

無い無い尽くしの[あなたに居場所はない]というのが、世界が示した現実です。

 

江ノ島(凶暴)

大型の免許も持ってねえお前に何ができんだよ!

[何の取り柄もない]お前が生きててもしょーがねえんだよ!諦めて身体よこせ!

 

江ノ島(女王)

いいえ、外の世界の支配者になるのは私様の務め。[人に使われるだけ]のお前は、

せめて私様の踏み台におなりなさい!

 

江ノ島(泣き虫)

子供の頃からそうだった……勉強、スポーツ、対人関係……

誰でもできることが、[あなたにはできない]……

今まで生きてこられたのが、不思議です……

 

──僕はもう逃げない!

 

[あなたにはできない]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

・こんなのに論破されました。悲しいので、後ろの方で泣いていますね……

・まずは、みんなのところに戻らなきゃ……!

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

江ノ島(メガネ)

集団生活ができない。自己主張できない。競争社会に耐えられない。

無い無い尽くしの[あなたに居場所はない]というのが、世界が与えた現実です。

 

江ノ島(凶暴)

大型の免許も持ってねえお前に何ができんだよ!

[何の取り柄もない]お前が生きててもしょーがねえんだよ!諦めて身体よこせ!

 

江ノ島(女王)

いいえ、外の世界の支配者になるのは私様の務め。[人に使われるだけ]のお前は、

せめて私様の踏み台におなりなさい!

 

[人に使われるだけ]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

──僕はもう逃げない!

 

・言っておくけど、こんな弾全然痛くなくてよ!疲れたから後ろに下がるだけよ!

・もう自分から逃げたりしない。“これから”のために!

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

江ノ島(メガネ)

集団生活ができない。自己主張できない。競争社会に耐えられない。

無い無い尽くしの[あなたに居場所はない]というのが、世界が示した現実です。

 

江ノ島(凶暴)

大型の免許も持ってねえお前に何ができんだよ!

[何の取り柄もない]お前が生きててもしょーがねえんだよ!諦めて身体よこせ!

 

──僕はもう逃げない!

 

[何の取り柄もない]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

・あー、うぜえ!なんでこんな弾に当たったよオレ!だりい、やってらんねー!

・取り柄なら、これから作るさ……!

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

江ノ島(メガネ)

集団生活ができない。自己主張できない。競争社会に耐えられない。

無い無い尽くしの[あなたに居場所はない]というのが、世界が示した現実です。

 

──僕はもう逃げない!

 

[あなたに居場所はない]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

・極めて陳腐な言弾ですが……食らってしまったからには仕方ありません。

 せいぜい悪あがきを。

・なんで気づかなかったのかな。居場所ならすぐそこにあったのに!

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

江ノ島(キザ)

聞いたことないかい?ダメな奴は[何やってもダメ]。

今更、一念発起したところで、何も変わりはしないのさ。長続きもしない。

 

──僕はもう逃げない!

 

[何やってもダメ]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

・ふぅ、生まれてくる肉体を間違えたよ。ま、やるだけやってごらん。

・君は間違ってないよ。いつも途中で諦めてたから、今まで何も出来なかったんだ!

 

REPEAT

 

江ノ島(マダム)

あなたは罪の意識に苛まれるだけだったみんなに希望を与え、

仲間の一人を過去の絶望から救い上げた!

それを可能にしてきた[[○勇気]]が、あなたにはあるの!

 

江ノ島(ギャル)

あんたさー、社会に馴染めなくて引きこもりになってんだよね。

だったら、[元の世界に戻っても同じ]なんじゃなーい?

 

──僕はもう逃げない!

 

[元の世界に戻っても同じ]論破! ○勇気(MEMORY):命中  BREAK!!!

 

・へー。まさか、あんたがアタシを倒すなんて、絶望……には飽きちゃった。

 責任取って面白いもん見せてよねー。

・君にとっては退屈かもしれないけど、全力であがいてみせるよ。

 

 

──僕は、生きる!みんなと、これからも!!  COMPLETE!

 

 

その時、最後の法廷から証言台すら消え、白の世界に僕と江ノ島盾子達だけが残された。

 

「やれやれ。賭けはあなたの勝ちだよ、マダム。彼と好きなことをすればいいさ」

 

「勝ちとか負けとかどーでもいいっての!早えーとこ、このつまんねえ所から出せや!」

 

「勝率0.00000012%の12に上手く飛び込んだようですね。

悪運だけは一人前のあなたらしいです」

 

「でもぉ~やっぱりわたし達の身体でもあるんだから、大事にしてよね!きゃるん!」

 

「グラディエーターの健闘を称え、褒美に私様の身体を貸し与える!

最大限有効に活用することを命じるわ!」

 

「これで……出番がなくなると思うと……涙が止まりません……」

 

「あんたさ。割とやるじゃん。死ぬ気で頑張れば今でも一般人に追いつけるかもよ~?

アタシがいるんだから当然だけどさ」

 

すると、精神体の江ノ島盾子達が歩み寄り、僕に重なり、一体化した。

最後に残ったのは、紫のドレスを着た、あの盾子。

彼女はハイヒールを鳴らしながら近づき、僕の手を取った。

 

「私を、選んでくれて、ありがとう……」

 

その手は、白く、なめらかで、とても暖かかった。

 

「あなたのおかげで、戦えました」

 

彼女はゆっくりと控えめに首を振る。

 

「自分の中に眠る勇気を、あなた自身が奮い立たせただけ。また、声を掛けるからね」

 

すると、彼女の姿も僕と重なる。視界が回転し、徐々に景色が描き変えられていった。

一旦僕の意識は闇に落ちる。

 

 

 

「……い!おい、江ノ島!返事をしてくれ!」

 

そして、再び目を覚ますと、僕を呼ぶ日向君の声。

少しずつまぶたを開くと、そこには必死に呼びかけてくるみんなのリーダー。

彼の瞳に映る僕の目は、

生まれて初めて抱いたもの、“自信”にあふれているように感じた。

そっと彼の手を握る。

 

「心配かけて、勝手なことして、ごめんなさい。

あなたや苗木君の事情も考えずに、また自分の思い込みで突っ走っちゃった。

前にも似たような間違いをしたわね。本当、アタシって駄目ね」

 

「江ノ島……あ、本名は違うんだったな。済まない……」

 

「いいの。アタシ、もうしばらくの間、江ノ島盾子でいることにしたわ。

よかったら、今までどおり呼んでね」

 

次に、床に座り込んだまま、安心と少しの驚きでアタシを見つめるソニアさんのそばに、

自分もしゃがみ、壊れ物を扱うように丁寧に肩を抱いた。

彼女と目を合わせ、柔らかい口調で告げる。

 

「ソニアさん。さっきの態度は謝るわ。どうか、許してちょうだい」

 

「は、はい!もちろんです!

……江ノ島さん、つかぬ事を伺いますが、一体何があったのですか?

先程とはまるで雰囲気が違います。

なんというか、失礼なんですが、母のような優しさを感じます」

 

「それは、内緒よ。秘密は女性を光らせるものでしょう?……そして、左右田君」

 

「はいっ!なんでしょうか!」

 

奇妙な状況でいきなり呼ばれて驚いたのか、敬語になってる彼に内心苦笑する。

 

「ソニアさんをお願いね。あなたがナイトで彼女がお姫様なんだから。

……う~ん、ちょっと違うわね。彼女も守られるだけじゃなくて、

左右田君が安心して戦えるように、背中を預けられる存在でいる。

そんな関係を築いてくれると嬉しいわ」

 

「あ、あったりめーだろ!ソニアさん守れるのはオレ一人だし!

まぁ…ナイト様なんてガラじゃねーけど、

とにかくそういう事っすから、大船に乗った気持ちでいてくださいっす。

つまり……愛してます!ソニアっさ~ん!」

 

「頼りにしてますね。でも、時々は左右田さんもわたくしを頼ってください。

じゃないと、寂しいですから」

 

「あーもう、せっかく盾子ちゃんが落ち着いてホッと一息ってときだってのに、

左右田のせいで騒がしいったらありゃしないわね。あっ」

 

呆れてため息をつく小泉さんの影から、西園寺さんが飛び出してきた。

 

「おねぇ、江ノ島おねぇ!わたし達のこと、嫌いになったわけじゃないんだよね!?

また仲間になってくれるんだよね!」

 

片膝を着いて彼女に目線を合わせて、語りかける。

 

「当たり前じゃない。心配かけて、ごめんなさいね。もう、大丈夫だから」

 

「ソニアおねぇの言う通り、江ノ島おねぇ、なんだかお母さんみたい。

……お願い、ぎゅっとして」

 

両腕を広げ、何も言わずに彼女を抱きしめる。甘えるように彼女も強く抱き返してくる。

 

「お母さん……お母さん……髪を撫でて。顔も、全部……」

 

慈しむように彼女の柔らかい髪や、小さな背中、うっすら紅いほっぺを優しく撫でた。

安心しきった表情で身を任せる西園寺さん。

しばらく温もりを分かち合うと、やがて彼女の方から身体を離した。

 

「ありがとう、おねぇ。

……お願いがあるんだけど、これからは日寄子って呼んでくれない?」

 

「うん、わかったわ。日寄子ちゃん……」

 

「わーい!お母さんが二人になったみたい!」

 

「よかったわね、日寄子ちゃん」

 

彼女が小泉さんのところに戻ると、

柱に背を預けて両腕を組む田中君がいつもの調子で……あら、様子が変ね。

 

「江ノ島盾子……お前の降臨は、あまねく光を、だな……YHVHがなんかして……

ええい、何故だ!どうして今日に限って上手く言葉にできないんだよ!」

 

「それはアタシにはわからないわ。スランプなんじゃないかしら。ウフフ」

 

「とにかく俺様が言いたいのは、お前が凄いってことだ!」

 

「ププッ、田中おにぃって中二語やめるとボキャ貧なんだね」

 

「うっさい、うっさい!」

 

「オレの口癖パクんなよ!」

 

レストランに笑い声が響く。

みんなといつまでも笑っていたいけど、現実的な問題を片付けなくちゃね。

今度は七海さんの元へ。彼女は笑顔で迎えてくれた。

 

「本当の意味で、戻ってきてくれたんだね。おかえりなさい」

 

「……ただいま。あなたにも、謝らなきゃ」

 

「それは、無しにしよう?

仲間なら道を踏み外したときに助け合うのが当然なんだから。

このプログラムで学習したことのひとつ、だよ?」

 

「ありがとう……さっそく、ウサミをあなたに返すわね」

 

アタシは電子生徒手帳を取り出し、バーチャルハッカーを立ち上げた。

真っ黒なウィンドウにコマンドを手早く入力し、実行する。

大量のメッセージが流れると、15秒ほどで、七海さんの隣に、ウサミが実体化した。

 

「ふぅ~やっと出られまちた。どうなることかと思ったでちゅ!」

 

「ごめんね。窮屈な思いをさせて……」

 

「ウサミちゃん!?どこを探してもいないから、削除されたと思ってた」

 

「消したのはステッキの能力だけ。

持ち主はパソコンのゴミ箱に当たる領域に格納してただけなの」

 

「ゴミ箱はひどいでちゅ!」

 

「ふふ。ごめん、ごめん。あくまで例えだから。完全削除の前段階よ」

 

「よかった、また会えて。ウサミちゃんも、おかえり」

 

「ただいまでち。

今、希望更生プログラムのログを参照ちて、事の一部始終を見せてもらいまちた。

……江ノ島さん。よく絶望を乗り越えて、さらに成長してくれまちたね。

あちしはとっても嬉しいでちゅ」

 

「みんながいてくれたから。気づくのが少し遅れたけど。

さあ、こうしてはいられないわ。日向君」

 

リーダーの日向君にしかできないことがあるの。

急いで欲しいような、欲しくないような、微妙なお願いなのだけど。

 

「俺に、何かできるか?」

 

「苗木君と連絡を取って、未来機関の艦で、

この島にアタシ達を迎えに来てくれるように頼んでくれないかしら」

 

「やってはみるが、それは難しいと思うぞ?前にも聞いたと思うが、

絶望の残党には、海自艦艇や塔和シティーで建造されたフリゲートの乗組員がいる。

現に奴らの妨害で未来機関が近づけないでいるんだ」

 

「それは問題ないわ。

もし敵艦と遭遇したら、相手に音声を送れるようにだけしておいてくれれば。

アタシがなんとかしてみせる」

 

「説得でどうにかなるような相手じゃないと思うが……」

 

「大丈夫よ。任せて」

 

「……わかった。すぐに苗木に救援要請する!」

 

日向君が、“信じる”と口にしなかったことが、かえって嬉しかった。

あらいけない。まだお願いしなきゃいけないことがあったわ。

 

「ちょっと待って。ついでにもうひとつ」

 

「なんだ?」

 

早速電子生徒手帳で連絡に取ろうとした日向君に、未来機関への要望を伝えた。

これは通るかどうかわからないけど。

 

「ははっ!なるほど。言ってはみるが、期待はするなよ。みんなもな」

 

今度こそ彼は苗木君に回線をつなぎ、ビデオ電話で通話を始めた。

小さな画面に映った彼は、相当緊張している様子。

中継も終わった今、こっちの様子は日向君を通さないとわからないから当然だけど。

 

“……日向君、そっちの状況は?”

 

「結論から言うぞ。全て解決した。江ノ島盾子に宿った彼も、俺達を許してくれた。

……江ノ島、悪いが顔を見せてやってくれ。あいつほとんど寝てないんだよ」

 

「もちろん」

 

日向君が手帳を差し出してきた手帳を受け取ると、彼にニコリと笑いかけた。

 

「お久しぶり、苗木君。元気だったかしら。

アタシはおかげさまで、やっとみんなとひとつになれた。2つの意味でね」

 

“江ノ島盾子さん……いやあの、あなたをどうお呼びするべきかわからないのですが、

報告が遅れ、その前に、とんでもない間違いを……

つまり、申し訳ありませんでしたぁ!!”

 

律儀に画面の向こうから顔が見えなくなるほど頭を下げる苗木君。

あら、ちょっとだけ頭のアンテナが見えてるわ。

 

「頭を上げて。

アタシもこの島に来て辛かったこともあるけど、手に入れたものの方が大きいから。

まだ女性の話し方を続けているけど、これはアタシの意思。ちょっと色々あるの。

それより、日向君の話を聞いてあげて。たくさん大事なことを伝えてもらわなきゃ。

もう代わるわね。どうぞ~」

 

努めて明るい調子で話し終えると、日向君に手帳を返した。

 

「聞いたとおりだ。……いつまで頭を下げてんだ。今すぐやってもらいたいことがある。

だからしっかりしろって!メモの準備は?ああ、言うぞ。まず必要なのは……」

 

やることはまだ残ってる。二人の会話を背に、彼女に近づく。戦刃むくろ。

縛られた彼女の隣に座ると、みんな困惑して手を伸ばす人もいたけど、

様子を見ることにしたみたい。むくろは、少し照れたような笑みを浮かべて喋りだす。

 

「あっ、来てくれたんだ……嬉しいな」

 

「そう。あなたがどういう状況なのか知りたくて」

 

「私は平気。盾子ちゃんのためにいつでもあいつらを……」

 

アタシは最後まで聞かずに、むくろの顔を両手で持って、目を合わせた。

そして彼女の心を分析する。……わかった。この娘は絶望に冒されてるわけじゃない。

彼女を動かしているのは行き過ぎた家族愛。善悪の判断を上回るほど強すぎる愛。

 

“時、来たりね。あなたの力で彼女を救うの”

 

わかってるわ。この身に宿った能力なら。……アタシは彼女の頭を少し引き寄せた。

 

「じゅ、盾子ちゃん?どうしたの。ちょっと恥ずかしいかな!」

 

「お前さん、一体何を!」

 

異変に気づいた弐大君が何か言いかけると、むくろの耳元でそっと何かを囁いた。

すると、彼女が呆然として動かなくなる。

同時に向こうから喜びとも悲鳴ともつかない声が聞こえてきた。

あら、迂闊だったわ。澪田さんの耳の良さをすっかり忘れてた。

むくろの縄を解くと、急いで彼女の元へ向かう。

 

彼女は立ったまま、恍惚の表情を浮かべて泡を吹いていた。

罪木さんが介抱するけど、口から吹く泡を拭き取ることしかできない。

 

「あばばばば……うへへへ」

 

「あぁ~澪田さん、正気に戻ってくださーい。ほら、大好きなティッシュですよ~」

 

「ごめんなさい!まだ能力が上手く制御できなくて。今、治すわ」

 

「えへらえへら」

 

「さっきお前さん、戦刃に何をしていたんじゃ?」

 

「今は少し待ってちょうだい!……澪田さん?聞いて」

 

アタシは澪田さんの耳を貸りて、今度こそ誰にも聞こえないよう、ひそひそと囁く。

途端に彼女は正気を取り戻し、口に泡を着けたまま喋りだした。

 

「はっ!うっかり昇天しそうになってたっす!恥ずかしながら、帰って参りました!」

 

「なんだー?お前持病でもあったのか?」

 

「違うっすよ、赤音ちゃん!

盾子ちゃんの、ほんの短い歌声を聴いたら、今まで味わったことのない夢心地に!」

 

「夢心地だぁ?どういうことだよ、江ノ島」

 

「アタシは歌声であらゆる物事に“調和”をもたらすことができるの。

……そろそろちゃんと自己紹介したほうがいいわね」

 

そして、白と黒のクマのヘアゴムを外し、

大きなツインテールを形作っていた長い髪を、左肩に流す。

さよなら、今までのアタシ。

 

「遅くなったけど、アタシは──」

 

 

○超高校級の女神

 

江ノ島 盾子

 

 

「「女神いぃーーー!?」」

 

まだ歌の効果で眠気が抜けず、時々頭がガクンとなる澪田さんを除き、皆がどよめく。

 

「自分で名乗るのも恥ずかしいけど、“彼女”がそう言ってるの。

戦刃に聴かせてたアタシの歌を聴いちゃった澪田さんが変になったのは、

少なからず緊張状態にあった彼女が、

歌で緊張がほぐれ、安心感が増幅されて心の安定を取り戻した……はずだったんだけど、

リラックス効果が強すぎたみたい。

ごめんなさいね、澪田さん。まだ江ノ島盾子8人分の力を制御しきれてなかったの」

 

「それはいいっすけど…外に出たら唯吹とユニット組んでダブルボーカルで…ぐう」

 

「あらら、寝ちゃったわ。罪木さん、引き続き付き添いをお願いしてもいいかしら」

 

「は、ひゃい!」

 

「ん?江ノ島盾子はお前だけだろうが。8人もいるわけねえだろ」

 

「学級裁判の時、色んな人格が出てきたよね。彼女達のことだと思うよ?」

 

「ああ、あいつらか!結局キノコ食えなかったんだよな」

 

「七海さんの言う通り。

それぞれがアタシの中で眠っていた状態から、1人を除いて完全に一体化したの」

 

「ちょっと待て!……あ、少し保留だ、苗木。

さっきから騒がしいと思ったら、女神だとか、調和の能力だとか、

聞いたことないことばかりだぞ!もっと具体性のある説明をしてくれ」

 

苗木君との打ち合わせに忙しかった日向君が慌てて割り込んでくる。

確かに、未来機関を動かすには、論より証拠が必要ね。

 

「待ってて。……お姉ちゃん、こっちに来てくれるかしら」

 

縄を解かれて、歌が効き終わり、暇そうに振り子時計を眺めていた戦刃むくろが、

軍人らしいキビキビとした足取りで歩いてきた。みんなが思わず身を引く。

 

「どうしたの。盾子ちゃん」

 

「ねえ、もしここにナイフがあって、

アタシがこの中の誰かを刺してくれってお願いしたら、やってくれる?」

 

皆、いきなり超高校級の軍人に血生臭い質問をぶつけたアタシとむくろを、

固唾を呑んで見守る。彼女が口を開き、答えた。

 

「……良くない冗談だわ。盾子ちゃんでも怒るわよ」

 

「ごめんなさい。反省してるわ」

 

全員が安堵する。

暴走した妹への執着を常識的なレベルに引き下げ、身を潜めていた良心を解放した結果。

いつか日向君を銃撃した危険な軍人が、まともな回答を出したことに

みんなが驚きを隠せない。

 

「苗木、聞こえたか!?江ノ島には絶望の信奉者を正気に戻す能力がある!

その事も未来機関に伝えてくれ!」

 

“わかった!さっきの事も含めてすぐ上に報告するよ!一旦切るからね?”

 

「ああ、頼む!……江ノ島、お前、本当に神になってしまったのか!?

それに、あいつを“お姉ちゃん”って呼んでたよな。でも戦刃は……」

 

アタシは口元で人差し指を立てる。

 

「しーっ。あくまで才能の名前よ。不死身でも空を飛べるわけでもないの。

彼女とはしばらく本当の姉妹でいることにしたわ。いろいろ都合がいいし。

それより、みんなにお願いがあるの」

 

「あん?どうしたんだよ、改まって」

 

「戦刃むくろ。彼女を未来機関の迎えが来るまで、短い時間だけど、

新しい仲間として迎えてあげてほしいの」

 

「なっ……!お前正気かよ!

こないだバリバリ日向と撃ち合い…いや、日向は撃ってねえけど、

とにかく凶暴な奴なんだぞ!?」

 

九頭竜君は否定的な印象だけど、思わぬ人が同意してくれた。

 

「ぼっちゃん。私からもお願いします。

同じ死線をくぐり抜けてきた者同士わかるのです。

今の彼女の目は、力を自制できている、冷静な感情を保つ者の目です。

恐らくこの世界で過ごすのは、あと数日。

その短い時間を、拘束された者を気にかけながら費やすのは、少し……

寂しいと思うのです」

 

「……わあったよ。ならオレも信じてみるぜ。

戦刃じゃなくて、そいつを信じたペコをな」

 

「ありがとうございます」

 

「辺古山さん、ありがとう」

 

「自分の意見を申し伝えただけだ。

それで納得できないなら……人形の礼だと思ってもらって構わない」

 

ハルナちゃんにまつわる、あの事件を思い出したのか、

少し赤くなった顔を背ける辺古山さん。

ちなみに、ずっと後になって知ったことだけど、

辺古山さんは、戦刃むくろと刃を交えたことがあったらしいわ。それはまた、別の話。

 

「お姉ちゃん。どうして今まで縛られていたのか、わかる?」

 

「それがね。戦って負けた事実は覚えてるんだけど、

誰と、どういう状況で、何故戦ったのかは、どうしても思い出せないの」

 

「思い出せないなら無理に思い出す必要はないと思うわ。

誰も傷つかずこうして生きているんだから。

……改めてみんなにお願い。彼女にも、みんなと同じ生活を、送らせてあげて?」

 

少し沈黙が流れると、ひとりが前に出た。

 

「ボクは賛成するよ。ボクを絶望から救ってくれた江ノ島さんだもん。

きっと戦刃さんだって、立ち直らせてくれたって信じてるよ」

 

狛枝君の発言が呼び水となって、皆が次々と意見を述べる。

 

「さっそく今夜の夕食は一人分増やさなきゃね!」

 

「江ノ島おねぇがいいって言うなら……いいよ?でもここじゃわたしが先輩だかんな!」

 

「ふっ、神は既に俺の傍らに存在していた。その女神が告げるなら、何も言うまい。

……勘が戻ってきたぞ」

 

「なんかあっても、オレがソニアさん守るから心配はしてねーよ。

まあ、なんもないだろうけどな」

 

「わたくしも江ノ島さんのお姉様とお話しがしてみたいです。

少しの間ですが、よろしくお願いしますね」

 

「ふん。お人好し連中め。

しかし、この十神白夜の目の黒いうちは、誰も危険な目には合わせん。……好きにしろ」

 

「ガッハッハ!今日は色んな出来事が多すぎて、てんてこ舞いじゃ!

とりあえず、仲間が増えた。それだけ覚えておけばいいじゃろう!」

 

他にも嫌な顔をする人はいなかった。その上で彼女の意思を確認する。

 

「お姉ちゃん、どうかしら。知らない人ばかりだけど、アタシ達と暮らしてみない?

本当の修学旅行を、ね」

 

お姉ちゃんは少し考え込んで、みんなに伝えた。

 

「あの……改めて自己紹介するね。私は戦刃むくろ。盾子ちゃんの姉。

よかったら、みんなの修学旅行に加えて欲しいな?」

 

途端に広いレストランに喝采が響く。

それを受けて、アタシが復元したきり放ったらかしだった、ウサミが仕切り始めた。

 

「はいはーい!それでは、あちしの権限で、不正アクセス扱いだった戦刃さんを、

ゲストユーザーに変更しまちゅ!

今日はやむを得ないアクシデントが続いたので、労務もおちまいにしまちゅ!

みんな、ゆっくり戦刃さんと親睦を深めてくだちゃーい!」

 

ウサミが語り終えると、みんな一斉にお姉ちゃんに殺到した。

 

「ね、ね、超高校級の軍人ってことは、希望ヶ峰学園出身なんだよね?何期生なの?

アタシ、小泉。77期生。……前、ちらっと会った時と、イメージ変わったね?」

 

「よ、よろしく小泉さん。何期生かは、あんまり数えてなかったから……

盾子ちゃんよりは結構上だよ?最近の記憶は曖昧で。失礼なことしてたらごめんなさい」

 

「そんなことないよ。またゆっくりお話ししましょう」

 

「終里だ。オメー強いんだってな。前に江ノ島がボコボコになるまで姉妹喧嘩してたし。

今度オレとも勝負してくれよ!」

 

「うん、お手柔らかに。

でも、私が身につけてるのは殺人術だから、本気を出させない程度にお願いするね……」

 

「安寧もたらす女神の姉は、力振るいし戦乙女……まさに対を成す女神そのもの。

世界はそれほどまでに混沌(カオス)を求めるというのかっ!」

 

「えっ……どういうことなのかちょっとわからないな?」

 

「“江ノ島おねぇのお姉ちゃんに会えて嬉しい”って言いたいんだよ。

田中おにぃはいつもこんなだから、適当にあしらってりゃいいよ。わたし西園寺日寄子。

さっきも言ったけど、わたしの方が先輩だから。身長関係ねーから!」

 

「わかった。よろしくね?先輩」

 

「あのう、私、私、罪木って言います!

変な髪型してますけど、お、お友達になってくれますかぁ!?」

 

「もちろんよ。これからよろしく。罪木さん」

 

「や、やりましたぁ!えへへ……」

 

「九頭龍冬彦。九頭竜組の頭やってる。まあ、思うところがなくはねえが、

ペコが認めたんなら間違いはねえだろうよ。よろしくな」

 

「こちらこそ。受け入れてくれて、ありがとう」

 

アタシはそんな様子を遠巻きに見ていた。なぜかしら。

お互い偽物同士なのに、“姉”が仲間に囲まれていると、なんだか心が暖かい。

お姉ちゃんには、まずみんなと打ち解けてもらうことにして、

アタシは花村君の夕食の準備を手伝うことにした。

料理はできないけど、テーブルを拭いたり、お皿を並べたりすることくらいはできる。

 

あっという間に時間は流れ、夕食の時間。新しいメンバーを迎えた初めての食卓。

 

「「いただきます!」」

 

「い…いただきます?」

 

お姉ちゃんのぎこちない、いただきますと共に始まる夕食。

献立はパンとビーフシチュー、さいの目切りチーズが乗ったサラダ。

ウサミが隅っこのほうで耳を押さえて何か言ってる。

 

「今日くらい規則の事は忘れていいなんて、ちっとも思ってまちぇん。

なんとなく、見ウサ、聞かウサ、言わウサでちゅ!」

 

「へっ、話わかンじゃねえかよ……」

 

「うむ!規則は大事じゃが、守るためにあるものではない。

新入りの歓迎の時くらい、飲み、歌い、騒ぐがよかろう!飲むのは麦茶だけじゃが!」

 

ウサミの見て見ぬふりのおかげで、賑やかな晩餐となる。

やっぱり話題はお姉ちゃんのこと。

 

「やったぁ!ねえ、戦刃おねぇ。

ちらっと江ノ島おねぇから聞いたんだけど、塔和シティーってどんなところなの?」

 

「そうだね。いろんな都市インフラが世界最高水準で、

街中モノレールで圧倒言う間に移動できるし、

夜にはビル群の明かりがイルミネーションになってとっても綺麗なの。

特に、塔和ビルっていう、とっても高い建物があって、

そこでは……ええと、とにかくいろんな物を沢山作ってるのよ。

ごめんなさい、なんだか記憶がぼやけてて。もっと何かある気がしたんだけど」

 

「通常と異なる経路でこのプログラムに来たから、余分なところが抜け落ちてるだけよ。

現実に戻れば思い出すわ」

 

すぐさまもっともらしい理由をつけてごまかした。

“調和”を乱す要素が、歌の影響でおぼろげになってるのね。

 

「フシシ。

でも縛られなくなった分、江ノ島おねぇにあ~んしてもらえなくなって、残念よね」

 

「や、やめてよ西園寺先輩。思い出したら恥ずかしくなってきたじゃない……」

 

「こーら、日寄子ちゃん。あんまりむくろちゃんをからかわないの」

 

「は~い」

 

「戦刃さん。明日は日曜ですし、よろしければ、わたくし達で島を案内しましょうか?

牧場あり、屋台ありの楽しいところですよ。

あ、ビーチで海水浴もよろしゅうございますね」

 

「それは楽しそうだけど、私のために、本当にいいの?」

 

「モチのロンです。きっと皆さんも、もっとあなたと交流を深めたいと思っています」

 

「この俺に近づきたいなら、屋台村で食い倒れの旅を経験し、脂肪を蓄えることだ。

お前には贅肉がなさすぎる」

 

「それは、無いほうが健康的には、いいと、思うんですけど……」

 

「ぼ、ぼくは海水浴に一票を投じるよ!」

 

「はいはい、あんたはどうせ女子の水着姿が目当てなんでしょ?」

 

「あはー……小泉さんは、鋭いな~」

 

「花村がわかりやす過ぎるのよ」

 

「ボクは、みんなと一緒ならどこでもいいよ。

戦刃さん、実はボクもみんなと分かり会えたのは、ごく最近のことなんだ。

キミと一緒にみんなと更に距離を縮めたいと思ってる」

 

「いい考えだと思うよ?それじゃあ、明日はメンバー全員で遊びにいこうか」

 

七海さんがまとめてくれたけど、内心アタシはニヤついてた。

もっといいことがあるかもしれないから。

 

 

 

 

 

宴も終わって夜も更けて。アタシとお姉ちゃんは、シャワーを浴びて、

お姉ちゃんはウサミが支給してくれた衣類からパジャマに着替えた。

今はシングルベッドに二人で寝転んでる。

 

「ごめんねー狭くて。ベッドがひとつしか無いのは分かるとして、

このボロっちいテントだけは最後まで改善してくれなかったのよね。

……マリー、ちょっとどいててね」

 

久しぶりに再会したマリーも、割とスペースのある足元にどけるしかなかった。

 

「ううん。野宿よりマシだよ。お人形に名前付けてるの?」

 

「そう。この殺風景な家に花を咲かせてくれる大切な相棒よ」

 

「盾子ちゃん、かわいい趣味があるのね。いつもはもっと派手なのが好みなのに」

 

「えーと、それは、アタシにも人形を可愛がる女の子らしさはあるっていうか……」

 

「フフ、ごめんなさい。そうよね。姉妹なのに、まだまだ知らないことがあるわね」

 

「どっちも、一人の人間だからね。そろそろ寝ようか。電気、消すわね」

 

「うん、お願い」

 

アタシは白熱電球の紐を引っ張って、電気を消そうとした。

すると、手帳に1通のメールが。

 

 

送信者:<送信者不明>

件名:大丈夫?

 

モナカだよ。

あれから連絡がないけど、何かあった?

資料が足りないなら、言ってね。ここなら何でも揃うから。

むくろお姉ちゃんもいるし、二人ならなんでもできるよね!

お返事、待ってまーす。

 

 

黙って、そのメールを削除した。塔和モナカには気の毒だけど、

彼女の知る江ノ島盾子はもう死んだ。返事が来ることもない。

 

「どうしたの。誰から?」

 

「うん。日寄子ちゃんから、おやすみって」

 

「かわいいね、あの娘」

 

「そうね。アタシにも妹ができたみたい」

 

今度こそ明かりを消して、寝床につく。

隙間から差し込む月明かりで、真っ暗にはならないけど。苗木君の返事が楽しみ。

もし通ったら、楽しいことになるんだけど。

目を閉じると、アタシもお姉ちゃんも、知らない間に疲れが溜まってたのか、

すぐ眠りに落ちてしまった。

 

 




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