江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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*ご注意
今回から小説「ダンガンロンパ/ゼロ」のネタバレが入ります。
未読の方はお気をつけください。


第11章 被告人:森本挟持(後編)

 

 

【裁判員裁判 再開】

 

 

15分の休憩を終えて、アタシ達は再び特別法廷に戻った。

風邪を引いているかように身体がだるい。

裁判長が中断を宣言したときに一旦別の江ノ島盾子が精神の中に戻っていったから、

自販機で買ったミネラルウォーターを額に当てて頭を冷ましていたけど、

あまり効果がなかった。

 

これ以上は身体が保たないと思う。

エゲツないほどの倦怠感にベンチでぐったりしていると、

お姉ちゃんが心配して声をかけてくれた。

でも、軽くめまいもするアタシは作り笑いで大丈夫と一言返事をするので精一杯だった。

 

「特別法廷を再開します」

 

裁判長の木槌を合図に、また裁判員裁判が始まる。

早く決着をつけないとアタシも熱でおかしくなる。

まず明らかにしなきゃいけないことは何かしら。

 

タブレットに指を滑らせ、コトダマをもう一度眺めて仮説を立て、

森本さんの証言と照らし合わせる。

すると、どうにか針の穴のような突破口が開けそうな事実が見つかった。

頼むわね、もうひとりのアタシ……。

 

また急な発熱が起こり、脳が強制的に加速され、

ただの女から江ノ島盾子の誰かに人格が交代する。

誰が来るのかわからないけど、どうにかしてちょうだい。とても、苦しい。

 

「ジャジャジャジャーン!!満を持して盾子ちゃんの再降臨だオラァ!

……今、ジェノサイダーとキャラ被ってると思った奴、

お前らの顔全部アストロガンガーにしてやるから一列に並べ!ウヒャヒャヒャ!」

 

「おい、あの女本当に大丈夫なのか?」

 

「繰り返しになりますが、発言の正確性は国が……。静粛に、静粛に!」

 

裁判長のオッサンがガンガン木槌を叩く。ああうるせえ!

 

「今そいつ自分のこと“盾子”って言ったぞ。顔も江ノ島盾子に似てる気がするんだが」

 

「裁判員の身元についてはお教えできません。江ノ島盾子とも無関係です」

 

「そうか……?」

 

起きたはいいが面倒くせえ。

バカみたいに暑いわ、クソみたいにダルいわでやってらんねー。

仕事済ませてとっとと寝る。

 

 

■ロジカルダイブ 開始

 

ちくしょー。テンションダダ下がりだわ、ここのコメントもテキトーだわで最悪だぜ。

裁判なんかよりババアの悪口大会の方が盛り上がるっつーの。

 

もう何にも言わない。事件解決に協力さえしてくれれば何も言わない。

 

乗車前に左右確認。発進前に後方確認。オラ、これでいいんだろ。

 

相当疲れてるのね。アタシもだけど……。

 

3.2.1…DIVE START

 

QUESTION 1:

被害者がショットガン(本物)を手に入れたのはいつ?

A・事件発生以前 B・事件当日

 

[A・事件発生以前]

 

他にねーわな。森本の証言にしろ、脅迫状にしろ、事件現場の状況にしろ。

 

少しだけ頑張って。これが終わったら寝てていいから。

 

QUESTION 2:

被害者はショットガン(本物)で誰を狙った?

A・自分自身 B・森本挟持 C・自宅に侵入した誰か

 

[B・森本挟持]

 

AもCもありえねえことは他のオレが証明してる。ならこいつしかいねえ。

 

問題はなぜ撃ったか。あるいは撃たされたか……。

 

QUESTION 3:

被害者がショットガンを手に入れた方法は?

A・容疑者から受け取った B・容疑者宅から盗んだ C・自分も一丁持っていた

 

[A・容疑者から受け取った]

 

被害者も銃を持ってたなら免許が見つかるはずだし、

森本を殺す気なら銃以外にも簡単な方法はあった。手頃なバールで殴るとかな。

……これでいいかー?今回は直行直帰な。

 

ありがとう。さあ、戻りましょうか。

 

 

──真実はアタシのもの!

 

 

ぐすん、ううっ……。静かな法廷に私の鳴き声がこだまします。

 

「お、おい。どうしたんだ。黙り込んだと思ったら、叫んだり泣いたり忙しい奴だな」

 

「とても悲しいんです。無実と信じた奴の有罪を証明しなくちゃならないなんて……

とても面倒で、しんどくて、悲しいです……」

 

「盾子ちゃん……。あなたには、わかってるんだね?」

 

「……お姉ちゃんがなんにも分かってない事実も涙を誘います」

 

「私まで泣きたくなるからやめて?」

 

「ふん、大きく出たな。俺が有罪?

だったら遠慮なく証明してくれよ。本当に俺が犯人ならな」

 

「はい……。まずは細かい所から整理していきたいんですけど、いいですよね?

被害者が本物のショットガンを手に入れたのはいつなのか。これは当然事件発生より前」

 

「そうだ。堀田の野郎に盗まれたんだ……!」

 

「私は違うと考えています……。

被害者にショットガンを渡したのは、森本さん、あなたですね……?」

 

「「なっ!」」

 

法廷がざわめきます。うるさいです。こぼれそうでこぼれない涙が量を増します。

 

「被害者が持っていた脅迫状を思い出してください。

次の誕生日に自分を殺害するという内容。差出人は“第三陸上支援部隊戦死者”。

あなたも、かつてその部隊の隊員だった……」

 

「だったら?」

 

「話は変わりますけど、その脅迫状を出したのは、森本さんだと思ってます……。

あなたの居た部隊の規模は知りませんけど、

昔同じレジスタンスで戦った人が隣に住んでいるのに、

どこにいるかもわからない別の隊員が

わざわざ今更殺害予告をしてくるなんて無理があると思うんです。

結局当日は不審人物の襲撃なんてなかったわけですし……」

 

「一旦待ってくれ。憶測で話を進めるのは危険だ。

裁判長、被害者宅の近辺に第三陸上支援部隊の元隊員は他にいないのか?」

 

日向さんです……。このところ影が薄い彼の話を聞きましょう……。

 

「はい。未来機関と武装警察隊の合同捜査によると、

第三陸上支援部隊の隊員は絶望の残党との戦いでほぼ全滅。

生存者は地方の故郷へ帰った、とあります」

 

「ああそうだよ。あの能無し野郎のせいで大勢の仲間が死んだ!

隊長の腰巾着だった堀田は、作戦中に死亡した隊長の後釜について、

ろくに軍隊指揮の経験もない癖に俺達に無茶な突撃命令を繰り返したんだ。

あいつが知ってる日本語と言えば、前進、突撃の二つだけ。

安全なずっと後ろでどちらかを叫ぶだけだった」

 

「では、やっぱり貴方が脅迫状を?」

 

「それは認めてやってもいい。

無傷で生き残ってのほほんとしてる堀田を死ぬほどビビらせてやりたかったんだよ。

だが殺したのは俺じゃねえ。そもそもあのショットガンは俺が保管してたんだ」

 

「じゃあ、話を戻して、議論しましょう……」

 

 

■議論開始

コトダマ:○生け垣

 

江ノ島(泣き虫)

脅迫状を受け取った被害者は、当然〈森本さんとトラブルになった〉はずなんです……。

 

辺古山

付近にレジスタンスの生存者は[森本さんしかいない]からな。

当然脅迫状について彼を問い詰めただろう。

 

森本

それがショットガンの行方とどうつながる?銃は[ガンロッカーから盗まれた]。

それだけだ。

 

十神

……待て。〈双方の同意〉があれば、他の経路もありえなくはない。

 

森本

何が悲しくてあの野郎に[大事な銃]を?冗談も程々にしろ。

 

・死因がG-fiveの詰まった弾丸なら、むしろ移動させなきゃ変ですよね……

・彼が気づいてくれたみたいね。

 

REPEAT

 

江ノ島(泣き虫)

脅迫状を受け取った被害者は、当然〈森本さんとトラブルになった〉はずなんです……。

 

辺古山

付近にレジスタンスの生存者は[森本さんしかいない]からな。

当然脅迫状について彼を問い詰めただろう。

 

森本

それがショットガンの行方とどうつながる?銃は[ガンロッカーから盗まれた]。

それだけだ。

 

十神

……待て。〈双方の同意〉があれば、他の経路もありえなくはない。

 

──そうだと思うわよ!!

 

賛!〈双方の同意〉同意! ○生け垣:命中 BREAK!!!

 

 

「俺に同意か。当然の判断だ。

2つの家屋は特に長細いもののやりとりに向いている何かに隔てられているからな」

 

「豚足ちゃんまでもったいぶらないでよ。結局どういうことなのさー?」

 

私にやれることはここまでだと思うので、さようなら……。

 

バイバーイ!さりげに出番ナシの盾子ちゃんが再登場!イェイ待った~?

 

「同意だと?俺が殺されるためにショットガンをくれてやったって言いたいのか」

 

「往生際悪くなーい?ちなみにアタシはベーシックな盾子ちゃんだからヨロシク~。

……で、アタシが言いたいのは、おデブちゃんの言う通り

ショットガンはあんた自身が堀田に渡したってこと」

 

「本当にイカれてるんじゃないのか?だいぶ前にも話に出たが、銃器の譲渡は」

 

「譲渡じゃなくて~。2,3日こっそり“貸す”ことなら出来たんじゃない?」

 

「何が、言いたい……」

 

「アタシ的にはこんなやり取りがあったんじゃないかと思ってるワケ」

 

 

………

 

「森本!出てこい、森本ー!」

 

「うるせえな。用なら玄関に回れよ、ボンクラ。車椅子転がすこっちの身にもなれ」

 

「黙れ……!なんのつもりだ、この手紙は!見ろ」

 

「手紙?……ふーん、なるほど。

まあ、お前に生きててほしい酔狂なんかいねえからな。7月4日が楽しみだ」

 

「とぼけるな!お前が書いたんだろう!?お、俺を殺してみろ!

真っ先に疑われるのはお前だからな!」

 

「この体でお前の家に行って予告殺人を実行する、か?銃でも使わなきゃ無理だ」

 

「そ、そうだ!お前は散弾銃を持ってたな!それで俺を殺す気だろう!?」

 

「相変わらず肝っ玉の小せえ野郎だ。そんなに心配なら、貸してやろうか?

7月4日が過ぎるまで」

 

「貸す……?」

 

「ああ。こないだ警察のチェックがあったばかりだから、

数日貸してやるくらいなら平気だろう。不安ならそれで身を守れ。

待ってろ、今持ってくる」

 

「早くしろ!」

 

………

 

 

「車椅子のあんたの家はきっと庭への段差にスロープが敷いてあるだろうから、

直接生け垣のある庭と家を往復できた。ねー、裁判長それでOK?」

 

「はい。森本氏の自宅は徹底的にバリアフリー化されています」

 

「何が言いてえのかって聞いてんだ……!」

 

「そん時、家に戻ってガンロッカーから

毒薬入りの弾丸が装填されたショットガンを持ってきたあんたは、堀田にそれを渡した。

穴だらけの生け垣を通してね!」

 

「全部、憶測だろうが」

 

「じゃあ、なんであんたの銃が堀田の家にあったワケー?」

 

「何回言わせるんだ!あいつに盗まれたって!」

 

「それっておかしくない?あんた殺したいならさぁ、

盗む手間もかかるし使えば証拠が残りまくる銃を盗まなくっても、

包丁で刺したりロープで首を絞めたり、

それこそバールだのでぶん殴ればよかったと思うんだけど、どーよ?」

 

「無能なくせにプライドだけは一人前だったからな。

元軍人として一丁持って起きたかったんじゃねえのか?

銃の免許取得更新にはある程度実弾射撃の成績が必要なんだが、

あいつは下手くそで免許の更新ができなかったからな。

一人でも多く兵士が必要だった戦時中はハードルが低くなってたから

堀田でも免許が取れたが、今の基準であいつが合格するのは無理だ」

 

「アタシはこう思うわけ。ガンロッカーをこじ開けたのはあんたで、

堀田がショットガンを盗んだと錯覚させるためにロッカーに傷をつけた。

それから中のショットガンを隠した上で警察に通報。

こうすりゃ誰もが堀田はあんたの銃で自殺って思い込む。

……これってかなりイイ線行ってると思うんだけど、あんたどう?」

 

「全部お前の“だったらいいな”でしかねえな。なら、一番デカイ謎はどうなる。

つまり、そもそも堀田はどうして銃を撃ったってことだ。

誰もいない家の中で、何を何のために撃ったのか。

事件当日、結局誰も尋ねちゃ来なかった。

言っとくが、試し撃ちなんかしたら銃声で余計大騒ぎになる」

 

「あーウザい!アタシ言ったと思うんだけど!?

堀田が撃ったのは……。あんたしかいないのよ!」

 

「こっちもお前にイライラしてる。ムカつく奴同士、決着をつけようじゃねえか。

堀田が、家の中から、邪魔な生け垣の向こうにいる俺を、どうやって撃ったんだ!!」

 

 

■議論開始

コトダマ:○森本宅の構造

 

森本

俺は事件の起きた夜、居間で[晩飯を食ってた]し、

 

車椅子で現場に行くことも[できなかった]!

 

銃を[撃ったのは他ならぬ堀田]だから俺は犯人じゃありえない!

 

俺が持ってる物と言えば[弾も撃てない模造品]だけ!

 

堀田を殺すことなんて[絶対に不可能]なんだよ!

 

・事件もこれで大詰め?撃つ必要はないんだよねー、撃つ必要は。

・ええ、G-fiveも、ショットガンも堀田さんの手元にある。森本さんの所持品は……。

 

REPEAT

 

森本

俺は事件の起きた夜、居間で[晩飯を食ってた]し、

 

車椅子で現場に行くことも[できなかった]!

 

銃を[撃ったのは他ならぬ堀田]だから俺は犯人じゃありえない!

 

──これで、とどめよ!!

 

[撃ったのは他ならぬ堀田]論破! ○森本宅の構造:命中 BREAK!!!

 

 

「それがどうした!やっぱり堀田が撃ったんじゃねえか!」

 

「あんたさ……。裁判の最初の方で、2階に行く用事は滅多に無いって言ってたじゃん」

 

「だったらなんだ」

 

「どんな用事があれば2階に行くわけ?」

 

「たまに手すりにシーツを干したりするだけだ。

広いシーツは1階の高い物干し竿に吊るすのが骨なんだよ」

 

「ふぅん。じゃあついでに聞くけど、そこからさ、堀田の家は見えんの?」

 

「それは……!」

 

「えの…竹内、お前の言いたいことって、まさか!」

 

「日向黙って。答え合わせの途中だから。で、見・え・ん・の?」

 

「……見える」

 

「以上。アタシ疲れた、あと女王様にバトンタッチするね。さよならー」

 

「ああ、盾子ちゃん帰っちゃったっすよ!

答え合わせつっても、結局肝心なとこで丸投げなんてひどいっす……」

 

「ほんと、どの盾子ちゃんも勝手なんだから。

唯吹ちゃん、最後の盾子ちゃんがわかりやすく説明してくれるだろうから

ちょっとだけ待とう?いつもの王冠。はぁ」

 

「その通り!私様(わたくしさま)が難解に見えて安っぽい謎を

懇切丁寧に解説してあげるから謹んで拝聴することね!」

 

「……本当に、お前は、誰なんだ」

 

 

■クライマックス推理:

 

>クライマックス推理 開始

>推理を完成させろ

 

Act.1

事件は被害者が死亡する何日も前から既に始まっていた。

まず犯人は鍵が掛かった状態のガンロッカーをバールでこじ開け、

盗まれた痕跡を着けておき、

本物のショットガンを取り出しG-fiveが仕込まれた銃弾を装填。

後は布団の中にでも隠しておいて予め警察に通報しておく。

その後は堀田宅に意味深長な脅迫文を

郵送するなり手袋をはめた手で直接投函するなりし、相手の反応を待った。

 

Act.2

案の定、後日犯人と堀田は生け垣を挟んだ庭で口論になる。

だけどこれも犯人の計算のうち。

護身用と潔白の証として堀田に自分のショットガンを貸すと申し出る。

一も二もなく飛びついた堀田は、

生け垣の隙間から差し出されたショットガンを受け取り、

脅迫状に記された自分の誕生日、つまり7月4日を待つことになる。

 

Act.3

そしてついに事件当日。

堀田は脅迫状の差出人に怯えながらその日が過ぎ去るのを待っていた。

ショットガンを抱えつつ、第三陸上支援部隊の生き残りの襲撃に備えていたのよ。

しかし待てど暮らせど襲撃者は現れない。

それもそのはず、脅迫状を送りつけた犯人はすぐ隣に住んでいて、

既に襲撃の準備を済ませていたのだから!

 

Act.4

犯人はあるものを携え、自宅に設置されたエレベーターで2階へ上がる。

そしてベランダからスマートフォンか何かで堀田に連絡を取る。

とにかく窓際に堀田を誘導できるなら通話の内容はなんだっていい。

“襲撃者が庭にいる”、“庭から逃げろ”、あるいは“庭から先制攻撃しろ”。

もっと簡単な方法を挙げるなら、

懐中電灯で堀田側の庭を照らせば不審に思った彼が近づいてくる。

 

Act.5

事件の仕上げ。とにかく何らかの方法で堀田を窓際におびき出した犯人は、

奴に最後の言葉を告げる。“襲撃者は2階の俺だ”。

思わず犯人宅を見上げた堀田はギョッとしたでしょうね。

受け取ったはずのショットガンを構えた犯人が自分を狙っているんですもの。

だけどそれは弾の撃てない骨董品。

でもそんなこと知る由もない堀田は、ためらわず手に持ったショットガンで反撃。

その時G-five入りの弾丸が銃身内で破裂。

硝煙と共に気化した毒を吸い込んだ堀田は犯人の計画通り死亡。

 

この計画を実行できたのは、犯人と簡単に銃のやり取りができて、

意図的なタイミングで撃たせることができた人物だけ。……そうでしょう?森本挟持!

 

 

──これが事件の全貌よ!  COMPLETE!

 

 

「……粘ってはみたが、ここまでってことか」

 

「そ、それじゃあ森本さん!やっぱり貴方が堀田さんを!?」

 

熱のせいで日向君やみんなの声が歪んで聞こえる。

もう少し江ノ島盾子の状態が続いていたら危なかった。

何度か深呼吸すると幾分意識がはっきりしてきた。

 

「そうだよ。そこの江ノ島盾子そっくりの女の言う通りさ。

俺が堀田にG-five入りの銃を渡して撃たせた。詳しい方法もそいつが説明した」

 

「どうして、そのようなことを……。

戦時中からのお知り合いだと聞きましたが、6年以上も経った今になって、なぜ」

 

「動機はもう喋ったと思うが、脅迫状の内容が全てだ。

俺達を使い捨てやがった堀田の野郎に復讐したかったんだよ。

お嬢さん、あんたに分かってもらおうとは思わないが、あの戦場は地獄だった。

いくつも並んだ重機関銃に爆走する重戦車の群れ。

仲間は機銃や榴散弾でバラバラにされ、俺も戦車に両脚を踏み潰されてこのザマだ。

激痛で泣き叫ぶ俺を仲間が引きずって後退させてくれたが、

あいつは俺の避難が終わった瞬間、頭を撃ち抜かれて死んだ」

 

「そんな……」

 

「あんたらに言っても仕方ないが、俺の中じゃまだ戦争は終わってねえ。

死んでいった仲間と無くなった脚が俺に言うんだ。“堀田に裁きを”」

 

絶望が遺した爪痕の生き証人を目の当たりにし、ソニアさんも皆も言葉を失った。

これ以上の審理を必要としないと判断した裁判長が告げる。

 

「……審理は尽くされたと考えます。

裁判員の方は、お手元のモニターに、有罪もしくは無罪と記入して下さい」

 

アタシは震える手で、“有罪”を記入する。

その文字は歪で文字を覚えたばかりの子供が書いたようなものでしかなかった。

 

「全員の意見が出揃いました。判決を言い渡します」

 

判決:森本挟持 有罪

 

 

【裁判員裁判 閉廷】

 

 

また、G-fiveに運命を狂わされた者が一人。

別室から係官が出てきて森本さんを連行しようとする。

アタシはまだ鉛のように重い体に鞭打って彼に呼びかけた。

 

「待って、森本さん!!」

 

「どうした。そんなに大きな声出して」

 

「まだよ。まだ事件は解決してないわ。

あなたにG-fiveの入った弾丸を渡したのは、誰?」

 

「……そうだな。それがまだだったな。

俺に取っちゃ恩人だから裏切るようで気が引けるんだが、負けは負けだ。教えてやるよ」

 

ずっと硬い表情を崩さなかった彼が、初めて微笑みを浮かべて語り始めた。

 

 

………

 

今夜も隣から堀田の野郎の下卑た笑い声が聞こえてくる。

どうせビールでも飲みながらテレビでも見てるんだろうが、

何が楽しいのかさっぱりわからん。

 

「チッ、どのチャンネルもろくな番組流しやしねえ」

 

舌打ちしつつザッピングしてたが、くだらねえ番組ばかりでうんざりした。

諦めてリモコンを放り出し、晩飯のカップラーメンをすする。

 

──まあ、テレビ自体オワコンですからね~

 

流石に俺もビビった。

俺以外誰もいないはずの家で、誰かに話しかけられる事なんてあるはずない。

キョロキョロ周りをよく見ると、台所に会ったこともない女子高生がいたんだよ。

どこかの高校の制服を着てて、髪は赤に近いブラウン。同色の目をしてた。

 

「誰だ」

 

「えーっ!今まで私のこと知らなかったんですか?最近ずっとお邪魔してたんですけど。

今日だって外から帰る時にちょっとだけ車椅子押してあげたんですよ?

本当にちょっとですけど。あ、この体質のままだとしょうがないか」

 

「誰だって聞いてんだ」

 

「ちょっと待ってくださいね。今、思い出しますから」

 

そいつは胸ポケットから手帳を取り出すと、一番最初のページを見て嬉しそうに笑った。

 

「はい、私の名前はB19306。

ある人達の言うことを聞いていれば、名前を返してもらえるんです」

 

「もういい、警察を呼ぶ」

 

「あー、待ってー!今日は“完成”したから大事なお話をしに来たんです」

 

「意味がわからん。時間稼ぎなら無駄だぞ」

 

「ぶっちゃけ、堀田さん殺したくないですか?」

 

110番を入力したスマホを落としそうになる。平静を装うのに苦労した。

なんたって、図星だったからな。

 

「確かに堀田は死ねばいいと思ってるが、なんで俺が手を下すと?」

 

「過去のネット記事のアーカイブを見たんです。“絶望と戦った戦士達のその後”。

108円払った甲斐がありました。生々しい体験談を読むことができましたから。

無謀な突撃命令で手足を失った元レジスタンス……。

あなた達のことだってすぐにわかっちゃいました」

 

確かに俺は障害年金を受給して働かずに暮らしてるが、生活は決して楽じゃない。

以前、取材料目的でネットニュースのインタビューを受けたことがある。

 

「そうそう、G-fiveってご存知ですか?最近世間を騒がせている連続不審死。

全く証拠が残らない上に、吸わせる、塗る、飲ませる。

色んな方法で即死させられる、養生テープみたいに便利な毒薬が使われてるって噂です」

 

「……俺に何を言わせたい」

 

「ご希望でしたら、ご用意します」

 

………

 

 

「ろくに信じちゃいなかったが、もしかして、という気持ちも少しはあった。

そこで俺はダメ元で

12ゲージ弾に似せたG-fiveを作れるもんなら作ってみろ、そう言ったんだ。

驚いたさ。翌日、本当に持ってきたんだからな」

 

「中身が偽物だとは、考えなかった?」

 

「考えはしたが、いたずらにしちゃ手が込みすぎてる。

俺の家に忍び込んだ手口と、持ってきた12ゲージ弾の完成度を見ると、

試してみる価値はあると思った。だから……。実行に移した」

 

B19306。偽名とは言えそいつこそG-fiveの製造犯。アタシ達は近々奴と対決する。

そんな気がしてならなかった。必死になってさらなる情報を求める。

 

「他には!?Bなんとかは他に何か言ってなかった?」

 

「話の中で言ってたな。あの女子高生に指示を出してるのは、《希望》の残党……っ!」

 

その時、突然森本さんが意識を失い、上半身を証言台に倒した。

同時にバタンと法廷のドアが開き、何者かが走り去る足音が遠ざかっていく。

 

「捕まえて!」

 

「係官、救急車を!」

 

裁判長も救急搬送を手配するけど、森本さんの意識が戻ることはなく、

彼を殺した犯人にも逃げられてしまった。

後で知らされたところによると、森本さんの首には

吹き矢のようなもので毒針らしきものが刺されていたとのこと。

 

針からは何も検出されなかったけど、G-fiveが塗られていたに違いない。

森本さんは、口封じに殺された。しかも法廷の中で。

あまりにも超常現象的な犯行にアタシ達は皆、戦慄した。

 

 

 

 

 

まだ混乱が収まらないアタシ達は、武装警察隊の捜査が行われている裁判所から

追い出されるように帰路につく。

行きと同じようにブルーシートで乗降口を覆われたバスに乗り込むと、

十四支部に向けてバスが発進。

全員の目の前で容疑者が殺されるという最悪の形で終わらされた今回の裁判。

 

「ひくっ、うう…そんな……。森本さん、殺されちゃうなんて」

 

小泉さんが何も言わずに罪木さんの肩を抱き、背中を撫でる。

 

「なあ、おい、誰か犯人見なかったのか!?」

 

「んなモン見てたら誰かがふん捕まえてるに決まってんだろ!チクショウが!」

 

左右田君も九頭竜君もうろたえている。誰も落ち着けるわけなんてない。

 

「全員深呼吸をして一旦考えることをやめろ。無理だろうと感情を止めろ。

敵がまともでないことは初めからわかっていたことだろう」

 

「言われなくてもなんにも考えてないっす。現実から逃げてる途中っす」

 

「おねぇ、わたし怖いよ!もうやめようよ、こんな事件は放っといてさ!」

 

「大丈夫。必ずアタシが日寄子ちゃんを守るから。怖がらなくていいから、ね?」

 

「わたしじゃなくて、おねぇの事を言ってるの!」

 

「アタシがどうにかしないと、Bの女は何度でも同じことを繰り返す。わかって」

 

「だが、どうするんだ?敵は俺達の前で堂々と人殺しをやってのける怪物だぞ。

……俺は、やっぱり裁判員裁判自体を降りるべきだと思う」

 

「日向君まで何を言うの!

今更裁判員をやめたところで誰も安全を保証してはくれないのよ?」

 

その後も車内のパニックは収まることなく、

第十四支部に帰り着いても今後の方針について意見がまとまらないまま解散となった。

アタシも二度人格を交代した疲れに足を引きずりながら、自分の部屋のロックを解除。

……少し中に入るのに躊躇したけど、例の張り紙はなかった。

 

デスクの引き出しから抗酒剤のケースを取り出し1錠飲むと、

コップに注いだ水で流し込んだ。

森本さんが遺してくれた手がかり。“B19306”と“《希望》の残党”。

でも今はそれらについて考察する余力もなく、

シャワーも浴びずにベッドに横になると、気絶するように眠り込んでしまった。

 

 

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