江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】 作:焼き鳥タレ派
東京高裁に向かうバスに揺られながら、アタシは窓際の席でガラスの外を眺めていた。
でも、流れる景色は目に入っていない。頭の中が先日の出来事でいっぱいだったから。
部屋中に貼られた「ここは私の部屋」。
誰の仕業かわからないけど、
オートロックの部屋に忍び込んで大量の落書きを貼り付ける。
こんなことができるのは、ドアのロックを解除できる霧切響子かアタシ自身だけ。
あの後急いで張り紙を剥がしたけど、なぜか霧切に相談する気になれなかった。
彼女はこんな無意味なことをするタイプじゃないし、
そうなると必然的にアタシが自分でやったという結論になる。
とうとうアタシの頭がおかしくなって、自分で部屋をめちゃくちゃにして、
その事実を忘れている。
それを認めるのが怖かったから、誰にも言い出せずになかったことにしてしまった。
早く忘れよう。もうすぐ裁判が始まるんだから。
だけど不安と焦りを心から追い出せず鼓動が早まる。
その時、ふと肘掛けに乗せていた手を軽く握られた。隣に座っているお姉ちゃん。
「盾子ちゃん。何か心配なの?手が汗でびっしょり」
「う、ううん。なんでもないの」
「嘘。顔色悪いよ。私じゃ力になれない?」
「……そうじゃない。でも何ていうか、気持ちの整理がついてないの。
細々したことがごちゃついてて、うまく言葉にできない」
「この前外出したことと関係ある?」
「それもわからない。
今すぐには無理だけど、心が落ち着いたら話すから、ちょっと時間をちょうだい」
「そう……。何か力になれることがあったら、すぐに言ってね。いつでも待ってるから」
「うん、ありがとう。約束する」
綺麗な黒髪を揺らして小さなそばかすが散った顔でアタシを心配するお姉ちゃん。
言葉を交わして少し気が紛れたおかげで、姉に微笑むことができた。
そう、今は裁判に集中しないと。
東京高裁の駐車場に到着すると、アタシ達は
乗降口から建物にかけて目隠しのブルーシートが張られるのを待ってバスから降りた。
G-five製造犯の存在も裁判員裁判の日時も機密事項のはずなのに、
週刊誌の記者達が別のビルから張り込んでいる。
人の口に戸は立てられないってことかしら。
それ以外は前回までと変わりなく一旦控室に通される。
ここの雰囲気にはどうしても慣れない。
夏も近いのに、ねずみ色の塗料で染め上げられた無機質な壁が
不快な冷たさを背中に走らせる。皆の口数が少ないのもこのせいだと思う。
開廷までにもう一度事件概要をチェックしておかなきゃ。
ソファに座りタブレットを立ち上げ、LoveLove.exeを起動する。
「七海さん、今裁判所に着いたわ。事件概要をお願いできるかしら?
もうすぐ裁判が始まるから、頭の中を整理したいの」
《うん。ちょっと待ってね》
彼女がディスプレイにリンク付きの資料を開いてくれた。
リンクをマウスオーバーすれば証拠品のサムネイル画像が表示されるようになってる。
○東京高等裁判所令和元年(の)第192号
容疑者:森本挟持(36)
容疑:殺人
事件概要:
7月4日、午後7時頃。被害者の堀田俊(ほった・しゅん42歳)宅から
銃声のような音が鳴り、付近住民から複数の通報があった。
武装警察隊が被害者宅を訪問した所、返事がないため玄関ドアを破り屋内を調査した所、
リビングで倒れる被害者を発見。その場で死亡が確認され、事件が発覚した。
争った形跡はなく、金品も奪われずそのままだった。
容疑者、森本挟持(もりもと・きょうじ36歳)の犯行を直接示す証拠はないものの、
被害者のそばに容疑者の名で登録されていたショットガンが発見されたため、
任意同行を求めた上、逮捕に至る。
容疑者の供述によると、事件当時は被害者宅隣の自宅でテレビを見ており、
殺害現場は目撃していないと関与を否定している。
被害者の死因:
不明。外傷及び毒物は発見できず。G-fiveによる中毒死が疑われる。
事件現場:
被害者宅(2階建て)と容疑者宅は生け垣を挟んで隣接しており、
両方に生け垣に向けてスライド式のベランダドアがある。
また2つの家屋には銃を保管するガンロッカーが設置されており、
容疑者宅のロッカーには、ショットガンの模造品。
被害者の遺体のそばに凶器とみられる実物のショットガンが放置されていた。
自宅からは謎の脅迫状も見つかっている。
証拠品:
○G-five
謎の女が拡散している猛毒。
一切証拠が残らない凶器として様々な方法で標的を死亡させることができる。
○検死結果
外傷はなく死因は不明。G-fiveによる中毒死の疑いが濃厚。
○容疑者の特徴
森本挟持は“絶望の残党”との戦いで両脚を失っており、
車椅子での生活を余儀なくされている。一人暮らし。
○アリバイ
容疑者は事件当時、自宅でテレビを見ていた。それを証明できる人物はいない。
○容疑者と被害者の関係
容疑者はかつて絶望の残党と戦うレジスタンスで、被害者の部下だった。
自宅が隣同士ということもあり、戦後も付き合いがあった。
○ショットガン(本物)
オーソドックスなポンプアクション式ショットガン。森本の名で登録されている。
被害者の手から硝煙反応と銃に指紋が検出されており、堀田が撃ったことに間違いない。
○ショットガン(模造品)
発射機構が取り外された骨董品。免許がなくても所持が可能。
○猟銃・空気銃所持許可証
ショットガンや空気銃を所持するために必要な免許。
戦時中に大量発行された。森本のもの。
○12ゲージ弾の箱
ショットガン用の実包が10発入った新品の箱。
やはり森本のガンロッカーに保管されていた。
○ガンロッカー
銃をしまう保管庫。容疑者と被害者宅に設置されている。
森本宅のロッカーは工具でこじ開けられた跡があった。
○バール
森本宅の物置にあった工具。
○生け垣
2つの家を隔てる高さ2mほどの生け垣。
最近剪定されたばかりで、ところどころ隙間がある。
○脅迫状
被害者宅から見つかった脅迫状。
「次の誕生日にその命で過去の罪を精算してもらう 第三陸上支援部隊戦死者一同」
今度の容疑者は両脚を失くした傷痍軍人。
彼もまた平和になった世界から取り残された存在。彼が本当に被害者を殺害したのか。
有罪無罪を正しく判断し、G-fiveを配り歩いている女の手がかりを掴まなきゃ。
ふと顔を上げると、皆の視線がアタシに集まっていた。左右田君がアタシに語りかける。
「江ノ島。オレ達も全力出すけどよー。やっぱここ一番で頼りになるのはお前の頭だ。
オレには難しいことはわからねえ。
このおかしな事件を終わらせられるのはお前だけだと思ってる。だから……。頼むぜ」
「アタシだけじゃないわ。ここにいる全員の力を合わせて見えない敵と戦うの。
そうでなくちゃ真犯人の行方を突き止めることなんてできやしない。
あと、これは勘だけど……。
今度こそアタシ達は連続毒殺事件の真相に大きく近づける気がするの」
「……そうだな。そうだよな。
わり、なんかお前に重責押し付けるようなこと言っちまってよー。忘れてくれ」
「気にしないで。みんなの助けが必要なのはアタシも同じだから」
「ほんと、なに弱気になってんのさー。
左右田おにぃってちょくちょく裁判で首突っ込んでるじゃん」
「みんな、頑張るんだ。もう迷いは吹っ切ったはずだろう?
落ち着いて、事実を見つめれば、必ず答えは浮かび上がる。
その結果がどうあろうと、恐れることはない。
一人では無理でも、全員で手を取り合えば受け止めきれるはずだ」
日向君がまとめてくれた。今も昔も変わらない、アタシ達のリーダー。
そして時間が来たらしく、係官が迎えに来た。
法廷へ続く薄暗い廊下を歩き、特別法廷に入廷。
ここに来るのは三度目。学級裁判のような円形に並んだ証言台。
やっぱり裁判官は既に到着している。
白髪交じりのオールバックに髪を整えた彼は、特別法廷の専任なのかもしれない。
法廷の中央を見ると、車椅子に座った体格のいいロングヘアの男性。
元軍人だけあって目つきが鋭く、
黙っていてもピリピリと刺すような気配をまとっている。
皆が証言台に着いたことを確認すると、裁判長がひとつうなずいて木槌を鳴らした。
【裁判員裁判 開廷】
「只今より、堀田俊氏殺害事件の裁判員裁判を開始します。
被告、裁判員、準備はよろしいですね?」
「……ああ」
「「はい」」
そして、裁判長が特別法廷の性質と注意事項について森本さんに説明する。
彼は身じろぎひとつせず聞き入っていて、
ある意味敵に囲まれているというのに全く臆する様子がない。
対象的に、彼の姿を見た罪木さんが少しうつむいて唇を噛む。
彼には両脚がない。過去の罪に心をえぐられているのは明らか。
慎重な審理が求められるけど、あまり長引かせてもいけないわ。
「……裁判における注意点は以上です。では、被告人。氏名と年齢を」
「森本挟持、36歳」
「あなたには堀田俊さん殺害容疑が掛けられています。
周りにいる裁判員の方々が物証やあなたの証言から有罪か無罪かを判断します。
質問には嘘偽りなく述べるように」
「わかってる」
「では、始めましょう。裁判員の皆様、よろしくお願い致します」
「まずは基本的な状況を確認しよう。森本さん、あなたは……」
日向君が先陣を切ると、急に額が発熱し、身体が火照ってきた。
いつものように脳細胞の活動が活性化され、右脳と左脳を走る微弱な電流が急加速する。
もうアタシの脳が自分自身のものか、中にいる“アタシ”のものなのか、
なんだかはっきりしない。
そもそもアタシって誰?
唐突にそんな疑問が頭をよぎり、軽くパニックに陥る。思わず証言台に手をつく。
「……さん。竹内さん?」
裁判長の声でハッと顔を上げる。アタシったら、何を考えていたのかしら。
「えの…竹内、体調でも悪いのか?」
「なんでもないのよ、日向君。ごめんなさい、続けて」
「ならいいが、無理はするなよ?
……じゃあ、森田さん。事件当時の様子について聞かせてください」
「散々これまでの裁判で話したんだが……。まあいいさ」
■議論開始
コトダマ: ○容疑者の特徴
森本
事件と言っても俺にはさっぱりだ。とりあえず、あの晩は居間で[テレビを見てた]な。
どの局もくだらん[バラエティか野球中継]しかなかったが。
ひとりで[晩飯を食う]のも味気ないから、音楽代わりに付けてただけだ。
そしたら隣の家から[銃声が聞こえた]から、何事かと思ったが
こんな身体じゃ[様子も見に行けない]からな。放っておくしかなかった。
しばらくして[いきなり警察が乗り込んできて]何故か俺が捕まった。
まあ、こんなところだ。
・特に怪しい所はないけど、彼の生活面がちょっと気になるかも。……聞いてる?
・…ああ、そうね、ごめんなさい。今起きたところよ。とにかく議論を進めましょう。
REPEAT
森本
事件と言っても俺にはさっぱりだ。とりあえず、あの晩は居間で[テレビを見てた]な。
どの局もくだらん[バラエティか野球中継]しかなかったが。
ひとりで[晩飯を食う]のも味気ないから、音楽代わりに付けてただけだ。
──それは違うわねぇ!!
[晩飯を食う]論破! ○容疑者の特徴:命中 BREAK!!!
「……何がどう違うってんだ」
「森本さんと言ったね。貴方は車椅子で生活しているようだけど、
食事の用意や家事は誰がしてくれてるんだい?」
「自分でやってる。この通り脚はねえが、両手があればなんとかやっていけるもんだ。
滅多に用事はないが、小型のエレベーターがあるから2階にも行ける。
殆ど1階で過ごしてるし、やっぱり移動が面倒だがな。
……それにしても、なんか雰囲気変わったな、あんた」
「彼女は特殊な体質を持っていますが、発言の正確性については国が保証しています」
いつものように裁判長が律儀に説明してくれた。最近疲れ気味のボクとしては助かるよ。
「二重人格……。いや、多重人格か?まぁ、軍にも変な奴はいたからどうでもいいが」
■コトダマゲット!!
○森本宅の構造 をタブレットに記録しました。
○森本宅の構造
2階建てだがエレベーターがあり、車椅子でも一人暮らしが可能。
「なあ、竹内。オレぁとっととこの事件からG-five関連の謎、引っ張り出してえんだよ。
森本さんの身の上話は置いといて、もっと核心的なとこ当たろうぜ」
「なるほど九頭竜。
お前も海神オーケアノスの口が真実を語る日を待ちわびているということか……。
しかぁし!神の審判を急く行為がいかなる結果をもたらすのか、お前は分かっていない!
ひとたび彼の者の逆鱗に触れれば……」
「るせえぞゴラァ!
本っ当今更だが、テメエの回りくどい喋り方はいつになったら治んだよ!
なんで言えねえんだ、“結論を急ぐな”の6文字がよぉ!」
「静粛に、静粛に!」
裁判長の木槌をきっかけに私が肉体の支配権を交代。
好き勝手をなさる皆様をなだめなくては。
「落ち着いてください九頭竜様。確かに田中の野ろ…田中様の仰るとおり、
議論は慎重に尽くされるべきであると考えます。
特にG-fiveにつながると思われる物証の多いこの事件については」
「今度は元クソメガネかよ。だったら次は何を話す?ああ?」
「組長、あまりメガネを軽んじるのは……。なんでもありません」
「めちゃくちゃだ。同じ質問繰り返される通常裁判の方がマシだった」
「申し訳ございません、森本様。こちらの連中は少々変わった方ばかりでして」
「あんたも相当だが」
「では、九頭竜様のご要望通り、
事件の中核をなす凶器について次は全員で話し合いましょう」
■議論開始
コトダマ:○猟銃・空気銃所持許可証
罪木
ええっと、資料によると被害者の方は[森本さんの銃を持っていた]とありますねぇ。
日向
だが遺体には[銃創なんてない]し、死因はG-five以外に考えられない。
終里
でも、ショットガンは森本さんのもんなんだろ?なんで[被害者が持ってた]んだ?
西園寺
[森本さんがあげた]とかー?だとしたら気前いいよねー
左右田
銃砲店じゃどれも[ウン十万する]からな。
・彼女の証言で間違いないと思いますが、森本氏の意図が争点になると思われます。
・そうね。本当にその気があったのかが気になるわ。
REPEAT
罪木
ええっと、資料によると被害者の方は[森本さんの銃を持っていた]とありますねぇ。
日向
だが遺体には[銃創なんてない]し、死因はG-five以外に考えられない。
終里
でも、ショットガンは森本さんのもんなんだろ?なんで[被害者が持って]たんだ?
西園寺
[森本さんがあげた]とかー?だとしたら気前いいよねー
──それは違うわねぇ!!
[森本さんがあげた]論破! ○猟銃・空気銃所持許可証:命中 BREAK!!!
「えー、わたし何か変なこと言った?」
「銃に関わりのない西園寺さんがご存じなくても無理はありませんが、
日本で銃を所持するには“猟銃・空気銃所持許可証”という
とても取得が面倒くさい免許が必要になります。
その他、ガンロッカーの設置状況や銃や実弾の使用状況、使用目的について
定期的な警察の検査が入ります。おいそれと他人に渡すことはそれだけで違法ですし、
発覚すれば自分も相手も手が後ろに回ることになりかねません」
「そうだ。俺のショットガンは……。盗まれたんだ。
やっぱり堀田の奴が犯人だったんだな」
森本さんが苦虫を噛み潰したような表情で語り始めます。
「以前俺の家に泥棒が入ったんだ。夜中にガンガン何か叩くような音で起こされたから、
必死こいて車椅子に乗って居間に行ってみると、ガンロッカーがこじ開けられてた。
物置のバールが床に落ちてて、中を見ると保管してたショットガンがなくなってたんだ。
すぐ警察に通報したが今度の事件まで見つからずじまいだったよ。
……俺に残ったのは思い出づくりに買った模造品だけだ。
この脚じゃ銃を撃つ機会なんてもうないから、
免許の更新はせずに銃も売り払おうと思ってたからな」
「だとしたら、被害者の堀田さんは自殺だったということになるのでしょうか?
わたくし、気になります」
「いいえ。自殺ならG-fiveに頼らなくとも実弾で頭部を撃ち抜けばそれで済んだはず。
やはり被害者は何らかの方法で何者かによって
G-fiveを吸引させられ、殺害されたのです」
「何か、何か、じゃわかんねえよー。
オレ、難しいこと考えると腹が減るからもう少し簡単に頼むぜ」
「でしたら、次はもっとわかりやすい証拠品について議論しましょう」
■議論開始
コトダマ:○ショットガン(本物)
終里
そもそも本当に被害者が銃を撃ったのかー?〈遺体には何も痕がなかった〉んだろ?
狛枝
ボクはそれで間違いないと思う。[指紋も硝煙反応もある]んだし。
十神
だが、何のためだ?家の中とは言え住宅街で発砲したら〈付近住民に気づかれる〉。
弐大
実際[住民の通報]で事件が発覚したんじゃからのう。
日向
それでも〈撃たざるを得ない事情〉があったとしか考えられないな。
・ショットガンをぶっ放すなんて~。よっぽど追い詰められてたんだと思うんだっ!
・なぜ追い詰められたかが問題になりそうね。
REPEAT
終里
そもそも本当に被害者が銃を撃ったのか?〈遺体には何も痕がなかった〉んだろ?
狛枝
ボクはそれで間違いないと思う。[指紋も硝煙反応もある]んだし。
十神
だが、何のためだ?家の中とは言え住宅街で発砲したら〈付近住民に気づかれる〉。
弐大
実際[住民の通報]で事件が発覚したんじゃからのう。
日向
それでも〈撃たざるを得ない何か〉が起きていたとしか考えられないな。
──そうだと思うわよ!!
賛!〈撃たざるを得ない何か〉同意! ○ショットガン(本物):命中 BREAK!!!
「そーなの。堀田さんがショットガンを撃ったのは確定でぇ~。
当然何のために撃ったのかが気になるよね、なるよね?ウフフッ」
「……言いたかないが、その人格はさっさと引っ込めたほうが身のためだ。
お互い良い年なんだからよ」
「ひっどーい、超ヤガモ!
ふんだ、森本さんなんてもう知らな~い。こっちで勝手に四択問題やっちゃうんだから!
えーっとぉ、堀田さんが撃った理由ってのはぁ……」
■堀田が発砲した理由とは?
?→単なる暴発だった
?→誰かと戦った
?→射撃の練習
?→自殺未遂
──これで説明できるはずよ!! →正解:誰かと戦った
「誰かって誰だ」
「う~ん、だれでしょう?」
「ふざけてるのか」
「待ってくれ、論点がずれてきてるぞ!
俺達が話し合うべきなのは、
犯人がどうやって被害者にG-fiveを投与し殺害したのかであって、
結局ショットガンは直接堀田さんの死に関わってない。
遺体の状況を見ても明らかだろう?」
日向君はこう言うけど、
カワイく見えるようにほっぺに人差し指を当てて小首をかしげまーす。
ちょっと上目遣いも忘れずに!
「ホントにそうかなぁ~」
「大体、戦ったと言うが誰と戦ったっていうんだ?」
「証拠品にあるじゃ~ん。脅・迫・状」
「「はっ……!」」
証拠品だらけで埋もれちゃってたみたい。
毎度毎度コトダマ多すぎだから無理もないけどさ~。
ワンテンポ遅れたけど全員気づいたよね。
「うん、みんな気づいてくれたみたいだね~。わたしの出番はここまでかな。チャオ!」
「“次の誕生日にその命で過去の罪を精算してもらう
第三陸上支援部隊戦死者一同”!」
やあ、またボクだ。日向君が律儀に読み上げてくれた脅迫文の内容。
確認しなければならない点があるね。
「二十数分ぶりだね森本さん。ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ、
ここに書かれているは紛れもなく堀田さんの誕生日で間違いないけど、
貴方は彼の誕生日を知っているのかい?」
「7月、4日だ……!」
彼が絞り出すように口にすると、また法廷が驚きに包まれる。
「つまりそれは、事件当日!?」
「そういうことになるね。……あと、今更だけど森本さんは元レジスタンス。
所属していた部隊名を、教えてくれないか?」
「……第三陸上支援部隊」
皆の息を呑む音が聞こえる。
脅迫状を出した可能性が高いのは森本さんだけど、決めつけるのはやめておこう。
とりあえず今はっきりしている事実から導き出せる推論に集中しようじゃないか。
「こう考えると辻褄が合わないかな?
被害者は予告通り彼を襲撃しようとした第三陸上支援部隊の誰かと戦った。
ショットガンを撃ったのはその時」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ竹内さん!君が言いたいのはこうだよね?
被害者は押し入ってきたなんとか部隊と戦って死亡したって!
でも事件概要には争った形跡はないって書いてあったよ!?
玄関だって警察が蹴破るまで鍵が掛かってたし、
犯人はどうやって被害者の家に侵入して堀田さんに銃を撃たせたっていうの?」
「落ち着いておくれ、花村君。ボクは犯人が“押し入った”なんて一言も言ってないよ?
何も襲撃の方法は自宅に突入することだけとは限らない。
もっと言えば、隣の家から狙撃することも可能なんだよ。
そう、森本さん。貴方の家からね」
「なっ……。俺が、俺の家からだと?」
──その推理はピンボケだよ!
森本さんにわずかとは言え初めて動揺の色が見えた。……と思ったら、ついに来たね。
彼女との対決は二度目かな?
「小泉さんじゃないか。何かボクの推論におかしな点でも?」
「盾子ちゃんの理屈は強引すぎるよ。森本さんは脚が不自由なんだよ?
彼を犯人みたいに言ってるけど、よく考えて」
「熟考を重ねた上での発言なんだけど、説明不足だったみたいだね。それは謝るよ。
……じゃあ、説明不足を補うためにご協力願おうか」
■反論ショーダウン 開始
>>12ゲージ弾の箱
小泉
狙撃するって/当たり前のように言うけど/どこからどうやって/撃つって言うの?
森本さんの銃は盗まれてて/手元にないし、2人の家の間には生け垣もあった/んだよ?
高さが2mもあって/とても向こう側なんて/狙えないし、
やっぱり/現場や遺体の状況/と矛盾する!
《発展!》
江ノ島(キザ)
何もボクは犯人が実弾で被害者を射殺したと言いたいわけじゃない。
そんなことをしたら遺体の状況と噛み合わなくなるのは君の主張通りさ。
ボクはこう思うんだ。また第三者による介入、つまりG-fiveが
何らかの形で何者かによって手渡されたんじゃないかってね。
小泉
だからそれが/強引なんだって!被害者が持ってた銃を/撃ったのは間違いない。
でも/考えてみて。仮にG-fiveが/森本さんの手に渡っていたとしても
どうやって堀田さんに/吸わせることが出来た/って言うの?
やっぱり[銃弾はただの/空撃ちだった]んだよ!
──その言葉、ズタズタにしてあげる!!
斬![銃弾はただの空撃ちだった]論破! >>12ゲージ弾の箱 BREAK!!!
「事件概要の項目“12ゲージ弾の箱”を見ておくれ」
「……うん、見たけど、これがどうしたの?」
「新品だから、弾がぎっしり詰まっているね」
「それで……。何なのよ」
「妙だね。実に妙な話さ」
「だーかーら!これがどんな物証になるのか教えてよ!
そっちの盾子ちゃんのもったいぶる癖、良くないと思う!」
「ふぅ、叱られてしまった。では結論から言うよ。
事件当時、やはり被害者の銃で実弾は発射されていない。
なぜなら、箱の弾は一発も使われていないんだから」
「あっ……」
「わかってくれてありがとう。
そう、ショットガン同様管理が厳しい弾丸は、使えば必ず記録なり痕跡なりが残る。
にもかかわらず事件当日銃声がしたのは、
誰かが“他の一発”を都合したからに他ならないのさ」
「それってもしかして……!」
「小泉さんの思った通り。
皆にもわかりやすい形で示すために、いつものアレを始めたいんだけど……。
裁判長、構わないよね?」
「はい、よろしくお願いします」
「メルシーボークー」
ボクは証言台の液晶パネルをタッチペンで操作して目星をつけていた証拠品を選び、
じっと見つめる。
画面に映し出された3Dの模型に注意すべきポイントを示す青いサークルが浮かび上がる。
さあ、始めようか。
■証拠品精査 開始
○ショットガン(本物)
・銃身全体
スタンダードなポンプアクション式ショットガンだね。
ショットガンはいろんな種類の弾を撃つことができる。
鳥撃ち用、鹿撃ち用、熊撃ち用、もちろん、人間用もね。
・トリガー
銃弾を撃つための引き金。それ以外に言うことは何もないな。
・銃口
内部を覗いてみると若干ススが残ってる。
被害者が何を狙ったのかは知らないけど、発砲したのは事実だから当然だけどね。
……でも暗くて奥に詰まってる何かが見えそうで見えない。気になるな。
・ハンドグリップ
銃身下部に取り付けられている部品。
これを引くことで内部の弾薬を装填したり、空薬莢を排出したりできるんだよ。
一度手前に引いてみるよ?おや、排莢口から何か出てきたね。
潰れた空薬莢…のようなもの。なるほど、これで、決まりだ。
──絶対に逃さないわ!!
■コトダマゲット!!
○破れた弾丸 をタブレットに記録しました。
○破れた弾丸
12ゲージ弾に似せた空砲。
実弾部分の代わりに柔らかいプラスチックケースが取り付けられていたらしく、
空薬莢に溶けたプラスチックが付着している。ショットガン(本物)に装填されていた。
「まあ!銃から何かがレッドスネークカモンでございますわ」
「うん、被害者が事件当時発砲したのはこの弾丸で間違いないだろうね」
「じゃあ、盾子ちゃんが言ってた“他の一発”って……!」
「この潰れた弾のことさ。弾を撃った銃に空薬莢が残ってるなんて当たり前過ぎるから、
流石に武装警察隊も証拠品としては取り上げなかったんだろうね」
「警察の捜査、雑過ぎっす!ただでさえ唯吹には難問奇問なんすから、
ヒントくらいはしっかり用意してほしいと主張したい!」
「フン、澪田の言う通り、これでよく今まで裁判進めてきたものだ!
仮にまかり間違って本法定で冤罪が発生すれば関係者全員の責任問題は免れんぞ。
それを理解しているのか!」
「……こちらの不手際です。申し訳ありません。
再発防止に努めるよう、武装警察隊には厳重注意致します」
裁判長が恐縮してるけど、彼を責めても仕方がない。それより新しい証拠品を調べよう。
「皆の怒りはもっともだけど、今は議論を進めようじゃないか。
さて、この弾丸だけど、火薬の詰まった薬莢に
通常弾によく似せたプラスチックケースが取り付けらた痕跡があるね。
仮にこの弾を撃ったら火薬の爆発でケースが溶けて破裂し、
中身が銃口から漏れ出るのは想像に難くない。
……ねえ、森本さん。貴方ならケースの中に何を入れる?」
「……」
にわかに法廷内の空気がざわざわとして、落ち着きがなくなる。
森本さんもわずかに下を向いて、表情が見えない。
「貴方の考えを聞かせてほしいんだけどな」
「……持ってるとするなら、G-fiveだ」
ぼそりと呟いた彼の答えに皆、衝撃を受ける。
すかさず日向君が森本さんに質問をぶつける。
「待ってくれ!
なら、あなたはG-fiveの詰まった弾丸を予め被害者のショットガンに装填していた。
それで間違いないんですか!?」
「黙秘する」
「でも、確かにあなたの銃に偽の弾薬が残っていた。
なぜそうなったのか説明してください!」
「説明して欲しいのは俺の方だ。言ったろう?俺の銃は、盗まれたんだ」
「それは…そうなんですが」
なんだか状況がゴチャゴチャしてきたね。ボクは軽く手を挙げて裁判長に提案した。
「ちょっと良いかな。裁判長、ここで少し休憩にしないか?
ボク達も考えをまとめる時間が必要なんだ」
裁判長は法廷を見渡すとひとつ咳払いをして言った。
「わかりました。これより15分の休憩と致します」
ショットガンが移動した経緯だとか、犯人の動機だとか、
わからないことはまだまだある。
とにかくボク達は一旦冷静になるために解散したというわけなんだ。
【裁判員裁判 中断】