凛蝶さんすみません。
山の中を必死で走り抜ける青群、その心は先程までの焦りは見られず落ち着いていた。
なぜなら、家族、親友が送り出してくれたから。
何年も一緒に暮らしてきた秋の助、霞、楓。そして付き合いの長い慧音。
その4人が『早く行ってこい』と背中を押してくれたのだ、これ程心強いことは無い。
そして青群が、妖怪の山、鬼の住まう集落に着くと辺りの鬼達は皆青群を見て固まる。
そしてすぐに『こちらです』と凛蝶の家へと案内をする。
青群は鬼達の余裕のなさに、凛蝶が死にそうだというのは本当だと理解する。
しかし、死因がわからない。
見たところ何かに襲われた様子もないし、そもそも負けるとは思えない。
凛蝶の家の前に着くと前には勇儀が立っていた。
「ようやく来たかい…早く中に入りな…」
「あぁ…何があった?」
「…見たらわかる。」
勇儀は青群の背中を押し中へ入れる。
彼女はいつも酒を飲みながら笑い合うなんて思うことの出来ないほど沈んでおり、青群も心を引き締めて歩き出す。
「来てくれたの…ありがとう…青群っ、ゴホッゴホゴホ!」
「ほら横になっていないから…安静にしてな。」
青群の目の前に現れたのはベッドに横たわる凛蝶と彼女を看病する萃香。
凛蝶は以前あった時と比べるとかなりやせ細っており顔色も悪い。
挙句の果てには青群が来たため体を上げようとするが、口から血を吐いてしまう。
「何があったんです!?」
「あぁ…青群…伝染病だよ。
ただ少し厄介でね…1度発病してしまうと治ることは無いらしい。
迷信だとは思うが治療法も見つかってない。」
青群は萃香の言葉に全身を震わせる。
凛蝶は以前じっと青群を見つめている。
「まぁちょうどよかった。あたしらは外へ出ておくからたっぷり話しておきな。」
萃香は勇儀を連れて家を出る。
青群は凛蝶の寝るベッドへと歩き出す。
「凛蝶さん…ただいま帰りました。」
「ふふっ、おかえりなさい。ごめんなさい。せっかく帰ってきてくれたのにこんな状態で…ゴホッ!」
咳き込む凛蝶の背中を『大丈夫です!?』と慌ててさする青群。
彼女には分かっていた、凛蝶はもう長くないだろうと…。
その事が何よりも重く感じられる。
「青群…少し長い話になるけれど聞いて欲しいの…いいかしら?」
「はっはい!もちろんですよ!」
凛蝶はゆっくりと体を起こす、それを手伝う青群だったが彼女に手でストップをかけられ『大丈夫よ。』と言われ、再び椅子に腰を掛ける。
「私は幼い頃、両親と妹と一緒に暮らしていたの。
それはそれは幸せな日々だったわ。青群が生まれるよりもずっと前、大昔は今ほど鬼は好戦的じゃ無かったからね。
人間は沢山襲っていたみたいだけど…まぁ今更よね。
でね、私の家族はかわりもので、争いをとても嫌っていたの。挙句の果てには、人間との共存まで願っていたのよ。
だから、ご飯を食べる時は皆が笑い合い、山の中でピクニックまでしたの。その時の母が作ったお握りを妹と2人で頬張ってね。
まるで人間よね…今じゃ考えられないわ…ふふふ。
そんな鬼として異質な家族は当然同族たちから嫌われていたと思うじゃない?
でもね…両親は誰にでも好かれるような性格でね、何故か同族たちとも仲が良かったの。
こんな幸せな日々は続かなかったの…。
とある日、ある人間が訪ねてきたわ。その人間は『里のなかで、共存を望んでいる鬼がいるいう噂を聞いた。』と言って話が聞きたいといい入ってきた。勿論家族は受け入れたわ、その男が爆弾だとは知らずにね。
男は両親の話を聞いて『そうですか、里の者と掛け合ってみます。』と言って帰って言ったの。
両親は『ご飯でもどう?』と言ったけどその言葉を無視して集落を出ていったわ。
両親達は喜んでいたわ。『これで人間との共存への1歩を進めたな』ってね。
でもね、次の日両親達はある伝染病にかかったの…。
鬼の集落では見たことのない伝染病。
たちまちその伝染病は広がってね、妹、集落の鬼達へと発症していったわ。
当時の集落には医療なんてものはなくてね、次々に鬼達は命を落としていったわ。
鬼という妖怪は外からの攻撃に対してはすごく強いんだけど中からの攻撃には耐えられなかったようね。
後日その伝染病は里ではやっていることを集落の鬼達は知って里を襲ったわ。
そして捉えた人間達はね『鬼を退治するために伝染病患者を仕向けました。』、そう吐いたわ。
その時からね鬼の人攫いが活発化したのと、彼らの中で『弱いやつから死んでいく、故に強くなる』みたいな意思が芽生え始めたのは。
そして、鬼達は己を高めることに必死になったわ。
でもね、私は人間を憎んではいないの。
何故か?それは簡単よ。
私が無知すぎたから。
私が対処法を分かっていれば皆は助かった。
私が人間の里の様子を知っていれば皆は助かった。
そんな自念に囚われていたの。だから力ではなく知恵を求めたの。
そして、いつからか自分を失ってね。自分の口調さえ分からなくなったの。
それでどうしてか中性的な口調になってしまってね。
その様子に当時、数少ない友だった萃香は困惑していたけどね。ふふふ、今思えば可愛いものね。
そして、知恵を得て自分を失った私はこうやって医者を始めた。
そこから先は貴方の知っている通り『人間に浸かった鬼』として生きてきたわ。
そんな時、貴方が現れた。その時はほっとこうと思ったの。でも、頭の中で妹が浮かんだの…。
『お姉ちゃんお願い、助けて』てね。
そんなこと言われたら助けないわけには行かないじゃない…。
まぁこれが貴方を助けた真相…。
最初の方は貴方の従順さに腹が立っていたわ。『いつ追い出してやろう』そんな気持ちまであったわ。
でもね…。
『貴方と過ごした日々とても楽しかったの。』
『貴方と…』
っ!!!ゴホッ!ゴホゴホ!!!
はぁ…はぁ…ごめんなさい…まだいっぱい言いたいことがあるのにっ…。」
「凛蝶さん…大丈夫です。私はいつだって貴方の近くにいます。
だから今は休んでください…。」
「そうね…ふふっ、ありがとう。」
凛蝶は体を再びベッドに預け青群が布団をかけてあげるとすぐに眠った。
青群は彼女の人生を知って膝をついて絶望する…。
何故?青群は彼女の大切なものを奪っていたから。
人生で絶望を味わった凛蝶を更に絶望へと落とそうとしているのが自分だから。
「ごめんっ、なさい…私さえっ、いなければ!!!」
そんな青群の手をギュッと抱きしめていた凛蝶は少し悲しそうにスヤスヤと眠っていた。
少し時間が経ち凛蝶が眠っていることを確認した青群は家の外へ出る。
すると家の前には勇儀と萃香が酒を飲んでいた。
その様子に少し腹の立つ青群だが、彼女らの顔にはいつもの様な笑顔がないことを知ると自身も杯を取り酒を入れる。
「随分短かったね…。終わったかい?」
「あぁ…今はぐっすり眠っているよ。で?何の話があるんだ?」
「ふぅ…そうだね…。」
「なんでそこで渋るんだい、勇儀…」
「何なんだ?」
「『アタシ達、鬼は地底に行こうと思う。』」
勇儀の発言に少し眉を上げる青群。
なぜこのタイミングなのか?と思ったが、なんだかんだで勇儀は意味の無いことをしたことはない。故に『何故だ?』と理由を聞く。
「理由は2つ、1つ目は伝染病だ。伝染病がこれ以上広がる前に集落を出たいと思う。
まぁこっちは建前みたいなもんさ。
大事なのは2つ目、あたし達鬼が人間との戦いに飽きたからさ。
いつだって鬼の人生を狂わせたのは人間だ。だからあたし達は人間と戦い続けた。
でも最近の人間は相手にすらならなくてね。
あたし達を見ただけで腰を抜かす。
こんな軟弱者と戦っても意味なんざ無いからね。」
「勇儀の言った通りこれが理由さ。
凛蝶や他の奴らを見届けてから落ちるとするよ。
青群も考えておいてくれって話しさ。
まぁやはり、何百年も共に過ごしてきた友との別れっていうのはこたえる。
それに今回の別れは永遠ってやつだ。
全く誰かを救うために医者になったあいつが1番先に発病するとはね…。
あいつも運がない…
酒でも飲まないとやっていけないね。」
「っ!?…なるほど…考えておく…。」
青群は地底の件を考える暇はなかった。今は頭の中には凛蝶しかいないのだ。
勇儀、萃香、青群の3人は数日…はたまた数時間かにくる友、母との永遠の別れへの気持ちを酒に流すのであった。
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翌朝、凛蝶のすぐ横の椅子で眠っていた青群は目を覚ます。椅子で眠っていた為か伸びをするとバキバキと音がする。
そして、凛蝶のため朝食を作ろうと調理場へと移動しようとすると…。
「少し待ってくれない?」
羽織の袖を凛蝶に掴まれる。
青群は『起きていたんですか…』と言いつつも凛蝶の元へ向き直る。
凛蝶の顔は死を悟った顔をしており、その様子に青群は顔を歪ませる。
いつか来るとは分かっていた。それでも、こんな早く来るとは思っていなかった…。
「ふふふ…なんて顔してるの…。」
「こちらのっ…セリフですよっ…。」
「…。『ねぇ青群、少し話をしない?私たちの思い出の場で。』」
青群は凛蝶の最後の頼みだと方を貸して凛蝶を立たせる。
そして、凛蝶の言われるがまま足を動かしていく。
そして着いた所は2人の始まりの場。
そこは相変わらず楓の葉が地面いっぱいに敷かれており。綺麗な紅葉色を見せている。
凛蝶は修行の際に青群がよく座って休憩していた切り株を指差して、『ここに座ってくれない?』と青群に言う。
青群は頭に?を浮かべて切り株に座る。
すると、背中から何かに押された。
『何!?』と思って後ろを向こうと思ったがその必要はなかった。
自身の背中はとても暖かかった。
凛蝶はその切り株に青群と背中合わせに座っていた。そして、『ふぅ…』と息を吐く。
「『青群、本当に今までありがとう。』」
凛蝶から発された言葉に青群は肩を震わせる。
彼女から1番聞きたくなかった言葉。それをこの耳で聞くことになったのだから。
「青群…私はどれくらい貴方を成長させてあげられたかしら?
ちゃんと孤独から抜け出させてあげれた?
…。
ちゃんと…母親らしくなれたかしら?」
突然の凛蝶の言葉に涙を止めることができなかった。溢れた涙は止まることなく流れ続ける。
成長させてあげられたか?
孤独を抜けさせてあげられたか?
母親らしくなれたか?
そんなの決まっている。
「当たり前でしょう!!!
成長?貴方がいなければっ、私は勇儀に殺されてっ、いた!!!
孤独?貴方がいたからこそっ、半端鬼である私は消え、人里では親友まで出来た!!!
母親らしく?『らしく』なんていらない!貴方は私の…私にとってっ…
泣き虫でっ、誰よりも優しくて、頭が良くて、努力を惜しまない。
大事なことを教えくれたっ!
『最高の母親』ですっ!!!」
青群の泣きながらの叫びに凛蝶は『ふふっそう…。』と笑うがその目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
凛蝶は頭を後に下げ、後頭部を青群へと、コツンと当てる。
「ふふっ…なんだか恥ずかしいものね…。
そっか…最高の母親か…。
ねぇ、青群。
私の最後の願い聞いてくれる?」
「っ!?も、もちろんです!」
「ありがとう…。
私が貴方が山を降りる際なんて言ったか覚えてる?」
『帰ったらお話聞かせてちょうだいね!!!』
元気な凛蝶がいつまでいた言葉…。
「もちろんですっ、よ!!!」
「ふふっ、楽しみだわ。」
「…。
わだじはっ!里におりでっ、慧音にあっでっ、ぞの彼女が親友になっでっ!
おいだざれだけどっ…そのっ、後に秋の助と霞にあっでっ!2人はわだじのっ家族でっ!
そじで、そじでっ、妖狼達がらっ里を守っで!わだひっ!がんばっだんですっ!おっきな狼をたおじてっ!」
もっと、もっと伝えたいことがある。
でもうまく言葉にできない。
もっと貴方に…貴方のために…!
そんな思いが青群の頭を回る。
しかし、発する言葉は支離滅裂。まるで子供の作文のようであった。
「そう、沢山の出会いがあったのね。
ふふっ貴方の家族っていうことは私のっ、私の家族ね。
本当に命が惜しいわ…一度でも会って見たかったわ…それに貴方の婚約の義や、子供も…
いえ、前に私にとっての『最高の娘』がいるんですもの、それだけで幸せね。ふふっ」
「すっすぐにでも2人をよんできまずっ!だがらっ、まっでいでぐだざぃ!」
青群は立ち上がろうとするが凛蝶が『大丈夫。』とそれを止める。
「ふぅ…最後にお母さんって呼んでくれない?」
「っ!?…わがりっ、まじだ!」
「ほーら泣かないの…」
青群は自身の羽織でゴシゴシと涙を拭く。その目は赤く腫れていた。
もちろん凛蝶の目も…。
「お母さん…」
「ふふっ、私の愛する娘…青群。」
「「今まで、本当に…。」」
『ありがとう』
青群の背中にかかる凛蝶の体が他突然重くなる。
だが、青群はそれを支えていた。
夜、勇儀達が探しに来るまでずっと。
2人の様子を見た勇儀、萃香は顔を伏せしばらくの時間立ち止まっていた。
鬼の涙
それは青群と凛蝶との出会いの場に染み込んでいった。
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次の日、また次の日と青群は凛蝶の部屋に篭っていた。
それを見かねた勇儀が家を尋ねる。
すると青群は凛蝶の寝ていたベッドに腰掛けていた。
その様子はまるで魂の抜けたようにボートしていた。
「お…お前さん!何も食べていないのかい!?」
「…。」
「っ!!!お前…。」
ゴン!
勇儀は青群の脳天を殴りつける。
青群はやっと気を取り戻したらしく勇儀へと殺気を出し睨みつける。
「はっ、今のアンタに負ける気はしないね!
…。
アンタは凛蝶の思いを踏みにじるつもりかい!?」
「何を言っ…」
ボスン。
勇儀が青群の頭に投げつけたのは風呂敷。中には何か入っているらしい。
「凛蝶がアンタに残した者だよ。」
勇儀はそう行ってすぐさま去っていく。
青群は風呂敷を開く。
入っていたのは1枚の羽織と手紙。
そこには凛蝶の匂いがした。
青群は手紙を開く。
『
〜拝啓、我が愛する娘〜
この手紙を読んでいるということは私が死んでいる時でしょう。
貴方は優しい子なので悲しんでいるのでしょうね。
それとも、私を殺したのは自分だと思っているのでしょうか?
隠していてごめんなさい。
私は貴方の能力について気づいていました。子供のころの貴方がその能力を暴走させていることも。
そんな貴方に1つ言っておきますが…
私はあなたと出会って運が悪かったことなんて1つも無い。
貴方と一緒にご飯を食べ、修行をし、勉強し、貴方と過ごした日々それだけで私は幸せだったの。
貴方と出会った時から私は幸せだったのよ。
だから貴方が絶望する必要なんてないの。もし、
それでもダメなら、その能力を使って貰った私の分まで生きなさい。
そして、貴方がいつかこっちに来たら貴方の歩んできた人生、それを今度はしっかり時間をかけて聞かせて。
ずっと待ってるから。
最後に、その羽織は私の作ったものです。着てくれたら嬉しいけど…
もしもの時が来たらそれを売ってお金にでもしてね。
では、私は先に行きます。
この先あなたの歩む人生に幸あれ。
〜貴方の母、『縁下 凛蝶』より〜』
「あ…あ…あ、あ…」
言葉が出なかった。
気づかれていた?そんなことよりも最後
『縁下 凛蝶』
凛蝶は青群の母親だったのだ。
何故、彼女はそれを言わなかったのか?
その答えは『忘れていたから』いや、厳密に言うと『忘れされられていたから』だ。
ふと彼女の頭に情景が浮かびだす。
それは群青色の花が辺りに咲き誇る場。そこにいる一人の少女と黒い髪と2本の角を持つ女性。
女性はひたすらに少女に謝る。
「ああぁぁぁぁぁ!!!」
青群は泣く…その叫びは集落へ響き渡る。
亡くなって知らされた事実、それはあまりにも重いものだったのだ。
「…。友との別れは響くものだよ…」
「全くだ。
あいつの能力でも別れは覆せないらしい。
あんなに凛蝶に近づいて話しても発病しないんだ。あいつの能力はあれだろうね…。まぁ細かくはわからないが…。」
勇儀と萃香はかつて人間達と戦った山。そこで酒を酌み交わし友との別れ、そしてともと生きたこの地との別れを嘆いていた。
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所変わってそこは群青色の花が辺りに咲き誇りる場。
凛蝶はそこを歩いていく。
そして椛の木を見上げ立ち止まる。
「本当に…本当に…ごめんなさい…青群。」
凛蝶は座面に膝をつき涙を流す。
「えぇ…この場所…。完全に忘れていたわ…。
青群…貴方がもし『もう1枚の手紙』を見たら来るのでしょうか…。」
凛蝶はお迎えが来ると群青色の花を1本取ってその場を後にしたのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回は特に説明すべき人物はいないと思ったので紹介は書いていません。
凛蝶さんは色々と苦労人という訳ですね…。
まだ終わりませんので短い間よろしくお願いします。
閑話ひとつ挟んで2章目です。