至らぬ点が多々あるかと思いますがよろしくお願いします。
誤字脱字の報告や感想などお待ちしてます。
ひと悶着あって居心地の悪かったバスを降りて、オレは正門の先を見据えた。
東京都高度育成高等学校。
オレがこれから三年間を過ごすことになる学び舎だ。
日本が国主体となって作り上げた学校で、ここの卒業生は既に日本中、いや世界中で目覚ましい活躍を遂げているとか。
屈指の就職率・進学率を誇っており、毎年それを目当てに全国から応募が殺到する。
だが、オレがここに進学したのはそんな理由のためじゃない。
「ホワイトルーム」で松雄という男から聞かされた情報。
この学校に行けば在学期間の三年の間、生徒は外部との連絡を遮断される。
裏を返せば、外部もまた生徒との連絡が取れないということ。
そしてそれは「あの男」――つまりオレの父親も同様らしい。
日本で唯一あの男の手から逃れ得る場所、オレはそれを求めてやってきた。
外の世界には前から興味があったしな……。
「ちょっと。さっき私の方を見ていたけれど、なんなの?」
歩き出そうとした瞬間、真横から呼び止められる。
さっきまで車内で隣に座っていた少女だ。
オレと同じ新入生だろう。
「悪い。あんた、さっきは堂々としてたなって思って。ああいう時って、なんだかこっちに非がある気がしてくるよな」
「私は信念を持って無視していたの。あなたと一緒にしないでもらえる? 自分に落ち度があると思うのは、心のどこかで自分が悪いと認めているからよ。私は自分が悪いことをしたとは思っていないもの」
「オレはああいうことに関わって目立ちたくなかっただけだ。事なかれ主義なんでね」
「願わくば、あなたのような面倒ごとを嫌うだけの人とは関わらずに過ごしたいものね」
「……同感だな」
……なんだか凄い奴に話しかけられてしまった。
お互いにわざとため息をついて同じ方角へと歩き出そうとしたその瞬間、オレは横を通り過ぎようとしていた人物に目を奪われた。
染められているのか天然なのか、銀色の髪に白い肌の少女。
どこか儚げなその少女は片手で杖をついて歩いている。
人体の構造やボディメカニクスについても一通りの知識は持ち合わせているが、あの歩き方はおそらく何らかの疾患によるものだろう。
「寮生活とか大変そうだな……」
まあ他人の心配をしている場合じゃない、か。
立ち止まっていた間に黒髪の少女は歩き出していたようで、既にオレの隣には居ない。
オレも行くか……と思い立った矢先、ひと際強い風が吹いた。
銀髪の少女は咄嗟にスカートを押さえたようだったが、それで少しバランスを崩したようだ。
よろけていたので小走りで駆け寄って肩を軽く掴んでやる。
すると彼女はオレに視線を向けた。
「あ……すみません、ありがとうございます」
いや、気にするな。
そう言おうと思っていたのに、彼女の顔を見ていると言葉が出てこなかった。
端正な顔立ち、ほんのりと上気した頬、吸い込まれてしまいそうな大きな瞳。
……なんということだろう。
オレはこの少女を、とても可愛いと思ってしまった。
これが一目惚れ、とかいうやつだろうか。
徹底した監視体制の敷かれていたホワイトルームでは恋愛感情に程遠い生活をしていた。
その反動だろうか?
鼓動がうるさいくらいに高鳴っている。
どうやらオレは、あの部屋に居たままでは見つけられなかったことを早速見つけられたらしい。
「では、私はこれで……」
オレがそうこうしている内、少女は自分で体勢を整えて歩き出した。
ああ、名前を訊きそびれた。
今から追い付いて名前を尋ねるのは不自然だ。
オレは落胆したまま石造りの正門をくぐった。
せめて同じクラスでありますように。
「はあ……」
希望は易々と打ち砕かれた。
1年Dクラスの後方、隅の席から教室を見渡す。
銀髪の少女が居ないどころか、バスで騒動の元になった金髪、そしてオレの隣には例の黒髪の少女まで居る。
「先が思いやられるな」
茶柱佐枝という担任がやってきて学校の説明をされる。
パンフレットを見てSシステムに関しては知っていたが、まさか月に10万ポイントを貰えるとはな。
特に使い道も無い。
無難に貯金しておくのが吉だろう。
その後自分でも最低だと思える自己紹介をし、入学式へと移動。
諸々の説明を受け、その日は解散となった。
この学校で本気を出すつもりは初めからない。
どこにでもいるような生徒Aになれればそれで御の字だ。
それから数日経った。
最低の自己紹介の割に、そこそこに学生生活をエンジョイできている。
須藤や池、山内たちとのバカ騒ぎも悪くない。
と、自分では思っていたが、やはりどこか物足りなさを感じていた。
それは入学式の日に出会ったあの少女の存在だ。
オレたちと同じ新入生なのだろうが、それとなく探してみても不思議と彼女は見当たらなかった。
この学校の妖精かなにかだったのだろうか。
なんてことを考えつつ、携帯端末の表示を見つめる。
今日は五月一日。
月の初めにプライベートポイントを受け取るという話だったが、オレには1ポイントすら振り込まれてはいなかった。
周囲の生徒もざわついている。
朝のホームルームにやってきた茶柱先生はこれまでとは打って変わり、Dクラスの連中を見下したような態度で重大な発言をした。
この学校は生徒をその能力に応じてクラス分けしていること。
クラスポイントが増えない限り月に支給されるポイントも増えず、またクラスポイントによってクラスは変動すること。
なるほど。
オレはどうやら意図せずして実力至上主義の教室へと足を踏み入れていたらしい。
放課後。
茶柱先生に言わせれば「不良品」であるDクラスの連中は一様に落胆している様子だったが、それでもポイントの貸し借りや物品の売買でどうにか自分のプライベートポイントを増やそうと画策している。
オレも山内にゲーム機を買ってくれと頼み込まれたが、これを丁重にお断りした。
『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』
教室に突然響いた呼び出し。
目立つようなことは何もしていないはずだが、はて。
重い足取りで職員室へと向かう途中、Aクラスの扉が開かれた。
そこからは入学式以降姿を見ていなかった銀髪の少女と、それに続いて数人の取り巻きが出てくるところだった。
どうやら、いつも周囲に人が居るせいで彼女を視認できなかったらしい。
まあ、オレが本腰を入れて探そうとしていなかったのも確かだが。
違うクラスになった以上、下手に探り回れば自然と周囲で噂されることになる。
あまり目立ちたくなかったオレとしてはどうにも気が進まなかった。
「……いや。待てよ」
オレがホワイトルームで学べなかったこと。
あの男が不要と切り捨てたもの。
オレはそれを学ぶためにホワイトルームを出てあの男の監視下から逃れてまでこの学校を選んだはずだ。
なら――自分があの日感じた鼓動の高鳴りに従ってみるのも悪くない。
あの少女の近くで学生生活ってヤツを謳歌する。
イメージしてみると、それは思いのほか楽しそうだった。
職員室で茶柱先生に出会う。
どうやら何か企んでいる様子だが、どうせオレにとって些末なことだ。
そんなことより、と気になっていた点をさっそく質問する。
「先生は前に言ってましたよね? 『学校内においてこのポイントで買えないものはない』と」
「言ったが、それがどうした?」
「オレがAクラスに行くには何ポイント必要ですか?」
「……」
茶柱先生は訝しげな様子でしばらくオレを見つめた。
その眼光の鋭さは睨んでいると形容しても良いかもしれない。
「お前はそういう欲とは無関係な生徒だと思っていたがな。聞いても無駄だと思うが教えてやろう。2000万ポイントだ」
オレは素早く脳内で計算を巡らせる。
誰が聞いても不可能に思えるであろう額。
だが、うまく運べばあるいは――
「ちなみに過去、この偉業を達成した者は一人として居ない。徒労に終わるぞ。私としてはクラスポイントの変動でAクラスになることを勧める。もっとも、こちらも過去に達成されたことは一度たりとも無いがな」
それでは駄目だ。
あの少女を蹴落として手に入れるAクラスに価値は無い。
「じゃあオレがその偉業の一人目の達成者ですね。今の内に銅像でも作っておいてくださいよ」
その後堀北を交えて茶番を繰り広げた後、オレは自室に戻って今後の計画を立てた。