江ノ島盾子にされてしまったコミュ障の悲哀【完結】   作:焼き鳥タレ派

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第8章 (非)日常編 前編

ピロロロ……

 

朝6時。電子生徒手帳のアラームで目を覚ました僕は、

洗濯機用の水道で顔を洗って、さっと髪を濡らしてクシで梳いた。

それだけなんだけど、コンパクトの鏡でおっきなツインテールを整えるのには苦労した。

 

身支度を終えると、ベッドに座って、生徒手帳の通信簿を見る。

わぁ……なんだかいつの間にかたくさん贖罪のカケラが貯まってる。

でも、安心はできないな。

キーワードには僕が無実の罪を償うまで、何万個でも集めさせるって書いてたし。

 

いや、弱気になっちゃ駄目だ。花村君や罪木さん、唯吹さんからも一杯カケラを貰った。

これって僕を少しは信じてくれてるってことでいいんだよね。

気持ちを切り替えて僕は立ち上がった。

 

入院中にできてなかった仕事をするため、

出入り口というか、ジッパーの付いたシートを開けて外に出た。

みんなまだ寝てるか、着替えをしているらしく、敷地には誰もいなかった。

よーし、頑張るぞー。

 

 

 

 

 

俺は、レストランでひとり、リーダー専用の高機能電子生徒手帳で、

苗木誠とテレビ電話で通話していた。もちろん、用件は江ノ島盾子についてだ。

 

「……苗木、そっちの状況はどうだ。この希望更生プログラムの中間報告を頼む」

 

『良くなったとも言えるし、悪化したとも言える』

 

「どういうことだ?」

 

『まず、絶望の残党についてABCの3パターンに分類するよ?

Aは、江ノ島盾子の変わり果てた姿を見て、絶望に価値を見いだせなくなり、

正気に戻った成功例。

Bはまだ現実を受け入れられない者。つまり江ノ島盾子の変貌を認めることができず、

混乱に陥ってる。これに関しては、まだどちらに転ぶか分からない。

更に江ノ島への信仰を深めるか、Aパターンに戻ってくれるか。

そしてCは……絶望の象徴であった江ノ島盾子を失った絶望で、更に異常行動に走る者。

自殺、殺人、破壊行為が激しさを増している。

それは未来機関の実働部隊が鎮圧に当たってる』

 

「話が違うだろう!

江ノ島盾子に刑務所生活を送らせれば、絶望の残党が順調に数を減らしていく。

そういう説明だったはずだ!」

 

『こちらとしても残党の動きが想定外なんだ!

今、こちら側で出来るのは、Cパターンを排除して、

BパターンをAに変えるよう働きかけること。そのためには、まだ江ノ島盾子が必要だ』

 

「急いでくれ。

いくら相手が江ノ島だろうと、生身の人間を痛めつけるのは精神的な疲労が大きいんだ。

……みんな償いのためとは言え、心をえぐるような思いをしている」

 

『それについては日向クン達にも、もうひと頑張りして欲しいんだ。

この作戦についてあまり良くない兆候が現れてる。……これを見てくれないか』

 

電子生徒手帳にzipファイルが送られてきた。解凍して中のpdfファイルを開く。

 

 

江ノ島生活生中継について語るスレ part167

 

1 名前:超高校級の名無し

引き続き語りましょう。学級裁判実況、兵員募集、危険区域情報は該当スレで。

 

173 名前:超高校級の名無し

未来機関が絶賛放送中の江ノ島いじめってどうよ?

 

174 名前:超高校級の名無し

やりたいことは分かるんだけど、なんか陰険っていうか…

 

175 名前:超高校級の名無し

学級裁判2回戦、マジ燃えた。おまいら、どの江ノ島が好き?

泣き虫盾子ちゃんに俺の松茸食べさせたい。

 

176 名前:超高校級の名無し

>>175 空気嫁ks そのシメジしまえよ。

 

177 名前:超高校級の名無し

小さなレジスタンスのリーダーをやってる者だが、あのやり方は正直理解できんな。

 

178 名前:超高校級の名無し

別の方法があるなら迷わずそっちに飛びつく罠

つか、本当に別人ならヤバイってレベルじゃねーぞ

 

 

ファイルを閉じ、またテレビ電話の画面に移動した。

 

『読んでくれたかい?まだ生きている通信アンテナを使って、

絶望の残党やモノクマと戦ってる人達が、掲示板を作って情報交換をしているんだ。

見ての通り、味方であるはずの彼らも、ボク達の活動について疑問を抱いているんだ。

無理を言ってるのは承知しているけど、

彼女の贖罪のカケラ集めを早めるよう協力して欲しい』

 

「早めろだと!?これ以上何をどうしろって言うんだ!

劣悪な条件で生活させて、2回も学級裁判を押し付けて、今日からは労役も始まる!

これ以上江ノ島盾子を虐待すれば、未来機関に対する反感を買うだけだ!」

 

 

 

どうしよう。

狛枝君の食事を取りに、レストランを通って厨房に行かなきゃ行けないんだけど、

なんか日向君が電話の相手とケンカしてる。やだなあ、行きたくないな。

だからって、グズグズしてたらみんなの朝食時間になっちゃうし。

 

ちょっと様子を覗き込むと、木の床が軋んで、音を立ててしまった。

隠れる間もなく、日向君がこっちを見た。そして、強引に話を打ち切って電話を切る。

 

「……とにかく!俺達もやれることはやるが、

そっちも江ノ島盾子の再調査を急いでくれ!切るぞ」

 

「あ、日向君……」

 

「江ノ島か」

 

「ごめん、聞く気はなかったんだけど、狛枝君の食事を取りに行かなくちゃいけなくて」

 

「……そうだな。それがお前の仕事だったな。

入院中は今まで通り交代で運んでたから忘れていた」

 

「じゃあ、行くね?」

 

「ちょっと待て」

 

日向君が僕を手招きする。なんだろう、また怒られるのかな。

不安な気持ちで彼に歩み寄る。

 

「江ノ島、お前の生徒手帳を出せ」

 

「生徒手帳?うん、はい……」

 

言われた通りにすると、日向君が自分の生徒手帳を僕の物に近づけた。

 

“チャリーン!メダルを受け取りまちた!”

 

「メダル?100枚も、どうして……」

 

「2度の事件解決。

つまり学級裁判でクロを発見し、なおかつ円満に終わらせた事に対する、

未来機関からの褒賞金だ」

 

「ありがとう!今度こそマーケットで地味な服を」

 

「悪いがそれは駄目だ。お前にはあくまでお前でいてもらう」

 

「しょんぼり……じゃあ、僕は、じゃなかった。“私”はもう行くわね。

ごめん、初日に言われてたこと完全に忘れてた。わ」

 

「……江ノ島」

 

「なあに」

 

「辛いか?」

 

「そりゃ、辛くないって言ったら嘘になるけど、ぼ…私はここで戦うって決めたから。

ちゃんとみんなにわかってもらえる方法を探すよ」

 

「もし、見つからなかったら?」

 

「そんなことは考えない。私は絶対このジャバウォック刑務所から出てみせるわ。

……よし、ちょっと慣れてきた」

 

「そうか……引き止めて悪かった。もう行け」

 

「また後でね!」

 

一度日向君と別れた僕は小走りで厨房に向かい、ドアをノックした。

 

「花村君、おはよう!狛枝君の朝食を取りに来たよ!」

 

すると、“はーい”という返事と共に、中から食事のトレーを持った花村君が出てきた。

 

「おはよう、江ノ島さん!これが彼のご飯だよ。

どうぞ、お受け取りくださいませ!ははーっ!」

 

突然彼が片膝をついて、献上するようにトレーを渡そうとしてきた。

意味不明な行動に一瞬戸惑ったけど……そうは行かないよ。1歩後ろに下がった。

 

「スカート覗こうったって駄目よ。

小泉さんか辺古山さんに同じこと出来たら見せてあげる。

終里さんはあんまり気にしなさそうだし」

 

「チッチッチッ。辺古山さんの中身はもう把握済みだよ!

小泉さんは……ちょっとハードル高いかな。

いや、ビンタされるのは別にいいっていうか、ぼくの業界じゃご褒美で、

何が言いたいかっていうと問題なのは技術的難易度。

あのスカートは例えるなら鉄のカーテン……」

 

「あ、もういいっす。食事もらってくね。とりあえず飲食業の人全てに謝っといて。

じゃあ!」

 

「ああっ、江ノ島さ~ん!」

 

 

 

 

 

全く油断も隙もないんだから。僕は食事を別館の狛枝君に運ぶ。

やっぱり中は暗いな。廊下くらいは電気点けてもいいと思うんだけど。

ここにはトイレがあるけど、お風呂がないから、

僕と同じくホテルのものを、決められた時間帯に使ってるらしい。

大ホールのドアを開けて、彼を探す。

大きなテーブルがたくさんあるし、やっぱりここも暗いから探しにくい。

 

う~ん、どこだろう。と思ったら、突然暗がりから伸びた手が僕の腕を掴んだ。

思わず悲鳴を上げてトレーをひっくり返すところだった。

 

「うわあっ!何するんだよ!

……おっと。いけない、いけない。何するのよ、どういうつもり?」

 

「その喋り方も、みんなにやれって言われたのかな?江ノ島さん」

 

暗闇の中、色白の彼の笑顔が不気味に浮かぶ。

 

「そうよ。そりゃ、僕…私だって違和感があるけど、

それで絶望の残党が減ってるのも事実なの。

だったら少しオカマを演じるくらい気にしないわ。あ、だいぶ自然な感じになってきた」

 

「わからないな。どうしてそこまでして、この世界のために君が尽くす必要があるの?

君がその気になれば、君を虐げている奴らを、

もう一度絶望の底に叩き落とすことだってできるんだよ?」

 

「……意味がわからないわ。そろそろ手を離して。私は尽くしてるつもりなんかないわ。

元の世界に戻るために、必要なことをしてるだけ」

 

「ああ、ごめんごめん。

江ノ島盾子に食事の世話をしてもらえるなんて、やっぱり僕は幸運だよ。

それで、もう一度聞くけど、君は本当に自分の力に気づいてないのかな」

 

僕、じゃなくて江ノ島盾子の能力。何を言ってるんだろう。やっぱり彼は分からない。

これ以上話しているとおかしくなりそうだ。

足元に食事を置いて、さっさとその場を立ち去ることにした。

 

「江ノ島盾子の力なんて知らないよ。いつまでも狛枝君と雑談してもいられないんだ。

トレーは夜にまとめて取りに来ることになってるから。それじゃあ」

 

彼に背を向けた時、また腕を引っ張られて抱き寄せられた。

逃げようともがくけど、長身の彼の力に、女の子の筋力では抗えない。

 

「忘れちゃったなら、思い出させてあげるよ。君は既にたくさんの力を手にしている。

なら、ボクを叩きのめして逃げ出すことくらい簡単さ!」

 

「やめて!何するんだよ!」

 

狛枝君が僕を押し倒して胸をまさぐり、太ももを撫で回す。

ぞわわわ、と背筋に悪寒が走る。

 

「今から君に乱暴しようと思う。

早く思い出さないと……取り返しのつかないことになるよ?」

 

「やめてよー!誰か助けて!」

 

「ここで叫んでもホテルに声は届かないし、

聞こえたとしてもみんなが来る前に全てが終わってるよ。

江ノ島さんが覚醒しない限り、ね……」

 

今度は僕の首筋に唇を這わせる。

とうとうスカートの中に手を入れようとした時、狛枝君の言葉を無意識に反芻していた。

 

“みんなが来る前に”

 

みんな、みんな、みんな!!

 

ジャバウォック刑務所のみんなの顔がフラッシュバックする。

 

……次の瞬間、僕は狛枝君の服を掴んで、自分と彼の重心を上手く移動させて、

最小限の力で後方に投げ飛ばしていた。

 

「うわ!」

 

さすがの彼も視界が一回転して、床に叩きつけられ、動きが止まった。

その隙に、素早く立ち上がり、みぞおちを踏みつける。

 

「ぐうっ!!」

 

そして、トレーの食事を蹴飛ばし、彼の顔を踏みにじった。

僕の意思とは無関係に、“超高校級の体操部”の能力が発現し、窮地を脱した。

でも、暴走した僕の身体は動きを止めない。

狛枝君をブーツで踏みながら、また“彼女”が!

 

「ミジンコごときが、私様(わたくしさま)を欲しがるなんて、身の程知らず知らずもいいとこね。

罰として朝食は抜きよ。どうしても食べたければ、

床に落ちたものを犬のように四つん這いになって貪ることね。オホホホ!」

 

やめて、君は今出てきちゃいけないんだ!

 

「は、ははっ……そう、それでこそ超高校級の絶望……

みんなが乗り越えるべき試練なんだ。ボク、本当に幸せだよ。

君という存在を、間近で見ることができる世界に来ることができたんだから……」

 

「私様から直に誅伐を受けることが幸せだなんて、

分かりきったことを言うものではないわ!

お前には“野良犬”の称号を与える。今後は私様のために粉骨砕身尽くしなさい。

……あら、肝心な私様の朝食の時間だわ。次に来るまでに床を綺麗にしておきなさい」

 

「ふふっ、わかったよ、女王様……」

 

足が勝手に玄関に向かって進む。このままホテルに行くのはマズい!と思ったけど、

別館から出ると同時に、江ノ島盾子の人格は僕の中に戻った。

ハプニングのせいで、朝食まで時間がない。走りながら考える。

……さっき、狛枝君にされたこと、日向君に言うべきかなぁ。

監視カメラには映ってないはず。“協力者”の狛枝君と一緒だったから。

 

でも、なんか口にするのが恥ずかしいし、変な現象についても説明しなきゃならない。

迷った末、やめておくことに決めた。

またピンチになったら、江ノ島盾子の誰かが助けてくれる、はず。

 

ホテルに入って階段を上がり、レストランに駆け込んだ。時計を見ると、ギリ5分前。

だけど、ほぼ全員もう席についてるから、

僕は急いで空いている椅子に座ろうとしたけど……

やっぱりみんなが僕に向けてる視線で座りづらい。

初日のような怒りや憎しみじゃなくて、困惑。

 

こいつが江ノ島盾子であることは(恐らく)間違いないが、

どうしてすっかり気弱で大人しくなってしまったのか。

その癖、学級裁判が始まると複数の人格を使い分け、率先して解決に導いていく。

そんな謎の存在に、皆どう接していいかわからない。そんな様子だった。

 

だからと言って、僕にもどうすることもできないから、仕方なく座る。

……その前に、隣の九頭竜君に声を掛けた。

 

「ここ、失礼するね?」

 

「……食事ン時の席は、囚人ごとに決まってる。そこは、テメーの席だ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

怒鳴られないか心配だったけど、彼は表情を変えずに前を向いたまま教えてくれた。

椅子に座ると、既にテーブルに朝食が置かれていた。

トレーには、コーンスープ、焼き立てフランスパン、牛乳瓶1本、ベーコンエッグ。

みんな花村君のお手製だ。美味しそう!

 

「やあ、みんなお待たせ!フライパンに卵が焦げ付いちゃってさ。

あれはもう駄目だね、買い換えなきゃ。日向くん、これって予算で落ちるよね?」

 

「ああ、皆にとって必要なものだからな」

 

「よかった。じゃあ、ぼくもいつもの席で……」

 

「おい、花村」

 

その時、九頭竜君が口を開いた。

やっぱりテーブルに目を落としたまま表情を変えることなく。

 

「江ノ島の食事がずいぶん豪華になったじゃねえか。……情にほだされたか?」

 

ただでさえ微妙な空気が更にざわつく。あわわ、なんか僕のせいで良くないことが……

小泉さんが声を上げる。

 

「九頭竜、アンタねえ!アタシだって盾子ちゃんを信じ切ってるわけじゃないけど、

別人の可能性が高くなった以上……」

 

「待って、小泉さん。

九頭竜くん、みんなの食事はぼくが決める。それが炊事係の権限だし、

彼女のメニューが変わったのは、

一人だけ違う食事を用意するのがかえって手間だからだよ。

決して夕張メロンを持つ人に悪人はいないっていう、ぼくの哲学に基づくものじゃない」

 

「花村も!本当に男子共はどうしようもないわね!」

 

「……フン、冗談だ。真に受けんな。弐大、始めてくれ」

 

「う、うむ。では全員、手を合わせるのじゃあ!」

 

そして弐大君の号令に合わせて全員手を合わせる。

 

「「いただきます!」」

 

さすが、超高校級の料理人の作った朝食は美味しかった。

できたてで温かいこともあるし、塩加減や焼き加減が絶妙で、

一口ごとに舌が幸せになる。

 

フランスパンは固すぎず柔らかすぎず、

コーンスープもまろやかなコーンとクリームの甘みがたまらない。

ベーコンエッグも、ベーコンが程よくカリカリで、

卵も半熟と固焼きの中間程度の焼き具合。

口の中でベーコンと塩味と卵の優しい味が混ざり合って、噛む度に適度に舌を刺激して、

今日一日を過ごすための活力を与えてくれる。

 

一流シェフの作った料理をあっという間に食べてしまい、

みんなが食べ終わるのを待っていたけど、

他の人も美味しい朝食に無言でがっついてたから、それほど待たずに食事は終わった。

 

そして、厨房にトレーを持って行く。

みんな列に並んで、手早く食器を洗い続ける花村君に挨拶して、

洗い場に皿やトレーを置く。

 

「ごちそうさまでした」

 

「おぞまつざみゃーだよ!」

 

忙しいと方言が出るみたいだね。次は僕の番だ。

 

「ごちそうさまでした。とっても美味しかったわ」

 

「え、どうしたの!その女性的な喋り方っ!

まさか“あなたの女になりたいの”ってメッセージじゃ」

 

「ないの。忘れてるんだろうけど、初日の会議で決まったことじゃない。

お皿はここに置けばいいのよね。またお昼」

 

“コテージの鍵はいつでも開けておくからねー!”

 

苦笑いしながら厨房から出た僕。

彼は本当に揺らがないというか、スタイルを崩さないというか。悪い意味で。

さて、朝食も済んだし、これからどうしよう。あ、そうだ。今日から労役が始まるんだ。

 

何をすればいいのかな。日向君に聞いてみよう。レストランには……いない。

ホテルの中を探してみよう。

階段を下りようとすると、僕の前に3人の女の子が立ちはだかった。

 

小泉さん、西園寺さん、ソニアさん。

みんな腕を組みながら微妙に不機嫌な目で僕を見てる。

何っ?僕、怒られるようなことしてないよね?

 

「ご、ごめん、ちょっと通してもらえない、かな?」

 

「それはできないよ、盾子ちゃん!」

 

「江ノ島さん、今からわたくし達と来てもらいます」

 

「どうして?僕、じゃなかった、私はこれから日向君と話が……」

 

「問答無用!やっちゃえー!」

 

西園寺さんが扇子で僕を指すと、

後の二人が両脇から僕の腕を掴んで、どこかへ連行する。

なんで!?何か変なことしちゃった、僕?

 

「ね、ねえ!どこに行くの!私、今日から働くことに……」

 

「いーから黙ってついてくる!」

 

「言葉遣いが少し女性らしくなりましたが、まだまだ自覚が足りません」

 

「どういうこと!?お願い、離して!謝るからー!」

 

僕の叫びも虚しく、小泉さんとソニアさんに引きずられて、

何処とも知れないところへ連れ去られていった。

 

 

 

 

 

はい、その結果が今の状況です。場所はソニアさんのコテージ。

なんというか、とっても豪華。ごめん、僕の貧弱な語彙だとそれが全てなんだ。

王女様に相応しい天蓋付きベッド、大型液晶テレビ、シャンデリア、等々。

これだけ扱いに違いが出てもクレームが出ないのは、

やっぱり彼女がこの部屋に相応しい、超高校級の王女だからなんだろうなぁ。

 

呑気に解説してる場合じゃないね。僕は今、ドレッサーの前に座らされてます。

3人に後ろを固められて、逃げられそうにありません。

鏡に映った小泉さんが、呆れた表情で僕を見てます。

 

「本当、朝食の時から気になってたけど、そんなボサボサ頭でよく外に出られたわね。

無精なオタクじゃあるまいし、髪くらいはきちんとして!」

 

「そうは言うけど、私が江ノ島盾子の格好じゃないと、みんなが色々困るらしくて、

この髪型は変えられないの……」

 

「そうではありません。

江ノ島さん、今朝起きてからきちんと髪のセットはなさいましたか?」

 

「うん。ちょっと濡らして、クシでささっと寝癖を直したよ」

 

だめだこりゃ、と言った感じで3人が天を仰ぐ。え、なんか変?

 

「あのね。それじゃセットしたことにはならないの!

ソニアちゃん、ちょっとヘアスプレーとかドライヤー借りるね?」

 

「はい!わたくしもスタイリング剤を用意してますから、いつでもバッチこいです!」

 

「わたしは江ノ島おねぇが逃げないようにドア見張ってるね~」

 

「え、なになに!?お願い、怖いことはやめて!」

 

「はい、じっとする」

 

「江ノ島さん。これも“レッスン”のひとつです。

暴れたり逃げ出したりしたら……どうなるかはわかっていますね?」

 

ニッコリ笑って腰に差していたムチを取り出す。

 

「わかりました、じっとしてます、だからムチはやめて!」

 

「よろしい。では、始めましょうか」

 

「やっと大人しくなったわね。

いい?ちゃんとやり方を覚えて、明日からは自分でなんとかするのよ?」

 

「はい……」

 

それから僕は、ドライヤーで髪を乾かしたり、

なんかのスプレーを吹き付けられたり、なんかのクリームを髪全体に塗られたりした。

正直、何のために何をされているのか、ちっともわからない。

2人に髪をいじられること約15分。

 

「ふぅ……こんなとこかしらね。大きなツインテールが手こずらせてくれたけど」

 

「まあ!これで言葉も髪も美しくなって、イケてるチャンネエになりましたね!」

 

「へぇ~江ノ島おねぇの髪ふわふわ。触っていい?」

 

「うん」

 

「わーい!すっごく柔らかい!」

 

「これが、私なんだ……」

 

「2人とも楽しそうね。写真撮ってあげようか」

 

西園寺さんが僕のツインテールを綿菓子のように両手で包み込むように触れる。

その感触が頭に伝わってくるし、見た目もさっきとは全然違う。

全体的に膨らみを得てボリュームを増し、艶を帯びてる。

綺麗だなぁ、と思わず自分に見惚れるほど。

鏡の中の江ノ島盾子がボーッと自分の姿を見つめてる。

あ、でも喜んでる場合じゃないな。今日から仕事だったんだ。

 

「みんな、ありがとうね。明日からは髪もちゃんとするわ。

コンテナの化粧品に髪をセットする道具がないか探しとく。

でも、今日から労務が始まるからもう行かなきゃ」

 

「心配ゴム用です。日向さんからお仕事は預かっています。

ここの4人で花飾りを作ること、それが今日の作業です」

 

ソニアさんが、部屋の隅からダンボールを引っ張り出してきて、

中から各部品の入ったビニール袋を床に置く。

 

「わたくしが作り方を説明しますので、同じように作ってください」

 

「そうだったんですね。最初に言ってくれればよかったのに。ソニアさんも人が悪いわ」

 

「ちょっとその前に。……盾子ちゃん、今気になること言ったわね。

“コンテナの化粧品”って何?」

 

「うん。私のテントに置いてあった箱なんだけど、着替えと化粧品が色々入ってたの。

使い方がわからないから完全放置なんだけど」

 

「それも後で調べる必要があるわね……とにかく、今は内職を片付けちゃいましょう」

 

それから2時間。僕達は他の人達が集めた素材で花飾りを作り続けた。

最後の1個を作り終えたら、みんな単調な作業から解放されて、

目頭を押さえたり伸びをして身体をほぐした。

 

「皆さん、お疲れ様です。納品分の商品が全てできあがりました」

 

「終わったー。内職系は体力的には楽だけど、時間の流れが遅く感じるのよね」

 

「わたし、この作業嫌い!

まだ山で木を変態野郎だと思って切り倒すほうが爽快感あるよ!」

 

変態野郎。今朝狛枝君にされたことを思い出す。

 

「……そうだね。本物を切り倒すともっと爽快よ、きっと」

 

「え、何……?江ノ島おねぇが言うと笑えないんだけど」

 

「ごめん、悪い冗談だったわね。とにかく、今日はみんなありがとう。

髪のこととか、仕事を教えてくれて。[私はこれで失礼するわ]」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

 

[私はこれで失礼するわ]論破! ○コンテナの化粧品:命中 BREAK!!!

 

 

「えっ、どうしたの?」

 

「さっき言ってたわよね。コンテナに化粧品があるって。それ全部見せなさい」

 

「多分大したものは入ってないと思うわよ?江ノ島盾子を維持するためのものだから」

 

「だったら尚更、放置状態じゃ意味ないでしょうが」

 

「よっしゃー!今から江ノ島おねぇの家に突撃よー!」

 

「そうですね。考えれば、江ノ島さんのことについて、わたくし達は何も知りません。

江ノ島さん。よろしければ、あなたの家に招待してはもらませんか?」

 

「それは構いませんけど、エアコンもない殺風景なところですよ?」

 

「ごちゃごちゃ言わない。この際、お化粧の仕方も教えてあげるから」

 

 

 

ソニアさんのコテージを出て、

ウッドデッキの先端に位置する僕のテントに辿り着いた3人。

中に入って小泉さんがまず言ったこと。

 

「あり得ないよ……!」

 

「なんにもないけど、座ってください。なぜかパイプ椅子だけは5つもあるんです」

 

みんな、かろうじてドアの役割を果たしているシートのそばで愕然としている。

 

「……本当に、なんにもないんだね。あ、ごめん。本当になんにもなかったから、つい」

 

「女の子が一人で過ごす仮住まいとは思えませんわ……」

 

「何これ!?

アフリカで焼け石に水程度のボランティアしてる連中が使ってるテントみたい!」

 

「あはは……到着するなり随分な言われようだけど、とにかくここが私の家なの。

ちゃんと冷蔵庫と洗濯機、あと小泉さんが気になってたコンテナは奥よ」

 

「見せて、もらうわね。……冷蔵庫には、何もなし。

コンテナは後で見るとして、トイレとお風呂、あと洗面台は?」

 

「トイレとシャワーはホテルのものを使ってる。

洗面台もないけど、喉が乾いた時なんかは、洗濯機につないでるホースを外して、

蛇口から直接……」

 

慣れた手付きでツインテールを頭の後ろに回し、水道の口から水を飲んでみせた。

さすがに水は命に関わるから、完備されてたんだよね。

 

「お願い、もうやめて。涙が出てきそう」

 

「世界にこれほどまでに恵まれない方がいらしたなんて、マジ卍!?」

 

「アフリカでワクチン配ってる連中は、まず江ノ島おねぇを助けるべきなんだよ!!」

 

「……ありがとう。でも、みんなの優しさで逆に傷ついてるから、

とりあえずコンテナを見てくれないかな」

 

僕は緑色のコンテナを開けて、中身を全部見せた。

さっきも言ったけど、使い方がわからないから放ったらかしだった。

彼女達ならどうすればいいのかわかるかもしれない。

さっそく3人がゴソゴソと中身をあさり始めた。すると、皆が異変に気づく。

王冠、メガネ、カビの生えたキノコ。

……僕の中の江ノ島盾子が装備(?)しているものだ。

 

「ねえ、これって……」

 

「そうなの。私の中の江ノ島盾子が使ってる道具。

取り出した覚えがないのに、どうして学級裁判でホイホイ出てくるのかは、

私にもわからないの」

 

「アハハ!江ノ島おねぇ、このキノコ食べてみてよ!案外おいしいかもよ?

毒キノコでもわたしは知らないけどっ!」

 

「う~ん、今はこれについて考えても答えは出そうにありませんわね。

まずは江ノ島さんの化粧用品を見せてもらいましょう」

 

「これなんだけど、着替えの服以外はどうしていいのかさっぱりで「あー何これ!」」

 

いきなり小泉さんが何かに驚いた様子で大声を出したから、こっちまで驚いたよ。

 

「わっ、どうしたの?」

 

「ヘアスプレーやドライヤー、ブラシもちゃんと揃ってる。それだけじゃない!

ショネルブランドの口紅やファンデーション!グッチェの香水まである!

これを意味不明だから放ったらかしなんて……許せなーい!」

 

「あらあら、わたくしの王室御用達の品もたくさんありますね」

 

「あ、なんかごめん……いるならいくつか持っていって」

 

「駄目!」

 

小泉さんがギン!と恨めしさの混じった鋭い視線を僕に突き刺す。思わず動けなくなる。

 

「はーい、小泉おねぇ、セッティング完了!」

 

いつの間にか後ろに回っていた西園寺さんが、パイプ椅子を広げる。

慌てる間もなくソニアさんが僕の肩を掴んで強引に座らせるという連携プレー。

そして、化粧品の数々を手にした小泉さんが僕ににじり寄る。

 

「今度はお顔のセットが必要みたいだね……別人みたいにして写真に収めてあげる!!」

 

「いやいやどうかそうお気遣いなく」

 

「とりゃー!」

 

小泉さんが化粧道具二刀流で飛びかかってきた。

僕は為す術もなく、彼女に身を任せるしかなかった。

うう、唇に何か塗られてる感触がなんかこそばゆい。顔や目にも何か塗られてる。

今の自分がどんな状況なのか見当もつかないよ。

 

「……よし、終わり。いいよ!」

 

ずっと目を閉じてたから何分だったのかわからないけど、目を開けて、

コンパクトの鏡で恐る恐る自分の顔を見た。驚きで声が出ない。

何もしなくても江ノ島盾子は顔が整ってたから、そのままでいいや、と思ってたけど……

化粧ひとつでこんなに変わるんだね。

 

「わぁ……」

 

「どう、驚いた?」

 

「うん。すごいよ、これ!」

 

マスカラで瞳の青が更に際立ち、肌の色もファンデーションで明るくなった。

控えめな赤の口紅で口元が全体と調和して、

小泉さんの言った通り、別人になったみたい。やば、男だけど何かに目覚めそう。

 

「こっち向いて~」

 

「え、なに?」

 

パシャッ

 

いつの間にかカメラを構えていた小泉さんが、変身した僕の写真を1枚。

 

「現像できたらあげるから、ちょっと待ってて」

 

「ありがとう。本当にありがとうね……みんな」

 

「お気になさらず。わたくし達も、ただ貴女が知りたかっただけですから」

 

「まー、これで髪のセットも化粧もできない娘が江ノ島盾子な訳ないって、

みんなに報告できるよ。

むしろこのテントの劣悪極まりない環境をなんとかしろって、

日向に言う方が先だってことがわかった」

 

「ウシシ、水道から直接水飲んでる江ノ島おねぇ、ホームレスみたいだったよ」

 

「日寄子ちゃん!」

 

「アハハ、いいの。でもね、最近はホームレスの方がずっといい生活してるわよ。

大学時代に見たドキュメンタリーに登場したホームレスなんて、優雅なものだったわ。

頑丈な大型テントに、毛布、携帯テレビ、ラジカセ、缶詰、ワンカップ、

とにかく色々持ち込んでごろ寝生活を満喫してた」

 

「じゃあ、おねぇもマーケットでワンカップ買ってくればいいじゃん。

あ、お金がない江ノ島おねぇはなんにも買えないんでした~残念!」

 

「いや、ウサミメダル自体はあるの。

十神君が恵んでくれた10枚と、今朝日向君から支給された学級裁判の成功報酬100枚。

まぁ、6枚は買い物に使ったから、今は104枚ね」

 

「げ。世話してやった哀れなホームレスが実は腐れ金持ちでした、ケッ」

 

「もう、日寄子ちゃんたら。

それなら当面の間、足りなくなって困るものはない、ってことでいいよね。

明日からはちゃんと顔も髪も整えること。女の子の身だしなみだからね?」

 

「わかった。頑張るよ」

 

「では、わたくし達はこれで。

明日の労役からは一人になりますが、指示通りにこなしていけば大丈夫です」

 

「うん。今日は本当にありがとう!」

 

「それじゃ、アタシ達はもう行くけど……

そうだ、お金に余裕があるなら、海岸のモノモノヤシーンで運試ししてみたら?

ガラクタか役に立つもののどっちかが出てくるよ」

 

「アレやっぱりあるんだ。私、クジ運悪いからあんまりやったことないの……」

 

「無理にとは言わないけどね。ガラクタは本当にどうしようもないガラクタだから。

じゃあね」

 

「わたくしもこれで。無駄遣いなどなさらぬように」

 

「江ノ島おねぇ~日寄子おこづかいほしーな「日寄子ちゃん!」は~い、またねー」

 

「みんな、バイバイ……」

 

僕は手を振ってみんなを見送った。1日目とは全然状況が違う。

まるでみんな友達みたいに接してくれて、本当に嬉しい。

絶望の残党がいなくなって、みんなが現実世界に戻れるなら、

お化粧くらい頑張って覚えよう。……ちょっと楽しいし。

 

 

 

 

 

というわけで、やってきましたモノモノヤシーン。

ヤシの木に猿が捕まってて、設置されたモノクマの口に、

ウサミメダルをスキャンするシステムになってる。すごく怪しい。

ガチャガチャ(僕の田舎ではそう呼んでた)に、

当たりなんて入ってないことは学習済みなんだけど、

目の当たりにすると回さざるを得ないのが悲しいサガ。

 

ウサミメダルアプリを立ち上げて、受け渡し金額を1枚に設定。

とりあえず10回だけチャレンジすることにした。重複率とかはこの際無視で。

ドキドキしながらモノクマに電子生徒手帳を近づける。

 

結果。

 

本当にガラクタばっかりじゃないか!どうにか役に立ちそうなものは……

ブルーラムっていうジュース、明太フランスパン、そんだけ!

残りの錚々たるメンバー見てよこれ!

 

シークレットブーツ?ブーツは間に合ってる!

超技林第二版?えらく懐かしいもんが出てきたよ!

多面ダイスセット?すごろくの気分じゃない。ギャグボール?いらない!

動くこけし?ノーコメント!

 

アンティークドール。女性なら喜んだんだろうけど、僕は…あれ?ちょっと欲しいかも。

一応コンテナにしまっておこう。

壊れたミサイル?なんか凄いもん出てきた。壊れててよかったよ。

冗談みたいに軽いから、多分偽物なんだと思う。

葉隠流水晶?当たりを出せとは言わない。ゴミは入れないで!

 

残念な結果に終わったモノモノヤシーンを後にして、僕は砂浜を去った。

ガラクタを背負ってホテルへの帰り道にを歩いていると……左右田君だ。

午前の力仕事を終えたようで汗だく。向こうも僕に気がつくと、露骨に目を逸した。

 

このまま歩くとちょうど門の前で鉢合わせになるんだけど、それは何だか気まずいな。

……そうだ、プレゼント!ダンガンロンパでお馴染みのシステムだよ。

お喋りした相手にプレゼントを渡せるってこと思い出した!

 

モノモノヤシーンのまともな賞品に、キンキンに冷えたブルーラムがあったっけ。

僕はガシャガシャと背中の荷物を鳴らしながら、左右田君に駆け寄る。

彼の前に立つと、睨むような視線で僕を見つめてきた。

その鋭さに思わず後ずさりしそうになったけど、お腹に力を入れて、

思い切って話しかけた。

 

「おかえりなひゃい、左右田君!疲れたでしょう、これ飲んで元気出して!」

 

「……要らねーよ」

 

あ、あれ?PSPで何度かプレゼントにチャレンジした時、

割と気に入ってもらえたはずなのに。そうか……今の僕は。

缶のプルタブを開けると、一口飲んで、また差し出した。

 

「毒なんて入ってないわ。お願い、受け取って」

 

「オカマ言葉にプレゼント?何してーのか全然わかんねー。どけよ、疲れてんだ」

 

「あ、待って……!」

 

僕を無視して、コテージに帰ろうとする左右田君を追いかけようとした拍子に、

背負ったガラクタの山を落としてしまった。

物音に思わず振り返った彼が、あるものを見て目を見開く。壊れたミサイル。

明らかにブルーラムと反応が違う。

それでも左右田君は舌打ちして立ち去ろうとするけど、

僕はミサイルを持って追いかけた。

 

「左右田君!これが必要なら受け取ってよ!

多分偽物だけど、超高校級のメカニックの君なら……」

 

「本物だ」

 

「えっ?」

 

「ミサイルに限ったことじゃねえ。

兵器や電子機器、例えばケータイなんかは世代を重ねるほど高威力、軽量化されんだろ。

どこの国が作ったかしらねーが、そいつはとんでもなく強力で軽くて、

少量の燃料でスゲー遠くまで飛ぶ代物だ。……直ればの話だけどよ」

 

「直してよ!これで絶望の残党を殺してなんて言わない。

でも、どこかの街で大量のモノクマが暴れてるって苗木君に聞いたんだ!

左右田君の発明でそいつらをやっつけて、お願い!」

 

「甘っちょろいこと言うな。モノクマみてーなロボットだけじゃねえ。

オレは絶望を皆殺しにする。

それはつまり、こいつがお前の頭に降ってくるってことだ。それでもいいんだな?」

 

「それまでに、私が別人だってこと証明してみせるわ。だから、これをあなたに託す」

 

「……後悔しても知らねえぞ」

 

左右田君は、豆のできた大きな手で、壊れたミサイルに力強く手を掛けた。

 

「仮想空間の世界で手に入れたもんは、当然現実には持ち帰れねえが……

内部構造を記憶して、現実世界で再現することは可能だ。

これならクソ野郎共を基地ごと粉々にできるだろーよ」

 

彼はさっそくミサイルの分析を始める。

破れた外殻から内部を覗き、誘導システムや尾翼の形状を観察する。

急に手持ち無沙汰になった僕は、

結局受け取ってもらえなかったブルーラムをちびちび飲みながら、

ホテル敷地の塀に、もたれていた。

すると、ミサイルの分析を続けていた左右田君が話しかけてきた。

 

「オメーってさあ、マジで意味わかんねえよな」

 

「ど、どういうこと?」

 

「どう見ても江ノ島盾子してるくせに、何されてもやり返して来ねーで泣くばっかだろ。

その癖、学級裁判では俺達の知ってる江ノ島盾子に大変身だ。

……お、弾頭をEMP爆弾にすれば、建物壊さずにモノクマ共ぶっ壊せるかもしれねえ。

電気系統はボロボロになるけど、更地になるよりマシだろ」

 

「僕…私は、江ノ島盾子のクローンに精神を移植された、ただの引きこもりだよ。

学級裁判の江ノ島盾子は、風船爆弾の事件の時に覚醒した人格なんだ」

 

「それ抜きにしてもよー。お前の行動脈絡なさすぎだっつの。

今日に限ってサラサラヘアーで化粧までしてやがる。

また別館でパーティーでもやんのか?」

 

「これは、小泉さん達がやってくれたの。女の子の身だしなみだって。中身は男だけど。

私に女性らしく喋らせることは、1日目の会議で決まったじゃない」

 

「あー、そんなことあったな。完全に忘れてた。

でもよう、なんで無敵のお前が律儀にそんなもん守ってんだ?」

 

「私が江ノ島盾子でいることで、残党は確実に数を減らしてる。

そのためなら、しばらくの間女になるくらい平気だよ。……いや、ちょっと大変だけど。

それに、私は無敵なんかじゃ」

 

その瞬間、今朝の出来事を思い出した。狛枝君に襲われた時、

知らないうちに分析・習得していた“超高校級の体操部”の能力が発動して、

彼を叩きのめした。僕は、この身体は、どうなってるんだ?

 

「急に黙んな。調子狂うだろ」

 

「ごめん、なんでもない……」

 

「まーいいけどよ。コイツに関しては礼を言っとく。

仮に、お前の言ってることが本当なら、復元したミサイルにふっ飛ばされないうちに、

証明する手段を探すこった。……にしても、暑ちーな。一口くれ」

 

左右田君が手を差し出した。

胸に喜びが湧いて、彼の手に飲みかけのブルーラムを握らせた。

 

「はい!全部飲んでいいよ」

 

「一口つったろ。んぐ……かぁっ!ほらよ」

 

「うん、ありがとう!」

 

「なんでオメーが礼を言うんだよ。本当わかんねーな。……まぁ、サンキュ」

 

「私を示す方法、必ず見つけてみせるわ」

 

「それはそうと……」

 

「なあに?」

 

「電化製品の調子は」

 

「えっ?ああ、洗濯機や冷蔵庫ね。何も異常はないわ。冷蔵庫は入れるものがないけど」

 

「そーかよ。オメーよくあんな吹きっさらし同然のとこに住んでるよな。

前にも言ったが、なんか壊れたらオレに言え。あばよ」

 

「左右田君……ありがとう」

 

また少し、ほんの少しだけど、左右田君に歩み寄れた気がする。

なぜだかわからないけど、僕は彼と分かり合う必要がある気がするんだ。

それは他の人も同じだけど、あの日彼が流した涙が忘れられないからかもしれない。

僕は、ガラクタを拾い集めて、コンテナにしまうため、一旦テントに戻った。

行きたくないけど、狛枝君の昼食を届けなきゃ。

 

 




ショクザイ ノ カケラ

コイズミ マヒル ×20
ソニア      ×20
サイオンジ ヒヨコ×20
ソウダ カズイチ ×40 ヲ ゲットシマシタ

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