江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】 作:焼き鳥タレ派
最奥の窓にきらめく色とりどりのステンドグラス。荘厳ながら過美に走らない純白の空間。
今ここで、神聖な儀式が執り行われようとしている。
牧師の前に立つ男女は、彼の問いかけに真剣な面持ちで聞き入る。
「新郎和一、あなたはここにいるソニアを、病める時も、健やかなる時も、
富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「ははい!誓いますっ!」
「新婦ソニア、あなたはここにいる和一を、病める時も、健やかなる時も、
富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
ちょっと緊張気味の左右田君に対し、ソニアさんは喜びに胸がいっぱいな様子で堂々と答える。
あらいけない、アタシったら。今日からはふたりとも“左右田”になるのよね。
ヴァージンロードを挟んで10列ずつ並べられた長椅子の端に座ったアタシは、
万感の思いで二人を見守る。
第十四支部の仲間はもちろん、各支部の支部長さん達も出席しての結婚式。
皆の祝福に包まれながら、式は続いていく。
「次は、指輪の交換を」
牧師が真紅のクロスが敷かれたトレーに置かれたペアリングを二人に差し出す。
まず、左右田君がひとつをそっと手に取り、ソニアさんのすらりとした左手薬指にはめた。
彼女は慈しむような眼差しでそれを見た後、男性用の指輪を手に取り、
彼のたくましい指にしっかりと差し込む。
指輪交換を見届けた牧師は、最後の儀式を二人に促した。
「それでは、誓いのキスを!」
聖歌隊が歌う”婚礼の合唱”が響く中、新郎新婦が見つめあう。
いよいよね。アタシ達まで緊張してその瞬間を待ちわびる。
左右田君がソニアさんのベールを上げ、繊細な陶器を扱うように肩に手を当て、口づけをした。
「神の名において、ここに一組の男女が夫婦として認められました。おめでとうございます!」
室内が拍手で満たされる。
無事に式を終えた二人は、手を取り合いながらヴァージンロードをゆっくりと歩いていく。
一旦退出する新郎新婦をアタシ達はずっと拍手で祝い続けた。
リーン、ゴーン リーン、ゴーン……
チャペルの鐘が鳴り響き、神聖な式の間は沈黙を守っていた皆から祝福の言葉が飛び交う。
照れくさそうに頭をかく左右田君とこれ以上ない幸せを顔に浮かべるソニアさん。
今日は雲ひとつない快晴。抜けるような青空にソニアさんのウェディングドレスが映える。
……とうとう、アタシの夢も叶ったわ。
「ソニアちゃーん、おめでとー!」
「聞くがいい!女神ダフネより清きお告げだ!おめでとうございます」
「ソニアおねぇ!きっちり左右田おにぃを尻に敷かなきゃだめだかんな!」
「お、お二人共お幸せにぃー!これからもお友達でいてくださいねー!」
「ボク達も幸せな気持ちだよ!希望をくれてありがとう!」
嬉しそうに手を振る二人。新婦が両手で抱えているのは小さな花束。
結婚式での恒例イベント、ブーケトスね。一体誰が受け取るのかしら。
アタシじゃないことは確かだけど。
さぁ、花嫁さんが後ろを向いたわ。女性陣は我こそはと身構える。
そして花束がこっち側へ投げられると、落ちていく方向に注目が集まり……。
「取ったー!わたしやったよー!ソニアおねぇありがとー!」
見事キャッチした日寄子ちゃんがピースして、他の女性メンバーが少し羨ましそうに彼女を見る。
ふふ、彼女のハートを射止めるのはどんな人なのかしら。
新郎新婦を囲む出席者の少し後ろで相変わらず拍手を続けていると、
アタシに気づいた二人が人混みから出てきてこっちまで来てくれた。
「今日は、本当に、おめでとう。左右田君、ソニアさん……」
「江ノ島。来てくれてサンキューな。約束通り、オレ、一生ソニアさんのこと守るから」
「わたくし、今が人生で一番幸せな時なんじゃないかと思ってます。
それもこれも、江ノ島さんとの出会いがあったからです。本当に、ありがとうございます……」
「披露宴に行けなくてごめんなさいね。宴席の間、花嫁さんは殆ど食べられないから、
お色直しの時なんかにおにぎりか何かをお腹に入れておいたほうが良いわ」
これから大舞台を控えているソニアさんに若干オバサンくさいアドバイスをしておく。
「……やっぱり、だめなんですね」
「あなたの晴れ姿を見られただけで奇跡みたいなものなんだから、贅沢は言えないわ。
アタシのエスコート役は後ろの無愛想」
親指で背後を指す。花婿でもないくせにやっぱり真っ白スーツのあいつ。
「そろそろ時間だ。行くぞ」
「わかってるわよ、急かすことないじゃない。じゃあ、お幸せにね」
アタシは小さく手を振りつつ、後ろ髪を引かれる思いで立ち去ろうとした。すると。
「江ノ島!」
左右田君がアタシに駆け寄ろうとして足を止めた。嬉しいけど、これ以上は辛いかも。
「絶対、絶対帰ってこいよ!まだ終わりじゃねえ!
次は、オレ達の子供の顔を見てもらうんだからな!?」
「和一さん……。そうですね。わたくし達、いつまでも待ってますから!」
「うん。きっとね。約束する」
できもしない約束をしてしまい、振り返ることができなかった。
今度こそ歩を進めてチャペルを後にする。
アタシ達は駐車場に着くと黒のBMWに乗り込み、宗方が運転席でハンドルを握った。
エンジンが震え、車を発進させる。
駐車場から出て車道に出ると、窓から見えるチャペルがどんどん小さくなっていく。
なんだか寂しい景色を眺めながら隣の男に呟いた。
「まぁ……。手錠を勘弁してくれたことだけは礼を言っとく」
「お前のためではない。式に似つかわしくないから外させただけのことだ」
「もっと似つかわしくないスーツ着といて何言ってんだか。白以外を着たら死ぬの?あんた」
「今のうちに減らず口を叩いておくことだ。お前と顔を合わせるのもこれで最後になるだろう。
今日くらいは黙って聞いてやる」
「ふーん。じゃあ、勝手に喋るわ。
……あんたらが減刑に向けて動いてくれたことにも礼を言わなきゃね。
アタシに先なんてないと思ってたけど、無期懲役になったから結婚式に出席できた」
「何を言ってるのかわからんな。
何も知らなかったとは言え中村喜男は直接犯行に手を染めてしまった。
お前は“超高校級の脳科学者”で記憶と知識を盗まれただけ。その違いを司法が示したに過ぎん」
「あ、そう。それにしても平日の昼間に支部長全員出席なんて、未来機関も暇になったものね」
「元絶望の残党。一度は絶望に堕ちた彼らに人らしい幸せを掴むことができるのか。
その経過観察の一貫だ。長期スパンの未来機関の任務に含まれている」
「色気もクソもない理由に感激だわ。嘘でも“皆で祝いかった”くらい言ったら?
そんなだからあんたはあんたなのよ」
ハイブリッドカーの静かな振動を感じながら、お互いに憎まれ口を叩きあう。
だけどムスッとだんまりでいるよりはまだ楽しいかも。目的地に到着するまで暇つぶしにはなる。
“もう、あなたもちょっとくらい素直になればいいのに”
アタシの中のアタシが話しかけてきた。
考えれば、アタシもあなたと同じくらいの年になっちゃったわね。
「放っといて。これがアタシなの」
宗方も事情は知ってるから、いきなり独り言を始めたアタシに驚くこともない。
「もうひとりの、お前か」
「ええ。あんたと仲良くしろってお節介焼いてきてきたから“まっぴらよ”って言っといた」
「いい判断だ」
「でしょ?」
“本当、困った娘達なんだから。出会ったばかりの素直だったあなたはどこへ行ったのかしらねぇ”
「脳みその中探しゃいるんじゃない?」
2人+アルファでくだらない話をして時間を潰していると、
徐々に窓を流れる景色が殺風景になってきた。
見上げるほど高く、有刺鉄線が張り巡らされた塀が続く。もうそろそろね。
角を曲がると、分厚い鉄の門の前で警官達が二列に整列していた。その前で宗方が車を停める。
「じゃあ、お迎えご苦労さん。行ってくるわ」
「ああ。……いや、待て」
「なあに?」
シートベルトを外してドアを開けようとすると、思いがけず宗方に呼び止められた。
「やはりお前にばかり言わせておくのも癪だ。
もし……。お前が再び外に出ることがあれば、喫茶店で改めて話をつけよう。
旨いコーヒーを出す店がある」
アタシは仏頂面を少し緩めて答える。
「いい年した男女がサテンでお喋り?どうせなら小洒落たバーに誘いなさいな」
「お前の絡み酒は二度と御免だ。なんならオレンジジュースでも構わんぞ」
「最後までやなやつ。そんじゃ、生きてたらまた会いましょ」
ふふ、と少しだけ笑いを残すと、アタシは今度こそ車から降りた。
途端に警官達の間に緊張した雰囲気が漂うけど、
もう思い残すこともないアタシは堂々と彼らの間を通り、刑務所へと向かっていった。
……
………
なんとなく過去の思い出に浸りながら食事をしていたアタシは、
軽いプラスチック製の食器に盛られた夕食を食べ終えた。
ご飯、味噌汁、サバの味噌煮、添え物の野菜というシンプルな献立。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて食事を終えると、食器をトレーに乗せて鉄格子の出し入れ口に置き、
廊下側に押し出す。まもなく下膳係の囚人が看守に付き添われて食器を片付けていった。
「これより、消灯まで自由時間とする。定刻までに就寝するように」
「わかりました」
看守が去ると、アタシは独房の隅にある小さな机に正座して着く。
床が冷たくて自然と足をすり合わせる。まだ寒さが厳しい。
暖房は必要最低限の20度に設定してくれてるらしいんだけど、
外気に直接当たってる窓から冷気が降りてきて冷えるのよね。
かじかむ手で便箋とペンを取り出すと、アタシは時々やり取りしている手紙を書き始めた。
今度弁護士さんと接見する時に預けましょう。皆がアタシを待っていてくれてるらしい。
そんなみんなにアタシがメッセージを送る。
いつか日寄子ちゃんが言ってたけど、本当に立場って変わるものね。
10年ほど前のあの時はアタシがみんなを待っていた。
そんな思い出を噛み締めながらボールペンを走らせる。
○日向創 様
お久しぶり。この前はお手紙ありがとう。
アタシは身元が身元だから他の囚人との作業は免除されてるけど、
一日中独房でひとりきりだから退屈でしょうがないの。みんなからのお手紙だけが楽しみ。
ずいぶん寒くなったわね。お互い風邪を引かないように気をつけましょう。
さて、しつこいくらい何度も言っているけど、こうなったのはアタシ自身のせいだから、
あなたが自分を責めていないといいのだけれど。それだけが心配。
日向君はアタシにのしかかっていた重荷を下ろしてくれたの。感謝の言葉しかないわ。
あなたがくれた償いのチャンスは決して無駄にはしない。
七海さんはお元気?いつまでも仲良くね。
○狛枝凪斗 様
ごきげんよう。あなたの几帳面な字を見る度にほっとした気持ちになれるわ。
今もその笑顔で誰かを幸せにしてくれてるんでしょうね。
いつだって希望を追い求める狛枝君の強い気持ちに、アタシ自身も勇気をもらえたわ。
ジャバウォック島では本当のあなたと一緒に過ごせた時間が
他のみんなより少しだけ短めだったから、
日本に帰ってからの狛枝君との時間は本当に大切にしてきたつもり。
弱気になっている時にあなたと会うと、その優しさがアタシを励ましてくれた。
また会える日を信じて、今日はここで失礼します。よかったら、またお便りちょうだいね。
○西園寺日寄子様 そして 旧姓・十神様
まさかあなた達がくっつくとはアタシもびっくりしたわ。
うん、なんとなくあの島にいた時からそんな気はしてたけど、小さな予感でしかなかったから。
日寄子ちゃんが彼を“豚足ちゃん”なんて言い出したときはどうなるかと思ってたけど、
彼は嬉しかったのよね。
自分という存在がなかった彼にとって、
自己を定義づける名前は何よりのプレゼントだったのかもしれない。
日寄子ちゃんのほうもあなたに時々ちょっかいを出してたし、似合いの二人だと思うわ。
だから十神君が日寄子ちゃんのお婿さんになれば、もう偽物の十神さんじゃなくて、
れっきとした“西園寺君”になるのも当然よね。
あなた達の結婚式には行けなくてごめんなさい。でも、写真を送ってくれてありがとう。
二人の幸せそうな顔を時々見ては元気をもらってます。
だけど西園寺君?もうあなたは一人の人間としての存在を手に入れたんだから、
これからは健康にも気をつけなきゃだめよ。糖尿病は厄介だから。
ここから二人の幸せを祈っています。
○田中眼蛇夢 様
なんだかんだ色々あって、また機会を逃したのが残念だわ。
魔獣フェンリルは元気?今度こそ触らせてもらおうと思ってたのに。
田中君の決して生き方を曲げない強さにはいつも感心してた。
……ちょっと苦笑いが出るようなものでもね。
今はペットショップでバイトしながらタトゥー職人を目指して修行しているんですって?
タトゥーを入れる人なら、あなたの生き様に共感する人はきっと現れるに違いないわ。
アタシが元いた世界でもね、10万年以上生きる悪魔を名乗る歌手がいたの。
恐ろしげなメイクをした彼は音楽だけじゃなくて相撲の解説者、
テレビのコメンテーターまでやってたのよ。
そんな破天荒な人生を送ってきた彼だけど、
長年自分のスタイルを貫いた彼を誰も笑ったり後ろ指をさしたりなんかしない。
何が言いたいかっていうと、なんでもチャレンジしたもの勝ちってこと。
あなたの夢が叶うことを祈って。E子より。
○花村輝々 様
ここで生活していると、あなたの料理が恋しくなるの。こう寒いとしょっちゅうね。
こんな事言うとまたアレな返事が帰ってきそうだけど(笑)。
贅沢言っちゃいけないのはわかってるけど、また花村君のカレーが食べたくなるわ。
花村食堂はどう?軌道に乗ってる?1号店開店のニュースを聞いたときは、アタシも嬉しかった。
いつか堂々と食べに行ける日が来るといいな。
皆がそれぞれの人生を精一杯生きていることを知る度に、自分のことのように嬉しくなるの。
気が向いたらまた近況を教えてね。正直、アタシからお知らせできることは殆どないから。
じゃあね。
○小泉真昼 様
小泉さん、おひさ~…って書いてみたけど、もう30過ぎのおばさんの挨拶じゃないわね。
はい、ごめんなさい。お久しぶりです。
日寄子ちゃんや左右田君達の写真を撮ってくれたのはやっぱり小泉さんだったのね。
みんなの笑顔が本当に生き生きとしてるもの。
あなたも夢をしっかり持ち続けて、写真家を続けているのよね。嬉しいわ。
写真集を送ってくれてありがとう。
どの画も今にも飛び出してきそうなくらい血が通っていて、
この殺風景な部屋にいてもアタシの心に彩りを添えてくれる。
自費出版らしいけど、本屋に並んでいる他の作品にも絶対負けない。アタシが太鼓判を押す。
って素人が偉そうに言ってみる。それじゃあ、またしばらくの間、さようなら。
○罪木蜜柑 様
看護師の正規資格取得、おめでとう。
あら、これは前の手紙に書いたかしら?いやだわアタシったら。
もう一般病院で働いているんだったわね。人の痛みを知ることができるあなたなら、
患者さんを体だけでなく心でも救ってくれると信じてる。
人間は病気や怪我をすると一気に心弱くなるものなの。
そんな時、罪木さんみたいな人が看護してくれたらどれだけ気が楽になることか。
本当なんだから。
以前、うっかり風邪を引いちゃった時に警察病院で診察を受けたんだけど、
なんというか義務感丸出しの診察を受けて余計症状が長引いた気がするわ。
あれ以来体調管理には気をつけてる。ごめんなさい、愚痴っちゃって。
病院のお仕事は遅番もあって大変だろうけど、がんばってね。あなたの友人より。
○澪田唯吹 様
まず謝らなきゃいけないことがあるの。あなたが送ってくれたCD、まだ聴けてないのよ。
歌詞カードだけ読んで悶々としてるわ。
やっと七海さんからGOサインが出たみたいだから楽しみにしてるんだけど、
ほら、刑務所にCDプレーヤーなんてないじゃない?
だから今は感想が書けない。本当ごめんなさい!
あ、歌詞だけ読んだ印象なら書けるわね。
そうねぇ…この詞がメロディに乗って流れてくる様子が想像もつかなくて楽しみ、って
ところかしら。まだこんな事しか書けないけど、いつかきっと、必ず。
今は宝物にして大事にしまっておきますね。七海さんによろしく。またね。
○九頭龍冬彦様 そして 辺古山ペコ様
皆もそうだけど、九頭龍や辺古山さんは希望ヶ峰学園突入の時には特に頑張ってくれた。
本当に感謝してるわ。
あの時も今も、アタシは何もできてないけど、お礼だけは言わせてちょうだい。
九頭竜組に誘ってくれたけど、若頭にはなれそうもないわ。
こうしていきなりブタ箱行きになってるようなアタシじゃね。
ふたりはアタシと違って強いから、きっと九頭竜組再興の夢を成し遂げられるって信じてる。
今、こうして皆に手紙を書いてるんだけど、
自分の夢を叶えたり自分なりの道を歩んでいる人がたくさんいてとっても嬉しいの。
あ、外にいる二人なら知ってるわよね。ここにいると時代の流れに置いていかれていくようで。
あなた達の言葉を借りるなら、“シャバの空気が吸いてえ!”ってところかしら。なんてね。
またお手紙させていただきます。それでは。
○弐大猫丸様 そして 終里赤音様
終里さん。体操部の全国大会優勝おめでとう。それを支えた弐大君も。
無名校が1年で日本一に。やっぱり元超高校級の名は伊達じゃないわね。
……待って訂正。超高校級なんて肩書はもうなし。
ただ二人のサポートと、部員の人達の頑張りが勝ち取った優勝よね。
良くも悪くも、この世界は希望ヶ峰学園が定義する“超高校級”によって
発展もしてきたし崩壊も経験した。
これからは人間が本来持ってる“勇気”や“努力”を積み上げて
新しい時代を築いていくべきだと思うの。
アタシが貢献できることは何もないけど、せめてここから祈らせて。
才能がなくたって、平凡だって、ささやかな幸せを皆が分かち合える世界になりますように。
○左右田和一様 そして ソニア様
ごきげんよう。毎年息子さんの写真を送ってくれてありがとう。
本当、子供はどんどん大きくなるものなのね。今、3歳だったかしら。可愛い盛りね。
来年の年賀状も楽しみにしてるわ。
左右田君、ソニアさん。あなた達とは最初にすれ違いが多かった分、
ジャバウォック島で出会った仲間の中でも特に絆が深まった気がするの。
だから二人が幸せな姿を見ていると、アタシも幸せになれる。
たまにケンカをしたっていいから、これからも家族3人で温かい家庭を守っていってね。
アタシにはできないことだから。
今でもあの日の結婚式を思い出すの。輝くようなふたりの姿が目に焼き付いて離れない。
これからも、お幸せにね。頼れるナイトと、強さと美しさを併せ持つクイーンへ。
○戦刃むくろ 様
お姉ちゃん、元気?寒さはこれからが本番だから心配です。
この手紙のやり取りも何度目になるかしら。
機密保持の観点から面会できたのは片手で数えるほどしかないわね。正直寂しい。
あのね、今日は怒らないで聞いてほしいことがあるの。実は黙ってたことがある。
あの娘……。音無涼子。
実は、お姉ちゃんが助けに来てくれた日、アタシを殴ったのはあの娘だったの。
本当にごめんなさい。
あの大きな空間でアタシ達は全てを知ったんだけど、なぜか無意識のうちに隠しちゃってたの。
ゆっくり考えられる今ならわかる気がする。あの娘はアタシのDNAから造られたクローン。
つまりアタシ達の妹になるはずだったの。でも、きっとすぐお別れになる。
アタシでもそれは察しがついたから、いがみ合ったままさようなら、になるのが嫌だったの。
勝手なこと言ってるのは承知してるけど、お願い、わかって。
なにかの偶然が重なってここから出られたら、真っ先にお姉ちゃんに謝りに行くから。
ちょっとだけ待っててね。残念な妹より。
追伸:モナカちゃん達に高校入学おめでとうと伝えておいて。
「消灯、消灯!全員就寝!」
巡回の看守の声。ちょうど書き終えたところで就寝時間が来た。もう寝なきゃ。
アタシは筆記具を引き出しにしまうと、冷えた布団を敷いて、震えながら中に潜り込んだ。