TSしまりん日和   作:一葉 さゑら

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登場人物

志摩リン
・好きな本のジャンルはオカルト系。ただし、拷問とかグロいのはあんま好きじゃない。

各務原なでしこ
・好きな本のジャンルは雑誌系。いろんなジャンルのキレイな写真を見るのが好き。

斉藤恵那
・好きな本のジャンルは推理系。割とミーハーなので、本の売り上げランキング1位を手に取ることが多い。

大垣千明
・サバサバ系のメガネ女子。好きな本のジャンルは……というか、あんまり本自体を読まない。キャンプ系の雑誌は最近読むようになった。

犬山あおい
・方言っ子。八重歯とふとまゆがかわいい。好きな本のジャンルは恋愛系。恋愛に関しては自分がするよりも他人の話を聞く方が楽しいタイプ。


第5話

「それじゃあ、改めて。私は各務原なでしこですっ!」

 

 図書館前の廊下で。なでしこが窓に激突した後。

 俺の目の前には窓を隔てて向こう側にいたはずの女子たちが集結していた。

 右から順に、斉藤、なでしこ、メガネ、タレ目だ。

 

「ちょいちょーい! タレ目ちゃうから。ウチは犬山あおいや。こっちのメガネはー……まぁ、メガネでええわ」

「良いワケあるかっ! あたしにはちゃんと大垣千明っつう素敵な名前があるからっ」

「なんなんだ、コイツら……」

 

 なんで俺が呼び出されたのか、その理由が全くわからない。

 なでしこが窓に激突してオチがついたのだから、素直に時系列を飛ばせば良いものを、また変な漫才始めやがって。

 一体全体、斉藤はなんのつもりなのか。

 

「おい斉藤」

「そんな犯罪者募集の紙みたいな呼び方しないで」

「あの紙は募集の紙じゃなくて、いや、ある意味募集とも言えるけど……そうじゃなくて。そう、なんのつもりだよ。なんの目的があってコイツらと会わせたんだよ」

「うわっ、しまりんが一杯喋ってる。珍しい」

 

 喧嘩売ってるのか、大垣。なんだ、その「いや、だって、ねぇ」みたいな表情は。犬山もなに同調してんだよ。

 なでしこは……なにもわかってない様子だな。

 

「いやな。なでしこちゃんが志摩くんとキャンプしたってゆうてたからな。これはもう会わずにはいられないやろ」

「いられるだろ。なでしこに聞いとけよ」

「『なでしこ』!? おい、聞いたかイヌ子。なでしこ、だってよ」

「斉藤さんが目の前におるのにそないな呼び方してええんか?」

「はあ? なんで斉藤?」

 

 問いただすと犬山は恐る恐る俺を伺うと、大垣の方を見た。早よ話せと更に促すと犬山は「堪忍してな」と前置き、逆に質問を返してきた。

 

「いやな、志摩くんって斉藤さんと付き合うてるんちゃうの?」

「えっ、そうなの?! リンくん!」

「いや、違うよ」

 

 なにその変な勘違い。初めて聞いたんだけど。

 斉藤の方をむけば彼女は居心地悪そうに体をゆすり、ヘラっと笑っている。その笑い方は、どうしたもんかなぁ、と悩んだ時に彼女がよく見せる表情だった。

 

「そうなんか? ウチらの学年じゃ割と有名な話やし、別に隠さんでもええんよ?」

「いやいや、隠してないから、もしそうなら……あ、というか斉藤。モジモジしてないで何でコイツらを連れて来たのかを言えよ」

「……ん? う、うん、そうだね。えっとね、リンが会いたくなさそうにしてたから連れて来たんだよ」

「なんだその嫌な理由」

 

 話題がコロコロ変わっていくのに目を白黒させながらなんとか話をまとめるにはこういうことらしい。

 元々、大垣と犬山が『野クル』とかいうゆるいキャンプを目的とした同好会を作っていて、今日なでしこがそこに加盟したらしい。その際、なでしこは一昨日の夜のことを二人に話していた、と。それで、ついさっき話題の渦中にいた俺とそこへ繋がる人物である斉藤を見つけたためこいつは面白いことになったと近づいて来たという。

 なるほど、チグハグでとりとめのない会話を必死で咀嚼、解釈した割に下らない理由でげんなりしそうだな。

 

「そうか。んじゃあ、無事会ったから解散ということで」

「まてまてまてぃ!」

「せや。そう簡単に逃がさんでぇ」

「いや、図書当番だから。お前らと違って暇じゃないんだよ」

「えー、そんな言い方しなくたって良いじゃん。どうせリンだって暇なんでしょ?」

 

 たしかに暇だけど、暇だからといってカウンターを離れて良いわけじゃないから。それに、なんといってもこのメンバーの中にいるのが普通にキツイ。斉藤だけなら、なでしこだけなら、まだ良い。ただ二人が一緒にいるばかりか大垣やら犬山やら知らないメンツが俺を囲っていることがもうツライ。

 賑やかすぎてどのタイミングで口を出せばいいかわからなくてストレスが溜まる。

 ワイワイと好き勝手話す様子をただ突っ立って見下ろしていると、やがてなでしこが俺に突拍子も無いことを言い出す。

 

「そうだ、リンくん! 今度一緒にキャンプ行こうよ!」

「え? 絶対嫌だけど」

 

 当然のように拒否すると、犬山が「うわ」と引くような目で見て来た。

 

「ないわぁ、そないな露骨な表情で女の子の誘いを断るなんて、ないわぁ。ちゅーか、トラウマになりそうやわ」

「いや、イヌ子。よく考えろ。ここで志摩が『おっけー!』なんて言いだしたら、よっぽどそっちの方がヤバいだろ」

「あぁ、志摩くん、ないわぁ」

「勝手な想像で『ない』と言われても。というか、言われた当の本人はけろっとした表情だし、別にいいだろ」

「あの時のお礼したかったんだけどなぁ」

「一杯キウイもらったし、もういいよ」

 

 そのお礼もまだ、冷蔵庫に半分くらい残ってるし。

 とてもじゃないが、礼をされてないとはいえない。これじゃあ、返しきれないお礼を通り越して、返されきれないお礼だ。

 

「──とみせかけてっ! リンくん! やっぱりキャンプ行こうぜ……ってメチャクチャ嫌そうな顔!!」

「しつこいのは嫌われるぞ、なでしこ」

 

 と、大垣が呆れた顔で突っ込んだ辺りで会話らしい会話は終わった。その後はなし崩し的に俺の連絡先を晒されたりしたが、それはどうでもいい話だ。


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