江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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第21章 運命の日

アタシは目を閉じ、自室の片隅で祈り続けた。

お姉ちゃんとの再会、そしてなにより、みんなの生還を。

何も出来ずに立ち止まっていた頃とは違う。信じる仲間がいて、彼らをひたすら待つ。

お願い、無事でいて。

 

 

 

 

 

《間もなく作戦エリアに到達だよ。この後の流れを説明するね?

まず、安全圏から左右田君の兵器が発動するのを待って。

それを合図に陸自が92式浮橋で吊橋に橋を掛けるから、完了次第突入開始。

塔和モナカの確保に向かって。戦刃さんが通信途絶の直前に伝えてくれた情報によると、

彼女は北の工場エリアのどこかに潜伏してるらしいよ》

 

「わかった。ありがとう七海。

モノクマの脅威がなくなるなら、どちらかというと、

どれだけ手早く塔和モナカを見つけられるかが鍵だな」

 

「アタシとしてはむくろちゃんの居場所も気になる。早く見つけなきゃ」

 

「ああ、もちろんだ。

彼女だって短いながらもジャバウォック島で共に生きた仲間なんだ。

俺達がやらなきゃいけないことは多い。あと、モノクマ以外の戦力が無いとも限らない。

みんな警戒は怠らないでくれ」

 

「うぇぇ……モノクマがいなくなるから楽勝だと思ったんすけど、

ヤバくなったら創ちゃんの後ろに隠れていいっすか?」

 

《目標ポイント到達。VLS発射まで待機します!》

 

俺達が搭乗していた装甲車に無線が入り、車体が停止。前方には途中で崩落した吊橋。

誰もがその時を待った。

 

 

 

 

 

オレ達は、他のやつらとは別行動を取っていた。

塔和シティーを一望できる高台から、

双眼鏡型デバイスと連動した銃型のレーザーポインターで、街の要所を狙う。

3地点にロックオンすると、

今度はタブレットで太平洋に待機中のイージス艦に位置情報を送信。

 

まーこれで塔和シティーのモノクマ共はお陀仏だ。

他の物も一緒に潰しちまうけど、裏でろくでもねーもん作ってたって話だし、

日向達が安全に行動できるなら別にいいだろ?

 

艦から座標キャッチの信号が届く。仲間の武器も作ったし、戦う準備も整えた。

メカニックの俺にできるのはここまでだ。

それができたのも、後ろを守ってくれた人のおかげなんだけどよ。

 

「ソニアさん、終わったっす。オレのやるべきこと。

……少しは、言い訳になるっすかね。オレが生まれてきたことと、生きていることへの」

 

手早く機材を片付けながら、独り言のように聞いてみる。

 

「カッコよかったですわ、左右田さん。

あなたのおかげで皆さんの負担が大きく減り、たくさんの人が助かります。

少なくとも、今わたくし達が戦っていることには、必ず意味があると思います。

信じましょう」

 

「そっすよね。……あざっす!元気出てきました!

それにしても、ソニアさん強いっすね。そいつら全部片付けちまったんですから」

 

「フフ、これでも射撃は得意ですの。えっへん」

 

ソニアさんはそう言って、オレが複製したハッキング銃を構えて見せた。

彼女の向こうには無数のモノクマの残骸。

塔和シティーかどこかから這い出てきた“はぐれ”のモノクマ。

オレの座標転送作業に集中できたのも、彼女に背中を預けられたから。

 

そう言えば、あの島で江ノ島が言ってたな。

どっちかが守られるんじゃなくて、互いの後ろを守り合う関係になれって。

なあ、今のオレ達、お前からはどう見える?

 

ガラにもなく少し物思いに耽っていると、空から大気を切り裂く音が。

見上げると3つの物体が白い尾を引きながら飛翔していった。

それは塔和シティーに向かっていく。

オレは、そいつを見送りながら、思わず口にしていた。

 

「親父……オレ、ロケット飛ばしたぜ」

 

 

 

 

 

あああ!この街に来てから、ろくでもないことばっかりだわ。

ここで経験したことで、良かったこと、最悪だったこと。比率にすると1:9ってとこね。

1は何かって?……なんだっていいでしょ。

少なくとも、隣でこまるがモノクマを破壊して無駄に元気よく喜んでることじゃないわ。

 

「やったー!これで商店街は安全エリアだね!」

 

「どうせしばらくしたら、またモノクマが湧いてきて元通りなのに、何が嬉しいんだか。

本当、紛争地帯の地雷みたいな連中ね。

ねえ、こまる。あたし達がここに来てから何ヶ月?何匹モノクマ倒した?

ちっとも減る気配が無いじゃない!

そりゃそうよね、工場で毎日大量生産されてるんだから!」

 

「だからって、放っておくと状況がもっとひどくなるよ?

この人工島の面積50%以上を制圧されたら、こっちの負け」

 

「そ、そうだよ戦刃さんの言う通りだよ!

まだ助けを待ってる生存者の人がいるかもしれないし!」

 

「今更そんなのいるわけないでしょうが!

考えたんだけどさ、この活動は大幅に縮小して、

あたし達もシェルターにこもって中の連中を守ることに専念しない?

散々走り回って足が痛いのよ」

 

「だめだよ!さっき戦刃さんも言ったけど、街をそのままにしておくとモノクマに……」

 

「ん?ちょっと待って……!」

 

あたしらが噛み合わない議論をしていると、空から鋭い音が響いてきた。何よもう。

ふと見上げると、絶句。間違いなく9に分類される状況が迫ってくる。

さすがにこれには呑気なこまるも焦ったみたい。

 

「ミ、ミサイル!?冬子ちゃん!ミサイルが降ってくるよ!」

 

「くっ……3発のうち1発の予想着弾地点は、私達のいるエリア!」

 

「イヤァ、もう!塔和シティーをどうにもできないからって、

未来機関の連中が街ごと消毒することに決めたのよ!!

あ、きっと白夜様は最後まで反対してくれたに決まってるわ!

“俺の愛する人を核の炎で焼くことなど、この十神が許さん!

たとえ未来機関を敵に回すことになろうとも、こんな計画は阻止してみせる!

な、なんだお前達は!離せ、俺と冬子を引き裂こうという気か!?

逃げろ、冬子!冬子ー!!”ってな感じで!」

 

「妄想に浸ってる場合じゃないよ!逃げなきゃ!」

 

「もう頭の上にあるのにどこに逃げようとしてるのか教えなさいよ!……ああああ!」

 

冗談抜きで死を覚悟したその時、

ミサイルが上空で爆発……というより、外殻を放り出して空中分解。

続いて内部のキューブ型装置が炸裂して、ブルーに可視化された光をドーム状に放ち、

超広範囲を包み込む。別方向に飛んでいった2発も同様。

思いっきり謎の光を浴びたけど、一応身体に害はない。

けど、突然こまるが悲鳴を挙げた。

 

「ああっ!どうしよう……」

 

「今度は何なのよもう!」

 

「どうかした?」

 

「私のハッキング銃壊れちゃった!」

 

何度かトリガーを引くけど、なんにも出てくる様子がない。

 

「はぁっ!?これからどうすんのよ……

熱っ!あたしのスタンガンもなんか煙吹いてるんだけど!」

 

急に燃えるほど熱を帯びて白煙を上げ始めたスタンガンを投げ捨てた。

白夜様からのプレゼントだったのに、本当最悪。

 

「これじゃあ戦えないよ!」

 

「そりゃあ、ティッシュでこよりでも作ってクシャミすれば、

ジェノサイダーにはなれるけどさぁ。……あ、その必要もないんじゃない?」

 

「どういうこと?」

 

あたしは商店街の向かい側に2,3体固まってたモノクマを指差した。

あいつらも煙を出して完全に機能を停止してる。

 

「モノクマも壊れてる!これって、さっきの変なミサイルの効果かな?」

 

「他に何があるってのよ。けど、喜んでばかりもいられないわよ。

この様子だと、塔和シティーの電子機器全部が同じように止まってる。

電力や水道も全部ストップしたと思った方がいい」

 

「そう。今のミサイルはきっと弾頭にEMP爆弾を搭載してたんだよ」

 

「何よEMP爆弾って。あんたと違って軍人じゃないんだから、わかりやすく説明して」

 

「強力な電磁波を放って、電子機器の回路に電流を流して破壊する兵器。

人体に影響はないから大丈夫。

だから、腐川さんが考えてるとおり、今のでモノクマも全滅したと思っていいよ。

でもやっぱり、都市インフラも停止したからここに長居もできなくなったけど」

 

「だーっ……これでもうクマ型ロボットのお守りしなくていいのね。

水道とかは心配してない。

攻撃が始まったってことは、白夜様がすぐにあたしを助けに来てくれるってことだもの」

 

あたしらを悩ませてきたクマ型ロボットが全滅。これは1に入れても良さそう。

 

「私のアサルトライフルは電子機器じゃないからまだ使えるよ。

私が二人共守るから大丈夫」

 

「守るって、モノクマはもういないんだよ?何から守るの?」

 

「さっきから、感じるの。……何かの視線」

 

安心したのも束の間。あたし達は、その場で背中合わせになり、周囲を警戒した。

 

 

 

 

 

その時。

パソコン本体だけではない。モニターも通常ありえない異音を立てて、

突然機能を停止した。これには塔和モナカも少々焦った。

通常の停電ならすぐ非常用電源に切り替わるのだが、待てど暮らせど闇の中。

地下の研究室で、彼女はひとり取り残された。

 

「モノクマちゃ~ん、早く予備電源復旧させて~?」

 

だが、返ってきたのは静寂のみ。

 

「みんな~生きてるマシン探してね~」

 

次はモノクマキッズを呼んで見る。

モノクマ型ヘルメットで洗脳して従わせている子供達。

しかし、どこからか皆の泣き声が聞こえてくるだけで、

この状況をどうにかしてくれるとは思えない。

 

“えーん、真っ暗だよ~”

“おうち帰りたーい”

“おかあさん、迎えにきてー”

 

徐々に彼女に焦りが浮かぶ。

PCが破損する直前、一瞬だけ飛行物体接近の警告を出してダウンした。

カチカチとエンターキーを押して見る。何も反応はない。

よく見るとモニターと本体から熱と煙が出ている。明らかに物理的な損傷。

 

「まさか、EMP爆弾、なのかな……?」

 

未来機関がそんな捨て身の攻撃に出るなんて。

連中もこの塔和シティーを喉から手が出るほど欲しがっていたはず。

巨大な人工島の電子機器を、モノクマごと残らず破壊させてでも、

この無敵の牙城を取りに来たというのか。

飛翔体迎撃システムも、発動する間もなく

強力な電磁波で電子回路や半導体を焼き切られ、作動しなかったようだ。

 

「……うぷぷぷ、モナカ、どうしよっかな~」

 

研究室を見回すとパソコンに限らず、

実験装置、監視カメラのモニター、新兵器の製造マシン、

全てがショートして内部から破壊されていた。

 

「そっか。それじゃ、しょうがないよね……」

 

何かを決めた彼女は、ゆっくり車椅子から立ち上がり、小さな身体を大きく使い、

自動でなくなった研究室のドアを手動でようやく開けると、

息を切らせながらこのフロアより更に地下の階へと向かった。

 

 

 

 

 

ついに突入の時。

陸自の自衛官たちが、手早く92式浮橋を橋の崩落地点までバックさせ、

積載していた仮設橋を展開。

持ち上げられた折りたたみ式橋節が、レーンから滑り降りると、

車体から落下した瞬間、左右に広がり空中の足場となった。

 

長さ約7.5mの橋は、通常河川などの地上に設置されるが、

未来機関の研究班と陸上自衛隊が共同で改良を行い、

橋節下部にバルーンを搭載することで、短時間ながら空中に浮かばせることに成功した。

 

だが、作戦終了までバルーンは保たない。

生還するには、ミッションを完了し、

安全が確保された塔和シティーで迎えのヘリに乗るしかない。

 

「浮橋設置完了しました!」

 

自衛官の報告が飛ぶと、装甲車で待機していた77期生の全員が覚悟を決めた。

 

「みんな、目標ポイントは確認したか?」

 

「お前に言われるまでもない。作戦概要、制圧地点、行動範囲の地形。

全てこの頭脳に叩き込んである」

 

「それはいいけどさぁ~豚足ちゃん、その身体で動けんの?」

 

「何も飛んだり跳ねたりだけが戦いではない。要は、頭だ」

 

「唯吹もコンディション最高っすよ!とりあえずここに行けばいいんすよね!?」

 

「そこに行って何をするかもわかっておるか?塔和モナカを引っ捕らえるんじゃぞ?」

 

「なるほど、わかったー!」

 

「はは、それって今までわかってなかったってことでいいのかな……」

 

「凪斗ちゃんの言う通り~!ペロリン!」

 

「グズグズしてはいられない、もう出よう。みんな、準備はいいか?」

 

「「おう!」」

 

装甲車の後部ドアが開かれると、

太陽ではなく赤い空が地上を照らす世界に、全員が飛び出した。

仲間の救出、そして、塔和モナカを含む生存者確保の使命を帯びて。

 

足にバルーンの柔らかい感触を跳ね返してくる浮橋を駆け抜ける。

塔和シティー本島は目の前、モノクマは殲滅済み。

2時間もあれば片が付くと思われた作戦。だが、この後彼らに思わぬ敵が立ちはだかる。

 

 

 

 

 

ここからは俺の回顧録だ。

あの激闘をよく生き延びられたものだと今でも不思議に思うよ。

まずは、俺達が吊橋を渡りきったところから。

 

「よし、塔和シティーに入った!誰も遅れてないよな!?」

 

「豚足ちゃんが早くも汗だくだけど全員揃ってるよ!」

 

「はふぅー!はふぅー!忌々しい橋め!

あれさえ崩落していなければ、リムジンで優雅に職場に到着できたものを!」

 

「あのぅ、ゆっくり、深呼吸して下さい。酸素欠乏症になりかけてますぅ……」

 

「十神も座りながらでいいから聞いてくれ。

俺達はこのまま真っ直ぐ最終目標地点、工場エリアに突入、

モナカを確保次第、戦刃むくろの居場所を……」

 

「待て!そうも行かなくなったようだぞ!」

 

「どうした辺古山……これは!」

 

俺達が改めて作戦目標を確認していると、

物陰、廃ビル、大破した車。とにかく色んな所から、

モノクマのマスクを被り、角材や鉄パイプを持った人間達が

ゾンビのようにゆらりと姿を現した。それも、10人や20人じゃない。100は超えてる!

 

「絶望の残党。やるしか、ないよね!」

 

「ああ、だから俺達が来たんだからな!」

 

「小泉おねぇ、主役を食っちゃうほどかっこいいよ!」

 

同時に、残党が獣のような雄叫びを上げて襲いかかってきた。だが俺達も退く気はない。

全員、武器を構えて人間同士の戦いに飛び込む。

 

「みんな、戦いながら前進するぞ!」

 

大通りの真ん中で乱戦が始まった。皆が才能を活かした新兵器で戦う。

 

「あががが……ぐるああぁ!!」

 

「どいてよね!そこはアタシが通る道よ!」

 

小泉は残党の群れと1人で戦っていた。

囲まれないように、素早い身のこなしで敵を引きつけながら、路地裏に入り込むと、

そこは行き止まり。

残党が小泉に迫るが、彼女は慌てずサングラスを掛けて、ニヤリと笑いカメラを構えた。

 

「笑って~はい、チーズ!」

 

シャッターを押した瞬間、路地裏から影がなくなった。

カメラ型大出力フラッシュライトのストロボが放った強烈な閃光が、残党の目を潰した。

大勢の敵は目に刺さる激痛にたまらず悲鳴を上げ、転げ回る。

 

「ひぎゃあああ!!」

 

「安心しなさい。明日には見えるように光量は調整してある。……左右田の話だけど」

 

小泉はカメラからフィルム型の空薬莢を取り出すと、新しいフィルムを装填した。

 

「単発式だから使い所は気をつけなきゃ」

 

そして再び大通りに舞い戻り、仲間に呼びかけた。

 

「こっちは片付けたよ!みんな足を止めないで!」

 

 

 

 

 

同時に、ようやく息が整った十神は、悠々と戦場を歩いていた。

……ただし、いつもと違う格好で。その時、残党の一人と遭遇。

そいつは有無を言わせず鉄パイプを振り抜いてきた。

 

「シャアアアッ!!」

 

十神は落ち着いてその一撃を避けると、もどかしい様子で敵に声を掛けた。

 

「待て待て、よく見ろ、味方だ!争ってる場合か?」

 

「げあ?」

 

「それより大事になったぞ。未来機関が攻めてきた。

駅前のロータリーで戦ってるが、戦力の消耗が激しい。

今すぐ仲間を集めて向かってくれ。俺は他の奴にも知らせなくては」

 

「へびしっ!」

 

敵は言われた通りに、仲間を呼びに行った。

未来機関の元超高校級で編成された精鋭部隊が待ち構える場所に。

こちらの言葉を理解する程度には知性が残っていたのが幸いだったな。

と後で言ったら、

“狂っていようが騙されやすそうな奴は見ればわかる”とのことだった。

 

「馬鹿め、将来振り込め詐欺に引っかからんよう気をつけることだ」

 

去っていく敵に聞こえないように、モノクマのマスクの奥からそう言った十神は、

その後も超高校級の詐欺師の才能で、敵部隊をかく乱していった。

 

 

 

 

 

十神の情報操作で敵集団が散らばり、おかげで俺達に先に進む余裕ができた。

改めて武器を構え直し、ひび割れだらけのアスファルトを駆けながら、

突入時に比べてまばらになった敵を蹴散らしていく。

 

「はっはっ!絶望と言えど運動不足では話にならんわい!

ほれ、強制空中エビ反りブリッジじゃあ!」

 

「ぎゃああおお!!」

 

弐大が文字通り、敵を持ち上げて強引にエビ反りさせる。

ミシミシ、パキポキと、痛みがこちらにまで伝わるような音が聞こえてくる。

 

「がはは!ワシのスパルタ式カイロプラクティックの味はどうじゃ!

安心せい、目覚める頃には固まった筋肉がほぐれて、むしろ気持ちいいはずじゃ!」

 

失神した敵を放り出して、次の相手に掴みかかる。

拷問にしか見えないストレッチを掛けて残党達を悶絶させる弐大を見て、

終里もじっとしているはずがない。待ちきれない様子で花村を急かす。

 

「なあ花村、早くしてくれよ!オレも食いたいし暴れてえんだよ!」

 

「できた!特性スパイスで焼き上げた500gサーロインステーキ!……はいっ!」

 

ミディアムレアの焼き加減のステーキをフライ返しで器用に投げる。

それを終里がパン食い競走のように口でキャッチして、あっという間に口に頬張った。

同時に咀嚼しながら走り出し、飲み込んだところで、

機動隊から奪った盾で身を守る敵に接触。

 

「うおおお!」

 

明らかに花村の焼いた肉の効果でパワーアップした終里が、猛牛のごとく突進。

敵が彼女にひるんで動きを止めた瞬間、盾を殴るのではなく、

超高校級の体操部の運動能力で、盾を乗り越えて大きく跳躍。相手の後ろを取った。

 

「おりゃああ!!」

 

「げぶおっ!」

 

そして回転蹴りを繰り出し、正確に敵の脇腹にヒットさせた。

横から激しい衝撃を受けて盾ごと道路を転がり、大柄な男性らしき残党は気を失った。

 

「おっしゃ、片付けた!花村、次は魚が食いてえ!!」

 

「あん肝の鍋でいいよね!?それよりゆっくり食べないと喉詰めるよ!」

 

「気合で飲み込むから問題ねーって!」

 

一方は敵を殴り倒し、また一方は食材を火にかけながらのやり取り。

ポパイのように食べ物で力を増す終里と、超高校級の料理人・花村の相性は抜群だった。

 

 

 

 

 

「みんな凄いなぁ。ボクの幸運じゃ連続して戦えないし、その後に不幸が来るから、

無闇に前に出るわけにもいかないんだよね」

 

狛枝は、皆の戦いぶりを見ながら、俺達のやや後方をゆっくりと付いてきていた。

確かにあいつの能力は不確定要素が多い。

そんなこともあって、事前の打ち合わせでは、

“みんながピンチになったら出てきて何かの幸運を起こす”という、

雑な結論に落ち着いた。

 

「ボクもなにかしたいけど……ええと、なにもないや。ハハ」

 

生まれつきの呑気さで最後尾をひたすら進む狛枝だったが、

大通りの両側に並ぶ廃ビルから、残党達が飛び出してきた。

待ち伏せして、挟み撃ちにするつもりだったらしい。

前方の敵にかかりきりになっていた俺達は、助けたくても助けられない状況。

 

「……ぜつぼう。ぜつぼう?ぜつぼう!!」

 

「参ったなぁ……10人と少しなんて相手にできないよ」

 

「逃げろ狛枝!」

 

理性を失った人間が、包丁やホームセンターで手に入る工具を手に、

狛枝に死という絶望を与えるため向かってくる。俺達は……くそ、間に合わない!

敵の数から考えて、狛枝自身も逃げ切れる状況じゃない。

 

「う~ん、何か起きてくれると、助かるんだけど」

 

困った表情で腕を組む。だが、残党がマンホールを踏むと、

突然それは地雷のように周辺のアスファルトごと大爆発を起こした。

まともに直撃を食らった残党達は吹き飛ばされ、気を失う。

 

一体何が起きたのか、理解するのに時間がかかった。

マンホールの跡からは、間欠泉のように水が吹き出し、雨のように辺りを濡らす。

狛枝はタブレットを取り出し、何かを確認し始めた。

 

「……なるほど。未来機関の海洋気象情報によると、今日の海は時化てるんだって。

海と直結してる、この人工島の地下の排水管が逆流したみたいだよ!アハハ」

 

「笑ってる場合じゃないだろう!運良く幸運が発動したからよかったものの!」

 

「ごめんよ。でもこうなると、この後の不幸が……もう来てるね。臭いや。

下水管だったみたい」

 

くんくんと濡れたコートを嗅ぐ。

 

「はぁ。作戦変更だ。お前も俺達から離れるな」

 

「うん、わかったよ」

 

やっぱり呑気な調子で応える狛江。この性格は生まれつきらしい。

 

 

 

 

 

モノレールの線路に沿って俺達は進み続ける。

塔和モナカの潜伏地点には着実に近づいている。

だが、それに連れて、敵の攻撃も激しさを増す。

ありあわせの武器防具しかなかった初期の敵とは違い、

明らかにどこかで生産され、支給された武具で身を固めた残党が、行く手を阻む。

俺は再度皆に警戒を呼びかけた。

 

「みんな……奴らは今までとは違う。気をつけろ!」

 

「そのようだな。銃を持ってる者までいる。

日向、お前は先に進み、イカロスの如く羽ばたき、

天高く座する幼き王を討ち取るのだ!」

 

「気持ちは嬉しいがその例えはやめてくれ、絶対落っこちるだろ。

でも、銃を相手にどうやって……」

 

「フハハハ!構うものか!奴らは俺の三闘神で食い止める!」

 

いつもの高笑いを上げる田中に、ずっとちらちら“アレ”を見ていた辺古山が問う。

 

「気にはなっていたが、やはりあいつらはお前のものなのか……?」

 

「その問いに真か否かを求めるならば、彼らの存在が結論付ける解を紐解くがいい!

さすれば自ずと真実は明らかになろう!

そう、彼らもまた俺の使い魔となることを宿命づけられし、魂を持たざる哀しき存在!」

 

「普通に“はい”と言えないのか?

左右田が“一番めんどくせー”と言っていたのはアレだったか」

 

「フッ、やはり気になるか。

魔獣を従えし能力を持つ俺が、なぜ偽りの命を持つカラクリを使役しているのか……

見るがいい。この荒れ果てた大地を!

召喚獣が己の身を引き裂き、滴るその鮮血が世界に災厄を招くことは必定!」

 

「確かに、粉々のアスファルトやガラスが散らばっている都市に、

“生身の獣を連れてくるのは可哀想”だな。

……そろそろお喋りは終わりだ。敵が攻撃態勢に入ったぞ」

 

残党のまとめ役らしき防弾チョッキを着た男が、雄叫びを上げて部下に指示を出す。

兵士は銃を持った狙撃兵と、特殊警棒で接近戦を挑む部隊に分かれ、

俺達に攻撃を仕掛けてきた。もちろん全員で反撃に出る。でも、皆が俺を止めた。

 

「雑魚に構うな。征け、イカロスよ!」

 

「しんがりはオレらに任せろや。ペコも手応えのねえ相手ばかりで飽きてんだろ?」

 

「ぼっちゃんも退屈そうですよ。……そういうことだ、すぐに追いつく。行け」

 

「みんな……悪い!」

 

俺は目と鼻の先の工場へ向かって駆け出した。

背後から銃声や近接武器のぶつかり合う音が響いてくる。

できることは、一刻も早く塔和モナカを確保して、この戦いを終わらせること。

 

 

 

 

 

敵の主力部隊と、俺を除く77期生の総力戦が始まった。

銃撃隊が皆に拳銃で狙いを付ける。無数の銃声。飛び交う銃弾。

だが、彼らが引き金を引く直前に、田中の放ったアレが盾になり、銃弾を受け止めた。

 

「ハッハッハ!我が三闘神の前に禍々しき火筒など無意味!

さぁ、機械仕掛けの荒ぶる神よ!今こそ、その力を見せつける時!」

 

返事をするように、馬・蛇・虎をモチーフにしたマシン。

……つまりモノケモノが咆哮した。

 

「あんなもん再現するとか絶対イカれてるよ、田中おにぃ!」

 

人間の知覚に訴える配置で光るLED電球が埋め込まれた扇子で舞い、

敵兵を惹きつけながら毒を吐く西園寺。

正直なところ俺も同じ感想を抱いたのは黙っておこう。

 

流石に大きさは実物の5分の1サイズだったが、

銃弾も効かず、大砲やガトリングガンを放つ鋼鉄の獣は

やはり敵にとっては脅威だったようで、即座に陣形が崩れる。

 

弾丸は非殺傷性のゴム弾だったが、

食らうとまともに動けなくなるほど痛いことには変わりない。

砲弾も敵の前で破裂する衝撃弾だと聞いてる。

 

 

 

 

でも、敵の数はまだまだ多い。踊り続ける西園寺を狙う兵が、銃で彼女に狙いをつける。

 

「おおっと、そうは行かないっすよ!唯吹の歌を聴くっすー!」

 

♪♬!♪♫♫!♪♬!!♫♫♪!!

 

声を吸収する素材でできたヘッドセットマイクを付けた澪田が、

歌いながらエレキギターを掻き鳴らす。

マイクから無線で彼女の奇怪な歌声をキャッチしたギターが、

人間の精神に悪影響を及ぼす歌の波長を増幅。

銃口になったヘッドのペグ部分から一方向に向けて発射した。

 

ごちゃごちゃ書いたけど、なんというか……

澪田の武器は、自分の歌を銃のように飛ばせる音波砲ってことだ。

当然、敵もギターで攻撃してくるなんて予想してるはずもない。

 

「ふぎゃはあああぁあ!!」

 

防弾チョッキもフルフェイスヘルメットも通り抜けて、

耳から精神に直接刺激を送られる。

不安、恐怖、焦燥。絶望以外のあらゆる負の感情を引き起こされ、

銃撃部隊はパニックに陥る。

銃を放り出し、熱せられた鰹節のように暴れ狂う兵士達だが、

それでも澪田は歌をやめない。

 

「今日の唯吹はノリにノッてるっすー!このまま唯吹の得意なナンバー、

“ビッ○コインで損した事より、

同情してくれる友達がいないことに気づいた方が辛い”行くっすよー!」

 

澪田の破滅的リサイタルはまだまだ続く。さらに手足をばたつかせてもがく敵兵。

俺は少し同情した。いずれ彼らも江ノ島の能力で元に戻るんだろうが、

その際精神的な後遺症が残っていないことを祈る。

 

 

 

 

 

近接戦闘で戦う仲間の中に、彼女の姿があった。

暴れ狂う終里達の後ろで、武器を抱きしめて、

戦いに踏み込もうと、おっかなびっくり進んでは戻るを繰り返している。

 

「罪木!無理なら下がっていろ!こいつらはお前の手に余る!……はぁっ!」

 

辺古山の竹刀がムチのようにしなり、腹に直撃。

防弾チョッキの上から衝撃を与えて気絶させ、残党の一人を仕留める。

 

「そ、そんな……辺古山さんだってがんばってるのに……」

 

「向き不向きがあらあ!お前は誰か怪我したら手当してくれや……おらっ!」

 

短刀で振り下ろされる特殊警棒を受け流し、

利き腕を少しだけ斬って痛みで戦闘能力を奪う。

 

「うぅ、九頭竜さんまで……わ、私は」

 

もはや絶望と77期生の戦争状態の中、

罪木は勇気を振り絞るというより、何かを振り切った。

 

「私だって……私だってやればできるんですからぁ!」

 

そして、手近な残党に駆け寄って、その手に持った巨大な注射器を、

装甲の薄い防弾チョッキの継ぎ目から、思い切り刺した。

突然の大胆な行動に思わず誰もが目を丸くして彼女を見た。

 

「ああ、ごめんなさい!でも深さ1cmほどの筋肉注射ですから、死にはしないですぅ!

ごめんなさぁい!」

 

刺された敵兵は、彼女に反撃する……かと思いきや、

少し黙り込んだ後、身を震わせ、絶叫した。

 

「うううう、あおおおおん!!」

 

次の瞬間には、味方であるはずの別の残党に飛びかかって、

馬乗りになって殴りつけ始めた。

突然暴れだした味方を引き剥がすため、戦闘を放棄して駆け寄る残党達。

不可解な状況に、敵も味方も混乱する。

 

「待て罪木、一体何をした!?」

 

「未来機関の人が作った、味方に対して激しい憎しみを抱くお薬を注射したんです。

あ、心配しないで下さいね!30分で効果は切れますし、

辺古山さんが黙っててくれれば、お巡りさんにも怒られなくて済みますから……」

 

「私は、時々お前の行動が読めない」

 

とにかく、みんなそれぞれの形で戦ってくれた。

おかげでこうして土産話や思い出に浸っていられる。それだけは確かだ。

 

 

 

 

 

工場にたどり着いたものの、停電で全ての自動ドアや電子ロックが動かなくなり、

その度に叩き破るなり迂回するなりしていたから、捜索にはかなりの時間を要した。

でも、とうとう俺はたどり着いた。

 

「……いるんだろう。出てこい、塔和モナカ!」

 

《アハハハ、こんにちは、お兄さん!》

 

暗闇に包まれた広大なホールにモナカの声が響く。

EMP爆弾でスピーカーも壊れたはずなのに、明らかにマイクを通した音声。

実際、武装を固めた大型ロボットが立ち並ぶが、軒並み煙を出して壊れている。

 

《盾子お姉ちゃんの偽物はどうしたの?戦いが嫌でサボり中?

わかるよー。痛い思いして叩いたり叩かれたり。バカバカしいよね~》

 

「違う!俺達を信じて今も待ってる!

本当は自分で戦刃を迎えに来たかったはずなんだ!」

 

《ぷっ。信じるだの、迎えに行くだの、小学生じゃないんだから。

あ、モナカも元小学生でした~その小学生に笑われるなんて、

大人ってやっぱり悲しい生き物だと思うんだ……》

 

「勝手に思ってろ。いい加減出てきたらどうだ」

 

《いいよ!サクッと勝負を付けて、絶望と希望、どっちが強いか決めようよ》

 

すると、ホールの最奥に立っていたロボットのモノアイが光り、

闇の中で不気味に浮かんだ。なぜかあの機体だけは電磁波攻撃の影響を受けていない。

 

《見て、絶望的最終兵器・ブラックサスペリアンMk2だよ!

ゴテゴテした装備を取っ払って、オーソドックスなタイプに仕上げたんだ!

お兄さん、超高校級の希望なんだよね?

希望のどこが良いのか、何が良いのか、どれだけ強いのか、モナカに教えてよ!》

 

モナカの前口上が終わると同時に、

ブラックサスペリアンMk2が機体から一瞬光を放ち、完全に起動した。

そのまま背中に差したブレードを装備し、

ドシンドシンと足音を立ててとこちらに近づいてくる。

俺も覚悟を決めて静かに目を閉じる。

 

再び開いた目は、火のように赤く燃えていた。

“超高校級の希望”を発動した俺は、まずは超高校級の夜目を呼び起こし、

真っ暗なホールでの視界を得た。ホールの全体像が明らかになる。

まるでコロシアムのように円形で、観客席まで設けられていた。

 

《わーすごい!それがカムクライズルの能力なんだね!》

 

「俺は、日向創だ。お前にわかってもらおうとは思わないが、来い」

 

《じゃあ遠慮なく!》

 

ブラックサスペリアンがダッシュして一気に距離を詰め、ブレードで薙ぎ払おうとした。

俺は超高校級の陸上部、格闘家、忍者、戦闘に必要な才能をかき集め、

後ろに宙返りしてロボットの一閃を回避。

だが、それだけだ。まだ敵の攻撃を一度かわしただけ。

あれを破壊して、中からモナカを引きずり出さないと。

 

ここに来て、俺は丸腰だったことに思い至る。

今までは人間相手だったから超高校級の希望で軽くあしらえたけど、

まさか無傷のロボットが残っていたことは想定外だった。

超高校級の修理工でロボットを分析してみる。

 

直すことができるなら壊すことも可能……と思ったが、

やっぱり人間の力でどうにかなる部分はない、という結論に達した。

わかったことは、装甲に特殊な加工がされていて、

光学兵器の類を軽減する効果があるということ。

EMP爆弾が効かなかったのもそのせいだろう。

 

《どうしたの?何もしないでターン終了でいいのかな。

なら、今度はこういうのもアリだと思うんだけど、どうかな!》

 

今度はロボットの右腕が銃型に変形し、エネルギー弾を連射してきた。

横にステップを取り、後ろに下がり、嵐のように襲い来る熱の塊から逃げ続ける。

だめだ!避けるだけじゃ先に体力を消費しきって、俺は負ける。

 

《ほら、お兄さんも攻撃していいんだよ?

早くをモナカを捕まえてくれないと、二代目の江ノ島盾子になっちゃうかも!》

 

「させない、さ……」

 

俺はホールに並ぶ壊れたロボットが装備していた槍を、思い切り蹴って折った。

かなり重いが、これなら人の手でも持てる。

柄にハンカチを巻いて、しっかりと握り、モナカの機体に突進。

 

「うおお!!」

 

《そうそう。武器は装備しないと意味がありませんよ。って定番のセリフだよね~》

 

モナカは敢えて攻撃をやめ、俺の一撃を待つ。こちらを見くびっているなら好都合。

腰を低くして、重い槍の突きを食らわせた。

 

ガチン。

命中はしたが、俺の攻撃は重装甲のロボットに傷一つ付けることができなかった。

 

「ぐあっ!」

 

しかも、反動で自分から後ろに吹っ飛ばされる始末。

手製の槍も弾き飛ばされてしまった。

 

《今、何やったの~?ごめん、絵本に夢中で見てなかったー

モナカは、ウーのことを考えていました》

 

「くそっ!」

 

超高校級の希望。

あらゆる才能を持つこの体質にも、徒手空拳じゃ限界があることを思い知らされる。

 

《うん。これ以上続けても無理だよね。もう終わりにしようか。

絶望が希望を倒して、世界は盾子お姉ちゃんの望んだ世界になる。それでいいよね?》

 

ブラックサスペリアンがマシンガンの銃口を俺に向ける。

俺にはそれを睨みつけることしかできない。……敵を甘く見すぎた代償か。

銃身にエネルギーが集まり、間もなく身を焼き尽くす弾丸が発射される。

後のことは、みんなに任せるしかない。すまない、江ノ島……

 

──その槍は、君に向いた武器ではなかったようだな。

 

突然、謎の声がホールに響く。声の主を探すのに時間はかからなかった。

観客席に、目に痛いほど熱く燃える刀を持った長身の男性。

驚く間もなく、彼はこちらに飛び降りてきた。そして俺に歩み寄り、手を差し出す。

その手を借りて立ち上がると、彼が名乗った。

 

「……あの日、執務室で聞いていただろうが、第二支部長、宗方京助だ。

能力に頼りすぎれば、自滅を招く。これで学んだな?」

 

「はい……」

 

「ならいい。あれは私が引き受けよう」

 

白のスーツに真っ白な髪が目を引く彼が、刀を構える。

 

《おじさんだーれ?未来機関って言ったけど、今は絶望と希望の決戦で忙しいんだー

モナカが勝利を収めるまで、もう少し待っててね》

 

「お前に勝利はない。私の刃で、ただ斬り捨てる」

 

《ふーん。未来機関って絶望なら小学生でも殺しちゃうんだー。

まあ、モナカが負けることはないけどさ》

 

「ああ、殺す。江ノ島盾子を受け継ぎ世界を再び絶望に陥れる、未来のお前を!」

 

《意味がわかりませーん。

それじゃあ、モナカは殺されたくないから、おじさんを、殺すね?》

 

モナカが俺を狙っていた銃口を宗方さんに向ける。

一瞬、エネルギーが収束する静かな音がすると、ロボットのマシンガンが吠え、

凄まじい光の弾丸が彼に食らいつく。

だが、宗方さんは瞬間移動のように、走るのではなく、地を滑り、

眉ひとつ動かさず激しい攻撃を回避する。

 

《なに!?自動追尾が追いついてないのはなんでかな!》

 

超人的な動作で一気にブラックサスペリアンに肉薄した宗方さんは、

刀の出力を最大まで上げる。

刀身が更に燃え上がり、宗方さんを陽炎が包み、周囲に熱風を叩きつけた。

当然それを持つ彼も手に火傷を負っているが、

気に留める事なく、刀を構えて頭上に刺すような視線を送る。そして。

 

「破っ!」

 

人間離れした脚力でブラックサスペリアンの眼前に跳躍し、

空間ごと切り裂くように、斬撃を放った。

そして、着地すると間髪を入れず、足、胴、顔を斬りつけていく。

ロボットの腕から何かが落ちた。

最初の一撃で切られた右腕が、

今になって切断されたことに気づいたかのように遅れて地に転がる。

切断面は熱でドロドロに溶けていた。

 

《うあーん!ダメージ蓄積率が5割を超えちゃったじゃない!来ないで!離れて!》

 

「私が与えてやれる選択肢は、降伏か死だ!」

 

その後も次々に斬られた装甲や武装がガタゴトと音を立てて落ちていく。

もう反撃もままならず、二本足で立っているのがやっとの状況。

唯一無傷なのは胸部のコクピット。宗方さんがあえて攻撃を避けていた部分。

つまり、この中にモナカが中にいる。

 

「選べ。決断に無駄な時間をくれてやるほど私は親切ではない」

 

《……じゃあ、モナカを殺しなよ。何が起きるかは保証できないけど》

 

「何が言いたい」

 

《このブラックサスペリアンには特殊な機能が備わっているのです。

モナカが死んだり、機体のAIが致命的損傷を受けると、

モノクマキッズのヘルメットが自動的に爆発……》

 

「それらはEMP爆弾で無効化されたはずだ。

実際、隊員が妙な被り物をした子供達を保護している」

 

《……あー、そうだった。モナカのバカ》

 

「出る気がないなら私が出してやってもいいが」

 

《取引しないかな?

塔和シティーには、世界の復興に役立つ先進的テクノロジーが山ほどあるんだけど、

それを再現できるのは……》

 

ドスッ、と何も言わずに宗方さんがコクピットに刀を突き立てる。

 

《きゃあっ!!やめて、熱い!》

 

モナカの命乞いにも無言を貫き、円を描くようにコクピットの装甲を焼き切った。

そして、邪魔な装甲を取り払うと、

そこには操縦席で小さくなって怯える塔和モナカの姿。

 

「うう……また負けた。

どうして希望なんかに、勝てないのかな。みんな絶望から逃げちゃうのかな。

おじさんわかる?」

 

「お前が希望から逃げているからだ。絶望と希望は表裏一体。

だから、その一方に身を堕とした絶望の江ノ島盾子は、

歪んだ希望と共に奈落へ落ちていった」

 

「おじさんなんかに盾子お姉ちゃんのことなんかわからないよ!

どうでもいいと思ってたけど、やっぱり大人なんかろくでなしだよ!」

 

「確かに今のお前にとっては、私はろくでなしでしかないのだろう。

いつかわかる時が来る。

どれだけ絶望を求めても、お前の毛嫌いしている希望が顔を覗かせるものだ」

 

宗方さんはポケットから、プラスチック紐の簡易手錠を取り出し、

モナカの両腕と両足を縛った。

彼女を担いで機能停止したブラックサスペリアンから降りてくると、

宗方さんはモナカを寝かせて、スマートフォンで何かを入力。

それが終わると、俺に歩み寄って来た。

 

「塔和モナカ確保の連絡、現在位置の情報を送信した。

後は、突入部隊に任せればいいだろう」

 

「あ、ありがとうございます。助かりました……」

 

「礼は不要だ。これは私の、ひとつの決着だからな」

 

「決着って?……しまった!みんなのところに戻らないと!」

 

「既に強襲部隊が合流し、残党は全員無力化された。77期生は全員無事。

後は第二支部から待機中の江ノ島盾子が歌を送信し、残党に聴かせた。

今はもう一般人だ」

 

「そう、ですか。よかった……これで。終わったんですね」

 

宗方さんが俺の隣に座り込む。

 

「早合点するな。まだ最後の仕上げが残っている。……江ノ島盾子だ」

 

「そうだ江ノ島だ!彼女の歌なら世界から絶望を消しされる。

これからは、彼女の歌を広めることが未来機関の仕事になるんですよね」

 

「とは言え、それほど時間を取る必要もない。

詳しくはここの後片付けが終わってから通知があるだろう」

 

「ここはもう、街としては使い物にならなくなりましたね」

 

「便利な設備は確かに失った。だが、人がいる。

そこに住む人が生きる意志を失わない限り、再建は可能だ。

無論、塔和モナカの知恵を借りる気はないが。

……ふん、君一人でよくここまで来られたものだ。

私など、殆どのドアが電子制御だったから、

わざわざ斬り破ってようやくたどり着いたというのに」

 

「きっと、俺の中にある“超高校級の幸運”が発動したからだと思います」

 

「幸運か……使いこなせれば全てをひっくり返す無双の力となるだろう」

 

「その後の不幸が怖いんですけどね。もうひとりの持ち主によると」

 

「……日向創」

 

「はい?」

 

「君は、なぜこの作戦に志願した」

 

「それは、仲間の大事な姉を助けるために……」

 

「それだけか?」

 

俺は、少し考えてまた答えを返した。

 

「罪滅ぼしです。俺達が、いや、俺がカムクライズルだった時に奪った命に対する」

 

「つまり、贖罪か。……私も、似たようなものだ」

 

「どういうことですか」

 

「救えたかもしれない命をこの手で奪った。

今日ここに来たのは、私もまた、何かで罪を贖いたかったからかもしれない」

 

宗方さんの言葉の意味はわからなかった。

ただ触れてはいけない何かがあるような気がして、黙っていることにした。

 

結果を見ると作戦通りとは行かなかったが、

みんなで力を合わせて塔和モナカ確保に成功。

後は戦刃が見つかれば全て丸く収まるんだが。

 

それについては、行方知れずの彼女を、

未来機関の隊員が塔和シティー全体を探して見つけてくれるのを待つ事しかできない。

能力を使いすぎて身動きするのがやっとだ。

思い出したように身体が疲労感に支配される。

俺はただのハリボテになっているロボットの一体にもたれて、

なんとなくその脚をコツンと叩いてみた。

やっぱり動きはしなかったけど。

 

 

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