東方半鬼伝   作:りすも

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誤字等ありましたらよろしくお願いします

30話程度で完結になる予定ですので短い間ですがよろしくお願いします。


1章 半端鬼の歩む道
1話


ひとつの空間に甘い、それは甘い香りが漂う。だがその香りはどことなく切なさを感じさせるものだった。

 

そんな匂いにつられて少女は目を覚ます。

 

目を開くと広がるのは辺り一面に広がる群青色。小さな花弁を咲かせる花が辺り一面に広がっていた。

 

少女は気付く。この香りはこの花から広がっていることを。

少年は香りを不快には思わなかった。寧ろ落ち着いく香りだとすぐに気に入った。

 

そして、辺りに広がる花のうちほんの少しを手に取り歩き出す。

しかし、どこへ行っても群青色があるばかり。

 

 

「?」

 

 

少女はこの空間の奥に大木があることに気付く。それはこの群青色にはあまり映えない赤。真っ赤な葉が目立つ木を見つける。

 

いざ駆け寄るとこの大木の大きさに驚く。自分の背の何十倍もあるのだ。

そして、その木の下にある手紙に気付く。

手紙の上には自身を5つに大きく分ける葉、その上に乗る群青色の小さな花弁。

 

何とも不釣り合いなのだろうか?赤と青が自身を主張しあっている。だがそんな中にも切なさを感じてしまう。

 

少年はその手紙を取る。

 

 

(「ごめんね…お母さんは貴方を育てることが出来ない…」)

 

 

ふと懐かしい記憶が蘇る。それは少女の中にある悲しき記憶。

 

ザァ…

 

すると風が不意に吹いたと思いきや、当たりの群青を散らせて行く。

 

少女の意識はそこで途切れる。だが、少女は何故かその光景に懐かしさを感じていた。

 

 

手紙の表には『わが愛する子、縁下 青群へ』と書かれていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

辺りには満面に広がる赤き楓の葉、そして木。そんな中1人彼女は盃を手に酒を飲む。

 

 

「おーい。青群〜。1人酒なんてつまらんだろう?一緒に飲もうじゃないか。」

 

 

声の主は赤き1本角を持つ鬼。名は「星熊 勇儀」。盃を手に1人の女性の元へ歩み寄る。

 

 

「なんだ。勇儀か…。自分だって1人で飲みたい時もある。」

 

 

そう答えるは白い1本角の鬼。その髪は首のあたりで切りそろえられ綺麗な群青色をしている。しかし、その角は立派とは言いがたく。まるで元は2本だったとも思える右側片方の角。名は「縁下 青群」。その手にある盃には楓の葉が1枚乗っている。

 

 

「そうかい。ところで青群近頃全然付き合ってくれないじゃないか。いつになったらわたしと勝負してくれるんだい?それに最近は人間にも飽きてきた。」

 

「フフ、いやまだ早いんだ。自分が勇儀、お前と再び戦うにはな。それに相手が強い方がお前も楽しいだろう?」

 

 

青群がそう言うと勇儀は諦めたような顔をする。青群は勇儀と出会って何度か勝負を続けていたが、最近は全くしていない。

 

それは何故か?それは彼の秘密に関わることだ。

 

 

「まぁいいさ。いつかその日を楽しみに待つとするかね。」

 

 

勇儀はそう言って自身の盃の酒を飲む。この鬼、嘘や臆病、狡猾と言ったものをとても嫌う。そんな彼女が諦めたということは青群にそんな様子はなかったということだろう。

 

 

「はぁ戻るか。」

 

 

青群は自身の盃を着物の胸元入れる。着物の上には群青色をした小さな花が描かれている1枚の羽織。

そんな様子に勇儀は少しじっと見つめる。

 

 

「どうした?」

 

「あぁ…青群、お前さんのその服でいつもにぎっているものはなんだい?」

 

 

その言葉に青群は少し身が震える。青群はそこまで分かるのか、と彼女に驚く。青群は実質自分でも羽織の袖の中にあるものを無意識に触っている気はしていた。

そして、羽織の袖から手紙を出す。

 

 

「自分の母からの手紙だ。本当に母なのかは知らんし、他人かもしれん。だが、自分に名前をくれた大切な人からの手紙だ。」

 

「ふぅん。その手紙は読まないのかい?」

 

「あぁ。この手紙は自分が本当に大切な友を見つけた時にあけろってさ。」

 

 

そんな青群の言葉に勇儀は納得のいかない顔をする。

なぜなら彼女とはもう200年の付き合いたのだ。

 

 

「勇儀との付き合いが長いことも知っている。それにお前が俺の友ということもな。だがまだ開けられんのだ。」

 

「そうかい。まぁ開ける時はまた見せておくれよ。」

 

「あぁ…」

 

 

その手紙からは何だか甘い香りがしたが勇儀はそんなことも気にせず、酒を飲みつつ青群の後ろをついていく。

 

辺りのイロハモミジはそんな2人を見守っていた。

 

 

これはそんな鬼が繰り広げる物語

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

縁下 青群。白き片角を持つ彼女は妖怪の山で生まれた。

 

いや、見つけられたと言うべきだろう。彼は楓の葉をベットにし寝ている所を鬼の夫婦に見つけられたのだ。

 

しかし、彼らの青群の第1印象はかなり悪かった。片角の鬼などという中途半端な鬼を好きになれなかったのだ。

それは山の鬼たちも同じだった。鬼たちは彼のことを「半端鬼」と呼び蔑んだ。

 

 

「一緒に暮らしてみれば少しは可愛くなるかと思ったけど…。まるでダメね。半端鬼、この家から出ていきなさい。」

 

 

一緒に暮らそう。そう言って青群を拾った夫婦はたった1週間で彼女を捨てる。そして、彼女は家もなくご飯も食べることは出来ない。そんな生活へ入っていった。

 

 

「おい、半端鬼!お前キモイんだよ!その片角の容姿といい、弱さとかな!」

 

「はぁ…見てあの子。ほんと鬼の恥さらしね。」

 

 

同年代、年下の子からはいじめられ殴られ、蹴られる。

年上からは蔑まれ続けた。

そんな生活を送り青群の体、心は限界であった。いつも生活をする山の1部、楓の木の立ち並ぶ場所につき木の下で眠る。

もう一生目覚めない方がいいのかもしれない。そんなことを思いながら青群の目は閉じ…。

 

 

「おい、お前…。」

 

 

青群はふと聞こえる声に絶望する。

自分の隠れ家である場もなくなってしまうのか…。

そんなことを心の中で言い続けていると。

 

 

「怪我をしているじゃないか!ちょっと私の家まで来い!」

 

 

声の主は私を背負い走り出す。まるで親子のように。

 

 

青群が目を覚ますとそこには楓の木はなく、誰かの家だった。彼女はいきなりの自体に混乱し目が回る。

すると奥の部屋から1人の女性が出てくる。

 

 

「おや?お目覚めかい?」

 

 

声の主は黒い髪を肩の方まで伸ばした鬼だった。その額には細くながらも強さを感じる角が2本空へ向かって伸びていた。

 

 

「な…何故、半端鬼の私なんかを助けたんですか?」

 

「…。あぁ、なるほどな。お前が怪我人だったからさ。」

 

 

青群は女性のその言葉にキョトンとする。怪我人だったとしても半端鬼である青群を救うなんて山の鬼達はしてくれることはなかったのだ。

青群は本当に嬉しかった。

 

だが、まだ納得はできていない。

 

 

「納得できないって顔だな。まぁ私の家まで運ぼうと思ったのはそれが理由だ。助けようと思ったのは…

 

お前と私が同類だからさ。

 

私はこの妖怪の山で色々あって、医師をやっている。

だかね鬼っていうものは再生速度も早けりゃ怪我なんて気にしない。

医師に診てもらいに行くってのは屈辱らしい。

ほんとに訳が分からないね。

挙句の果てに『人に浸かった鬼』なんざ言われるようになってね。

 

ほら、『半端鬼』のお前と同類だ。

おっと、自己紹介がまだだったね。

私の名は凛蝶、この山で医師っていう人間の真似事をやっている者さ。」

 

 

凛蝶と名乗る彼女は笑顔で青群にそう言う。

そして、青群の目の前に立ち頭を撫で始める。

 

今までこんな優しさに触れたことがなかった…。

 

青群にとってはこれが生きて初めての優しさだったのだ。

 

 

「ん?嫌だったかい?」

 

「いえ…。こんなっ、優しさに触れたのは初めてでっ、どうしたらいいか…。っ。」

 

 

青群は涙を流しながらもその顔を笑顔である。そんな彼女に凛蝶は困惑する。

 

結局、青群が泣き止むまでかなりの時間がかかったという。

 

 

 

「ふぅ…泣き止んだみたいで嬉しいよ。えっと、所でお前の名前は?」

 

「あっ!えっ縁下 青群です!」

 

 

青群はまだ名乗っていなかったなと思い出し姿勢を整え礼をする。

 

 

「その髪の色と一緒の群青色、どちらもキレだな。

あぁ青群、お前家ないんだろう?うちに来る気はないか?」

 

「えっ!いいんですか?」

 

青群は凛蝶のいきなりの申し出に驚き、すぐにその顔は喜びに満ちた笑顔へと変わる。

そんな様子に凛蝶も笑顔になり、また彼女の頭を撫で始める。

 

その日は青群と凛蝶は一緒の寝床で寝ることとなり、青群は初めて親の優しさ、温かさ感じぐっすりと寝ることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、青群。」

 

「はい、凛蝶さん!おはようございます!」

 

 

あの日から数週間たった今、2人は楽しく暮らしていた。住まわせてもらっているからと家事をします、と青群がいったのだが…。

凛蝶は『どうせ患者なんざ来ないから大丈夫だ。』と言い2人でやることとなった。

 

 

「よし、青群ちょっと付いてこい。」

 

「え?あっはい!」

 

 

突然のことに青群はポカンとするがすぐに返事をし凛蝶について行く。

家を出て凛蝶が向かった場所は2人が初めてあった場所。

楓の木の立ち並ぶ場に来て青群は顔を青ざめる。

 

決してトラウマという訳ではない。

 

凛蝶に捨てられるのではないか?と不安になる青群。

だが、凛蝶が笑顔を向けたのでその不安も無くなる。

 

 

「少し修行をしよう。お前だって鬼だし、多少の強さは必要だろう?」

 

「なるほど…。是非お願いします!」

 

 

二つ返事をする青群に凛蝶もうんうんと頷き。青群の前へ歩き出す。

その顔は先ほどまで違い、山の鬼を連想させる少し怖い顔だった。

 

 

「あぁ…。まぁ青群どこでもいいから本気で殴ってこい。」

 

「え!?えっと…はい、わかりました…」

 

 

青群は突然殴れと言われて困惑をするが、『彼女のことだなにか意味があるのだろう』と心の中で思い拳を構える。

流石に顔はダメだろうと少しずらして打ち込もうとする。

だが、その拳は当たることはなかった。

 

凛蝶は殴りかかってくる青群の拳を右でいなし回避する。

その後も何度も青群は拳を向けるが全て回避される。

ただ避けるだけではなく、凛蝶は彼の拳の軌道を変え、時に威力を落とさせ回避する。

 

 

「はぁはぁ…当たらない…」

 

「ハハハ!まぁ鬼らしくはないと思うがこれなら非力なお前さんにぴったりじゃないか?

 

あ…すまん。別に悪口を言ったつもりは無いんだ。」

 

 

凛蝶は自分が青群に向けて『非力』と言ったことに気づきすぐさま謝罪をする。

対する青群は『別に大丈夫ですよ』と声が絶え絶えになりながらも弁解する。

 

そして、青群はこの技を覚えようと毎日凛蝶と修行をすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修行し続け数十年。青群は成長を遂げ、技術面に関しては鬼でもかなり上を行くくらい上達をしていた。

 

 

「もう十分だね。免許皆伝ってやつなのかな?よくやったな青群。

だがその力の使い方は間違えるなよ。

 

そして、お前を『半端鬼』と見下す奴らを見返すというならば信念を持て、そしてその上で努力し続けろ。」

 

 

そう言って頭を撫で始める凛蝶の顔は笑顔だった。

子供の成長を嬉しく思う親の顔であり、青群も褒められたと満面の笑みを見せる。

 

 

その次の日から凛蝶は『修行はもう私がいなくても大丈夫だろう。』と言ってついてこなくなったが青群には新しい目標ができた。

それは『もっと強くなって凛蝶を守ること。』であった。

 

その為に青群は今日も1人で修行を続ける。

その間に数人の人間が妖怪の山へ入り鬼達を倒したが少し離れた所に存在をする凛蝶の家に実際の被害はなかった。

酒呑童子が倒されたとかいう噂は聞いたが別にどうでもいいという様子で修行をする。

 

 

そして凛蝶がいない時に突然転機は突然訪れる。

 

 

「なんにしてるんだい?半端鬼。」

 

 

ある日、星熊 勇儀は拳をひたすら木に打ち込む青群を見て立ち止まる。

そんな声に気付き彼女が手を止めると、木は大きな音を立てて倒れる。

勇儀もこのことに関しては別になんとも思わない。寧ろ鬼ならばこんなこと普通にやってもらわなければ困る。

 

 

「見ての通り修行だ。これといってやることもないのでな。」

 

 

青群はため息混じりに返すが、勇儀はそれを気に入った様子は無い。

寧ろ半端鬼が努力をして何になるのか?

そんな気持ちだった。

 

 

「なんだい。じゃあアタシと勝負でもしないかい?勝ったなら何でも言う事を聞いてやるが?」

 

「山でトップを争う怪力鬼が自分と勝負か?はっ、光栄なことだが今は辞めておこう。」

 

 

青群は勇儀の言葉を断るが、彼女はその中の一言が気に入らないようで青群を睨みつける。

 

 

「なんだい。『今は』って、いずれ勝てるとでも思っているのかい?」

 

「あぁもちろんだとも、そうでなければこんなことは言わぬよ。」

 

 

青群がそう返した瞬間、目の前にかなりの速度の拳が飛んでくる。

星熊 勇儀とは妖怪の山でもかなりの実力の持ち主であり、半端鬼と比べればかなりの差があるだろう。

実際、彼女もそう思っていた。そして、この拳は青群の顔に直撃するだろうと。

 

しかし、その拳が当たることは無かった。青群は自身の腕を一瞬で彼女の手首へ当て、軌道を変えることで拳の直撃を避けたのだ。

 

この出来事には流石の勇儀も目を見開く。

 

 

「へぇ…なかなか…。これならどうだい?」

 

 

勇儀は次々と拳を繰り出す。また時に青群の機動力を落とそうと蹴りを入れ、投げ飛ばそうとつかみかかろうともする。

しかし、それも全て青群は避けてしまう。

 

脚、頬、脇腹、肋骨…

 

様々な所へ狙いを定めるが、それを青群はいとも簡単そうにいなし、避ける。

こちらへ向かう腕を狙い起動をずらし、また自分からも攻めることにより相手の手数を着々と減らす。

 

ドンッ!

 

青群と勇儀の右拳がぶつかり合う。

強さは怪力自慢の勇儀が上である。そのため押し返されるのは青群の方である。

 

青群はぶつかり合う右拳の力を緩める。そのため、勇儀の体は力のまま青群の方へ向かう。

このことは勇儀にとっては予想だにしなかったことである。鬼が引きの一手を出すことは少ない。

 

 

「卑怯とは言わせない。これは技だ。」

 

 

青群はそのままこちらに来る勇儀の頬を全力で殴る。

 

半端とはいえ、鬼。

 

そんな同族の一撃を受けたのならば流石の勇儀もよろけてしまう。

 

 

「ッ!やるねぇ…半端鬼…」

 

 

ドサリ…

 

 

「あ?」

 

 

青群は渾身の一撃を勇儀に打ち込んだ後力なく倒れてしまったのだ。

それを見た勇儀が慌てて駆け寄る。

 

 

「どうしたんだい!?」

 

 

勇儀が青群の息を確認すると彼はただ寝ているだけだった。

 

 

「情けないね…。体力切れか。だが!なかなかに楽しめた!ハハハ!」

 

 

大きな声で笑いつつ勇儀は青群を背負い山へ戻る。

彼女は体力のない青群に少しため息をつくがすぐに笑顔になって歩き出す。

彼女はただ単に強くなった青群と本気で戦いたい、と胸に留めておくことになる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いつもすみません…凛蝶さん…」

 

 

勇儀に背負われ運ばれた場所は鬼たちから「何の冗談だ?」と言われ続けている医者こと凛蝶の家である。

そもそも鬼に医師とは必要なく、怪我をするなら「怪我をするならそれほど弱いだけ。」といい彼女を『人間に浸かった鬼』と馬鹿にする。

 

しかし、青群にとってはかなりの間世話になっている人である。

 

それは何故か?

 

答えは彼が人と鬼の半妖であるからだ。

そのため普通の鬼よりも再生速度も遅いのである。

 

 

「何、構わんさ。

よく知っているやつが私の家の前に捨ててあったのでな。

それに、私が診察する奴なんざお前くらいで暇なのだよ。」

 

 

凛蝶はそう言って笑いながら青群の右腕を診ていく。そしてその有様に顔を歪める。

 

 

「全く、何をしたらこんなに酷い状態になるのか…。いつもの修行ではここまでなるまい?」

 

 

青群の状態はそれほど酷かった。勇儀と打ち合った拳は半分が粉砕しており。攻撃をいなし続けた体には所々ヒビが入っていた。

 

 

「はい…。星熊 勇儀と戦ってきました。」

 

「ッ!?なぜそうなる?お前の頭は相手を見誤る程おかしくはあるまい?」

 

「奴からいきなり殴りかかって来たんですよ。それに付き合っただけです。」

 

「はぁ…。うちの怪力鬼にも困ったものだ。

しかし何故なのだろうな?奴は強いやつを好むがよりによって青群を狙うとは…。」

 

 

凛蝶は目を見開き驚き、その様子に青群も驚く。そして深く考え込む。

 

 

 

「そりゃ、お前さん『青群』だったかい?青群が強かったからさ。いや、なかなかに楽しかったよ。」

 

 

家の扉の方からいきなり聞こえた声に2人はすぐに反応する。その声の主は先程青群が戦った相手である勇儀であった。

 

 

「!?何用だ?怪力鬼。ここはお前のような頑丈な奴が来るところではないぞ?」

 

「ハハハ!言ってくれるじゃないか!まぁ今はお前のようなやつを相手してる暇はないのさ。」

 

 

凛蝶がいきなり入ってきた勇儀を睨みつけ、挑発をする。勇儀は少し殺気を放つがすぐに消しドカドカと青群の元へ歩き出す。

 

 

「もう怪我は治ったのかい?青群。」

 

「あぁ…まぁ少しは残っているが普通に生活はできるだろうさ。」

 

 

勇儀は青群の体を見て少しめを細めるが直ぐに笑顔になって青群の肩を叩きだす。

その力は大きく、青群は顔を歪めながら我慢をする。

 

「ハハハ!そうかい、それは良かった!」

 

「おい、怪力鬼。こいつは治りかけとはいえまだ私の患者だ。許可なく触れないでもらおうか?肩の骨でも折れるかもしれんだろう?」

 

「ああ?」

 

 

凛蝶は勇儀の肩を叩く手を掴み辞めさせる。その様子を勇儀は気に入らないらしく、睨みつける。

 

 

「はぁ…まぁいいよ。お前みたいな人間に浸かった鬼なんざ一々相手にしてちゃこっちの気が滅入る。

そんなことより、青群。お前さんもっと効率よく強くなりたくはないかい?」

 

「えっと、それはなりたいが…」

 

 

青群は勇儀の誘いに違和感を覚える。この鬼は人に何かを教えるようなことはしないはずだ…まして何百年間自分を半端鬼と蔑んできた相手なのだ。

 

 

「ん?どうかしたのかい?」

 

「いや、なぜ俺に?俺はお前にとっては半端もので蔑むべき相手だろう?」

 

 

青群は首を傾げる勇儀に対してそう言うと、彼女は下を向いて震えている。

何事かと青群が言うと…

 

 

「ハハハ!!何を言ってんのさ。青群、お前さんはアタシに1本取ったじゃないか!あの1発は効いたよ。」

 

 

あの時偶然?青群が放った拳のことを思い出し、大笑いをする勇儀。それに呆れる凛蝶は黙ってお茶を用意する。

 

 

「まぁ、その…なんだ。アタシはお前さんのことを気に入った!これからどんな成長をするのか見てみたいのさ!」

 

「はぁ…なるほどな。この怪力鬼らしいことこの上ないな。ほら茶だ。

それで?青群はどうするんだい?」

 

 

凛蝶が恥ずかしがりながら話す勇儀に茶を出すと、勇儀はそれを、おっ気が利くね。と受け取りすする。

 

 

「あぁ…強くなれるなら断る理由もないしな。ぜひよろしく頼もう。」

 

「お!ほんとかい?じゃあ今すぐ行こうじゃないか!」

 

 

青群がそう言うと、勇儀の顔は明るくなり彼女の襟元を掴む。

そして、その様子に凛蝶は驚くが、どうせ止まらんだろう。と心の中で悟り、放置する。

 

 

「なっ!?今からか!?」

 

「そうだとも!人間には…えーと、何だったけな…善はなんたらって…」

 

「善は急げか?使い方が間違っている気がするが…」

 

「そう、それだよ!さぁ行くぞ!」

 

 

そう言って勇儀は青群の襟元をつかみ家から出る。

そして先程、戦いあった場所へと着く。

 

 

「着いたいいが…効率よく強くなると言っても、何をするんだ?」

 

「何、簡単さ。ただ私と勝負するだけさ。」

 

「は?」

 

 

青群は方法を聞き、唖然とする。この鬼ただ俺と戦いたいだけなんじゃ?と心の中で思う。

 

 

「効率的じゃないか。私と戦う、つまり学べることも沢山あるだろう?」

 

「…。お前…意外と頭は使えるのな。」

 

「お前じゃなくて、勇儀でいいさ。」

 

 

改めて説明されて青群は納得する。この鬼と戦い続ければ技術面だけでなく、実践、身体面も強くなることが出来る。

そこまで考えていたのかと、彼女は勇儀を見直す。

だが、彼女の目には興奮が隠しきれておらず「やはり戦いたいだけか…」と再び落胆する。

 

 

「さぁ…始めるけど、ぼーっとしてると命落としちゃうかもしれないよ。」

 

「っ!?」

 

 

青群はいきなり殴りかかってきた勇儀の腕を、寸前で避ける。

そして自身もよけられたことで体制をほんの少しだけ崩した彼女に自身の蹴りを打ち込むことで反撃に移る。

だが、その蹴りも彼女の両腕によって止められる。

 

そして次の瞬間、勇儀は掴んだ足を持って思いっきり青群をぶん投げる。

 

バキッ!バキッ!

 

青群が打ち付けられた木が折れた音なのかのか?はたまた骨が折れた音なのか?両方なのか?

そのような音が青群自身の耳に響く。

 

 

(なるほど…。確かに本気、とは行かないみたいだが殺しに来てるな…。)

 

 

青群はそう思いつつ、足に思いっきり力を込めて一気に解き放つ。彼女の体はかなりのスピードで勇儀の元へ向かう。

そして、彼女の体目掛けて拳を打ち込む。

 

 

「ッ!いいね!アタシと打ち合う気か、嫌いじゃないよ!さぁ掛かってこい!」

 

 

バァン!!!バン!バン!

 

初撃は両方の右手が重なる。少し青群が押されるがすぐに体制を立て直し次を打ち込む。

2,3,4,5,6……

 

と何度も拳を合わせてい2人…。その拳は時に青群の腹に打ち付けられ、時に勇儀の頬へ入る。

このまま戦いが続くのでは?と思ったが決着はすぐに付いた。

 

バタリ…。

 

 

 

青群の体力切れ…ノックアウト。

 

 

 

 

「ありゃりゃ…。さっき凛蝶の家出てったばかりなのにまた行かないといけないね。

 

だが!楽しかった!

 

まぁお前さんはアタシがまだ力を抑えていると気づいているみたいだが…それを差し引いてもいい試合だったさ!」

 

 

勇儀は、大笑いしながら青群を引きずって再び凛蝶の家へ向かう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

凛蝶の家にて。

 

 

 

 

「なんで!すぐに戻ってきているのだ、この怪力鬼!お前には怪我人をいたわる心も無いのか?まだ完治もしていないのだぞ!」

 

 

すぐに戻ってきた勇儀とボロボロの青群を見て凛蝶は勇儀を怒鳴りつける。

勇儀はそれに対して「いやー悪かったよ。」と軽く返すため、油に火を注ぐ結果となる、

 

 

「ーー(中略)ーー

 

 

鬼だからと済ませるな!馬鹿者!

全くこういう所が同族の嫌いなところだ。

いつだって命を大切にせず戦いを重視する。」

 

 

そのまま凛蝶の説教は続くが、勇儀は「ハハハ!」と笑うだけである。

 

 

「何、手加減はしたさ。まぁそれでも十分に楽しめたけどね。

それにお前の言う通りこいつは鬼だ。すぐに治るさ。」

 

「だからそういう所が嫌いと言っているだろう…。

 

はぁ…私は疲れたから寝る。」

 

 

反応の変わらない勇儀に対して諦めたのか凛蝶は診察を終え、奥の部屋へと戻っていく。

 

 

「ん…。」

 

「おや?やっと起きたのかい?」

 

「あぁ…。負けたのか。」

 

 

少し悔しそうにする青群を見て勇儀は彼女の頭をワシャワシャと撫で回す。

それを青群は鬱陶しそうに退けようとするが彼女はそれをやめることは無かった。

 

 

「さて、今回の戦いでわかったことなんだが…。

お前さんは体力が全くもって無いな。技術面もかなりいい、精神面も尚更いい。

だけど、身体面で見るとお前さんは鬼の平均以下だな。」

 

「なるほどな。自覚はしていたのだが…。」

 

「つまりやることは1つだろう?」

 

 

勇儀にそう言われて首を傾げる青群。

身体面を伸ばすと言っても普通に修行するしかないのではないか?と思う。

 

青群は答えがわからなく「ジョギングか?」と聞いてみるが、勇儀は「そんなわけないだろう。」と吐き捨てる。

 

 

「ジョギングなんざ人間のやることだろう?簡単なことさアタシと毎日戦えばいいだけの問題じゃないか!」

 

 

これを聞いた瞬間、青群はなんと彼女らしいと少しクスッと笑ってしまう。だが、たしかにそれが一番手っ取り早いと自覚もする。

 

 

「で?あとどれ位で治る?」

 

「1時間、いや30分もあればすぐに治る。」

 

「よし治ったらすぐに勝負さ!」

 

 

青群は半妖であるため通常の鬼よりも再生速度が遅く2分の1くらいのスピードになってしまう。

 

それを聞いた勇儀は「また30分したら来るよ。」と言い家から出ていく。

 

 

「やっとうるさいのが帰ったか。」

 

 

そう言って凛蝶は奥の襖から出てくる。

その顔にはまだ疲れが溜まっているようで、彼女は目頭を抑えている。

 

 

「やめてもいいんだぞ?毎日あの怪力鬼なんて体が持つか分からん。」

 

「いや、俺は強くならないといけないので…。

それに『見返したいなら信念を貫き、そして誰よりも努力しろ。』そういったのはあなたですよ。

 

ふふっ、大丈夫です。俺と凛蝶さんを見下しているあいつらなんてすぐに見返してやりますよ。」

 

「そうか…。」

 

 

凛蝶は少し悲しそうな顔をしてまた奥の部屋へと入っていった。

対する青群は腕と足が動くことを確認しまた修行場へ戻って行った。

 

 

「強さとは時に自分の敵にもなるのだよ…青群…。」

 

 

奥の部屋から放たれる独り言が青群の耳へと聞こえることは無かった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

それから何日、何十年も青群と勇儀は修行(勝負)を繰り返した。

 

 

 

 

バァン!!!

 

拳が重なり合う音に山が震える。鳥達はすぐに飛び立ち、偶然近くにいた烏天狗は怯えて逃げ出した。

 

 

「いやぁ!楽しい!いいよ、いいじゃないか!ここまで成長するとは思っていなかったよ。」

 

「まだ本気出してないくせによくいうよ。よっと…!」

 

2人は戦い合いながら、小言を挟む。

勇儀の拳を青群は危なげなく避ける。

その動きは以前とは見違えるほど綺麗であり。

そこから反撃と繰り出される拳はなんとも豪快であった。

 

 

「ふぅ…ここまでにしようか。」

 

「ん?どうした?勇儀らしくない。」

 

 

あまりに不釣り合いな行動に青群は首を傾げ、聞く。

この鬼、星熊 勇儀は戦闘狂な鬼の中でもトップを争い、自分から辞めようなんて普通は言わないのだ。

 

 

「あれの準備をするのさ。」

 

「あれって?」

 

「アタシと山の四天王としての仕事でもしようかなってね。

なーに、お前さんが山の奴らを見返すことが出来る事さ。まぁ内容は秘密だがね。」

 

そう言って勇儀は勝負場から離れていく。

彼女の不可解な行動に終始首の傾きが治らない青群。

 

「まぁいいか。」と凛蝶の家へと戻っていく。

 

 

「今戻りました。凛蝶さん。」

 

「あぁお疲れ様。なんだ?今日は早かったな。…勇儀に勝ったなんざ言わぬだろうな?」

 

「まだまだ勇儀は本気出してませんでしたよ。まぁ前よりはかなり力は引き出せたと思いますけどね。」

 

 

2人で先程の不可解な行動について話し合う。

青群は妖怪の山に来て、家もなく容姿のことでいじめられ怪我をしていた所を凛蝶に拾われた。自分を拾った夫婦からはすぐに捨てられ、彼女が引き取ることになり現在まで彼女の家に住んでいる。

 

 

「だが何やら山の鬼達が妙に気がたって、勝負に励んでいた。それに関係するのかもしれないな。」

 

「なるほど…まぁ何が起こっても俺がなんとかして見せますよ。前よりも強くなったことですし。」

 

 

胸を貼る青群に大して凛蝶は少し顔を赤らめ「アハハ!!」と大笑いをする。

その姿に青群は困惑しあたふたとし、「え…えっと…。」と声をかけられないでいる。

 

 

「はぁ、はぁ、すまない…。いや、昔の青群と比べると成長したと思い笑いが止まらなくてな。」

 

「自分…結構本気で言ったんですけどね…。」

 

 

青群は凛蝶の言葉に肩を落とす。青群はこの人生は自分を救ってくれた凛蝶に捧げると誓っており。まだ彼女に守られていた頃を思い出し、恥ずかしくなる。

 

 

「いいのさ。親にとっては子供の成長を見られることは本当嬉しいことなんだ。

少なくとも私は青群を私の子供だと思っているよ?」

 

「…自分もですよ。」

 

 

凛蝶にはっきりとそう言われ恥ずかしいのか青群はボソボソと呟く様に返す。その言葉はしっかりと凛蝶の耳に入っており、笑顔で青群の頭を撫でる。

青群もそんな凛蝶に身を任せ顔をほころばせる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

こんな風に物語は着実に進んでいく。

この後、青群に降りかかる試練が訪れるとも知らずに…。

 





凛蝶

性別…女

妖怪の山で医師をやっている鬼。
鬼にとっては医師など必要のないことであり、怪我をするのは単なる実力不足と言われる。
そのため医師を頼ることは彼らにとっては屈辱のようなものであり、青群以外の患者はいない。
同士に「人に浸かった鬼」と蔑まれ続けている。
いじめられ怪我をしていた青群を拾い、引き取る。それ以来ずっと一緒に住んでいる。
実力としては勇儀と知り合う前青群に技術面を指導したのは凛蝶であることから中々の強さと考えられる。

容姿としては黒髪を肩まで伸ばし額には細く鋭い日本の角が空に向かって伸びている。藍色の着物を着ていつも過ごしている。





最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しずつ書いていきます。
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