江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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第6章 被告人:中村喜男(後編)

 

 

【裁判員裁判 再開】

 

 

法廷にいる全員が目を丸くした。アンパンマンからG-fiveをもらった?

あまりにも荒唐無稽な証言にしばし言葉を失う。

職業柄、いち早く落ち着きを取り戻した裁判長が彼に問いかけた。

 

「中村さん。アンパンマンとは誰のことですか?」

 

「はい!アンパンマンは、アンパンマンなのです!

バイキンマンをやっつけて、へいわをまもる、ヒーローなのです!」

 

 

■コトダマゲット!!

○アンパンマン をタブレットに記録しました。

 

○アンパンマン

テレビ放映されている幼児向けアニメ及びその主人公。

顔がアンパンのヒーローが、

ライバルのバイキンマンから町の平和を守るために戦うという内容。

 

 

「……質問を変えましょう。

あなたに、“魔法の瓶”を渡した人について、詳しく教えてください」

 

「だめです。ひみつです。アンパンマンとやくそくしました。

やくそくは、まもらないとだめって、かあさんいってました」

 

「ねえ裁判長!いくらなんでも黙秘権までは抹消されてないわよね?」

 

彼に対する疑いが濃くなりかけて、アタシは慌てて確認した。

 

「はい。不利な証言を強制されることはありません」

 

「もくひけんって、なでしか?」

 

「言いたくないことは言わなくてもいいということです」

 

ほっと胸をなでおろす。だけどそれも束の間。

彼の無実を証明しようとしたのになぜか不利な状況を招いてしまった。

喜男さんがGi-fiveらしきものを受け取ったということは事実なのだから。

この状況をひっくり返すには今のアタシじゃ力不足。

アタシは目を閉じ、自分の中の自分に呼びかけた。お願い、誰でもいいから手を貸して。

 

すると例によって急な発熱と共に目まいが始まり、江ノ島盾子のひとりが表に出てきた。

意識の主導権を彼女に手渡す。鬼が出るか蛇が出るか。

 

「ヒィーーハハハ!来たぜ来たぜ来たぜ!6年ぶりの再登場、江ノ島盾子ちゃーん!!」

 

ああ、鬼が出ちゃったみたい。でも、アタシはここまで。彼を、頼むわね……

 

「むっ!別の江ノ島が来おったな」

 

「ああああ……こわいひときたのです!」

 

「落ち着いてください、中村さん。

彼女は少し変わった性格ですが、あなたに暴力を振るうことはありません。

隣の部屋に警察の人も居ます。安心してください」

 

「だかあっしゃあ!アンパンマンだかメロンパンナだか人工衛星饅頭だか知らねえが

オレが落ち着けねえんだよ!久しぶりに表に出たと思ったらまたホコリ臭え裁判所か!?

イライラするんだよ、こんなところにいるとォ!」

 

「あ、あのう、江ノ島さん。も、もう少しソフトに喋ってあげてくださぁい!

中村さんが怯えていますから……」

 

「うっせーぞ罪木デコポン!

オレを黙らせたいならさっさと判決下してここから出せっての!」

 

「蜜柑ですぅ!私達だって早く結論を出そうと頑張ってるんですー!

だからそっちの江ノ島さんも手伝ってくださぁーい!」

 

「あはは……蜜柑ちゃんもあの盾子ちゃんと張り合うなんて強くなったよね」

 

「チッ、じゃあアンパンマンのせいでごちゃついた状況を整理してやるから

耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ」

 

「頼む。今、彼の立場は限りなく悪い。何か逆転の一手を」

 

「アンテナ野郎うるせえ。しばらく集中するから邪魔すんな」

 

「アンテナ……まあいい、わかった。任せたぞ?」

 

「黙ってろつっただろうが!」

 

どいつもこいつもオレをイラつかせる。体で風を切ってスカッとしてえ。

オレは目を閉じて意識の奥底に存在するサーキットに潜り込んだ。

 

 

 

■ロジカルダイブ 開始

 

ああ気分最悪だ!また飽きもしねえで裁判かよ!バイクぶっ飛ばさねえと気が晴れねえ!

 

気持ちはわかるけど、正確な情報整理をお願いね。

 

ババア久しぶりー!見てな、オレとこいつのライディングテクニックを!

 

はぁ、何も変わってないのね。あなた達……

 

3.2.1…DIVE START

 

QUESTION 1:

“アンパンマン”とは誰?

A・容疑者の虚言 B・正義のヒーロー C・共犯者

 

[C・共犯者]

 

ヒュー!これだぁ、この感じだァ!ガンガンスピード上げてくんで夜露死苦ゥ!!

 

そう。喜男さんにG-fiveを渡した何者かが存在する。でないと事件が起こりえない。

一応言っておくと毒薬をばらまくような輩が正義のヒーローであるはずもない。

 

QUESTION 2:

G-fiveの入手方法は?

A・共犯者が渡した B・自分で手に入れた C・被害者は暖房による一酸化炭素中毒死

 

[A・共犯者が渡した]

 

メーター振り切れるまでブッちぎるぜぇ!!

 

喜男さんの体質から考えると自分で毒薬を探し出すのは不可能だし、

事件当時現場に居たのは彼だけだった。

検死の結果も限りなく自然死に近く、一酸化炭素中毒ではありえない。

 

QUESTION 3:

被告人の証言は事実?それとも嘘?

A・嘘をついている B・事実を語っている

 

[B・事実を語っている]

 

初夏の風が火照った体に心地いいぜ!

ひとつ俳句を詠もうと思ったが生憎ここでフィニッシュだァ!!

 

意外と詩人なのね。今度聴かせてちょうだい。さ、皆さんにわかったことを伝えて。

 

 

──真実はアタシのもの!

 

 

 

で!また目を開けると、代わり映えしねえメンツが

物欲しそうにオレの答えを待ってたから、手がかりとやらをくれてやることにした。

 

「おーし!まず大前提として、真ん中の卓の野郎は嘘はついてねえ。嘘はな」

 

するとやっぱり連中がガヤつく。うるせえつってんだ!

 

「ならば、貴様は第四の壁に住まう聖戦士は実在すると云いたいのか!?」

 

「テレビのアンパンマンが本当にいるのか、だと?ちっげーよ馬鹿!

喜男の野郎が共犯者のことをアンパンマンだと思い込んでるだけだって言ってんだ!」

 

「共犯者……か。やっぱり犯行に使われたのがG-fiveだとすると、

彼にそれを渡した人物が存在すると考えるのが普通だよね」

 

「なんで狛枝にわかることが田中にゃわかんねーんだろうな!そうだよ!

事件当時、あの場には被害者と被告人、それと第三の人物が居たんだよ!

喜男に毒を渡して犯行をそそのかした奴がなァ!」

 

「それは誰なのですか!?第三の人物とは!動機は?」

 

「そんなもん……オレが知るか!疲れた寝る」

 

「ああ、行ってしまいました……無責任ですわ」

 

「心配すんなソニア。すぐに次が来る」

 

「やほー!法廷のアイドル、江ノ島盾子ちゃん参上だよ~!」

 

「ほら」

 

「やさしそうなひとが、きましたです」

 

「そーだよ~?わたしはさっきのわたしみたいに怒鳴ったりしないから~

お姉さんに教えてほしいな?キミに魔法の瓶をくれた人!」

 

「この際ハズレでもいいからこの事件解決してよ。

関係ないけどハズレとアバズレって似てるよね……」

 

「日寄子ちゃん、相当参ってるんだね。アタシからもお願い。あと口が悪いよ?」

 

「ごめんでし。アンパンマンとのやくそくは、まもらないといけないのです」

 

「それじゃあさ!他のことに答えてよ。

キミさ、アンパンマンと施設長さん、どっちが偉いと思う?」

 

「えっ……」

 

彼の口は固いみたい。将を射んと欲すればどうたらこうたらって言うじゃん?

ちょっと回り道して証言を引き出そうかな~なんて思ってみたり?

 

「こうじょうで、いちばんえらいのは、しゃちょうさんだって、おくさんいてました。

でも、アンパンマンは、みんなをまもる、ヒーローだから……うううう」

 

喜男君が頭を抱えて悩んでる。わたしは“やさしそうなひと”だからいつまでも待つよ~

5分ほど考え込むと、彼がぽつぽつと語り始めたの。やったー

 

「うんと、うんと、アンパンマンはせかいでいちばんえらいけど、

こうじょうでは、しゃちょうさんがいちばんえらいから、

こうじょうにいるときは、しゃちょうさんのほうがえらいのです」

 

「だよねー。でもさ……その一番偉い施設長さん、悪い人に殺されちゃったんだ~

アンパンマンならきっとそいつをやっつけたいと思うの。キミだってそうだよね?

だから~アンパンマンのお手伝いをするために、

ちょっとだけ秘密の内緒話、聞かせてほしいな?」

 

上目遣いにアヒル口でお願いしてみたけど、

うつむいてる喜男君には華麗にスルーされました。タハ!

 

「……うう、なにをしゃべればいいでしか」

 

ビンゴ!とりあえず共犯者の特徴からいってみよー!

 

 

■議論開始

コトダマ:○アンパンマン

 

江ノ島(ぶりっ子)

アンパンマンってさ、やっぱり顔がアンパンだったり?見た目とか詳しく教えて~

 

中村

アンパンマンは〈にんげんにへんしん〉してました。

 

けいさつのひとが くるまえに ぼくに [まほうのびん]を くれました。

 

[つかいかた]も おしえてくれました。

 

でも 〈みんないなくなって〉 なかよくなれなくなってしまったのです……

 

・重要なポイントがいくつか出てきたけど、まずは最初のアレかな~?

・待って。なんだか胸騒ぎがするの。アタシ達、このまま彼に証言させていいのかしら。

 

REPEAT

 

江ノ島(ぶりっ子)

アンパンマンってさ、やっぱり顔がアンパンだったり?見た目とか詳しく教えて~

 

中村

アンパンマンは〈にんげんにへんしん〉してました。

 

──そうだと思うわよ!!

 

賛!〈にんげんにへんしん〉同意! ○アンパンマン BREAK!!!

 

 

「そだねー。本物のアンパンマンがあの格好で道を歩いてたら大騒ぎになるもんねー」

 

「はいでし」

 

「じゃあさ、アンパンマンはどんな人に変身してたの?」

 

「おんなのひとでした」

 

意外な事実にみんながまた驚きました、と。

 

「なんだ。てっきり男だと思ってたぜ。

オレ、あいつの顔いっぺん食ってみたいと思ってんだよな。頼んだらくれそうだし」

 

「ふむふむ。実はアンパンマンは女性でした、まる。

他には?髪型とかー、顔の特徴とかー」

 

「うううう、ぼくは、ぼくは、ぼくは、ぼくは、ぼくは、ぼくは……」

 

ヤバ。これ以上続けたらまた口を閉ざしちゃいそう。

 

「あ、やっぱいいや。じゃあ、魔法の瓶の使い方を教えて。そっちはダメ?」

 

「うう、ああ、ああああ!!」

 

また地雷。なんかわたしの手に負えなくなってきたから~……逃げる!ジャネバイ!

 

……相変わらず適当な性格だね。困ったものだよ。

仕方がないからボクが後始末をするとしよう。

 

「落ち着いておくれ、喜男さん。

ちょっと前に裁判長が言ったけど、喋りたくないことは喋らなくていいんだ。

何も怯える必要はないんだよ?」

 

「……ほんとでしか?」

 

「本当だとも。わからないことはボク達が自分で調べるから、少し休んでいるといい」

 

「ありがとごじます」

 

「アタリおねぇ。自分で調べるっていうけど、どうするの?

犯行の方法とかわかんないことまだまだあるよ」

 

「喜男さんの証言が期待できない以上

もう一度証拠物件を洗い直して新たな事実を導き出す。それだけさ。

……裁判長、少し時間をいただくよ?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

ボクは手元のモニターにタッチペンを走らせ、証拠品の数々に目を通す。

そして選びだしたあるものを見つめると、

分析の余地があるポイントを青いサークルが囲む。さあ、始めようか。

 

 

■証拠品精査 開始

 

○石油ストーブ

 

・芯調節ハンドル

点火と火力の調節を行うダイヤルだね。

当時ダイヤルは最大、つまり点火の位置を指していた。

ずっとこの状態だったってことは、

ストーブは最大火力で部屋を温め続けていたことになる。

 

・燃焼筒

灯油を燃やして熱を発する部分だ。警察隊が到着した時、まだ熱を持っていたそうだよ。

周りもススだらけだ。

 

・フタ

ストーブ上部にある、燃料タンクを収納するスペースを閉じるフタ。

……ふぅん。ひょっとするとひょっとするかもね。

タッチペンで3Dモデルのフタを開けて燃料タンクを引き抜く。

 

・燃料タンク

灯油を使い切ってカラになったタンクは冗談のように軽い。

いや、カラと決めつけるのは早いな。左右に揺すってみる。

すると、微かにコロコロと何かが転がる音がする。

注入口を開けてタンクをひっくり返すと、

中にはどこか見覚えのある小さくて柔らかいプラスチック製の瓶。

なるほど、これで、決まりだ。

 

 

──絶対に逃さないわ!!

 

 

■コトダマゲット!!

○プラスチック製の瓶 をタブレットに記録しました。

 

○プラスチック製の瓶

ストーブの燃料タンクから見つかった小瓶。キャップは開いており、中身はカラ。

 

 

「これは……なんということでしょうか。証拠品から新たな証拠品が発見されました」

 

「なんじゃあこれは!まさかこの瓶は……!」

 

「うんうん、みんなが驚くのも無理はないだろうね。

武装警察隊の捜査は完璧。その前提で議論してきたんだから。

でも、ずっと前のプロパンガスに話を戻すと、

ガスボンベより石油ストーブのほうが遥かに扱いは簡単。

間接的な凶器として使われたと考えても不自然じゃないのさ」

 

「じゃあ、犯人は石油ストーブの燃料タンクにG-fiveの瓶を入れて

石油と一緒に気化させたってことになるんすか!?」

 

「澪田さんの方法も不可能じゃ……いや、ちょっと待っておくれ」

 

ボクは何をしているんだ。喜男さんの無実を証明するよう“彼女”に頼まれたはず。

どうして事実を列挙しているだけなのに

彼の犯行を裏付けるような展開になってしまうんだ?

 

「失礼。今ボクが言ったことはただの推論だ。忘れてくれ」

 

「おい、馬鹿言ってんじゃねぇ。新しい証拠見つけて、殺害方法まで示唆しといて、

今更なに中途半端なこと言ってやがんだ」

 

「組長の仰るとおりだ。ここまで状況証拠が揃えばもう結論は出たようなものだろう。

……残念だが」

 

「状況証拠は状況証拠でしかないのさ。

付け加えるなら、仮に石油ストーブの燃料タンクから

喜男さんの指紋が見つかったとしても、

誰でも触れる位置にあったストーブを殺害に使用したという証拠にはならないんだよ」

 

「どうしたんだ、江ノ島。強引に議論の方向性を曲げるようなことをして。

まさかお前、中村さんを庇おうとしてるのか……?」

 

「“彼女”がうるさくてね。

日向君には悪いけど、決定的な物的証拠が出るまでは最後まで抵抗させてもらうよ」

 

「江ノ島さんだめだよ!気持ちはわかるけど、

ぼく達は法廷じゃ真実を見つけるために話し合わなくちゃいけないんだ!」

 

「ならボクを倒してごらん。さあ花村君、喜男さんが犯人だという具体的な証拠を」

 

「それは、ないけど……」

 

 

──じゃあオレが見つけてやるよ!

 

 

突然声を上げたのは左右田君。じっとボクを見据えている。

へぇ、彼がチャレンジャーか。昔、似たようなことがあったね。

お手並み拝見と行こうじゃないか。

 

「江ノ島。お前は今、間違ったことをしようとしてる。

だからダチ公として、オレが全力で止める」

 

「何が間違っているのかわからないけど、いいさ。君の力を見せておくれ」

 

「よし、それじゃあ中村さん。あんたに質問だ」

 

「なでしか?」

 

「さっきも聞いたが、あんたには同じ仕事場で働く仲間がいたんだよな」

 

「あい!」

 

「正直に答えてくれよ?その人達は、みんな幸せだったと思うか?」

 

左右田君の質問に、喜男さんの表情が暗くなる。

 

「……おもわないのです。みんな、いつも、たたかれないか、こわかったです。

たたかれないように、いっしょうけんめいはたらきました。

はたらいても、たたかれるときは、いたかったのです」

 

「それで、みんなが仲良くなる魔法の瓶が必要だった。そうなんじゃないか?」

 

「誘導尋問は感心しないな!」

 

「黙っててくれ。中村さん、どうなんだ」

 

「アンパンマンが、ないしょだって、いったのです」

 

「でも、事件が起きたのは施設の中だった。

施設じゃ“しゃちょうさん”が一番偉いんじゃなかったのか?

そいつは隠し事をしたときも怒ったんじゃないのか?」

 

「うう……」

 

喜男さんが頭を抱えて二人の支配者の間で揺れ動く。アンパンマンと施設長。

 

「見損なったよ、左右田君。彼の弱みに付け込んで」

 

「何とでも言え。オレはもう真実から逃げねえ。そのためなら、どんな手でも使う」

 

「和一さん……」

 

「あ、あ、そうです。そうなのです」

 

まずい。これ以上は喜男さんが保たない。

 

「アンパンマンからまほうのびんをもらって、ストーブに入れました。

スイッチをいれたら、いわれたとおりに、そとにもどりました。

ずっといきをとめてたから、くるしかったです」

 

万事休す。最後の悪あがきを試みる。

 

「喜男さん。君は施設長から火を使うなと言われてたんじゃないのかい?」

 

「“ひ”はつかてません。スイッチをまわしただけです。

これならしゃちょうさんにもおこられないって、アンパンマンがいてましたです」

 

彼にストーブを点火しているという自覚はなかった訳か……

ごめんよ、“アタシ”。ボクの力及ばずだ。

 

「なら、やっぱりアンパンマンを名乗る人物からG-fiveを受け取って、

石油ストーブの燃料タンクに入れて、

ストーブを作動させて石油と一緒に気化させて3人を毒殺したのは……」

 

「うむ。日向、お前さんの考えておるとおりじゃろう」

 

「お待ち!私様を差し置いて判決を下そうなど10年早くてよ!

今から事件の総まとめをしてあげるから、真犯人は首を洗って待っていることね!」

 

「おふろは、まだなのです」

 

「そっちのお前さんに変わりおったか。では、頼む」

 

 

 

■クライマックス推理:

 

>クライマックス推理 開始

>推理を完成させろ

 

Act.1

事件当日、いつものように施設長達から体罰を受けていた犯人は、

裏庭に入ってきたアンパンマンを名乗る人物と接触。

判断能力が著しく欠如している犯人は、

自分が人間に化けたアンパンマンだという後の共犯者の話を信じてしまう。

 

Act.2

犯人はアンパンマンから魔法の瓶という名のG-fiveを受け取り、

共犯者の指示通り毒薬を散布。

具体的には、作業場の石油ストーブの燃料タンクに

キャップを外したG-fiveの瓶を放り込み、芯調節ハンドルを“点火”まで回す。

この時、犯人に火を使っているという自覚はなく、

アンパンマンの言うことに間違いはないと思いこんでいた犯人は、

ためらいつつも施設長の言いつけを破り作業場に戻った。

 

Act.3

全力でG-five入りの燃料を燃やし続ける石油ストーブで、徐々に作業場は暑くなる。

事務所へのドアに露でも浮いたんでしょうね。

異常に気づいた被害者が作業場に行くと、気化したG-fiveを吸い込んで1人目が即死。

更に被害者に近づいた残りの2名も何が起きたかわからないまま死亡。

 

Act.4

アンパンマンはいつの間にか立ち去り、裏庭に戻った犯人も状況を把握できないまま、

犯人は何事もなかったかのように相変わらず素足で立ち続けた。

やがて新聞配達員が集金に来て事件が発覚。そういうことよね、中村喜男!

 

 

──これが事件の全貌よ!  COMPLETE!

 

 

「わかりました。裁判員の方は、お手元のモニターに有罪もしくは無罪を……」

 

「待ってくれないかしら!審議はまだ終わってない!

ねえみんな、本当にこれでいいの!?」

 

意識を取り戻したアタシはすかさず叫んだ。

 

「裁判長!この結論を採用するなら

犯人は喜男さんにG-fiveを渡した誰かってことにならないかしら!

だったらそいつを逮捕するべきよ!騙されただけの彼に罪はないわ!

それに……そうよ、喜男さん達は施設長達から日常的に暴力を受けていた。

殺意もなく、被害者達から追い詰められていた彼には、汲むべき事情があるはずよ!」

 

「……責任能力の有無を問わず、中村さんは3名殺害の実行犯。

情状酌量の余地はあれど殺人罪の適用が相当。それが裁判所の意見です。

謎の人物については武装警察隊が引き続き捜査を行います」

 

「おかしいと思わない?ねえ!」

 

みんなに訴えるけど、誰も目を合わせてくれない。

アタシだけが大声でまくしたて、皆は黙り込む。

 

「盾子ちゃん。気持ちは痛いほどわかる。

でも、今の法律と照らし合わせると、私達は正しい決定を下さなきゃいけないの。

お願い、わかって」

 

「お姉ちゃんまで!」

 

「改めまして決を採ります。

裁判員の方は、お手元のモニターに有罪もしくは無罪を記入してください」

 

「どうして……」

 

アタシはタッチペンを握ると、散々追いかけてきた結論とは正反対の答えを記した。

 

「意見が出揃いました。判決を言い渡します」

 

判決:中村喜男 有罪

 

 

【裁判員裁判 閉廷】

 

 

タッチペンを持ったままの手が震える。

なぜこんなことになったのか、いつ選択肢を間違えたのか、アタシにはわからない。

 

「それでは、係官。中村さんの身柄を警察へ」

 

入室してきた2人の係官が、無表情で喜男さんに手錠を掛け、別室へ連れて行く。

 

「あ、待って……」

 

「おもしろいおねえさん、バイバーイ!」

 

思わず手を伸ばすアタシに彼は屈託のない笑顔を浮かべて、別れを告げた。

この後待ち受ける運命を知ることなく。

 

「お願い、もう少しだけ時間をちょうだい!」

 

だけど喜男さんは重たい両開きの扉の向こうに消えていった。

 

 

 

 

 

後日、喜男さんから聞き出した断片的な当時の様子と、武装警察隊の調査によって、

事件当日の様子が浮かび上がってきた。

 

……

………

 

「さむいさむい。さむいけど、がんばるです」

 

「こんにちは。ぼくアンパンマン」

 

「えー?あなた、アンパンマンちがいます」

 

「今日は君を助けるために人間に変身してきたんだ。

ここのみんなが痛くて悲しい思いをしてるってジャムおじさんから聞いたから」

 

「ほんとうでしか!?」

 

「そうだよ。だけどもう大丈夫。

このみんなが仲良くなる魔法の薬を使えば、施設長さんたちも優しくなるよ」

 

「おねがいしますです。そのおくすりをください」

 

「もちろんだよ。でも少しだけ使い方が難しいんだ。できるかい?」

 

「やるです!」

 

──15分後、事務室

 

「ねえあんた。なんか暑くない?」

 

「ああ?暖房は23℃だぞ。光熱費だって馬鹿にならねえんだ。これ以上は……」

 

「施設長!作業場のストーブがつけっぱなしですよ!」

 

「チッ、喜男の奴だ!連れてこい!」

 

「あの野郎、ぶっ殺してやろうか!おいコラ喜男!どこにい──」

 

「……?おい、どうした。どうしたんだ。そんなとこで寝てんじゃ、ね」

 

「なんなのよ2人共。なんか踏んづけた?工場に何が」

 

………

……

 

 

そして3つの死体が出来上がった。らしい。

 

 

 

 

「ううえっ!ごほっ、げほっ!」

 

誰とも話したくなかったあたしは、バスに乗らず2時間掛けて徒歩で帰宅。

無言で東京高裁から戻ったアタシは、夕食も取らず、

自室に戻るなり胃の中のものを全部吐き出してデスクにすがりついた。

引き出しをまるごと引っ張り出すように乱暴に開けると、薬のケースをひっくり返して、

ブルーのカプセルを手からこぼれるほど受け取って水なしで飲み込んだ。

 

早く鎮静作用が効くことを祈りながら、ベッドの中で丸くなる。

結局頼るものが酒から薬に変わっただけ。

無力感とも罪悪感ともつかない不快感に苛まれながら、

頭を振ってそいつを振り払おうとするけど、うまくいかない。

 

ただ騙されただけの無実の人間を、殺した。

潜在意識の中で、アタシの背後に何かが忍び寄る。とっくに忘れたはずの何か。

最も適切な単語で言い表すなら、それは、絶望。

 

 

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