露出少女、誰か分かる人もいると思います
では、どうぞ。
第1話 間抜け宮と露出少女
夏に差し掛かったある日の夕方、私は、住宅街にある私の家を目指して、キコキコと自転車を力強く漕いでいた。生ぬるい風が気持ち悪い。
たまにサラリーマンやOLとすれ違う。街頭に淡く照らされた顔は皆疲れた顔をしていた。
私もだけど。
私は、“暮宮 楓”。
只の一般的な面白くもない女子高校生だ。
いつも通り、高校に自転車で通学して、授業を受けて、部活して、又、自転車で帰宅する。そして、親に高校で溜まったストレスを吐き出す。
そんな生活で十分だった。何故なら? 平和だから。
大した変化は無くても、安全に生きられるならそれでいい。
今まで、大きな病気や怪我もないし、家には、優しい親がいるし、友達も其なりに量も質もあるしで、
一番の幸せ者だ。
それに、此処は日本。
こんなに治安が良い国はなかなかない。
そう思っていた。
だから、油断していた。
だからなんだろう。交差点に差し掛かった時、視界の隅からかなりの速度で飛び出してくる車が見えた。私は止まったのに、
ドゴッ!!! ドシャッ…カラカラ……。
私の身体が宙を舞った。自転車はぐちゃぐちゃになり、辺りに散らばる。額から大量に垂れる血が目に入った。
……人間は死ぬ時に、大きな快感を得るらしい。ドーパミン? だとかが分泌されるって聞いたことがある。何かで得る快感の数百倍だとか。私はそれを信じていなかったけど、本当だって分かった。
何故なら、私が死んだから。
交通事故で即死だったらしい。
痛みは微塵も感じ無かった。
死ぬ瞬間、運転手らしき人の大丈夫ですか!? という声が聞こえた。いや、お前のせいなんだよ。分かってるの?
他にも、周りの人の叫び声や、“あなた、幻想郷に来ない?”という、様々な声が聞こえた。
聞こえた声の一つに疑問を覚えながら、私の意識はドーパミン? のお陰で、そこまで悪い気持ちもせず、フェードアウトしていった。
▲▽▲▽▲
……眩しい。
そう思いつつ、目が覚めた。
そう言えば、私、死んだんじゃ……。と、思い出しつつ、体を起こす。
その時、頭に浮かび、思わず口に出してしまった言葉は、ひとつだけ。
「何処なの、此処?」
全く見当がつかない場所で目が覚めて戸惑う私。
周りを見渡すと、畳にちゃぶ台がぽつんと置いてあるだけの静かで質素な部屋。テレビもエアコンも無い。汗が一粒、二粒と畳に落ちた。
昼時なのだろうか、障子から漏れる光が心地よい。
ふと、障子を開き、縁側から見える外を見る。
一瞬で心地よい光から忌々しい光に変わった。
古い木造の建物が視界に入った。玄関がない。恐らく、反対側にあるのだろう。
他には、入道雲がこれでもかと自己主張してくる透き通るような青空と、さわさわと揺れる森、真上からジリジリと照り付けて来る太陽位だ。
それ以外には何もない。
自分に目を向けると、誰かが掛けてくれたのだろうか、タオルケットが足から腰までを隠す形で掛かっていた。柄は、……赤と白の勾玉が組合わさったようなものが、何個も描かれている。
……正直、趣味が悪い。
さっき流れていたはずの血の感覚が無いことに気付き、顔を触る。
……血は流れていなかった。それどころか、今までより、顔が綺麗になっている気がする。ニキビも無いし。
それ以外にも、着ている服が制服じゃなくて、旅館で良く見る、寝る用の和服になっていたりと、
不思議な所は幾つもあった。
私が現状に戸惑っていると、背後から、ギシギシ踏みしめて歩く音が聞こえた。
誰? と思い振り返ると、
そこには、湯気の出ている湯飲みを両手で持ち、赤と白の和服を着ている少女が無表情で立っていた。
……何で、脇と肩が露出してるの?
「あら、あんた起きたのね」
「あっ、はい、どうも……」
驚いて、コミュ障みたいな受け答えをしてしまった。
だってさ、脇と肩、露出させないでしょ。普通。
「何よ、その人見知りみたいな返事」
露出少女は息をするように私をディスって来た。、
露出少女はちゃぶ台に湯飲みを置いて、その横にどかっと座ると、頬杖をつく。そして、何かを飲み、はぁーと溜め息をついた。
露出少女は私を見て、だるそうに口を開いた。
「あんた、何で此処にいるか分かる?」
「い、いや……。死んで、目が覚めたら此処に…」
「でしょうね。んー……1時間位前に、紫があんたを運んできたのよ。目が覚めたら、説明してあげてって」
「……紫? って誰ですか?」
「紫って言うのは、胡散臭くて、いつもうざったらしい性悪女のことよ。あんた、死ぬ直前に幻想郷とか聞いたんじゃないの?」
確かに、私は、幻想郷に来ない? と聞いた覚えがある。
と言うことは、此処がその幻想郷なのか……。
ザァッ……と急に風が吹く。
立ち上がり、縁側まで歩いて、外を眺める。
とても暑いのだが、決して気持ち悪い暑さではない暑さ、風で大きく揺れる森、古いのに何故か懐かしさを覚える建物。入道雲がこれでもかと自己主張してくる。
先程見たときと何ら変わっていないのに、不思議と、輝いて見える。
私がいた所とは全く違うのどかな場所。
既に現代人から忘れられたモノこそが幻想なのか。そう感じる何かがある。
私はそう思った。
「どう? 幻想郷、結構良いとこでしょ?」
露出少女の透き通っている、どこか自慢気な声が、心に引っ付いて離れない。顔は見えないが、ドヤ顔しているんだろう。
幻想なんて言葉じゃ片付けることなんて出来ない。
……楽園。
その言葉が幻想郷には良く似合う。
……変化もたまには良いな。
「……うん!」
私は振り返り笑顔で答えた。
▲▽▲▽▲
「そう言えば、名前なんて言うの? 露出少女さん」
「……人に名前聞くときは、自分から言うのがマナーじゃないの?」
一瞬、私の着けたニックネームに怒りの顔をした露出少女だが、すぐに、気を取り直して、切り返してきた。良くある会話だ。
因みに、敬語は要らないと言われた。むず痒いらしい。
「! ごもっとも。私の名前は“暮宮 楓”だよ。楓で良いよ、
「あっそ、私は“博麗 霊夢”よ。霊夢で良いわ、
霊夢に何か言われた気がするが、無視しよう。そうしよう。
私はふと、死ぬ直前に言われた言葉を思い出す。
ーーあなた、幻想郷に来ない?
誰が言ってきたんだっけ。
……あぁ、紫って言う人だ。
「ねぇ霊夢」
「何?」
「紫……さんは来ないの?」
「紫ィ? もう来てるじゃない、ずっと前から」
は? と、思った。
周りを見渡す。……誰も居ないじゃないか。
「居ないじゃん」
「
霊夢がどうでもいい独り言のように紫さんに話し掛けると、私の背後から、ウニョニョニョーーンと言う、気持ち悪い音を出しつつ、開いた目玉ゲート? から紫さんと思われる人が出てきた。
「もぉー、つまらないじゃないのよ、霊夢。折角、この娘を驚かそうとしたのに」
「んなもん、知らんわ。……何で来たのよ?」
「だから、言ったでしょう? この娘を驚かすって」
「……それは建前でしょ? 本心を聞いてんのよ」
「……あらあら………………」
え、え? どうゆう事?
私を挟んで(物理的に)、何が起こってるの?
▲▽▲▽▲
〔霊夢サイド〕
「もぉー、つまらないじゃないのよ、霊夢。折角、この娘を驚かそうとしたのに」
……ほら来た。
いちいち来るんじゃないわよ。
しかも嘘ついて。
「んなもん、知らんわ。……何で来たのよ?」
「だから、言ったでしょう? この娘を驚かすって」
「……それは建前でしょ? 本心を聞いてんのよ」
「……あらあら………………」
……ほら来た。
お得意の誤魔化しよ。顔を扇子で隠して、静かに笑みを浮かべるって言うのは。
絶対此処に来た理由はそんなんじゃ無いってのに。
「楓、こいつが紫よ。ね? 胡散臭いでしょ?」
「えっ……この人が…。言っちゃ悪いけど確かに……胡散臭い…」
「二人とも酷いわねぇ。胡散臭いだなんて。私より、素直な者なんてなかなか居ないわよ?」
黙れ、嘘つきババア。
そう言ってやりたくなったけど、言ったら、夢にまで介入してきそうだから止めておく。
「まぁ私が来た理由と言うのはね、この娘……暮宮さんが、能力を持っていると言うことを、伝えるためよ。たったそれだけ」
「なっ……!」
楓が? 能力を持っているだって?
「の、能力ですか?」
「……それは本当なの?」
そう聞くと紫は、勿論よ、と言った。
私は考える。
紫の言ってることがもし本当なら、楓が死んで、幻想郷に来た意味も分かる。
普通、外の世界には、能力を持っている人間なんて存在しない。
もし持っている人が居るのなら、そいつは、早死にして、存在を消すように運命が仕組まれている、と紫から聞いた。
「わ、私は、どんな能力を持ってるんですか?」
「能力は自己申告制よ。自分で見つけなさいな。……じゃあねー霊夢、楓」
紫はそう言い残すと、目玉ゲート……スキマに消えていった。
まさか、楓が能力を持っているなんてね。柄にもなく驚きすぎたわ。
「れ、霊夢。私、能力持ってるの?」
「……そうみたいね」
私は大きな溜め息をついた。
はぁ……、忙しくなりそう。
▲▽▲▽▲
〔楓サイド〕
「れ、霊夢。私、能力持ってるの?」
「……そうみたいね」
霊夢が大きな溜め息をついた。めんどくさいのだろうか。
でも、私は反対に、嬉しかった。
だって私は悪くないのに死んだんだ。生き返ったのを抜きにしても、それくらいは許されるだろう。
霊夢が外を見る。それに釣られて私も外を見る。
たちまち吸い込まれそうな綺麗な夕焼けだった。
「あんた、どうせ泊まる当て無いんでしょ?」
「……あっ! 無いなぁ……」
「仕方ない。今日は泊まっていきなさい。明日住む所探せばいいわ」
「! 本当に!? ありがとぅ」
「その代わり、夕飯の用意手伝いなさいよ」
「合点承知ィ‼」
私は思う、変化って結構素晴らしいって。
そして、平和はもっと素晴らしいってことにも。
部屋の奥へと歩いていく私と霊夢の背中を、夕陽が優しく照らしていた。
読んでくれて、ありがとうございました。