江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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第5章 死神の子守唄

学級裁判の後、病院で改めて罪木さんの治療を受けた僕は、病室のベッドで眠っていた。

この世界に来て一日で、大変なことが連続して疲れ切ってたせいで、眠りも深い。

そのせいか、夢の中で奇妙な存在と出会った。

 

 

“……お疲れ様。たくさんのアタシの相手は疲れたでしょう”

 

“あなたは……誰?”

 

僕に話しかけてきた不思議な人。まるで貴婦人。

裾が床まで届き、身体のラインがよくわかる、紫を基調としたドレス姿。

胸にはバラを飾っている。長いブロンドを左肩にかけたその女性は、僕に少し微笑んだ。

優しく落ち着いた雰囲気の美女に笑顔を向けられ、少し照れる。

 

“アタシは、ひとつの可能性”

 

“可能性?”

 

“あなたに宿っている江ノ島盾子達の行き着く結末。その可能性のひとつ”

 

“それって、じゃあ……”

 

“そう。アタシもまた、江ノ島盾子”

 

目の前に居る女性は、成人した江ノ島盾子だった。

それじゃあ、彼女が生き延びて大人になる未来もあり得るってこと?

僕の心を読み取った彼女が答えた。

 

“それはまだ分からない。あなたの選択次第では、別のアタシが現れるかもしれないし、

そもそもこの歳まで生きられないかもしれない”

 

“……ねえ、あなたにこの身体を返すことってできないかな。

こんな僕でも、元の世界で待ってる人がいるんだ”

 

彼女は少し寂しそうに小さく首を振る。

 

“例え造り物だとしても、その肉体は元々あなたのもの。

その身体からあなたを引き剥がす方法は、少なくともアタシにはない。

他の娘達も、あの爆発で覚醒して、後から生まれた精神体。

あくまで肉体の管理者は、あなたなの。アタシは数多の江ノ島盾子、そのひとり。

できるのはせいぜい、他のアタシに助言することくらい”

 

“もう、僕には元の世界に帰る方法はないの……?”

 

“ごめんなさい。それもアタシにはわからないの。

でも、その身体は紛れもなく江ノ島盾子を再現した物。だからアタシ達が生まれた。

ただし、絶望でも希望でもない、まっさらな状態。

最後に何が描かれるかは、あなたが選ぶの”

 

“わけがわからないよ。一体どういうことなの?”

 

“今、全てを話している時間がないの。時々会いに来るわ。

癖の強い娘達だけど、うまく付き合ってあげてね。さようなら”

 

“待って!もう少し……”

 

思わず彼女に手を伸ばしたところで目が覚めた。次に見えたのは天井の照明。

身体を起こすと、いつの間にか入院着に着替えさせられていた。

 

「あいたた……」

 

左腕とお腹はまだ痛むけど、一晩ぐっすり眠ったからだいぶ楽になった。

コンコン。ノックの後にドアが開く。

食事の乗ったトレーを持った罪木さんが入ってきた。

 

「おはようございます。あ、まだ寝てなきゃだめですよ。

朝食が届きましたから、ここに置きますね」

 

罪木さんがベッドに設置されたテーブルをスライドして、僕の前に置いてくれた。

 

「おはよう、罪木さん。ありがとう。わぁ、美味しそう!」

 

ラップを掛けられた朝食は、

まだ温かい焼き立てトースト、牛乳、サラダ、ソーセージ、スクランブルエッグ。

昨日の昼食とは全然違う。

 

「花村さんが腕によりを掛けて作ったそうです。もちろん全員同じメニューですけど。

もっと腕を磨いて、花村食堂を世界に名だたる三ツ星レストランにするんだって、

意気込んでましたよ」

 

「そっか。彼、立ち直ってくれたんだね……」

 

「江ノ島さん」

 

「なあに、罪木さん」

 

「食べ終えたら、食器はそのままテーブルに置いておいてください。それと……」

 

「どうしたの?」

 

彼女が一瞬ためらって答えた。

 

「隣の病室に澪田さんが入院しているんですが、彼女を刺激しないでくださいね?」

 

「どういうこと?いや、何かしようってわけじゃないけど」

 

「……私達が一度目のコロシアイの後、

全ての記憶、つまり絶望だった頃の記憶を取り戻して、

最も精神的ダメージを受けてしまったのが、彼女だったんです。

まともに労役もできないほどに。だから、彼女はずっとここで入院生活を送っています」

 

「こんな事聞いて良いのかわからないけど……

絶望に冒されていた彼女はどんな姿をしていたの?」

 

「わかりません。私達のほとんどは別々の場所で未来機関に確保されましたから。

とりあえず何度もカウンセリングを重ねてわかったことは、

今の澪田さんは、誰の言うことでもなんでも聞くことで、

罪を償おうとしているという事です。

自分のことにも全く無頓着で……あの髪型を再現するのには苦労しました。

いつも私がセットしてるんです。

せめて外見だけでも元に戻すことで、

彼女が自分を取り戻してくれるきっかけになるかもしれませんから。

でも、ちょっとしたきっかけで、過去の記憶がフラッシュバックして、

パニック状態に陥るんです……なので、あまり彼女とは関わらないほうがいいです」

 

「そうなんだね……わかったよ。とにかく澪田さんはそっとしておくよ」

 

「そうしてくれると助かります。じゃあ、冷めないうちに食べちゃってください」

 

「ありがとう、罪木さん!」

 

「いえ。これも保健委員の仕事ですから……」

 

「でも、ありがとう。罪木さんのおかげで傷の具合も良くなったよ」

 

「あまり……私達も近づきすぎるのは止しましょう。

あくまで患者と看護婦の関係ということで。それでは」

 

「あ、そう…だよね。ありがとう、すぐに食べるよ……」

 

昨日、出血が止まらなくて完全に混乱していた僕を助けてくれた、

罪木さんの様子を思い出す。

 

“自分でもわからないんです。私の唯一の取り柄だった、

“超高校級の保健委員”としての能力に、まだしがみついているのか、

心の底から傷ついている人を助けたいのか“

 

彼女も、自分自身の罪と戦ってるんだな。そんな罪木さんが、

心は別人でも肉体は絶望の江ノ島盾子と変わらない存在の世話をする。

きっと僕には到底理解できない葛藤があるんだろうと思う。

 

罪木さんは後ろ手にドアを閉めると、早歩きで廊下を進んでどこかへ行ってしまった。

その顔に暗い笑みが浮かんでいたことに、僕が気づくはずもなく。

 

ああ、せっかくの温かいご飯が冷めちゃうよ。僕はさっそく朝食に手を付けた。

すると、サラダの小鉢のそばに1枚のカードが。読んでみる。

 

“おはよう!ぼくの手料理で元気になってね!夜の方も! 花村”

 

一人苦笑いをする。相変わらずだなぁ、彼は。でも、料理は本当に美味しかった。

パンは柔らかくて何も付けなくても食べると甘みが出たし、

スクランブルエッグもふわふわ。

ソーセージも絶妙な茹で加減で、一口噛むと肉汁が口の中に広がる。

まともな食事をしてなかったことも相まって、あっという間に平らげてしまった。

 

罪木さんの言葉に甘えて、トレーをそのままテーブルに置くと、

僕は朝の空気を吸うために、ゆっくりベッドから立ち上がり、そばの窓を開けた。

南国の温かい潮風が吹き込んでくる。

ジャバウォック島の自然がパノラマ写真のように広がり、思わず目を奪われる。

遠くの山々や透き通るような海を眺めていると、どこからか歌声が聞こえてきた。

 

 

“かーらーす なぜなくの……”

 

 

ふと、声の方向を見ると、すぐ隣の窓から澪田さんが、“七つの子”を口ずさみながら、

僕と同じく風に吹かれつつ、景色を見ていた。

……いや、見ているかどうかはわからないな。

その目は虚ろで、何にもピントが合ってない。

罪木さんには刺激するなって言われたけど、世間話くらいは大丈夫だよね?

 

「童謡、好きなの?」

 

話しかけると、澪田さんがゆっくりこちらを向いた。

見ているようで何も見ていなかった目が少しだけ光を取り戻す。

 

「盾子ちゃん……とうとう捕まったっすか……」

 

「まぁ、端的に言えばそうなんだ」

 

今の彼女に、心は別人だの、異世界から来ただの言っても仕方がない。

それこそ刺激するだけだ。

 

「童謡も歌うの?今の歌、ちょっと悲しげなところが童謡らしくて良かったよ」

 

彼女は黙って首を振る。

 

「こういう歌しか、歌えなくなったっす……誰でも歌える、聴ける……大丈夫な歌」

 

「せっかく超高校級の軽音……あ、なんでもない。僕もちょっと歌ってみようかな」

 

「どんな歌、好きなんすか……」

 

「気に入った曲はジャンル問わずにリピートしてるけど、特に昭和歌謡が好きなんだ」

 

「昭和歌謡……?古い歌ってことっすか?」

 

「昭和の時代に流行った歌だよ。ちょっと古くさいかもだけどこんな感じ」

 

ちょっとこっちに興味を示してくれたよ。お気に入りの曲を歌ってみた。

 

“下駄を鳴らして、奴が来る……♪”

 

僕は、かまやつひろしの“我が良き友よ”を1番だけ歌ってみた。

 

「変な歌っす……でも、なんだか新鮮す」

 

「うん。澪田さん達の世代じゃないから、かえって新しく感じるのかもね。

僕、流行りの歌はよくわからないんだ。毎月たくさん新曲が出て、とても追いつけない。

その点、昭和歌謡は絶対新曲が出ないから、のんびり良い曲を探せるんだ」

 

「他に、なんかないんすか……?」

 

「え、聞いてくれるの?やった。じゃあ、僕のお気に入りその2、行くね」

 

“ハチのムサシは死んだのさ……♪”

 

今度は、平田隆夫とセルスターズの“ハチのムサシは死んだのさ”を歌った。

澪田さんは窓の桟に頬杖をつきながら、

若い人は興味を示さないだろう曲を最後まで聞いてくれた。

 

「ふぅ、やっぱり若い人向きじゃないね、アハハ。聞いてくれてありがとう」

 

「ううん……唯吹には、未知の領域す。童謡ぽいけど、微妙に違う。

これ、売れたんすか?」

 

「ミリオンとまでは行かなかったけど、なかなかのヒットを記録したよ」

 

「へえ……“償い”ができたら、新曲に昭和の味をプラスしたいっす。

……出来たらの話しっすけど。アンコール」

 

僕は黙って、最後の一曲を歌うことにした。

“きっと出来るよ”なんて根拠のない無責任なことは言いたくなかった。

 

「これはどこかで聞いたことあるかもしれないよ?タイトルは知らなくても」

 

“知床の岬に……♪”

 

加藤登紀子が歌ったミリオンセラー、“知床旅情”を彼女に捧げる。

 

「あっ……これは知ってるす。知ってるっていうか覚えてるっていうか」

 

「色々CMやドラマで使われたりしたからね。耳にしたことはあるって人は多いよ」

 

「タイトル初めてわかったっす……あ、蜜柑ちゃんが呼んでる……」

 

そう言うと、彼女は部屋に引っ込んでしまった。

空いた窓から2人の話し声が聞こえてくる。

 

“お皿、下げますね”

 

“ありがたいっす。唯吹、何するのもダルくて……”

 

“心の問題はゆっくり焦らず治して行きましょう。

外で先生もそう仰ってたじゃないですか。

それじゃあ、私は江ノ島さんのところに行きますね”

 

“ういっす……”

 

ヤバイ、罪木さんが来る!別に悪いことはしてないんだけど、

あんまり動き回ってた事が知られたら、無意味に不安がらせることになる。

僕に何かあったら彼女の責任になるんだし。

急いでベッドに戻ると同時に、またノックが聞こえた。

 

「失礼します~」

 

「ど、どうぞ」

 

彼女は食事のトレーを下げながら僕に訪ねる。

 

「澪田さんと話が弾んでいたようですけど、楽しそうでしたね」

 

「ごめん、ちょっとお話だけするつもりだったんだけど……聞こえてた?」

 

「いいんですよ。

澪田さんが、童謡以外の歌を落ち着いて聞くなんて、ちょっと驚きましたけど。

未来機関に保護されていた頃、彼女のCDを聴かせたことがあるんです。

……悲惨な状況でした。大声を出して暴れまわって、血が出るまで頭をかきむしって、

最後には自分の目を潰そうとまでしたので、

局員さんが4人がかりでどうにか彼女を押さえつけたんです。

それ以来、彼女に童謡以外の歌は厳禁だったんですけど、

さっきの様子を見て驚かされました」

 

「そうだったんだね……これからは気をつけるよ、ごめんなさい」

 

「いいえ、逆なんです!

これからも、彼女に江ノ島さんの歌を聴かせてあげてくれませんか?」

 

「僕はいいけど……それって危険なことなんじゃ」

 

「そうかもしれません。

澪田さんには失礼なのはわかってますけど、あえてこう言います。

廃人同然の彼女を救える可能性があるとしたら、あなたの歌声だけなんです。

あんなに大人しく歌に聞き入っていた彼女は初めて見ました。

罪の意識という殻に閉じこもってしまった彼女を、助けられるかもしれないんです。

お願いします!」

 

助ける。いつも明るく、誰にでもハイテンションで飛びかかるような彼女が、

生きること自体を諦めてしまったかのように、心の力をなくしてしまった。

贖罪のカケラがどうこうじゃなくて、出来ることなら、元の澪田さんに戻って欲しい。

 

「わかったよ。これからもさりげなく話しかけてみる」

 

「あ、ありがとうございますぅ。

私、心療内科は専門外で、澪田さんのことは手探りで進めるしかないんです」

 

「他にも何かできることがあれば言ってね」

 

僕は笑顔でそう答えた。そう言えば、江ノ島盾子の服から着替えたのは初めてだな。

なんとなく背負った重圧が軽くなった気がする。髪型は相変わらずだけど。

大きなツインテールに手を通しながらそう思った。

 

 

 

 

 

オレは山ン中で、鉄を求めてひたすらツルハシを振り下ろしていた。

ツナギを上半身だけ脱いで、シャツ1枚で作業をしてるけど、やっぱ暑ちーよ、ここ。

でも……何もしないよりマシだ。余計なこと考えなくて済む。

 

“左右田君、ひどいよ……”

 

風船が爆発した時、あいつは泣きながらオレに言った。

……なんで江ノ島盾子が泣くんだよ!

あいつなら、信じたやつに裏切られた絶望すら喜んで受け入れたはずだ。

なのにあいつは、本当に悲しそうに。

 

「くそっ!」

 

地面にツルハシを刺して、一旦休憩を取る。

木の陰になってる岩に腰掛けて、しばらく涼んでいると、

後ろからスッとペットボトルの水が差し出された。

 

「汗をかいたら水分補給。

ここは暑いですから、きちんと体調管理をしないとすぐにバタンキューです」

 

「ソニアさん。……あざっす」

 

ソニアさんの差し入れを受け取ると、キャップを開いて一気に飲み干した。

冷たいミネラルウォーターをゴクゴクと喉を鳴らして飲み込むと、

火照った身体が冷えて、水分が行き渡る。

一息ついて冷静になると、またあいつの顔が頭に浮かんできた。

 

どうして、江ノ島盾子はこんなことをしてんだ?

自分は男だの、異世界から来ただの、到底信じられるはずのねー嘘をついて。

オレに殴られようが、どんな酷い扱いを受けようが、その主張だけは絶対曲げねえ。

 

もしかしたら?と一瞬思っちまったが、頭を振って馬鹿馬鹿しい考えを捨てた。

あいつが江ノ島盾子じゃなかったら誰なんだ。

ちくしょう、じっとしてるから変なことばかり考える。

オレは立ち上がると、またツルハシを手にとった。

 

「もういいんですか?あとしばらく休まれたほうが……」

 

「ああ、いいんすよ、ソニアさん!オレ、調子出てる時に一気にやる方が効率いいんで!

危ないんで離れててもらっていいっすか」

 

「……はい」

 

笑顔を作って彼女に返事をすると、またツルハシで硬い土を掘り砕く作業に戻った。

 

 

 

 

 

「汗をかいたら水分補給。

ここは暑いですから、きちんと体調管理をしないとすぐにバタンキューです」

 

「ソニアさん。……あざっす」

 

左右田さんは、水を受け取ると、言葉少なに礼を言って、

あっという間に500mlを飲みきってしまいました。そして、再び作業に没頭します。

以前の彼なら、わたくしが何かを渡したら……

 

“ソニアさんの差し入れ!?マジっすか!うっひょー!オレ、一生大事にするっす!”

 

“もう。飲まなくては意味がありませんし、緑色の変なものが生えてきますよ。

スコングが湧いてきたら取り返しがつかなくなります”

 

“何を喚いている、騒々しい。

破壊神暗黒四天王がハーデス降臨と誤認して暴れだしたではないか”

 

“うっせ、うっせ!ソニアさんからの愛が込もったプレゼントだぞ!?わかってんのか?

こいつがあればハーデスだろうが七つのラッパだろうが怖くねー!”

 

“なにっ!左右田、貴様っ!いつの間に旧世界のロストテクノロジーを……!”

 

“意外と……田中さんの喋り方についていけるんですね。アハハ……”

 

こんな風に、皆さんとの他愛ないお喋りが始まったのに。彼は変わってしまいました。

コロシアイ修学旅行が終わり、全ての真実を知った時から。

そして、江ノ島盾子さんが現れてから。今、彼の視線はずっと彼女を捉えています。

それが殺意に基づくものであろうと。

 

正直に申し上げると、わたくしは江ノ島さんに妬いています。

初めて合った頃の左右田さんは、ただの同級生でしかありませんでした。

それどころか、しょっちゅう、わたくしに構ってくる彼が少々疎ましくすらありました。

でも、危険に満ちたコロシアイ生活を送る中で、王女ではなくソニア個人として、

わたくしに好意を寄せてくれる彼に、

次第にわたくしからも興味を持つようになったのです。

 

王国にも、確かにわたくしを“好きだ”と言ってくださる殿方はいらっしゃいました。

しかし、それは超高校級の王女だから好きという意味。

もっと露骨になると、わたくしを人とすら見ず、

王女の地位・特権目当てだけで言い寄ってくる方もいました。

 

ですが、左右田さんは違いました。

純粋に、ソニア・ネヴァーマインドとしてのわたくしを好きになってくれたのです。

時々わたくしに近づきたいあまり、極端な行為に走ることもありましたが、

いつの間にかそれも、苦笑い一つで許せるようになっている自分に気が付きました。

 

でも、今の左右田さんは別人のようになってしまいました。

獲物を狙う狼のような目で、江ノ島盾子さんだけを見つめています。

わたくしにも以前のように頻繁に接してはくれなくなりました。

挨拶や二言三言の会話くらいしかしてくれません。

彼が自分自身に向けていた憎しみを、別に向ける対象が新たに現れてしまったから……

 

「……危ないんで離れててもらっていいっすか」

 

いけません、考え事をしていて彼の言葉に気づくのが遅れました。

とにかく、わたくし達が抱える罪に関しては、自分から言い出さない限り、

囚人同士でも触れることは御法度。それも刑務所の規則ですから、

わたくしには彼が元の自分に戻ってくれることを願うことしかできません。

 

「……はい」

 

それだけの返事をすると、彼はまた何かを忘れようとするかのように、

ただ黙々とツルハシを振る作業に戻ったのです。

そんな彼にこれ以上話しかけることができず、

わたくしも花を採取する仕事を再開するため、その場を離れました。

 

 

 

 

 

数日入院して、すっかり回復した僕は、明日にも退院できる事が決まった。

その間、澪田さんと色々お喋りしたり、僕の下手な昭和歌謡を披露したりして、

少しだけど仲良くなれた気がする。

 

“……追い越せ引っこ抜け♪”

 

「クス……間奏の早口すごいっすね。なんて曲っすか」

 

「ソルティ・シュガーの“走れコウタロー”だよ。

これをマスターしたくて一人カラオケに通ったんだ」

 

「一人カラオケ……本当にやる人いるんすね……」

 

「最近じゃもう珍しくないよ。

さすがに金曜の夜や大型連休なんかは避けるけど、開店直後はガラガラだよ」

 

その時、僕の部屋の方のドアがノックされた。確かめるまでもなく罪木さんだ。

 

「澪田さんごめん、また後で」

 

「いいっす。すぐにこっちにも来るはずっすから……」

 

「それじゃあ……はーい、どうぞ」

 

「失礼しますね」

 

罪木さんが、お昼ご飯の食器を下げに来てくれた。作業をしながら僕に話しかける。

 

「もうすっかり仲良しさんですね~。澪田さんと」

 

「単に昔の歌が珍しいだけだよ」

 

「実は私もなんです」

 

「どういうこと?」

 

「ごめんなさい。江ノ島さんの歌、少し立ち聞きしちゃいました。

“知床旅情”が耳から離れなくって……ああ、ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

 

罪木さんがごめんなさいモードになりかけたから、慌ててフォローする。

謝る回数では僕といい勝負だ。

 

「いや、いいって別に!音痴な僕の歌で良かったら、本当。

それに、澪田さんが昔の歌を聞いても落ち着いてるのは、何ていうか……

嫌なことを思い出させるものがないからじゃないかな。

曲がリリースされた時には生まれてもいなかったわけだし。

もっとたくさん昭和の曲を聞いてもらえば、歌への情熱が戻ってくるかもしれない。

マーケットにCDは置いてたかなぁ」

 

「ライブハウスにいっぱいレコードがあったと思うんですけど、

ここには再生する機材がないんです。

あんまり澪田さんを歩かせるのもよくないですし……」

 

「そうだね。退院したら自分で探してみる。

これからも時々彼女に会いに来てもいいかな?」

 

「はい、そうしてあげてください。澪田さんもきっと喜ぶと思います。……そして私も」

 

「どうしたの?」

 

「あ、いえ、なんでも……」

 

「とにかく、今までありがとう。お世話になりっぱなしで。

これからどうするかは明日、日向君と相談することになってるんだ」

 

「無理はしないでくださいね。治ったばかりなんですから」

 

「うん。罪木さんに迷惑かけない程度に頑張るよ」

 

「迷惑だなんて……私の取り柄は手当や介助だけですから」

 

「ひとつあれば十分だと思うなぁ。

僕なんて、子供の頃から何も人並みにできたことないもん。

プールでも泳げないし、逆上がりもできなかったよ。アハハ」

 

「ふみゅう……それ、私もできません……」

 

「ご、ごめん!あと、書道も下手だし読書感想文も書けなかった!」

 

「冗談ですよ、ふふ。……江ノ島さんて、本当に変わったんですね」

 

「僕は言い続けるよ。僕は江ノ島盾子じゃない。肉体に別人の精神が宿った別の存在」

 

「まだ手放しには信じられませんが、

今のあなたに復讐しようだなんて思ってませんから」

 

「それでいいよ。証明する方法は自分で探す。みんなにも、未来機関にも」

 

「はい。その時を待ってます」

 

「ありがとう……」

 

「あ!すっかり話し込んじゃいました。お皿、下げますね!」

 

罪木さんは慌ててトレーを手に取る。なんか仕事の邪魔しちゃったな。

 

「いや、僕も喋りすぎちゃった。ごめんなさい」

 

「いえいえ。私、ちょっと用事があるんで、もう行きますね」

 

「気をつけてね」

 

彼女が部屋から出ていくと、また僕は部屋でひとりになった。

窓を覗くと、もう澪田さんもいない。わざわざ呼ぶのも悪いと思い、

大人しくベッドで寝て時間を過ごすことにした。そう言えば、明日の私服どうしよう。

身近な問題に気が付き、横になりながら対応について考えていると、

いつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 

 

目を覚ますと、もう日が暮れようとしていた。

まずい、少し寝すぎた。今夜はきっと寝付けない。

身体を起こすと、夕食がテーブルに置かれていた。味噌汁に口を付けると、冷めている。

夕食の時間は確か6時だから、もうとっくに通常の食事時間を過ぎてる。

入院中じゃなかったら何を言われてたか。と、思った瞬間。

 

キャアアア!!

 

絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。この声は、罪木さんだ!外から聞こえてきた!

電子生徒手帳に着信、じゃなくてメールだ。何だよこんな時に!

 

 

差出人:罪木蜜柑

CC:(全員分のメールアドレス)

 

助けて澪田さんが病院です

 

 

慌てて書いたらしい、句読点のない短文。早く行かなきゃ!

食事をそのままに、スリッパで外に出ると、すっかりうろたえている罪木さんがいた。

 

「どうしたの、罪木さん!?」

 

「あうう、江ノ島さん、澪田さんが大変なんです!」

 

彼女が指差した先を見ると、病院の屋上のへりに立つ澪田さんの姿が!

夜風に吹かれて入院着をはためかせながら、彼女は宣言した。

 

「唯吹はー!今からー!自殺するっすー!」

 

「なんで!なんでこんなことになってんの!?

澪田さーん!今すぐ部屋に戻って!危ないよ!」

 

「やれって、言われたから、無理っす!」

 

「誰にそんな事言われたのさ!?」

 

「言えねーす!」

 

「一体どうしたんだ、あのメールは!」

 

そして、ホテルのある第1の島から、日向君達が駆けつけてきた。

罪木さんが状況を説明する。と言っても、屋上を見れば一目瞭然なんだけど……!

 

「なんだって!……澪田、馬鹿な真似はやめろ!」

 

「駄目っす……唯吹は、ちゃんと言われた通りに……そうすれば、きっと……」

 

「思い止まれ澪田!まだお前の力では、ジュデッカの果てに赴いたところで、

百億万の邪悪なる悪鬼には太刀打ちできん!」

 

「今度は澪田おねぇなの!?わたし、もうやだよ!」

 

「大丈夫だよ、日寄子ちゃん。絶対なんとかなるから!」

 

僕も日向君に状況説明を終えた罪木さんに尋ねてみる。

 

「ねえ、罪木さん!この病院、屋上への階段なんてあったっけ!?」

 

「階段はありませんが、

給水タンクや屋上メンテナンスのための作業用ハッチがあるんです!

確か2階の廊下天井に、屋上への出入り口が!」

 

「今すぐ行こう!」

 

「いかん!下手に近づくと何をするかわからん!時間もない……終里、一気に行くぞ!」

 

「任せろ、オッサン!」

 

弐大君が腰を落として両手で足場を作る。

 

「うおおおお!!」

 

そして終里さんが助走を付けて、その足場に飛び乗る。

その瞬間、弐大君が全力で彼女を持ち上げ、終里さんが強靭な脚力でジャンプした。

病院の屋上まで。

 

「うおりゃあああ!!」

 

「はうっ!?」

 

「おっしゃあ!捕まえたぜ、大人しくオレのエサになれ!」

 

”食ってはならんぞ!”

 

そして見事澪田さんを捕まえ、押し倒して取り押さえた。

澪田さんは抵抗するけど、力持ちの終里さんに捕まえられて身動きが取れない。

さすが超高校級のマネージャーと体操部!

二人の協力のおかげで、澪田さんの自殺は無事未遂に終わり、ほっと胸を撫で下ろした。

だけど。

 

 

 

 

 

あれ、おかしいな。なんだかこの状況、デジャヴというか、

僕がこの世界に来たばかりのころとまるっきり同じなんだけど……?

僕は病院会議室でパイプ椅子に座らされ、事情聴取を受けていた。

 

目の前には日向君、弐大君、十神君が折りたたみ式の長テーブルに着いている。

他のみんなは、僕を逃すまいと周りに立って円を描く。

疑わしい目で見る者、ただただうろたえる者、ニコニコ笑っているのがひとり。

恐る恐る質問してみた。

 

「あのう、どうして僕はここに……」

 

「黙れ、貴様は俺の質問にだけ答えろ!俺の許可なく口を開くな!」

 

「すみません」

 

僕の問いは、あっさり十神君にかき消された。

 

「よさんか、十神。澪田は、ワシが軽く当て身を食らわせたら大人しくなった。

そこで、終里が彼女の入院着を調べたら、こんなものが出てきた」

 

弐大君がテーブルに小さな液晶の付いた装置を置いた。

ポケットに入れても目立たない小型の機械。それは。

 

「ICレコーダー?」

 

「そう。次はこれだ」

 

今度はくしゃくしゃになったメモ書き1枚。その内容は、“しにたい”。

 

「これって……澪田さん、自殺を考えてたの?」

 

「とぼけるな!貴様が澪田をそそのかして、自殺に追い込んだのは分かりきっている!

つまり、自殺教唆の容疑が掛かっているのだ!」

 

とんでもない結論を必死に否定する。

 

「僕が!?違うよ!そんな事をして何になるのさ!」

 

「……江ノ島、俺もここで殺人未遂が行われたとは考えたくない」

 

「君は、日向君は、信じてくれるの!?」

 

「だけど、こんな証拠が出てきたら仕方がないんだ」

 

彼はICレコーダーの再生ボタンを押した。

 

“畑の日だまり土の上……♪”

 

「“ハチのムサシは死んだのさ”?ただの歌じゃないか」

 

「本来は、な。だが、これを聴かせた瞬間、また澪田が自殺をしようと暴れだしたんだ。

今度は鎮静剤で眠らせたんだが、注射を打った罪木に聞いたんだ。

お前、普段からこの歌を澪田に聴かせていたらしいな」

 

「そ、それだけで僕を疑うの?」

 

「お前さん、罪木から聞いて知っとったそうじゃのう。

澪田は誰の言うことでも何でも聞いてしまう。それでワシらはこう考えたんじゃ。

どこかからICレコーダーを調達したお前さんは、自分の歌を録音し、

タイマー機能で歌が流れるよう設定し、偽の遺書と共に澪田のポケットに入れた。

そして、こう命令した。“夜になったら自殺しろ、自分との関係は絶対喋るな”とな」

 

「そんな!僕が澪田さんを殺して何になるんだよ!

彼女が気に入ってたから歌っただけだよ!」

 

思わず立ち上がって3人に訴える。

 

「座れ、馬鹿者が!」

 

十神君が食べかけのローストチキンで僕を指す。夕食の途中だったらしい。

無駄に抵抗しても状況が悪くなるだけだ。大人しく席に戻る。

 

「違うよね?江ノ島さんはそんな事しないよね……?」

 

花村君が一歩前に出て不安げに手を差し伸べてきた。当然即座に返事をする。

 

「当たり前だよ。澪田さんとも、友達になれたと僕は思ってるんだ!

スクランブルエッグ美味しかった!」

 

「江ノ島……今回の件で、こんな不安を抱く者も現れてるんだ。

この前の花村への態度は単なる芝居で、俺達に取り入ってから本性を現し、

また絶望に叩き込むんじゃないか。そう考えているらしい」

 

これにばかりは僕も頭に来た。3人を見据えて口を開く。

 

「ふざけないで。僕はいいよ。

でも、花村君がまんまと絶望の踏み台に利用される間抜けみたいな言い方はしないで」

 

「江ノ島さん……」

 

「そこまでは言ってないだろう?俺達はただ」

 

──ちょっといいかな

 

そこで口を挟んで来たのは、やっぱり、彼。

狛枝凪斗が、いつもの人畜無害そうな笑顔を浮かべながら話し始めた。

 

「このまま言い争いをしても、水掛け論になる可能性が高いと思うんだよね。

だったらさ、いっそ納得行くまで話し合おうよ。学級裁判で、さ」

 

「な、なんじゃと!?」

 

「前のコロシアイと違って今回は、法廷の使用は割とフリーだし、

揉め事を徹底的に議論するにはもってこいだと思うんだけど」

 

学級裁判。その言葉を聞いた時、僕の頭脳が徐々に回転数を上げ始めた。

熱が出て座っているのも億劫。

周りで何か言い争っているけど、すごく遠くで喋っているようにしか聞こえない。

徐々に精神が、底の見えない真っ暗な空間に落ちていって、

浮遊感が頂点に達した時、“彼女”が姿を表した。

 

「そんな必要はない!話し合うまでもなく……」

 

──お黙りなさい、ボンレスハム!

 

有象無象が驚いて私様に視線を集める。当然よねェ。

この容姿端麗完全完璧万全万能の私様の姿を、

2度も目の当たりにすることになったんですもの!

 

「ボンレスハムだと!?俺はそんな2口で食べられるような貧弱な肉ではない!

体重800kgの神戸ビーフに訂正しろ!」

 

「怒るとこそこか!?」

 

「江ノ島さんが、また女王になっちゃったよー!ついでにぼくをハイヒールで踏んで!」

 

「狛枝とか言ったかしら。お前の言う通り、受けて立とうじゃないの。学級裁判をね!」

 

「「ええっ!」」

 

細かいことにいちいち驚く連中ね。そんなノミの心臓じゃ、この先やっていけないわよ。

 

「何を驚いているのかしら。裁判を受ける権利は日本国憲法でも保証されていてよ?」

 

「そういうことじゃない。江ノ島は、真犯人が他にいるって言いたいのか?」

 

「そうでなくては、裁判を開く意味がないでしょう。

少しはアンテナの感度をお上げなさいな」

 

「こ、これはアンテナじゃなくて」

 

「配膳係、私様の服を持ちなさい!」

 

「は、配膳係って私のことですかぁ……?」

 

「急ぐ!」

 

「はひいぃぃ!」

 

罪木とかいうメイドに私様の服を持って来させると、着替えを始めようとした。

……まったく、気の利かない連中だわ。

 

「私様は、着替えをしようとしているの。お分かり?」

 

「う、うむ。すぐに出る。じゃが、念の為女子を見張りに置いていくぞ。

それは構わんな?」

 

「好きにおし」

 

男連中が出ていくと、私様はいつもの正装に着替え、クラウンを被り直した。完璧だわ。

ダサさを極限まで追求した入院着からようやく解放された。両腕を広げ、深呼吸。

薬臭い空気を思い切り吸い込んで、最低な気分で今回の私様をスタートした。

すると、銀髪のセーラー服が話しかけてくる。

 

「お前は……あの江ノ島盾子なのか?」

 

「“あの”と言われても“どの”江ノ島盾子なのかわからないわ。

代名詞を多用するようになったら、オバサンの始まりよ」

 

「なにっ!?……だ、だから!先日学級裁判で現れた江ノ島盾子なのかと聞いている!」

 

「ああ。それならまさしくお前の目の前にいる私様よ。

またお目にかかれたことを光栄に思いなさい。さあ、そろそろ行こうかしら」

 

「行くってどこへ?」

 

「カメラ女も付いてらっしゃい。

私様の優雅な捜査を写真に収める権利を、特別に与えるわ」

 

「えっ?まあ、学級裁判に捜査は付きものだけど……」

 

私様は出入り口を開けて部屋から出る。廊下には男連中が待機していた。

それにしても辛気臭い場所だわ。次からはレッドカーペットを敷いておきなさい。

女子全員も部屋を出て、全員が集まったところで宣言する。

 

「聞きなさい、皆の者!

今から私様が今回の事件の調査を行い、学級裁判で真犯人を見つけ出す。

今度こそ縛り首は免れないから覚悟しておきなさい!」

 

……やっぱり僕は動けない。みんなの驚く顔が見えるだけだ。

でも、やっぱり江ノ島盾子は事件解決に向けて動き出してくれた。

僕の望む結末。それは、誰も傷つかない、失わない、最後には笑顔になれる、

そんな結末。お願い、僕に芽生えた江ノ島盾子。

 

 

 

 

 

未来機関支局 大会議室

 

 

私は、プロジェクターでパワーポイントの資料を投影し、

幹部達に経過報告を行っていた。

 

「現在のところ、江ノ島盾子の活動による絶望の残党、

彼らの反応には3パターンあります」

 

「3パターン?正気に戻るか、抵抗するかの2つではないのかね?」

 

「主だった残党の組織を偵察すると、予想とは異なる結果が見られました。まず1つ。

江ノ島盾子に失望し、絶望を捨て去り、まともな価値観を取り戻した者。つまり成功例。

2つ目、未だに江ノ島信仰が根強い者。これは今後の彼女の“活躍”次第でしょう。

そして3つ目ですが……

神格化していた江ノ島盾子が絶望を捨て去った事実に絶望し、

さらに絶望の深みにはまっている者。

こちらに関しては彼らの絶望を悪化させてしまった副作用と言えるでしょう」

 

「「ふむむ……」」

 

希望更生プログラムの思わぬ結果に、幹部達から息が漏れる。

 

「となると、3つ目に関しては手遅れ、武力行使もやむなしと言ったところか」

 

「しかし、激しい抵抗が予想されますぞ。

自衛官にも絶望の穢れがこびりついている者が多数いる」

 

「もっと江ノ島盾子を痛めつけることはできんのかね。

協力者に指示して、徹底的にあの女を弱らせる」

 

なんてことを。私は幹部の過激な提案に反論した。

 

「お言葉ですが、彼女は既に入院が必要なレベルの怪我を追っています。

協力者のひとりによって。

これ以上の攻撃は、江ノ島盾子の死に至るリスクがあります」

 

「ううむ……効果は現れているが、思ったよりスピードが遅い。

本来我々は世界の復興に力を注がねばならんのだ。

なんとかプログラムの進行を早める方法を考えてくれたまえ」

 

「はい、全力を上げて」

 

「そろそろ、時間だな。解散しようではないか」

 

「そうですな。汚染区域の除染可能性について、元超高校級の地質学者と会議がある。

放射性物質の半減期を短縮する方法について議論しなければ。

私は、失礼させてもらいますぞ」

 

ひとりが席を立つと、次々に幹部達が退室していった。

全員を見送ると、私はプレゼンの資料の片付けを始めた。

電源をオフにしたプロジェクターが、

内部を冷却して完全に動作を終了したのを確認したところで、彼が会議室に入ってきた。

革靴で歩を進めて近づいてくる。

 

「霧切さん、お疲れ様。プレゼンはどうだった?」

 

「上は結果を早く求め過ぎ。江ノ島盾子の可能性があるとは言え、彼女も人間なのに。

あまり残酷なことばかりしていると、

“未来機関こそ悪、人権侵害の温床”って噂が立ちかねない」

 

「そうだね。ボクもこの間の事件には驚いたよ」

 

「苗木君の方はどう?現状、上手く行ってる?」

 

「それがね……」

 

「どうしたの?」

 

「また学級裁判が始まるみたいなんだ」

 

 

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