江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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第19.2章 江ノ島盾子、最後の事件?

一言で言うと、その日の第十四支部は、荒れていたの。

 

「きゃっ……ああ、ごめんなさい!私の不注意で、申し訳ありません!」

 

「いえ、ぶつかったのはお互い様よ。アタシもよそ見を……」

 

言い終える前に、女性局員は、落とした書類を急いで拾い集めると、

何度も頭を下げながら行ってしまった。

……ここ第十四支部に来てから、こんなことは珍しくない。

初めてこの世界に来た時から180度変わったと言えば伝わりやすいかしら。

 

局員の人達がアタシに過剰なまでにへりくだって気を遣う。

警備兵とすれ違えば、廊下の端に張り付いて通り過ぎるまで敬礼する。

正直こんな対応は求めていない。お互いが当たり前の礼儀を尽くせればそれでいいのに。

 

「そうは思わない?霧切さん」

 

1階ロビー。休憩スペースの影で壁にもたれていた彼女に問う。

 

「無理もないでしょう。直接的ではないにしろ、今まで絶望とは無関係の人間に対して、

唾を吐きかけムチを打つような行為に加担してきたんだから。

まともな倫理観を持っているなら、罪の意識や引け目を感じて当然。気にしないことね」

 

「気にするわよ。もう、他人事だと思って。これじゃ落ち着かないわ」

 

「昨日あなたが持ち出したキリストだって、迫害を受け処刑されたけど、

3日後に復活して神とされたじゃない。

そういえばあなたも女神よね。そのプロセスはよく似てるわ」

 

「それとこれとは話が違うわよ。こんなんじゃまともに作戦が……」

 

その時、入り口の辺りから戸惑う局員の声と、電子的な音声が聞こえてきた。何かしら。

 

「困ります!あの方は難しい立場でして、面会なさる場合は事前にアポを頂かないと!」

 

“無礼を承知でお願いしてまちゅ。面会の約束をするにも、機密保護の観点から、

支局間の接続回数は極力抑える必要があると考え、こうして直接お訪ねした訳でちゅ”

 

「……かしこまりました。少々お待ちください。今、支局長に連絡を……あっ!」

 

“いまちた!江ノ島盾子さーん!”

 

アタシ達は不思議なやり取りを呆然と見ていた。

局員はスーツを着た普通の男性。問題は女の子の方。

一人乗り自動車と言えるくらい大きな電動車椅子に乗っていて、

幅の広いマフラーを口まで覆うほど厚く巻いている。

 

銀髪のショートヘアから覗く目からは、表情というものが感じられない。

その代わり、車椅子前方に設置されたモニターに映るキャラクターが流暢に喋っている。

よく見ると、そのキャラクターは……ウサミ!?

 

奇妙な女の子の出現に驚くと同時に、

彼女がアタシを呼びながら猛スピードで突っ込んできた。そして目の前で急ブレーキ。

その子の姿を見て、霧切さんが遅れて驚いた声を上げる。

 

「月光ヶ原さん!?どうしてここに!」

 

“霧切さん、ごめんなちゃい。

あちし、どうちても江ノ島盾子さんに会いたくて、来てしまいまちた”

 

「ねえ霧切さん。この娘は誰なの?」

 

彼女が渋い顔をしながら、説明してくれた。

 

「……月光ヶ原美彩さん。元超高校級のセラピストで、第七支部の支部長よ。

うちとは業務の管轄が違うからここに来る用事は滅多にない、はずなんだけど?」

 

そして、月光ヶ原さんという女の子にちらりと視線を送った。

モニターの中のウサミが両手を合わせて謝る。

 

“本当にごめんなちゃい。江ノ島盾子さんに助けてもらいたくて、

あなたが滞在している第十四支部にお邪魔しちゃいまちた”

 

「助ける?あ、はじめまして。月光ヶ原さんだったかしら。

アタシに助けられることと言えば……誰か局員の人が絶望ビデオを見てしまったとか?」

 

「ねえ、月光ヶ原さん。

間もなく大規模な作戦を控えていることは各支部に通達されてるはずよね?

その後じゃいけない理由を教えてくれると嬉しいんだけど」

 

冷めた目で月光ヶ原さんを見る霧切さん。

あら?元超高校級児なら、少なく見積もっても大学生くらいのはずだけど。

小柄でぬいぐるみのような愛らしさがあるから、まだ高校に入ったばかりに見えるわ。

 

月光ヶ原さん(本体)が、目を閉じて何かの思索にふける(ように見えた)。

そして彼女の真意を打ち明ける。

 

“もちろんでちゅ。こうして江ノ島さんを頼ってきたのは、

超高校級の女神の才能が目的……ではありまちぇん!”

 

「じゃあどうしてわざわざアタシに会いに来たのかしら。

能力以外は特にできることはないわよ?」

 

「私達も暇ではないのだけれど」

 

“いいえ、とっても深刻な案件なのでちゅ。どうか力を貸してくだちゃい!”

 

「お願い、これ以上もったいつけないで。そろそろオフィスに戻らなきゃ」

 

“あちしの人見知りを治して欲しいんでちゅ!”

 

「出口まで見送るわ」

 

“待ってくだちゃい!これは塔和シティー攻略にも関わるんでちゅよ?

あちしがスムーズにエンジニア達とコミュニケーションが取れるようになれれば、

江ノ島さんの絶望をかき消す才能を、

より増幅するシステムが作れるかもしれないんでちゅ。

つまり、回り回って世界の復興に繋がるんでちゅよ!”

 

「あなた、人見知りなの?」

 

初対面の彼女に尋ねてみると、月光ヶ原さんがコクコクとうなずく。

 

「そう。こうしてキャラクター越しでないと会話ができないくらいね。

ちなみに、希望更生プログラムを作った中心人物なの」

 

「本当!?」

 

目の前の物言わぬ少女が、あのジャバウォック島の世界を作ったなんて。

この世界って不思議。

そう言えばダンガンロンパの世界って、アタシの世界に似てるようで、

かなりテクノロジーが進んでるわね。

 

「でも、人見知りとアタシに何の関係があるのかしら」

 

“江ノ島さんがこの世界に来た当時の事情聴取の記録を読みまちた。

するとそこには驚愕の事実が!

イケイケのギャルが元は引きこもりのコミュ障だったのでちゅ。

それが今では、すっかり超高校級の女神にふさわしいリア充に大変身。

あちしも江ノ島さんみたいに生まれ変わって、

自分の言葉でみんなとお喋りしてみたいんでちゅ。

江ノ島さん、お願いでちゅ……元コミュ障として現役を助けると思って、

あちしに人見知りを治すアドバイスをくだちゃい”

 

「あまりつつかれたくないところを突かれたからこんなこと言うわけじゃないけど、

アタシからアドバイスできることはないわ。

ジャバウォック島でみんなと過ごすうちに、いつの間にかこうなっていたから。

自転車に乗れるようになった人が、なぜ今まで乗れなかったのか忘れてしまうようにね。

強いて言うなら慣れしかないわね。挨拶から初めてみたらどう?」

 

“慣れ、でちか……”

 

「これで気が済んだでしょう?

わかってるだろうけど、不要な外出も無用な通信と同じくらい危険なの。

空が比較的明るい今のうちに帰ったほうがいいわ」

 

“わかったでちゅ”

 

「車で来たのよね。ゲートまで付き添って……」

 

“なるほど、学級裁判をクリアすればいいんでちね!”

 

「「はぁ!?」」

 

どう解釈すればそうなるのか。驚き半分呆れ半分で、二人同時に素っ頓狂な声を漏らす。

 

“あの放送、あちしも見ていまちた。

江ノ島さんは学級裁判を乗り越える度に強くなって、みんなとも仲良くなりまちたよね?

なら、あちしも学級裁判に参加すれば、

人見知りを治して普通の人みたいに喋れるはずでちゅ!”

 

「う~ん、勘違い暴走タイプの困ったちゃんなのね。

月光ヶ原さん?学級裁判は、事件が起きないと開かれないの。

今は世界が崩壊している事以外は至って平和よ。

あなたの力にはなりたいけれど、こればかりはどうしようもないの」

 

“問題ありまちぇん!

過去、実際に起きた事件のデータベースを検索して、例題を探しまちゅ”

 

「例題?」

 

“そう!江ノ島さんや77期生の皆さんには、その事件の関係者になってもらって、

模擬裁判を行うのでちゅ。当然誰がクロかは秘密でちが”

 

「でもそれだと、事件をピックアップした月光ヶ原さんには、

誰がクロかバレバレなんじゃないの?やると決めたわけじゃないけど」

 

“事件の関係者と裁判の参加者は、表計算ソフトの関数でランダムに決めまちゅ。

あちしがクロなら必死に逃げまちゅし、シロなら徹底的に追い詰めまちゅ。

誓ってズルは致しまちぇん。あちしのリア充ライフがかかってまちゅから”

 

すごい速さで手前のキーボードを打ちながら、月光ヶ原さんが早くも準備を進める。

 

「勝手に話を進めないで。

……それに、あなたがやろうとしていることがどういうことか、本当にわかってるの?」

 

心なしか霧切さんの声が硬くなった。

はたとタイピングの手を止めて彼女の目を見る月光ヶ原さん。少し怯えたような表情。

 

「学級裁判というのは、絶望の江ノ島盾子が造り出したコロシアイのいわばゲーム。

そこに放り込まれた年端も行かない学生たちが、

極限状況で追い詰められて誰かを殺めた結果、

疑い合い、時には罵り合う、悲惨な現場なの。

あなたにはその事を十分わかってもらえてないみたいね。

真似事とは言え、彼らにまた同じ経験をさせようとしているんのだもの」

 

手厳しい言葉に、月光ヶ原さんがわずかに目を伏せて、カタカタとまたキーを打つ。

 

“ごめんなさい……私がどうかしてたわ。

そうよね。学級裁判がそんなに甘いものじゃないことはわかってたはずなのに。

でも、私も軽はずみな気持ちでこんなお願いをしたわけじゃないの。

私、こんな性格のせいで、小さい頃からひとりぼっちで。

その寂しさを知ってる江ノ島さんについ頼ってしまったの。本当にごめんなさい。

……もう、帰るわね”

 

彼女が車椅子を音もなくターンさせて、去っていく。

その後姿に、どこか過去の自分を重ねてしまう。

どうしようかしらね。ただの同情でしかないのはわかってるんだけど。

 

「ねえ、霧切さん。

今回限りっていう条件で、彼女に協力してあげるわけにはいかないかしら」

 

「江ノ島さんまで何を言うの?学級裁判で特に辛い思いをしてきたあなたが」

 

「ひとりきりの寂しさはアタシにもわかるの。

あの様子だと、月光ヶ原さんが味わってきた孤独は並大抵じゃない。

誰かを頼るのにも勇気が要るの。それに免じて、アタシからも、お願いできないかしら」

 

彼女が少し迷ってから大きくため息をついて、一言。

 

「江ノ島さん。あなた、強くなったけど、甘くもなったわね」

 

「それが、人間だから」

 

「わかったわよ。……月光ヶ原さん、ちょっと」

 

“はいでち!!”

 

待っていたかのように、大きな車椅子がUターンして猛烈なスピードで戻ってきた。

いろんな機能が搭載されてるであろう、大型の物体が迫ってくるとすごい迫力。

左右田君に改造してもらえば、昔遊んだ戦車で戦えるRPGみたいに、

大砲と機銃1門ずつくらいは装備できそうね。

 

「今から待機中の77期生達に開廷の是非を問う。

一人でも嫌だという人がいれば諦めて。それでいい?」

 

“もちろんでち!ありがとうございまちゅ!江ノ島さんも霧切さんも親切でちゅ”

 

「ぬか喜びになるかもしれないから、まだそんなに喜ばないほうがいいわよ?」

 

「その通りね。

はぁ……私は本当に用があるから、参加できない。苗木君にも声を掛けなきゃ」

 

霧切さんは心底うんざりした様子でタブレットを取り出し、

仲間達にメールをしたためた。

 

 

 

 

 

結果、アタシ達はご覧の通り、

空いていた会議室を貸してもらって全員集合したってわけなの。

円形のテーブルがまるで法廷の証言台のように見えるのは気のせいかしら。

 

“みなちゃん、はじめまちて!未来機関第七支部長の月光ヶ原美彩でちゅ!

今日はあちしのために集まってくれて感謝の言葉もありまちぇん”

 

「あらあら、可愛らしい支局長さんですのね。お人形さんみたいですわ」

 

“えへ、照れまちゅ”

 

「他支部のまとめ役が来たと言うから何かと思えば、人見知りを治してくれ?

未来機関は深刻な人手不足に陥っていると見える。

俺は忙しい。塔和シティー奪還後の世界再生プランを練っているところだというのに」

 

“あう、ごめんでち……”

 

さっそく十神君が文句をつけてるわ。無理もないけど。書記係の苗木君がフォローする。

 

「まあ、みんな忙しいのはわかるけど、協力してあげてくれないかな。

メールにも事情は書いたけど、希望更生プログラムは、

彼女が中心になって開発されたんだ。

月光ヶ原さんのコミュニケーション能力が向上すれば、

江ノ島さんの能力の底上げにつながるかもしれない。

それは世界復興を前進させることになる。はずなんだ」

 

「はぁ。それでモニターの中でウサミがちょこまかしてたわけね。

まさかアタシ達の世界を作ったのが、この大人しそうな女の子だなんて」

 

「小泉おねぇが言うから来てやったけどさぁ。

結局あのコミュ障女の治療を手伝えって話でしょ。すんげえバカバカしい。

……月なんとかって言ったっけ?自分の口で“こんにちは”くらい言ってみなよ。ほれ」

 

日寄子ちゃんが扇子で月光ヶ原さんを指すと、彼女は不安げに目を泳がせてキーを打つ。

 

“ごめんちゃい。こうして大勢の前に出るのが精一杯で、

しかも喋るなんてハードル高すぎて無理でちゅ……”

 

「そんでよく偉いさんが勤まってるよな!

豚足ちゃんの言う通り、おたく、よっぽど人手が足りてないんだね~」

 

見かねた日向君が救いの手を差し伸べる。

もっとも、彼も早く終わらせたい感を醸し出してたけど。

 

「気持ちはわかるが、これも労務の一貫として手早く片付けようぜ。

ピッケルで鉄を掘り出したり、ノコギリで木を切り倒すよりは楽だろう?」

 

「うむ。破壊神暗黒四天王に供物を捧げる運命の刻が迫っている。

長き時の針が時空を二度切り裂く前に手を打たなければ、彼の者達は制御を失い、

俺にも何が起きるかわからない」

 

「“ハムスターちゃんの餌が遅れると暴れて大変”で、よろしいのでしょうか。

はい、わたくしも田中さんの暗号解読が楽しくなってきました!」

 

「慣れると面倒くさくなるっすよ、ソニアさん。

ったく、新発明もノッてきたところだったのによー」

 

「でも、一部の人を除いて、ボク達は特に何もしてないのに衣食住を与えられてるよね。

今は妙な事件でその辺りあやふやになってるけど、

本来はまだ刑に服しているはずなんだ。

日向クンの言う通り、元の世界を取り戻す足しになるなら、

模擬裁判くらいやってもいいんじゃないかと思うよ」

 

急に皆が静まり返る。そうだったわね。

ジャバウォック島から脱出はしたけど、皆が無罪放免になったわけじゃない。

あくまでセキュリティに穴が見つかった危険なプログラムから、

とりあえずログアウトしただけ。刑期も労務も皆が自分で決めたものではあるのだけど。

 

「ちぇっ、しゃーねえな。ほんじゃ、さっさと終わらせますか。

で、結局オレ達は何をすればいいんだ?」

 

「タブレットは必ず持参、とのことじゃったが、何に使えばええんじゃ?」

 

“みなちゃんには、今から送信するタブレットの情報から、

例題となる殺人事件のクロを探し出してもらいまちゅ。後の流れは学級裁判と同じ。

どしどし意見を戦わせてくだちゃーい”

 

「テメエも参加しねえと意味ねえんだぞ?

例題だかなんだか知らないがさっさと送れや」

 

“は、はい!同時にみなちゃんには、事件関係者のひとりを演じてもらいまちゅので、

その役になりきって議論してくだちゃい。

つまり、クロの人にだけ、「あなたがクロです」と教えますので、

シロがクロを追い詰めるという構図になりまちゅ。

ちなみに配役は厳正なる抽選の結果、

こちらでランダムに選ばせてもらいまちたのであしからず。では、ポチッとな”

 

月光ヶ原さんがエンターキーを押すと、

間もなく全員のタブレットに何らかの情報が送られてきた。

 

 

1・事件概要

 

某月某日、教会兼住宅で、建物の主人R氏が殺害された。時刻は午前10時頃。

シスターのJ氏が教会部分でミサを開いていた時、

住居スペース2階のR氏の部屋から銃声が響き、住人全員が駆けつけた所、

R氏が頭を撃たれて死亡していた。

当時R氏の部屋には鍵が掛かっており、同居人のL氏がドアを蹴破って中に入り、

事件が発覚した。

 

2・事件現場

 

現場となった建物は特殊な形状をしている。真上から見下ろすとT字型をしており、

東西に横に伸びている部分が2階建ての住居スペース。

そこに突き刺さるように南北に位置しているのが、教会部分である。

住居と教会はドア1枚で繋がっており、行き来は可能。

 

住居スペース1階にはダイニング、子供部屋、シャワールーム、トイレ、物置。

2階には各住人の私室がある。

教会は説教台の前に長椅子が並べられ、50人ほどが座れる、

それほど大きくはない規模だ。

 

 

■コトダマ

 

○被害者:R氏 (終里赤音)

事件の被害者。年齢は20代前半。無職。自堕落な性格で、かなりの資産家である。

熱烈なガンマニアで、

拳銃のみならず、ショットガン、サブマシンガン等を多数所持しており、

最近では防犯用と称し、建物にガトリングガンも設置した。無類の酒好きでもある。

 

○シスターJ氏 (ソニア)

教会の管理や運営を担当している修道女。

熱心に布教活動を行っており、信者からの信頼を集めている。

昼間から酒を飲み、神聖な空間に銃器を持ち込むR氏を、内心快く思っていなかった。

事件当時は教会でミサを開いていた。

 

○同居人L氏 (辺古山ペコ)

R氏と同居する用心棒。近接戦闘を主とし、被害者とは特にトラブルなどはない。

多額の親の遺産がある。

事件当時は、2階へ続く階段と隣接するダイニングで水を飲んでいた。

 

○同居人P氏 (西園寺日寄子)

住居スペース1階に住む少女。R氏には可愛がられていた。とても小柄な体型。

 

○同居人K氏 (澪田唯吹)

R氏の妹。特殊部隊に所属しており、様々な技能を持つ。

姉妹の仲は良く、誰よりも姉の事を慕っている。事件当時は自室にいた。

休日でも緊急出動に備えて、軍服を着て髪をピンで整えている几帳面な性格。

 

○ミサの参加者(その他)

事件発生時、皆で賛美歌を歌っており、

住居スペースには誰も入っていない事が確認されている。銃声は全員が耳にしている。

 

○現場写真

2階にある部屋の中央に、頭から血を流すR氏が倒れている。

辺りには彼女の所有する銃器が散乱している。

ガンロッカーは開いており、中には何も入っていない。

散らばっている銃は、この中に収められていたものと考えて間違いない。

 

○散らばった銃

通常の回転式拳銃の他、

ハンドキャノンに分類される大型拳銃、ショットガン、サブマシンガン等。

 

○R氏の部屋の鍵

被害者R氏の部屋の中に落ちていた。当時彼女は鍵を掛けて部屋の中にいた。

 

○ガンロッカーの鍵

R氏が所有している銃を収めているガンロッカーの鍵。

部屋の鍵と同じく部屋の中で発見された。

 

○検死結果

死因は頭を撃たれたことによる脳損傷。

弾丸は一発が額を真っ直ぐ貫いており、即死だった。

 

 

皆が事件の資料とそれぞれの配役に沿ったシナリオを読み終えた。

典型的な密室殺人なんだけど、なんだか変な事件ねえ。

 

「なんだ、オレが殺されてんのかよ~しかもスゲエ駄目人間だし」

 

“あ、もちろん被害者役の人も議論に参加してくれてOKでちゅよ?”

 

「しかし、ずいぶんと変わった家族関係だな。立場も職業もてんでバラバラだ」

 

“色々複雑な事情があったみたいでちゅ。辺古山さんの疑問はもっともでちゅが、

事件に関係ないことは確認済みなので、詳しくは説明ちません。長くなりまちゅし”

 

「つーかオレら全員モブかよ!その他ってなんだよその他って!」

 

「フン、現実でも似たようなものだろう。

この十神も甘んじてその他大勢を引き受けてやってるのだ。我慢しろ」

 

「納得いかねー!」

 

「タハー!唯吹が軍人になっちゃったっす!確かに速弾きはマシンガン並っすけど!」

 

「なぁ、これ本当にランダムに決めたのか?何か意図的なものを感じるんだが……」

 

“それは日向君の主観でちゅ。確かに表計算ソフトに無作為に選ばせまちた。

話は変わりまちゅが、

これは硝煙反応や線状痕鑑定等の科学捜査が存在しない国の事件でちゅ。

その点ご承知の上、議論をしてくだちゃい”

 

「ご承知はするけど、あなたもしっかり議論に加わるのよ?

さっきから参加者じゃなくて進行役みたいな口ぶりだから、心配になっちゃうわ」

 

実際かなり心配なの。まともな審理になるのかしらね。

 

“もちろん!それでは、模擬学級裁判、開廷でちゅ!!”

 

「ちょっとその前にいいかな」

 

“あらら”

 

高らかに開廷を宣言したものの、狛枝君に止められて出鼻をくじかれる。

 

「ひとつだけ確認しておきたいんだけど、もしクロが見つかったら、

“おしおき”みたいな物はあるのかな。

過去の事件とは言え、学級裁判を名乗るからには、

なにかあるのかな、と思っちゃうんだ」

 

“もちろんそんなものありまちぇん。

でも、どんな結果が出ても、今回あちしのわがままに付き合ってくれたみんなには、

お礼のプレゼントがありまちゅ!”

 

「えへへ、それってなんですかぁ?

悪い子におしおきするような物だと喜んじゃいますぅ」

 

“それは終わりまで秘密でちゅ。では改めて……”

 

 

【学級裁判(仮) 開廷】

 

 

とうとう始まったけど、何をどうすればいいのやら。

やっぱり日向君にスタートを任せましょう。

苗木君は、一気に提示された事件概要や証拠品を、

議事録にまとめるのに忙しそうだから。

 

「模擬裁判とは言うものの、かなり難しい事件だな。

物証が少なすぎるし、被害者は完全に密室で殺害されてたんだよな」

 

「動機だけ見ると怪しい人は居るけど、それだけじゃ決めつけられないよね。

やっぱり殺害方法じゃないかな。被害者は密室で撃たれたのは間違いないけど、

どうやって密室を作ったのかは、ぼくにはわからないな……」

 

「わかんねーなら黙ってろっての、エロコック!……じゃあ、その辺から詰めようよ」

 

「コック?いけないなぁ、西園寺さん。君みたいな大和撫子がそんな言葉を。フフフ」

 

「黙りなさい花村!もう、こんな馬鹿ほっといていつもの始めよう?」

 

「ちょっと待って、小泉さん」

 

「え、どうしたの盾子ちゃん」

 

彼女に必要な武器がないわ。

アタシは、月光ヶ原さんの耳を借りて、ポソポソと二言三言つぶやく。

すると、彼女が狐につままれたように目を見開いて、キーボードを叩き始めた。

 

“何か、心にカロネード砲のような大砲が生まれたような気がしまちゅ!

江ノ島さん、これはなんでちゅか!?”

 

「それで証言の矛盾を破壊するの。証拠、すなわち言弾(コトダマ)を装填してね。

アタシの中のアタシと協力して、言葉を通じて心をシンクロさせ、

あなたに合った武器を生み出させたの。さあ、戦って」

 

“やっぱり江ノ島さんはすごいでちゅ!俄然やる気が出てきまちた!

それでは、張り切っていきまちょう!”

 

「何だったの?」

 

 

■議論開始

コトダマ:○検死結果

 

日向

まずは凶器を特定しよう。被害者は[かなりのガンマニア]だったから、

彼女の所持品で間違いないと思う。

 

九頭竜

所持品つっても色々あるだろうが。[ピストル]、[ショットガン]、[マシンガン]。

その中のどれが犯行に使われたのかってのが問題なんだろう。

 

終里

オレを殺した凶器か?そう言われてもなぁ。オレは即死だったんだろ?

だったら一番でかい[ハンドキャノン]でふっとばしたに決まってる。

 

弐大

強力な拳銃なら[一撃で仕留められる]はずじゃからのう。

 

・なんだか妙なことになってるみたいだけど、

 初心者にはこれくらいがちょうどいいわね。

・寝てたところごめんなさい。彼女にも銃というか大砲が必要だったから。

 

REPEAT

 

日向

まずは凶器を特定しよう。被害者は[かなりのガンマニア]だったから、

彼女の所持品で間違いないと思う。

 

九頭竜

所持品つっても色々あるだろうが。[ピストル]、[ショットガン]、[マシンガン]。

その中のどれが犯行に使われたのかってのが問題なんだろう。

 

終里

オレを殺した凶器か?そう言われてもなぁ。オレは即死だったんだろ?

だったら一番でかい[ハンドキャノン]でふっとばしたに決まってる。

 

──異議あり!

 

[ハンドキャノン]論破! ○検死結果:命中 BREAK!!!

 

月光ヶ原さんと、モニターの中のウサミが、高々と手を挙げる。

電子音声が砲声のように場を切り裂く。

珍客のさっそくの発言に、皆が一斉に彼女を見た。

 

「んー?なんかおかしいか?即死なら強いピストルのほうがいいと思ったんだけどよ」

 

“検索、「ハンドキャノン」。大型で破壊力の大きい拳銃の総称。

被害者は額を銃弾で撃ち抜かれて死亡してまちゅ。

手持ちの大砲とも呼ばれる強力な銃で撃たれたら、頭部が粉々になり、

検死結果の脳損傷どころでは済みまちぇん!“

 

「散弾をばらまくショットガンや、高速で複数発射するサブマシンガンも、

似た理由で無しだよね。やっぱり遺体の状況と一致しない」

 

「わーい、小泉おねぇ冴えてるぅ!」

 

「なるほど~そっか。わり、オレ銃のこととか知らなくってよ」

 

「なら、やっぱり凶器は通常の回転式拳銃ってことになるな」

 

「日向君の言う通りね。月光ヶ原さん。後から誰かが小型ピストルを隠し持ってた、

なんて後出しは無いわよね?」

 

学級裁判が初めての彼女が、きちんと段取りができているか念の為確認。

 

“配布した証拠が全て……とは言い切れないんでちゅ。

みんなが議論を進めて見つけ出した事実は、証拠として加わりまちゅ”

 

「わかったわ。あと、悪いんだけど異議申し立ての言葉を変更してくれないかしら。

別ゲーになっちゃうから」

 

“一度言って見たかったんでちゅが、世界の法則には逆らえまちぇんね……

わかりまちた”

 

「おい。こんなにチンタラやってたらいつまで経っても終わんねえぞ。

もっと核心的なとこ当たれや」

 

「核心的とはどういうことでしょう、ぼっちゃん」

 

「しっかりしろよ、ペコ。容疑者だ。

登場人物ン中で、怪しい奴の怪しい部分を突いてくんだよ」

 

“なるほど。それでは今からお配りしたシナリオ通りにアリバイを証言してくだちゃい”

 

 

■議論開始

コトダマ:○同居人K氏(澪田唯吹)

 

ソニア

わたくしが教会の運営を担当しておりますシスターです。

確かに被害者の方とは[うまく行っていませんでした]。ですが、決して殺してなど!

事件当時も教会で信者の方々と賛美歌を歌っていました。

 

辺古山

私は彼女の用心棒だったのだが、守りきれなかった。

[彼女の部屋に続く階段]のそばにいたというのに。

 

西園寺

わたし?あの時は[1階のわたしの部屋にいた]よ。

まさかあの人が殺されちゃうなんて。もうお小遣いもらえないんだ……

 

澪田

唯吹は犯行時刻には自室にいたっす。

しかし犯人はどうやって密室で姉を殺したんすかね。

鍵も窓も閉めたまま逃げ出すなんて、[特殊部隊の隊員でも無理]っすよ。

 

左右田(その他代表)

ええと?オレ達はやっぱり教会でソニアさんと賛美歌を歌ってたから、

屋敷の主人なんて[殺しようがない]ぜ。

だがよう、シスター姿のソニアさんて、想像しただけで……いいじゃねえか!

 

・今回は比較的ユルヤカねえ。

・まあ、ゲストの体験学習の意味合いが強いから。

 

REPEAT

 

ソニア

わたくしが教会の運営を担当しておりますシスターです。

確かに被害者の方とは[うまく行っていませんでした]。ですが、決して殺してなど!

事件当時も教会で信者の方々と賛美歌を歌っていました。

 

辺古山

私は彼女の用心棒だったのだが、守りきれなかった。

[彼女の部屋に続く階段]のそばにいたというのに。

 

西園寺

わたし?あの時は[1階のわたしの部屋にいた]よ。

まさかあの人が殺されちゃうなんて。もうお小遣いもらえないんだ……

 

澪田

唯吹は犯行時刻には自室にいたっす。

しかし犯人はどうやって密室で姉を殺したんすかね。

鍵も窓も閉めたまま逃げ出すなんて、[特殊部隊の隊員でも無理]っすよ。

 

──そこまででちゅ!

 

[特殊部隊の隊員でも無理]論破! ○同居人K氏(澪田唯吹):命中 BREAK!!!

 

「ん~?なんかツッコまれるようなこと言ったっすか?

密室殺人のトリックを作るなんて、唯吹の頭じゃ無理というか不可能レベルっすよ」

 

“どちらかというと、犯行自体と言うより、

あなたに関する情報が足りてないことが問題なんでちゅ”

 

「情報ならタブレットに送られたデータをサラッと読んだんっすけどね」

 

“サラッとじゃ駄目でちゅ!他のみんなも大事な情報ハショり過ぎでいけまちぇん!

とにかく、澪田さんだけでもK氏に関するテキストを全部読んでくだちゃい!”

 

珍しく澪田さんがガチでうんざりした表情でため息をついてたけど、

気づかないふりをして拝聴する。

 

「えー、私は帝国軍所轄の特殊部隊に所属しており、実戦での戦闘はもちろん、

潜入調査や諜報活動も行っております。……これでいいすか?」

 

“ほらごらんなちゃい!重要な事実が隠れていたじゃないでちゅか!

軍人のK氏は銃器の扱いに長けているだけでなく、

ピッキング等スパイ活動に必要な技能も持っていたんでちゅ!

つまり、K氏は鍵のかかった被害者の部屋に入ることができた!”

 

 

○同居人K氏 (澪田唯吹:情報更新)

R氏の妹。特殊部隊に所属、諜報活動が主な任務であり、

ピッキング等、偵察に必須な技能を持つ。

姉妹の仲は良く、誰よりも姉の事を慕っている。事件当時は自室にいた。

休日でも緊急出動に備えて、軍服を着て髪をピンで整えている几帳面な性格。

 

 

あら、初めてにしてはやるわね。でも、慣れているみんなから早速反論が返ってくる。

 

「じゃが、資料を読むと被害者とK氏は仲が良かったとあるぞ。

わざわざ鍵をこじ開けなくとも、ドアを叩けば中から開けてもらえたと思うがのう」

 

「付け加えると、わざわざ密室を作った理由もわからん。

他の者ならアリバイ作りという動機も考えられるが、

凶器に銃が使われている時点で、軍人のK氏に疑いが及ぶことには変わりない」

 

「十神の疑問も最もであろう。それに、俺様の精神に下りし天啓は、

被害者の周りに多数の銃器が散らばっていた理由を白日の下に晒せ、

さすれば道は拓かれんと告げている」

 

“えーっと……どれから解決ちていけばいいんでちょうか”

 

論破したはいいけど、一気に3つも疑問が浮上して、

月光ヶ原さんも冷や汗をかいてキーボードを打つ手が止まる。

なんとなくこうなる予感はしてたけど。

仕方ないわね、少しだけ手を貸してあげましょう。

 

「仮説だけど、アタシはこう思うわ。

弐大君の言う通り、鍵は普通にノックすれば開けてもらえた。

密室にすることにも全く意味がないわけじゃないわ。

澪田さんの証言通り、軍人だからって誰でも密室を作り出せるわけじゃないんだから、

自分を疑いからある程度遠ざける効果はある。

最後に、田中君の疑問だけど、銃が散らばってたのは意図的なものじゃなくて、

犯行に及ぶまでの過程が残ったに過ぎないと思うの」

 

「過程だと?江ノ島よ。汝の言葉を裏付けるならば、

人の子が禁断の果実を食してから現在に至るまでの歴史を切り取り、

燦然と輝く太陽のごとく掲げ、我らを真実の光で照らす必要があろう」

 

「“過程について説明しろ”?それは月光ヶ原さんの仕事よ。

今日の模擬裁判は彼女の特訓でもあるんだから。

さ、ごちゃごちゃした疑問は整理したわ。後はお願い」

 

“わ、わかったでちゅ!”

 

 

■議論開始

コトダマ:○ガンロッカーの鍵

 

田中

では問おう。なぜ[遺体のそば]に彼女の銃が散乱していたのか。

 

ソニア

証拠資料の写真にも、[いろんな種類]の銃が写っていますわね。

 

左右田

そりゃ、犯人が[どの武器で]被害者を殺害するか迷ったんじゃねーっすか?

 

澪田

そーっすねぇ!軍人の唯吹なら、[ガンロッカーは凶器の山]っすから!

 

・始めといてなんだけど、これで人見知りが治るのか疑問に思えてきたわ。

・少なくとも自己表現の練習にはなるんじゃないかしら。

 

REPEAT

 

田中

では問おう。なぜ[遺体のそば]に彼女の銃が散乱していたのか。

 

ソニア

証拠資料の写真にも、[いろんな種類]の銃が写っていますわね。

 

左右田

そりゃ、クロが[どの武器で]被害者を殺害するか迷ったんじゃねーっすか?

 

澪田

そーっすねぇ!軍人の唯吹なら、[ガンロッカーは凶器の山]っすから!

 

──そこまででちゅ!

 

[ガンロッカーは凶器の山]論破! ○ガンロッカーの鍵:命中 BREAK!!!

 

 

「えー……また唯吹っすか?おバカキャラ集中狙いはなしっす!」

 

“きちんと証拠資料に目を通してくだちゃーい!

ガンロッカーの鍵は、被害者の部屋の中にあったんでちゅよ?

部屋に入れたとしても、鍵やガンロッカーをゴソゴソ漁っていたら、

確実に中の被害者とトラブルになっていたはずでちゅ!”

 

「しかし、実際ガンロッカーは空いていて、中の銃は取り出されていたんだぞ?

田中の疑問の答えにはなっていない」

 

“日向君。ガンロッカーを開けたのは、被害者自身だったんでちゅよ。

それも、クロを部屋に招き入れた上で!”

 

「なんだと!?では、なぜ被害者はわざわざ自ら殺されるような真似をしたのだ。

説明しろ!」

 

流石に十神君も驚いてる。月光ヶ原さんの成長の早さにアタシも驚いてる。

マフラーの上からでも分かるドヤ顔に少しイラッと来たけど。

 

“簡単な事でちゅよ。クロは被害者と親しかった。

だから弐大君が言ったように、普通にドアを叩いて中に入れてもらったのでちゅ。

そこでクロは被害者と少し世間話でもしながら、こう切り出した。

「自慢の銃を見せてくれ」”

 

なんとなく、だらけていた空気に緊張感が生まれる。辺古山さんがすかさず問いかけた。

 

「その質問を最も自然に行えるのは、一人しかいないが、まさか!」

 

“その通り。

被害者以外に銃の使用に慣れていた、澪田さん、あなたしかいないのでちゅ!”

 

「ええええ!?どうして唯吹が被害者を銃でアレして……あばばば」

 

「まだ泡を吹くのは早いわ。クロじゃないなら反論してね」

 

「……はっ!そうっす!何も唯吹だけに犯行が可能だったわけじゃないっすよ!

階段そばのダイニングにいたペコちゃんにもできないわけじゃないっす!

被害者の用心棒のペコちゃんなら、何かの用事を装って部屋を訪ねることもできるし、

銃を見せてもらうことも不可能じゃないっす!銃も覚えたいとかなんとか言って!」

 

「確かにそうだが、密室の件についてはどう説明する?

部屋の鍵自体も部屋の中にあったんだぞ。

一応言っておくが、私にもピッキングの技術などない」

 

「あははは、それは~……なんででしょうね?」

 

「ふみゅ~現場写真を見ても、争った形跡もありませんしね。

強引に鍵を奪われた事は考えられないですぅ。

やっぱり正面から突然撃たれたとしか……」

 

その時、狛枝君がタブレットを見たままずっと黙り込んでいる事に気づいたから、

声を掛けてみたの。

 

「どうしたの、狛枝君。気になることでもある?」

 

「……うん。これまでの議論をひっくり返すようで悪いんだけどさ。

どうしても気になるんだ。クロにピッキングが可能だったかどうか以前に、

その道具はどこで調達したのかなってさ。当然素手じゃ無理だよね」

 

あ。凶器や容疑者に気を取られて、肝心なことを忘れていた全員が言葉を失う。

 

「そうじゃ、道具じゃあ!

クロはどこでどうやってピッキングの道具を調達したんじゃ!」

 

「でもピッキングができるかどうかは意味がないって話になったじゃない。

話し合っても意味ないと思うんだけど」

 

「小泉おねぇの言う通りじゃん。わたし疲れちゃった。ジュース飲みに行きたいな~」

 

“いや、待って欲しいでちゅ!”

 

いきなり声を上げた月光ヶ原さんが狛枝君と同じく、

タブレットの画面をしばらく凝視した後、語りだした。

 

“みなちゃん、この証拠をもう一度読んでくだちゃい”

 

 

○同居人K氏 (澪田唯吹)

R氏の妹。特殊部隊に所属、諜報活動が主な任務であり、

ピッキング等、偵察に必須な技能を持つ。

姉妹の仲は良く、誰よりも姉の事を慕っている。事件当時は自室にいた。

休日でも緊急出動に備えて、軍服を着て髪をピンで整えている几帳面な性格。

 

 

「今度はちゃんと読んだって。オレを殺した犯人がこれでわかるのか?」

 

“はい、わかりまちた……わかってしまいまちた!”

 

月光ヶ原さんの宣言に会議室にどよめきが起こる。

間髪を入れず彼女に皆の質問が集中した。

 

「おいおいおいおい、なんで今更この情報がクロにつながんだよ!?」

 

「ピッキングどうこうに関しては、これ以上論じても意味がないと、

小泉さんもおっしゃっていたと思うんですが……」

 

「面白い。では言ってもらおうではないか。……犯人は、誰だ」

 

“ズバリ、澪田唯吹さん。被害者を殺害したのは、あなたでちゅね?”

 

「ガーン!いくらなんでもあんまりっす!ただの模擬裁判とは言え、

動機も証拠も不十分なのに、クロにされたら残念無念っすよ~!

結局密室殺人のトリックも謎のままじゃないっすか!」

 

“澪田さん。いえ、同居人Kさん。これで終わりにちましょう。最後の勝負でちゅ!”

 

 

■議論開始

コトダマ:○同居人K氏(澪田唯吹)

 

澪田

どうしていつも唯吹ばっかり攻撃するんすか~唯吹は[クロじゃない]っす!

 

ペコちゃんだって[物置の工具か何か]でドアをこじ開けることもできたはずっす!

 

もちろん唯吹も[そんな道具持ってない]し……

 

つまりこれは冤罪なんすよ!唯吹に対する追求を[今すぐやめるべき]っす!

 

・なるほど。よーく読むとわかるようになってるのね。意外と準備バッチリだった。

・ところで車椅子のあの娘は誰?

 

REPEAT

 

澪田

どうしていつも唯吹ばっかり攻撃するんすか~唯吹は[クロじゃない]っす!

 

ペコちゃんだって[物置の工具か何か]でドアをこじ開けることもできたはずっす!

 

もちろん唯吹も[そんな道具持ってない]し……

 

──会心の一発でちゅ!

 

[そんな道具持ってない]論破! ○同居人K氏(澪田唯吹):命中 BREAK!!!

 

 

「だから、唯吹のプロフィールの何がおかしいんすかー!」

 

“証拠の一文にこうありまちゅ。

「休日でも緊急出動に備えて、軍服を着て髪をピンで整えている几帳面な性格」

これがどういうことかわかりまちゅか……?”

 

「ちっとも!一人でわかった気になってないで教えるっす!

世界はもっとおバカキャラに優しくあるべきだと唯吹は訴えたい!」

 

“K氏はピッキングの道具を持っていない。本当にそうなんでちょうか。

いつも髪をピンで整えているK氏が!”

 

 

■コトダマゲット!!

 

○ヘアピン

K氏がいつも身につけている簡素なヘアピン。伸ばせば針金のように使用できる。

 

 

「ひいい!まさか!」

 

“そう、あなたは髪に差しているヘアピンを伸ばして、ピッキングを行ったのでちゅ!”

 

「で、でも!そんなことしなくてもドアは開けられるって……」

 

“いいえ。

あなたはドアを開けるためではなく、鍵を閉めるためにヘアピンを使ったのでちゅ!”

 

またもどよめきが大きくなる。なるほど、クロは被害者の部屋に入るためじゃなくて。

 

“つまり、犯行に及んだあなたは、

部屋を出ると同時に、皆が集まる前に素早く髪のヘアピンを抜き、鍵を閉めたのでちゅ!

被害者の部屋を密室状態にするために!”

 

「そうか!なら無用と思われたピッキングも、密室状態を作り出す重要な技術になる!」

 

“はいでちゅ、日向君。

被害者を殺害後、部屋を出たクロは、ドアの鍵を閉めて同じ2階の自室に戻った。

そして集まったみんなと何食わぬ顔で合流し、アリバイを作り出したというわけでちゅ”

 

「うーばばばばば……」

 

「もう泡を吹いてもいいわ。ハンカチをどうぞ」

 

始めはどうなることかとおもったけど、さすが第七支部のトップだけはあるわね。

澪田さんの口を拭きながら素直に感心した。あとは、最後の仕上げね。

 

「お見事だったわ、月光ヶ原さん。さあ、この事件のラストを飾ってちょうだい」

 

“では、僭越ながら……”

 

 

■クライマックス推理:

 

 

>クライマックス推理 開始

>推理を完成させろ

 

 

Act.1

まず、犯行を決意したクロは、教会でミサが始まると同時に、

自室から被害者の部屋へ向かいまちゅ。その心に殺意を携えて!

 

Act.2

被害者と親しい関係にあったクロは、普通に部屋をノックして彼女の部屋を訪ねまちゅ。

そこで2,3とりとめのない会話を交わした後、こう切り出しまちゅ。

「あなたのコレクションが見たい」と。

被害者は喜んで自分でガンロッカーの鍵を開け、

多種多様な武器をクロに見せたのでちゅ。

 

Act.3

被害者が床に自慢の銃を広げると、

クロはすかさず回転式拳銃を手にとって、彼女を射殺。当然銃声は建物全体に響き渡る。

即座に部屋を出たクロは、髪のヘアピンをを抜いて、伸ばして棒状にし、

何千回と練習した手付きでドアの鍵を閉める。

犯行現場を密室状態にして、自分に犯行が不可能だったと錯覚させるために。

 

Act.4

後は駆けつけた皆と、用心棒のL氏が蹴破った室内の様子を見て、

驚いたような芝居をする。

そうすれば、自然と部屋の鍵もガンロッカーの鍵も室内に残り、

不可能犯罪のできあがり。

補足するなら、例え物置の工具でドアをこじ開けても、閉じることは不可能。

 

Act.5

よって、被害者を銃で殺害、現場写真のように凶器が散らばり、

なおかつ密室状態にできるのはひとりしかいない。

それはつまり、澪田唯吹さん、あなただけなのでちゅ!

 

 

──これが、真実なのでちゅ!  COMPLETE!

 

 

「え~っと……練習とは言えクロになるのは気分がよくないものっすね。

そうっす、唯吹が犯人す」

 

少しバツが悪そうに頭をかくと、彼女はタブレットの画面をスライドして、

みんなに見せた。

画面には、“あなたがクロです。全力で逃げて”

 

「うむ、まさか犯人が被害者から奪った銃で犯行に及んだとはのう……」

 

「そんなことより動機を説明しろ。

どうせお前のタブレットにだけ送信されているのだろう」

 

「読むっすよ?当時の新聞記事によると、

“お姉ちゃんがワタシを置いて、遠い東へお嫁に行こうとした。

お姉ちゃんを殺して自分もお墓の前で死のうと思ったが、死にきれなかった”と

供述している、って書いてあるっす」

 

「すんげーシスコン。マジきも」

 

「確かに常軌を逸してるわね。アタシにも理解できない」

 

「世の中にはお前たちの想像を凌駕する狂人など山ほどいる。

絶望の江ノ島が良い例だろう?いつ出会っても良いように心づもりはしておくことだ。

相手のペースに飲まれたらそれまでだからな。

月光ヶ原と言ったな?とりあえずこの裁判の終了を宣言しろ」

 

“はいでち!”

 

十神君に促され、月光ヶ原さんの言葉でこの模擬裁判は幕を閉じた。

 

 

【学級裁判(仮) 閉廷】

 

 

会議室にほっとした空気が流れる。ひとつの真実が導き出された時はいつも同じ。

いつの間にか固くなっていた身体を椅子の背もたれに預けて、リラックスする。

そんなみんなを見て月光ヶ原さんが話し始めた。

 

「みなちゃん。今日は本当にありがとうございまちた。

特に澪田さんには辛い役をさせてしまいまちたね。

架空の裁判とは言え、クロにするなんて。始まる前に霧切さんに叱られまちた。

学級裁判がみんなにとってどれだけ重い意味を持つのか考えろって。

その罪滅ぼしになるかはわかりまちぇんが、約束通りプレゼントを送りまちゅ」

 

「おっ、なんだなんだ?食い物だといいなぁ」

 

ピロン、とタブレットが着信音を鳴らすと、

自動的に送信されたプログラムをインストールし始めた。

 

「新しいプログラムか。”LoveLove.exe”?

まぁ、メカニックでもどうにかなるかもしれねえ。とりあえず起動すんぞ?」

 

左右田君が謎のプログラムを立ち上げると、

緑がかった画面に、信じられない人が現れた。

 

──久しぶりだね、みんな。元気だった?

 

「七海!お前なのか……!?」

 

日向君が思わず叫ぶ。アタシやみんなは驚きのあまり言葉が出ない。

彼女は、強制シャットダウンした希望更生プログラムVer2.01の中で眠っているはず。

その彼女がアタシ達に微笑みかけているんだから。

 

「七海、どうしてお前がタブレットの中にいるんだ?

ジャバウォック島で別れたはずなのに!」

 

《うん。月光ヶ原博士が、

不要になったジャバウォック島管理システムを慎重に削除して、

大幅に容量を縮小してくれたんだ。

おかげで人格プログラムだけを残して携帯端末でもお話しできるようになった。

ほら、これもちゃんと持ってるよ?》

 

画面の中の彼女が、左手の指にはめた希望ヶ峰の指輪を見せる。

 

「そうか……また会えるなんて、俺は、済まない、なんて言っていいのか……」

 

日向君が言葉に詰まる。その目も赤い。

言葉で再会を喜ぶ余裕ができるまで、アタシが少し話をしましょうか。

 

「もう会えないと思ってた。アタシも本当に嬉しい」

 

《私も嬉しいよ。そっちの状況は博士が教えてくれてる。

これから大事な作戦が待ってるみたいだけど、

みんななら乗り越えられるって信じてるからね》

 

「ありがとう。必ず世界を元通りにしてみせるから。

七海さんに見せられるような、綺麗な青空を取り戻すわ。

……さ、そろそろ“本命”に会ってあげて。日向君も、そろそろ落ち着いて。

彼女の前でみっともないわよ?」

 

「ああ、済まない。七海、またお前を失ってしまったと思ってた。

会うことはできないと思ってた。でも画面越しだろうとこうして……」

 

《きゃっ》

 

日向君が画面に指を滑らせると、七海さんが軽く声を上げた。

 

《日向君、くすぐったいよ。タッチパネルだってこと忘れちゃだめだよ?》

 

「わ、悪い!まさかそういう機能まであると思わなくて!」

 

「やーい、日向おにぃのセクハラ番長」

 

「違うって言ってるだろう!?」

 

室内が笑い声で満たされる。七海さんはその様子を微笑みながら見ている。

 

《そっちは問題ないみたいだね。みんな元気そう》

 

「そうだ。七海のおかげだ。あの島でお前と過ごした日は忘れない!いや、これからも。

毎日必ず、おはようとおやすみを言う!また一緒に思い出を作ろう」

 

《うん。お昼寝してる時とかは出られないかもだけど、

たくさんお話ししてくれると嬉しいな》

 

「ヒュー。見せつけてくれるぜ。オレ達の事も忘れねえでくれよ」

 

「まあ、これで総員の士気が上がるのなら、この茶番に時間を割いた意味もあるだろう」

 

「これで、ジャバウォック島のメンバー再集結ね。霧切さんも納得してくれると思うわ。

そう思うでしょう?今回出番がなかった苗木君」

 

「以上が、過去に発生した殺人事件の真相であり、超高校級と名乗る人間達の、

戦いの真実である……え、なに?」

 

議事録作成に忙しいらしく、状況に乗り切れていない彼。

お邪魔しちゃってごめんなさい。

 

「いいの。続けて。さあ、次の順番が回って来るのはいつになるかしら」

 

皆がタブレットの中の七海さんに夢中。

人気者も辛いわね。しばらく昼寝をする間もなさそう。

アタシは無表情に見える顔にわずかな喜びを浮かべる月光ヶ原さんに話しかけた。

 

「みんな喜んでるわ。ありがとうね」

 

“お礼を言うのはこちらでちゅ。知らない人と討論することで、自信がつきまちた。

江ノ島さんにも、協力してくれたみなちゃんにも、お礼が言いたいでちゅ”

 

「それは何よりだわ。……あら、もう暗くなるわね。結構な時間話し込んでたみたい。

護衛付きでもそろそろ支部に戻ったほうがいいんじゃない?

お礼ならアタシから伝えておくから」

 

“はいでちゅ。でも、その前にひとつだけ……”

 

彼女があたしの袖を軽く引っ張り、口元まで巻いていたマフラーを下ろした。そして。

 

「……か、か、…あっ」

 

顔を真っ赤にして、つっかえながらも、何かを話そうとしている。アタシはじっと待つ。

 

「あ…あり、がと」

 

ちょっとハスキーがかった可愛い声。彼女が踏み出した大きな一歩。

その勇気に余計な飾りを付けず、笑顔で返した。

 

「どういたしまして」

 

アタシは月光ヶ原さんと握手を交わすと、エレベーターまで見送った。

昇降機が到着すると、器用に車椅子をバックさせて乗り込む。

ドアが閉じようとした時、彼女が手を振ったから、アタシも同じくさようならした。

 

正直、最初に会った時は、変な子に目を付けられちゃったものだと思ったけど、

全てが終わったらお友達になれそう。

あの様子なら、人見知りも徐々に克服していけるだろうし。

 

 

 

 

 

所変わって、今度は会議室と同フロアの休憩スペース。

アタシは仕事終わりの霧切さんと、コーヒーを飲みながら簡易ソファに腰掛けていた。

 

「そうなの。彼女がそんなものを残していったなんてね……」

 

「月光ヶ原さんも、これをきっかけにリア充の仲間入り目指して頑張ってほしいわ」

 

「ああ……そう言えばそんな事言ってたわね。

無表情だから真面目なのかふざけてるのか読めないのよね」

 

「ムッツリスケベだったりして」

 

「本人の耳に入ったら、また自分の殻に閉じこもるわよ。

とにかく、時間の無駄にはならなかったようでなによりだわ。あなたもお疲れ様」

 

「ありがとう。後で苗木君の議事録も読んでみてね。

キャラクター越しだけど、彼女結構活躍してたから。

あれで人付き合いがスムーズに出来たら、確かに第七支部の組織力は向上すると思うわ」

 

「ええ。もう送信されてるから、目を通しておくわ」

 

「それじゃ、アタシはそろそろ部屋に戻るわ。七海さんとお話しもしたいし。

おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

アタシは自室に戻ると、ベッドに座ってタブレットの画面をつける。

新たにインストールされた“LoveLove.exe”。

ジャバウォック島でお別れパーティーをしたのが遠い昔みたい。

楽しかった日々を思い起こしながら、アイコンをタップした。

アプリが立ち上がり、表示されたステータスを見てつぶやく。

 

「うん、寝てる」

 

 

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