アプリはまだか!!
「うぉおおぅうりゃぁああああああ!!!」
大絶叫の気合とともにツインターボは走っていた。
第4コーナーを回り最終ストレートに向かって。
「師匠!! がんばっ!!」
「がんばってぇ!!」
「部長!! ラストまで気を抜かない!!」
ダイタクヘリオスの陽気な掛け声に合わせ、真っ赤なポンポンを振るメジロパーマー。
凸凹な声援とチームの要らしい手厳しい指示のイクノディクタスの声を背にしながらも、ストレートでツインターボは捕まりウマ娘群に沈む、後は絶叫の残り香とともにどんけつでゴールを切るだけだった。
「頑張っているなツインターボ、最後の威勢は君に似てないか?」
「会長、私は大声をあげて走ったりしませんよ……」
エアグルーヴのきつい返答に苦笑い。
シンボリルドルフは生徒会室から見えるレースグラウンドに目を細めていた。
昼下がり、春を過ぎたこの季節も少しずつ涼しい時間に入る頃ウマ娘たちはトレーニングに集まってくる。
新入学を過ぎたこの時期は特に多い。
新人ウマ娘が入り、各々が所属したいチームを目指し模擬戦に明け暮れる。
チーム。
レースに出るためにはトレセン学園内にあるチームに所属する必要がある。
チームレベルは正直ピンキリなところもあるが、重賞勝ちをしてトゥインクル・シリーズを目指すのならば強豪チームに入るのが一番の近道だ。
日本各地から推薦や入選、または転入で中央トレセン学園に来たウマ娘がなんの基礎知識もなしにレースに出られるほど甘くない。
基本を学び走り方を改善し、上を狙うのなら多くの賞を受賞しているチームに入りたい。
自分の価値に目をつけ、スカウトされたいという切なる願いもあってか模擬レースはこの時期頻繁に行われる風物詩。
同時にこの時期、やたらに集まるウマ娘たちを良い材料に、テストを兼ねた併走訓練も多く行われ、学園内レースとも言われる規模になる。
ツインターボは上級生なのに新人ウマ娘たちとの併走トライアルという模擬レースに出走し続けていた。
「ライスシャワー……彼女こと、ツインターボに任せたのは会長ですよね」
並んで外を見るエアグルーヴ、バテバテで仲間の元に戻っていくツインターボの姿が見えていた。
「ああそうだ、贔屓だと思うか?」
振り返ったルトルフの顔は夕日から隠された寂しい眼差しを見せていた。
「私にはなんとも、走られないのなら辞めるという選択もありますから」
澄ました瞳の厳しい意見。
実にエアヴルーグらしい答えだとルドルフは頷いた。
女帝とも呼ばれる彼女が今までしてきたレースは甘い物などない、心身を削り光のステージへと駆け上がるためにつづけた努力をもちろん知っている。
知っているからこそ、軽く目を閉じる。
ライスシャワーは走らない。
絶世のレースを制した彼女には、三冠や三連覇を期待した観衆からの心無い言葉が浴びせられていた。
思い描いた「夢」とは違う結果を受け入れられないからといって誹謗中傷してよいものか。
それが原因なのか、ライスシャワーあの日以来走らないのだ。
遠い目が新人ウマ娘たちの明るい叫声を聞く、いつもこうあってほしいという願いとともに。
「私は甘いな……口ではEclipse first, the rest nowhereを標榜しながら、着いて行けない者が出ることを心から恐れている」
心底の素。
自分にしか言わないであろう言葉を前にエアヴルーグはすぐには返事しなかった。
シンボリルドルフは皇帝と称されるウマ娘だ。
全てのトレセン学園、さらには中央トレセンで頂点に立つ者。
だが高みの座から下を見下したことは一度もなかった。
むしろ見下すことより「才能を見出したい」「脱落者を出したくない」という心優しさと保護欲を持ち合わせていた。
それでも脱落者は出てしまう。
ウマ娘の特にトゥインクル・シリーズを狙うレースに参加する者には避けて通れない勝負の道。
競わなければ良いなどと簡単に言えないのは、走る性持つウマ娘であることを否定しかねない。
返事に困るエアグルーヴの顔に、シンボリルドルフはデスクに置いていた資料を前に出す。
「実は今回の件、問題は観衆の誹謗中傷だけではなく、ライスシャワーの側にもあるような気がしてね」
「あの専属トレーナーの方に問題があると?」
「ああ」
窓辺から離れる静かな瞳、生徒会室の椅子に座ったルドルフはライスシャワーの資料を開いていた。
細長い綺麗な指先がゆっくりと項目をなぞり止まる。
「見てくれ彼女のレースを。前回の天皇賞以降のレース日程は白紙だ」
「夏も近いですし……休養では」
「年始の予定にはあったレースが全て取り消されているのが気になるのだよ」
慎重な声にエアグルーヴも資料を覗く。
重賞勝ちしたウマ娘で、以後の人気投票では上位ウマ娘として選出されている彼女が出走希望にまったく手を挙げないのは不可思議だ。
確かにミホノブルボンを破り、メジロマックイーンを制した彼女に良からぬ誹謗中傷があったのは事実だが、それ以上に人気もあった。
こういうものは極端な形で現れるものだ。
黒い刺客・マーク屋とあだ名されても、華奢な身で長距離を制する彼女をこよなく愛するファンもいるのだ。
「正直に言おう、天皇賞はすごかった。長距離を粘り強く走り最後の一息で鮮やかに刺す。普のウマ娘ではできない芸当を平然とやって見せた彼女だ。どれほど緻密な計算と訓練を課してきたのかを思えば、予定が未定など考えられない」
予定表のぱったりと途切れた余白。
練習や模擬レースまでもを事細かに決めてあった計画書から隔絶されたような白さは普通ではない。
「会長は専属トレーナーが止めていると……考えているのですね」
「わからない、2人ともなのか彼女自身なのか、トレーナーなのか……」
資料の中ブリンカー着用でパドックに立ったライスシャワーの写真。
恵体とは言い難いあの小さな体で3200メートルを走り前を行く者を刺してゴールする。
その足運びは見事の一言に尽きる、イコールそれはしっかりとした管理がなされていた証拠でもある。
一人で何かを決めてはいない、ルドルフの直感だった。
「現状では噂話だけしか聞こえない、だが走ることで解決できるとも考えている」
「それでチーム・アンタレスですか? もっと他の良質なチームがあったのでは?」
ライスシャワーは稀代のステイヤーだ。
専属トレーナーがつくほどに神経質な調整をしていた彼女が、ざっくばらんな健康だけが取り柄のレースバカチームでやっていけるのかとエアグルーヴは怪訝を口にしたが、ルドルフの顔はしてやったりと笑っていた。
「私もそうなのだが、これは経験だ。理路整然とした場では見つけられない時がある。支離滅裂の中に入ることで見つけられるものもある。チーム・アンタレスは適任だ。それにイクノディクタスは天皇賞を一緒に走った同志だ。きっと彼女に立ち直りのきっかけをくれるだろう」
夕日と遠い眼差しを向けるルドルフに、エアグルーヴは肯定も否定も告げなかった。
走らなくなるウマ娘は彼女ライスシャワーに限ったことではない。
多くのウマ娘が生徒としてこの学園に入り「勝負の世界」になじめず涙して帰路につくことなど普通にあるのだから。
それでも才能あるものを、今一度レースへと向かわせたい。
僅かながらの救いを、手を伸ばしたいという思いを踏みにじる言葉は持っていなかった。
行動することで結果として何かが変わることはわかっている、その道筋をつけるシンボリルドルフの考えにアヤをつけることは彼女の考えることではない。
エアグルーヴが思う「辞める」という終止符を良しとしない強さをシンボリルドルフは見ているのだから、差出口な返事は無用だった。
軽く息を流し想いを汲むのが正しい。
「会長、新しいキャロットティーが入りました。飲みませんか」
「もらおう」
2人は今なおやんやと激しい模擬レースをするグラウンドを静かに見ていた。
「そういえばエアグルーヴ、最近蹄鉄変えたのか?」
「ええこないだのレースからナ◯キに、マルゼンスキーが新しいもの好きで色々試しているみたいで、私も少し試してみようかと」
「……そうか、最近はみんなそういうブランド物を試しているみたいだな、私は美浦印蹄鉄しか使ったことがない」
「試してみませんか、気分転換にもなにますよ」
とりとめない話もまた2人の楽しみでもあった。
ライスシャワーは困惑していた。
チーム転入から1週間、平穏はまったく訪れることはなかったから。
クラスでも静かで口数の少ない彼女、友達との会話さえ小鳥の囀りのようなトーンの彼女の生活にありえない大声が毎日飛び込むようになっていた。
チーム転入の翌日から放課後になるとダイタクヘリオスが教室に顔を出す。
「ラーイースちゃん!! 行こう!!」
それぞれがチームトレーニングへと向かう最後の時間、静かで可愛い時間をバッサリ割って入る長身のヘリオスは誰の目にも脅威に見えた。
平均的に小柄が多いクラスで、ライスシャワーは145センチ。
ダイタクヘリオスはウマ娘にしてもかなり大きい178センチ。
あのゴールドシップが170センチなのだからいかにデカイかが良くわかるが、彼女のようにグラマラスなボディは持たずわりとうすーい体のラインが特徴。
唐変木という木があるのなら彼女のことを言うのだろう。
ひょろりと高い身長に短めの黒髪は鳥の巣のよう、スタイリングには全くもって無頓着で忽然と立つ1本木というイメージ。
それが突然、毎日押しかけてくる。
大きな口で満面の笑みで誰憚ることなく教室に入ってきて、困り顔を晒すライスの手を問答無用で掴むと全速力でレースグラウンドに走る。
冗談じゃなく、本当に全速力で、なぜか笑いながら走るダイタクヘリオスに、その過程だけで疲れきってしまうライスシャワー。
そこから始まるというチーム・アンタレスの面々の凄まじいまでのレース欲にさらなる疲労をおぼえるのだ。
「よーし、次の出番まで反省会だ……はあはあはあ」
バテバテだ。
息も絶え絶えのツインターボの前に、チーム・アンタレスは集まっていた。
一応に皆ジャージの中、ライスシャワーだけは制服姿で。
「とりあえず今のはどうだった、俺の走りは……はひはひ……まず……ヘッツァ(ヘリオス)」
タコのような軟体生物的崩れ方で地べたに座っているツインターボは、順番に意見しろと指差していく。
レース中もピョンピョンとウサギのように跳ねてツインターボを応援していたダイタクヘリオスは元気いっぱいで褒め称える。
「はい!! 師匠!! かっこよかったですよ!! 最初のドーンって出るところとか!!」
最後にもみくちゃにされブビー賞だというのに、突貫でスタートしたシーンしか見てない。
そういうとこしか見ていないのがヘリオスのいいところだ。
隣のメジロパーマーも似たようなものだ。
「1000のタイムわぁ、58秒でよかったですょお。次の1000も58秒だっときっとよかったんですよぉ」
1000までのレースがあればいいのにねぇ、みたいな言い方。
ニコニコと笑う天然顔に多くの意見を求めるのは不可能というやつだが一応褒めていると受け取り気をよくするツインターボ。
「おう、俺もそう思ってるよ。連続58秒だったら行けたなー。よしそれをプランAとしよう」
少しずつ余裕が出てきてチャラけるツインターボに、チーム唯一のご意見番イクノディクタスは手厳しい意見を執行する。
愛嬌良さげなまん丸目でトランジスタグラマーの鉄拳ウマ娘のイクノ、ツインターボの前に立つと人差し指を立てて。
「大事なことを1つだけ言っておきますよ」
イクノディクタスの決まり文句、大事なことを1つの説教が始まる。
「毎回言ってますけどね、部長スタートで勝つなら最後まで勝ってくださいよ。手の振りがだんだん大雑把になる癖直してください。後ねこれはいつも言ってますけど逃げないで先頭集団で並走して溜めて最後の1000米を58秒にしたらいいんですよ。そしたら勝率上がるから」
「1つじゃねーだろそれ、オケ……、だがスタートダッシュで視界に他者を入れないのが俺の美学だから……「溜め」とかぜってーねーから……」
グダグタなのに美学とか、当然鼻で笑う鉄の女。
「へぇーそうですか、最後にブービー賞になっちゃうのが美学なんですか部長。大した美意識ですよね、笑うわ」
カラカラと口を開けて声のない笑顔を見せるイクノディクタスにムキになって言い逆らうツインターボ。
「くだるとかくだらないはかんけーねーのよ!! 一番で一人で前を走るのが良いの!!」
「走ってないじゃないですか!! 最後は一番後ろで……、あっ、わかったポツンと走るのが好きなんですよね、孤独を尊んでるなですよね、ノリでポツンと」
「ポツンとか言うな!! もういいイクノは黙って走りに行け。次、米っ!!」
熾烈でくだらない言い合い炸裂するわりにかんたんに言いくるめられる。
「あの……応援が終わったので帰っていいですか?」
米と呼ばれて応えたのはライスシャワー。
あの日自分の名前を忘れていたツインターボ、きちんと自己紹介と挨拶はしたのになぜか翌日から「米」とよばれている。
この強引なペースにライスシャワーはかなり参っていた。
「いいよ、レースの意見を言ったら。っていうか、米!! お前の声全然聞こえねーぞ!! 本当に応援してたのか? てかまだイクノが走るんだぞ!! 終わってねーぞ!!」
「していました……、大声は苦手なのです……」
おずおずと顔を下げ、帽子の下に目を隠してしまうライスシャワーにツインターボの遠慮ない怒声の説教。
「チームの掟を守れ!! 練習するもしないも、レースに出るも出ないもウチじゃ本人次第で好きにすればいい。だがチームの誰かが走る時はメンバー全員で応援する。お前ちゃんと応援してたか? 最低限の規則ぐらい守って声あげろ!!」
「……」
暴力的、眉をひそめ顔をそらす。
今まで自分にこんなゾンザイな接し方をした相手はいない。
大声でガサツで、人の意見なんて何も聞かないような傍若無人、意見なんて相の手入れたらどこまで怒鳴られるだろうと不安になる。
「ライスの声云々より、君の声が馬鹿でかいんだよ」
怯えてみんなから離れるライスを守るように、トレーナーは両腕にファイルを抱えたまま前にやってきていた。
「お兄様……」
一人だけ別世界から煩雑な渡世に追いやられたように肩身を狭くしていたライスはトレーナーの出現にホッとし駆け寄ると背中に隠れる。
少しでもここから遠ざかりたいという思いは、メンバーにも見え見えだったが本心からこの場にいたくないのだから仕方ない。
トレーナーもこの傍若無人なメンバーを知るに至り、憚ることなく間に入ってライスを守る。
生半で曖昧な態度ではライスシャワーを守れないことを、チームトレーナーに就任してすぐに理解したからだ。
書類を整理するな中でわかったこと、チーム・アンタレスは噂異常に驚愕のレースバカの集団ということだった。
レースに対してしゃかりきなチームなのだ。
だからレースに出るものに対して真摯なのだ。
ライスシャワーほどの実力ウマ娘がチームに所属すればどこのチームでもビックタイトルへの参戦を期待し口やかましくなるのだが、ここはそういうことはない。
レースに出る出ないは自由、口出しも押しもない。ただしメンバーの中でレースに出る者がいれば一丸となって応援するという鉄則があった。
ただの応援ならレース場に行けば良いだけなのに、ピンからキリまで、走りまくるバカ集団。
レースの出場回数が異常多いことでライスシャワーは「応援団」として引っ張り回される羽目となっていた。
トレーナーとしてはまずこの異常のレース回数を制限し、このチームを「穏やかに」改造したいと考えていた。
相対する形でライスシャワーを背中に、正面に口を曲げて自分を見るアンタレスの面々に指を振る。
「良いかい……君たち模擬戦にしてもレースに出すぎだよ、クールダウンもなく走り続けるなんて体をいじめているだけじゃないか。もっと筋トレに力を入れたら……」
理性的な意見だ。
田舎のとっちゃん坊やみたいな顔、相変わらずのボロジーンズに長靴と動物園の飼育員のような格好でファイルを草むらに置くと結論を述べた。
「レースの量を減らそう、そうしないと……」
「拒否権発動!! レースを減らしたいのなら勝てるトレーニング方法を今教えろ」
「それは是非聞きたいわ。今から走ってくるから逃げずにここにいてね、意見も欲しいし応援もして!!」
座るツインターボとトレーナーの前をジャージの上着を脱いだイクノディクタスが行く。
指導者として前に立つトレーナーの新たな提案を無視する形。
「いや、ちょっと話聞いてる? レースを控えて筋トレを……」
「よし!! 聞くから語れ!! あと米は帰っていいぞ!!」
どっかとあぐらで座るツインターボは右手でシッシッというゼスチャー。
ライスシャワーに帰れと指示をしながら、変わってトレーナーの腕をしっかりと掴み上機嫌で呼ぶ。
「座れ、イクノのレースを応援!! そのあとしっかり話合おうぜ!!」
「いや、僕はこれからライスと……」
「おい、トレーナー。今のあんたは米の専属じゃない、チーム・アンタレスのトレーナーなんだぞ。レースもしないやつの世話はいらねーだろ」
ドスが効くという感じではなかったが、ライスの背筋を冷やすには十分な気迫だった。
そしてライスは思い出していた、トレーナーはもう自分「専属」ではないことを
「お兄様……」
寂しくなる。
心がさ迷いだしそうなほど足元に闇を見るように背中に擦り寄るが、ツインターボにはどうでもいいことだった。
むしろ擦り寄るライスシャワーの姿に対抗し始めていた。
強くトレーナーの手を握って引っ張って。
「さあ座れ!! 俺の隣に座れ!! 米のことは後でいいだろ座れ!!」
躊躇ない引きにトレーナーの目は泳ぐ、助けに来たライスに助けとくれとすがりそうな勢い
「待ってくれ、……まだ君達の得意分野も知らなければ、得意とするレースも理解していないんだ。だからこそ実地のレースだけではなくて……」
言うほどにドツボ。
だったらレースを見て行けと自慢げな顔をみせるイクノディクタスを見て言葉が途切れる。
「それに俺はライスの専属で……」
それの墓穴だろう、先ほど言われたばかりだ。
このチームで専属でいることはできないのだから、しどろもどろになるトレーナーにツインターボはお構いなしだった。
むしろ断じて自分を優先する本能をむき出しにしていた。
「俺は可愛いから。米と変わらない存在と思って愛でてレースに勝つトレーニングを教えるといいぞ!! きっといいことあるぞ!!」
私は俺とか言わないよ。
まっさきに突っ込みそうだったライスシャワーだが、声にはしない。
混乱でトレーナーに頑張って擦り寄るが、負けじとツインターボが腕を引きしがみついている。
「米は帰れ!! レースも応援もしない奴はいらん子だ!!」
「いらん子とか言わない!! 仲良くしろって!!」
引っ張り合いの中心に置かれ困り果てるトレーナーにおもちゃをせがむ子供のようにぶら下がるツインターボ。
「だったら勝つためのトレーニングつけろよ!! 練習も減らしたいんだろ!! 米勝たせた時のトレーニングをここでみんなiに教えてくれよ」
「無理だ、君たちにあのトレーニングは……」
メガネの奥で目を光らせるツインターボ、顔を合わさないように視線をそらすトレーナー。
思い出したくないトレーニングを、自分にすがるライスシャワーの顔で思い出し首をふる。
「できないよ……」
「なんだ、やっぱフロックなのか。というか……嘘なんだな」
トレーニングを否定するトレーナーに、手を離しむくれた顔を見せるツインターボは冷めた目で睨んだ。
「なんだなんだ、専属だったなんて言ってるけど結局は米のストーカーか? まあ可愛いから仕方ないけど俺も可愛いから危なかったな。とっと、たまたま米が強かったから注目されて、米に見捨てられたら行くとこねーから付いて回ってるだけなんだな……あ・ん・た」
随分と芝居がかった言い回しだった。
本当に芝居だったからこそねちっこい嫌味は十分に伝わっていた。
トレーナーの後ろに隠れていたライスシャワーは拳を握って前に飛び出していたのだから
「お兄様を侮辱しないで!! お兄様は立派なトレーナーさんです……立派な……」
涙ぐんだ目、噛んだ唇、震える肩。
自分を支えてくれる人への侮辱を許さないとさらに一歩前に進む
「はっきりといいますよ、貴女の走り方に合うトレーニングなんてありません。お兄様をこまらせないでください」
「ライス!!」
「心配しないでお兄様、私お兄様のためならいくらでも「悪者(ヒール)」になれるから」
「そんなこと望んでないよ……僕はただお前に無理をして欲しくないだけなんだよ」
ここだけ昼ドラという異質な空気の中でライスシャワーはツインターボへの壁となっていきり立っていた。
そういう態度で接しないと、この人を突き放せない。
ツインターボを敵と認識したライスシャワーは、自分に不似合いなほどの怒りをまとって前にいた。
「無駄な努力はしない方がいいです……無駄に体を痛めたら走られなくなりますから……」
ツインターボの1つ目の勘に触る態度だった。
ライスシャワーは怒っている、貴女には努力も無駄とけなすほどに。
だがツインターボの怒りの琴線に触れたのはそこじゃない、深くかぶった帽子、伏せた目、相手に対する「憐憫」が見えたこと。
哀れまれというのは何か納得いかないものだ。
「……言ってくれるじゃねーか。それなら尚更に知りたいな勝ったトレーニングを。やっぱりあれがお前にタッチして不幸にならないとダメなのか? ああん?」
売り言葉に買い言葉、立ち上がって意識的に斜めに構えたツインターボ。
ライスシャワーを抑えて間に入ったトレーナーは双方落ち着けのポーズとともに、あえて突き放す言葉を放った。
しかしあえて敵対するのは失敗するものだ。
すでに「演技」と「あえて」をぶつけ合ったウマ娘2人の後でならなおさらに。
「無理だ君は今の状態でも勝ててない、勝ちが少なすぎる。勝つことよりもレースの基礎を学び直し筋トレを中心に……」
絶対に触れてはいけないことがある。
確かにツインターボの勝ち星は新ウマの頃しかない、デビューして同期のウマ娘が暗中模索でレースの駆け引きにつまづいている頃、ただまっすぐに誰よりも早く「逃げる」ことしか考えずに来た彼女は強かった。
いや強かったのではなく、ただ余計な考えがなくまっすぐ一番に走るだけだった。
そしてそれは今もそうだ。
現在作戦と駆け引きを持ってレースに臨む同期に勝てる見込みは少なかった。
1年間勝ち星なし。
それを見越して勝つトレーニングは不要と言われた様なもの。
相手を乗せるつもりが、自らの芝居で自らの魂着火してしまうツインターボ。
顔は真っ赤、耳は天を指して立ち上がり鼻息も荒い。
「あったまきた!! やってやるよ!! 米!! お前と勝負だ!! 俺は絶対に勝つ!!」
期せずして「ツインターボVSライスシャワー」という図はできてしまっていた。
結局こちらの改訂版が先に掲載される体たらく......。
気力が続かないのは暑さのせいと思いたい。